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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F28D
管理番号 1275582
審判番号 不服2012-2957  
総通号数 164 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-08-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-02-15 
確定日 2013-06-10 
事件の表示 特願2006-199511号「多成分系ダイナミックタイプの蓄熱・放熱システムにおける熱交換方法と装置」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 2月 7日出願公開、特開2008- 25921号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成18年7月21日の出願であって、平成23年11月16日付けで拒絶査定がなされ(発送:11月18日)、これに対し、平成24年2月15日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものであり、さらに、平成24年11月8日付けで当審において拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され(発送:11月9日)、これに対して、平成24年12月27日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

2.本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成24年12月27日の手続補正書で補正された特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、次のとおりのものである。

「【請求項1】
結晶生成手段と、蓄熱手段と、熱交換手段とを備えた蓄熱・放熱装置であって、
前記結晶生成手段は、前記蓄熱手段からの共晶点における液相の多成分系混合液から前記結晶生成手段による熱交換量に基づく量をスラリー状態で結晶生成させて共晶点温度での一定温度での熱取り出しを行い共晶点の各成分物質の同一割合での結晶量が増加した共晶点における固液共存相の多成分系混合液としてスラリー状態で前記蓄熱手段に戻すように構成され、
前記熱交換手段は、前記蓄熱手段からの前記共晶点の固液共存相の多成分系混合液によって対象から熱を奪った後に、共晶点における固液共存相の一部固相の融解もしくは全部の融解を行うことによって固相が溶融する熱交換中は前記共晶点の一定温度の熱交換を維持して共晶点温度のスラリー状態もしくは共晶点濃度の液体状態で前記蓄熱手段に戻すように構成され、
前記蓄熱手段は、前記結晶生成手段により前記共晶点の各成分物質の同一割合での結晶量をスラリー状態で増加させることにより蓄熱量を増加させ、また前記熱交換手段により前記共晶点の各成分物質の同一割合での結晶量をスラリー状態で減少させることにより蓄熱量を減少させることによって、蓄熱量の変化を前記共晶点温度の固液共存相の多成分混合液によって一定温度での熱取り出しを行うように構成され、これにより、多成分系混合液の各成分物質の前記共晶点での同一割合での結晶生成および融解によって一定温度の熱取出しを行うことを特徴とする蓄熱・放熱装置。」

3.刊行物とその記載事項
当審拒絶理由にて引用した、本願出願前に頒布された刊行物である特許第2875903号公報(以下「刊行物1」という。)には、図面と共に、次の記載がある。

ア.「【0002】
【従来の技術】従来の潜熱蓄熱方法としては、例えば特開昭62-62192号公報記載の蓄熱方法が知られている。この蓄熱方法は、冷凍機を構成している蒸発器を熱交換器として蓄熱槽に設け、この蓄熱槽に貯留された潜熱蓄熱剤を、前記熱交換器から供給される熱にて加熱または冷却して負荷側に設けた熱交換器に循環させる方法を採っている。
【0003】そして、前記潜熱蓄熱剤は、0℃未満の凝固点を有する物質からなる2成分系で、この2成分系の凝固融解するときの潜熱を、共晶温度から0℃未満の温度までの冷熱として取り出して利用している。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】上記従来の蓄熱方法は、0℃未満で潜熱を蓄熱でき、被冷却体との温度差を大きくとることができ、冷却効果の増大が図れる。
【0005】しかし、被冷却体との温度差が大きいことは、被冷却体の冷却速度は速くなるものの、被冷却体の冷却に要する動力は、被冷却体との温度差が大きくなるほど増加することになる。
【0006】また、蓄熱剤の凝固点と融解点との間に温度差があると、蓄熱に要する冷凍機動力の増大を引き起こし、蓄熱効率を低下させる。
【0007】本発明の目的は、上記問題点に鑑みなされたもので、被冷却体の冷却に要する動力の増加を防止し、蓄熱効率の高い潜熱蓄熱方法を提供することにある。」(段落【0002】?【0007】、下線は当審にて付与、以下同じ。)

イ.「【0011】
【実施例】本発明の潜熱蓄熱方法の一実施例を図1乃至図3に基づいて説明する。
【0012】図1において、1は圧縮機で、この圧縮機1の吐出側には凝縮器2が接続されている。この凝縮器2には、膨脹弁3を介して蒸発器4が接続され、さらに、この蒸発器4は圧縮機1の吸入側に接続されることにより、冷凍サイクル5が構成されている。
【0013】また、6は蓄熱槽で、この蓄熱槽6には潜熱蓄熱剤Aが貯留され、前記蒸発器4がこの潜熱蓄熱剤Aに浸漬されている。さらに、この蓄熱槽6は、ポンプ7を有する循環路8を介して負荷側としての熱交換器9に接続している。そして、この熱交換器9には、前記潜熱蓄熱剤Aと熱交換を行う3次冷媒や負荷側作動流体が流通する。
【0014】前記潜熱蓄熱剤Aは、水の凝固点降下剤と水とからなる2成分系で、水の凝固点降下剤を水に溶解した凝固点降下剤水溶液になっている。
【0015】上記の凝固点降下剤は、水に溶解させたときに凝固点としての凍結温度と融点としての融解温度との温度差が小さく、水に対してそれぞれ固有の共晶点を持つものである。このような水の凝固点降下剤としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化カリウムなどの塩化物、臭化ナトリウムなどの臭化物などのハロゲン化物、燐酸3アルカリ塩、燐酸2アルカリ塩、燐酸1アルカリ塩などの燐酸塩、硝酸ナトリウム、硝酸カリウムなどの硝酸塩、硫酸ナトリウムなどの硫酸塩、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなどの炭酸塩、酢酸ナトリウムなどの酢酸塩などの塩類、グリシン、尿素、グリセリンなどがある。また、そのうち数種について、水と共晶となる凝固点降下剤の共晶濃度および共晶温度を表1に示す。」(段落【0011】?【0015】)

ウ.「最初に、蓄熱槽6に蓄熱する蓄熱過程としての硝酸ナトリウム水溶液の凍結過程について説明する。まず、冷凍サイクル5を運転して、フロンガスなどの1次冷媒を圧縮機1にて圧縮して吐出し、吐出された1次冷媒を凝縮器2にて凝縮する。次に、膨脹弁3を介して1次冷媒の圧力を下げて蒸発器4に流入させる。
【0020】この蒸発器4は、熱交換器として作動し、1次冷媒は、蒸発器4を浸漬する潜熱蓄熱剤Aと熱交換を行って蒸発し、再び圧縮機1の吸入側に流入する。
【0021】この時、潜熱蓄熱剤Aは、冷却されて徐々に温度が低下し、表2および図2、3に示すように、実施例1では温度-20.9℃で、実施例2では温度-19.5℃で、凍結を開始して氷が生成していく。さらに、潜熱蓄熱剤Aは、この温度を略一定に保持しながら、凍結に伴い徐々に潜熱を蓄熱し、蓄熱槽6に貯留された潜熱蓄熱剤Aの総量に対する生成した氷の割合となるIPF(氷充填率:IcePacking Factor)が増加していく。そして、IPFが30?80%に達した時点toで、蓄熱過程を終える。
【0022】次に、潜熱を放熱する放熱過程としての硝酸ナトリウム水溶液の融解過程について説明する。ポンプ7を作動させて、潜熱を蓄熱した潜熱蓄熱剤Aの氷や凝固点降下剤の水和物などを、循環路8を介して熱交換器9に供給する。すると、この熱交換器9では、蓄熱した潜熱蓄熱剤Aは、実施例1および実施例2でともに温度-19.5℃で融解を開始する。さらに、この温度を略一定に保持しながら、融解に伴う潜熱を放熱して、この潜熱を略-19℃の冷熱として熱交換器9から取り出せる。」(段落【0019】?【0022】)

エ.「【0024】また、比較例2として、硝酸ナトリウムの濃度が水との共晶濃度となる41wt%の硝酸ナトリウム水溶液を潜熱蓄熱剤Aとして、この潜熱蓄熱剤Aの潜熱の蓄熱および放熱を行った場合について説明する。この場合、潜熱蓄熱剤Aの凍結過程では、前記蒸発器4の内部の1次冷媒の温度が、潜熱蓄熱剤Aの共晶温度より低いために、この蒸発器4の外面に生成した氷の表面温度が共晶温度よりも下がる。そこで、氷表面近傍の潜熱蓄熱剤Aの液体部が過冷却されると、凍結に伴い析出した凝固点降下剤の結晶が氷に付着できずに、蓄熱槽6の底部に堆積する現象が生じる。このため、融解過程において、この堆積した凝固点降下剤の結晶が潜熱蓄熱剤Aの液体部に溶解しにくいので、凝固点降下剤の結晶の溶解速度が全体的に遅くなり、潜熱を一定温度の冷熱として取り出すことのできる時間が短いので、蓄熱効率は低くなる。」(段落【0024】)

オ.表1には硝酸ナトリウムの共晶温度が-22℃と記載され、また、表2には図1記載の潜熱蓄熱装置に比較例2の潜熱蓄熱剤Aを用いた場合、凍結温度が-21.9℃、融解温度が-19.5?-16.0℃となることが記載されている。

カ.図1には、潜熱蓄熱方法に対応した潜熱蓄熱装置が、蓄熱槽6と、蓄熱槽6に浸漬された蒸発器4と、負荷側としての熱交換器9とを備えていること及び放熱後の潜熱蓄熱剤Aを熱交換器9から蓄熱槽6に戻す管路が配設されていることが図示されている。

キ.図2には、比較例2(共晶濃度の硝酸ナトリウム水溶液)の凝固融解特性が図示されており、ウ、エの記載を参酌すると、比較例2は、蓄熱過程である凍結過程がその全期間を通じて略一定温度で行われるのに対し、放熱過程である溶融過程は一定温度期間が短いことが、また、放熱過程で温度上昇がみられるため、氷が溶け水溶液になっていることが理解できる。

ク.潜熱蓄熱装置分野の技術常識からみて、蓄熱槽6に浸漬された蒸発器4により生成される氷の量は蒸発器4からの冷熱の放出に伴う熱交換量に基づく量であること、氷の生成により蓄熱槽6内の硝酸ナトリウム水溶液が固液共存相となることは、当業者にとって、容易に理解できる事項である。

上記記載事項ア?オ、図示事項カ、及び、認定事項キ、クを総合すると、刊行物1には比較例2に対応した発明として次の発明(以下「刊行物1記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。

「蓄熱槽6と、蓄熱槽6に浸漬された蒸発器4と、負荷側としての熱交換器9とを備えた潜熱蓄熱装置であって、
前記蒸発器4は、蓄熱槽6内で共晶濃度の硝酸ナトリウム水溶液から蒸発器4の熱交換量に基づく量を凍結させて氷を生成し、略一定温度である凍結温度(-21.9℃)での蒸発器4からの冷熱の放出を行い、蓄熱槽6内の氷の量を増加した固液共存相の硝酸ナトリウム水溶液とするように構成され、
前記熱交換器9は、前記蓄熱槽6からの硝酸ナトリウム水溶液の氷によって負荷側に冷熱を取り出し、氷が溶融する熱交換中は、短い一定温度期間に融解温度(-19.5?-16.0℃)で熱交換して、熱交換後の硝酸ナトリウム水溶液を前記蓄熱槽6に戻すように構成され、
前記蓄熱槽6は、前記蒸発器4により硝酸ナトリウム水溶液の氷の量を増加させることにより蓄熱量を増加させ、また前記熱交換器9により硝酸ナトリウム水溶液の氷の量を減少させることにより蓄熱量を減少させることによって、蓄熱量の変化により硝酸ナトリウム水溶液及び該水溶液の氷によって熱取り出しを行うように構成され、
これにより、硝酸ナトリウム水溶液の氷生成および融解によって熱取出しを行う潜熱蓄熱装置。」

(2)当審拒絶理由にて引用した、本願出願前に頒布された刊行物である、山田育弘 外5名、過冷却製氷方式を用いた共晶点蓄熱装置の開発(第2報)流動状態における過冷却された尿素-水混合物質の特性I、空気調和・衛生工学大会学術講演論文集(2005.8.9?11札幌)、空気調和・衛生工学会(2005.7)、第2069頁?第2072頁(以下「刊行物2」という。)には、図面と共に、次の記載がある。

ケ.「以上の背景から、著者らは過冷却製氷方式を用いた共晶点蓄熱装置の開発を行った。本報では、流動状態における過冷却製氷の可能性を検討したので得られた知見を報告する。」(第2069頁左欄第12行?第15行)

コ.「(1)過冷却熱交換器の設計条件
本実験に用いた尿素-水混合液(以下尿素混合液)は、第1報^(2))で報告した尿素混合液に、配管や機器の腐食を考慮した防食剤を添加している。実験装置の設計を行うにあたり、第1報と同様に熱分析にて防食剤を添加した尿素混合液の固相線温度は-12.2℃であり、純粋な尿素混合液の共晶点濃度における共晶点(固相線)温度-11.5℃に対し0.7℃低い値となった。よって本装置の設計では尿素混合液の共晶点濃度における固相線温度は-12.2℃とし各機器の設計を行った。なお、防食剤を添加した尿素混合液の共晶点は確認できなかった。」(第2069頁左欄第17行?右欄第2行)

サ.「(2)実験装置
実験に用いた装置のフローを図-1に、外観を図-2に示す。本システムの製氷回路は、尿素混合液および生成される尿素-水の結晶を蓄える蓄熱槽、尿素混合液を循環させる混合液ポンプ、蓄熱槽から・・・、尿素混合液を過冷却温度まで冷却する過冷却熱交換器(プレート式熱交換器)、過冷却尿素混合液の過冷却を解除して尿素と水の結晶を生成する製氷装置から構成される。・・・また、製氷装置により過冷却状態が解除されて尿素-水結晶が生成した後の温度は製氷装置下流に十分距離を取った位置に設置されている温度センサ(TE-5)によって計測する。TE-5によって計測される温度は、尿素混合液の共晶点温度とみなす。」(第2070頁左欄第1行?第16行)

シ.「製氷装置^(3))を図-3に示す。本装置は密閉系内で過冷却水に振動を与えることによって、過冷却状態を解除し、シャーベット状の氷を生成することができる。」(第2070頁右欄第1行?第3行)

ス.「またTE-5は尿素混合液の固相線温度である-12.2℃を示しており製氷装置内で過冷却状態が完全に解消されていることがわかる。さらに製氷装置から上流への相変化の遡上もみられないことから尿素混合液に対しても製氷装置が適用できることが確認できた。」(第2071頁右欄第3行?第7行)

4.発明の対比
本願発明と刊行物1記載の発明を対比すると、刊行物1記載の発明の「蓄熱槽6」は本願発明の「蓄熱手段」に相当し、以下同様に、「蓄熱槽6に浸漬された蒸発器4」は「結晶生成手段」に、「負荷側としての熱交換器9」は「熱交換手段」に、「潜熱蓄熱装置」は「蓄熱・放熱装置」に、「硝酸ナトリウム水溶液」は「液相の多成分系混合液」に、「凍結させて氷を生成し」は「結晶生成させて」に、「蒸発器4からの冷熱の放出を行い」は「熱取り出しを行い」に、「氷」は「結晶」及び「固相」に、「固液共存相の硝酸ナトリウム水溶液」、「硝酸ナトリウム水溶液の氷」または「硝酸ナトリウム水溶液及び該水溶液の氷」は「固液共存相の多成分系混合液」に、「負荷側に冷熱を取り出し」は「対象から熱を奪った」に、「蓄熱量の変化により」「熱取り出しを行う」は「蓄熱量の変化」により「熱取出しを行う」に、各々相当する。

また、刊行物1記載の発明の「前記蒸発器4は、蓄熱槽6内で共晶濃度の硝酸ナトリウム水溶液から蒸発器4の熱交換量に基づく量を凍結させて氷を生成し、略一定温度である凍結温度(-21.9℃)での蒸発器4からの冷熱の放出を行い、蓄熱槽6内の氷の量を増加した固液共存相の硝酸ナトリウム水溶液とするように構成され」ることと本願発明の「前記結晶生成手段は、前記蓄熱手段からの共晶点における液相の多成分系混合液から前記結晶生成手段による熱交換量に基づく量をスラリー状態で結晶生成させて共晶点温度での一定温度での熱取り出しを行い共晶点の各成分物質の同一割合での結晶量が増加した共晶点における固液共存相の多成分系混合液としてスラリー状態で前記蓄熱手段に戻すように構成され」ることとは「前記結晶生成手段は、前記蓄熱手段の共晶濃度における液相の多成分系混合液から前記結晶生成手段による熱交換量に基づく量を結晶生成させて熱取り出しを行い結晶量が増加した固液共存相の多成分系混合液とするように構成され」る点で共通する。

同様に、刊行物1記載の発明の「前記熱交換器9は、前記蓄熱槽6からの硝酸ナトリウム水溶液の氷によって負荷側に冷熱を取り出し、氷が溶融する熱交換中は、短い一定温度期間に融解温度(-19.5?-16.0℃)で熱交換して、熱交換後の硝酸ナトリウム水溶液を前記蓄熱槽6に戻すように構成され」ることと本願発明の「前記熱交換手段は、前記蓄熱手段からの前記共晶点の固液共存相の多成分系混合液によって対象から熱を奪った後に、共晶点における固液共存相の一部固相の融解もしくは全部の融解を行うことによって固相が溶融する熱交換中は前記共晶点の一定温度の熱交換を維持して共晶点温度のスラリー状態もしくは共晶点濃度の液体状態で前記蓄熱手段に戻すように構成され」ることとは「前記熱交換手段は、前記蓄熱手段からの固液共存相の多成分系混合液によって対象から熱を奪った後に、固液共存相の一部固相の融解もしくは全部の融解を行うことによって固相が溶融する熱交換中は融解温度の熱交換を行い固液共存状態もしくは液体状態で前記蓄熱手段に戻すように構成され」る点で共通する。

また、刊行物1記載の発明の「前記蓄熱槽6は、前記蒸発器4により硝酸ナトリウム水溶液の氷の量を増加させることにより蓄熱量を増加させ、また前記熱交換器9により硝酸ナトリウム水溶液の氷の量を減少させることにより蓄熱量を減少させることによって、蓄熱量の変化により熱取り出しを行うように構成され」ることと本願発明の「前記蓄熱手段は、前記結晶生成手段により前記共晶点の各成分物質の同一割合での結晶量をスラリー状態で増加させることにより蓄熱量を増加させ、また前記熱交換手段により前記共晶点の各成分物質の同一割合での結晶量をスラリー状態で減少させることにより蓄熱量を減少させることによって、蓄熱量の変化を前記共晶点温度の固液共存相の多成分混合液によって一定温度での熱取り出しを行うように構成され」ることは「前記蓄熱手段は、前記結晶生成手段により結晶量を増加させることにより蓄熱量を増加させ、また前記熱交換手段により結晶量を減少させることにより蓄熱量を減少させることによって、蓄熱量の変化により熱取り出しを行うように構成され」る点で共通する。

さらに、刊行物1記載の発明の「これにより、硝酸ナトリウム水溶液の氷生成および融解によって熱取出しを行う潜熱蓄熱装置」と本願発明の「これにより、多成分系混合液の各成分物質の前記共晶点での同一割合での結晶生成および融解によって一定温度の熱取出しを行うことを特徴とする蓄熱・放熱装置」とは「これにより、多成分系混合液の結晶生成および融解によって熱取出しを行う蓄熱・放熱装置」である点で共通する。

したがって、両者の一致点、相違点は、次のとおりである。

(一致点)
結晶生成手段と、蓄熱手段と、熱交換手段とを備えた蓄熱・放熱装置であって、
前記結晶生成手段は、前記蓄熱手段の共晶濃度における液相の多成分系混合液から前記結晶生成手段による熱交換量に基づく量を結晶生成させて熱取り出しを行い結晶量が増加した固液共存相の多成分系混合液とするように構成され、
前記熱交換手段は、前記蓄熱手段からの固液共存相の多成分系混合液によって対象から熱を奪った後に、固液共存相の一部固相の融解もしくは全部の融解を行うことによって固相が溶融する熱交換中は融解温度の熱交換を行い固液共存状態もしくは液体状態で前記蓄熱手段に戻すように構成され、
前記蓄熱手段は、前記結晶生成手段により結晶量を増加させることにより蓄熱量を増加させ、また前記熱交換手段により結晶量を減少させることにより蓄熱量を減少させることによって、蓄熱量の変化により熱取り出しを行うように構成され、これにより、多成分系混合液の結晶生成および融解によって熱取出しを行う蓄熱・放熱装置。

(相違点1)
本願発明と刊行物1記載の発明は、結晶生成手段と、蓄熱手段と、熱交換手段とを備えた蓄熱・放熱装置の装置構造において、以下の点で相違している。

結晶生成手段が、本願発明においては「蓄熱手段からの」「液相の多成分系混合液から前記結晶生成手段による熱交換量に基づく量をスラリー状態で結晶生成させて」「結晶量が増加した」「固液共存相の多成分系混合液としてスラリー状態で前記蓄熱手段に戻すように構成」されているのに対し、刊行物1記載の発明においては「蓄熱手段(蓄熱槽6)内で液相の多成分系混合液(硝酸ナトリウム水溶液)から結晶生成手段(蒸発器4)の熱交換量に基づく量を結晶生成させて(凍結させて氷を生成し)、蓄熱手段(蓄熱槽6)内の結晶量(氷の量)を増加した固液共存相の多成分系混合液(固液共存相の硝酸ナトリウム水溶液)とするように構成」されている点。

(相違点2)
本願発明と刊行物1記載の発明は、結晶生成手段と、蓄熱手段と、熱交換手段とを備えた蓄熱・放熱装置における、結晶生成、融解に関する条件に関して、以下の点で相違している。

本願発明においては、
結晶生成手段おいて「蓄熱手段からの共晶点における液相の多成分系混合液から前記結晶生成手段による熱交換量に基づく量をスラリー状態で結晶生成させて共晶点温度での一定温度での熱取り出しを行い共晶点の各成分物質の同一割合での結晶量が増加した共晶点における固液共存相の多成分系混合液としてスラリー状態で前記蓄熱手段に戻」し、
熱交換手段において「共晶点の固液共存相の多成分系混合液によって対象から熱を奪った後に、共晶点における固液共存相の一部固相の融解もしくは全部の融解を行うことによって固相が溶融する熱交換中は前記共晶点の一定温度の熱交換を維持して共晶点温度のスラリー状態もしくは共晶点濃度の液体状態で前記蓄熱手段に戻」し、かつ、
蓄熱手段において「結晶生成手段により前記共晶点の各成分物質の同一割合での結晶量をスラリー状態で増加させることにより蓄熱量を増加させ、また前記熱交換手段により前記共晶点の各成分物質の同一割合での結晶量をスラリー状態で減少させることにより蓄熱量を減少させることによって、蓄熱量の変化を前記共晶点温度の固液共存相の多成分混合液によって一定温度での熱取り出しを行うように」構成され、
装置全体として「多成分系混合液の各成分物質の前記共晶点での同一割合での結晶生成および融解によって一定温度の熱取出しを行う」
と特定されているのに対し、
刊行物1記載の発明においては、
結晶生成手段(蓄熱槽6に浸漬された蒸発器4)において「蓄熱槽6内で共晶濃度の硝酸ナトリウム水溶液から蒸発器4の熱交換量に基づく量を凍結させて氷を生成し、略一定温度である凍結温度(-21.9℃)での蒸発器4からの冷熱の放出を行い、蓄熱槽6内の氷の量を増加した固液共存相の硝酸ナトリウム水溶液とするように」構成され、
熱交換手段(負荷側としての熱交換器9)において「蓄熱槽6からの硝酸ナトリウム水溶液の氷によって負荷側に冷熱を取り出し、氷が溶融する熱交換中は、短い一定温度期間に融解温度(-19.5?-16.0℃)で熱交換して、熱交換後の硝酸ナトリウム水溶液を前記蓄熱槽6に戻す」と共に、
蓄熱手段(蓄熱槽6)において「蒸発器4により硝酸ナトリウム水溶液の氷の量を増加させることにより蓄熱量を増加させ、また前記熱交換器9により硝酸ナトリウム水溶液の氷の量を減少させることにより蓄熱量を減少させることによって、蓄熱量の変化により硝酸ナトリウム水溶液及び該水溶液の氷によって熱取り出しを行うように」構成され、
装置全体として「硝酸ナトリウム水溶液の氷生成および融解によって熱取出しを行う」ものである点。

5.判断
そこで、上記各相違点につき検討する。

(A)刊行物1記載の発明は、潜熱蓄熱装置において蓄熱剤の凝固点と融解点との間の温度差に起因する動力の増加を防止するためになされた発明(摘記事項ア段落【0006】?【0007】参照)であり、かつ、刊行物1記載の発明が共晶濃度の硝酸ナトリウム水溶液を用いていることからみて、共晶点温度による一定温度での熱交換を目指したものであることが理解できる。

しかし、刊行物1の記載(摘記事項エ参照)にみられるように、刊行物1記載の発明においては、蓄熱過程は共晶温度(-22℃)近傍の「略一定温度である凍結温度(-21.9℃)」で結晶生成が行われるものの、「蒸発器4の外面に生成した氷に凝固点降下剤の結晶が付着できずに、蓄熱槽6の底部に堆積する」ために、放熱過程は「短い一定温度期間に融解温度(-19.5?-16.0℃)」で融解が行われ、完全な共晶点温度による一定温度での熱交換は実現できていない。

(B)一方、潜熱蓄熱・放熱装置に用いられる従来より周知の結晶生成手段として、刊行物1記載の「蓄熱手段内で液相の蓄冷剤から結晶生成手段の熱交換量に基づく量を結晶生成させて熱取り出しを行い、蓄熱手段内の結晶量を増加させるように構成」した方式(以下「スタティック方式」という。)のほか、「蓄熱手段からの液相の蓄冷剤から結晶生成手段による熱交換量に基づく量をスラリー状態で結晶生成させて熱取り出しを行い結晶量が増加した蓄冷剤をスラリー状態で前記蓄熱手段に戻すように構成」した方式(以下「ダイナミック方式」という。)が存在する(ダイナミック方式については、当審拒絶理由にて周知例として引用した特開2004-245485公報参照)。

(C)そして、このダイナミック方式は、蓄熱槽外部で過冷却を用いた製氷を行う方式であるため、スタティック方式の欠点である「蓄熱槽内冷却コイル表面における氷の成長」という問題点は存在しないが、使用される蓄冷剤に対応して適切な「過冷却の制御」を行うことが課題となることが、従来より広く知られていた(例えば、従来の氷蓄熱装置を対象とする特開2001-12769号公報段落【0022】?【0025】参照)。

(D)また、刊行物2には、適切な過冷却の制御のもとで、ダイナミック方式の結晶生成手段を多成分系混合液(尿素-水混合液)共晶点蓄熱装置の結晶手段(製氷装置)として適用できることが確認できたと記載されている(特に摘記事項ス参照)。

(相違点1について)
刊行物1記載の発明において共晶点温度による一定温度での熱交換の妨げとなっていた「蒸発器4の外面に生成した氷」に伴う問題点を解決するために(A参照)、かかる問題点が存在しないことが従来より知られ(B、C参照)、かつ、刊行物2の記載により多成分系混合液共晶点蓄熱装置の結晶生成手段に適用できることが確認されているダイナミック方式の結晶生成手段(D参照)を刊行物1記載の発明におけるスタティック方式の結晶生成手段に代えて採用すること、即ち、結晶生成手段を「蓄熱手段からの液相の多成分系混合液から前記結晶生成手段による熱交換量に基づく量をスラリー状態で結晶生成させて熱取り出しを行い結晶量が増加した固液共存相の多成分系混合液としてスラリー状態で前記蓄熱手段に戻すように構成」することは、当業者が、容易になしえた事項である。

(相違点2について)
相違点2は、結晶生成手段、蓄熱手段、熱交換手段、全体の蓄熱・放熱装置に跨るものであるが、結晶形状、結晶組成、熱交換(熱取り出し)温度条件、熱交換(熱取り出し)時の混合液に区分して整理することができ、刊行物1記載の発明と異なる本願発明の特徴は以下のようにまとめられる。

(2.1)結晶形状がスラリー状態である点(結晶生成手段、蓄熱手段、熱交換手段)

(2.2)結晶組成が共晶点の各成分物質の同一割合での結晶である点(結晶生成手段、蓄熱手段、装置全体)

(2.3)熱交換(熱取り出し)温度が共晶点の一定温度である点(結晶生成手段、熱交換手段、装置全体)

(2.4)熱交換(熱取り出し)時の混合液が共晶点の固液共存相の多成分系混合液である点(結晶生成手段、熱交換手段、蓄熱装置)

(2.1)について
相違点1についてで検討したとおり、刊行物1記載の発明において、刊行物1に示唆される問題点を解決するためにダイナミック方式の結晶生成手段を採用した場合、生成する結晶はスラリ-状態となり、この結晶を蓄熱体として利用する蓄熱手段、熱交換手段においても、蓄熱体をスラリー状態の結晶で用いることは当業者が通常なすことといえる。

(2.3)について
刊行物1記載の発明は共晶濃度の多成分系混合液(硝酸ナトリウム水溶液)を用いた蓄熱・放熱装置であり、相違点1についてで検討したように刊行物1記載の発明が目指している共晶点温度による一定温度での熱交換を実現すべく、ダイナミック方式の結晶生成手段を採用するとき、結晶生成手段における蓄熱温度のみならず熱交換手段における放熱温度をも共晶点温度による一定温度に設定することは、当業者が容易になしえた事項である。

(2.2)及び(2.4)について
また、このようにダイナミック方式の結晶生成手段を採用して蓄熱、放熱温度を共晶点温度による一定温度とするとき、共晶点(共晶濃度かつ共晶点温度)を用いることから、結晶組成は「共晶点の各成分物質の同一割合の結晶」に、また、熱交換(熱取り出し)時の混合液が「共晶点の固液共存相の多成分系混合液)」となることは、当業者に明らかな事項である。

よって、結晶生成手段と、蓄熱手段と、熱交換手段からなる刊行物1記載の発明において、結晶生成手段としてダイナミック方式の結晶生成手段を採用して、結晶形状をスラリー状態とし(2.1)、結晶組成を共晶点の各成分物質の同一割合での結晶とし(2.2)、熱交換(熱取り出し)温度を共晶点の一定温度とし(2.3)、熱交換(熱取り出し)時の混合液を共晶点の固液共存相の多成分系混合液とすること(2.4)は、上記刊行物1、2記載の事項に基づいて、当業者が容易になしえた事項である。

そして、本願発明の奏する効果も、刊行物1記載の発明、刊行物1、2記載の事項、及び周知の技術手段から、当業者が予測できる程度のものであって、格別なものとはいえない。

6.結び
以上のとおりであるから、本願発明は、刊行物1記載の発明、刊行物1、2記載の事項、及び周知の技術手段に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-04-09 
結審通知日 2013-04-10 
審決日 2013-04-26 
出願番号 特願2006-199511(P2006-199511)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F28D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤原 直欣関口 哲生  
特許庁審判長 竹之内 秀明
特許庁審判官 平上 悦司
前田 仁
発明の名称 多成分系ダイナミックタイプの蓄熱・放熱システムにおける熱交換方法と装置  
代理人 吉永 貴大  
代理人 吉永 貴大  

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