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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A47G
管理番号 1274544
審判番号 不服2013-2124  
総通号数 163 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-07-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-02-04 
確定日 2013-05-23 
事件の表示 特願2007-159022号「カーペットタイル」拒絶査定不服審判事件〔平成20年12月25日出願公開、特開2008-307276号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成19年6月15日の出願であって、平成24年8月7日付けで拒絶理由が通知され、これに対して平成24年10月11日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正がなされ、同年10月31日付けで拒絶査定がなされたところ、平成25年2月4日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

II.本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成24年10月11日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された、以下のとおりのものである。
「S撚り部分、交絡部分、Z撚り部分、交絡部分の繰り返しで構成されているエアーツイスト糸を用いて基布にタフティングすることにより得られた繊維材料を用いたことを特徴とするカーペットタイル。」

III.引用文献の記載事項
1.原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平4-327243号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

引1ア:「また、本発明に用いるパイル糸は、糸の長さ方向に沿ってS撚部分とZ撚部分とが無撚部分を介して交互に配列した間歇交互撚構造を成しており、上記記載におけるS撚、Z撚とは、パイル糸の長さ方向の一部分における撚方向、所謂上撚方向をいい、無撚部分とは上撚りのない部分をいう。したがって、各構成糸の撚を規定するものではなく、各構成糸は上撚と同一方向、逆方向あるいは無撚または交絡などの構造を採ることができる。本発明では、パイル糸の撚構造の安定性面から、特にパイル糸の撚方向と構成糸の撚方向とは互いに逆方向であることを主に論ずる。」(【0011】)

引1イ:「また、前記無撚部分は集束、非集束のいずれでもよいが、無撚部分の両端に存するS撚とZ撚との相殺を阻止し、撚構造をより安定なものとするために集束している方が望ましく、該集束を付与する方法としては、熱融着、接着剤、流体による交絡等の方法があるが、パイル糸の性能あるいは生産性を考慮すると、流体による交絡が好適であり、用いる流体としては、作業性、操作性の面から空気が最適である。」(【0014】)

引1ウ:「図2は、本発明に用いるパイル糸の製造工程の一例を示す工程図である。図2において、パッケージ7より解舒された単糸Yは1stローラ9と2ndローラ14との間で流体噴射仮撚付与装置12による撚の付与と、合流ガイド13による加撚されたそれぞれの単糸の引揃えを行った後、流体噴射交絡付与装置15によって交絡を付与し、3rdローラ16に係合し、間歇交互撚糸Y′として巻取装置17に巻きとられる。1stローラ9と流体噴射仮撚付与装置12との間、いわゆる加撚域には加撚張力の安定化および糸道の規制のために張力調整装置10、糸道規制装置11を設けた方が好ましい。」(【0017】)

引1エ:「図3は、流体噴射仮撚付与装置12でS撚部分とZ撚部分を間歇的に交互に形成させるべく作動させ、図4は、該S撚部分とZ撚部分との間を流体噴射交絡付与装置15にて間歇的に交絡させるべく作動させた制御パターンの例であり、各々の作動時間の組合せあるいは作動時間をランダムコントロールすることにより、パイル糸用各種間歇交互撚糸を形成することができる。
本発明のパイル布帛は、上述の如くして得られる間歇交互撚構造を有する糸をパイル糸として用い、これを通常のタフティングマシンによりタフティングすることにより得られる。」(【0020】?【0021】)

引1オ:「【実施例】以下、本発明をさらに実施例により説明する。
実施例1
1050デニール54フィラメントのナイロン6の酸性染料可染糸およびカチオン染料可染嵩高糸をそれぞれ1本用意し、図2に示すプロセスによってパイル糸用間歇交互撚糸を製造した。
この図2の装置で、1stローラ9、2ndローラ14、3rdローラ16の表面速度を、それぞれ360m/分、350m/分、345m/分に設定し、流体噴射仮撚付与装置12の圧空圧力を5kg/cm^(2)Gで両者同方向に施撚するものとし、圧空の供給は走行糸長にして1.5m乃至2.0mの両者同位相のランダム間隔の間歇供給とし、流体噴射交絡付与装置15の圧空圧力を4kg/cm^(2)Gで圧空をS撚部とZ撚部の境界部に間歇噴射し、加工を行った。
製造された糸条は、図1に示すように、S撚部分とZ撚部分とが交絡した無撚部分を介してほぼ設定した長さで配列し、極めて変化に富んだ糸形態を成した間歇交互撚糸であった。次に、該間歇交互撚糸を捲縮発現工程に投入し、加圧スチーム処理によって糸の捲縮を発現せしめ、嵩高糸とした後、紙管に巻き取った。
なお、これらの間歇交互撚糸製造工程と捲縮発現工程とは、それぞれが単独あるいは連続した工程であってもよい。
次に、該嵩高糸をパイル糸とし、タフティングm/cにてパイルカーペットを製造した。このタフティング工程におけるパイル糸の工程通過性は、糸が交互撚および交絡によって集束しているため、通常の実撚糸および交絡糸と何ら遜色なく良好なものであった。」(【0022】?【0027】)

引1a:引1アの「本発明に用いるパイル糸は、糸の長さ方向に沿ってS撚部分とZ撚部分とが無撚部分を介して交互に配列した間歇交互撚構造を成しており」との記載、引1イの「前記無撚部分は集束、非集束のいずれでもよいが、無撚部分の両端に存するS撚とZ撚との相殺を阻止し、撚構造をより安定なものとするために集束している方が望ましく、該集束を付与する方法としては、・・・パイル糸の性能あるいは生産性を考慮すると、流体による交絡が好適であり、用いる流体としては、作業性、操作性の面から空気が最適である。」との記載及び引1ウの「流体噴射交絡付与装置15によって交絡を付与し」との記載からして、引用文献1には、糸の長さ方向に沿ってS撚部分とZ撚部分とが、空気により交絡が付与された無撚部分を介して交互に配列した間歇交互撚構造を成したパイル糸が記載されているといえる。

引1b:引1エの「本発明のパイル布帛は、上述の如くして得られる間歇交互撚構造を有する糸をパイル糸として用い、これを通常のタフティングマシンによりタフティングすることにより得られる。」との記載及び引1オの「該間歇交互撚糸を・・・嵩高糸とした後、・・・該嵩高糸をパイル糸とし、タフティングm/cにてパイルカーペットを製造した。」との記載からして、引用文献1には、引1aの「パイル糸」を用いてタフティングすることにより得られたパイル布帛を用いたカーペットが記載されているといえる。

これら記載事項及び図示内容を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。
「糸の長さ方向に沿ってS撚部分とZ撚部分とが、空気により交絡が付与された無撚部分を介して交互に配列した間歇交互撚構造を成したパイル糸を用いてタフティングすることにより得られたパイル布帛を用いたカーペット。」

2.原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平9-31784号公報(以下、「引用文献2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

引2ア:「本発明の交互撚複合糸は、少なくとも2本の構成糸が複合糸の長さ方向に沿って撚密度の低い糸部分と撚密度の高い糸部分とが無撚部分を介して交互撚をなして配列してなるものである。」(【0017】)

引2イ「また、本発明の複合糸は、交互撚構造を安定させる観点から、糸の長さ方向に沿って、交互撚の平均周期よりも短い平均周期で構成糸相互が交絡するのが好ましい。このような交絡形態を有することによって複合糸の交互撚構造は安定したものとなり、さらに、前記無撚部分が構成糸相互からなる交絡を有することによってS撚とZ撚の相殺を阻止せしめ、構成糸および複合糸の交互撚構造が固定されるため、より安定したものとなる。このように本発明の複合糸は、S撚部分およびZ撚部分、さらには構成糸相互からなる交絡を有する無撚部分を有し、極めて形態変化に富んだ構造の糸である。また、前記S撚部分、Z撚部分およびS撚部分とZ撚部分との間に存在する無撚部分の各々の長さは目的に応じ、種々設定できるものであり制御された変化を付与することができる。」(【0020】)

引2ウ:「また、2本の構成糸を集束する方法としては、流体交絡、熱融着、樹脂による固着等を用いることができる。交互撚糸の特性、生産性、作業性および制御性の観点から流体噴射によって交絡を付与する流体交絡の方法が有効である。」(【0027】)

引2エ:「図4および図5は本発明の流体仮撚装置および流体交絡装置の制御パターンの一例を示す模式図で、図4は流体仮撚装置をS撚部とZ撚部とを交互に形成させるべく作動させ、流体交絡装置を間欠的に作動させた例であり、図5は流体仮撚装置でS撚部とZ撚部を間欠的に交互に形成させるべく作動させ、該S撚部やZ撚部の長さよりも短い長さで流体交絡装置を間欠的に作動させた制御パターン例であり、これらを適宜組み合わせることによって各種の撚密度差のある交互撚複合糸を形成することができる。」(【0034】)

引2オ:「本発明の交互撚複合糸は、布帛を構成する糸として好適であり、該糸を布帛の少なくとも一部に用いることにより、糸の特長を布帛に付与することができる。本発明の布帛には特別な限定はないが、織物、編物、タフテッドカーペット等が好適である。織物としてはシャツ、ブラウスなどの衣料用途、カーテン・カバン地などの資材用途が、編物としては天竺編みによるシャツ、ブラウス、鹿の子編みによるスポーツシャツあるいはラッセル機によるレース、ケースメント等が、タフテッドカーペットとしてはタイルカーペット、ロールカーペット、ピースカーペット、自動車用のオプションマットあるいはレンタル用の玄関マット等に用いることができる。」(【0035】)

引2カ:「この図2の装置でローラ3、ローラ8の表面速度をそれぞれ150m/分、147m/分に設定し、流体仮撚装置6の圧空圧力を1.8kg/cm^(2)Gで両者同方向に施撚するものとし、圧空の供給は走行糸長にして撚密度の低い糸部分(上撚方向がS方向)が25?50cm、撚密度の高い糸部分(上撚方向がZ方向)が10?20cmの両者同位相のランダム間隔・間欠供給とし、流体交絡装置9の圧空圧力を5.0kg/cm^(2)Gで交互撚の境界部分を交絡させるべく圧空を間欠的に供給して加工を行った。
製造された糸は、図1に示すようにS撚部分とZ撚部分とが交絡した無撚部分を介して交互に配列し、さらに撚密度の低い糸部分(上撚方向がS方向)の撚密度と撚密度の高い糸部分(上撚方向がZ方向)の撚密度の比は1:2の撚構造をなしており嵩高性の異なる変化に富んだ糸形態の撚密度差のある交互撚複合糸であった。
そしてこの糸をループパイルカーペット(タフト規格:1/10ゲージ、ステッチ10.0コ/インチ、パイル高さ4.0mm)となし、酸性およびカチオン染料を用い常法により反染め、仕上げ加工を行った。」(【0040】?【0042】)

引2a:引2アの「本発明の交互撚複合糸は、少なくとも2本の構成糸が複合糸の長さ方向に沿って撚密度の低い糸部分と撚密度の高い糸部分とが無撚部分を介して交互撚をなして配列してなるものである。」との記載、引2イの「前記無撚部分が構成糸相互からなる交絡を有することによってS撚とZ撚の相殺を阻止せしめ、構成糸および複合糸の交互撚構造が固定されるため、より安定したものとなる。このように本発明の複合糸は、S撚部分およびZ撚部分、さらには構成糸相互からなる交絡を有する無撚部分を有し、極めて形態変化に富んだ構造の糸である。」との記載からして、引用文献2には、糸の長さ方向に沿ってS撚部分とZ撚部分とが交絡を有する無撚部分を介して交互撚をなして配列した交互撚複合糸が記載されているといえる。

引2b:引2ウの「2本の構成糸を集束する方法としては、流体交絡・・・を用いることができる。交互撚糸の特性、生産性、作業性および制御性の観点から流体噴射によって交絡を付与する流体交絡の方法が有効である。」との記載及び引2カの「流体交絡装置9の圧空圧力を5.0kg/cm^(2)Gで交互撚の境界部分を交絡させるべく圧空を間欠的に供給して加工を行った。」との記載からして、引用文献2には、引2aの「交絡を有する無撚部分」を、空気により交絡が付与された無撚部分とすることが記載されているといえる。

引2c:引2オの「本発明の交互撚複合糸は、布帛を構成する糸として好適であり、該糸を布帛の少なくとも一部に用いることにより、糸の特長を布帛に付与することができる。本発明の布帛には特別な限定はないが、織物、編物、タフテッドカーペット等が好適である。」との記載及び引2カの「製造された糸は、・・・S撚部分とZ撚部分とが交絡した無撚部分を介して交互に配列し・・・交互撚複合糸であった。そしてこの糸をループパイルカーペット(タフト規格:1/10ゲージ、ステッチ10.0コ/インチ、パイル高さ4.0mm)となし」との記載からして、引用文献2には、引2aの「交互撚複合糸」を用いてタフティングすることにより得られた布帛を用いたカーペットが記載されているといえる。

これら記載事項及び図示内容を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されている。
「糸の長さ方向に沿ってS撚部分とZ撚部分とが、空気により交絡が付与された無撚部分を介して交互撚をなして配列した交互撚複合糸を用いてタフティングすることにより得られた布帛を用いたカーペット。」

IV.引用発明1に基づく容易想到性の検討
1.対比
本願発明と引用発明1とを対比する。
引用発明1の「S撚部」、「Z撚部」、「空気により交絡が付与された無撚部分」は、本願発明の「S撚り部分」、「Z撚り部分」、「交絡部分」にそれぞれ相当するから、引用発明1の「糸の長さ方向に沿ってS撚部分とZ撚部分とが、空気により交絡が付与された無撚部分を介して交互に配列した間歇交互撚構造を成した」は、本願発明の「S撚り部分、交絡部分、Z撚り部分、交絡部分の繰り返しで構成されている」に相当する。

本願発明の「エアーツイスト糸」について、本願明細書に「エアーツイスト糸の概念図を図1に示す。撚糸機のスピンドルで糸に撚りをかけていき、S撚り部分を形成した後一瞬の間スピンドルを停止させ、その瞬間に糸にノズルからエアーを噴射し、その部分に交絡部分を形成する。尚このノズルからエアーを噴射して糸同士を交絡させる手法はインターミングルとして知られている。ついでこの交絡部分を境として逆方向の撚りをかけZ撚り部分を形成する。これを繰り返して出来るのがエアーツイスト糸である。」(【0008】)と記載されていることからして、本願発明の「エアーツイスト糸」は、S撚り部分とZ撚り部分との境界部に、エアーすなわち空気を噴射して形成した交絡部分を有する糸を意味すると解される。
そうすると、引用発明1の「糸の長さ方向に沿ってS撚部分とZ撚部分とが、空気により交絡が付与された無撚部分を介して交互に配列した間歇交互撚構造を成したパイル糸」は、本願発明の「S撚り部分、交絡部分、Z撚り部分、交絡部分の繰り返しで構成されているエアーツイスト糸」に相当する。

例えば、本願の出願前に頒布された刊行物である特開昭55-107566号公報に「カーペット・タフテイングはカーペット・タフテイング機械により糸を支持布へステッチする工程である。」(7頁2?4行)と記載され、同じく特開2003-119713号公報に「タフティングとは、ミシンの原理と同じく、先端に孔のあいたニードルにヤーンを送り込みながら、ニードルを基布に突き刺してループパイルを形成する方法」(【0004】)と記載されているように、タフティングは基布に対して行うものであることが技術常識からして明らかであるから、引用発明1の「パイル糸を用いてタフティングすること」は「パイル糸を用いて基布にタフティングすること」といえる。
そうすると、引用発明1の「パイル糸を用いてタフティングすることにより得られたパイル布帛」は本願発明の「エアーツイスト糸を用いて基布にタフティングすることにより得られた繊維材料」に相当する。

引用発明1の「カーペット」と本願発明の「カーペットタイル」とは「カーペット」である点で一致する。

以上によれば、本願発明と引用発明1とは次の点で一致する。
(一致点)
「S撚り部分、交絡部分、Z撚り部分、交絡部分の繰り返しで構成されているエアーツイスト糸を用いて基布にタフティングすることにより得られた繊維材料を用いたカーペット。」

そして、両発明は次の点で相違する。
(相違点1)
「S撚り部分、交絡部分、Z撚り部分、交絡部分の繰り返しで構成されているエアーツイスト糸を用いて基布にタフティングすることにより得られた繊維材料を用いたカーペット」が、
本願発明では「カーペットタイル」であるのに対して、
引用発明1では「カーペット」である点。

2.判断
相違点について検討する。

例えば、本願の出願前に頒布された刊行物である特開昭62-296057号公報に「第1図は本発明カーペットタイル断面図、第2図は本発明に使用するメツシュ材である61はカーペットパイル地であり、ナイロン等の合成繊維でも、羊毛等の天然繊維でもよく、タフティングされたループパイルでもカットパイルでもよい。パイル1は基布2にタフティングされ目止め層3で目止めされている。」(1頁右下欄14行?2頁左上欄1行)と記載され、同じく特開昭63-16994号公報に「タイルカーペットは、長尺のカーペット原反から所定の大きさ及び形状に切断して製品化されるものであるが、敷設状態において継目部分が目立たず、一枚物のカーペットと同様の仕上りが要求され、このため切断の仕上り寸法精度と周囲切断部の仕上り形状と構造が極めて重要になっている。一般にカーペットは、第1図の如く、基布1上にループ2やカットパイルを設けて形成したパイル層3の裏面に所定厚みの裏打層4を積層した断面構造を有している。」(1頁右下欄2?14行)と記載されているように、カーペットタイルは、本願の出願前に周知であったといえる。
当業者であれば該周知の事項を当然認識しているとともに、引用発明1の「カーペット」と上記周知の「カーペットタイル」とは「カーペット」である点で共通するから、引用発明1の「カーペット」に係る構成を上記周知の「カーペットタイル」に適用し本願発明の相違点1に係る発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得る程度の事項である。

そして、本願発明の効果は、引用発明1に係る上記構成を上記周知の「カーペットタイル」に適用したものから当然期待されるものであって、格別のものとはいえない。

なお、引用文献1の「前記無撚部分は集束、非集束のいずれでもよいが、無撚部分の両端に存するS撚とZ撚との相殺を阻止し、撚構造をより安定なものとするために集束している方が望ましく、該集束を付与する方法としては、・・・流体による交絡等の方法があるが、パイル糸の性能あるいは生産性を考慮すると、流体による交絡が好適であり、用いる流体としては、作業性、操作性の面から空気が最適である。」(引1イ)との記載からして、引用発明1の「無撚部分」を空気により交絡したものとすることは当業者が容易に想到し得る程度の事項であるともいえる。

3.まとめ
したがって、本願発明は、引用発明1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

V.引用発明2に基づく容易想到性の検討
1.対比
本願発明と引用発明2とを対比する。

引用発明2の「S撚部」、「Z撚部」、「空気により交絡が付与された無撚部分」は、本願発明の「S撚り部分」、「Z撚り部分」、「交絡部分」にそれぞれ相当するから、引用発明2の「糸の長さ方向に沿ってS撚部分とZ撚部分とが、空気により交絡を付与された無撚部分を介して交互撚をなして配列した」は、本願発明の「S撚り部分、交絡部分、Z撚り部分、交絡部分の繰り返しで構成されている」に相当する。

本願発明の「エアーツイスト糸」が、S撚り部分とZ撚り部分との境界部に、エアーすなわち空気を噴射して形成した交絡部分を有する糸を意味すると解されることは、前記「IV.引用発明1に基づく容易想到性の検討 2.判断」で説示したとおりであるから、引用発明2の「糸の長さ方向に沿ってS撚部分とZ撚部分とが、空気により交絡を付与された無撚部分を介して交互撚をなして配列した交互撚複合糸」は本願発明の「S撚り部分、交絡部分、Z撚り部分、交絡部分の繰り返しで構成されているエアーツイスト糸」に相当する。

タフティングが基布に対して行うものであることが技術常識からして明らかであることは、前記「IV.引用発明1に基づく容易想到性の検討 2.判断」で説示したとおりであるから、引用発明2の「交互撚複合糸を用いてタフティングすること」は「交互撚複合糸を用いて基布にタフティングすること」といえる。
そうすると、引用発明2の「交互撚複合糸を用いてタフティングすることにより得られた布帛」は本願発明の「エアーツイスト糸を用いて基布にタフティングすることにより得られた繊維材料」に相当する。

引用発明2の「カーペット」と本願発明の「カーペットタイル」とは「カーペット」である点で一致する。

以上によれば、本願発明と引用発明2とは次の点で一致する。
(一致点)
「S撚り部分、交絡部分、Z撚り部分、交絡部分の繰り返しで構成されているエアーツイスト糸を用いて基布にタフティングすることにより得られた繊維材料を用いたカーペット。」

そして、両発明は以下の点で相違する。
(相違点2)
「S撚り部分、交絡部分、Z撚り部分、交絡部分の繰り返しで構成されているエアーツイスト糸を用いて基布にタフティングすることにより得られた繊維材料を用いたカーペット」が、
本願発明では「カーペットタイル」であるのに対して、
引用発明2では「カーペット」である点。

2.判断
相違点について検討する。

引用文献2の「本発明の交互撚複合糸は、布帛を構成する糸として好適であり、該糸を布帛の少なくとも一部に用いることにより、糸の特長を布帛に付与することができる。本発明の布帛には特別な限定はないが、織物、編物、タフテッドカーペット等が好適である。・・・タフテッドカーペットとしてはタイルカーペット・・・等に用いることができる。」(引2オ)との記載が存在し、しかも引用発明2の「交互撚複合糸を用いてタフティングすることにより得られた布帛を用いたカーペット」は「タフテッドカーペット」といえるから、引用文献2には、引用発明2の「交互撚複合糸を用いてタフティングすることにより得られた布帛」をタイルカーペット、すなわち「カーペットタイル」に用いることが示唆されているといえる。
そうすると、本願発明の相違点2に係る発明特定事項は、上記示唆を含む引用文献2の記載に接した当業者であれば引用発明2に基いて容易に想到し得るものである。

そして、本願発明の効果は、引用発明2の「交互撚複合糸を用いてタフティングすることにより得られた布帛」を「カーペットタイル」に用いたものから当然期待されるものであって、格別のものとはいえない。

なお、引用文献2の「前記無撚部分が構成糸相互からなる交絡を有することによってS撚とZ撚の相殺を阻止せしめ、構成糸および複合糸の交互撚構造が固定されるため、より安定したものとなる。」(引2イ)との記載及び「2本の構成糸を集束する方法としては、流体交絡・・・を用いることができる。交互撚糸の特性、生産性、作業性および制御性の観点から流体噴射によって交絡を付与する流体交絡の方法が有効である。」(引2ウ)との記載及び「流体交絡装置9の圧空圧力を5.0kg/cm^(2)Gで交互撚の境界部分を交絡させるべく圧空を間欠的に供給して加工を行った。」(引2カ)との記載からして、引用発明2の「無撚部分」を空気により交絡したものとすることは当業者が容易に想到し得る程度の事項であるともいえる。

3.まとめ
したがって、本願発明は、引用発明2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

VI.請求人の主張について
請求人は、審判請求書において次のように主張する。
「本願発明は、キャスターの移動性がよく、目付け量が多くかつ低パイルのタフティングされたカーペットタイルの提供を課題としている。(段落0005)・・・この課題は、本発明者らが新たに見出したものであって、カーペットタイルの技術分野において新規なものである。そして、エアーツイスト糸を使用することにより前記課題を解決したのが本願発明である。
これに対し、引用文献1、2には、S撚部分、無撚部分、S撚部分からなるパイル布帛又は布帛に係る発明が記載されている。しかし、カーペットタイルに関する記載はない。しかも、引用文献1の発明の課題は・・・、引用文献2の発明の課題は・・・、何れも布帛の外観の改善を目指した技術にすぎず、「タフティングされたカーペットタイルにおけるキャスターの移動性の改善」という本願発明の課題とは無関係である。
故に、当然ながら引用文献1、2の何れにも、本願発明の課題について記載も示唆もされていない。」(〔本願発明が特許されるべき理由〕の項)
しかしながら、引用文献1,2に「S撚り部分、交絡部分、Z撚り部分、交絡部分の繰り返しで構成されているエアーツイスト糸を用いて基布にタフティングすることにより得られた繊維材料を用いたカーペット」が記載されていること、カーペットタイルが本願の出願前に周知であったこと、引用文献2に、引用発明2の「交互撚複合糸を用いてタフティングすることにより得られた布帛」を「カーペットタイル」に用いることが示唆されていることは、前記「IV.引用発明1に基づく容易想到性の検討」、「V.引用発明2に基づく容易想到性の検討」において説示したとおりであって、これらの事項は、引用文献1,2に本願発明の課題が記載されているか否かや本願発明の課題がカーペットタイルの技術分野において新規なものであるか否かに左右されるものではない。
そして、上記各事項を考慮すると、当業者であれば引用発明1,2に基いて本願発明を容易に想到し得たことは、前記「IV.引用発明1に基づく容易想到性の検討」、「V.引用発明2に基づく容易想到性の検討」において説示したとおりであるから、請求人の上記主張を採用することはできない。

VII.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明1又は引用発明2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願の請求項1に係る発明(本願発明)が特許を受けることができないものである以上、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-03-19 
結審通知日 2013-03-26 
審決日 2013-04-08 
出願番号 特願2007-159022(P2007-159022)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A47G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 永安 真  
特許庁審判長 横林 秀治郎
特許庁審判官 蓮井 雅之
高田 元樹
発明の名称 カーペットタイル  
代理人 岡本 利郎  

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