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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A01N
管理番号 1275479
審判番号 不服2009-21529  
総通号数 164 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-08-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-11-06 
確定日 2013-06-12 
事件の表示 特願2003-531815「殺虫剤組成物」拒絶査定不服審判事件〔2003年4月10日国際公開、WO03/28465、平成17年2月10日国内公表、特表2005-504107〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、2002年9月23日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2001年9月24日(FR)フランス)を国際出願日とする出願であって、以降の手続の経緯は以下のとおりのものである。

平成20年10月31日付け 拒絶理由通知
平成21年 5月 8日 意見書・誤訳訂正書・手続補正書
同年 6月29日付け 拒絶査定
同年11月 6日 審判請求
同日 手続補正書
同年12月25日 手続補足書
平成23年 4月28日付け 審尋
同年11月10日 回答書
平成24年 6月13日付け 平成21年11月6日付けの手続補正の却
下の決定
同日付け 拒絶理由通知
同年12月19日 意見書・手続補正書

第2 平成24年6月13日付け拒絶理由通知について
当審は、平成24年6月13日付けで拒絶理由を通知したが、その拒絶理由通知の内容の概略は以下のとおりのものである。

「・・

第2 平成21年11月6日付けの手続補正についての補正却下の決定
平成21年11月6日付けの手続補正は・・この拒絶理由通知と同日付けの補正却下をもって、却下された。
・・

第3 本願発明について
上記第2のとおり、平成21年11月6日付け手続補正は決定をもって却下されたので、この出願の発明は、同年5月8日付け手続補正により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される・・とおりのものであると認める(以下、請求項1?5の特許を受けようとする発明をそれぞれ「本願発明1」?「本願発明5」といい、区別せずに「本願発明」ということがある。)。
・・

第4 拒絶の理由1
本願発明1・・は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


刊行物1:国際公開第2001/19189号(当審で新たに引用する文献)
・・
刊行物3:米国特許第5580567号明細書(当審で新たに引用する文献)
・・

2 刊行物に記載された発明
(1)刊行物1に記載された発明
刊行物1には・・
「活性化合物としてインドキサカルブ及びエチプロールを含み、噴霧に好適な液体組成物に調製するために鉱油、植物油等を用いる殺虫組成物」
である引用発明1が記載されていると認められる。
・・

3 本願発明1についての検討
(1)本願発明1と引用発明1を対比する場合について
ア 対比
・・本願発明1と引用発明1は、
「殺虫活性化合物としてエチプロールならびに植物油を含有する殺虫剤組成物」
という点で一致し、以下の点で一応相違する。

相違点1’
殺虫活性化合物として、本願発明1では、エチプロール以外のものが特定されていないのに対し、引用発明1では、エチプロール及びインドキサカルブが特定されている点

相違点2’
植物油として、本願発明1では、・・大豆油・・及び菜種油から選択される植物油と特定されているのに対し、引用発明1では、そのような特定がされていない点

イ 相違点についての検討
(ア)相違点1’について
・・上記相違点1’は実質的な相違点ではない。
また、仮に本願発明1が任意成分を排除する、又は任意成分・・を含まないものであるとしても・・引用発明1において、例えば上記トビイロウンカのように、インドキサカルブとエチプロールのうちエチプロールのみで活性が示される害虫を防除対象とする場合に、活性化合物として、その効果が期待できる「エチプロール」のみを採用することは、当業者が容易に想到できたことであるといえる。

(イ)相違点2’について
引用発明1において、その噴霧に好適な液体組成物に調製するために用いる鉱油、植物油等として、・・「菜種油」・・「大豆油」・・を用いることは・・当業者が容易に想到できたことである。
・・

ウ 効果について
・・菜種油・・大豆油・・等の植物油が、噴霧液の特性や特定の殺虫剤の生物学的効果を向上させ、それによって殺虫効果を向上させるものであることは、当該技術分野においてよく知られたことであるから、・・引用発明1において、鉱油、植物油等として・・「菜種油」・・「大豆油」・・を採用したものが、油成分を含有しないものよりも高い殺虫効力を発揮することは当業者が予測することができたことであるといえる。
そして、本願明細書の記載を参酌しても、上記予測に反するような記載や示唆は認められず、そのような技術常識も認められない。

エ 小括
したがって、本願発明1は刊行物1に記載された発明(引用発明1)並びに刊行物3・・に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明することができたものである。
・・

8 まとめ
以上から、本願発明1・・は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
・・」

第3 当審の判断
当審の上記拒絶理由通知に対して、指定期間内に意見書及び手続補正書が提出されたので、その補正された後のこの出願の発明につき上記「第4 拒絶の理由1」と同様の理由が成立するか否か再度検討を行う。

1 本願発明
この出願の発明は、平成21年5月8日付けの誤訳訂正及び手続補正、並びに平成24年12月19日付けの手続補正により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)の特許請求の範囲の記載からみて、請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものであると認める。

「殺虫活性化合物としてエチプロール(化学名:5-アミノ-3-シアノ-1-(2,6-ジクロロ-4-トリフルオロメチルフェニル)-4-エチルスルフィニルピラゾール)並びに大豆油及び菜種油から選択される植物油を含有することを特徴とする殺虫剤組成物。」

2 刊行物に記載された事項
(1)上記拒絶理由通知で引用したこの出願の優先日前に頒布された刊行物である上記刊行物1には、当審の和訳にして、以下の事項が記載されている。

(1-ア)「本発明は害虫群を防除するための組成物及び方法に関する。組成物は、米作物に施用したときにトビイロウンカ(Nilaparvata lugens)、コブノメイガ(Cnaphalocrocis medinalis)及びツマグロヨコバイ種(Nephotettix ssp.)、例えばツマグロヨコバイ(Nephotettix cincticeps)の害虫群を少なくとも防除するのに有効な量で1以上の上記式1Aを有する化合物及び1つ以上の上記式1B?1Gを有する化合物を含み、好ましい化合物にはインドキサカルブ及びエチプロールが含まれる。・・」(第24頁第14?21行)
(1-イ)「I.殺虫組成物
組成物は、1つ以上の式1Aを有する化合物及び1以上の式1B?1Gを有する化合物を含む。好ましい化合物はインドキサカルブ及びエチプロールであり・・」(第24頁第29?32行)
(1-ウ)「A.インドキサカルブ
インドキサカルブそれ自体はトビイロウンカ(Nilaparvata lugens)に対して特に活性でないが、コブノメイガ(Cnaphalocrocis medinalis)に対して高活性を有する。」(第26頁第5?8行)
(1-エ)「B.エチプロール
エチプロールはコブノメイガ(Cnaphalocrocis medinalis)に対して特に活性でないが、トビイロウンカ(Nilaparvata lugens)に対して活性を示す。」(第27頁第1?4行)
(1-オ)「D.任意追加成分
適当ならば、組成物は、それぞれ慣用されている適当な担体、駆虫薬、殺球虫薬、共力剤、微量元素、安定剤、接着材、湿潤剤、分散剤、乳化剤、浸透剤、溶媒、フィラー及び/または担体を含み得る。
噴霧、煙霧、そして低量又は極低量噴霧に好適なエアロゾル、水性もしくは非水性溶液、又は分散液の形態の組成物を用いることができる。」(第28頁第8?16行)
(1-カ)「組成物を施用するための液体組成物は、場合により天然または合成ポリマーにカプセル化される組成物の溶液、懸濁液または乳濁液の形態をとり得、組成物は所望により湿潤剤、分散剤または乳化剤を含み得る。乳濁液、懸濁液及び溶液は、水性、有機または水性-有機希釈剤、例えばアセトフェノン、イソホロン、トルエン、キシレン、鉱油、動物油、植物油、水溶性ポリマー及びその混合物を用いて調製され得、上記したタイプのようなイオン性及び/または非イオン性の湿潤剤、分散剤または乳化剤を含んでいてもよい。」(第29頁第11?20行)
(1-キ)「E.本明細書に記載の組成物を含む製剤
エチプロール及びインドキサカルブの混合比は、防除しようとする害虫の相対群を含めた多数の要因に応じて広範囲で変更可能である。」(第30頁第7?10行)
(1-ク)「II.処理可能な害虫
好ましくは、組成物は米作物を攻撃する最も一般的な害虫であるトビイロウンカ(Nilaparvata lugens)、コブノメイガ(Cnaphalocrocis medinalis)及びツマグロヨコバイ種(Nephotettix spp.)、例えばツマグロヨコバイ(Nephotettix cincticeps)のような害虫に対して米作物を処理するために使用される。」(第33頁第15?20行)

(2)上記拒絶理由通知で引用したこの出願の優先日前に頒布された刊行物である上記刊行物3には、当審の和訳にして、以下の事項が記載されている。

(2-ア)「石油系炭化水素噴霧油は、堆積特性及び噴霧液の湿潤性及び拡散性を高め、噴霧堆積がより均一になるという結果をもたらすこと、又は、特定の殺虫剤の生物学的効果を向上させることで、除草剤、殺菌剤及びその他殺虫剤の有効性を向上させることが知られている。エステル化植物油及び精製植物油のような油も、同様の特性を示すことが知られている。そのような噴霧油は浸透性や遅蒸発性を向上させることができる。」(第1欄第47?56行)
(2-イ)「この発明の組成物に好適な植物油に含まれるものは、綿実油、キャノーラ種油、菜種油、ピーナッツ油、ヒマワリ油、亜麻仁油、紅花油、大豆油、トウモロコシ油、オリーブ油、ココナッツ油、トールオイル、又はその他種子油・・」(第3欄第48?53行)

3 刊行物1に記載された発明
刊行物1には、「米作物を攻撃する最も一般的な害虫であるトビイロウンカ(Nilaparvata lugens)・・のような害虫に対して米作物を処理するために使用される」(摘示(1-ク))組成物について、「害虫群を防除するための・・組成物は、米作物に施用したときにトビイロウンカ・・を少なくとも防除するのに有効な量で・・好ましい化合物・・インドキサカルブ及びエチプロールが含まれること」(摘示(1-ア))が記載されている。
また、「殺虫組成物・・は・・化合物を含む・・好ましい化合物はインドキサカルブ及びエチプロールであ」(摘示(1-イ))るという記載からみて、上記「害虫群を防除するための組成物」が殺虫組成物で、上記「インドキサカルブ及びエチプロール」が殺虫活性を示す化合物であることは自明である。
さらに、刊行物1には、「任意追加成分・・を含み得・・噴霧・・に好適な・・水性もしくは非水性溶液、又は分散液の形態の組成物を用いることができ」(摘示(1-オ))、「施用するための液体組成物は・・希釈剤例えば・・鉱油・・植物油・・を用いて調製され得」(摘示(1-カ))ることが記載されている。
したがって、刊行物1には、
「トビイロウンカのような害虫に対して米作物を処理するために使用される殺虫組成物であって、活性化合物としてのインドキサカルブ及びエチプロール、並びに噴霧に好適な液体組成物に調製するための鉱油、植物油等希釈剤を含有する殺虫組成物」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

4 検討
(1)本願発明と引用発明の対比
本願発明と引用発明を対比する。
引用発明における「殺虫組成物」、「活性化合物」、「エチプロール」は、本願発明における「殺虫剤組成物」、「殺虫活性化合物」、「エチプロール(化学名:5-アミノ-3-シアノ-1-(2,6-ジクロロ-4-トリフルオロメチルフェニル)-4-エチルスルフィニルピラゾール)」に相当する。
また、「殺虫剤組成物」の第一の成分を「殺虫活性化合物」とすると、引用発明における「噴霧に好適な液体組成物に調製するための鉱油、植物油等希釈剤」、本願発明における「大豆油及び菜種油から選択される植物油」は、いずれも殺虫剤組成物の第二の成分であるといえる。
してみると、本願発明と引用発明は、
「殺虫活性化合物としてエチプロール(化学名:5-アミノ-3-シアノ-1-(2,6-ジクロロ-4-トリフルオロメチルフェニル)-4-エチルスルフィニルピラゾール)並びに第二の成分を含有する殺虫剤組成物」
という点で一致し、以下の点で一応相違する。

相違点1
殺虫活性化合物として、本願発明では、「エチプロール」のみが特定されているのに対し、引用発明1では、さらに「インドキサカルブ」が特定されている点

相違点2
殺虫剤組成物の第二の成分として、本願発明では、「大豆油及び菜種油から選択される植物油」が特定されているのに対し、引用発明1では、「噴霧に好適な液体組成物に調製するための鉱油、植物油等希釈剤」が特定されている点

(2)相違点についての検討
ア 相違点1について
本願発明は、「・・エチプロール・・並びに・・植物油を含有することを特徴とする殺虫剤組成物」の発明であって、「・・を含有する」という表現から、その「殺虫剤組成物」は、「エチプロール」並びに「植物油」を必須成分とするもので、必須成分以外の成分、例えば「インドキサカルブ」を任意に含有できるものであると認められる。
してみると、上記相違点1は実質的な相違点ではない。

また、仮に本願発明の殺虫活性化合物が実質的に「エチプロール」からなるとしても、刊行物1には、「エチプロール及びインドキサカルブの混合比は、防除しようとする害虫の相対群を含めた多数の要因に応じて広範囲で変更可能である」(摘示(1-キ))と記載されているように、防除しようとする害虫の相対群等を考慮してエチプロール及びインドキサカルブの混合比を変更することが示唆されているから、「インドキサカルブそれ自体はトビイロウンカ(Nilaparvata lugens)に対して特に活性でないが、コブノメイガ(Cnaphalocrocis medinalis)に対して高活性を有する」(摘示(1-ウ))一方、「エチプロールはコブノメイガ(Cnaphalocrocis medinalis)に対して特に活性でないが、トビイロウンカ(Nilaparvata lugens)に対して活性を示す」(摘示(1-エ))ことを考慮すれば、トビイロウンカのように、エチプロール及びインドキサカルブのうちエチプロールのみで活性が示される害虫を防除対象として、引用発明における上記混合比を、活性が示されるエチプロール過剰の混合比とすること、さらには、殺虫活性化合物が実質的に「エチプロール」からなる構成とすることは、当業者が容易に想到できたことであるといえる。

イ 相違点2について
刊行物3において、「石油系炭化水素噴霧油は、堆積特性及び噴霧液の湿潤性及び拡散性を高め、噴霧堆積がより均一になるという結果をもたらすこと、又は、特定の殺虫剤の生物学的効果を向上させることで、除草剤、殺菌剤及びその他殺虫剤の有効性を向上させることが知られている」(摘示(2-ア))、「エステル化植物油及び精製植物油のような油も、同様の特性を示すことが知られている」(摘示(2-ア))、「そのような噴霧油は浸透性や遅蒸発性を向上させることができる」(摘示(2-ア))、「この・・植物油に含まれるものは・・菜種油・・大豆油・・」(摘示(2-イ))と記載されているように、菜種油、大豆油等の植物油が、噴霧堆積特性、浸透性等を向上させ、それによって殺虫剤の有効性を向上させるものであることは、この出願の優先日前に当該技術分野においてよく知られた事項である。
そして、引用発明において、殺虫剤組成物の第二の成分である鉱油、植物油等希釈剤が、噴霧に好適な液体組成物に調製するためのものであることを考慮すると、その鉱油、植物油等希釈剤として、噴霧堆積特性等を向上させ、それによって殺虫剤の有効性を向上させることが知られた植物油、中でも「菜種油」又は「大豆油」を採用することは、当業者が容易に想到できたことである。

(3)効果について
ア 本願発明の効果
本願明細書の段落【0003】?【0004】には、「鉱油タイプの補助剤を殺虫活性化合物と組み合わせて使用することが可能であり、これは、殺虫活性化合物の施用薬量を低減するという利点を有する」が「ある種の作物に対して薬害が認められる場合は、その使用が制限される」こと、「特定の補助剤を上記フェニルピラゾール化合物(当審注:フィプロニル又はエチプロール)と組み合わせて用いた場合、得られた殺虫剤組成物は、標的となる作物破壊者に対して同等の生物学的な活性を維持しながら、いわゆる感受性の作物に対しても選択性を示す」ことが記載されていることから、本願発明の効果は、
「エチプロールに特定の補助剤を組み合わせて使用することにより、殺虫活性化合物の生物学的な活性、すなわち、殺虫活性を維持しながらその施用薬量を低減でき、しかも感受性の作物に対して使用できること」(以下、「本願発明の効果」という。)
であると認められる。

また、段落【0042】?【0045】には、トビイロウンカによって侵襲されているイネ植物に、エチプロール及び菜種油を含む本発明組成物1、エチプロール及び大豆油を含む本発明組成物2、並びにエチプロールを含むが油成分を含まない比較組成物を、それぞれ25g/ha及び50g/haの2薬量で施用し、昆虫の数を観察した実施例4の結果として、次の表3が示されている。


そして、平成23年11月10日付けの回答書の【回答の内容】(IV-ii-iii)において、「(iv)・・表3の結果には、必ずしも十分に説明がつくものばかりではない・・」と述べられているように、表3に示された結果は、十分に信頼性があるものとはいえないが、その結果からみて、少なくとも、施用薬量が50g/haでは本発明組成物1と比較組成物の殺虫活性が同等で、施用薬量を25g/haに低減すると、比較組成物の殺虫活性は低下し、本発明組成物1の殺虫活性は維持されることがうかがえる。
すなわち、本発明組成物1については、イネ植物等の感受性の作物に使用でき、殺虫活性を維持しながら、その施用薬量を低減できるものであるといえるから、本願発明の効果は、一応実施例からも裏付けられたものと認められる。

イ 本願発明の効果についての検討
(ア)殺虫活性を維持しながらその施用薬量を低減できるか否かについて
上記(2)イで示したとおり、菜種油、大豆油等の植物油が、噴霧堆積特性、浸透性等を向上させ、それによって殺虫剤の有効性を向上させるものであることは、この出願の優先日前に当該技術分野においてよく知られた事項である。
してみると、上記(2)イで示したとおり、引用発明における鉱油、植物油等希釈剤として「菜種油」又は「大豆油」を採用することにより、噴霧堆積特性、浸透性等を向上させ、それによって殺虫剤の有効性を向上できることは当業者に明らかであるし、そうであれば、殺虫活性を維持しながら、ある程度施用薬量を低減できることも、当業者が予測できた範囲内のことであるといえる。

(イ)感受性の作物に対して使用できるか否かについて
この出願の優先日前に頒布された刊行物である特開平2-233601号公報及び特開昭62-198602号公報において、「植物油としては・・ナタネ油・・ダイズ油・・が、好ましく使用でき・・植物油を使用するのは・・水田その他に対する水質汚濁を回避すると同時に、作物に対する薬害を少なくするためでもある」(特開平2-233601号公報の第4頁右上欄第3?11行、特開昭62-198602号の第3頁右上欄第20行?左下欄第8行)と記載されているように、殺虫剤組成物に含有される油剤を菜種油、大豆油等の植物油とすることにより、イネ植物等の感受性の作物に対する薬害を回避できることは、この出願の優先日前に当該技術分野においてよく知られた事項である。
してみると、上記(2)イで示したとおり、引用発明における鉱油、植物油等希釈剤として「菜種油」又は「大豆油」を採用することにより、イネ植物等の感受性の作物に対しても薬害を回避して使用できることは、当業者が予測できた範囲内のことであるといえる。

(4)審判請求人の主張について
審判請求人は、平成24年12月19日付けの手続補正書の【意見の内容】(3)(3-3)において、
「刊行物1では、エチプロールとインドキシカルブとを併用することにより、殺虫活性が顕著に高まった組成物が記載され・・このような刊行物1は、殺虫作用を奏するために、エチプロールを単独で使用することを必須の要件とする発明特定事項の採用を阻害し・・仮に、阻害しているといえないまでも・・エチプロールを単独で使用することを動機付けるものではない」こと(以下、「主張1」という。)、
「刊行物1には、組成物の製剤化のための希釈剤として、ランダムに列記される多数の成分の一つとして、植物油が記載されているに過ぎず、具体的にどのような植物油を使用すべきか記載はないし、また植物油を使用した具体例も記載されていない・・このような刊行物1には、当業者に、エチプロールを、菜種油や大豆油と併用することを動機づけるものではない」こと(以下、「主張2」という。)、
「刊行物3には、植物油が、石油系炭化水素噴射油と同様に有害生物駆除剤の薬効を高めることが一般的に記載されるに過ぎず、これをエチプロールはもとより、活性成分として具体的にどのようなものと併用したときにそのような活性が奏されるかについて、当業者に何ら示唆も教示もしていない」こと(以下、「主張3」という。)から、
「本発明の組成物は、刊行物1・・の記載と、刊行物3・・の記載を併せて考慮したとしても、当業者といえども容易に想到し得たものではない」と主張している。
そこで、上記主張1?3について検討すると、下記ア?ウに示すとおりであって、いずれも採用できない。

ア 主張1について
上記(2)アで示したとおり、本願発明は、「インドキサカルブ」を任意に含有できるものと認められるから、本願発明における殺虫活性化合物としてエチプロールを単独で使用すること、すなわち、本願発明の殺虫活性化合物が「エチプロール」からなることを前提とする上記主張1は採用できない。

また、仮に本願発明の殺虫活性化合物が実質的に「エチプロール」からなるとしても、上記(2)アで示したとおり、刊行物1には、防除しようとする害虫の相対群等を考慮してエチプロール及びインドキサカルブの混合比を変更することが示唆されており、トビイロウンカのように、エチプロール及びインドキサカルブのうちエチプロールのみで活性が示される害虫群を防除対象として、引用発明における上記混合比を、殺虫活性が示されるエチプロール過剰の混合比とすること、さらには、殺虫活性化合物が実質的にエチプロールからなる構成とすることには、十分に動機付けがあると認められるし、特定の害虫群に対して、エチプロールとインドキサカルブとを併用することによる相乗的殺虫作用が認められるとしても、それが、エチプロールのみで活性が示される害虫群を防除対象とする場合において、実質的にエチプロールからなる構成とすることを阻害する要因になるとまでは認められない。
よって、上記主張1は採用できない。

イ 主張2について
上記(2)イで示したとおり、刊行物3において、植物油が噴霧堆積特性、浸透性等を向上させること、その植物油には菜種油、大豆油が含まれることが示されている。
そして、刊行物1には、液状組成物を調製するための希釈剤として、多数の成分がランダムに列記されているとしても、刊行物1における「噴霧・・に好適な・・水性もしくは非水性溶液、又は分散液の形態の組成物を用いる」(摘示(1-オ))という記載からみて、引用発明における液状組成物を調製できる希釈剤として、刊行物3に記載の噴霧堆積特性に優れた植物油、例えば菜種油、大豆油を結びつけることには、十分に動機付けがあると認められる。
よって、上記主張2は採用できない。

ウ 主張3について
上記主張3では、「刊行物3には、植物油が・・有害生物駆除剤の薬効を高める・・そのような活性が奏されるかについて、当業者に何ら示唆も教示もしていない」と主張されているが、上記(2)イ及び(3)イ(ア)で示したとおり、当審は、刊行物3の記載について、植物油が噴霧堆積特性、浸透性等を向上させ、それによって、殺虫剤の有効性を向上できることを認定しているに過ぎず、植物油が殺虫活性化合物の活性自体を向上できると認定してはいない。
なお、本願明細書には、本願発明における植物油の作用機序についての直接的な記載は認められないものの、上記(3)アで示したとおり、本願明細書の段落【0045】の表3に示された結果において、施用薬量が50g/haでは本発明組成物1と比較組成物の殺虫活性が同等であることが示されている。
そうであれば、本願発明の菜種油、大豆油の作用は、殺虫活性化合物であるエチプロールの活性自体を向上させるものでなく、刊行物3における記載から認定できる事項と同様、噴霧堆積特性、浸透性等を向上させ、殺虫剤の有効性を向上させるものであると解される。
そして、刊行物3には、「石油系炭化水素噴霧油は、堆積特性及び噴霧液の湿潤性及び拡散性を高め、噴霧堆積がより均一になるという結果をもたらすこと・・で、・・殺虫剤の有効性を向上させることが知られ・・植物油のような油も、同様の特性を示すことが知られ・・そのような噴霧油は浸透性や遅蒸発性を向上させることができる」(摘示(2-ア))と記載されており、殺虫活性化合物を特定する記載はないものの、むしろ、そのような記載がないことからみて、上記植物油による噴霧堆積特性、浸透性等の向上は、特定の殺虫活性化合物に限定されることなく広範に適用できることが示唆されているものと解される。
そうであれば、上記(3)イ(ア)で示したとおり、引用発明においても、鉱油、植物油等希釈剤として「菜種油」又は「大豆油」を採用することにより、噴霧堆積特性、浸透性等を向上させ、それによって、殺虫剤の有効性を向上できることは当業者に明らかであるといえる。
よって、上記主張3は採用できない。

(5)検討のまとめ
したがって、本願発明は、上記刊行物1に記載された発明(引用発明)、刊行物3に記載された発明及び当業者の技術常識に基いて、当業者が容易に発明することができたものである。

5 当審の判断のまとめ
上記4で示したとおり、本願発明は、上記刊行物1に記載された発明(引用発明)、刊行物3に記載された発明及び当業者の技術常識に基いて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2条の規定により、特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおり、この出願の請求項1に係る発明(本願発明)は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願は、その余につき検討するまでもなく、特許法第49条第2号の規定に該当し、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-01-09 
結審通知日 2013-01-15 
審決日 2013-01-28 
出願番号 特願2003-531815(P2003-531815)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 福島 芳隆  
特許庁審判長 井上 雅博
特許庁審判官 木村 敏康
村守 宏文
発明の名称 殺虫剤組成物  
代理人 川口 義雄  
代理人 大崎 勝真  

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