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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61K |
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管理番号 | 1274227 |
審判番号 | 不服2010-18183 |
総通号数 | 163 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-07-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-08-11 |
確定日 | 2013-05-15 |
事件の表示 | 特願2005-501273「身体表面へ適用する形成物及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 4月29日国際公開、WO2004/035023、平成18年 2月 9日国内公表、特表2006-504799〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、2003年9月30日(パリ条約による優先権主張2002年10月16日、2003年4月17日 ドイツ)を国際出願日とする出願であって、平成20年11月14日付けで手続補正書が提出され、平成21年10月28日付けの拒絶理由通知に応答して平成22年3月9日付けで手続補正書及び意見書が提出されたが、平成22年4月6日付けで拒絶査定がなされた。これに対し、平成22年8月11日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同日付けで手続補正書が提出されたものである。 2.平成22年8月11日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成22年8月11日付けの手続補正を却下する。 [理由] (1)補正事項 平成22年8月11日付けの手続補正のうち、特許請求の範囲についての補正は次のとおりである。 (ア)補正前の(平成22年3月9日付け手続補正書により補正された)特許請求の範囲の請求項1?7を削除する。(以下、「本件補正1」という。) (イ)補正前の請求項8を 「少なくとも10wt%の一以上の骨格形成剤と、 0.000001wt%?50wt%の一以上の活性物質と、 0.1wt%?70wt%の一以上の補助物質と、 20wt%までの水と、 を含む3mm?30mmの直径の球形物からなる形成物であって、 前記骨格形成剤が、プロテインを含まず、かつ前記骨格形成剤の1重量%水溶液又は懸濁液の粘度が20℃及びpH値6?8において2000mPa.s未満であることによって特徴付けられる、 一定形状を有する身体表面へ適用する形成物。」と補正し、請求項1とする。(以下、「本件補正2」という。) (ウ)補正前の請求項9?11を請求項2?4とする。(以下、「本件補正3」という。) (2)本件補正の適否 (A)本件補正の目的について (a)本件補正1について 本件補正1は、請求項を削除する補正であることが明らかである。 (b)本件補正2について 本件補正2において、「粉末状、微小ペレット状または不規則形状の何れでもない一定形状を有する形成物であ」る「形成物。」を「3mm?30mmの直径の球形物からなる形成物であって、」「一定形状を有する身体表面へ適用する形成物。」に限定する補正は、補正前の請求項8に記載した発明を特定するために必要な事項を限定する補正であることが明らかである。 また、「前記形成物は、骨格形成剤に由来するプロテインを含まない」を「前記骨格形成剤が、プロテインを含まず」とする補正は、補正前の請求項8に記載した発明を特定するために必要な事項を変更しないことが明らかである。 よって、本件補正2は、平成18年改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 (c)本件補正3について 本件補正3は、補正前の請求項8を引用する請求項9?11を、本件補正2によって減縮された補正後の請求項1を引用する請求項2?4とする補正であるから、実質的に特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 (B)独立特許要件について そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。 (a)引用例記載の発明 本件優先日前である平成13年6月19日に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された「特開平6-211623号公報」(以下、「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。(以下、下線は当審による。) (ア)「【請求項1】天然多糖類を10から80重量%、変性多糖類を20から90重量%含有する、凍結乾燥バイオマトリックス。 【請求項2】前記天然多糖類を25から70重量%、前記変性多糖類を25から70重量%、および水分を5から15重量%含有する、請求項1に記載の凍結乾燥バイオマトリックス。 ・・・ 【請求項16】前記バイオマトリックスが薬品および/または化粧品の作用物質を含有する、請求項1から15に記載の凍結乾燥バイオマトリックス。 【請求項17】前記バイオマトリックスが前記作用物質を0.1から20重量%含有する、請求項16に記載の凍結乾燥バイオマトリックス。」(特許請求の範囲【請求項1】-【請求項17】) (イ)「【産業上の利用分野】本発明は、皮膚湿潤化作用を有する凍結乾燥バイオマトリックスに関するものであり、このバイオマトリックスは主に多糖類から成り、同時に、薬品および化粧品の作用物質の担体材料に適している。」(段落【0001】) (ウ)「天然多糖類は、好ましくはペクチン、アルギン酸塩、・・・からなる群から選択される。 変性多糖類としては、例えば、セルロースエーテル等のセルロース誘導体が挙げられる。好ましくは、例えばカルボキシメチルセルロースあるいはその誘導体のような被膜形成性結合剤が用いられる。」(段落【0014】-【0015】) (エ)「本発明の好適な実施態様では、凍結乾燥バイオマトリックスの製造に用いるバイオマトリックス溶液または懸濁液は、0.25から2.5重量%、好ましくは0.9から1.9重量%の天然多糖類と、0.5から2.5重量%、好ましくは0.9から1.6重量%の変性多糖類を含み、脱ミネラル水を加えて100%に調整する。さらに、0.05から0.75重量%、好ましくは0.12?0.23重量%の繊維成分、および/または使用目的に応じて0.0025から0.5重量%、好ましくは0.12?0.17重量%の化粧品および/または医薬品作用物質を、この混合物中に加えることができる。(段落【0019】) (オ)「本発明によるマトリックスは、それ自体で皮膚加湿作用を有するため、特に手入れ用化粧品に使用するのが適している。」(段落【0024】) (カ)「同時に皮膚作用物質の担体物質としても有用で、皮膚作用物質は多糖類の皮膚加湿作用によって初めて角質層への浸透が可能になるか、あるいは所望の形態で促進される。本発明による凍結乾燥バイオマトリックスは、とりわけ好適な実施態様においては、化粧品を作用物質として、また薬品を作用物質として、経皮投与するために用い得る。」(段落【0024】) (キ)「本発明の凍結乾燥バイオマトリックスで繊維成分を含まないものの特徴は、化粧品に使用する場合に、皮膚に擦り込めば完全に見えなくなることであり、一方、構造繊維を含むバイオマトリックスでは不溶性の繊維が皮膚上に残存し、化粧後に取り除かなければならない。」(段落【0036】) (ク)「本発明の好適な実施態様では、まず天然多糖類と変性多糖類の乾燥混合物を調製し、これを水中で攪拌する。この予混合物を10℃に冷却した後に、繊維成分、化粧品作用物質および/または医薬品成分、および/またはミセル形成性物質をこの予混合物中に分散させる。得られた混合物を、・・・平板状の型枠中で凍結させる。平板の厚みは0.5から3.5cm、好ましくは1.5から2.0cmとする。場合によっては、この平板を-10から-25℃で中間処理した後に、80℃と120℃の間の範囲に加温して、約0.5から3.0ミリバールの真空下に凍結乾燥する。凍結乾燥過程は好ましくは15から35時間続ける。その後に平板を分割し、加工する。」(段落【0050】) (ケ)「(実施例1)凍結乾燥バイオマトリックスの製造に下記の物質を用いる: カルボキシメチルセルロース 13.5g アルギン酸ナトリウム 13.5g ビスコース繊維 1.5g アロエ抽出物 1.5g 水(脱ミネラル) 970.0g まず、カルボキシメチルセルロースとアルギン酸ナトリウムの粉末混合物を調製し、これを、攪拌しながら、水中に分散させる。この混合物(予混合物I)を10℃に冷却する。ビスコース繊維とアロエ抽出物の混合物を予混合物I中に均等に分散させる。次いで、この混合物をアルミ製型枠に充填し(最大厚み約2cm)、塩水浴中で-20℃で約90分間冷凍する。凍結した板状のものをアルミ製の型枠から抜き、-20℃の低温室で24時間放置する。この2cm厚の板を1.5mbarで凍結乾燥する。この場合、まず120℃で12時間加熱する。その後、100℃および80℃でそれぞれ9時間凍結乾燥を続ける。 次いで、乾燥した板を1mm厚に分割し、通常の試験を行う。」(段落【0053】) また、本件優先日前である平成7年3月23日に頒布された、当審決にて新たに引用する「特表平7-502735号公報」(以下、「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。 (コ)「本発明は、親水性巨大分子からなる骨格形成物から主になるマトリックス中の植物抽出物を特徴とする、植物抽出物を含有するペレットもしくはピル(VolIkugeln)に関する。 さらに、本発明は、前記ペレットまたはピルの穏やかな製法ならびにその製剤学的、経口でのまたは化粧品への使用に関する。」(第3頁右上欄第4-8行) (サ)「本発明によるペレットは、0.8?2mmの通常の範囲内の直径を有する丸い、均一の成形体である。さらに、0.2?0.8および2?12mmの本発明による寸法を製造することができる。2mmより上の直径のペレットは、本発明において、ピルと称され、かつ1回単位の剤型(single unit dosage form)として適している。」(第5頁左上欄第13-17行) (シ)「実施例8 コラーゲン加水分解物200g、平均分子量:3000g/モル アロエ・ベラ汁4000g、10倍濃縮物 実施例6で得られたアロエ・ベラ汁を、・・・濃縮する。コラーゲン加水分解物を汁中に溶かし、かつ短時間-パストゥール殺菌法により、凍結乾燥したペレットを製造する。 直径4.5mmおよびアロエ・ベラ-固形分54.5%(g/g)を有する円形成形体が得られる。 ペレットは、室温の水中に、40秒内に溶ける。 滅菌水100m1中に溶かしたこのペレット5gは、日焼けに対する作用インスタント調合物を生じる。」(第10頁左上欄第18行-同頁右上欄第2行) また、本件優先日前である平成13年2月20日に頒布された、当審決にて新たに引用する「特開2001-48746号公報」(以下、「引用例3」という。)には、次の事項が記載されている。(下線は当審による。) (ス)「【請求項1】界面活性剤を含む粒子状洗浄料であって、粒子一粒の大きさが2?12mmの範囲になるように造粒または打型したことを特徴とする皮膚洗浄料。 ・・・ 【請求項11】造粒または打型したものの形状が、球形、・・・から選ばれることを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載の皮膚洗浄料。」(特許請求の範囲【請求項1】-【請求項11】)」 (セ)「本発明の皮膚洗浄料は、界面活性剤と上記の各成分を、造粒または打型により、粒子の一粒の大きさ・・・を2?12mmの大きさとした粒子からなる。・・・この大きさであると、粒子1粒?数粒を手にとることが可能であり、洗浄料の使用量のコントロールが行いやすい。・・・特に使用時の感触や溶解性等の点から、球形、フットボール型(楕円体)、紡錘型、星型、ハート型、菱型、略直方体の形状が好ましい。」(段落【0034】-【0035】)」 (ソ)「実施例1 洗顔パウダー ・・・球状で、平均直径7mmに造粒した。」(段落【0045】) また、本件優先日前である昭和61年1月30日に頒布された、当審決にて新たに引用する「特開昭61-22006号公報」(以下、「引用例4」という。)には、次の事項が記載されている。(下線は当審による。) (タ)「(1)顔料と油剤の混合物及び/又は油剤で表面処理されかつ疎水化されている顔料よりなる粉体組成物を、流動層造粒機により水溶性の高分子物質をバインダーとして、球状に造粒した粉末メイクアップ化粧料。 (2)前記の球状に造粒した粉末メイクアップ化粧料が、粒径が0.5?5mmのものである特許請求の範囲第(1)項記載の粉末メイクアップ化粧料。」(特許請求の範囲の請求項1?2) (チ)「実施例2 ・・・粒径が3?4mmの緑色球状のアイシャドウを得た。 実施例3 ・・・3?4mmの径をもつ薄茶色の球状頬紅を得た。」(第3頁左上欄下から2行-同頁左下欄第4行) (ツ)「また使用に際しても、手のひらやティッシュペーパー等の上に1?2粒もとり出し、指先または前記の専用小道具で使えば良く、使用量も毎回ぶれることもなく、初心者にも簡便なメイクアップが可能となる。」(第3頁右下欄第8-13行) また、本件優先日前である平成14年9月25日に頒布された、当審決にて新たに引用する「特開2002-275048号公報」(以下、「引用例5」という。)には、次の事項が記載されている。(下線は当審による。) (テ)「<実施例1>以下に示す処方に従って、本発明のボディー用のリンス組成物(化粧料)を作製した。すなわち、処方成分を90℃で溶解、分散し、金型に流し込み、冷却、固化させて、型から外し、本発明のボディー用のリンス組成物1を得た。(形状:直径1.5cmの球状)」(段落【0008】) そして、上記記載事項(ア)から、引用例1には、 「天然多糖類を25から70重量%、変性多糖類を25から70重量%、および水分を5から15重量%、薬品および/または化粧品の作用物質を0.1から20重量%、含有する、凍結乾燥バイオマトリックス。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。 (b)対比 本件補正発明と引用発明を対比する。 引用発明の「天然多糖類」及び「変性多糖類」は、プロテイン(タンパク質)を含まないことは明らかであるから、本願補正発明の「一以上の骨格形成剤」であって「前記骨格形成剤が、プロテインを含まず、」に相当する。 引用発明の「薬品および/または化粧品の作用物質」は、本願補正発明の「一以上の活性物質」に相当する。 引用発明は、天然多糖類を「25から70重量%」(wt%)及び変性多糖類を「25から70重量%」(wt%)含むから、引用発明の天然多糖類と変性多糖類の和は少なくとも50wt%であり、本件補正発明における「少なくとも10wt%の一以上の骨格形成剤」の範囲に包含される。 引用発明は、薬品および/または化粧品の作用物質を「0.1から20重量%(wt%)」、水分を「5から15重量%」含むから、それぞれ本件補正発明の「0.000001wt%?50wt%の一以上の活性物質」、「20wt%までの水」という範囲に包含される。 引用発明の凍結乾燥マトリックスは、天然多糖類、変性多糖類、水等を含むバイオマトリックス溶液または懸濁液を平板状の型枠中で凍結させたのち、凍結乾燥し、その後に平板を分割する方法で製造されるものであるから(上記記載事項(エ)、(ク)?(ケ))、引用発明の凍結乾燥バイオマトリックスは、「一定形状」を有するものといえる。 また、主に多糖類から成る引用発明の凍結乾燥バイオマトリックスは、それ自体で皮膚加湿作用を有し、手入れ用化粧品に使用するのが適しているものであるから、皮膚、すなわち身体表面へ適用するものである(上記記載事項(イ)、(オ))。 そうすると、両者は、 「少なくとも10wt%の一以上の骨格形成剤と、0.000001wt%?50wt%の一以上の活性物質と、20wt%までの水と、を含む形成物であって、前記骨格形成剤が、プロテインを含まないことによって特徴付けられる、一定形状を有する身体表面へ適用する形成物。」 の点で一致し、以下の点で相違する。 相違点 〔1〕本願補正発明は、0.1wt%?70wt%の一以上の補助物質を含むのに対して、引用発明にはその特定がない点(以下、「相違点1」という。) 〔2〕本願補正発明は、3mm?30mmの直径の球形物であるのに対して、引用発明にはその特定がない点(以下、「相違点2」という。) 〔3〕本願補正発明の骨格形成剤は、1重量%水溶液又は懸濁液の粘度が20℃及びpH値6?8において2000mPa・s未満であるのに対して、引用発明には、骨格形成剤の1重量%水溶液又は懸濁液の粘度の特定がない点(以下、「相違点3」という。) (c)当審の判断 相違点1について検討すると、手入れ用化粧品に使用するためのものである引用発明の凍結乾燥バイオマトリックスに、化粧品への添加が周知の成分を補助物質として添加することは、当業者が適宜なし得ることであり、その配合割合も適宜決定し得る事項に過ぎない。 次に、相違点2について検討する。 記載事項(キ)にあるように、引用例1には、凍結乾燥バイオマトリックスを皮膚に擦り込んで使用する態様の示唆があるから、引用発明の凍結乾燥バイオマトリックスを上記示唆に基づいて皮膚に擦り込んで使用する化粧品に用いることは、当業者が適宜なし得ることである。 一方、引用例2には、化粧品に使用できる、丸い、均一の成形体で2?12mmの直径のピルについて、1回単位の剤型として適していることが記載され、実施例8として、直径4.5mmの円形成形体の日焼けに対する作用インスタント調合物が記載されている。(記載事項(コ)?(シ)) 引用例3には、粒子一粒の大きさが2?12mmの範囲の球形であってよい皮膚洗浄料(洗顔パウダー)について、粒子1粒?数粒を手にとることが可能であり、洗浄料の使用量のコントロールが行いやすいことが記載され、実施例1として、球状で平均直径7mmの洗顔パウダーが記載されている。 (記載事項(ス)?(ソ)) 引用例4には、粒径が0.5?5mmの球状の粉末メイクアップ化粧料について、1?2粒をとり出して使用することにより、使用量がぶれず、簡便なメイクアップが可能となることが記載され、実施例2?3として、粒径3?4mmの球状の粉末メイクアップ化粧料が記載されている。(記載事項(タ)?(ツ)) 引用例5には、直径1.5cmの球状のボディー用のリンス組成物が記載されている。(記載事項(テ)) 上記引用例2?5の記載から、化粧品の技術分野において、3?15mm程度の直径の球形物からなる成型物は周知であると認められるし、引用例2?4には、そのような成型物が1回単位の剤型または1回に1?2粒を使用して使用量をコントロールする剤型に適していることが記載されており、さらに、そのような成型物を型枠を用いて製造できることは、引用例5の記載事項(テ)に記載されているように当業者にとって周知である。 そうすると、引用発明の凍結乾燥バイオマトリックスを、引用例1の上記示唆に基づいて皮膚に擦り込んで使用する化粧品に用いる際に、使用者における使用性の向上のために、その形状を、1回単位の剤型または1回に1?2粒を使用する剤型として当該技術分野において周知である、3mm?15mm程度の直径の球形の形状に変更することは、上記引用例1?5にふれた当業者にとって容易である。 加えて、本願明細書の発明の詳細な説明及び審判請求書に記載された事項を参酌しても、本願補正発明が、3mm?30mmの直径の球形物であることによって、引用例1?5に記載された発明及び周知技術から当業者が予測できる範囲を超える顕著な効果を奏するものとも認められない。 次に、相違点3について検討する。 引用例1には、天然多糖類は好ましくはアルギン酸塩を含む群から選択されること、及び、変性多糖類は好ましくはカルボキシメチルセルロースあるいはその誘導体であることが記載され(記載事項(ウ))、実施例1の凍結乾燥バイオマトリックスには、具体的にアルギン酸ナトリウム及びカルボキシメチルセルロースが含まれている(記載事項(ケ))。 ここで、アルギン酸ナトリウムの水溶液の粘度に関して、例えば、「高分子材料便覧」、社団法人 高分子学会編、昭和48年2月20日 初版、株式会社コロナ社発行(以下、「参考文献1」という。)の第972-975頁「表5・81 香粧品用天然高分子原料」の「アルギン酸ナトリウム」の「粘性」のカラムには「1%溶液:100cP」と記載され、また、前記参考文献1の第977頁左欄「5・4 食用品材料」の「5・4・1 合成糊料」の「[1]アルギン酸ナトリウム」の「b)性質」の項には「・・・水に溶けて粘ちょうなコロイド溶液を作る.その粘度は原海草の種類によってかなり異なるが,普通,重合度75で70cP,84で140cP,130で1000cPといわれる.また液性によって変化するがpH6?8では安定である.」(第977頁左欄第25-31行)と記載されている。 これらにみられるように、アルギン酸ナトリウムの粘ちょうなコロイド水溶液において、粘度70?1000cP(mPa・s)及びpH6?8は通常の値であり、かつ、従来より化粧品には、1%溶液で100cP(mPa・s)の粘度のアルギン酸ナトリウムが使われているものと認められる。 また、カルボキシメチルセルロース(以下、「CMC」ともいう。)の水溶液の粘度に関して、例えば、特開昭59-108045号公報には、「医薬、化粧品をはじめとする広範囲の用途において用いられるCMCの均一で安定なゲル組成物」(第2頁左上欄下から2行-同頁右上欄第1行)に用いるCMCについて、「また、CMCの置換度(DS)、粘度(重合度)は特に限定されるものではなく、・・・粘度は10%水溶液粘度が500cps程度の低粘品から1%粘度が5000cps程度の高粘品までの範囲の中から、用途、目的に応じて任意に選ぶことができる。」(第3頁右上欄第8-14行)と記載され、その実施例1?21おいて、1%水溶液粘度が24?1830cps(mPa・s)の範囲のカルボキシメチルセルロースナトリウムが用いられており、また、特開平10-25231号公報には、 「下記の特性(A)?(C)を備えたカルボキシメチルセルロースアルカリ塩からなる歯磨き用粘結剤。 (A)エーテル化度が0.7?1.5。 (B)1%水溶液粘度が100?1000mpa・s。 (C)構造粘性が40%以上。」(【請求項1】)について、「1%水溶液粘度が100mpa・s未満では、充分な歯磨きの粘度が得られず、・・・また1%水溶液粘度が1000mpa・sを超えると、逆に歯磨きの粘度が高くなって・・・欠点が生じる。」(段落【0016】)と記載されている。 これらにみられるように、従来より化粧品には、用途、目的に応じて1%水溶液粘度が2000mPa・s未満の粘度のカルボキシメチルセルロースが使われているものと認められる。 そうすると、引用発明の天然多糖類及び変性多糖類として、1重量%水溶液又は懸濁液の粘度が20℃及びpH値6?8において2000mPa・s未満の天然多糖類及び変性多糖類を用いることは、当該技術分野の上記周知技術から、当業者にとって容易である。 請求人は、意見書及び審判請求書において、引用文献1(当審決における「引用例1」である。)の「凍結乾燥バイオマトリックス」は、皮膚残余時間の長い製品、例えば膨張ゲルまたはフィルム(マスク/被覆剤)、創傷被覆剤、ドラッグデリバリーシステム、フェイスマスク等の、身体表面に留まらせてバイオマトリックスから活性物質を放出させることを企図したものであり、結合剤としてカルボキシメチルセルロースなどの変性多糖類及び繊維を添加し(実施例1?3)、また架橋結合を形成させるカルシウムイオンを添加することにより、耐水性のマトリックスとすることが記載されているものであるから、人皮膚または髪に速やかに展延させるための形成物でないことを意味し、使用感のよい外用剤・塗布剤の提供を目的とするものではなく、よって、1重量%水溶液又は懸濁液の粘度が20℃及びpH値6?8において2000mPa・s未満であるような低粘性の骨格形成剤を用いる必要はないし、あるいは、低粘性の骨格形成剤を用いると引用文献1の目的が達成できなくなる旨、主張する。 しかし、記載事項(イ)、(オ)?(カ)にあるように、引用例1には、凍結乾燥バイオマトリックス自体を手入れ用化粧品として使用することが記載され、かつ、記載事項(キ)に、繊維成分を含む(または含まない)バイオマトリックスを皮膚に擦り込んで使用する態様の示唆があり、ここで、皮膚に擦り込んで使用する化粧品は、皮膚に「展延」するものと解されるから、引用例1に、凍結乾燥バイオマトリックスを創傷被覆剤やフェイスマスク等としての使用することが記載され、また、該凍結乾燥バイオマトリックスがカルボキシメチルセルロース、繊維等を含み得るものであるからといって、そのことをもって、引用発明の凍結乾燥バイオマトリックスを身体表面に展延させるための形成物に使用できないことを意味するとも、外用剤・塗布剤に使用できないことを意味するものともいえないと解されるから、請求人の前記主張を採用することはできない。 また、請求人は、意見書及び審判請求書において、本願補正発明は、「20℃、pH値6?8におけるその1重量%水溶液の粘度が2000mPa・s未満である」骨格形成剤を用いることによって、残留物を残すことなく溶け、皮膚等に適用したときの使用感がよく、速やかに展延し残留物がない、という格別の作用効果を実現し、使用感のよい外用剤・塗布剤の提供を目的を達成するものである旨、主張する。 しかし、本願補正発明は、活性物質を50wt%まで、補助物質を70wt%まで含んでよく、かつ、発明の詳細な説明の記載によれば、前記活性物質は例えば「研磨剤」(段落【0021】の最終行)であってよく、前記補助物質は充填剤、安定剤であってよい(段落【0026】)から、本願補正発明の形成物は、前記の活性物質や補助物質の性質や配合割合によっては、速やかに水に溶解しない場合や残留物を残す場合が生じ得ると認められる。 そうすると、上記の特定の骨格形成剤を用いることによって、上記の作用効果を実現し、上記の目的を達成できるとの請求人の主張を採用することはできない。 (d)小括 以上のとおり、本件補正発明は、引用例1?5に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条第2項の規定により特許出願の際に独立して特許を受けることができないものである。 (3)むすび したがって、本件補正は、平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 3.本願発明について 平成22年8月11日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の特許請求の範囲に記載された発明は、平成22年3月9日付け手続補正書により補正された請求項1?11に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項8に係る発明は、次のとおりのものである。(以下、「本願発明」という。) 「少なくとも10wt%の一以上の骨格形成剤と、 0.000001wt%?50wt%の一以上の活性物質と、 0.1wt%?70wt%の一以上の補助物質と、 20wt%までの水、 を含む、粉末状、微小ペレット状または不規則形状の何れでもない一定形状を有する形成物であり、 前記骨格形成剤の1重量%水溶液又は懸濁液の粘度が20℃及びpH値6?8において2000mPa.s未満であり、 前記形成物は、骨格形成剤に由来するプロテインを含まない、 ことを特徴とする形成物。」 4.当審の判断 (1)引用例記載の発明 引用例1に記載された事項及び引用発明は、前記「2.(2)(B)(a)」に記載したとおりである。 (2)対比・判断 本願発明は、前記2.で検討した本願補正発明の「形成物。」の限定事項である「3mm?30mmの直径の球形物からなる形成物であって、」「一定形状を有する」の構成を「粉末状、微小ペレット状または不規則形状の何れでもない一定形状」とし、かつ、「身体表面へ適用する」の構成を省いたものである。 また、本願発明の「前記形成物は、骨格形成剤に由来するプロテインを含まない」の構成は、本願補正発明の「前記骨格形成剤が、プロテインを含まず」の構成と、実質的に相違しない。 そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の凍結乾燥マトリックスは、天然多糖類、変性多糖類、水等を含むバイオマトリックス溶液または懸濁液を平板状の型枠中で凍結させたのち、凍結乾燥し、その後に平板を分割する方法で製造されるものであるから(上記記載事項(エ)、(ク)?(ケ))、粉末状でも微小ペレット状でも不規則形状でもない一定形状を有するものといえる。 そうすると、両者は、 「少なくとも10wt%の一以上の骨格形成剤と、0.000001wt%?50wt%の一以上の活性物質と、20wt%までの水と、を含む、粉末状、微小ペレット状または不規則形状の何れでもない一定形状を有する形成物であり、前記形成物は、骨格形成剤に由来するプロテインを含まない、ことを特徴とする形成物。」 の点で一致し、前記「2.(2)(B)(b)」に記載した、相違点1及び3の点で相違する。 そして、相違点1及び3に係る本願発明の構成は、前記「2.(2)(B)(c)」に記載したとおり、引用例1に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明は、引用例1に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 5.むすび 以上のとおり、本願発明は、引用例1に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願は、他の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-12-10 |
結審通知日 | 2012-12-11 |
審決日 | 2012-12-26 |
出願番号 | 特願2005-501273(P2005-501273) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(A61K)
P 1 8・ 575- Z (A61K) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 田村 直寛 |
特許庁審判長 |
横尾 俊一 |
特許庁審判官 |
渕野 留香 天野 貴子 |
発明の名称 | 身体表面へ適用する形成物及びその製造方法 |
代理人 | 大前 要 |