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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C21D
管理番号 1274599
審判番号 不服2010-28543  
総通号数 163 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-07-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-12-17 
確定日 2013-06-13 
事件の表示 特願2005-504086「高強度ばねの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年10月 7日国際公開、WO2004/085685〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成16年3月24日(優先権主張 平成15年3月26日)を国際出願日とする出願であって、平成22年2月10日付けで拒絶理由が通知され、同年4月7日付けで手続補正書が提出されたが、同年10月27日付けで拒絶査定がされたものである。
そして、本件審判は、この拒絶査定を不服として請求されたもので、平成22年12月17日付けで審判請求書と共に手続補正書が提出され、その後、平成23年10月12日付けで審尋が送付され、これに対し、同年11月21日付けで回答書が提出されている。

第2 本願発明

本願の請求項1?26に係る発明は、平成22年12月17日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?26に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。

「【請求項1】
加熱工程後の冷却の際に、ばねの表面温度が265?340℃となっており、ばねの内部が表面よりも高い温度となっている状態で、該ばねにショットピーニングを施し、その後ばねを急冷することを特徴とする高強度ばねの製造方法。」

第3 原査定の理由の概要

原審の拒絶査定の理由の概要は、本願発明は、その優先権の主張の基礎とされた先の出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物1?6に記載された発明に基いて、その優先権の主張の基礎とされた先の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。



刊行物1:国際公開第00/75381号
刊行物2:特開平11-241143号公報
刊行物3:特開平5-140643号公報
刊行物4:特開昭58-213825号公報
刊行物5:特公昭48-20969号公報(以下、「引用例1」という。
)
刊行物6:特開昭63-267164号公報(以下、「引用例2」という
。)

第4 刊行物とその主な記載事項

原審の拒絶査定に引用された引用例1、2には次の事項が記載されている。

(1)引用例1の主な記載事項

(1a)「1 焼入焼戻後のソルバイト組織のばね鋼に200?400℃の温間にてショットピーニング加工を施し、このショットピーニング加工によって転移した格子間隙にコットレル効果によって侵入型固溶体を引きよせるようにしたことを特徴とするばねにおけるショットピーニング方法。」(特許請求の範囲)

(1b)「以下、本発明方法を実施例について説明する。試験材としてSUPb(Si-Mn鋼)の13mm×70mm×600mmの板材を用い、これを従来の板ばねを製造する場合と同様に850℃で焼入した後、540℃で焼戻してソルバイト組織のものとした。この試験材を280℃まで空冷して0.7mmのカットワイヤにより0.015Aのアークハイトでショットピーニング加工を両面に施した。この試験材の板ばねは両振曲げ疲労試験を行ったところ図面のa線に示すように50kg/mm^(2)の荷重に対し約10^(7)回の繰返しにも折損せずに耐え、ショットピーニング加工を施さない黒皮のままのもの(図面のc線)は勿論、常温(15℃)でショットピーニング加工を施したもの(図面のb線)と比較しても10倍以上の疲れ強さを示した。」(第2欄第7行?第21行)

(1c)「本発明方法により性能とくに疲れ強さを向上させたばねが提供され得るとともに、本発明の温間におけるショットピーニング加工は焼戻温度と同等以下の温度であるので別に加熱することなく、焼戻したものが所定の温度になったときショットピーニング加工を施せばよいので、従来の常温で加工を施すものに比し殆んど変わらない手数とコストで簡単に提供できるものである。」(第2欄第31行?第3欄第2行)

(1d)「すなわち前述したようなショットピーニング加工を施すと、ばねを構成する鋼中のフェライトに存在する格子間固溶原子C,Nとショットピーニング加工によって生じた転位とが反応して格子間隙を埋めるが、常温加工に比し温間加工では転位が増大するので、材質がより強靱となり疲れ強さなどの性質が向上する。そして常温以上再結晶温度以下であれば一応の効果が期待できるが、温度ショットピーニングの最適効果を出す温度は加工速度によって異るので、この速度に応じて最適のコットレル効果を出す青熱脆性温度200?400℃にてショットピーニングを施すことが必要であり、200℃以下の温度では十分な効果が得られず、また400℃以上の温度になっても良好な結果が得られない。」(第1欄第29行?第2欄第6行)

(1e)「本発明は焼入焼戻をしたソルバイト組織のばね鋼に200?400℃の温間にてショットピーニング加工を施し、このショットピーニング加工によって転移した格子間隙にコットレル効果によって侵入型固溶体を引きよせるようにしたばねにおけるショットピーニング方法を提供し、常温でショットピーニング加工を施したものに比し、疲れ強さなどばねの性能を簡単な手段で更に向上させようとするものである。」(第1欄第19行?第28行)

(2)引用例2の主な記載事項

(2a)「繰返し荷重が作用する金属(製品)、例えば歯車あるいはばね等(以下、被処理品という。)の疲労破壊を防止する方法の一つとして、ショットピーニングによる表面処理方法がある。すなわち、ショット粒を高速度で放出させて被処理品に衝突させ、これによって被処理品表面の加工硬化および残留応力によって被処理品の疲労破壊強さを向上させるものである。」(第2頁左上欄第12行?第19行)

(2b)「つぎに、上記ショットピーニング処理後の被処理品(X)を20℃の水にて急冷してみた。そして、同様のショットピーニング処理後自然空冷したものとの残留応力を比較した結果、急冷した方が自然空冷に比べて残留応力が30?50%向上していることが確認された。」(第4頁左上欄第17行?右上欄第2行)

(2c)「上記各処理における疲労強度を表わした線図が、第5図である。同図中曲線(A)はショットピーニング処理を全くしないもの、曲線(B)はショットピーニング処理のみを行ったもの、曲線(C)はショットピーニング処理の後、水で急冷したもの、曲線(D)は上記水で急冷したものをさらに120℃に加熱、保持した後、空冷したものの疲労強度を示すものであり、順次疲労強度が向上させられているものである。」(第4頁右上欄第7行?第16行)

第5 当審の判断

(1)引用例1に記載された発明

引用例1の(1a)の記載によれば、引用例1には、「焼入焼戻後のソルバイト組織のばね鋼に200?400℃の温間にてショットピーニング加工を施し、このショットピーニング加工によって転移した格子間隙にコットレル効果によって侵入型固溶体を引きよせるようにしたことを特徴とするばねにおけるショットピーニング方法」が記載されている。
ここで、このショットピーニング方法の実施例について記載した(1b)によれば、具体的に、上記「焼入焼戻」とは、850℃で焼入540℃で焼戻であり、また、上記「200?400℃の温間」は、ばね鋼の温度が280℃となっている状態であり、そして、(1c)によれば、温間におけるショットピーニング加工は、焼戻と別に加熱することなく、焼戻後の冷却の際に施せばよいことが認められる。
ところで、このショットピーニング方法は、ばね鋼にショットピーニング加工を施すことによる、ばねの製造方法ということもできる。
以上の記載及び認定によれば、引用例1には、実施例として次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「850℃で焼入540℃で焼戻後の冷却の際に、ばね鋼の温度が280℃となっている状態で、該ばね鋼にショットピーニング加工を施すばねの製造方法。」

(2)本願発明と引用発明との対比

本願発明と引用発明とを対比する。
本願明細書の第3頁第2行?4行には、「ここで言う『加熱工程』には、熱処理(焼入れ・焼戻し)を施すばねにおいては、最終加熱(焼戻し)工程を言」うと記載されているから、引用発明の「540℃で焼戻」は、本願発明の「加熱工程」に相当し、引用発明の「280℃」は、本願発明の「265?340℃」を規定を満たすものである。
また、引用発明の「ショットピーニング加工」は、「ショットピーニング」に相当する。
そして、ショットピーニングにおいて、「加工層の深さは浅いので、ショットピーニング後に切削などの加工を行うことは無意味であり、また、腐食のためにこの層が失なわれてしまうと効果がなくなる。さらに加熱などを行うと、表面層の圧縮残留応力が消えピーニング効果が失なわれ、表面にショットが残した表面荒れの影響だけが残ることになって、かえって逆効果になってしまう。」(講座・現代の金属学 材料編4 鉄鋼材料、昭和63年12月10日、社団法人日本金属学会、第129頁参照)ことが技術常識であるから、引用発明の「ばね鋼」を、ショットピーニング後にばね形状に加工するとは考えられないので、ショットピーニングを施す時点で、「ばね鋼」は、「ばね」形状であると解するのが自然であるから、引用発明の「ばね鋼」は、本願発明の「ばね」に相当する。
したがって、両者は、「加熱工程後の冷却の際に、ばねの温度が265?340℃となっている状態で、該ばねにショットピーニングを施すばねの製造方法」である点で一致し、次の点で相違する。

相違点(イ);
本願発明では、ばねの温度が表面温度であるのに対して、引用発明では、表面温度であるか否か不明である点

相違点(ロ);
ショットピーニングを施すとき、本願発明では、ばねの内部が表面よりも高い温度となっている状態であるのに対して、引用発明では、ばねの内部が表面よりも高い温度となっているか否か不明である点

相違点(ハ);
本願発明は、ショットピーニング後ばねを急冷するものであるのに対して、引用発明は、急冷するものであるか不明である点

相違点(ニ);
本願発明では、ばねが高強度のものであるのに対し、引用発明では、高強度のものであるか不明である点

(3)相違点についての判断

相違点(イ)について
引用例1には、ショットピーニングを施す温度を200?400℃(実施例では280℃)と定めた理由について、(1d)に、ショットピーニング加工の加工速度に応じて、最適のコットレル効果を出す青熱脆性温度である200?400℃でショットピーニングを施す必要があるためである旨記載されており、この記載によれば、ショットピーニング加工部を青熱脆性温度に加熱するためであることが認められる。
そして、上記(2)で示した技術常識によれば、ショットピーニングによって加工されるのは表面層に限られるから、引用発明が280℃としたばねの温度は、ショットピーニングで加工された表面層温度、即ち、ばねの表面温度を規定したものと解するのが合理的である。
したがって、相違点(イ)は実質的な相違ではない。

相違点(ロ)について
引用発明において、ショットピーニングを施すのは、焼入焼戻後の冷却途中であることは明らかである。そして、鋼材を冷却する場合、表面から熱が奪われ冷却されることから、内部が表面より温度が高い状態となっていることが普通であると認められる。
そうすると、引用発明において、540℃での焼戻後の冷却の際に、280℃でショットピーニングを施すとき、ばねの内部が表面よりも高い状態になっていることは明らかである。
したがって、相違点(ロ)は実質的な相違ではない。

相違点(ハ)について
引用例2は、ショットピーニングによる金属の表面処理方法に関する発明について記載したものであるが、その(2a)及び(2b)の記載によれば、ばね等の被処理品のショットピーニング処理する場合、ショットピーニング後急冷した被処理品の残留応力が、ショットピーニング処理後自然空冷したものの残留応力と比較して、30?50%向上することが認められる。
また、(2a)の記載によれば、ショットピーニング処理方法は、被処理品表面の加工硬化および残留応力によって被処理品の疲労破壊強さを向上させることが認められ、また、(2c)の記載によれば、ショットピーニング後急冷した被処理品の疲労強度は、ショットピーニング処理のみを行ったものに比べ、向上することが認められる。
一方、引用例1の(1e)には、「常温でショットピーニング加工を施したものに比し、疲れ強さなどばねの性能を簡単な手段で更に向上させようとするものである」との記載があるから、引用発明も疲労強度の向上を目的としているといえる。
そうすると、引用発明において、疲労強度の向上のために、ショットピーニング後にばねを急冷することは、当業者が容易になし得ることである。

相違点(ニ)について
引用例1の(1b)には、引用発明において、ばねに用いる鋼として、SUPb(Si-Mn鋼)を使用することが記載されている。なお、ばね鋼のJIS規格のうち、Si-Mn鋼は、SUP6又は7のいずれかであるから、前記「SUPb」は、「SUP6」又は「SUP7」の誤記であると認められる。
ところで、本願出願当時の技術水準を示すと認められる「特殊鋼便覧」(電気製鋼研究会,第1版,理工学社,1969年5月25日,第9-4?9-6頁)には、ばね用鋼の化学成分に関し、「Si-Mn鋼(SUP6,SUP7)は古くから焼入れ焼もどし状態で弾性限の高いことがよく知られている鋼で,自動車用板ばね,船用コイルばねなどに使われている」ことが記載されており、さらに、その9・5表には、Si-Mn鋼であるSUP6及びSUP7の引張り強さが、焼入れ焼もどし状態で125(kg/mm^(2))以上であることが示されている。また、同様の文献である「改訂5版 金属便覧」(社団法人日本金属学会,丸善株式会社,1990年3月31日,第565?567頁)には、ばね鋼の特性と用途に関し、「SUP6は広く自動車用懸架ばねとして用いられた」ことも記載されている。
以上によれば、引用発明の「ばね」は、ばね用鋼であるSi-Mn鋼(SUP6又はSUP7)を用いたもので、焼入れ焼戻し状態で弾性限が高く、引張り強さが125(kg/mm^(2))以上であり、自動車用板ばね、船用コイルばね、自動車用懸架ばねなどの用途に使用するものであることが認められる。そうすると、その特性及び用途からみて、引用発明の「ばね」は、高強度のもの、すなわち「高強度ばね」であるということができる。
したがって、相違点(ニ)は実質的な相違ではない。

(4)小括

以上のとおりであるから、本願発明は、その優先権の主張の基礎とされた先の出願前に日本国内において頒布された引用例1、2に記載された発明に基いて、その優先権の主張の基礎とされた先の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび

したがって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その余の発明について検討するまでもなく、本願は原査定の理由により拒絶すべきでものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-03-02 
結審通知日 2012-03-06 
審決日 2012-03-21 
出願番号 特願2005-504086(P2005-504086)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C21D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井上 猛  
特許庁審判長 長者 義久
特許庁審判官 大橋 賢一
佐藤 陽一
発明の名称 高強度ばねの製造方法  
代理人 特許業務法人京都国際特許事務所  

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