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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C08L
管理番号 1275781
審判番号 不服2011-3790  
総通号数 164 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-08-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-02-21 
確定日 2013-06-20 
事件の表示 特願2005- 31971「脂肪族ポリエステル系樹脂組成物及びその成形体」拒絶査定不服審判事件〔平成17年10月13日出願公開、特開2005-281678〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 主な手続の経緯
本願は,平成17年2月8日(先の出願に基づく優先権主張 平成16年3月2日)を出願日とする特許出願であって,平成22年8月3日付けで拒絶理由が通知され,同年11月8日に意見書が提出されるとともに特許請求の範囲及び明細書が補正され,同月19日付けで拒絶査定がされたところ,これに対して,平成23年2月21日に拒絶査定不服審判が請求され,平成25年1月18日付けで拒絶理由(以下「本件拒絶理由」という。)が通知され,同年3月25日に意見書が提出されるとともに特許請求の範囲及び明細書が補正されたものである。

第2 本件拒絶理由
本件拒絶理由は,要するに,この出願は特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に規定する要件(いわゆるサポート要件)を満たしていない,というものである。

第3 特許を受けようとする発明(特許請求の範囲の記載)について
特許を受けようとする発明は,平成25年3月25日付けで補正された特許請求の範囲及び明細書(以下「本願明細書」という。なお,明細書は,平成22年11月8日付けでも補正されている。)の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるとおりのものである。
そのうち,請求項1の記載は,次のとおりである。
「ガラス転移温度が0℃以下で190℃,2.16kg荷重で測定したMFRが10g/10分以下の,下記脂肪族ポリエステル系樹脂(A)と,
ガラス転移温度が30℃以上で190℃,2.16kg荷重で測定したMFRが,上記脂肪族ポリエステル系樹脂(A)のMFRの1.2倍以上である,下記脂肪族オキシカルボン酸系樹脂(B)とを含む樹脂組成物であって,
(A)100重量部に対し(B)を1?50重量部含有し,(A)100重量部あたり,カルボジイミド化合物(C)が0.1?5重量部配合されてなり,該カルボジイミド化合物(C)が,製造原料に脂環族ジイソシアネートを用いたものであって,重合度が2以上40以下のポリカルボジイミド化合物であることを特徴とする脂肪族ポリエステル系樹脂組成物。
[脂肪族ポリエステル系樹脂(A)]
炭素数2?10の脂肪族及び/又は脂環式ジオール単位と,炭素数2?10の脂肪族及び/又は脂環式ジカルボン酸単位からなる脂肪族ポリエステル系樹脂
[脂肪族オキシカルボン酸系樹脂(B)]
下記式(3)で表される脂肪族オキシカルボン酸単位を必須成分とする脂肪族オキシカルボン酸系樹脂
-O-R^(3)-CO- (3)
(上記式(3)中,R^(3)は2価の脂肪族炭化水素基又は2価の脂環式炭化水素基を表す。)」(以下,請求項1の記載に係る発明を「本願発明1」という。)

第4 本願が拒絶されるべき理由
1 本願明細書の記載
上記第3で摘記するほか,本願明細書には次の記載がある(なお,下線は,審決による。)。
「本発明は,自然環境下において分解性を有し,力学特性に優れた成形体を提供し得る脂肪族ポリエステル系樹脂組成物と,この脂肪族ポリエステル系樹脂組成物を成形してなる成形体に関する。」(【0001】)
「ポリブチレンスクシネート,ポリブチレンスクシネートアジペートといった脂肪族ジカンルボン酸単位と脂肪族ジオール単位を有する脂肪族ポリエステル系樹脂は,結晶化速度が速く,成形性は良好であるが,フィルムの引き裂き強度が不十分な場合がある。
一方,ポリ乳酸等の脂肪族オキシカルボン酸系樹脂は,非常に剛性が高く,強度も高い材料であるが,フィルムにしたときの衝撃強度は弱く,また結晶化速度が遅いため成形性がよくない。」(【0004】?【0005】)
「【発明が解決しようとする課題】
本発明は,自然環境下において分解性を有し,力学特性,特に引き裂き強度と衝撃強度に優れたポリエステル系樹脂組成物と,この脂肪族ポリエステル系樹脂組成物を成形してなる成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
本発明者は,結晶性及び成形性に優れた脂肪族ポリエステル系樹脂(A)と,脂肪族オキシカルボン酸系樹脂(B)とを併用することについて鋭意検討を行った結果,低分子量の(B)を所定割合で含有させることにより,生分解性と優れた力学特性の両特性を有する脂肪族ポリエステル系樹脂組成物が得られることを知見し,本発明を完成するに至った。」(【0009】?【0010】)
「本発明に用いられる脂肪族ポリエステル系樹脂(A)は,ガラス転移温度が0℃以下であることが必要である。ガラス転移温度が0℃を超えると柔軟性が低下するため,好ましくない。ガラス転移温度は,好ましくは-120℃以上-5℃以下である。なお,脂肪族ポリエステル系樹脂(A)のガラス転移温度は,固体状態の粘弾性測定を行うことで観察することができ,例えばレオメトリック・サイエンティフィック・エフ・イー社製「RMS800」を用い,試験片に1Hzの正弦波振動を与えた際の応答信号を観測する測定を,低温側から順次温度を変化させながら行い,応答信号から計算される損失正接のピーク温度を記録することにより求めることができる。
また,本発明に用いられる脂肪族ポリエステル系樹脂(A)は,190℃,2.16kg荷重で測定したMFRが10g/10分以下であることが必要である。MFRが10g/10分を超えると,得られる脂肪族ポリエステル系樹脂組成物の成形性が劣るものとなり好ましくない。このMFRの下限は通常0.1g/10分以上であり,上限は好ましくは8g/10分以下である。」(【0038】?【0039】)
「本発明に用いられる脂肪族オキシカルボン酸系樹脂(B)は,190℃,2.16kg荷重で測定したMFRは,下限が通常0.1g/10分以上であり,上限が通常100g/10分以下,好ましくは70g/10分以下,より好ましくは50g/10分以下である。この脂肪族オキシカルボン酸系樹脂(B)のMFRは,上記脂肪族ポリエステル系樹脂(A)のMFRの1.2倍以上であるであることが必要である。この倍数が1.2を下まわると脂肪族オキシカルボン酸系樹脂(B)を配合することによる機械物性改良効果が低くなり好ましくない。この倍数は好ましくは1.4以上,より好ましくは1.6以上であり,上限は通常30以下,好ましくは20以下である。」(【0047】)
「<カルボジイミド化合物(C)>
本発明の脂肪族ポリエステル系樹脂組成物には,主に大気中の水分などによる加水分解を抑制する目的において,カルボジイミド化合物(C)を好適に配合することができる。
用いられるカルボジイミド化合物(C)は,分子中に1個以上のカルボジイミド基を有する化合物(ポリカルボジイミド化合物を含む)であり,このようなカルボジイミド化合物は,例えば触媒として有機リン系化合物又は有機金属化合物を用いて,イソシアネート化合物を70℃以上の温度で,無溶媒又は不活性溶媒中で脱炭酸縮合反応させることにより合成することができる。…
ポリカルボジイミド化合物の製造原料である有機ジイソシアネートとしては,例えば芳香族ジイソシアネート,脂肪族ジイソシアネート,脂環族ジイソシアネートやこれらの混合物を挙げることができ,具体的には,1,5-ナフタレンジイソシアネート,4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート,4,4’-ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート,1,3-フェニレンジイソシアネート,1,4-フェニレンジイソシアネート,2,4-トリレンジイソシアネート,2,6-トリレンジイソシアネート,2,4-トリレンジイソシアネートと2,6-トリレンジイソシアネートの混合物,ヘキサメチレンジイソシアネート,シクロヘキサン-1,4-ジイソシアネート,キシリレンジイソシアネート,イソホロンジイソシアネート,ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート,メチルシクロヘキサンジイソシアネート,テトラメチルキシリレンジイソシアネート,2,6-ジイソプロピルフェニルイソシアネート,1,3,5-トリイソプロピルベンゼン-2,4-ジイソシアネート等を例示することができる。…
本発明においては,特に,ポリカルボジイミド化合物を用いることが好ましく,その重合度は,下限が2以上,好ましくは4以上であり,上限が通常40以下,好ましくは20以下である。この重合度が大きすぎると組成物中における分散性が不十分となり,例えばインフレフィルムにおいて外観不良の原因になる場合がある。」(【0050】?【0059】)
「<配合割合>
脂肪族ポリエステル系樹脂(A)と脂肪族オキシカルボン酸系樹脂(B)とを含む本発明の脂肪族ポリエステル系樹脂組成物中における脂肪族オキシカルボン酸系樹脂(B)の含有割合は,(A)100重量部に対し,下限が1重量部以上,好ましくは2重量部以上,より好ましくは3重量部以上で,上限が50重量部以下,好ましくは40重量部以下,より好ましくは30重量部以下である。この範囲よりも脂肪族オキシカルボン酸系樹脂(B)の量が少なすぎても多すぎても,フィルムの衝撃強度等の力学特性改良効果が低くなる傾向があり好ましくない。
また,本発明の脂肪族ポリエステル系樹脂組成物へのカルボジイミド化合物(C)の配合割合は,脂肪族ポリエステル系樹脂(A)100重量部あたり,下限が通常0.01重量部以上,好ましくは0.05重量部以上,特に好ましくは0.1重量部以上で,上限が通常10重量部以下,好ましくは5重量部以下,特に好ましくは3重量部以下である。カルボジイミド化合物(C)の配合量が少なすぎると,加水分解抑制効果が不十分となる傾向があり,多すぎても添加効果は飽和し,添加量の増加に見合う効果が得られない。」(【0068】?【0069】)
「(1)脂肪族ポリエステル系樹脂(A)
[脂肪族ポリエステル系樹脂(A1)]
攪拌装置,窒素導入口,加熱装置,温度計及び減圧口を備えた容量1m^(3)の反応容器に,コハク酸76.9kg,アジピン酸24.8kg,1,4-ブタンジオール84.3リットル,DLリンゴ酸0.24kg,酸化ゲルマニウムを予め1重量%溶解させた90%DL乳酸水溶液5.4kgを仕込んだ。容器内容物を攪拌下,窒素ガスを導入し,窒素ガス雰囲気下120℃から反応を開始し,1時間40分かけて200℃まで昇温した。引き続き,1時間25分かけて230℃に昇温すると同時に1mmHg(133Pa)まで減圧し,230℃,1mmHg(133Pa)にて4時間重合を行い脂肪族ポリエステル系樹脂(A1)を得た。
得られた脂肪族ポリエステル系樹脂(A1)のMFR(190℃,2.16kg荷重)は4.2g/10分,ガラス転移温度は-38℃,融点は88℃であった。この脂肪族ポリエステル系樹脂(A1)中のリンゴ酸成分は0.16モル%であった。
[脂肪族ポリエステル系樹脂(A2)]
攪拌装置,窒素導入口,加熱装置,温度計及び減圧口を備えた容量1m^(3)の反応容器に,コハク酸134kg,1,4-ブタンジオール116リットル,DLリンゴ酸0.24kg,酸化ゲルマニウムを予め1重量%溶解させた90%DL乳酸水溶液7.21kgを仕込んだ。容器内容物を攪拌下,窒素ガスを導入し,窒素ガス雰囲気下120℃から反応を開始し,1時間40分かけて200℃まで昇温した。引き続き,1時間25分かけて230℃に昇温すると同時に1mmHg(133Pa)まで減圧し,230℃,1mmHg(133Pa)にて4時間20分重合を行い脂肪族ポリエステル系樹脂(A2)を得た。
得られた脂肪族ポリエステル系樹脂(A2)のMFR(190℃,2.16kg荷重)は3.8g/10分,ガラス転移温度は-25℃,融点は110℃であった。この脂肪族ポリエステル系樹脂(A2)中のリンゴ酸成分は0.15モル%であった。」(【0082】?【0085】)
「(2)脂肪族オキシカルボン酸系樹脂(B)
[脂肪族オキシカルボン酸系樹脂(B1)]
MFR(190℃,2.16kg荷重)が30g/10分,ガラス転移温度が65℃のポリ乳酸を用いた。なお,DSC測定において融点は166℃であった。
[脂肪族オキシカルボン酸系樹脂(B2)]
MFR(190℃,2.16kg荷重)が20g/10分,ガラス転移温度が63℃のポリ乳酸を用いた。なお,DSC測定において融点は観測されなかった。
[脂肪族オキシカルボン酸系樹脂(B3)]
MFR(190℃,2.16kg荷重)が8.1g/10分,ガラス転移温度が65℃のポリ乳酸を用いた。なお,DSC測定において融点は166℃であった。
[脂肪族オキシカルボン酸系樹脂(B4)]
MFR(190℃,2.16kg荷重)が4.1g/10分,ガラス転移温度が65℃のポリ乳酸を用いた。なお,DSC測定において融点は165℃であった。
[脂肪族オキシカルボン酸系樹脂(B5)]
MFR(190℃,2.16kg荷重)が3.9g/10分,ガラス転移温度が63℃のポリ乳酸を用いた。なお,DSC測定において融点は観測されなかった。」(【0086】)
「(3)カルボジイミド化合物(C)
ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネートを縮合して得られたポリカルボジイミド(軟化温度70℃,熱分解温度340℃,重合度8?12)を用いた。」(【0087】)
「実施例1,参考例1?7及び比較例1?5
脂肪族ポリエステル系樹脂(A1),(A2),脂肪族オキシカルボン酸系樹脂(B1)?(B5),カルボジイミド化合物(C),充填材(D),可塑剤(E)を表1,2に示した配合にて,190℃において二軸混練機にて混練し,175℃でインフレ成形し,25μm厚みのフィルムを得た。その際ブロー比は2.5とした。」(【0090】)
「得られたフィルムにつき,以下の評価を実施した。結果を表1,2に示す。なお,MDとはフィルム成形時の流れ方向,TDとはその直角方向を表す。
<引っ張り特性(引っ張り降伏強度,引っ張り破断伸び)>
JIS K6781に準拠して測定した。
<エルメンドルフ引き裂き強度>
JIS K7128に準拠して測定した。
<打ち抜き衝撃強度>
東洋精機社製フィルムインパクトテスターを用い,直径50mmのフィルムの打ち抜き衝撃強度をJIS P8134に準じて測定した。なお,インパクトテスター打ち抜き部先端には直径25.4mmの半球状金属製治具を取り付けて評価を行った。
<生分解性>
圃場に埋設し,その生分解性を観察した。
○:2ヶ月後にフィルムに穴あきが認められる。もしくは消失している。
×:2ヶ月後に外観に変化がない。
【表1】


【表2】


」(【0091】)

2 本願がサポート要件を満たさない具体的理由について
(1)ア 本願明細書の記載によれば,本願発明1は,少なくとも引き裂き強度と衝撃強度に優れた脂肪族ポリエステル系樹脂組成物を提供することを解決課題とするものであって(【0001】,【0009】),例えば脂肪族ポリエステル系樹脂(A)に特定の物性・構成からなる脂肪族オキシカルボン酸系樹脂(B)を所定割合で含有させ,かつ,当該脂肪族オキシカルボン酸系樹脂(B)のMFRを脂肪族ポリエステル系樹脂(A)のMFRの1.2倍以上(MFR比B/Aを1.2以上)とすることで,機械物性改良効果を奏するすなわち上記課題を解決するものである(【0010】,【0047】,【0068】など)とのことである。
イ ところで,本願発明1は,製造原料に脂環族ジイソシアネートを用いたものであって重合度が2以上40以下のポリカルボジイミド化合物を必須成分とするものであるが,本願明細書の記載からは,当該成分の配合の有無と上記解決課題との間に技術的な関連性を認めることができない。
すなわち,本願明細書には,本願発明1が,本願発明1のポリカルボジイミド化合物を含む一般的なカルボジイミド化合物を配合することの意義について,加水分解を抑制することを所期の目的とする旨の記載はあるものの(【0050】,【0069】など),引き裂き強度及び衝撃強度を改善させるために配合するとの記載はない。
なるほど,請求人も主張するように(平成22年11月8日付け意見書3頁,審判請求書4頁),参考例2と実施例1との対比から,一応,実施例1のものが,参考例2のものに比し,引き裂き強度(TD)と衝撃強度の点で有利な効果を発揮するといえそうである。しかし,本願明細書からは,このような効果は,特定のカルボジイミド化合物(ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネートを縮合して得られた軟化温度70℃,熱分解温度340℃,重合度8?12のカルボジイミド化合物。【0087】)を特定の割合(脂肪族ポリエステル系樹脂(A)100重量部に対して0.4重量部)で配合した場合に奏することが認められるにすぎず,【0050】?【0058】に記載されているような一般的なカルボジイミド化合物を用いた場合に常に当てはまることが,本願明細書の記載及び本願優先日当時の技術常識から当業者に認識できたということはできない。ましてや,カルボジイミド化合物が,本願明細書の【0087】に記載のカルボジイミド化合物であれば格別,製造原料に脂環族ジイソシアネートを用いたものであって重合度が2以上40以下のポリカルボジイミド化合物であるときに,本願発明1が,上記効果を奏することが当業者に認識できる範囲内のものであったということもできない(本願明細書の【0087】に記載のカルボジイミド化合物は,本願発明1の「製造原料に脂環族ジイソシアネートを用いたものであって,重合度が2以上40以下のポリカルボジイミド化合物」の一例にすぎない。)。

(2)ア 上記(1)イのとおり,本願発明1の「製造原料に脂環族ジイソシアネートを用いたものであって,重合度が2以上40以下のカルボジイミド化合物」であるカルボジイミド化合物(C)は,本願明細書の【0087】に記載のカルボジイミド化合物と同義ではなく,このようなカルボジイミド化合物(C)の配合の有無は,本願発明1が,本願明細書の記載ないし技術常識に照らし当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるかの検討にあたり,無関係の技術的事項であるといえる。
しかも,上記(1)アで述べたとおり,本願明細書には,課題解決手段として,脂肪族ポリエステル系樹脂(A)に特定の物性・構成からなる脂肪族オキシカルボン酸系樹脂(B)を所定割合で含有させ,かつ,当該脂肪族オキシカルボン酸系樹脂(B)のMFRを脂肪族ポリエステル系樹脂(A)のMFRの1.2倍以上であることが記載されているにすぎない。
そこで,本願発明1の課題解決手段であるとされるMFR比B/Aが1.2以上であることと本願発明1が解決しようとする課題との関係をみるに,本願明細書の実施例,比較例及び参考例の対比(表1,表2)から次のことがいえる。
イ まず,脂肪族オキシカルボン酸系樹脂(B)の含有量が脂肪族ポリエステル系樹脂(A)100重量部に対して10重量部であって,充填剤及び可塑剤を含有させない例は,実施例1,参考例1?3,参考例5,比較例3及び比較例4であるが,これら例の相互対比からは,MFR比B/Aと解決課題(引き裂き強度や衝撃強度の改善)との間に技術的な関連性(相関性など)を見いだすことができないといえる。
例えば,参考例3と参考例5はMFR比がほぼ同じ(おおよそ「2.0」)であるにもかかわらず(審決注:【0049】の計算式から,参考例5の脂肪族ポリエステル系樹脂(A1+A2)のみかけ上のMFRは約「4.0」と算出される。),両者の引き裂き強度(TD,MDとも)及び衝撃強度は大きく異なっている。比較例3と比較例4との対比においても,同様である(MFR比はともに,おおよそ「1.0」である。)。さらには,MFR比B/Aが1.2以上のもの(実施例1,参考例1?3,参考例5)と1.2未満のもの(比較例3,比較例4)との間に,すなわちMFR比B/Aが1.2以上であることと上記解決課題との間に,何らの関連性を見いだすこともできない。
ウ また,比較例4は,比較例1との対比において,使用されている脂肪族ポリエステル系樹脂がA1(【0082】,【0083】)である点で同じであり,脂肪族オキシカルボン酸系樹脂(B)を10重量部含有している点で異なるところ,MFR比が1.2未満ではあるが,引き裂き強度(TD,MD)及び衝撃強度の改善という課題のすべてを解決するものである。これに対し,参考例1及び参考例2は,ともにMFR比が1.2以上であるにもかかわらず,引き裂き強度(TD,MD),衝撃強度のいずれかの点で,比較例1のものよりも有利な効果を奏しているにすぎない。
このことからも,MFR比(特にMFR比が1.2以上であること)と解決課題との間に,何らかの関連性を見いだすことができないといえる。
エ そうすると,本願明細書には,MFR比B/Aが1.2以上であることと本願発明1の解決課題(得られる効果)との関係の技術的な意味が,当業者に理解できる程度に記載されているということはできない。

(3) よって,本願発明1は,本願明細書の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるということはできず,また,当業者が本願優先日当時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということもできないから,本願発明1は,発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものであるといわざるを得ない。請求項1の記載は,いわゆるサポート要件に違反するものである。

3 請求人の主張に対し
(1) 請求人は,本願発明1は製造原料に脂環族ジイソシアネートを用いたものであり重合度が2以上40以下のポリカルボジイミド化合物を特定の割合で配合することにより引き裂き強度(TD)と衝撃強度の点で有利な効果を発揮するものであって,このことは,上記ポリカルボジイミド化合物の代表例であるジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネートを縮合して得られた軟化温度70℃,熱分解温度340℃,重合度8?12のカルボジイミド化合物(本願明細書の【0087】に記載のカルボジイミド化合物)を配合したものが,配合していないものに比べて,有利な効果が得られている旨の本願明細書の記載から明らかであると主張する(平成25年3月25日付け意見書4頁)。
しかし,上述のとおり,カルボジイミド化合物(本願明細書の【0087】に記載のカルボジイミド化合物を除く。)の配合の有無は,本願発明1が,本願明細書の記載ないし技術常識に照らし当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるかの検討にあたり無関係の技術的事項であるといわざるを得ない。しかも,本願明細書の【0087】に記載のカルボジイミド化合物は,本願発明1の「製造原料に脂環族ジイソシアネートを用いたものであって,重合度が2以上40以下のポリカルボジイミド化合物」の一例にすぎず,このことからただちに,製造原料に脂環族ジイソシアネートを用いたものであって重合度が2以上40以下のポリカルボジイミド化合物を配合した場合,常に有利な効果を発揮すると当業者が認識できたということもできない(請求人が主張するような有利な効果は,本願明細書の記載からは,参考例2と実施例1との対比において認められるにすぎないのであるから,仮に,本願明細書の【0087】に記載のカルボジイミド化合物が本願発明1の「製造原料に脂環族ジイソシアネートを用いたものであって,重合度が2以上40以下のポリカルボジイミド化合物」の代表例であるといえたとしても,このような効果が,実施例1以外の場合,例えば脂肪族オキシカルボン酸系樹脂(B)の含有量が10重量部でない場合,カルボジイミド化合物(C)の含有量が0.4重量部でない場合,脂肪族ポリエステル系樹脂(A)/脂肪族オキシカルボン酸系樹脂(B)の組み合わせが(A-1)/(B-2)以外の場合,においても常に発揮することを当業者が認識できたとはいえない。)。
請求人の上記主張は,採用の限りでない。

(2) また,請求人は,カルボジイミド化合物を配合することによる効果(数値限定の意義)について,出願の後に補充した実験結果(実験例1)を踏まえて主張している(平成22年11月8日付け意見書3頁,審判請求書4頁)。
しかし,このような発明の効果は,本願の当初明細書において明らかにしていなかった事項であり,しかも本願の当初明細書に当業者において当該効果を認識できる程度の記載やこれを推論できる記載があると認められないので,上記実験結果を参酌することは許されない。ましてや,実験例1で用いたカルボジイミド化合物は,実施例1と同じもの,すなわちジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネートを縮合して得られた軟化温度70℃,熱分解温度340℃,重合度8?12の特定のカルボジイミド化合物であることに鑑みると,請求人の主張する効果が,製造原料に脂環族ジイソシアネートを用いたものであって重合度が2以上40以下のポリカルボジイミド化合物を用いた場合に常に当てはまるということが,本願の優先日当時,当業者が認識できたということもできない。
実験例1を踏まえた請求人の上記主張についても,採用できない。

第5 むすび
以上のとおり,請求項1の記載についての本件拒絶理由は妥当なものであって,平成25年3月25日付け意見書及び手続補正書の内容を検討しても,これを覆すに足りる根拠が見いだせないから,他の請求項の記載について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-04-19 
結審通知日 2013-04-23 
審決日 2013-05-08 
出願番号 特願2005-31971(P2005-31971)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (C08L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岡▲崎▼ 忠  
特許庁審判長 蔵野 雅昭
特許庁審判官 塩見 篤史
須藤 康洋
発明の名称 脂肪族ポリエステル系樹脂組成物及びその成形体  
代理人 重野 剛  

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