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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1275063
審判番号 不服2010-21310  
総通号数 163 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-07-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-09-22 
確定日 2013-06-05 
事件の表示 特願2006-245011「アゴメラチンと気分調整剤との新たな組み合わせ、及びそれを含有している医薬組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 3月29日出願公開、特開2007- 77149〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成18年9月11日(パリ条約による優先権主張2005年9月9日、フランス)の出願であって、平成22年5月20日付けで拒絶査定がなされ、これに対し平成22年9月22日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同日付けで手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願請求項1?4に係る発明は、平成22年9月22日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されたものであるところ、そのうち請求項3に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
「【請求項3】
単独で、又は一つ以上の医薬的に許容される賦形剤と併せて、気分調整剤と組み合わせられたアゴメラチン又はその水和物、結晶形もしくは医薬的に許容される酸もしくは塩基による付加塩を活性成分として含む、大うつ病性障害、気分循環性障害又は気分変調性障害の処置のための医薬組成物。」

第3 原査定の理由
原査定の理由は、平成21年11月24付け拒絶理由通知書に記載した理由2?5によって拒絶をすべきものであるとするもので、そのうち、理由4及び5は、それぞれ、発明の詳細な説明の記載が特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない、及び、特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていないというものであり、以下の点を指摘している。

『発明の詳細な説明には、実施例として、医薬組成物の処方例と、「最良の方法論条件における気分調整剤プラセボに対するアゴメラチン-バルプロ酸組み合わせの比較は、その組み合わせの方が優れていると結論付けることを可能にした」と記載されているのみであり、本願発明が目的とする所望の併用効果は、何ら具体的な薬理試験データを以て記載されておらず、そのようなデータと同視しうる程度の十分理論的な説明も記載されていない。
また、本願明細書の【0016】の医薬組成物はバルプロエートを含むものでなく、【0017】にも相乗効果の記載はない上、実験成績証明書にあるようなノルアドレナリンとドパミンの濃度によって併用効果を評価できることを示す記載は本願明細書にないから、この書面が本願明細書に基づいたものと解することはできない。
よって、本願発明は、発明の詳細な説明中で当業者が理解かつ実施することができる程度の明確かつ十分な記載がなされているとはいえず、また、その裏返しとして、十分合理的な裏付けが発明の詳細な説明中でなされているともいえない。』

第4 当審の判断
1 本願発明は上記第2で示したとおりの医薬組成物に関するものであって、気分調整剤と組み合わせられたアゴメラチン又はその水和物、結晶形もしくは医薬的に許容される酸もしくは塩基による付加塩を活性成分として含み、大うつ病性障害、気分循環性障害又は気分変調性障害の処置のために用いられるものであるといえる。

2 本願明細書の記載
上記1で挙げた活性成分による、大うつ病性障害、気分循環性障害又は気分変調性障害の処置に関し、本願の発明の詳細な説明には、次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。
(a)「【0001】
本発明は、気分障害、より具体的には、大うつ病性障害、気分循環性障害及び気分変調性障害の処置において使用するための医薬組成物を得るための、アゴメラチン又は式(I):
【化1】(略)
のN-[2-(7-メトキシ-1-ナフチル)エチル]アセトアミド又はその水和物、結晶形及び医薬的に許容される酸もしくは塩基による付加塩と、気分調整剤との組み合わせに関する。
【0002】
アゴメラチン又はN-[2-(7-メトキシ-1-ナフチル)エチル]アセトアミドは、メラトニン作用系の受容体のアゴニストである一方で、5-HT_(2C)受容体のアンタゴニストでもあるという二重の特徴を有している。これらの特性は、中枢神経系における活性、より具体的には、大うつ病、季節性情動障害、睡眠障害、心血管病理、消化器系の病理、時差ぼけによる不眠及び疲労、並びに食欲障害及び肥満の処置における活性をそれに与える。」
(b)「【0004】
出願人は、今回、気分調整剤と組み合わせて使用されたアゴメラチン又はN-[2-(7-メトキシ-1-ナフチル)エチル]アセトアミド又はその水和物、結晶形及び医薬的に許容される酸もしくは塩基による付加塩が、気分障害、より具体的には、大うつ病性障害、気分循環性障害及び気分変調性障害の処置において使用されることを可能にする貴重な特性を有していることを見出した。」
(c)「【0006】
大うつ病性障害は、悲しみ、悲観、自殺念慮、観念運動失行及び様々な身体的愁訴を特徴とする、急性の重篤な気分障害である。……気分循環性障害は、機能的障害は比較的少なく、双極性障害よりは重篤でない陽性(誇大的気分)及び陰性(抑うつ気分)の気分変動の反復的な出現を特徴とする:……最後に、気分変調性障害は、長期にわたる気分の変調及び機能的障害を特徴とする、慢性の重度の気分障害である。……
【0007】
この領域には多数の有効な分子が存在しているが(より具体的には、気分強壮薬(thymoanaleptics)及び気分調整薬が挙げられる)、いずれも、完全に満足がいくほどそれらの様々な病理学的状態が治療されることを可能にしないし、それらの多くは、相当の副作用を有している。従って、新たな代替的な処置法の開発が進行中であり、必要であり続けている。
【0008】
出願人は、今回、驚くべきことに、気分調整剤と組み合わせて使用されたアゴメラチンが、気分障害、より具体的には、大うつ病性障害、気分循環性障害及び気分変調性障害の処置に全く適した特性を有していることを発見した。躁状態の気分的誇大性に対して作用することを可能にする抗躁特性に関して一般的に記載されている気分調整剤は、現在のところ、双極性障害の処置において使用されている。出願人は、今回、これらの気分調整剤が、抑うつ性気分障害の領域においても躁病性障害の領域においてもアゴメラチンの効果を強化するという特徴を示すことを発見した。その予測不可能な効果は、本発明に係る組み合わせの使用が、気分障害、より具体的には、大うつ病性障害、気分循環性障害及び気分変調性障害の処置において検討されることを可能にする。」
(d)「【0010】
従って、本発明は、気分障害、より具体的には、大うつ病性障害、気分循環性障害及び気分変調性障害の処置を目的とした医薬組成物を得るための、アゴメラチン又はその水和物、結晶形及び医薬的に許容される酸もしくは塩基による付加塩と、気分調整化合物との組み合わせの使用に関する。」
(e)「【0015】
有用な投薬量は、患者の性別、年齢及び体重、投与経路、障害の性質及び組み合わせられる処置によって変動し、24時間当たりアゴメラチン1?50mgの範囲であり、より好ましくは1日25mgである。気分調整剤の用量は、それのみが投与される場合に使用される用量より少ないであろう。
【0016】
医薬組成物:
各々、活性成分25mgを含有している錠剤1000個の調製のための処方
N-[2-(7-メトキシ-1-ナフチル)エチル]アセトアミド・・・・・25g
乳糖一水和物・・・(略)
【0017】
臨床研究:
実施された臨床研究は、国際的命名法、特にDSM-IVを使用し、ハミルトンうつ病評価尺度(Hamilton Rating Scale for Depression)、ヤング躁病尺度(Young's mania scale)、臨床全般印象尺度(Global Clinical Impression scale)(これらは全て、有効なガイドラインによって推奨されている計測法である)のような確証された測定ツールも使用した。最良の方法論条件における気分調整剤プラセボに対するアゴメラチン-バルプロ酸組み合わせの比較は、その組み合わせの方が優れていると結論付けることを可能にした。」

3 特許法36条6項1号について
(1) 特許法36条6項1号の判断は、請求項に係る発明が、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるか否かを調べることにより行われる。そして、請求項に係る発明が、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えていると判断された場合には、請求項に係る発明は、発明の詳細な説明に実質的に記載されているとはいえず、特許法36条6項1号の規定に反するものとなる。
これを本願についてみると、本願発明は、上記1で挙げた有効成分を含む、「大うつ病性障害、気分循環性障害又は気分変調性障害の処置のための医薬組成物」に関するものであり、これまで完全に満足がいくほどの病理学的状態が治療されなかった、大うつ病性障害、気分循環性障害又は気分変調性障害の処置において使用されることが可能な上記有効成分を「大うつ病性障害、気分循環性障害又は気分変調性障害の処置のための医薬組成物」とすることを課題とするものである。そして、本願において発明の課題が解決できることとは、上記有効成分により、大うつ病性障害、気分循環性障害又は気分変調性障害が処置できることと認められる。

(2) 有効成分にあたる各化合物はいずれも公知のものであるが、アゴメラチンはメラトニン作用系の受容体のアゴニストである一方で、5-HT2C受容体のアンタゴニストでもあるという二重の特徴を有し、大うつ病、季節性情動障害等の治療への有用性が知られていたものの、アゴメラチンにより、上記(1)で挙げられた病理学的状態が十分に処置されていたわけではない。一方、バルプロ酸等の気分調整剤は、抗躁活性を示す成分として使用されるものの、気分調整剤により、抑うつ性気分障害を示すことは知られていない。そして、これらの成分を組み合わせた際に、気分調整剤が、抑うつ性気分障害の領域においても躁病性障害の領域においてもアゴメラチンの効果を強化するという特徴を有するとの技術常識はない。
そうすると、出願時の技術常識から本願発明組成物の特性が導け出せないのであるから、本願明細書の記載から、本願発明組成物が大うつ病性障害、気分循環性障害又は気分変調性障害が処置できるという作用を有することを理解できる必要がある。

(3) そこで本願明細書の記載をみると、発明の詳細な説明には、本願発明組成物により実際に大うつ病性障害、気分循環性障害又は気分変調性障害が処置されたことは明記されていない。そして、上記2の摘示事項(a)?(d)に、大うつ病性障害、気分循環性障害又は気分変調性障害の処置に関する記載はあるものの、本願発明組成物により大うつ病性障害、気分循環性障害又は気分変調性障害が処置されたことの客観的な根拠を伴った記載ではない。

(4) また、上記2の摘示事項(e)には、(i)有用な投薬量、(ii)各々が活性成分25mgを含有している錠剤1000個の調製のための処方、及び、(iii)臨床研究に関する記載がある。
しかし、(i)に関しては、段落【0015】にアゴメラチンの投薬量は明記されるものの、気分調整剤については、「それのみが投与される場合に使用される用量より少ないであろう。」と記載され、具体的に用いられた量ではなく、推測に基づく記載がなされるのみである。また、(ii)に関しても、錠剤1000個のための処方として、N-[2-(7-メトキシ-1-ナフチル)エチル]アセトアミド、すなわちアゴメラチンが25g用いられることが記載され、これは錠剤1個あたりアゴメラチンが25mg含まれることを意味しているから、「各々、活性成分25mgを含有している」錠剤における活性成分はアゴメラチンのみであって、気分調整剤の含有量は何ら明らかにされていない。そして、(i)、(ii)には、大うつ病性障害、気分循環性障害又は気分変調性障害が処置できたことは記載されていない。
一方、(iii)に関しては、ハミルトンうつ病評価尺度等の計測法は、いずれも疾病の評価に際しての尺度を提供するものであって、これらの計測法が存在することにより、大うつ病性障害、気分循環性障害又は気分変調性障害が処置されたわけではない。また、「気分調整剤プラセボ」と「アゴメラチン-バルプロ酸組み合わせ」との比較について記載されていることはわかるが、その前提となる「最良の方法論条件」がどのようなものか説明がなく、上記比較がどのような目的で、どのような観点に基づいて行われたのかも記載されていないため、「気分調整剤プラセボ」と「アゴメラチン-バルプロ酸組み合わせ」との間で何を比較したのかが不明である。さらに、上記比較については、「アゴメラチン-バルプロ酸組み合わせ」のほうが「優れていると結論づけることを可能とした。」と記載されているが、何らかの結論を得たわけではなく、結論を得るための尺度を示したに過ぎない。
したがって、上記2の摘示事項(e)をみても、本願発明の有効成分により、大うつ病性障害、気分循環性障害又は気分変調性障害が処置されたと当業者が解することはできない。

(5) 上記(4)の点について、請求人は平成24年3月27日付け回答書において、平成22年5月6日付け意見書に添付された実験成績証明書の内容が本願の当初明細書に基づいたものである旨を主張する([II-2]第1段落)。そこで、上記実験成績証明書をみると、ラットを用いて、アゴメラチン又はビヒクルの腹腔内投与、バルプロエート又はビヒクルの皮下投与により、ノルアドレナリン及びドパミンの濃度変化を検討した実験結果が記載されている。
しかし、上記実験に用いられたラットは大うつ病性障害、気分循環性障害又は気分変調性障害の疾患モデル動物というわけではなく、これらの症状を呈する患者と代替可能な試験対象とはいえない。また、試験結果として示された指標はノルアドレナリン及びドパミンの濃度であるが、請求人は、ノルアドレナリン及びドパミンが脳内において意欲、不安、恐怖、集中力、やる気などの精神機能と関連があり、気分障害の診断や改善の指標となる代表的な神経伝達物質である旨を主張するものの、これらの神経伝達物質を具体的にどのようにして気分障害の評価の尺度として用いるのかが示されておらず、しかも、ノルアドレナリン及びドパミンを指標とすることが本願明細書に記載されていない事項であるから、これらの指標によって、実際に大うつ病性障害、気分循環性障害又は気分変調性障害が処置されたことが記載されたとすることはできず、抑うつ性気分障害の領域においても躁病性障害の領域においてもアゴメラチンの効果を強化したことが記載されたものとも解することができない。
したがって、請求人の上記主張は採用することができない。

(6) よって、発明の詳細な説明の記載によって、有効成分により大うつ病性障害、気分循環性障害又は気分変調性障害が処置できることを当業者が認識できるように記載されたとはいえないから、本願発明は、発明の詳細な説明に記載されたとはいえない。

4 特許法36条4項1号について
(1)本願発明は、上記1で挙げた有効成分を含む、「大うつ病性障害、気分循環性障害又は気分変調性障害の処置のための医薬組成物」に関するものであり、医薬組成物によって大うつ病性障害、気分循環性障害又は気分変調性障害が処置されると解される。したがって、このような本願発明を当業者が実施することができる程度に発明の詳細な説明が記載されたといえるためには、発明の詳細な説明において、有効成分によって大うつ病性障害、気分循環性障害又は気分変調性障害が処置できることが記載される必要がある。

(2) この点について、発明の詳細な説明をみると、上記3の(3)でも指摘したように、有効成分により実際に大うつ病性障害、気分循環性障害又は気分変調性障害が処置できることは記載されておらず、上記2の摘示事項(a)?(d)に、大うつ病性障害、気分循環性障害又は気分変調性障害の処置に関する記載はあるものの、有効成分により大うつ病性障害、気分循環性障害又は気分変調性障害が処置されたことを記載したものではない。
また、上記3の(4)でも指摘したように、発明の詳細な説明には、有用な投薬量、各々が活性成分25mgを含有している錠剤1000個の調製のための処方、及び、臨床研究に関する記載があるものの(上記2の摘示事項(e))、本願発明の有効成分により、大うつ病性障害、気分循環性障害又は気分変調性障害が処置されたと当業者が解するに足る事項が記載されたものとはいえない。

(3) 請求人は審判請求理由(平成22年11月9日付け手続補正書(方式)を参照。)及び平成24年3月27日付け回答書において、平成22年5月6日付け意見書に添付された実験成績証明書の内容により、有効成分の併用効果を確認できる旨を主張する(審判請求理由の(4.2)第4段落、回答書の[II-2]第1段落)。
しかし、上記3の(5)でも指摘したように、上記実験に用いられたラットは大うつ病性障害、気分循環性障害又は気分変調性障害の疾患モデル動物というわけではなく、これらの症状を呈する患者と代替可能な試験対象とはいえず、試験結果として示された指標に関しても、ノルアドレナリン及びドパミンの濃度が実際に大うつ病性障害、気分循環性障害又は気分変調性障害が処置されたことを示すわけでもなく、抑うつ性気分障害の領域においても躁病性障害の領域においてもアゴメラチンの効果を強化したことが記載されたものとも解することができないから、請求人の上記主張は採用することができない。

5 小括
したがって、本願の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないから、特許法36条4項1号に規定される要件を満足するものではないとともに、本願発明が発明の詳細な説明に記載されたものではないから、同法36条6項1号に規定される要件を満足するものでもない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、本願は、特許法36条4項1号及び同条6項1号に規定する要件を満たしておらず、同法49条4号の規定により拒絶すべきである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-12-26 
結審通知日 2013-01-08 
審決日 2013-01-22 
出願番号 特願2006-245011(P2006-245011)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (A61K)
P 1 8・ 536- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 三輪 繁  
特許庁審判長 内田 淳子
特許庁審判官 荒木 英則
前田 佳与子
発明の名称 アゴメラチンと気分調整剤との新たな組み合わせ、及びそれを含有している医薬組成物  
復代理人 小澤 圭子  
代理人 齋藤 房幸  
代理人 津国 肇  
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