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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1275126
審判番号 不服2012-15440  
総通号数 163 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-07-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-08-08 
確定日 2013-06-07 
事件の表示 特願2011-514906「太陽電池用接着シート及びその製造方法並びに太陽電池モジュール」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 3月31日国際公開、WO2011/037233〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成22年9月27日(優先権主張 平成21年9月28日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成23年9月22日に手続補正がなされ、平成24年5月1日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年8月8日に拒絶査定不服審判が請求がなされたものである。

2 本願発明
本願の請求項1ないし4に係る発明は、平成23年9月22日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1ないし4にそれぞれ記載された事項によって特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「エチレン-酢酸ビニル共重合体及び有機過酸化物を含有する樹脂層が三層以上積層一体化してなる太陽電池用接着シートであって、最外層となる樹脂層を除いた樹脂層のうちの少なくとも一つの樹脂層は、エチレン-酢酸ビニル共重合体100重量部に対して着色剤を0.5?30重量部含有する着色層に形成され、この着色層の総厚みは上記太陽電池用接着シートの全厚みの50?95%であると共に、最外層となる樹脂層のうちの少なくとも一つの樹脂層はエチレン-酢酸ビニル共重合体100重量部に対してシランカップリング剤0.05?2重量部を含有していることを特徴とする太陽電池用接着シート。」

3 引用刊行物
(1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2008-117925号公報(以下「引用例1」という。)には、図とともに次の事項がに記載されている。

ア 「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池モジュールを作製する際に太陽電池素子と保護材とを接合するのに好適に用いられる太陽電池用接着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンやセレンの半導体ウェハーからなる太陽電池モジュールは、上下面に太陽電池用接着シートを積層した太陽電池素子の上面に上部透明保護材を、下面に下部基板保護材を重ね合わせた積層体を用意し、この積層体を減圧下で加熱圧着することにより、太陽電池素子の上下面に太陽電池用接着シートを介して保護材を積層一体化させて製造されている。
【0003】
このような太陽電池用接着シートとしては、透明性及び接着性に優れている点からエチレン系共重合体からなるものが多く用いられている。しかしながら、上記エチレン系共重合体からなる太陽電池用接着シートは、耐熱性に劣るため、太陽電池モジュールの製造工程における高温条件下や、得られた太陽電池モジュールを夏場などの高温条件下で使用した際に、変形してしまうという問題があった。
【0004】
そこで、上記エチレン系共重合体からなる太陽電池用接着シートに有機過酸化物を含有させ、太陽電池用接着シートの製造時に加えられる熱によってエチレン系共重合体を架橋させることにより、太陽電池用接着シートの耐熱性を向上させていた。
【0005】
そして、上記太陽電池用接着シートに含有される有機過酸化物としては、太陽電池モジュールの製造時における加熱時間を短縮して、太陽電池モジュールの生産効率を向上させる目的で、半減期温度の低いものが使用されるようになってきている。
【0006】
このような半減期温度の低い有機過酸化物を含有してなる太陽電池用接着シートとしては、例えば、特許文献1に、有機過酸化物を含有するエチレン共重合体からなる太陽電池モジュール用保護シートにおいて、有機過酸化物として、ジアルキルパーオキサイドと、アルキルパーオキシエステル及び/又はパーオキシケタールを特定割合で配合したものを用いることを特徴とする太陽電池モジュール用保護シートが提案されており、上記ジアルキルパーオキサイドの1時間半減期温度は130?160℃、アルキルパーオキシエステル及びパーオキシケタールの1時間半減期温度は100?135℃であることが好ましく、その製膜にはTダイ押出成形機を使用することが開示されている。
【0007】
上記太陽電池モジュール用保護シートのような半減期温度の低い有機過酸化物を含有してなる太陽電池用接着シートは、押出機により製膜する際に、高温で行うとエチレン系共重合体の架橋が進行してしまうため、低温で製膜する必要があった。そして、このように低温で太陽電池用接着シートを押出製膜する場合、押出機内及びTダイ内のエチレン系共重合体の粘度が高くなって、流動しにくくなるので、シートを製膜するのが困難になる傾向にあった。そこで、太陽電池用接着シートに半減期温度の低い有機過酸化物を含有させる場合、エチレン系共重合体としてはメルトフローレイト(MFR)が高いものを使用し製膜性を向上させていた。
【0008】
しかしながら、上記のようなメルトフローレイトの高いエチレン系共重合体からなる太陽電池用接着シートは、太陽電池モジュールの製造時の加熱工程において、樹脂成分が太陽電池モジュールの端部からはみ出し、太陽電池モジュール本体や太陽電池モジュールの製造装置を汚染してしまうという問題が生じた。
【0009】
【特許文献1】特開平11-26791号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、太陽電池モジュールの製造時の加熱工程において、太陽電池用接着シートを構成しているエチレン系共重合体がはみ出すことがほとんどなく、太陽電池モジュールの製造に好適に使用することのできる太陽電池用接着シートを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の太陽電池用接着シートは、押出機に接続されたTダイより製膜された、エチレン系共重合体及び有機過酸化物を含有してなるシート層が3層以上、積層一体化されてなる太陽電池用接着シートであって、両側最外シート層が、これらのシート層を構成しているエチレン系共重合体のメルトフローレイト(MFR)が20g/10分を超える高メルトフローレイト層であると共に、上記両側最外シート層を除いた残余のシート層のうちの少なくとも一層が、該シート層を構成しているエチレン系共重合体のメルトフローレイト(MFR)が20g/10分以下の低メルトフローレイト層であり、更に、上記低メルトフローレイト層の合計厚みが上記太陽電池用接着シートの厚みの50%以上であることを特徴とする。
【0012】
又、上記太陽電池用接着シートにおいて、中間シート層の両面に最外シート層が積層一体化されてなり、上記中間シート層が低メルトフローレイト層であると共に、上記両側最外シート層が高メルトフローレイト層であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の太陽電池用接着シートは、押出機に接続されたTダイより製膜された、エチレン系共重合体及び有機過酸化物を含有してなるシート層が3層以上、積層一体化されてなる太陽電池用接着シートであって、両側最外シート層が、これらのシート層を構成しているエチレン系共重合体のメルトフローレイト(MFR)が20g/10分を超える高メルトフローレイト層であると共に、上記両側最外シート層を除いた残余のシート層のうちの少なくとも一層が、該シート層を構成しているエチレン系共重合体のメルトフローレイト(MFR)が20g/10分以下の低メルトフローレイト層であり、更に、上記低メルトフローレイト層の合計厚みが上記太陽電池用接着シートの厚みの50%以上であることを特徴とし、低メルトフローレイト層は、その溶融時において、高い粘度を有し形態保持性に優れており、しかも、低メルトフローレイト層は太陽電池用接着シートの厚みの50%以上を占めているので、太陽電池用接着シートは、太陽電池モジュールの製造時の加熱圧着工程において加えられる熱によって形態が崩れ、得られる太陽電池モジュールの端部からはみ出し、太陽電池モジュールや製造装置を汚染するようなことはない。
【0014】
又、両側最外シート層が高メルトフローレイト層であると共に、上記両側最外シート層を除いた残余のシート層のうちの少なくとも一層が低メルトフローレイト層であるので、太陽電池用接着シートの製造時において、流動性の高い高メルトフローレイト層をTダイ内面に接触させてTダイ内面に対する流動摩擦力を低減させて押出性を向上させることができ、よって、太陽電池用接着シートは、その表面性に優れていると共に均質に形成されており、太陽電池モジュールの製造において、太陽電池素子と保護材とを全面的に強固に且つ確実に接着一体化することができる。
【0015】
更に、上記太陽電池用接着シートにおいて、中間シート層の両面に最外シート層が積層一体化されてなり、上記中間シート層が低メルトフローレイト層であると共に、上記両側最外シート層が高メルトフローレイト層である場合には、太陽電池モジュールの製造時の加熱圧着工程において、低メルトフローレイト層は、その溶融粘度が低いことから確実に形態を保持している一方、高メルトフローレイト層は、加熱圧着工程に加えられる熱によって流動性を有しているものの、低メルトフローレイト層に接しており、低メルトフローレイト層によってはみ出しが抑制されると共に、太陽電池用接着シートにおける高メルトフローレイト層の占める厚み割合も小さいので、太陽電池モジュールの製造時の加熱圧着工程における低メルトフローレイト層のはみ出しを防止することができ、得られる太陽電池モジュールや製造装置の汚染を防止し、優れた品質の太陽電池モジュールを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の太陽電池用接着シートの一例を図面を参照しながら説明する。太陽電池用接着シートAは、図1に示したように、中間シート層1cの両面に最外シート層1a、1bが積層一体化されてなり、上記両側最外シート層1a、1b及び中間シート層1cはそれぞれ、エチレン系共重合体及び有機過酸化物を含有してなる。
【0017】
両側最外シート層1a、1b及び中間シート層1cを構成しているエチレン系共重合体は、エチレンと、エチレンと共重合し得る共重合性モノマーとの共重合体であり、上記共重合性モノマーとしては、特に限定されず、例えば、酢酸ビニル、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、マレイン酸、無水マレイン酸、マレイン酸エステルなどが挙げられ、酢酸ビニルが好ましい。なお、上記共重合性モノマーは、単独でエチレンと共重合されていても、2種以上がエチレンと共重合されていてもよい。
【0018】
そして、上記エチレン系共重合体における共重合性モノマーの含有量は、少ないと、太陽電池用接着シートの透明性が低下し、得られる太陽電池モジュールの発電効率が低下したり、太陽電池用接着シートの接着性が低下したりすることがある一方、多いと、太陽電池用接着シートの製膜性や機械的強度が低下することがあるので、5?50重量%が好ましい。
【0019】
本発明の太陽電池用接着シートAでは、中間シート層1cを、エチレン系共重合体のメルトフローレイト(MFR)が20g/10分以下である低メルトフローレイト層とする一方、両側最外シート層1a、1bを、エチレン系共重合体のメルトフローレイト(MFR)が20g/10分を超える高メルトフローレイト層としている。
【0020】
このように、太陽電池用接着シートAの中間シート層1cを低メルトフローレイト層とすることによって溶融時の粘度を高めて、太陽電池モジュールを作製する際の加熱、圧着時に、太陽電池モジュールの端部から太陽電池用接着シートAがはみ出すことを阻止し、得られる太陽電池モジュールや製造装置が不測に汚染されるのを防止していると共に、両側最外シート層1a、1bを高メルトフローレイト層とすることによって溶融時の粘度を低くし、押出機に接続されたTダイ内面との間の流動摩擦抵抗を低減させて押出性を向上させており、太陽電池用接着シートAは、その表面性及び均質性に優れたものとなっており、太陽電池素子と保護材とを良好に接着一体化することができる。
【0021】
具体的には、上記太陽電池用接着シートAの両側最外シート層1a、1bを構成しているエチレン系共重合体のメルトフローレイトは、低いと、太陽電池用接着シートを低温で製膜する際の製膜性が低下するので、20g/10分を超える値に限定されるが、高過ぎると、太陽電池モジュールの作製時に太陽電池用接着シートのはみ出しを生じることがあるので、25?250g/10分が好ましい。
【0022】
又、上記太陽電池用接着シートAの中間シート層1cを構成しているエチレン系共重合体のメルトフローレイトは、高いと、太陽電池モジュールの製造時の加熱、圧着時に、太陽電池用接着シートのはみ出しを生じ、或いは、両側最外シート層のはみ出しを防止することができないので、20g/10分以下に限定されるが、低過ぎると、太陽電池用接着シートの製膜性が低下することがあるので、1?18g/10分であることが好ましく、5?15g/10分がより好ましい。
【0023】
そして、エチレン系共重合体のメルトフローレイトの調整は公知の要領でもって行うことができ、例えば、エチレン系共重合体の重合度を調整したり、共重性モノマーの種類及び含有量を調整することによって行うことができる。
【0024】
なお、本発明におけるエチレン系共重合体のメルトフローレイトは、JIS K6922-2に準拠して190℃で測定された値をいう。エチレン系共重合体を複数種類混合させて用いている場合には、エチレン系共重合体のメルトフローレイトとは、混合したエチレン系共重合体全体の見掛け上のメルトフローレイトをいう。
【0025】
そして、上記太陽電池用接着シートAの両側最外シート層1a、1b及び中間シート層1cに含有される有機過酸化物としては、特に限定されず、例えば、ビス(2-t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン(138℃)、ジクミルパーオキサイド(136℃)、ジ-t-ヘキシルパーオキサイド(136℃)、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン(138℃)、t-ブチルクミルパーオキサイド(137℃)、ジ-t-ブチルパーオキサイド(144℃)、p-メンタンハイドロパーオキサイド(151℃)、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3(150℃)、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-2-メチルシクロヘキサン(102℃)、1,1-ビス(t-ヘキシルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン(106℃)、1,1-ビス(t-ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン(107℃)、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン(111℃)、2,2-ビス(4,4-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキシル)プロパン(114℃)、t-ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート(115℃)、t-ブチルパーオキシマレイン酸(119℃)、t-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート(119℃)、t-ブチルパーオキシラウレート(118℃)、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート(118℃)、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルモノカーボネート(119℃)、t-ヘキシルパーオキシベンゾエート(119℃)、2,5-ジメチル-2,5-ビス(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン(119℃)、t-ブチルパーオキシアセテート(121℃)、2,2-ビス(t-ブチルパーオキシ)ブタン(122℃)、t-ブチルパーオキシベンゾエート(125℃)、n-ブチル-4,4-ビス(t-ブチルパーオキシ)バレレート(127℃)などが挙げられ、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキサンが好ましい。これらの有機過酸化物は単独で用いられても、2種以上が併用されてもよい。なお、上記括弧内の温度は1時間半減期温度を表す。
【0026】
又、上記太陽電池用接着シートAの両側最外シート層1a、1b及び中間シート層1cにおける有機過酸化物の含有量は、少ないと、エチレン系共重合体の架橋が不十分になって、太陽電池用接着シートの耐熱性が不足することがある一方、多いと、太陽電池用接着シートの製膜時に、エチレン系共重合体の架橋が進行し、均一な厚みの太陽電池用接着シートが得られなくなることがあるので、エチレン系共重合体100重量部に対して、0.05?3重量部が好ましく、0.1?1重量部がより好ましい。
【0027】
更に、上記太陽電池用接着シートA全体の厚みに対する中間シート層1cの厚みの占める割合は、低いと、太陽電池モジュールの製造時の加熱、圧着工程において、太陽電池用接着シートのはみ出しを防止できなくなる一方、高いと、太陽電池用接着シートを低温で製膜する際の製膜性が低下するので、50%以上に限定され、60?85%が好ましい。
【0028】
上記太陽電池用接着シートAでは、中間シート層が1層である場合について説明したが、中間シート層1cは、複数の低メルトフローレイト層が積層一体化されてなるものであってもよく、又、中間シート層1cは、一又は複数の低メルトフローレイト層と、一又は複数の高メルトフローレイト層とを任意の順序にて積層一体化させたものであってもよい。」

イ 「【実施例】
【0044】
(実施例1?3、比較例1,2)
3機の押出機が同一のフィードブロックを介して同一のTダイに接続された3層共押出装置を用意し、これらの押出機のうちの2機を両側最外シ-ト層1a、1b用とし、残りの1機を中間シート層1c用として、両側最外シ-ト層1a、1b用の2機の押出機に、表1に示すような酢酸ビニル含有量及びメルトフローレイト(MFR)を有するエチレン-酢酸ビニル共重合体100重量部、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン(1時間半減期温度:138℃)1重量部、トリアリルイソシアヌレート0.3重量部、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン0.1重量部、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール0.1重量部及び2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン0.3重量部からなる樹脂組成物を供給する一方、中間シート層1c用の押出機に、表1に示すような酢酸ビニル含有量及びメルトフローレイトを有するエチレン-酢酸ビニル共重合体100重量部、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン(1時間半減期温度:138℃)1重量部、トリアリルイソシアヌレート0.3重量部、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン0.1重量部、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール0.1重量部及び2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン0.3重量部からなる樹脂組成物を供給した。
【0045】
次に、3機それぞれの押出機にて、樹脂組成物を90℃で溶融混練し、溶融状態の樹脂組成物をフィードブロックに供給して、フィードブロックの先端に配設されたTダイより、最外シ-ト層1a、中間シート層1c、最外シ-ト層1bの順に積層一体化された状態で且つその厚み比(最外シート層1aの厚み/中間シート層1cの厚み/最外シート層1bの厚み)が表1に示した厚み比となるように押出して太陽電池用接着シートAを製膜した。そして、Tダイより押出された直後の溶融状態の太陽電池用接着シートAを、エンボスロールと、このエンボスロールに対峙して配設されたゴムロールとの間に供給し、エンボスロールを溶融状態の太陽電池用接着シートAに押圧させて、太陽電池用接着シートAの表面に深さ0.2mmのエンボス加工を施した後、冷却ロールによって冷却しながら巻き取ることにより、低メルトフローレイト層である中間シート層1cの両面に、高メルトフローレイト層である最外シート層1a、1bが積層一体化されてなる厚みが0.5mmの太陽電池用接着シートAを得た。」

ウ 上記ア及びイからみて、引用例1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「中間シート層1cの両面に最外シート層1a、1bが積層一体化されてなり、上記両側最外シート層1a、1b及び中間シート層1cはそれぞれ、エチレン-酢酸ビニル共重合体及び有機過酸化物を含有してなる太陽電池用接着シートであって、太陽電池用接着シート全体の厚みに対する中間シート層1cの厚みの占める割合は、60?85%が好ましく、両側最外シ-ト層1a、1bは、エチレン-酢酸ビニル共重合体100重量部に対して、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン0.1重量部を含有している太陽電池用接着シート。」

(2)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2009-94320号公報(以下「引用例2」という。)には、図とともに次の事項が記載されている。

ア 「【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、光反射性、および接着性に優れ、かつ上記接着性を長期間維持することができる太陽電池モジュール用裏面充填材シートを提供することを主目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために本発明は、白色層用透明樹脂および白色顔料を有する白色層と、上記白色層を挟持する接着層用透明樹脂を有する接着層とを有する太陽電池モジュール用裏面充填材シートであって、上記接着層用透明樹脂が、シラン変性透明樹脂であることを特徴とする太陽電池モジュール用裏面充填材シートを提供する。
【0012】
本発明によれば、白色層用透明樹脂および白色顔料を有する白色層と、上記白色層を挟持する接着層用透明樹脂を有する接着層とを有し、かつ上記接着層用透明樹脂がシラン変性透明樹脂であることにより、本発明の太陽電池モジュール用裏面充填材シートを、光反射性および接着性に優れたものとすることができる。したがって、太陽電池モジュールに用いた場合には、上記太陽電池モジュールを構成する裏面保護シートおよび太陽電池素子と十分な密着強度で積層することができ、さらに、太陽電池素子を透過した光を効率的に反射することができるため、優れた光電変換効率を有する太陽電池モジュールとすることができる。
また、上記接着層に上記白色顔料が含まれていないため、上記接着層に含まれる接着層用透明樹脂が有するアルコキシシリル基が加水分解し、さらに縮合することによるシロキサン基の形成を抑えることができ、優れた接着性を長期間維持することができる。
【0013】
本発明においては、上記白色層用透明樹脂が、非シラン変性透明樹脂であることが好ましい。上記白色層用透明樹脂が、非シラン変性透明樹脂であることにより、本発明の太陽電池モジュール用裏面充填材シートを低コストで生産することができるからである。」

イ 「【0024】
本発明の太陽電池モジュール用裏面充填材シートは、白色層と、接着層とを有するものである。
以下、このような太陽電池モジュール用裏面充填材シートの各構成について説明する。
【0025】
1.白色層
本発明に用いられる白色層は、白色層用透明樹脂および白色顔料を有するものであり、太陽電池モジュールに用いた際に、太陽電池素子を透過した光を反射することができるものであれば特に限定されるものではない。以下、このような白色層について説明する。
【0026】
(1)白色層用透明樹脂
本発明に用いられる白色層に含まれる白色層用透明樹脂は、後述する白色顔料と反応することなく、かつ後述する接着層と十分な強度で接着することができる透明樹脂であれば、特に限定されるものではない。
本発明においては、上記白色層用透明樹脂が、アルコキシシリル基を含まない透明樹脂である非シラン変性透明樹脂であることが好ましい。…(略)…
【0027】
このような非シラン変性透明樹脂としては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブチレン、1-ペンテン、2-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、および1-デセン等のα?オレフィンや、その他の不飽和モノマーのうち、1種類、または2種類以上を共重合したものを用いることができる。
ここで、上記不飽和モノマーとしては、例えば酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、マレイン酸ジメチル等の不飽和カルボン酸エステル;(メタ)アクリル酸、フマル酸、イタコン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、無水マレイン酸、無水イタコン酸等の不飽和カルボン酸、および不飽和カルボン酸の塩を挙げることができ、さらに、スチレン、(メタ)アクリロニトリル、ビニルアルコール等を用いても良い。上記不飽和カルボン酸の塩としては、リチウム、ナトリウム、カリウムなどの1価金属、マグネシウム、カルシウム、亜鉛などの多価金属の塩などを挙げることができる。
【0028】
…(略)…
【0033】
(2)白色顔料
本発明に用いられる白色層に含まれる白色顔料としては、上述した白色層用透明樹脂に均一に分散することができ、本発明の太陽電池モジュール用裏面充填材シートを太陽電池モジュールに用いた場合に、上記太陽電池モジュールに含まれる太陽電池素子を透過した光を効率よく反射することができるものであれば特に限定されるものではない。
【0034】
このような白色顔料としては、具体的には、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化珪素、酸化アルミニウム等の金属酸化物;炭酸カルシウム、硫酸バリウム等の無機化合物のうちの1種類のみを単独で用いても良く、2種類以上を併用して用いても良い。本発明においては、なかでも酸化チタン、酸化亜鉛、炭酸カルシウムを好ましく用いることができる。これらの白色顔料は、優れた光反射性を有するものであるため、好適に用いることができ、かつ吸湿性を有することから、本発明において、吸湿性を有することによる接着性低下を抑制する効果を、特に発揮することができるからである。また、これらの白色顔料のなかでも、特に酸化チタンを好ましく用いることができる。少ない添加量で十分な光反射性を示すことができるため、上記太陽電池モジュール用裏面充填材シートを低コストで生産することができるからである。
【0035】…(略)…
【0036】
本発明に用いられる白色顔料の含有量としては、光を反射することができれば特に限定されるものではなく、上記白色層中において、0.3質量%?3質量%の範囲内であることが好ましく、なかでも0.5質量%?2質量%の範囲内であることが好ましい。
また、上記白色顔料として酸化チタンを用いる場合における含有量としては、上記白色層中において、0.3質量%?3質量%の範囲内であることが好ましく、なかでも0.5質量%?2質量%の範囲内であることが好ましい。上記範囲より少ないと、効率よく光を反射することができないからであり、上記範囲より多いと、反射効率は変わらず、生産時のコストが高くなるからである。」

ウ 上記イの「本発明においては、上記白色層用透明樹脂が、アルコキシシリル基を含まない透明樹脂である非シラン変性透明樹脂であることが好ましい。…(略)…非シラン変性透明樹脂としては、例えば、エチレン、…(略)…や、その他の不飽和モノマーのうち、1種類、または2種類以上を共重合したものを用いることができる。 ここで、上記不飽和モノマーとしては、例えば酢酸ビニル、…(略)…を挙げることができる。」(【0026】及び【0028】参照。)及び「本発明に用いられる白色顔料の含有量としては、光を反射することができれば特に限定されるものではなく、上記白色層中において、0.3質量%?3質量%の範囲内であることが好ましく、なかでも0.5質量%?2質量%の範囲内であることが好ましい。」(【0036】参照。)との記載から、「白色層の白色層用透明樹脂はエチレン-酢酸ビニル共重合体であり、白色顔料の含有量としては、エチレン-酢酸ビニル共重合体100質量%に対して、0.5質量%?2質量%の範囲内である」といえる。

エ 上記アないしウからみて、引用例2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

「光反射性、および接着性に優れ、かつ接着性を長期間維持することができ、白色層用透明樹脂および白色顔料を有する白色層と、前記白色層を挟持する接着層用透明樹脂を有する接着層とを有し、前記接着層用透明樹脂が、シラン変性透明樹脂である太陽電池モジュール用裏面充填材シートにおいて、前記白色層の前記白色層用透明樹脂はエチレン-酢酸ビニル共重合体であり、前記白色顔料の含有量としては、前記エチレン-酢酸ビニル共重合体100質量%に対して、0.5質量%?2質量%の範囲内である太陽電池モジュール用裏面充填材シート。」

4 対比
本願発明と引用発明1とを対比する。
(1)引用発明1の「エチレン-酢酸ビニル共重合体」、「有機過酸化物」、「3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン」、「最外シート層1a、1b」、「中間シート層1c」及び「太陽電池用接着シート」は、それぞれ、本願発明の「エチレン-酢酸ビニル共重合体」、「有機過酸化物」、「シランカップリング剤」、「最外層となる樹脂層」、「最外層となる樹脂層を除いた樹脂層のうちの少なくとも一つの樹脂層」及び「太陽電池用接着シート」に相当する。

(2)したがって、両者は、「エチレン-酢酸ビニル共重合体及び有機過酸化物を含有する樹脂層が三層以上積層一体化してなる太陽電池用接着シートであって、最外層となる樹脂層を除いた樹脂層のうちの少なくとも一つの樹脂層の総厚みは上記太陽電池用接着シートの全厚みの50?95%であると共に、最外層となる樹脂層のうちの少なくとも一つの樹脂層はエチレン-酢酸ビニル共重合体100重量部に対してシランカップリング剤0.05?2重量部を含有している太陽電池用接着シート」である点で一致し、次の点で相違する。

相違点:
最外層となる樹脂層を除いた樹脂層のうちの少なくとも一つの樹脂層が、本願発明では、「エチレン-酢酸ビニル共重合体100重量部に対して着色剤を0.5?30重量部含有する着色層」に形成されているのに対して、引用発明では、そのようなものか否か明らかでない点。

5 判断
上記相違点について検討する。
(1)引用例2には、上記3(2)のとおり、引用発明2(上記3(2)エ参照。)が記載されている。
(2)引用発明2の「白色層」、「接着層」及び「太陽電池モジュール用裏面充填材シート」は、それぞれ、本願発明の「着色層」、「最外層」及び「太陽電池用接着シート」に相当する。
してみると、引用発明2の「太陽電池モジュール用裏面充填材シート」は、本願発明の「『樹脂層が三層積層一体化してな』り、『最外層となる樹脂層を除いた樹脂層は、エチレン-酢酸ビニル共重合体100重量部に対して着色剤を0.5?2重量部含有する着色層に形成され』」、との事項を備えるものである。
(3)しかるところ、引用発明1も引用発明2もいずれも太陽電池を接着するための共通した作用機能を有する太陽電池用接着シートであるから、引用発明1において、引用発明2と同様に、光反射性、および接着性に優れ、かつ上記接着性を長期間維持することができるよう、引用発明1の「中間シート層1c」として、エチレン-酢酸ビニル共重合体100重量部に対して着色剤を0.5?2重量部含有するものを用い、すなわち、引用発明1において、上記相違点に係る本願発明の構成となすことは、当業者が引用発明2に基づいて当業者が容易になし得たことである。
(4)効果について
本願発明の奏する効果は、当業者が、引用発明1の奏する効果及び引用発明2の奏する効果から予測できた程度のものである。

6 むすび
本願発明は、以上のとおり、当業者が引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-04-04 
結審通知日 2013-04-10 
審決日 2013-04-23 
出願番号 特願2011-514906(P2011-514906)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 和田 将彦  
特許庁審判長 吉野 公夫
特許庁審判官 菅野 芳男
黒瀬 雅一
発明の名称 太陽電池用接着シート及びその製造方法並びに太陽電池モジュール  
代理人 山本 拓也  

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