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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F02D
管理番号 1274946
審判番号 不服2012-1289  
総通号数 163 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-07-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-01-23 
確定日 2013-06-06 
事件の表示 特願2010- 8318「エンジン自動制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成22年12月 2日出願公開、特開2010-270747〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯及び本件発明
本件出願は、平成22年1月18日(特許法第41条に基づく優先権主張:平成21年4月23日、出願番号:特願2009-105488号)の出願であって、平成23年2月25日付けで拒絶理由が通知され、同年4月25日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年10月19日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成24年1月23日に拒絶査定に対する審判が請求され、その後、当審において同年12月18日付けで拒絶理由が通知され、平成25年2月20日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものであって、その請求項1ないし15に係る発明は、平成25年2月20日付けの手続補正書により補正された明細書及び特許請求の範囲並びに出願当初の図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1ないし15に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は次のとおりである。

「【請求項1】
車両のエンジンの自動停止および再始動を制御するエンジン自動制御装置において、
充放電可能なバッテリと、
導通接続線を介して前記バッテリに電気的に接続され、前記バッテリから供給される電力により駆動し、駆動することにより前記エンジンを始動させるスタータと、
前記バッテリの電圧を検出する電圧検出手段と、
現在の前記バッテリの内部抵抗値を取得する現在バッテリ内部抵抗値取得手段と、
前記スタータの内部抵抗値と前記導通接続線の配線抵抗値との合計値であるスタータ合計抵抗値を算出するスタータ合計抵抗値算出手段と、
前記エンジンの自動停止中に、現在の前記バッテリの電圧と現在の前記バッテリの内部抵抗値と前記スタータ合計抵抗値算出手段により算出された前記スタータ合計抵抗値とに基づいて、次の前記エンジンの再始動までの間における前記バッテリが前記スタータへ供給する最大放電電流を予測する最大放電電流予測手段と、
前記エンジンの自動停止中に、現在の前記バッテリの電圧と現在の前記バッテリの内部抵抗値と予測された前記最大放電電流とに基づいて、次の前記エンジンの再始動までの間における前記バッテリの下限電圧を予測する下限電圧予測手段と、
予測された前記バッテリの下限電圧に基づいて、前記エンジン自動停止中に前記エンジンの再始動を実行するか否かを判断する再始動可否判断手段と、
を備えることを特徴とするエンジン自動制御装置。」


2.引用文献記載の発明
(1)本件出願の優先日前に頒布され、当審の拒絶理由に引用された刊行物である特開2002-174133号公報(以下、「引用文献」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(ア)「【請求項1】 エンジンを始動するためのモータを備え、所定の条件が成立したときに前記エンジンを自動停止するエンジン自動停止制御手段を設けたエンジン始動システムにおいて、前記エンジンが停止前に前記モータを駆動するバッテリーの端子電圧を検出する端子電圧検出手段と、前記端子電圧に基づいて高率放電時の放電電圧を推定する放電電圧推定手段と、この放電電圧推定手段の推定結果に基づいてエンジン停止後にエンジン始動可能か否かを判断する判断手段と、この判断手段の判断結果に基づいて前記エンジンの自動停止を禁止するエンジン自動停止制御手段とを備えることを特徴とするエンジン始動システム。
【請求項2】 エンジンを始動するためのモータを備え、所定の条件が成立したときに前記エンジンを自動停止するエンジン自動停止制御手段を設けたエンジン始動システムにおいて、前記エンジンが自動停止された場合に前記モータを駆動するバッテリーの端子電圧を検出する端子電圧検出手段と、前記端子電圧に基づいて高率放電時の放電電圧を推定する放電電圧推定手段と、この放電電圧推定手段の推定結果に基づいてエンジン始動可能か否かを判断する判断手段と、この判断手段の判断結果に基づいて前記エンジンの始動が不能となる前に前記エンジンを始動させるエンジン始動制御手段とを備えることを特徴とするエンジン始動システム。
【請求項3】 請求項1または請求項2のエンジン始動システムにおいて、前記バッテリーについて予め任意の電流で放電させたときの放電電圧に基づき電流・電圧の直線的関係を種々の充電状態について把握しておき、放電途中で高率放電に変化させるときに、前記高率放電直前の電流及び電圧から前記電流・電圧の直線的関係群のいずれかを特定することにより高率放電時の放電電圧を推定し、その推定電圧が前記モータによるエンジン始動可能電圧より低い場合にエンジン始動不能であると判断することを特徴とするエンジン始動システム。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】ないし【請求項3】)

(イ)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、バッテリーによりエンジンの始動用モータを駆動するようにしたエンジン始動システムに関する。」(段落【0001】)

(ウ)「【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】近年、不要な排気ガスの放出を抑制するため、車両の短時間の駐停車でもエンジンをアイドリング状態にすることなく停止すること(アイドリングストップ)が推奨されている。このようなアイドリングストップを行う際に、例えば信号待ち等の停車時に不用意にアイドリングストップを行った場合、万一バッテリーが充電不足にあるときにはエンジンを再始動できないため、車両を再発進させ得なくなり、交通渋滞を招く等の問題を生ずる。
【0003】そこで、例えば特開昭58-23250号、特開昭58-140445号および特開平10-47105号の各公報に記載の発明のように、バッテリ電圧を監視し、それが低いときにはエンジンの自動停止始動制御を解除する技術が開発されている。
【0004】しかしながら、上記構成では、単にバッテリ電圧を基準にしてエンジンの始動が可能か否かを判断するに過ぎず、実際のエンジン始動時のバッテリ放電電圧を推定するものではないから、的確な状況でエンジンの自動停止を禁止することができないという問題がある。
【0005】本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、バッテリーの容量不足によってエンジンの始動ができないような場合を検出して適切に対処できるエンジン始動システムを提供することを目的とする。」(段落【0002】ないし【0005】)

(エ)「【0014】
【発明の実施の形態】本発明をアイドリングストップ車のエンジン始動装置に適用した一実施形態について図面を参照して説明する。
<電流・電圧の直線的関係の把握>本実施形態では、電圧2V、5時間率で定格容量20Ahの密閉式鉛蓄電池を対象として説明する。まず、例えば25℃において、ある電流I_(A)で一定時間の低率放電を行い、放電終期の電圧V_(A)を測定し、その後、引き続き電流I_(B)(=200A)の高率放電を1秒間行って放電電圧V_(B)を測定した。ここで、電流I_(A)は、10,40,70,100Aとし、放電電圧V_(A)が10mV刻みで変化するような時間で十数点行った。従って、各放電時の放電容量は様々に異なる。これらの測定結果を横軸を電流、縦軸を電圧としたグラフに(I_(A),V_(A)),(I_(B),V_(B))をプロットし、それらの点を線で結ぶ。
【0015】低率放電がI_(A)=10Aである場合を例示すると図1に示す通りである。I_(A1)=10Aで10分間放電させると、V_(A1)=2.026Vとなった。その後、引き続きI_(B1)=200Aで放電すると、V_(B1)=1.769Vになった。これらの点をグラフにプロットし、その点を結ぶラインL1を作成する。次に、引き続きI_(A2)=10Aで、放電電圧がV_(A2)=2.016Vになるまで放電し、引き続きI_(B2)=200Aで1秒放電すると、V_(B2)=1.746Vとなった。これらの点をグラフにプロットしてラインL2を形成した。このラインL1,L2は異なる充電状態(SOC)における電流・電圧の直線的関係を示している。このように順次放電させる同様の作業を繰り返し、計10本のラインを作成した。
【0016】次に、低率放電をI_(A)=40A,70A,100Aとし、高率放電をI_(B)=200A、1秒とした場合についても、同様に測定して同一のグラフにプロットすると、図2に示すように、高率放電の1秒後電圧V_(B)が同一であるものは、その電圧V_(B)とその前に各電池が10?100Aの各放電電流I_(A)で示していた放電電圧V_(A)とを結ぶ直線が重なる。また、0℃、50℃においても同様の測定を行い、その結果を図3及び図4に示し、さらに、JIS D 5301の軽負荷寿命試験を7680サイクル行い、若干劣化した電池についても、上述と同様の測定を25℃で行い、その結果を図5に示した。
【0017】これらのグラフから、ある温度が決まり、低率放電時の電流・電圧が判れば、その電池の今の状態が電流・電圧の多数の直線的関係群のうちのいずれに当てはまるかが決定可能であることが判る。そして、その直線的関係(1本のグラフ)が特定されれば、それに基づいて高率放電時の放電電圧を推定できることが判る。」(段落【0014】ないし【0017】)
(オ)「【0018】<エンジン始動システムへの適用>図6はアイドリングストップ車のエンジン始動システムの一例を示す。ここで、バッテリー20は例えば密閉式鉛蓄電池で、車両の各種電装品21と、エンジン10のモータ22とを負荷とし、モータ22にはスタートスイッチ23を介して接続されている。電装品21としては、周知の通り、車両のオーディオ装置やエアコン、各種ランプ等があり、負荷電流が例えば10?100Aの範囲で不規則に変動する。また、始動用モータ22は例えば200Aが1秒程度の短時間流される。
【0019】バッテリー20の出力ラインには電流センサ31が設けられ、バッテリー20の放電電流を測定して演算部30にその電流に応じた信号を与える。また、電圧検出回路32によってそのときの放電電圧も測定可能である。さらに、バッテリー20の近傍には温度センサー33が設けられ、温度検出回路34によってバッテリー20の温度を検出することができる。これらの各検出回路32,34からの検出信号も演算部30に入力され、ここで関数記憶部35に記憶した関数を参照して後述のようにしてクランキング時の放電電圧が推定され、その結果に応じてECV40にクランキング可否の信号が出力される。
【0020】また、上記ECV40には、エンジン10の回転数を検出するエンジン回転数検出回路41,図示しない車両のギアがニュートラル状態にあることを検出するニュートラルセンサ42及び車両の走行速度を検出する車速センサ43からの信号が与えられるようになっており、例えばエンジン10の回転数がアイドリング回転数にあり、かつ、車両のギアがニュートラルにあり、かつ、車両が停止していることを条件に車両がアイドリング状態にあることを検出し、その状態が所定時間継続したときにECV40からの信号によってエンジン10を停止させるアイドリングストップ状態に移行する。」(段落【0018】ないし【0020】)

(カ)「【0021】さて、上記関数記憶部35には例えば図7に示す多数の一次関数が記憶されている。これらは、傾きと切片が異なる一次関数であるから、例えばV=k_(a1)I+k_(b1)、V=k_(a2)I+k_(b2)、……で表され、種々の充電状態における電圧・電流の直線的関係を示す。ここで係数k_(a1),k_(a2),…はバッテリー20の内部抵抗に相当し、その値は温度、劣化度合い等によって変化するから、例えば演算部30からの信号に基づき1日に1回定期的に内部抵抗を測定し、その測定結果に応じて演算部30が係数k_(a1),k_(a2),……を正しく補正する。また、温度検出回路34により測定されたバッテリー20の温度に応じて上記係数k_(a1),k_(a2),……を所定の関数に従い更に微調整する。
【0022】さて、車両がアイドリング状態になったことがECV40によって検出されると、ECV40は演算部30に放電電圧推定要求を出力し、演算部30はその時点で電流センサー31及び電圧検出回路32から電流及び電圧の測定結果を読み取り、その電流・電圧に合致する一次関数を特定する。例えば、図7に示す多数の一次関数が選ばれている場合に、電装品21に流れている放電電流が50Aで、その時の放電電圧が1.9Vであったときには、一次関数f_(7)が特定される。すると、演算部30は、その一次関数f7に高率放電の放電電流200Aを代入して、V_(B)=1.63Vを取得し、これを基準値(例えば1.7V)と比較する。ここで、基準値としてはクランキングに最低限必要な電圧が記憶されており、この場合、推定された電圧V_(B)=1.63Vが基準値よりも低いから、アイドリングストップ禁止信号をECV40に出力する。これにより、ECV40は、アイドリング状態が所定時間継続してエンジン停止条件が整ったとしても、エンジン10を停止させることがない。
【0023】また、演算部30に放電電圧推定要求が出された時点で、放電電流が例えば100Aで放電電圧が1.9Vであると(この場合には、上述の例に比べて充電状態が高いことになる)、その電流・電圧から特定される一次関数はf_(1)となるから、そのf_(1)に高率放電の放電電流200Aを代入してV_(B)=1.77Vが取得される。すると、この推定電圧は基準値よりも高く、エンジンを停止しても直ちにクランキング可能であるから、演算部30はアイドリングストップ禁止信号をECV40に出力せず、ECV40はエンジン10を停止させてアイドリングストップ状態に移行する。」(段落【0021】ないし【0023】)

(キ)「【0024】なお、このようにアイドリングストップ状態に移行した後も、車両の電装品が使用されてバッテリー20の電力が消費されている場合には、ECV40は定期的に演算部30に放電電圧推定要求を出力する。この結果、演算部30はその時点での放電電流・電圧に基づいてクランキング時の放電電圧を推定する。そして、バッテリー20の消耗によってその放電電圧がクランキング不能な電圧に近づいた場合(クランキング不能電圧との差が所定値以下に低下した場合)には、ECV40は直ちに始動用モータ22を駆動してエンジンを始動させる。」(段落【0024】)

(2)ここで、上記(1)の(ア)ないし(キ)並びに図面の記載からみて、次のことが分かる。

(ク)上記(1)の(ア)、(オ)ないし(キ)及び図6からみて、実施形態のエンジン始動システムは、充放電可能なバッテリー20、始動用モータ22、バッテリー20の電圧を検出する電圧検出回路32、演算部30、関数記憶部35及びECV40を備えていることが分かる。
また、エンジン始動システムは、アイドリングストップ車のエンジンのアイドリングストップ及び再始動を制御するものであることが分かる。
さらに、前記始動用モータ22は、導通接続線を介して前記バッテリー20に電気的に接続され、前記バッテリー20から供給される電力により駆動し、駆動することによりエンジンを始動させるものであることが分かる。

(ケ)上記(1)の(ア)及び(カ)並びに図6及び7からみて、「関数記憶部35には例えば図7に示す多数の一次関数が記憶されている。これらは、傾きと切片が異なる一次関数であるから、例えばV=k_(a1)I+k_(b1)、V=k_(a2)I+k_(b2)、……で表され、種々の充電状態における電圧・電流の直線的関係を示す。ここで係数k_(a1),k_(a2),…はバッテリー20の内部抵抗に相当し、その値は温度、劣化度合い等によって変化するから、例えば演算部30からの信号に基づき1日に1回定期的に内部抵抗を測定し、その測定結果に応じて演算部30が係数k_(a1),k_(a2),……を正しく補正する。また、温度検出回路34により測定されたバッテリー20の温度に応じて上記係数k_(a1),k_(a2),……を所定の関数に従い更に微調整する。」(上記(1)(カ)段落【0021】参照。)という記載があり、関数記憶部35に記憶されている図7に示す多数の一次関数の「係数k_(a1),k_(a2),…」がバッテリー20の内部抵抗であることが分かる。
このため、「演算部30及び関数記憶部35によるバッテリー20の内部抵抗の取得機能」は、定期的に測定して補正し更に微調整した前記バッテリー20の内部抵抗を取得するものといえる。

(コ)上記(1)の(ア)、(オ)、(キ)及び図6からみて、「クランキング時の放電電圧を推定する演算部30の機能」は、エンジンのアイドリングストップ中に、ECV40からの放電電圧推定要求の出力時点での前記バッテリー20の電圧と放電電流とに基づいて、次の前記エンジンの再始動までの間における前記バッテリー20のクランキング時の放電電圧を推定するものといえる。

(サ)上記(1)の(ア)、(キ)及び図6からみて、ECV40は、推定されたバッテリー20のクランキング時の放電電圧に基づいて、エンジンアイドリングストップ中に前記エンジンの再始動を実行するか否かを判断するものといえる。

(3)上記(1)及び上記(2)並びに図面の記載を総合すると、引用文献には、次の発明(以下、「引用文献記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。

「アイドリングストップ車のエンジンのアイドリングストップおよび再始動を制御するエンジン始動システムにおいて、
充放電可能なバッテリー20と、
導通接続線を介して前記バッテリー20に電気的に接続され、前記バッテリー20から供給される電力により駆動し、駆動することにより前記エンジンを始動させる始動用モータ22と、
前記バッテリー20の電圧を検出する電圧検出回路32と、
定期的に測定して補正し更に微調整した前記バッテリー20の内部抵抗を取得する演算部30及び関数記憶部35によるバッテリー20の内部抵抗の取得機能と、
前記エンジンのアイドリングストップ中に、ECV40からの放電電圧推定要求の出力時点での前記バッテリー20の電圧と放電電流とに基づいて、次の前記エンジンの再始動までの間における前記バッテリー20のクランキング時の放電電圧を推定するクランキング時の放電電圧を推定する演算部30の機能と、
推定された前記バッテリー20のクランキング時の放電電圧に基づいて、前記エンジンアイドリングストップ中に前記エンジンの再始動を実行するか否かを判断するECV40と、
を備えるエンジン始動システム。」


3.対比
本件発明と引用文献記載の発明とを対比すると、引用文献記載の発明における「アイドリングストップ車」は、その機能、構造又は技術的意義からみて、本件発明における「車両」に相当し、以下同様に、「エンジンのアイドリングストップ」は「エンジンの自動停止」に、「エンジン始動システム」は「エンジン自動制御装置」に、「バッテリー20」は「バッテリ」に、「始動用モータ22」は「スタータ」に、「電圧検出回路32」は「電圧検出手段」に、「バッテリー20の内部抵抗」は「バッテリの内部抵抗値」に、「バッテリー20のクランキング時の放電電圧」は「バッテリの下限電圧」に、「推定する」は「予測する」に、「推定された」は「予測された」に、「クランキング時の放電電圧を推定する演算部30の機能」は「下限電圧予測手段」に、「ECV40」は「再始動可否判断手段」に、それぞれ相当する。
また、引用文献記載の発明における「定期的に測定して補正し更に微調整したバッテリー20の内部抵抗」は、「最新のバッテリの内部抵抗値」という限りにおいて、本件発明における「現在のバッテリの内部抵抗値」に相当し、
以下同様に、「演算部30及び関数記憶部35によるバッテリー20の内部抵抗の取得機能」は、「最新バッテリ内部抵抗値取得手段」という限りにおいて、「現在バッテリ内部抵抗値取得手段」に、
「ECV40からの放電電圧推定要求の出力時点でのバッテリー20の電圧と放電電流とに基づいて、次のエンジンの再始動までの間における前記バッテリー20のクランキング時の放電電圧を推定するクランキング時の放電電圧を推定する演算部30の機能と」は、「最新のバッテリの電圧と放電電流とに基づいて、次のエンジンの再始動までの間におけるバッテリの下限電圧を予測する下限電圧予測手段と」という限りにおいて、「現在のバッテリの電圧と現在のバッテリの内部抵抗値とスタータ合計抵抗値算出手段により算出されたスタータ合計抵抗値とに基づいて、次のエンジンの再始動までの間におけるバッテリがスタータへ供給する最大放電電流を予測する最大放電電流予測手段と、エンジンの自動停止中に、現在のバッテリの電圧と現在のバッテリの内部抵抗値と予測された最大放電電流とに基づいて、次のエンジンの再始動までの間におけるバッテリの下限電圧を予測する下限電圧予測手段と」に、
それぞれ相当する。

したがって、本件発明と引用文献記載の発明は、次の一致点及び相違点を有するものである。

<一致点>
「車両のエンジンの自動停止および再始動を制御するエンジン自動制御装置において、
充放電可能なバッテリと、
導通接続線を介して前記バッテリに電気的に接続され、前記バッテリから供給される電力により駆動し、駆動することにより前記エンジンを始動させるスタータと、
前記バッテリの電圧を検出する電圧検出手段と、
最新のバッテリの内部抵抗値を取得する最新バッテリ内部抵抗値取得手段と、
エンジンの自動停止中に、最新のバッテリの電圧と放電電流とに基づいて、次のエンジンの再始動までの間におけるバッテリの下限電圧を予測する下限電圧予測手段と、
予測された前記バッテリの下限電圧に基づいて、前記エンジン自動停止中に前記エンジンの再始動を実行するか否かを判断する再始動可否判断手段と、
を備えるエンジン自動制御装置。」

<相違点>
なお、( )内に、本件発明において相当する発明特定事項を示す。
複数のパラメータに基づいてバッテリの下限電圧を予測することに関し、
本件発明においては、「現在のバッテリの内部抵抗値を取得する現在バッテリ内部抵抗値取得手段と、スタータの内部抵抗値と導通接続線の配線抵抗値との合計値であるスタータ合計抵抗値を算出するスタータ合計抵抗値算出手段と、エンジンの自動停止中に、現在のバッテリの電圧と現在のバッテリの内部抵抗値とスタータ合計抵抗値算出手段により算出されたスタータ合計抵抗値とに基づいて、次のエンジンの再始動までの間におけるバッテリがスタータへ供給する最大放電電流を予測する最大放電電流予測手段と、エンジンの自動停止中に、現在のバッテリの電圧と現在のバッテリの内部抵抗値と予測された最大放電電流とに基づいて、次のエンジンの再始動までの間におけるバッテリの下限電圧を予測する下限電圧予測手段と」を備えており、
「現在のバッテリの内部抵抗値」、「スタータの内部抵抗値と導通接続線の配線抵抗値との合計値であるスタータ合計抵抗値」及び「予測された最大放電電流」の複数のパラメータから「バッテリの下限電圧」を予測するのに対し、
引用文献記載の発明においては、「定期的に測定して補正し更に微調整したバッテリー20(バッテリ)の内部抵抗(内部抵抗値)を取得する演算部30及び関数記憶部35によるバッテリー20の内部抵抗の取得機能と、エンジンのアイドリングストップ(自動停止)中に、ECV40からの放電電圧推定要求の出力時点での前記バッテリー20(バッテリ)の電圧と放電電流とに基づいて、次のエンジンの再始動までの間におけるバッテリー20(バッテリ)のクランキング時の放電電圧(下限電圧)を推定する(予測する)クランキング時の放電電圧を推定する演算部30の機能(下限電圧予測手段)と」を備えており、
「定期的に測定して補正し更に微調整したバッテリー20(バッテリ)の内部抵抗(内部抵抗値)」、「ECV40からの放電電圧推定要求の出力時点でのバッテリー20(バッテリ)の電圧」及び「ECV40からの放電電圧推定要求の出力時点での前記バッテリー20(バッテリ)の放電電流」の複数のパラメータから「バッテリー20(バッテリ)の放電電圧(下限電圧)」を推定する(予測する)点(以下、「相違点」という。)。


4.当審の判断
上記相違点について以下に検討する。
(1)バッテリの内部抵抗値を取得するタイミングについて
本件発明においては、「現在の」時点であるのに対し、引用文献記載の発明においては、「定期的に測定して補正し更に微調整した」時点であり、本件発明も引用文献記載の発明もいずれも「最新の」時点である点で共通する。
引用文献記載の発明における「バッテリー20(バッテリ)の内部抵抗(内部抵抗値)」も各種状態で異なり、その最新の状態におけるものを取得することが前提となっているものと考えられ、しかも電子的に取得されることを考慮すれば、本件発明における「現在の」と引用文献記載の発明における「定期的に測定して補正し更に微調整した」とは格別の差異があるものとはいえない。

(2)使用するバッテリの電圧のタイミングについて
上記(1)と同様に、本件発明においては、「ECV40からの放電電圧推定要求の出力時点での」ものであるのに対し、引用文献記載の発明においては、現在の」時点であり、本件発明も引用文献記載の発明もいずれも「最新の」時点である点で共通する。
引用文献記載の発明における「バッテリー20(バッテリ)の電圧」も、その最新のものを使用することが前提となっているものと考えられ、しかも電子的に取得されることを考慮すれば、本件発明における「現在の」と引用文献記載の発明における「ECV40からの放電電圧推定要求の出力時点での」とは格別の差異があるものとはいえない。

(3)予測された最大放電電流について
引用文献記載の発明における「ECV40からの放電電圧推定要求の出力時点でのバッテリー20(バッテリ)の『放電電流』」は、放電電圧推定要求の出力時点であるので、略最大の電流値となるものと考えられるので、本件発明における「最大放電電流」と引用文献記載の発明における「放電電流」とは格別の差異があるものとはいえない。

(4)周知技術について
エンジンの始動制御において、スタータの内部抵抗値とワイヤハーネスの配線の配線抵抗値等との合計値であるスタータ合計抵抗値を算出するスタータ合計抵抗値算出手段を有しており、始動時の放電電流をバッテリの電圧とバッテリの内部抵抗値とに加え、さらにスタータ合計抵抗値算出手段により算出されたスタータ合計抵抗値にも基づいて算出することは、従来周知の技術(以下、「周知技術」という。例えば、特開2007-285172号公報の特に、段落【0026】及び【0027】及び図2、特開2008-94211号公報の特に、段落【0020】ないし【0027】参照。)。

(5)判断
上記(1)ないし(4)のことを総合的に勘案すると、引用文献1記載の発明において、上記周知技術を採用し、当該相違点に係る本件発明の発明特定事項とすることは当業者が容易になし得ることである。

(6)本件発明の奏する効果
そして、本件発明を全体として検討しても、本件発明の奏する効果は引用文献記載の発明及び周知技術から当業者が予測し得る程度のものである。


5.むすび
以上のとおり、本件発明は、引用文献記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-03-28 
結審通知日 2013-04-02 
審決日 2013-04-15 
出願番号 特願2010-8318(P2010-8318)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F02D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山村 和人  
特許庁審判長 小谷 一郎
特許庁審判官 藤原 直欣
柳田 利夫
発明の名称 エンジン自動制御装置  
代理人 伊藤 高順  
代理人 碓氷 裕彦  
代理人 井口 亮祉  

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