ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C12N |
---|---|
管理番号 | 1274413 |
審判番号 | 不服2010-2779 |
総通号数 | 163 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-07-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-02-08 |
確定日 | 2013-05-20 |
事件の表示 | 特願2003-571413「組換えマイナス鎖ウイルスRNA発現系およびワクチン」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 9月 4日国際公開、WO03/72725、平成17年 6月23日国内公表、特表2005-518209〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本願発明 本願は、2003年2月21日(パリ条約による優先権主張2002年2月21日、米国)を国際出願日とする出願であって、その請求項1?17に係る発明は、平成21年7月21日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?17に記載された事項により特定されるものと認められるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 分節されたベクターの組換え系を用いてマイナス鎖の天然には非分節型であるウイルスのためのマイナス鎖RNAウイルスを産生するための方法であって、該方法は、宿主細胞を、以下: (a)2個以上の異なる組換えウイルスゲノムRNA分子をコードするヌクレオチド配列であって、該組換えウイルスゲノムRNA分子の各々は、マイナス鎖RNAウイルスのRNAポリメラーゼの結合部位、ならびにウイルス媒介性の複製および転写に必要なシグナルを含み、かつ該宿主細胞において該ウイルスの2個以上の異なるゲノムvRNAまたは対応するcRNAを発現し、該ウイルスアンチゲノムは、2つ以上の分節に分かれ、2つ以上のRNPが生成される、ヌクレオチド配列;ならびに (b)該ウイルスの核タンパク質およびRNA依存性ポリメラーゼを発現する、発現ベクターまたは発現ベクターのセット、 によってトランスフェクトする工程であって、(a)の該2つ以上のRNPが再構成され、感染性ウイルスを形成するように集合する、工程、ならびに 培養物から該ウイルスを回収する工程、 を包含する、方法。」 2.引用例 本願の優先日前に頒布された刊行物である国際公開第99/66045号(以下、「引用例」という。)には、次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付加した。 (ア)(特許請求の範囲) 「1.鳥類パラミクソウイルス(Paramyxovirus)の感染性コピー生成を可能とする鳥類パラミクソウイルス・ゲノムの5’-末端に相当する核酸配列を少なくとも含んでなる鳥類パラミクソウイルスcDNA。 2.(省略) 3.複製鳥類パラミクソウイルス・ミニゲノム生成を可能とする鳥類パラミクソウイルス・ゲノムの5’-末端に相当する核酸配列を少なくとも含んでなることを特徴とするcDNA。 4.ニューカッスル病ウイルスから少なくとも一部由来することを特徴とする請求項1、2または3記載のcDNA。 5.?17.(省略) 18.請求項1ないし16のいずれかに記載のcDNAを少なくとも1つの細胞にトランスフェクションすることを含む感染性コピー・鳥類パラミクソウイルスの生成方法。 19.前記細胞がウイルス・ヌクレオカプシド(NP)、ホスホ-(P)または大型ポリメラーゼ(L)タンパク質を少なくとも発現し得るものであることを特徴とする請求項18記載の方法。 20.?31.(省略)」 (イ)(1ページ3?4行) 「ニューカッスル病ウイルス(NDV)は、死に到る、最も多様な鳥類伝染病原菌の一つである。」 (ウ)(3ページ11行?4ページ7行) 「NDV遺伝子は、陰性極性で、ウイルスタンパク質をコードするメッセンジャーRNAに相補的な一本鎖RNA分子である。RNAゲノムはおよそ15,200ヌクレオチドの大きさであり、以下の遺伝子産生物をコードしている(遺伝子RNAの3’末端から5’末端に向かって):ヌクレキャプシドタンパク質(NP)、リンタンパク質(P)、マトリクスタンパク質(M)、融合タンパク質(F)、ヘマグルチニンノイラミニダーゼ(HN)、そして大きなポリメラーゼタンパク質(L)(Chambers et al、1986年)。 このRNAは、NP、PおよびLタンパク質との複合体で、リボ核酸キャプシド粒子(RNP)を形成し、該RNPは、内部にMタンパク質が並んでいるエンベロープによって囲まれている。このエンベロープは、宿主の吸着と侵入に関係するFとHNタンパク質を含んでいる。 NDVの複製は、他のパラミクソウイルス属によって使用される方法と類似している。・・・(中略)・・・ ウイルスのRNA依存性RNAポリメラーゼ(RNPの一部である)は、mRNAとして働き、ウイルスタンパク質合成のための細胞の翻訳部分に使用される相補的な転写物を産生する。NPタンパク質の蓄積により、RNAポリメラーゼ複合体は、転写から複製にスウィッチングされ、結果として、完全長のゲノムおよび相補ゲノムRNA分子の合成がなされる。 新たに形成されたRNPは、細胞原形質膜に蓄積されているF、HNタンパク質、およびMタンパク質の働きによって細胞膜において包膜される。新たに形成されたウイルス粒子は、出芽メカニズムによって、感染した細胞から放出される。」 (エ)(16ページ13?20行) 「完全長cDNAを用いる代りとして、複製応答能のあるサブゲノムRNAを産生させ、かつ、鳥類パラミクソウイルスタンパク質の発現を完全に補完しあう2つ以上のサブゲノムRNAを使用することが可能である。たとえRNAが別々にパッケージされることがあっても、得られるウイルス様粒子は同時感染と遺伝子機能の補完性により連続的複製のために使用することができる。」 (オ)(49ページ10行?51ページ21行) 「ヘルパーウイルスによるNDVミニゲノムの複製 NDVの3’および5’末端が複製および転写に機能しているかどうかを決定するために、NDVの3’末端(nt 1?119)、分泌アルカリホスファターゼ(SEAP)をコードしているレポーター遺伝子およびNDVの5’末端(nt 14973?15186)からなったミニゲノムを構築した(図2)。 これらのミニゲノムを、転写ベクターpOLTV5中で両方向にクローニングして、それぞれ、プラスミドpOLTV535およびpOLTV553を産生した(構築の詳細は「材料および方法」参照)。・・・(中略)・・・われわれは、サイズで1ntだけ大きくした短い自己相補オリゴヌクレオチドの1系列を、ミニゲノムプラスミドpOLTV535およびpOLTV553の特異的ClaI部位に挿入した(図2)。得られたプラスミド(pOLTV535N0?N5およびpOLTV553N0?N5)は、サイズが1?6ntだけ異なっており、・・・(中略)・・・これらのプラスミドを用いて、上に記載したように、CER細胞またはFPV-T7感染CER-C9細胞をトランスフェクションした。その結果、プラスミドpOLTV535N3およびpOLTV553N3だけがNDV感染後のSEAP活性の上昇を引き起こした。・・・(中略)・・・プラスミドpOLTV735N3およびpOLTV753N3によって生成したミニゲノムRNAだけがヘルパーウイルスによって複製されることを示した(実験結果は示さず)。」(当審注:下から2行目の「pOLTV735N3およびpOLTV753N3」は「pOLTV535N3およびpOLTV553N3」の誤記であると認められる。) (カ)(51ページ31行?52ページ24行) 「ヘルパーウイルスによるNDVミニゲノムのパッケージング ミニゲノムRNAがNDVヘルパーウイルスでパッケージされるか否かを決定するために、トランスフェクションした細胞の培地を新しい単層に移し、1時間の吸着の後、その単層をPBSで3回洗浄し、さらに完全培地でインキュベートした。・・・(中略)・・・この発見は、ミニゲノムRNAが、NDVエンベロープにパッケージされ得ることおよびこれらの粒子が細胞を感染させ得ることを示している。さらに、これらの結果が示していることは、パッケージングが複製に依存していることであり、このことは、ウイルス性NP、PおよびLタンパク質と複合体を形成するRNA分子だけがウイルス様粒子にパッケージされることを示している。 NP、PおよびLタンパク質を発現するプラスミドによるNDVミニゲノムの複製 ミニゲノムRNAも基本的なNP、PおよびLタンパク質をコードしているプラスミドによって複製されるかどうかを決定するために、われわれは、FPV-T7に感染した細胞でコトランスフェクション実験を行った。ミニゲノムプラスミドならびに、それぞれ、プラスミドpCIneoNP、-Pおよび-L(c)からなるプラスミドの組み合わせで細胞をトランスフェクションした。ネガティブコントロールとして、pCIneoL(c)(基本的Lタンパク質をコードしている)を、ベクタープラスミドpCIneoで置換した。その結果(表5)、NP、PおよびLタンパク質をコードしているプラスミドは事実、ミニゲノムRNAを複製し得ることが判明した。」 (キ)(53ページ18行?55ページ18行) 「転写プラスミドpOLTV5中の完全長NDV cDNAクローンの構築 NDV株LaSotaの完全長cDNAクローンを構築するために、図4に示されている戦略に従って、全NDVゲノムに亘る重複cDNAクローンを共有制限部位で結合した。転写プラスミドpOLTV5から導出されるミニゲノムプラスミドpOLTV535(上記参照)の中に全NDV cDNAを組み立てた。 ・・・(中略)・・・転写プラスミドpOLTV5のSmaI部位とStuI部位との間にクローニングした完全長NDV cDNAからなる、得られたプラスミドをpNDFL+と称した。 完全長cDNAからの感染性NDVの産生 クローニングしたcDNAだけから感染性NDVを産生するために、ミニゲノムプラスミドについて上に記載したように、pCIneoNP、-Pおよび-L(c)を用いるコトランスフェクション実験において、プラスミドpNDFL+を使用した。・・・(中略)・・・ 感染性ウイルスを回収するために、トランスフェクションしたCEF単層の上清を有胚鶏卵の尿膜腔に注入した。4日後、尿膜腔液を採取し、血球凝集反応検定法で分析し、さらに卵中で経代培養した。その結果、pNDFL(+)、pCIneoNP、-Pおよび-L(c)の複合体でトランスフェクションした細胞の上清だけが、血球凝集検定法で陽性の反応を示した。血球凝集反応陽性を示した尿膜腔液は、続いて、異なるNDV株間を区別するのに使用することのできるモノクローナル抗体7B7、8C11、5A1、7D4および4D6(Longら、1986)を用いて、血球凝集抑制検定法で分析した。この検定法の結果では、接種した卵から回収したNDV株は、元のLaSota株と同じ活性を示した。接種した鶏卵から回収したウイルスは、元のLaSota株からのものと区別するためにNDFLと称した。」 3.対比 上記の摘記事項(ア)?(ウ)、(オ)?(キ)の記載から、引用例には「ニューカッスル病ウイルスの感染性コピー生成を可能とするニューカッスル病ウイルス・ゲノムの5’末端及び3’末端の核酸配列を含んでなるニューカッスル病ウイルスcDNAを、ウイルス・ヌクレオカプシド(NP)、ホスホ-(P)及び大型ポリメラーゼ(L)タンパク質をコードするプラスミドの組み合わせでトランスフェクションした細胞にトランスフェクションし、その上清を注入した有胚鶏卵中で培養したウイルスを回収することを含む、感染性ニューカッスル病ウイルスの生成方法。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 本願発明と引用発明を対比すると、ニューカッスル病ウイルス(NDV)遺伝子は、陰性極性で、ウイルスタンパク質をコードするメッセンジャーRNAに相補的な一本鎖RNA分子である(摘記事項(ウ))から、引用発明の「ニューカッスル病ウイルス」は本願発明の「マイナス鎖の天然には非分節型であるウイルス」及び「マイナス鎖RNAウイルス」に相当する。 また、NDVの3’および5’末端が含まれれば、他のシグナルを必要とせずにNDVミニゲノムが複製できること(摘記事項(オ))から、複製および転写の機能を有するRNA依存性RNAポリメラーゼの結合部位も、3’あるいは5’末端内に位置することは明らかである。したがって、引用発明の「ニューカッスル病ウイルスの感染性コピー生成を可能とするニューカッスル病ウイルス・ゲノムの5’末端及び3’末端の核酸配列を含んでなるニューカッスル病ウイルスcDNA」は、本願発明の「ウイルスゲノムRNA分子をコードするヌクレオチド配列であって、該組換えウイルスゲノムRNA分子」は「マイナス鎖RNAウイルスのRNAポリメラーゼの結合部位、ならびにウイルス媒介性の複製および転写に必要なシグナルを含み」に相当する。 また、宿主細胞内で転写、複製されたNDVゲノムRNAは、NP、PおよびLタンパク質とRNPを形成するものであるから(摘記事項(ウ)、(カ)、(キ))、引用発明の「ニューカッスル病ウイルスの感染性コピー生成を可能とするニューカッスル病ウイルス・ゲノムの5’末端及び3’末端の核酸配列を含んでなるニューカッスル病ウイルスcDNA」は、本願発明の「該宿主細胞において該ウイルスの」「ゲノムvRNAまたは対応するcRNAを発現し、該ウイルスアンチゲノムは」「RNPが生成される、ヌクレオチド配列」にも相当する。 さらに、本願明細書の段落【0038】には、「NP=核タンパク質(RNAと結合し、ポリメラーゼ活性に必須である)」と定義され、また段落【0061】には「RNAポリメラーゼタンパク質(LおよびP)」との記載があるから、引用発明の「ウイルス・ヌクレオカプシド(NP)、ホスホ-(P)及び大型ポリメラーゼ(L)タンパク質をコードするプラスミドの組み合わせ」は、本願発明の「(b)該ウイルスの核タンパク質およびRNA依存性ポリメラーゼを発現する、発現ベクターまたは発現ベクターのセット」に相当する。 加えて、上記のとおり、ニューカッスル病ウイルスの感染性コピー生成において、ウイルス性NP、PおよびLタンパク質とゲノムRNA分子が複合体(RNP)を形成してウイルス様粒子にパッケージされる(摘記事項(ウ)、(カ)、(キ))から、引用発明の「感染性コピー生成」は、本願発明の「RNPが再構成され、感染性ウイルスを形成するように集合する、工程」に相当する。 また、引用発明の「有胚鶏卵中で培養したウイルスを回収する」は本願発明の「培養物から該ウイルスを回収する工程」に相当する。 以上のことから、本願発明と引用発明は以下の一致点と、一応の相違点を有する。 [一致点] 両者が「マイナス鎖の天然には非分節型であるウイルスのためのマイナス鎖RNAウイルスを産生するための方法であって、該方法は、宿主細胞を、以下: (a)組換えウイルスゲノムRNA分子をコードするヌクレオチド配列であって、該組換えウイルスゲノムRNA分子は、マイナス鎖RNAウイルスのRNAポリメラーゼの結合部位、ならびにウイルス媒介性の複製および転写に必要なシグナルを含み、かつ該宿主細胞において該ウイルスのゲノムvRNAまたは対応するcRNAを発現し、該ウイルスアンチゲノムは、RNPが生成される、ヌクレオチド配列;ならびに (b)該ウイルスの核タンパク質およびRNA依存性ポリメラーゼを発現する、発現ベクターまたは発現ベクターのセット、 によってトランスフェクトする工程であって、(a)の該RNPが再構成され、感染性ウイルスを形成するように集合する、工程、ならびに 培養物から該ウイルスを回収する工程、 を包含する、方法。」 である点。 [一応の相違点] (i)組換えウイルスゲノムRNA分子をコードするヌクレオチド配列が、本願発明では「2個以上の異なる」ものであるのに対して、引用発明にはこのような特定がなされていない点。 (ii)該組換えウイルスゲノムRNA分子の各々は、マイナス鎖RNAウイルスのRNAポリメラーゼの結合部位、ならびにウイルス媒介性の複製および転写に必要なシグナルを含むとされているのに対して、引用発明にはこのような特定がなされていない点。 4.判断 (1)一応の相違点(i)について 摘記事項(エ)には、NDVのゲノムRNAをコードする完全長cDNAを用いる(摘記事項(キ))代りとして、複製応答能のある、タンパク質の発現を完全に補完しあう2つ以上のサブゲノムRNAを産生させることが記載されている。 したがって、引用例には、「ニューカッスル病ウイルスcDNA」の態様として、「完全長cDNA」を用いる態様の他に、NDVのタンパク質の発現を完全に補完しあう2つ以上のサブゲノムRNAをコードするcDNAを用いる態様も記載されているといえ、その場合の各サブゲノムRNAは、いずれも異なるものであることは明らかである。 (2)一応の相違点(ii)について NDVの3’および5’末端が含まれれば、他のシグナルを必要とせずにNDVミニゲノムが複製できること(摘記事項(オ))から、複製及び転写を意図する上記のサブゲノムRNAの各々にNDVの3’および5’末端を付加して用いることは当業者にとって当然のことであり、引用例1に記載されているに等しい事項である。 以上のことから、上記一応の相違点(i)及び(ii)は、いずれも引用例に記載され、あるいは記載されているに等しい事項であり、実質的な相違点とはいえない。 したがって、本願発明は、本願の優先日前に頒布された刊行物である引用例に記載された発明である。 5.請求人の主張について 請求人は、平成21年7月21日付け意見書において以下の(1)を、また審判請求書の請求の理由を補正する平成22年3月31日付け手続補正書において、以下の(2)及び(3)を主張している。 (1)引用文献1(上記の引用例、以下、「引用例」と表記する。)は、ニューキャッスル病ウイルス(NDV)の全長cDNAを開示するものであり、16ページには、2つ以上のサブゲノムcDNAを用いる可能性があるとは記載されているが、その証拠はなく単なる憶測に過ぎない。 引用例では、RNAが別々にパッケージングされることが記載されているが、同時に感染および遺伝子の機能を補完することが必要であり、引用例の方法では、同時に感染および遺伝子の機能を補完が必要となる。したがって、補正後の本願発明の「感染性ウイルスを形成する」との特徴とは異なるものである。 (なお、感染性のウイルスの形成については本願明細書に記載されるものであり、客観証拠である甲第1号証には、以下が記載されている。 「本研究者らは、分節型ゲノムを有するウイルスに感染した同じ細胞において両方のレポーター遺伝子を検出することができた。」) (2)原査定では、引用例には、「ニューキャッスル病ウイルス(NDV)の全長cDNAを開示するものであり」、「2つ以上のサブゲノムcDNAを用いる」点は、明示的に開示がない点については、否定されていないので、事実上認定している。 (3)本願発明は、上記のように、2つ以上の異なるウイルスゲノムRNA分子をコードする2つ以上のセグメント化されたベクターの組み換えシステムを用いて天然にはセグメント化されていないウイルスの新規生産方法を提供するものであり、本願明細書は、その具体的な方法を提供し、その有用性を提供し、ウイルスの改変ないし減少したビルレンスおよび減毒が、定性的ないし顕著に定量的に異なることを実証しており、例えば、0023段落、0037段落、0070段落および0097段落に記載がある。 また、客観証拠として、平成21年7月21日付けで甲第1号証を提出した。 上記の主張について検討する。 (上記(1)について) 引用例の摘記事項(エ)には、「鳥類パラミクソウイルスタンパク質の発現を完全に補完しあう2つ以上のサブゲノムRNAを使用することが可能である。」と記載されており、文言上、単に可能性を論じたものとはいえない。 また、引用例には、NDVの3’および5’末端が含まれれば、他のシグナルを必要とせずにNDVミニゲノムが複製でき、パッケージングが複製に依存していること(摘記事項(オ)、(カ)、さらに完全長cDNAから感染性NDVを産生できたことが記載されている(摘記事項(キ))。これらのことからすれば、完全長cDNAよりも短いcDNAを用いて作成したNDVサブゲノムも複製でき、かつパッケージングされるであろうことは当業者が十分、理解できることである。 さらに、摘記事項(エ)における「RNAが別々にパッケージされることがあっても」との記載は、RNAが同一のウイルス粒子にパッケージされる場合を前提とした記載であることは文言上明らかであり、しかもそれを明確に否定するような周知技術は見あたらないのであるから、摘記事項(エ)の記載に触れた当業者は、異なる種類のRNAが同一のウイルス粒子にパッケージされる場合があると理解するのが自然である。 なお、上記主張のうち「本願発明の「感染性ウイルスを形成する」との特徴とは異なる」とする点を、本願発明の方法が、感染性ウイルスのみを産生するための方法である、あるいは単離された感染性ウイルスを産生するための方法である、ということを前提としていると考えることもできる。 しかしながら、仮にそのように考えたとしても、本願明細書及び請求人の甲第1号証のいずれにも、本願発明の方法によって、NDV由来の異なるRNAが一緒にパッケージされたウイルス粒子のみが産生されること、あるいは、このような粒子を単離する方法については何ら記載されていない。 むしろ、以下に述べるとおり、甲第1号証には、本願発明と同様にして産生されるウイルスが、RNAが1種又は2種含まれるウイルス粒子の混合物であることが記載されているから、上記主張は実質的な根拠に乏しいものである。 すなわち、甲第1号証(Journal of Virology,Mar.2008,Vol.82,No.6,p.2692-2698)は、本願の国際出願日から5年以上も後に刊行された論文であるが、そのp.2697左欄第7?25行には、 「2セグメントウイルスが弱毒化されているもう一つの理由は、本研究で示されたとおり、ウイルス粒子がゲノムセグメントのうち1又は2種類を含みうるものであるからであるとも考えられる。1種類のセグメントしか有さない粒子は単独で子孫ウイルスを生成することができず、したがって欠陥を有する。感染性を示すためには、異なるセグメントを含む少なくとも2つの粒子が同じ細胞に共感染している必要がある。加えて、ウイルス粒子は2つ又はそれ以上のRNAセグメントを有するかもしれない。これらの粒子は同じセグメントあるいは異なるセグメントを含みうるものであり、異なるセグメントを含んだものだけが複製能を有している。本研究では2セグメントrNDV/F3aa/2segウイルスに含まれるRNAセグメントの比率が10:1であり、短いセグメントの方が効率よく複製することを決定した。もしウイルスRNAのパッケージングがランダムなプロセスであり、サイズによる制約を無視するならば、2つのRNAセグメントを有する粒子の82.6%はセグメント1を2コピー有し、0.8%はセグメント2を2コピー有し、残りの16.6%だけが各セグメントを一つずつ有することになる。」 と記載されている。 つまり、産生されたウイルス粒子は、種々のRNA(ゲノムセグメント)を含む混合物であり、しかも目的とする2種類のRNAが含まれるウイルス粒子が、2つのRNAセグメントを有する粒子のわずか16.6%にすぎないと記載されている。 これらのことから、上記主張は採用できない。 (上記(2)について) 拒絶査定には、引用例に「2つ以上のサブゲノムcDNAを用いる」点は、明示的に開示がないことを認めた記載はないので、上記主張は拒絶査定の内容を正解しないものであり、失当である。 (上記(3)について) 4.で述べたとおり、本願発明は本願の優先日前に頒布された刊行物である引用例に記載された発明であるから、特許法第29条第2項の適用における本願発明の効果を検討するまでもなく、同条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。 また、甲第1号証の記載はむしろ、本願発明と引用発明の同一性を明らかにするものであることも、「上記(1)について」で述べたとおりである。 したがって、この主張も採用できない。 6.むすび 以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。 したがって、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-12-20 |
結審通知日 | 2012-12-21 |
審決日 | 2013-01-07 |
出願番号 | 特願2003-571413(P2003-571413) |
審決分類 |
P
1
8・
113-
Z
(C12N)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 鈴木 崇之 |
特許庁審判長 |
鈴木 恵理子 |
特許庁審判官 |
新留 豊 冨永 みどり |
発明の名称 | 組換えマイナス鎖ウイルスRNA発現系およびワクチン |
代理人 | 森下 夏樹 |
代理人 | 山本 秀策 |
代理人 | 安村 高明 |