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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 H05B
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 H05B
管理番号 1275783
審判番号 不服2011-12221  
総通号数 164 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-08-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-06-08 
確定日 2013-06-20 
事件の表示 特願2007-514075「金属錯体」拒絶査定不服審判事件〔平成17年12月 8日国際公開、WO2005/117161、平成20年 1月10日国内公表、特表2008-500717〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件審判請求に係る出願(以下「本願」という。)は、特許法第184条の3第1項の規定により、2005年 5月17日(パリ条約による優先権主張 2004年 5月24日(GB)英国)の国際出願日にされたものとみなされる特許出願であって、以降の手続の経緯は以下のとおりのものである。

平成18年11月24日 国内書面提出
平成19年 1月24日 翻訳文(請求の範囲、明細書等)提出
同日 出願審査請求
平成22年 7月13日付け 拒絶理由通知
平成22年 9月17日 意見書・誤訳訂正書
平成23年 2月28日付け 拒絶査定
平成23年 6月 8日 本件審判請求
同日 手続補正書
平成23年 7月 1日付け 手続補正指令(方式)
平成23年 8月11日 手続補正書(方式)(審判請求理由補充書)
平成23年 9月 1日付け 審査前置移管
平成23年 9月16日付け 前置報告書
平成23年 9月22日付け 審査前置解除
平成24年 8月 9日付け 審尋
平成24年10月11日 回答書

第2 平成23年6月8日付け手続補正の却下の決定

<結論>
平成23年6月8日付け手続補正を却下する。

<却下の理由>
I.補正の内容
上記手続補正(以下「本件補正」という。)では、特許請求の範囲につき下記の補正がされているものである。

1.本件補正前(平成22年9月17日付け誤訳訂正書による補正後)
「【請求項1】
アノード、カソード、前記アノード及び前記カソードの間に配置される発光層を含む発光装置であって、
前記発光層は発光化合物を含み、前記化合物は以下のものを含む金属錯体を含む:
ランタニド金属またはd-ブロック金属M;
Mに配位する発光配位子;および
リン原子PがMに直接配位する、P(Ar^(s))(R)(R’)を有する非発光配位子;
ここで、Ar^(s)はリン原子に直接結合されるアリール又はヘテロアリール基であり;R及びR’はリン原子に直接結合し、独立して、H、ハロゲン基又は置換若しくは未置換アルキル、アリール若しくはヘテロアリール基であり;Ar^(s)は、アルキル、アルコキシ、アリール若しくはへテロアリール基を含むXで置換されることを特徴とする発光装置。
【請求項2】
Ar^(s)は前記アリール又はヘテロアリール基に共役結合している、請求項1に記載の発光装置。
【請求項3】
Xがポリマー又はオリゴマーを含む請求項1又は2に記載の発光装置。
【請求項4】
Ar^(s)はポリマー又はオリゴマーの主鎖からのペンダントである、請求項3に記載の発光装置。
【請求項5】
Ar^(s)はポリマー又はオリゴマーの主鎖の一部である、請求項3に記載の発光装置。
【請求項6】
Mはデンドリマーの核中に含まれる、請求項1又は2に記載の発光装置。
【請求項7】
Ar^(s)はフェニル基である、請求項1ないし6のいずれか一項に記載の発光装置。
【請求項8】
前記リン原子はさらにR及び選択的にR’に結合され、R及びR’はそれぞれ独立して置換又は未置換アリール又はヘテロアリール基である、請求項1ないし7のいずれか一項に記載の発光装置。
【請求項9】
Rは置換又は未置換フェニル基であり、R’は独立して置換又は未置換フェニル基である、請求項8に記載の発光装置。
【請求項10】
Mがレニウム又はイリジウムである、請求項1ないし9のいずれか一項に記載の発光装置。
【請求項11】
前記発光層が前記アノードと前記カソードの間に配置されるように、前記アノード、前記カソード及び前記発光層を形成する工程を含む、請求項1ないし10のいずれか一項に記載の発光装置を製造する方法。
【請求項12】
前記発光層が溶液処理によって形成される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
発光装置における発光化合物を製造するための反応性化合物であって、前記反応性化合物は以下のものを含む金属錯体を含む:
ランタニド金属またはd-ブロック金属M;
Mに配位する発光配位子;および
リン原子PがMに直接配位する、P(Ar^(s))(R)(R’)を有する非発光配位子;
ここで、Ar^(s)はリン原子に直接結合されるアリール又はヘテロアリール基であり;R及びR’はリン原子に直接結合し、独立して、H、ハロゲン基又は置換若しくは未置換アルキル、アリール若しくはヘテロアリール基であり;Ar^(s)は、アルキル、アルコキシ、アリール若しくはへテロアリール基を含むXで置換され、さらにAr^(s)は1又は2以上の反応基で置換され、前記又は各反応基はトリフレート基、ハロゲン基、ボロン酸基、ボロンエステル基及びボラン基から構成される群から選ばれる反応性化合物。
【請求項14】
Ar^(s)はフェニル基である、請求項13に記載の反応性化合物。
【請求項15】
Rは置換又は未置換フェニル基であり、R’は独立して置換又は未置換フェニル基である、請求項13又は14に記載の反応性化合物。
【請求項16】
前記又は各反応基は臭素である請求項13ないし15のいずれか一項に記載の反応性化合物。
【請求項17】
発光装置の発光化合物を製造する方法における、請求項13ないし16のいずれか一項で定義される反応性化合物の使用。
【請求項18】
発光装置における発光化合物であって、前記化合物は以下のものを含む金属錯体を含む:
ランタニド金属またはd-ブロック金属M;
Mに配位する発光配位子;および
リン原子PがMに直接配位する、P(Ar^(s))(R)(R’)を有する非発光配位子;
ここで、Ar^(s)はリン原子に直接結合されるアリール又はヘテロアリール基であり;R及びR’はリン原子に直接結合し、独立して、H、ハロゲン基又は置換若しくは未置換アルキル、アリール若しくはヘテロアリール基であり;Ar^(s)は、アルキル、アルコキシ、アリール若しくはへテロアリール基を含むXで置換されることを特徴とする発光化合物。
【請求項19】
Xがポリマー又はオリゴマーを含む、請求項18に記載の化合物。
【請求項20】
Ar^(s)はポリマー又はオリゴマーの主鎖からのペンダントである、請求項19に記載の化合物。
【請求項21】
Ar^(s)はポリマー又はオリゴマーの主鎖の一部である、請求項19に記載の化合物。
【請求項22】
Mはデンドリマーの核中に含まれる、請求項18に記載の化合物。
【請求項23】
Ar^(s)はフェニル基である、請求項18ないし22のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項24】
前記リン原子はさらにR及び選択的にR’に結合され、R及びR’はそれぞれ独立して置換又は未置換アリール又はヘテロアリール基である、請求項18ないし23のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項25】
Rは置換又は未置換フェニル基であり、R’は独立して置換又は未置換フェニル基である、請求項24に記載の化合物。
【請求項26】
Mがレニウム又はイリジウムである、請求項18ないし25のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項27】
金属錯体を含む化合物の使用であって、前記金属錯体は以下のものを含む:
ランタニド金属またはd-ブロック金属M;
Mに配位する発光配位子;および
リン原子PがMに直接配位する、P(Ar^(s))(R)(R’)を有する非発光配位子;
ここで、Ar^(s)はリン原子に直接結合されるアリール又はヘテロアリール基であり;R及びR’はリン原子に直接結合し、独立して、H、ハロゲン基又は置換若しくは未置換アルキル、アリール若しくはヘテロアリール基であり;Ar^(s)は、アルキル、アルコキシ、アリール若しくはへテロアリール基を含むXで置換されることを特徴とする使用。
【請求項28】
前記化合物は請求項18ないし26のいずれか一項に定義された通りである、請求項27に記載の使用。」
(以下、「旧請求項1」ないし「旧請求項28」という。)

2.本件補正後
「【請求項1】
アノード、カソード、前記アノード及び前記カソードの間に配置される発光層を含む発光装置であって、
前記発光層は発光化合物を含み、前記化合物は以下のものを含む金属錯体を含む:
ランタニド金属またはd-ブロック金属M;
Mに配位する発光配位子;および
リン原子PがMに直接配位する、P(Ar^(s))(R)(R’)を有する非発光配位子;
ここで、Ar^(s)はリン原子に直接結合される5又は6員環であり;R及びR’はリン原子に直接結合し、独立して、H、ハロゲン基又はアルキル、アリール若しくはヘテロアリール基であり;Ar^(s)は、アルキル、アルコキシ、アリール若しくはへテロアリール基を含むXで置換されることを特徴とする発光装置。
【請求項2】
Ar^(s)は前記アリール又はヘテロアリール基に共役結合している、請求項1に記載の発光装置。
【請求項3】
Xがポリマー又はオリゴマーを含み、前記ポリマー又はオリゴマーはカルバゾール、トリアリールアミン、フルオレン、フェニル、フェニレンビニレン、ベンゾチアジアゾール、またはチオフェン繰り返し単位を含む、請求項1又は2に記載の発光装置。
【請求項4】
Ar^(s)はポリマー又はオリゴマーの主鎖からのペンダントである、請求項3に記載の発光装置。
【請求項5】
Ar^(s)はポリマー又はオリゴマーの主鎖の一部である、請求項3に記載の発光装置。
【請求項6】
Mはデンドリマーの核中に含まれ、前記デンドリマーは一般式(XI)を有し、
【化1】


ここで、核は金属イオン又は金属イオンを含む基を表し、nは1又は2以上の整数を表し、それぞれ同じか異なってもよい各デンドロンは、アリール及び/又はヘテロアリール構造単位を含む少なくとも部分的に共役された構造を表す、請求項1又は2に記載の発光装置。
【請求項7】
Ar^(s)はフェニル基である、請求項1ないし6のいずれか一項に記載の発光装置。
【請求項8】
前記リン原子はさらにR及び選択的にR’に結合され、R及びR’はそれぞれ独立して置換又は未置換アリール又はヘテロアリール基である、請求項1ないし7のいずれか一項に記載の発光装置。
【請求項9】
Rは置換又は未置換フェニル基であり、R’は独立して置換又は未置換フェニル基である、請求項8に記載の発光装置。
【請求項10】
Mがレニウム又はイリジウムである、請求項1ないし9のいずれか一項に記載の発光装置。
【請求項11】
前記発光層が前記アノードと前記カソードの間に配置されるように、前記アノード、前記カソード及び前記発光層を形成する工程を含む、請求項1ないし10のいずれか一項に記載の発光装置を製造する方法。
【請求項12】
前記発光層が溶液処理によって形成される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
発光装置における発光化合物を製造するための反応性化合物であって、前記反応性化合物は以下のものを含む金属錯体を含む:
ランタニド金属またはd-ブロック金属M;
Mに配位する発光配位子;および
リン原子PがMに直接配位する、P(Ar^(s))(R)(R’)を有する非発光配位子;
ここで、Ar^(s)はリン原子に直接結合される5又は6員環であり;R及びR’はリン原子に直接結合し、独立して、H、ハロゲン基又はアルキル、アリール若しくはヘテロアリール基であり;Ar^(s)は、アルキル、アルコキシ、アリール若しくはへテロアリール基を含むXで置換され、さらにAr^(s)は1又は2以上の反応基で置換され、前記又は各反応基はトリフレート基、ハロゲン基、ボロン酸基、ボロンエステル基及びボラン基から構成される群から選ばれる反応性化合物。
【請求項14】
Ar^(s)はフェニル基である、請求項13に記載の反応性化合物。
【請求項15】
Rは置換又は未置換フェニル基であり、R’は独立して置換又は未置換フェニル基である、請求項13又は14に記載の反応性化合物。
【請求項16】
前記又は各反応基は臭素である請求項13ないし15のいずれか一項に記載の反応性化合物。
【請求項17】
発光装置の発光化合物を製造する方法における、請求項13ないし16のいずれか一項で定義される反応性化合物の使用。
【請求項18】
発光装置における発光化合物であって、前記化合物は以下のものを含む金属錯体を含む:
ランタニド金属またはd-ブロック金属M;
Mに配位する発光配位子;および
リン原子PがMに直接配位する、P(Ar^(s))(R)(R’)を有する非発光配位子;
ここで、Ar^(s)はリン原子に直接結合される5又は6員環であり;R及びR’はリン原子に直接結合し、独立して、H、ハロゲン基又はアルキル、アリール若しくはヘテロアリール基であり;Ar^(s)は、アルキル、アルコキシ、アリール若しくはへテロアリール基を含むXで置換されることを特徴とする発光化合物。
【請求項19】
Xがポリマー又はオリゴマーを含み、前記ポリマー又はオリゴマーはカルバゾール、トリアリールアミン、フルオレン、フェニル、フェニレンビニレン、ベンゾチアジアゾール、またはチオフェン繰り返し単位を含む、請求項18に記載の化合物。
【請求項20】
Ar^(s)はポリマー又はオリゴマーの主鎖からのペンダントである、請求項19に記載の化合物。
【請求項21】
Ar^(s)はポリマー又はオリゴマーの主鎖の一部である、請求項19に記載の化合物。
【請求項22】
Mはデンドリマーの核中に含まれ、前記デンドリマーは一般式(XI)を有し、
【化2】


ここで、核は金属イオン又は金属イオンを含む基を表し、nは1又は2以上の整数を表し、それぞれ同じか異なってもよい各デンドロンは、アリール及び/又はヘテロアリール構造単位を含む少なくとも部分的に共役された構造を表す、請求項18に記載の化合物。
【請求項23】
Ar^(s)はフェニル基である、請求項18ないし22のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項24】
前記リン原子はさらにR及び選択的にR’に結合され、R及びR’はそれぞれ独立して置換又は未置換アリール又はヘテロアリール基である、請求項18ないし23のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項25】
Rは置換又は未置換フェニル基であり、R’は独立して置換又は未置換フェニル基である、請求項24に記載の化合物。
【請求項26】
Mがレニウム又はイリジウムである、請求項18ないし25のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項27】
金属錯体を含む化合物の使用であって、前記金属錯体は以下のものを含む:
ランタニド金属またはd-ブロック金属M;
Mに配位する発光配位子;および
リン原子PがMに直接配位する、P(Ar^(s))(R)(R’)を有する非発光配位子;
ここで、Ar^(s)はリン原子に直接結合される5又は6員環であり;R及びR’はリン原子に直接結合し、独立して、H、ハロゲン基又はアルキル、アリール若しくはヘテロアリール基であり;Ar^(s)は、アルキル、アルコキシ、アリール若しくはへテロアリール基を含むXで置換されることを特徴とする使用。
【請求項28】
前記化合物は請求項18ないし26のいずれか一項に定義された通りである、請求項27に記載の使用。」
(以下、「新請求項1」ないし「新請求項28」という。)

II.補正事項に係る検討
本件補正は、上記I.のとおり、特許請求の範囲に係る補正事項を含むので、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の(以下「平成18年改正前」という。)特許法第17条の2第4項各号に掲げる事項を目的とするものか否かにつき検討する。
本件補正は、旧請求項1、13、18及び27における「Ar^(s)はリン原子に直接結合されるアリール又はヘテロアリール基であり」を、新請求項1、13、18及び27における「Ar^(s)はリン原子に直接結合される5又は6員環であり」とする補正事項を含むものである。
しかるに、上記「5又は6員環」なる技術概念には、「アリール又はヘテロアリール基」なる技術概念に包含されない環状基(例えば「シクロヘキシル環(基)」、「ピペリジン環(基)」など)が包含されることが当業者に自明であるから、「アリール又はヘテロアリール基」なる記載を「5又は6員環」なる記載に補正することは、請求項の記載事項を限定するものとは認められず、むしろ、特許請求の範囲を実質的に拡張又は変更するものと認められ、当該補正事項が、特許請求の範囲の減縮を目的とするものとは認められない。
してみると、本件補正は、各旧請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものということができず、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものということができない。
さらに、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項に掲げる「請求項の削除」、「誤記の訂正」又は「明瞭でない記載の釈明」のいずれかを目的とするものということもできない。
したがって、特許請求の範囲の補正を含む本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項各号に掲げる事項を目的とするものではない。

III.補正の却下の決定のまとめ
以上のとおり、本件補正は、平成18年改正前の特許法第17条の2第4項各号に掲げる事項を目的とするものでないから、同法同条同項に規定する要件を満たしていない。
よって、本件補正は、平成18年改正前の特許法第17条の2第4項に違反するものであるから、特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願についての当審の判断

I.原審の拒絶査定の概要
原審において、平成22年7月13日付け拒絶理由通知書で以下の内容を含む拒絶理由が通知され、当該拒絶理由が解消されていない点をもって下記の拒絶査定がなされた。

<拒絶理由通知>
「 理 由

1.この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
2.この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
3.この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。



<理由1,2について>
・請求項1?28

(1-1)請求項1?28について
発明の詳細な説明には、請求項1?28所定の発光装置等について、使用する化合物がどのような原料をどの程度の量用いて製造されたか、それにより得られた化合物又は装置がどのような特性等を示したかが、具体的な数値データにより開示されていない。
よって、請求項1?28に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでなく、また、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1?28に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。
・・(中略)・・
<理由3について>
・請求項1?28
・・(中略)・・
(2-3)請求項13?28について
請求項13?28に係る発明は、(a)置換若しくは未置換、(b)アリール基及び(c)ヘテロアリール基なる語を用いて化合物を特定している。
ここで、上記規定において、(a)「置換」する具体的な基の範囲が不明であり;(b)アリール基の大きさや他の基(P,R,R’等)の置換位置が不明であり;(c)ヘテロアリール基を構成する具体的な元素やその大きさ、他の基(P,R,R’等)の置換位置が不明であること等から、当業者が請求項13?28所定の化合物の外延を特定することができない。
よって、請求項13?28に係る発明は明確でない。
・・(後略)」

<拒絶査定>
「この出願については、平成22年 7月13日付け拒絶理由通知書(以下、単に「拒絶理由通知書」という。)に記載した理由1及び2(項目(1-1))並びに3(項目(2-3))によって、拒絶をすべきものです。
なお、意見書及び誤訳訂正書の内容を検討しましたが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。

備考
拒絶理由通知書に記載した理由1?3について、出願人は意見書にて下記のとおり主張している。
「上記2.(3)のとおり、本出願人は、請求項1、13、18、および27に係る金属錯体を具体的に限定する補正を行いました。
本願明細書に記載しているとおり、本願発明の化合物は金属錯体を含む発光化合物であり(段落[0042])、本願明細書には、こうした金属錯体の設計ルールが参考文献とともに詳細に開示されています(段落[0007]?[0023]等)。また、本願明細書には、発光化合物を製造するための反応性化合物の合成方法(段落[0160]?[0169]等)および発光装置の製造例(段落[0148]?[0154]等)が参照文献とともに記載されており、当業者であれば、これらの記載に基づき、本願発明に係る化合物および装置をどのように製造するか、それらがどのような特性を有するかを容易に理解することができます。
以上のとおり、本願発明は発明の詳細な説明に記載されたものであり、発明の詳細な説明は本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されており、上記拒絶理由には該当しません。」(項目「3.見解(1-1)について」)

「上記2.(3)のとおり、本出願人は、請求項1、13、18、および27に係る金属錯体を具体的に限定する補正を行いました。該補正により、金属錯体の構造が明確になったため、当業者であれば該金属錯体を含む発光化合物の範囲を特定すること、および発光化合物の外延を特定することができるようになりました。よって、ご指摘の拒絶理由は解消されたものと思料します。」(項目「5.見解(2-1)および(2-3)について」)

以下、誤訳訂正後の請求項1?28に斯かる発明が、拒絶理由通知書に記載した上記理由を解消しているかどうかについて、出願人の主張を中心に検討する。

・理由1,2(項目(1-1))について
出願人は、【0160】?【0169】等に反応性化合物の合成方法が記載され、【0148】?【0154】等に発光装置の製造例が記載されており、当業者がそれらの記載に基づき本願所定の化合物及び装置を製造することができると主張している。
しかしながら、上記箇所には所定の化合物及び素子を製造するための指針が記載されているのみであって、得られた化合物のデータ(スペクトル値等)や製造した装置の特性(発光強度等)については一切開示がされていない。
このような開示内容からは、明細書等の記載内容から本願発明の化合物及び装置が実際に製造可能かどうかは、当業者にとって不明である。また、本願の開示内容が、実際に化合物及び装置を製造した上で記載されているかどうかも不明であるといわざるを得ない。
さらに、仮に、上記開示内容から当業者が明細書に具体的に開示された化合物及び装置を製造することができたとしても、その開示内容に基づいて本願の請求項1?28所定の範囲に包含されるあらゆる化合物及び装置を当業者が実施することができるかどうかは、依然として不明である。
よって、出願人の上記主張は採用することができず、訂正後の請求項1?28に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでなく、また、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が訂正後の請求項1?28に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。
以上より、訂正後の請求項1?28に係る発明は、拒絶理由通知書に記載した理由1及び2(項目(1-1))を依然として解消していない。

・理由3(項目(2-3))について
訂正後の請求項13?28に係る発明は、下記の点で規定する化合物の外延を特定することができない。
(a)「置換若しくは未置換……」なる基が存在するところ、「置換」される基の範囲が具体的に特定されていない。
(b)アリール基の大きさや他の基(P,R,R’等)の置換位置が不明である。
(c)ヘテロアリール基を構成する具体的な元素やその大きさ、他の基(P,R,R’等)の置換位置が不明である。
(d)アルキル基、アルコキシ基の長さの範囲が不明である。
(e)ボロン酸基、ボロンエステル基及びボラン基が一義的な基を指すかどうかが不明である。
(f)ポリマー、オリゴマー及びデンドリマーを構成する繰り返し単位の構造が不明である。
よって、出願人の上記主張は採用することができず、訂正後の請求項13?28に係る発明は、化合物の外延を当業者が特定することができるものでなく、明確でない。
以上より、訂正後の請求項13?28に係る発明は、拒絶理由通知書に記載した理由3(項目(2-3))を依然として解消していない。
・・(後略)」

II.当審の判断
平成23年6月8日付け手続補正は上記第2のとおり却下されたので、当審は、平成22年9月17日付け誤訳訂正書によりいずれも全文が補正された特許請求の範囲及び明細書の記載に基づいて、原査定の拒絶理由(特に理由1)が成立するか否かにつき、以下検討する。

1.本願特許請求の範囲、明細書及び図面に記載された事項

(1)特許請求の範囲に記載された事項
本願の特許請求の範囲には、その請求項1ないし28に項分け記載されて、発光装置、その製造方法、反応性化合物、その反応性化合物の発光化合物の製造方法における使用、発光化合物及び金属錯体を含む化合物の使用に関する種々の事項が記載されている。
そのうち、請求項1には、再掲すると以下の事項が記載されている。
「アノード、カソード、前記アノード及び前記カソードの間に配置される発光層を含む発光装置であって、
前記発光層は発光化合物を含み、前記化合物は以下のものを含む金属錯体を含む:
ランタニド金属またはd-ブロック金属M;
Mに配位する発光配位子;および
リン原子PがMに直接配位する、P(Ar^(s))(R)(R’)を有する非発光配位子;
ここで、Ar^(s)はリン原子に直接結合されるアリール又はヘテロアリール基であり;R及びR’はリン原子に直接結合し、独立して、H、ハロゲン基又は置換若しくは未置換アルキル、アリール若しくはヘテロアリール基であり;Ar^(s)は、アルキル、アルコキシ、アリール若しくはへテロアリール基を含むXで置換されることを特徴とする発光装置。」
(以下、各請求項に記載された事項で特定される各発明を総称して「本願発明」といい、請求項1に記載された事項で特定される発明を「本願発明1」という。)

(2)明細書に記載された事項
本願明細書の発明の詳細な説明には、本願発明が属する技術分野(【0001】)、背景技術(【0002】?【0039】)、本願発明の解決課題(【0040】?【0041】)及びその課題を解決するための手段(【0042】?【0172】)に関する事項が種々記載されている。
そして、上記背景技術(【0002】?【0039】)の欄には、置換基Xに係る事項を除き本願請求項1に記載された事項を具備する金属錯体化合物が記載されている(【0028】?【0033】及び【0036】?【0037】参照)。
また、本願発明の解決課題を解決するための手段(【0042】?【0172】)の欄には、本願発明に係る発光装置、その製造方法、反応性化合物、その反応性化合物の発光化合物の製造方法における使用、発光化合物及び金属錯体を含む化合物の使用についての一般的方法につき記載されているが、置換基Xを含むAr^(s)を有するP(Ar^(s))(R)(R’)の非発光配位子を有する金属錯体に係る具体的な事例等に係る記載はない。

2.検討

(1)前提
以下の検討を行うにあたり、前提となる技術事項などの整理を行う。

ア.技術用語について
本願特許請求の範囲及び明細書には、以下に挙げるとおりの概念が不明確である一般的でない技術用語が存するので、以下の検討にあたりそれぞれを解釈・定義づけする。

(ア)「d-ブロック金属」
「d-ブロック金属」については、【0086】及び【0087】の記載からみて、原子番号39?48番及び72?80番のものと限定的に解釈するものとも解釈できるが、銅、クロムなどの金属も例示されていることからみて、最外殻d軌道に電子を有する金属(原子)、すなわち遷移金属(原子)すべてを意味すると解釈するのが相当である。

(イ)「発光配位子」及び「非発光配位子」
それぞれ、金属に配位結合し錯体を構成することにより、その金属錯体の「発光に寄与する配位子」及び「発光に寄与しない配位子」を意味するものとも解釈できるが、単一の配位子化合物であっても、金属との組合せによって構成された金属錯体の発光特性は異なり、発光しない場合をも存することが当業者に自明である。
(例えば、2,2’-ビピリジル配位子の場合、Irと組み合わせた金属錯体であれば、発光に寄与する配位子、すなわち「発光配位子」であるかもしれないが、CuやCrと組み合わせた金属錯体であれば、発光するか否か不明である(発光しない可能性が高いものと推測できる。)。)
してみると、「発光配位子」及び「非発光配位子」なる配位子化合物の種類分け定義は、そもそも不適当であり、その意味する範囲も不明である。
したがって、以下の検討においては、「発光配位子」は、下記のEL発光方法により発光することができる金属錯体を構成する配位子のすべての種類のものを意味するものとして、「非発光配位子」は、単に請求項1に記載された事項を具備する「(ヘテロ)アリールホスフィン配位子」であるとして、検討する。

イ.発光方式について
金属錯体を使用する発光方式としては、大別して以下の2種が存することが当業者に周知である。

(ア)フォトルミネッセンス(PL)
GaN素子などの励起光源が別途存在し、その励起光源からの励起光を金属錯体、蛍光体などの発光材料に照射し、励起光の励起エネルギーによる発光材料の分子軌道中での電子の励起と基底状態への帰還により発光させる方式である。照明用素子として使用されている。

(イ)電気発光(エレクトロルミネッセンス(EL))
金属錯体、半導体(GaNなど)などの発光材料を含む発光層を2つの電極間に挟持し、直流の電場を付加して、両電極からの電子及び正孔を発光層に送入し、発光材料分子中で電子と正孔とを結合させて励起子を形成させ、その励起子の励起エネルギーによる発光材料の分子軌道中での電子の励起と基底状態への帰還により発光させる方式である。
してみると、この方式の場合、電場が付加されることにより送入される電子及び正孔が両電極から発光層に達して結合することによって形成される励起子が、発光材料分子に十分に到達することを要求されることが当業者に自明であり、少なくとも、上記電子及び正孔がこの発光材料分子に十分に到達することを要求されることも、当業者に自明である。

(2)検討
上記(1)に示した前提を踏まえて検討する。
本願発明1の「発光装置」は、請求項1、明細書の発明の詳細な説明及び【図1】の記載からみて、発光層以外に発光する素子などが存するものではないものと認められるから、発光層に含まれる発光化合物である金属錯体がアノード及びカソードに付加された直流電場により発光する上記(1)イ.(イ)に示したEL方式による発光装置であるものと認められる。
しかるに、本願発明1における「金属錯体」は、(i)「ランタニド金属」または「d-ブロック金属」、すなわち遷移金属である「金属M」、(ii)「発光配位子」、すなわちEL発光方法により発光することができる金属錯体を構成する配位子のすべての種類の配位子化合物及び(iii)「P(Ar^(s))(R)(R’)を有する・・配位子」の極めて多種多岐にわたる組合せからなるものであり、それらの金属錯体の物性(導電性、電子及び正孔の受容性等)も極めて多種多岐にわたるものと認められる。
それに対して、EL方式による発光においては、発光材料である金属錯体(分子)につき有効に発光できる程度の電子、正孔又はそれらが結合した励起子が十分に到達する必要があるから、上記金属錯体の物性によりEL発光の可否が分かれることが当業者に自明である。
そして、本願明細書の発明の詳細な説明の記載をさらに検討しても、本願発明1における「金属錯体」がEL発光するであろうと当業者が認識することができる作用機序などに係る事項につき記載又は示唆されておらず、置換基Xを含むAr^(s)を有するP(Ar^(s))(R)(R’)の非発光配位子を有する金属錯体に係る具体的な製造例及び発光実験例などについても記載されていない。
さらに、本願に係る優先日(2004年5月24日)における当業界において、「本願発明1における「金属錯体」がEL発光するであろう」と当業者が認識することができる技術常識が存するものとも認められない。
してみると、本願明細書の発明の詳細な説明の記載に接した当業者は、たとえ技術常識に照らしても、本願発明1の「発光装置」を構成することを意図し金属錯体を選定するにあたり、多種多岐にわたる過度の試行錯誤を要するものと認められる。
したがって、本願明細書の発明の詳細な説明は、たとえ技術常識に照らしても、本願発明1を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものとは認めることができない。

(3)審判請求人の主張について
審判請求人は、平成24年10月11日付け回答書において、特許請求の範囲の各請求項における「ランタニド金属またはd-ブロック金属M」及び「Ar^(s)はリン原子に直接結合されるアリール又はヘテロアリール基であり」をそれぞれ「レニウム又はイリジウム」及び「Ar^(s)はリン原子に直接結合されるフェニル又はピリジル基であり」とする補正案を提示し、当該補正案のとおり特許請求の範囲を補正することを希望するとした上で、補正された本願発明に係る見解の開示を要請している。
しかるに、上記補正された特許請求の範囲に基づき検討しても、補正後の請求項1における「金属錯体」は、依然として(i)「レニウム又はイリジウム」、(ii)「発光配位子」、すなわちEL発光方法により発光することができる金属錯体を構成する配位子のすべての種類の配位子化合物及び(iii)「P(Ar^(s))(R)(R’)を有する・・配位子」の極めて多種多岐にわたる組合せからなるものであり、明細書の発明の詳細な説明の記載については、依然として上記(2)で検討した拒絶理由が解消されるものとは認められない。
したがって、審判請求人が上記回答書において提示した上記補正案は、採用する余地がない。

(4)小括
以上のとおりであるから、本願明細書の発明の詳細な説明は、本願発明1を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしているものではない。

第4 むすび
以上のとおり、本願は、特許法第49条第4号の規定に該当するから、その余について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-04-18 
結審通知日 2013-04-23 
審決日 2013-05-08 
出願番号 特願2007-514075(P2007-514075)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (H05B)
P 1 8・ 536- Z (H05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 雅雄木村 伸也  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 橋本 栄和
菅野 芳男
発明の名称 金属錯体  
代理人 大野 聖二  
代理人 伊藤 奈月  
代理人 松任谷 優子  
代理人 北野 健  
代理人 田中 玲子  
代理人 森田 耕司  

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