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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1274623
審判番号 不服2011-14902  
総通号数 163 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-07-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-07-11 
確定日 2013-05-24 
事件の表示 平成11年特許願第209901号「発光素子」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 2月25日出願公開、特開2000- 58906〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯・本願発明
本願は、平成11年7月23日(パリ条約による優先権主張1998年7月24日、アメリカ合衆国)の出願であって、平成18年9月19日付け及び平成22年9月21日付けで手続補正がなされたところ、平成23年3月1日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年7月11日に拒絶査定不服審判請求がなされるとともに、これと同時に手続補正がなされたものである。

そして、本願の請求項に係る発明は、平成23年7月11日付け手続補正による補正後の明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?16に記載された事項によって特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明は次のものである。

「第1導電型を有する半導体基板と、
前記半導体基板上に形成された素子層とを含んで成り、
前記素子層は、
第1導電型AlGaInP合金下部閉じ込め層(14A)と、
前記下部閉じ込め層上に形成されたAlGaInP活性領域(12)と、
前記活性領域上に形成された第2導電型AlGaInP合金上部閉じ込め層(14B)とを含み、
前記活性領域の吸光度が少なくとも前記素子層の全吸光度の5分の1であり、
前記活性領域は、200nm未満の厚さを有し、
吸光度は、下記の式(1)によって定義され、
(式1):(吸光度)=1-exp[-α(λpeak)・L]
ここで、α(λpeak)はLEDの発光スペクトルのピーク波長λpeakにおける層の吸収率であって、Lは同層の厚さである、発光素子。」(以下「本願発明」という。)


2 引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平4-212479号公報(以下「引用刊行物」という。)には、図とともに下記の事項が記載されている。

(1)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、化合物半導体材料を用いた半導体発光装置に係わり、特に活性層にInGaAlP系材料を用いた半導体発光装置に関する。」

(2)「【0021】図1は本発明の第1の実施例に係わる半導体発光装置の概略構造を示す断面図である。図中11はn-GaAs基板であり、この基板11上にはn-InGaAlPクラッド層12,p-InGaAlP活性層13及びp-InGaAlPクラッド層14からなるダブルヘテロ構造部が成長形成されている。ダブルヘテロ構造部上にはp-GaAlAs電流拡散層15が成長形成され、この電流拡散層15上の一部にGaAsコンタクト層16が成長形成されている。そして、コンタクト層16上にAuZnからなるp側電極17が形成され、基板11の下面にAuGeからなるn側電極18が形成されている。
【0022】p-InGaAlP活性層13のエネルギーギャップは、クラッド層12,14のそれより小さくなるように混晶組成が設定されており、光及びキャリアを活性層13に閉じ込めるダブルヘテロ構造をなしている。p-GaAlAs電流拡散層15の組成は、活性層13からの発光波長に対し略透明になるように設定されている。…
【0023】図1に示した構造において、各層の厚さ,キャリア濃度は以下のように設定されている。即ち、n-GaAs基板11(250μm,3×10^(18)cm^(-3))、
n-InGaAlPクラッド層12(1μm,5×10^(17)cm^(-3))、
p-InGaAlP活性層13(0.5μm,5×10^(16)cm^(-3))、
p-InGaAlPクラッド層14(1μm,7×10^(17)cm^(-3))、
p-GaAlAs電流拡散層15(7μm,3×10^(18)cm^(-3))、
p-GaAsコンタクト層16(0.1μm,3×10^(18)cm^(-3))、
である。
【0024】また、p側電極17は直径200μmの円形とした。活性層13及びクラッド層12,14の組成を、In_(0.5)(Ga_(1-X)Al_(X))_(0.5)Pの表記でそれぞれ0.4,0.7とした場合、発光波長は565nm(緑)、発光効率はDC20mAで0.7%程度と従来の10倍の効率が得られた。

【0027】図3は活性層13のキャリア濃度を5×10^(16)cm^(-3)(p型)としたときの、発光効率の活性層厚さ依存性を示している。活性層13の厚さは、pクラッド層14のキャリア濃度にも依存するが、0.15?0.75μmの範囲で高い発光効率が得られた。」

(3)「【0029】…図5は、本発明の第2の実施例に係わる半導体発光装置の概略構造を示す断面図である。
【0030】図5に示した構造において、31は第1導電型半導体基板であり、この基板31上には第1導電型のバッファ層32,反射層33及び透明バッファ層34が成長形成されている。透明バッファ層34上には、下部クラッド層(第1導電型クラッド層)35,活性層36及び上部クラッド層(第2導電型クラッド層)37からなるダブルヘテロ構造部が形成されている。
【0031】ダブルヘテロ構造部上には、第2導電型の電流拡散層38が成長形成され、電流拡散層38上の一部には第2導電型のコンタクト層39が形成されている。また、ダブルヘテロ構造部と電流拡散層38との界面には、コンタクト層39に対応する位置に第1導電型の電流阻止層40が形成されている。そして、コンタクト層39上に上部電極41が形成され、基板31の下面に下部電極42が形成されている。
【0032】次に、上記素子における基板,各層のキャリア濃度及び膜厚、その他の条件について説明する。なお、この条件は、先に説明した第1の実施例においても同様に適用できるものである。

【0047】…下部クラッド層35として、n-In_(1-Y)(Ga_(1-X)Al_(X))_(Y)Pの組成表記(x,y)において、x=0.7,y=0.5とした。

【0053】活性層36はIn_(1-Y)(Ga_(1-X)Al_(X))_(Y)Pからなり、その組成x,y及び上記秩序構造の状態によってエネルギーギャップが決まり、注入されたキャリアが発光再結合する時、エネルギーギャップに対応した波長で発光する。

【0057】…活性層36の厚さも先の実施例と同様に、ペレットサイズ300μm角のもので、0.15μmから0.75μm(図3を参照)で高い発光効率が得られた。
【0058】上部クラッド層37は、下部クラッド層35と同様、活性層36に注入されたキャリアを活性層36内に閉じこめることにより高い発光効率を得るためのものである。…
【0059】ここでは、p-In_(1-Y)(Ga_(1-X)Al_(X))_(Y)Pの組成表記(x,y)において、x=0.7,y=0.5とした。

【0079】上記した第2の実施例では、第1導電型半導体基板31としてn-GaAsを用いた例を示した。しかしながら、導電型の異なる、p-GaAsを用いてもかまわない。

【0083】また、第1導電型半導体基板31としてn-GaAs又はp-GaAsを用いた場合、実施例にも詳述したように発光波長に対し基板は光吸収体として働く。基板31に吸収された光は、外部に取り出すことができないため、活性層36での発光の約1/2は発光効率に寄与しない。これを取り出す方法として、図22に示すように、基板31及び発光波長に対し吸収体となるバッファ層32等を除去することが有効である。

【0085】また、ここまでの説明では、第1導電型半導体基板31としてn-GaAs,p-GaAs及びこれを除去した例を示した。この他にも、GaP,ZnSe,ZnS,Si,Ge等の半導体、及びGaAsを含めこれらからなる混晶等を基板として用いてもよい。この場合、上述の導電型に対する考え方がそのまま当てはまり、これらの導電型のn型でもp型でもよい。GaP,ZnSe,ZnS,GaAsP,InGaP等を基板とする場合は、発光波長に対し基板は透明にすることができ、上述のように基板を除去する必要がないという利点がある。」

上記(1)及び(2)の記載を総合すると、引用刊行物には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「n-GaAs基板11上にn-InGaAlPクラッド層12,p-InGaAlP活性層13及びp-InGaAlPクラッド層14からなるダブルヘテロ構造部が成長形成され、ダブルヘテロ構造部上にはp-GaAlAs電流拡散層15が成長形成され、この電流拡散層15上の一部にGaAsコンタクト層16が成長形成され、コンタクト層16上にAuZnからなるp側電極17が形成され、基板11の下面にAuGeからなるn側電極18が形成されている、半導体発光装置であって、
p-InGaAlP活性層13のエネルギーギャップは、クラッド層12,14のそれより小さくなるように混晶組成が設定されており、光及びキャリアを活性層13に閉じ込めるダブルヘテロ構造をなしており、
p-GaAlAs電流拡散層15の組成は、活性層13からの発光波長に対し略透明になるように設定されており、
各層の厚さ,キャリア濃度は以下のように設定されている、半導体発光装置。
即ち、n-GaAs基板11(250μm,3×10^(18)cm^(-3))、
n-InGaAlPクラッド層12(1μm,5×10^(17)cm^(-3))、
p-InGaAlP活性層13(0.5μm,5×10^(16)cm^(-3))、
p-InGaAlPクラッド層14(1μm,7×10^(17)cm^(-3))、
p-GaAlAs電流拡散層15(7μm,3×10^(18)cm^(-3))、
p-GaAsコンタクト層16(0.1μm,3×10^(18)cm^(-3))。」


3 対比
本願発明と引用発明を対比する。
引用発明の「半導体発光装置」は、「n-GaAs基板11上にn-InGaAlPクラッド層12,p-InGaAlP活性層13及びp-InGaAlPクラッド層14からなるダブルヘテロ構造部が成長形成され」てなるものであるから、
(1)引用発明の「n-GaAs基板11」、「n-InGaAlPクラッド層12」、「p-InGaAlP活性層13」、「p-InGaAlPクラッド層14」及び「半導体発光装置」は、それぞれ、本願発明の「(第1導電型を有する)半導体基板」、「第1導電型AlGaInP合金下部閉じ込め層」、「(前記下部閉じ込め層上に形成された)AlGaInP活性領域」、「(前記活性領域上に形成された)第2導電型AlGaInP合金上部閉じ込め層」及び「発光素子」に相当し、
(2)引用発明は、本願発明の「第1導電型を有する半導体基板と、前記半導体基板上に形成された素子層とを含んで成り、前記素子層は、第1導電型AlGaInP合金下部閉じ込め層と、前記下部閉じ込め層上に形成されたAlGaInP活性領域と、前記活性領域上に形成された第2導電型AlGaInP合金上部閉じ込め層とを含み」との事項を備える。

よって、本願発明と引用発明とは、
「第1導電型を有する半導体基板と、
前記半導体基板上に形成された素子層とを含んで成り、
前記素子層は、
第1導電型AlGaInP合金下部閉じ込め層と、
前記下部閉じ込め層上に形成されたAlGaInP活性領域と、
前記活性領域上に形成された第2導電型AlGaInP合金上部閉じ込め層とを含む、発光素子。」
の点で一致し、以下の点で相違するものと認められる。

本願発明は、吸光度を、式(1):(吸光度)=1-exp[-α(λpeak)・L](ここで、α(λpeak)はLEDの発光スペクトルのピーク波長λpeakにおける層の吸収率であって、Lは同層の厚さである)によって定義し、活性領域の吸光度が少なくとも素子層の全吸光度の5分の1であり、前記活性領域が200nm未満の厚さを有するのに対し、引用発明1は、活性領域の吸光度が少なくとも素子層の全吸光度の5分の1であるのか否か明らかではなく、また、活性領域が0.5μm(500nm)の厚さを有するものである点(以下「相違点」という。)。


4 判断
上記相違点につき検討する。
引用刊行物には、「第1導電型半導体基板31としてn-GaAs又はp-GaAsを用いた場合、…発光波長に対し基板は光吸収体として働く。基板31に吸収された光は、外部に取り出すことができないため、活性層36での発光の約1/2は発光効率に寄与しない。これを取り出す方法として、…基板31及び発光波長に対し吸収体となるバッファ層32等を除去することが有効である。…また、…この他にも、GaP,ZnSe,ZnS,Si,Ge等の半導体、及びGaAsを含めこれらからなる混晶等を基板として用いてもよい。この場合、上述の導電型に対する考え方がそのまま当てはまり、これらの導電型のn型でもp型でもよい。GaP,ZnSe,ZnS,GaAsP,InGaP等を基板とする場合は、発光波長に対し基板は透明にすることができ、上述のように基板を除去する必要がないという利点がある。」(上記2(3)(【0083】及び【0085】)との記載がされ、また、引用発明は、「p-GaAlAs電流拡散層15の組成」が、「活性層13からの発光波長に対し略透明になるように設定されて」いるものであるから、引用発明において、その発光効率を高め、「活性層13」からの光が「n-GaAs基板11」やその他の層に極力吸収されないようにするべく、該「n-GaAs基板11」に代えてn-GaP等の発光波長に対し透明な基板を用い、また、「活性層13」を除くその他の層が、当該「活性層13」からの光をなるべく吸収しないものとなすことは、当業者が容易になし得ることである。
そして、引用刊行物には、「活性層13の厚さは、…0.15?0.75μmの範囲で高い発光効率が得られた。」(上記2(2)(【0027】))、「…活性層36の厚さも先の実施例と同様に、…0.15μmから0.75μm…で高い発光効率が得られた。」(上記2(2)(【0057】))との記載がされ、「活性層13」の厚さが引用発明の「半導体発光装置」の発光効率に影響を与えることは明らかであるから、上述したような、「n-GaAs基板11」に代えてn-GaP等の発光波長に対し透明な基板を用い、また、「活性層13」を除くその他の層が、当該「活性層13」からの光をなるべく吸収しないものとした「半導体発光装置」においても、その発光効率を高めるべく、「p-InGaAlP活性層13」の厚さを設定して、その厚さを200nm未満となし、その結果、「p-InGaAlP活性層13」の吸光度を、少なくとも当該「半導体発光装置」に形成された層全体の全吸光度の5分の1であるものとなして、上記相違点に係る本願発明の構成となすことは当業者が適宜になし得ることである。

また、本願発明の奏する効果が、引用発明及び引用刊行物の記載事項から当業者が予測困難な程の格別顕著なものということはできない。

したがって、本願発明は、引用刊行物に記載された発明及び引用刊行物の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。


5 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用刊行物に記載された発明及び引用刊行物の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-12-26 
結審通知日 2012-12-27 
審決日 2013-01-08 
出願番号 特願平11-209901
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 芝沼 隆太杉山 輝和  
特許庁審判長 吉野 公夫
特許庁審判官 星野 浩一
服部 秀男
発明の名称 発光素子  
代理人 箱田 篤  
代理人 大塚 文昭  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 西島 孝喜  
代理人 弟子丸 健  
代理人 中村 稔  

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