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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1275484
審判番号 不服2010-13222  
総通号数 164 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-08-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-06-16 
確定日 2013-06-12 
事件の表示 特願2009-125625「抗ErbB2抗体」拒絶査定不服審判事件〔平成21年8月27日出願公開、特開2009-189371〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、1997年(平成9年)10月9日(パリ条約による優先権主張1996年10月18日米国)を国際出願日とする特願平10-519437号の一部を、平成20年2月6日に新たな特許出願とした特願2008-26980号の一部を、さらに、同年9月11日に新たな特許出願とした特願2008-233962号の一部を、さらに、平成21年5月25日に新たな特許出願としたものである。
そして、平成21年7月1日付けで拒絶理由が通知され、これに応答して、同年10月6日付けで手続補正がなされたが、同年10月20日付けで拒絶理由が通知され、そして、平成22年2月10日付けで拒絶査定がされ、これに対して、同年6月16日に拒絶査定不服審判が請求され、同年8月5日付け手続補正書(方式)によって、審判請求書の請求の理由が補正されたものである。
その後、平成24年5月29日付けで当審より拒絶理由が通知され、これに応答して、同年11月29日に意見書が提出されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1?11に係る発明は、平成21年10月6日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、そのうちの請求項1?4に係る発明(以下、それぞれ、「本願発明1」?「本願発明4」ともいう。)は次のとおりである。
「【請求項1】
患者にビノレルビンと組み合わせて投与するための抗ErbB2抗体を、それぞれ前記患者における腫瘍細胞を殺傷するまたはその増殖を阻害するのに有効量で含む、ErbB2の過剰発現または活性化によって特徴づけされる腫瘍の治療のための製薬組成物。
【請求項2】
前記腫瘍が乳ガンである、請求項1に記載の製薬組成物。
【請求項3】
前記抗ErbB2抗体が、抗体4D5(ATCC CRL 10463)またはそのヒト化形態によって結合されるErbB2エピトープに結合する、請求項1または2に記載の製薬組成物。
【請求項4】
前記抗体が、抗体4D5(ATCC CRL 10463)のヒト化形態である、請求項3に記載の製薬組成物。」

3.当審より通知した拒絶の理由
当審より通知した拒絶の理由の概要は、次のとおりである。
本願明細書の発明の詳細な説明には、本願発明1?4の発明特定事項である、「ビノレルビン」と「抗ErbB2抗体である抗体4D5またはそのヒト化形態」とを「組み合わせ」ること、及び、この「組み合わせ」による共同薬理効果について、当業者が認識できるように記載されておらず、また、これらのことが、本願の原出願時の技術常識であったともいえない。
よって、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

4.当審の判断
(1)本願発明1は、患者に「ビノレルビン」と「組み合わせ」て投与するための「抗ErbB2抗体」をそれぞれ有効量で含む「腫瘍の治療のための製薬組成物」であって、そして、本願発明3、4は、「ビノレルビン」と「組み合わせ」る「抗ErbB2抗体」を「抗体4D5(ATCC CRL 10463)またはそのヒト化形態」(以下、単に「抗ErbB2抗体4D5」あるいは「4D5」という。)に限定するものである。
そこで、本願発明1?4の発明特定事項に関する、本願明細書の発明の詳細な説明の記載事項について検討する。

(2)本願明細書の発明の詳細な説明には、「抗ErbB2抗体」と他の薬剤とを「組み合わせ」た「腫瘍の治療のための製薬組成物」に関して、次の事項((ア)?(キ))が記載されている(以下、下線は当審による。)。
(ア)「上記パラグラフの抗体は、該抗体と製薬学的に許容可能なキャリアーまたは希釈液を含む組成物の形態で提供されうる。場合により該組成物はさらに第二の抗ErbB2抗体を含み、特にその場合第二の抗ErbB2抗体はここで開示されている7C2/7F3抗体が結合するものとは異なるErbB2レセプター上のエピトープに結合するものである。好ましい実施態様として、第二の抗体は50%-100%まで細胞カルチャーにおけるSKRB3細胞の増殖を阻害するものである(即ち4D5抗体及びその機能的同等物)。治療上の使用のための組成物は滅菌されており、凍結乾燥される。」(【0018】)

(イ)「以下の実施例2において、プロアポトーシス抗体7C2はほとんど完全に、増殖停止細胞の完全なカルチャーを全滅させることが見出された。それ故、ここで開示されるプロアポトーシス性抗体を、上記記載のin vitro及びin vivo法における増殖阻害試薬と組み合わすことが望ましい。上記実施態様において、優れたレベルのアポトーシスが、プロアポトーシス性抗ErbB2抗体の前に増殖阻害試薬を投与することによって達成される。しかしながら同時の投与、または最初に抗ErbB2抗体を投与することが企図される。」(【0021】)

(ウ)「「化学療法試薬」なる語は、ガンの治療に有用な化学的化合物をいう。化学療法試薬の例としては、アドリアマイシン、ドキソルビシン、5-フルオロウラシル、シトシンアラビノシド("Ara-C")、シクロフォスファミド、チオテパ、ブスルファン、サイトキシン、タクソール、トクソテール(Toxotere)、メトトレキサート、シスプラチン、メルファラン、ビンブラスチン、ブレオマイシン、エトポシド、イフォスファミド(Ifosfamido)、マイトマイシンC、ミトザントロン、ビンクレイスチン(Vincreistine)、ビノレルビン(Vinorelbine)、カルボプラチン、テニポシド(Teniposide)、ダウノマイシン、カルミノマイシン(Carminomysin)、アミノプテリン、ダクチノマイシン、マイトマイシン、エスペラマイシン(米国特許第4,675,187号)、メルファラン及び他の関連するナイトロジェンマスタードが含まれる。タモキシフェン及びオナプリストーンのような腫瘍に対してホルモン機能を調節または阻害するように機能するホルモン試薬もまた、この定義に含まれる。」(【0054】)

(エ)「「増殖阻害試薬」とはここで用いられる場合、in vitroまたはin vivoのそれぞれで細胞、特にErbB2過剰発現ガン細胞の増殖を阻害する化合物または組成物をいう。それ故増殖阻害試薬は、S期におけるErbB2過剰発現細胞のパーセンテージを有意に減少するものである。増殖阻害試薬の例としては、G1停止及びM期停止を誘導する試薬のような、細胞周期進行(S期以外の期で)をブロックする試薬が含まれる。古典的なM期ブロッカーには、ビンカ類(ビンクリスチン及びビンブラスチン)、タクソール、及びドクソルビシン、ダウノルビシン、エトポシド並びにブレオマイシンのようなトポIIインヒビターが含まれる。G1を停止する試薬はまた、S期停止において、例えばタモキシフェン、プレドニゾン、ダカルバジン、メクロレタミン、シスプラチン、メトトレキセート、5-フルオロウラシル、及びara-CのようなDNAアルキル化試薬を含む。さらなる情報は、The Molecular Basis of Cancer,Mendelsohn and Israel,編,Chapter 1,"Cell cycle regulation, oncogens, and antineoplastic drugs",Murakami et al.(WB Saunders: Philadelphia,1995),特にp.13に見出されうる。4D5抗体(及びその機能的同等物)はまた、この目的のために用いられ得る。」(【0055】)

(オ)「他の治療上の摂生を、本発明の抗ErbB2抗体の投与と結びつけうる。例えば、ここで開示される抗体を用いて治療される患者は放射線治療を受けていてもよい。代わりに、または加えて、化学療法試薬を製品の説明書にしたがって、または当業者に経験的に測定されるように用いてもよい。上記化学療法試薬の調製及び投与スケジュールは、Chemotherapy Service,M.C.Perry,編,Williams & Wilkins,Baltimore,MD(1992)にも記載されている。化学療法試薬は該抗体の投与に先行しても引き続いてもよく、それらと同時に与えられてもよい。」(【0165】)

(カ)「EGFR,ErbB2,ErbB4または血管内皮増殖因子(VEGF)に結合する抗体のような、他の腫瘍関連性抗原に対して抗体を投与することも好ましいであろう。代わりに、または加えて、二つ以上の抗ErbB2抗体を、患者に共投与することも可能である。場合により、一つ以上のサイトカインを患者に投与することも可能である。好ましい実施態様として、該ErbB2抗体は、増殖阻害試薬と共投与される。例えば該増殖阻害試薬は最初に投与され、その後ErbB2抗体が引き続く。しかしながら、ErbB2抗体と同時の投与または最初にErbB2抗体を投与することも企図される。増殖阻害試薬の適した投与量は現在用いられているものであり、増殖阻害試薬と抗ErbB2抗体の組み合わせた機能(共同薬理効果)のために低いであろう。」(【0166】)

(キ)「結果:HER2増殖因子レセプターに向けられたモノクローナル抗体4D5,7C2及び7F3が、HER2レセプターを過剰発現するマウス異種移植片モデルにおいて用いられた。抗体は単独、及びアポトーシス抗体(7C2及び7F3)と増殖阻害抗体(4D5)の組み合わせにおいて用いられた。アポトーシス抗体(7C2及び7F3)は研究に早期において増殖阻害効果を有し、それは後の時間点で失われた(図17)。増殖阻害抗体4D5は、以前の研究で報告されているように該研究を通じて著しい増殖阻害効果を有した。7C2または7F3のそれぞれと4D5の組み合わせは、増殖阻害効果を有意に発揮し、4D5/7C2が最良の組み合わせであった。4D5単独処理群での一つの完全な回復と、4D5/7C2処理群における一つの完全な回復が存在した。抗体コントロール群(抗gp120 MAb)は、塩水処理コントロール群と同等であった。体重は腫瘍イノキュレーションの後初めに増大し、それから該研究の残りを通じて維持されていた。該抗体は全て、該動物に対するいかなる毒性効果をも示さなかった。」(【0198】)

(3)しかしながら、まず、本願発明1?4の発明特定事項である「ビノレルビン」については、本願明細書の発明の詳細な説明では、化学療法試薬の一つとして他の多くの薬剤と共に例示(上記(ウ))されているだけである。
そうすると、本願明細書の発明の詳細な説明に、抗ErbB2抗体と化学療法試薬とを組み合わせることが記載(上記(オ))されているとしても、抗ErbB2抗体と組み合わせる化学療法試薬として、例示された多くの化学療法試薬の中から「ビノレルビン」を選択することが本願明細書の発明の詳細な説明に記載されているとはいえない。
また、本願発明1?4の発明特定事項である「4D5」については、本願明細書の発明の詳細な説明には、抗ErbB2抗体の一つとして記載(上記(ア))されてはいるものの、増殖阻害試薬としてビンカ類、タクソール等と並んで例示(上記(エ))されており、さらに、抗ErbB2抗体であって、かつ、プロアポトーシス抗体でもある7C2や7F3と組み合わせることで有意な効果を発揮することが記載(上記(キ))されている。
そして、本願明細書の発明の詳細な説明には、「好ましい実施態様」として、抗ErbB2抗体と増殖阻害試薬との組み合わせが記載(上記(カ)、(イ))されているところからみて、本願明細書の発明の詳細な説明には、「4D5」については、抗ErbB2抗体7C2又は7F3と組み合わせることは記載されているといえるものの、「4D5」と他の増殖阻害剤であるビンカ類等と組み合わせることが記載されているとはいえないし、ましてや、「4D5」と「ビノレルビン」とを「組み合わせ」ることが記載されているとはいえない。
しかも、本願の遡及日当時(平成9年(1997年)当時)の技術常識からは、「ビノレルビン」と「抗ErbB2抗体」又は「抗ErbB2抗体4D5」とを「組み合わせ」て「腫瘍の治療のための製薬組成物」にすることの事情は見いだせないし、この「組み合わせ」が「腫瘍の治療」において共同薬理効果を示すといえる事情も見いだせない。

(4)なお、審判請求人は、当審より通知した拒絶の理由に応答して提出した意見書(平成24年11月29日付け)において、参考資料(Journal of Clinical Oncology,2001,Vol.19,No.10,2722-2730)を提示した上で、「上記の参考資料の開示に基づいて、抗ErbB2抗体(例えば4D5抗体)とビノレルビンとの併用に関する、ErbB2過剰発現性の乳ガンの治療効果については、当業者に十分実施可能であったことが明らかであり、本願の出願当初明細書の開示内容により、本願の請求項1?11に係る発明は十分にサポートされている」と主張する。
しかしながら、この参考資料は、本願の遡及日(平成9年(1997年)10月9日)から約4年も経過した後の2001年に発行されたものであり(2000年9月26日提出)、本願の遡及日当時の技術常識について説明するものではないし、また、参考資料の記載事項を参酌したとしても、上記のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願の請求項1?4に係る発明が記載されているとはいえない。

(5)よって、本願明細書の発明の詳細な説明には、「ビノレルビン」と「組み合わせ」て投与するための「抗ErbB2抗体」又は「抗ErbB2抗体4D5」を含む「腫瘍の治療のための製薬組成物」の発明が記載されているとすることはできない。
したがって、本願請求項1?4に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないから、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

5.むすび
以上のとおり、本願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、特許法第49条第4号の規定により拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-01-08 
結審通知日 2013-01-15 
審決日 2013-01-28 
出願番号 特願2009-125625(P2009-125625)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 清水 晋治  
特許庁審判長 横尾 俊一
特許庁審判官 大久保 元浩
平井 裕彰
発明の名称 抗ErbB2抗体  
代理人 渡邊 隆  
代理人 志賀 正武  
代理人 実広 信哉  
代理人 村山 靖彦  
代理人 実広 信哉  
代理人 村山 靖彦  
代理人 渡邊 隆  
代理人 志賀 正武  

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