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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B60T
管理番号 1274237
審判番号 不服2011-14185  
総通号数 163 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-07-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-07-01 
確定日 2013-05-15 
事件の表示 特願2001-501487「車両のエアブレーキ・システム」拒絶査定不服審判事件〔平成12年12月14日国際公開、WO00/74990、平成15年 1月14日国内公表、特表2003-501311〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成12年6月2日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1999年6月2日、英国)を国際出願日とする出願であって、平成23年2月21日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成23年7月1日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正がなされ、その後、当審において、平成24年5月21日付けで拒絶理由が通知されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1?9に係る発明は、平成22年8月17日付け手続補正、及び平成24年10月22日付け手続補正により補正された明細書、及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。なお、平成23年7月1日付け手続補正は、当審において、平成24年5月21日付けで決定をもって却下されている。
「【請求項1】
車両のエアブレーキ・システムのコンプレッサに関する制御システムにおいて、
前記制御システムは、車両運転状態を示す一つ以上の入力と、コンプレッサが負荷状態か無負荷状態かを判断する出力とを備え、
前記制御システムは、前記コンプレッサ下流のリザーバの目標圧力帯を計算するための目標手段をさらに有し、
前記入力は前記コンプレッサ出口の温度を含み、
前記目標圧力帯はスロットルオン・モードよりスロットルオフ・モードのほうが高く、
上昇した前記コンプレッサ出口の温度に対応して低下し、
前記出力は前記目標手段に対応する制御システム。
【請求項2】
制御システムの入力は車両のスロットル位置である請求項1に記載の制御システム。
【請求項3】
前記高い目標圧力帯は通常の目標圧力帯を8?10%越える請求項1に記載の制御システム。
【請求項4】
第3の一層高い目標圧力帯をさらに有する請求項3に記載の制御システム。
【請求項5】
車両のエアブレーキ・システムのコンプレッサに関する制御システムであって、
前記制御システムは、車両エンジン速度を示す第1入力と、車両速度を示す第2入力と、車両スロットル開度を示す第3入力と、前記コンプレッサ下流のリザーバの空気圧を示す第4入力と、コンプレッサが負荷状態か無負荷状態かを判断する出力とを備え、
前記制御システムは、前記リザーバの目標圧力帯を計算する手段をさらに有し、
前記入力は前記コンプレッサ出口の温度を含み、
前記目標圧力帯はスロットルオン・モードよりスロットルオフ・モードのほうが高く、
上昇した前記コンプレッサ出口の温度に対応して低下する、制御システム。
【請求項6】
前記高い目標圧力帯は通常の目標圧力帯を8?10%越える請求項5に記載の制御システム。
【請求項7】
第3の一層高い目標圧力帯をさらに有する請求項6に記載の制御システム。
【請求項8】
前記コンプレッサの独立制御とそのためのパージバルブとを備えるように形成された、
請求項1から7の何れか一項に記載の制御システム。
【請求項9】
車両のエアブレーキ・システムのコンプレッサを制御する方法において、
車両運転状態を示す一つ以上の入力を有する、前記コンプレッサに関する制御システムを設けるステップと、
前記車両運転状態に応じて前記コンプレッサを負荷状態と無負荷状態のいずれかにするため、前記制御システムから出力を得るステップと、
前記コンプレッサ下流のリザーバの目標圧力帯を即時に計算するための目標手段を設けるステップとを備え、
前記入力は前記コンプレッサ出口の温度を含み、
前記目標圧力帯はスロットルオン・モードよりスロットルオフ・モードのほうが高く、
上昇した前記コンプレッサ出口の温度に対応して低下し、
前記制御システムからの前記出力は前記目標手段に対応する方法。」

3.本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)について
(1)本願発明1
本願発明1は上記のとおりである。
(2)引用例
(2-1)引用例1
特開昭58-12861号公報(以下、「引用例1」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。なお、全角半角等の文字の大きさ、字体、促音、拗音、句読点などは記載内容を損なわない限りで適宜表記した。以下、同様。
(あ)「この発明は、自動車のエアブレーキ、エアサスペンション、オートドア等に圧縮空気を供給するエア配管系において、エアコンプレッサのアンロード弁を作動してエアタンクの圧力を制御する装置に関するものである。」(第1ページ右下欄第1?5行)
(い)「第1図において、この発明の実施例が示されエア配管系は、エアコンプレッサ1とエアタンク2とが配管3aを介して接続され、エアコンプレッサ1とエアタンク2とが配管3aを介して接続され、エアコンプレッサ1で圧縮された圧縮空気はエアタンク2に一時貯えられ、該エアタンク2の吐出側に接続された配管3bを介して図示しないエアブレーキ、エアサスペンション、オートドア等へ出力されるように構成されている。
エアコンプレッサ1は図示しない走行用エンジンとタイミングギアにより直結されており、走行用エンジンが駆動されている場合には常に回転し、コネクチングロッド4を介してピストン5がシリンダ6内を往復動するようになされている。このエアコンプレッサ1のシリンダ6の上部にはシリンダヘッド7が固装され、このシリンダヘッド7に吸入孔8と吐出孔9が形成され、吐出孔9に前記配管3aの一端が接続されている。この吸入孔8と吐出孔9には吸入弁10と吐出弁11とが設けられ、さらに吸入弁10の上部には下記するアンロード弁12が設けられている。
アンロード弁12は、該アンロード弁12にその一端が接続されたフィードバック空気圧回路13からの空気圧で作動し、この空気圧が所定以上になると、吸入弁10を押開き、エアコンプレッサ1をデコンプ状態にして吐出空気の調整を図るものである。
フィードバック空気圧回路13は、エアタンク2とアンロード弁12とを接続しており、このフィードバック空気圧回路13を開閉する電磁弁14が設けられている。
燃料供給ポンプ15は、図示しない走行用エンジンに燃料を供給するもので、一端側にガバナ17が設けられている。燃料噴射ポンプ15のコントロールラック16、ガバナ17で調整されながら図示しないアクセルペダルの位置により操作され、走行用エンジンの負荷に対応するよう左右に移動して燃料供給量を制御している。
負荷センサ18は、例えば差動変圧器が用いられ、コントロールラック16の突出部分の周囲に設けられ、走行用エンジンの負荷をコントロールラック16の位置から電気信号として検出するものである。また、図示しないがアクセルペダルからも負荷を検出することができる。
圧力センサ19は、エアタンク2に設けられ、エアタンク2内の圧力を電気信号として検出している。この負荷センサ18と圧力センサ19とから検出信号は下記する電磁弁制御回路20に入力されて処理され、該回路20から出力された出力信号により前記電磁弁14が操作される。
電磁弁制御回路20は、例えば第2図に示すような出力特性を有し、走行用エンジンの高負荷時においては、エアタンク3の圧力(圧力上昇時の開弁圧)がP_(2)以上に上昇したときに電磁弁14を開き、エアタンク3の圧力(圧力下降時の閉弁圧)がP_(1)以下に下降した時に電磁弁14を閉じるように出力するように構成され、閉弁圧と開弁圧間は大きな圧力差が持たされている。一方、走行用エンジンの低負荷時においては、圧力下降時の閉弁圧が圧力上昇時の開弁圧P_(2)付近まで近づいて閉弁圧と開弁圧の圧力差を小さくしている。
上記の構成において、走行用エンジンの高負荷時において、エアタンク2の圧力がP_(1)から除々に高まってP_(2)になると、電磁弁14が閉から開となり、フィードバック空気圧回路13を介してアンロード弁12に空気圧が作用し、このためエアコンプレッサ1の吸入弁9が押開かれてエアコンプレッサ1はデコンプ状態になる。この状態でエアタンク2の空気圧が何らかの形で消費されるが、電磁弁14はエアタンク2の圧力がP_(1)に下がるまで閉じられないので、エアコンプレッサ1はエアタンク2の圧力がP_(1)に下がるまでデコンプ状態のままである。
しかしながら、アクセルペダルの踏み込み量から検出される走行用エンジンの低負荷時には、負荷センサ18からの検出信号により電磁弁制御回路20の出力特性が変わり、エアタンク2内の圧力がP_(2)以下の場合には、電磁弁14は直ちに閉じられる。これにより、エアコンプレッサ1はデコンプ状態が解除され、エアコンプレッサ1が圧縮作用を開始するようになり、下り坂走行等の場合にあっては、負荷の増大でエンジンブレーキが強く働くようになる。したがって、この場合のエアタンク2の圧力の供給は、走行用エンジンに燃料がアイドリング状態時の最小限か供給されない状態で行なわれるので、その分燃費の向上が図れるのである。
尚、上記実施例においては、走行用エンジンはディーゼルエンジンであるが、他の実施例として、ガソリンエンジンである場合についても適用することができ、この場合の負荷センサは、マニホールドの負圧を検出することで走行エンジンの負荷を検出するように構成すればよい。」(第2ページ左上欄第18行?第3ページ右上欄第10行)
以上の記載事項及び図面からみて、引用例1には、次の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「車両のエアブレーキ、エアサスペンション等に圧縮空気を供給するエア配管系の圧力制御装置において、
該圧力制御装置は、走行用エンジンの負荷センサ18、エアタンク2の圧力センサ19、電磁弁14、電磁弁制御回路20を備え、
電磁弁制御回路20は、エアタンク2の圧力が値P_(2)以上に上昇したときに電磁弁14を開いてエアコンプレッサ1をデコンプ状態とし、エアタンク2の圧力が低下して値P_(1)以下に下降したときに電磁弁14を閉じてエアコンプレッサ1が圧縮作用を開始するようにし、
下り坂走行等の走行用エンジンの低負荷時の場合には、高負荷時の場合より、値P_(1)を大きくして値P_(2)に近づけるようにした圧力制御装置。」
(2-2)引用例2
特開昭57-131826号公報(以下、「引用例2」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。
(か)「本発明は、自動車のエンジンブレーキ状態時に損失する運動エネルギをエンジン補機のエアコンプレッサに回収する自動車のエア機構に関する。」(第1ページ右下欄第7?9行)
(き)「本発明は、車軸を駆動する内燃機関の回転軸に連結されたエアコンプレッサと、このエアコンプレッサの出力に得られる圧縮空気を貯えるエアタンクと、このエアタンク内の空気圧が上限圧力に上昇したとき上記エアコンプレッサの圧縮作用を停止させ上記空気圧が下限圧力に下降したとき上記エアコンプレッサの圧縮作用を開始させるように制御する制御手段とを備えた自動車のエア機構において、前記内燃機関がエンジンブレーキ状態にあることを検出し電気信号を送出する手段を備え、前記制御手段がこの電気信号が送出されているときには前記上限圧力より高い第二の上限圧力まで上記エアコンプレッサを作用させるように制御することを特徴とする。」(第2ページ左上欄第4?17行)
(く)「第1図は、本発明実施例のエンジンブレーキ状態検出作動回路の構成図である。」(第2ページ右上欄第4、5行)
(け)「これによりエンジンブレーキが働くと、スイッチ17がオフ状態となる。」(第2ページ左下欄第15、16行)
(こ)「第2図は本発明実施例のエアコンプレッサの構成図である。第2図において、19はエアコンプレッサ、20はコンプレッサピストンである。コンプレッサピストン20は、自動車の車軸を駆動する内燃機関の回転軸に連結されている。このコンプレッサピストン20で圧縮された空気は、逆止弁21を介してエアタンク22に貯えられる。このエアタンク22の圧縮空気は、プレッシャレギュレータ24に導かれる。
このプレッシャレギュレータ24は、エアタンク22の空気圧が7.5Kg/cm^(2)の上限圧力に上昇すると、バルブ25を開き、空気圧が6.5Kg/cm^(2)の下限圧力に降下すると、バルブ25を閉じるようになっている。このプレッシャレギュレータ24のバルブ25が開くと、エアタンク22の圧縮空気は電磁バルブ26に導かれる。またプレッシャレギュレータ24のバルブ25が閉じると、プレッシャレギュレータ24の排気孔28が開き、電磁バルブ26からの空気を排出するようになっている。
この電磁バルブ26は、ソレノイド29に電流が流れているとき開かれ、プレッシャレギュレータ24を経由してきた圧縮空気をエアコンプレッサ19のアンローダバルブ30に導く。このソレノイド29の一方は、第1図に示したスイッチ17および圧力スイッチ32を介して、バッテリ33に接続される。またソレノイド29の他方は接地される。この圧力スイッチ32は、常時開かれていてエアタンク22の空気圧が8.5Kg/cm^(2)に上昇すると閉じるようになっている。
また電磁バルブ26が閉じると、排気孔34が開き、アンローダバルブ30からの空気を排出するようになっている。エアコンプレッサ19は、このアンローダバルブ30がプレッシャレギュレータ24および電磁バルブ26を経由してきた圧縮空気を受けると開いて、エアコンプレッサ19のバルブシート36を開き、エアコンプレッサ19の圧縮作用を停めるように構成されている。
このような構成で、まず内燃機関を始動してエアコンプレッサ19のコンプレッサピストン20を駆動させる。このコンプレッサピストン20の圧縮作用によりエアタンク22の空気圧が7.5Kg/cm^(2)に上昇すると、プレッシャレギュレータ24のバルブ25が開く。
いま、エンジンブレーキが働いていなければ、スイッチ17はオン状態であるため、ソレノイド29に電流が流れ電磁バルブ26は開いている。そのため、プレッシャレギュレータ24からの圧縮空気は、電磁バルブ26を通ってアンローダバルブ30を押下げる。アンローダバルブ30は圧縮空気により押圧されると、バルブシート36を開いて、エアコンプレッサ19の圧縮作用を停める。
次いで、エアタンク22の空気圧が6.5Kg/cm^(2)に降下すると、プレッシャレギュレータ24のバルブ25が閉じて、アンローラバルブ30を押圧していた空気が排気孔28より排出される。これによりアンローダバルブ30は上昇して、コンプレッサピストン20の圧縮作用が再開する。
ここで自動車がエンジンブレーキの働いた状態になると、スイッチ17がオフ状態となる。このときエアタンク22の空気圧が8.5Kg/cm^(2)未満であれば、圧力スイッチ32もオフ状態となるため、ソレノイド29には電流が流れず、電磁バルブ26は閉じる。これによりエアコンプレッサ19は、エンジンブレーキが働く状態で集中的に圧縮作用を行う。この作用によりエアタンク22の空気圧が8.5Kg/cm^(2)に上昇すると、圧力スイッチ32は閉じるため、ソレノイド29に再び電流が流れ、電磁バルブ26が開いて、アンローダバルブ30が押圧され、コンプレッサピストン20の圧縮作用を停める。」(第2ページ左下欄第17行?第3ページ左下欄第6行)
(2-3)引用例4
特開平5-141837号公報(以下、「引用例4」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。
(た)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、コンプレッサ及びこのコンプレッサを冷却するためのファン装置を備えて成る冷蔵庫に関する。
【0002】
【従来の技術】この種の冷蔵庫においては、冷蔵庫の周囲温度が高いときには、コンプレッサの能力低下を防止するために、コンプレッサの運転と同期してファン装置を駆動させてコンプレッサを冷却するようにしている。この構成の場合、冷蔵庫の上部に室温センサを配設し、この室温センサからの検出温度に基づいて冷蔵庫の周囲温度が高いか低いかを判断している。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記従来構成では、ファン装置等がロックして故障した場合、コンプレッサの温度が異常に高くなるまで上昇し、そのまま運転を続けるとコンプレッサが焼損して破壊するおそれがあった。これに対して、コンプレッサの温度を検出する温度センサを設け、この温度センサからの検出温度が異常に高くなったときにコンプレッサを停止させるように構成し、もってコンプレッサの破壊を防止することが考えられる。」
(ち)「【0011】上記コンプレッサ1のケース5の外周部には、温度センサ6が取付金具7を介して取付けられている。取付金具7は、熱伝導性の良い材料例えばアルミニウム等の金属板材により形成されている。温度センサ6は、例えばサーミスタから構成されており、ケース5の温度即ちコンプレッサ1の温度を検出して検出温度である検出信号を出力する。」
(つ)「【0017】次に、上記構成の作用を図1も参照して説明する。図1において、時刻t1で、F室温度センサ14からの検出信号に基づいて、冷凍室内の温度がコンプレッサ駆動開始温度まで上昇したことが検出されると、制御回路13によりトランジスタ17がオンされてリレーコイル11bが通電される。これにより、リレースイッチ11aがオンされてコンプレッサ1が通電駆動され、冷蔵庫内即ち冷凍室内が冷却され始める。この場合、コンプレッサ1の通電開始時においては、ファンモータ4は断電されている。
【0018】この後、時刻t2においてコンプレッサ1の温度が上昇してファン駆動温度T1に達すると、制御回路13によりトランジスタ18がオンされてリレーコイル12bが通電される。これにより、リレースイッチ12aがオンされてファンモータ4が通電駆動され、ファン3により外気がコンプレッサ1へ送風される。この結果、コンプレッサ1が冷却され、コンプレッサ1の温度が異常に高くなることがなくなる。
【0019】さて、上述したようにコンプレッサ1及びファンモータ4が駆動された運転状態で、何等かの原因によりコンプレッサ1の温度が異常に高くなる場合について述べる。この場合、コンプレッサ1の温度が上昇して、時刻t3で温度センサ6により検出された検出温度がファン駆動温度T1よりも高いコンプレッサ異常停止温度T2に達すると、制御回路13によりトランジスタ17がオフされてリレーコイル11bが断電される。これにより、リレースイッチ11aがオフされてコンプレッサ1が断電停止される。」
(3)対比
本願発明1と引用例1発明とを対比すると、後者の「車両のエアブレーキ、エアサスペンション等に圧縮空気を供給するエア配管系の圧力制御装置」は前者の「車両のエアブレーキ・システムのコンプレッサに関する制御システム」に相当し、同様に、「走行用エンジンの負荷センサ18」は「車両運転状態を示す一つ以上の入力」に、「エアタンク2」は「リザーバ」に、「高負荷時」は「スロットルオン・モード」に、「低負荷時」は「スロットルオフ・モード」に相当する。
後者の「電磁弁制御回路20は、エアタンク2の圧力が値P_(2)以上に上昇したときに電磁弁14を開いてエアコンプレッサ1をデコンプ状態とし、エアタンク2の圧力が低下して値P_(1)以下に下降したときに電磁弁14を閉じてエアコンプレッサが圧縮作用を開始するようにし、」という事項は、「電磁弁制御回路20」が「電磁弁14」を開閉駆動して、エアコンプレッサ1をデコンプ状態又は圧縮作用をする状態にしているから、前者の「コンプレッサが負荷状態か無負荷状態かを判断する出力」を備えているといえるとともに、エアタンク2の圧力が値P_(2)以上に上昇したときにエアコンプレッサ1をデコンプ状態とし、エアタンク2の圧力が値P_(1)以下に下降したときにエアコンプレッサの圧縮作用を開始するようにしているから、値P_(1)から値P_(2)の範囲を「目標圧力帯」としているといえる。また、後者の電磁弁14の開閉は値P_(1)、P_(2)に対応して行なわれるから、前者の「前記出力は前記目標手段に対応する」と対比して、「前記出力は前記目標圧力帯に対応する」という点で一致する。
後者の「下り坂走行等の走行用エンジンの低負荷時の場合には、高負荷時の場合より、値P_(1)を大きくして値P_(2)に近づけるようにした」という事項と前者の「前記目標圧力帯はスロットルオン・モードよりスロットルオフ・モードのほうが高く、」という事項とは、「前記目標圧力帯はスロットルオン・モードよりスロットルオフ・モードのほうが高い範囲にあり、」という点で一致する。
したがって、本願発明1の用語に倣って整理すると、両者は、
「車両のエアブレーキ・システムのコンプレッサに関する制御システムにおいて、
前記制御システムは、車両運転状態を示す一つ以上の入力と、コンプレッサが負荷状態か無負荷状態かを判断する出力とを備え、
前記制御システムは、前記コンプレッサ下流のリザーバの目標圧力帯をさらに有し、
前記目標圧力帯はスロットルオン・モードよりスロットルオフ・モードのほうが高い範囲にあり、
前記出力は前記目標圧力帯に対応する制御システム。」である点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点1]
本願発明1は、「前記制御システムは、前記コンプレッサ下流のリザーバの目標圧力帯を計算するための目標手段をさらに有し」ており、「前記出力は前記目標手段に対応する」のに対し、引用例1発明はそのような「目標圧力帯を計算するための目標手段」を有していない点。
[相違点2]
本願発明1は、「前記目標圧力帯はスロットルオン・モードよりスロットルオフ・モードのほうが高く、」という事項を備えるのに対し、引用例1発明は、「下り坂走行等の走行用エンジンの低負荷時の場合には、高負荷時の場合より、値P_(1)を大きくして値P2に近づけるようにした」にすぎない点。
[相違点3]
本願発明1は、「前記入力は前記コンプレッサ出口の温度を含み、」、「前記目標圧力帯」は「上昇した前記コンプレッサ出口の温度に対応して低下し、」という事項を備えるのに対し、引用例1発明は、そのような事項を備えていない点。
(4)判断
(4-1)相違点1について
引用例1発明の電磁弁制御回路20は、エアタンク2の圧力が値P_(2)以上に上昇したときに電磁弁14を開いてエアコンプレッサ1をデコンプ状態とし、エアタンク2の圧力が低下して値P_(1)以下に下降したときに電磁弁14を閉じてエアコンプレッサが圧縮作用を開始するようにしているが、値P_(1)、P_(2)をどのように設定するかは特に限定されていない。しかし、制御一般において、目標値を種々の状況に応じて算出することは普通に行われており、引用例1発明において、例えば、所要のエアタンク圧力、走行用エンジンの高負荷・低負荷の程度、所要のエンジンブレーキの大小等に応じて、値P_(1)、P_(2)を計算で求めるように構成することに格別の困難性はない。このように、値P_(1)、P_(2)を計算で求めるようにしたとき、引用例1発明の電磁弁制御回路20は、値P_(1)、P_(2)に対応して電磁弁14を開閉するから、実質的にみて、「前記出力は前記目標手段に対応する」ということができる。
(4-2)相違点2について
引用例2には、エアコンプレッサとエアコンプレッサによる圧縮空気を貯えるエアタンクを備えた自動車のエア機構において、エンジンブレーキ状態にあるときには、エアコンプレッサの圧縮作用を停止させる上限圧力を高くするという事項が示されている。引用例1発明は、エアブレーキ使用時等の走行用エンジンの低負荷時の場合には、高負荷時の場合より、エアコンプレッサの圧縮作用を開始させる値P_(1)を大きくするものであるが、エンジンブレーキを強くしたり、エンジンブレーキが働く範囲を広くするという点で引用例2の上記事項と通底しており、また、引用例1発明においても、エンジンブレーキの有効利用という点からみれば、下り坂走行等の走行用エンジンの低負荷時にエアコンプレッサ1をデコンプ状態とする値P_(2)を大きくする方が好適であることは当業者に明らかである。以上からすれば、引用例1発明に引用例2の上記事項を適用して、下り坂走行等の走行用エンジンの低負荷時の目標圧力帯を高負荷時より高くすることは、当業者が容易に想到し得たものと認められる。
(4-3)相違点3について
引用例1発明は、エアコンプレッサ1で圧縮された圧縮空気をエアタンク2に貯えるものである。一般に、過負荷・過回転等、何等かの原因により、このようなコンプレッサの温度が異常に高くなることは、引用例4(特に【0003】、【0019】)に示されているように周知であり、引用例1発明のエアコンプレッサ1においても特に異なるものではない。その場合に、コンプレッサの負荷の軽減、回転の低減、あるいは運転停止等によって、異常に高くなった温度を下げ得ることは技術常識である。引用例4は、エアコンプレッサ1の運転を停止しているが、運転を停止するか、負荷等を下げるかは、温度上昇の程度や所要の安全性等に応じて適宜設計する事項にすぎない。そして、引用例1発明は、エアタンク2の圧力の値P_(1)、P_(2)に応じてエアコンプレッサ1を圧縮運転状態、あるいは、デコンプ状態としているのであるから、エアタンク2の値P_(1)、P_(2)の範囲である圧力帯をエアコンプレッサ1の温度に応じて低い方に変更すれば、エアコンプレッサ1の負荷等を相応に軽減して温度を下げ得ることは明らかである。
引用例4のものは、コンプレッサ1のケース5の外周部に、取付金具7を介して温度センサ6が取付けられている。しかし、これは一実施例であって、コンプレッサの温度として、相互に関連しているコンプレッサの各部位の温度のうちどれを検出するかは、検出精度、センサの設置の難易等を考慮して適宜設計する事項にすぎず、コンプレッサ出口の温度を検出するように構成した点に格別の困難性があるとは認められない。
そして、本願発明1の奏する効果は、引用例1、2、4に記載された発明に基づいて当業者が予測し得た程度のものである。

なお、上記の「(2)引用例」、「(4)判断」において、平成24年5月21日付け拒絶理由の引用例3を挙げていないが、平成24年5月21日付け補正却下の決定に「引用例1発明は、車両のエアブレーキ、エアサスペンション等に圧縮空気を供給するエア配管系の圧力制御装置に係り、エアタンク2の圧力を制御するものである。そして、引用例3には、空気ばね回路Vを作動ブレーキないし固定ブレーキを形成する負荷回路I?IIIに比べて一層高い作動圧力に充填することが示されているのであるから、引用例1発明において、例えば、エアサスペンションに圧縮空気を供給する場合に、エアタンク2の圧力を、エンジンブレーキを想定した値P1、P2より一層高い圧力にすることは、当業者が容易に想到し得たものと認められる。」と記載されているとおり、引用例3は、「本願補正発明」の「前記スロットルオフ・モードにおける目標圧力帯より一層高い第3の目標圧力帯」という事項に関して引用されたものである。本願発明1は、該事項を具備するものではないから、本願発明1について進歩性(特許法第29条第2項)の有無を判断するにあたって、引用例3は特に必要がないことは明らかである。このことは、平成24年10月22日付け意見書(特に「(1-3)本願発明との差異」の欄)において、引用例3の組み合わせの適否に関しては特に言及されていないことからも裏づけられる。

(5)むすび
したがって、本願発明1は、引用例1、2、4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定によりて特許を受けることができない。

4.結語
以上のとおり、本願発明1(本願の請求項1に係る発明)が特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである以上、本願の請求項2?9に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-12-10 
結審通知日 2012-12-11 
審決日 2012-12-25 
出願番号 特願2001-501487(P2001-501487)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B60T)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 林 道広  
特許庁審判長 山岸 利治
特許庁審判官 川本 真裕
窪田 治彦
発明の名称 車両のエアブレーキ・システム  
代理人 関根 武彦  
代理人 今堀 克彦  
代理人 川口 嘉之  
代理人 松倉 秀実  
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