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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G05D
管理番号 1275807
審判番号 不服2012-15116  
総通号数 164 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-08-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-08-06 
確定日 2013-06-20 
事件の表示 特願2007-261517「ロボットシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 4月30日出願公開、特開2009- 93308〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成19年10月5日の出願であって、平成24年4月26日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年8月6日に拒絶査定に対する審判請求がなされ、同時に特許請求の範囲、及び、明細書を補正対象とする手続補正書が提出され、当審から平成25年1月15日付けの拒絶理由通知がなされ、これに対して同年3月21日付けで意見書とともに手続補正書が提出されたものである。

第2.本願発明
本願の請求項1ないし3に係る発明は、平成25年3月21日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲請求項1ないし3に記載された事項により特定されるとおりのものと認めるところ、請求項1の記載は以下のとおりである。
「【請求項1】
地図データを有するコントローラと移動する複数のロボットから構成されるロボットシステムであって、
前記複数のロボットは、それぞれ、
周囲の物体との距離を複数計測する距離センサと、
前記コントローラとの通信を行う第1の送受信部と、
前記ロボットの走行状態を制御する走行制御部と、
前記地図データと照合することで前記ロボットの位置と角度を同定する同定装置とを備え、
前記コントローラは、
ロボットが走行する領域の地図データを記憶した地図データ記憶部と、
前記ロボットとデータの送受信を行う第2の送受信部と、
前記ロボットの位置と角度、及び、計測した前記物体との距離を基に、前記地図データを生成又は更新する地図生成装置とを備え、
前記複数のロボットの前記同定装置は、それぞれ、前記第1の送受信部と前記第2の送受信部との通信によって、前記コントローラの前記地図データ記憶部から地図データを得て、前記距離センサによって得られた距離データから前記ロボットの位置と角度を同定し、
また、前記コントローラの前記地図生成装置は、前記第2の送受信部と前記第1の送受信部との通信によって、前記複数のロボットの前記センサからそれぞれ距離データを得て、複数のロボットに対して1つの地図データを生成又は更新することを特徴とするロボットシステム。」(以下、請求項1に記載の発明を「本願発明」という。)

第3.引用刊行物
○引用刊行物1
当審で通知した拒絶の理由に引用された特開2007-94743号公報(以下、「引用刊行物1」という。)には、「自律移動型ロボットとそのシステム」に関して、図面とともに、以下のとおり記載されている。

ア.【特許請求の範囲】の【請求項8】
「自律移動型ロボットと通信接続可能で、かつ該自律移動型ロボットの位置を推定すると共に、該自律移動型ロボットの移動経路を計画し上記自律移動型ロボットに対し移動経路情報を送信するサーバ装置と、該サーバ装置から受信した移動経路情報に基いて移動機構を制御して移動する上記自律移動型ロボットと、を備えた自律移動型ロボットシステムであって、
上記自律移動型ロボットは、撮影部と、該撮影部で生成された画像データを上記サーバ装置に転送する画像データ転送部と、上記移動機構内のセンサーからのセンサー情報を送信するセンサー情報送信部と、を備え、
上記サーバ装置は、ロボットの移動空間内の障害物位置情報をマップデータとして記憶する第1記憶部と、上記画像データ転送部から転送された画像データを処理する画像データ処理部と、上記センサー情報送信部から送信されたセンサー情報及び上記画像データ処理部での処理結果から位置を推定する位置推定部と、該位置推定部で推定した位置と上記第1記憶部に記憶されているマップデータとから移動経路を求める移動経路計画部と、ユーザからの位置情報及び移動先情報の入力を受ける情報入力部と、該情報入力部から入力された位置情報と上記位置推定部で推定された位置とを関連付けて記憶する位置情報記憶部と、を備え、
上記情報入力部から移動先情報の入力があると、上記移動経路計画部が、入力された移動先情報に対する位置データを上記位置情報記憶部から得て、上記第1記憶部に記憶されているマップデータを参照して、上記位置推定部で推定した位置から移動経路を計画して移動経路情報として上記自律移動型ロボットに送信することを特徴とする、自律移動型ロボットシステム。」

イ.段落【0001】?【0003】
「【技術分野】
本発明は、周囲の状況を判断しユーザから指定された位置に移動する自律移動型ロボットと、この自律移動ロボットにおけるデータ処理の分散化を図った自律移動型ロボットシステムとに関する。
【背景技術】
移動機構で車輪やキャタピラやモータを移動して移動する移動ロボットがある。その中には、肩、脚などの各関節部に設けられた移動機構を作動して歩行する動物型ロボットや、肩、脚などの各関節部に設けられた移動機構を作動して自立歩行する二足歩行ロボットなどの人型ロボットなどがある。
このような移動ロボットの遠隔操作の方法として、携帯電話を利用する方法がある(例えば、特許文献1)。例えば、ユーザ側の携帯電話から移動ロボットに内蔵した携帯電話に回線接続し、ユーザ側の携帯電話と移動ロボット側の携帯電話との間で、各種の操作情報や各種データを送受信する。よって、ユーザは移動ロボットに搭載されているカメラからの画像データを携帯電話で受信することで、移動ロボットの周りの状況を把握し、移動ロボットに対して適切な遠隔操作を行うことができる。
また、このような移動ロボットの一タイプとして、移動ロボットの周りの環境状況を検知すると共にマッピングや位置推定を行って、指定された目的地への移動経路を計画し、この計画された移動経路に従って移動する、自律移動型ロボットが開発されている(例えば、特許文献2及び3)。
特に、特許文献2には、自律移動可能なロボットと通信可能なオブジェクトに、オブジェクト自体の位置を示す第1の位置データを格納する第1記憶部と、この第1の位置データを要求する信号を受信するとその要求信号に応じて位置データをロボットに送信するインターフェースとを備える一方、ロボット内に、オブジェクト及びロボットが存在し得る範囲の地図データ並びにロボット自体の位置を示す第2の位置データを格納する第2記憶部と、オブジェクトにその位置を送信要求するインターフェースと、第1及び第2の位置データを比較する比較器と、この比較結果及び地図データに基いて、ロボットを移動させる移動機構と、を備えたシステムが開示されている。そして、このロボットでは、ロボットの移動先に該当するオブジェクトの位置データをそのオブジェクトから得て、ロボット自体の位置と比較して、第2記憶部に記憶されている地図データとに基いて移動機構により移動する。」

ウ.段落【0014】
「本発明の第2の構成は、自律移動型ロボットと通信接続可能で、かつ自律移動型ロボットの位置を推定すると共に、自律移動型ロボットの移動経路を計画し自律移動型ロボットに対し移動経路情報を送信するサーバ装置と、サーバ装置から受信した移動経路情報に基いて移動機構を制御して移動する自律移動型ロボットと、を備えた自律移動型ロボットシステムであって、撮影部と、撮影部で生成された画像データをサーバ装置に転送する画像データ転送部と、移動機構内のセンサーからのセンサー情報を送信するセンサー情報送信部と、を備え、サーバ装置は、ロボットの移動空間内の障害物位置情報をマップデータとして記憶する第1記憶部と、画像データ転送部から転送された画像データを処理する画像データ処理部と、センサー情報送信部から送信されたセンサー情報及び画像データ処理部での処理結果から位置を推定する位置推定部と、位置推定部で推定した位置と第1記憶部に記憶されているマップデータとから移動経路を求める移動経路計画部と、ユーザからの位置情報及び移動先情報の入力を受ける情報入力部と、情報入力部から入力された位置情報と位置推定部で推定された位置とを関連付けて記憶する位置情報記憶部と、を備え、情報入力部から移動先情報の入力があると、移動経路計画部が、入力された移動先情報に対する位置データを位置情報記憶部から得て、第1記憶部に記憶されているマップデータを参照し、位置推定部で推定した位置から移動経路を計画して移動経路情報として自律移動型ロボットに送信することを特徴とする。
上記構成により、自律移動型ロボットシステムにおけるデータ処理、特に、画像データ処理、マップ生成更新処理、移動経路計画処理をサーバ装置で行うことにより、自律移動型ロボットでのデータ処理量を減らすことができ、自律移動型ロボットの小型化に寄与する。」

エ.段落【0035】
「一方、入力された画像データ中に特徴点が所定の数あれば、この画像データから位置を推定するための判断材料として用いることができる。この場合には、画像データ処理部19は記憶部13に記憶されているランドマークと現在の画像データの特徴点とを比較する(STEP1-5)。ここで、ランドマークとは、マップデータ内の推定位置と該推定位置で撮影した画像データから得られた特徴点の情報との組みである。なお、記憶部13には各画像データについての特徴点がその画像データと共に格納されていない場合には、画像データから特徴点を検出するデータ処理をその都度行う。
画像データ処理部19は、上記STEP1-5の比較の結果、現在生成した画像データの特徴点が既に記憶部13に記憶されているか否かを判断する(STEP1-6)。この判断で一致するものがなければ、新しいランドマークのデータボックスを記憶部13に作成し(STEP1-7)、移動機構制御部12で生成した走行距離を元にしてランドマークの各データを記憶部13に記憶する(STEP1-8)。そして、上記STEP1-1に戻る。一方、画像データ処理部19は、上記STEP1-6の判断で一致するものがある場合には、自律移動型ロボット10が今いる位置は過去に来たことがあると判断し、画像データを元に算出された現在の自律移動型ロボットの位置推定値(以下、「視覚値」という。)と、移動機構制御部12で生成した走行距離とを元に、現在位置を更新し(STEP1-9)、視覚値と走行距離、現在位置の情報を元に、記憶部13内に記憶されている、現在位置に相当するランドマークの各データを更新する(STEP1-10)。ここで、視覚値は、例えば複数の画像データを用いて、カメラから被写体までの距離を三角法で求めることできる。その後、上記STEP1-1に戻る。
以上のループを繰り返し行うことで、記憶部10にランドマークを登録し、かつ更新することができる。」

オ.段落【0076】
「以上の説明では、自律移動型ロボットシステムや音楽配信システムにおける自律移動型ロボットが一台の場合を説明しているが、複数の自律移動型ロボットのそれぞれに例えばID番号を付しておき、この付したID番号を用いて各種サーバ装置と連携してデータ処理や音楽データ配信に関する指示及び音楽データの配信を行うことができる。」

上記摘記事項オ.によれば、自律移動型ロボットを複数とすることが記載されており、その際、サーバ装置も複数にするとは記載されておらず、また、サーバ装置がマップデータを作成するのでサーバ装置が1つであることは明らかであるから、複数の自律移動型ロボットと一つのサーバ装置を備えた自律移動型ロボットシステムが記載されているとするのが自然な解釈である。

以上によれば、引用刊行物1には、
「複数の自律移動型ロボットと通信接続可能で、かつ該複数の自律移動型ロボットの位置を推定すると共に、該複数の自律移動型ロボットの移動経路を計画し上記複数の自律移動型ロボットに対し移動経路情報を送信するサーバ装置と、該サーバ装置から受信した移動経路情報に基いて移動機構を制御して移動する上記複数の自律移動型ロボットと、を備えた自律移動型ロボットシステムであって、
上記複数の自律移動型ロボットは、撮影部と、該撮影部で生成された画像データを上記サーバ装置に転送する画像データ転送部と、上記移動機構内のセンサーからのセンサー情報を送信するセンサー情報送信部と、を備え、
上記サーバ装置は、ロボットの移動空間内の障害物位置情報をマップデータとして記憶する第1記憶部と、上記画像データ転送部から転送された画像データを処理する画像データ処理部と、上記センサー情報送信部から送信されたセンサー情報及び上記画像データ処理部での処理結果から位置を推定する位置推定部と、該位置推定部で推定した位置と上記第1記憶部に記憶されているマップデータとから移動経路を求める移動経路計画部と、ユーザからの位置情報及び移動先情報の入力を受ける情報入力部と、該情報入力部から入力された位置情報と上記位置推定部で推定された位置とを関連付けて記憶する位置情報記憶部と、を備え、
上記情報入力部から移動先情報の入力があると、上記移動経路計画部が、入力された移動先情報に対する位置データを上記位置情報記憶部から得て、上記第1記憶部に記憶されているマップデータを参照して、上記位置推定部で推定した位置から移動経路を計画して移動経路情報として上記複数の自律移動型ロボットに送信する自律移動型ロボットシステム。」
との発明(以下、「引用刊行物発明1」という。)が開示されていると認められる。

○引用刊行物2
同じく、当審で通知した拒絶の理由に引用された特開昭63-213005号公報(以下、「引用刊行物2」という。)には、「移動体誘導方法」に関して、図面とともに、以下のとおり記載されている。

カ.特許請求の範囲の請求項1、2
「1.移動体から外界物体上の諸点までの距離に関する情報を得るための測距手段と、前記移動体の現在位置に関する情報を得るための位置検知手段と、誘導制御のための資料情報を記憶するための記憶手段を有するとともに前記測距手段と位置検知手段に接続された位置推定手段とを備えた移動体誘導装置において、前記測距手段により得られるべき情報を前記位置検知手段の出力情報と前記記憶手段中の資料情報とから予測するステツプと、前記予測ステツプにより得られた情報と前記測距手段の出力情報を対応付けて前記移動体のより正確な現在位置を推定するステツプと、前記推定ステツプにより得られた情報を用いて前記記憶手段中の資料情報を更新するステツプとを有する、移動体誘導方法。
2.特許請求の範囲1において、前記測距手段は距離値を出力する測距センサであり、前記資料情報は地図情報である、移動体誘導方法。」

キ.公報第3頁右上欄第1?17行
「本発明は、距離情報の新規な利用方法によつて、前記の問題点を解決しようとするものである。すなわち、本発明は、測距手段から得られると思われる距離情報を、位置検知手段から得られた位置情報と記憶手段中の現資料情報とから予測し、この予測された距離情報と実際に測距手段から得られた距離情報を対応付けて、正確な現在位置を推定する。そして、この推定過程で得られた情報を用いて、記憶手段中の資料情報を更新する。
より具体的に例示すれば、第1の実施例では、資料情報は地図であり、測距センサから得られるべき距離値群を、位置検知手段からの位置情報と地図から予測し、この予測された距離値群と実際に測距センサから得られた距離値群を対応付けて、正確な現在位置を推定する。そして、この推定過程で得られた情報(対応付けの結果と現在位置)を用いて地図を更新する。」

ク.公報第3頁左下欄第11行?右下欄第8行
「〔作用〕
本発明によれば、得られるはずの距離情報が位置検知手段からの誤差を含む位置情報に基いて近似的に予測され、この予測された距離情報と実際に得られた距離情報の対応付けにより、現在位置が推定できるとともに、誤差の影響が修正又は除去される。資料情報は、この推定過程で得られた情報を用いて、より正確なものに更新され、その結果、次回の推定の精度が高められる。垂直エツジもオプテイカルフローも利用しないので、前述の問題は生じない。
例えば、前記第1の実施例では、予測された距離値群と実際に得られた距離値群の対応付けから地図上の特定点の実位置が検知できるので、正確な現在位置が推定でき、この現在位置と対応付けの結果とを用いることにより、地図はより正確なものに修正される。垂直エツジの利用に起因する前述の難点は除かれる。」

以上によれば、引用刊行物2には、
「測距手段が距離値を出力する測距センサからなり、移動体から外界物体上の諸点までの距離に関する情報を得るための測距手段と、前記移動体の現在位置に関する情報を得るための位置検知手段と、誘導制御のための地図である資料情報を記憶するための記憶手段を有するとともに前記測距手段と位置検知手段に接続された位置推定手段とを備えた移動体誘導装置において、
前記測距手段により得られるべき情報を前記位置検知手段の出力情報と前記記憶手段中の地図情報とから予測するステツプと、前記予測ステツプにより得られた情報と前記測距手段の出力情報を対応付けて前記移動体のより正確な現在位置を推定するステツプと、前記推定ステツプにより得られた情報を用いて前記記憶手段中の地図情報を更新するステツプとを有する、
移動体誘導方法。」
との発明(以下、「引用刊行物発明2」という。)が開示されていると認められる。

○引用刊行物3
同じく、当審で通知した拒絶の理由に引用された特開平4-333903号公報(以下、「引用刊行物3」という。)には、「自走車の走行制御装置」に関して、図面とともに、以下のとおり記載されている。

ケ.【特許請求の範囲】【請求項1】
「現場敷地内を自動走行する自走車と、前記自走車に搭載され現場敷地内を撮影するビデオカメラと、前記自走車に設置され前記ビデオカメラで撮影した画像信号を監視センタへ送信する送信器と、前記ビデオカメラで撮影された画像を2値化処理して位置認識のための走行経路用画像データを作成する画像処理回路と、監視センタから送信されてくる走行ルートマップデータを受信する受信器と、前記受信器で受信された走行ルートマップデータと前記画像処理回路からの画像データとを比較して自走車の位置を割り出すと共に、この位置データと前記走行ルートマップデータを基に自走車の走行経路を決定する処理手段と、前記処理手段からの走行経路データに応じて制御され自走車を走行経路に沿って走行させる駆動手段と、前記監視センタに設けられ、前記現場敷地内での自走車の走行ルートを決定するルートマップ生成手段と、前記ルートマップ生成手段で生成したルートマップデータを自走車に送信する送信機と、前記監視センタに設けられ、前記自走車の送信器から送られてくる画像信号を受信して現場状況を表示するモニタ手段と、を備えたことを特徴とする自走車の走行制御装置。」

コ.段落【0001】
「【産業上の利用分野】本発明は、工場、作業現場等を自動走行する自走車の走行制御装置に関し、特に自動走行により作業現場内等での監視、状況認識を可能にした自走車の走行制御装置に関する。」

サ.段落【0005】?【0010】
「【実施例】本発明の一実施例を図1および図2に基づいて説明する。図1は、本実施例の全体構成を示す概略図である。図において、1は工場、作業所等の現場敷地であり、この現場敷地1内には、資材、作業機械等の障害物2が任意に点在している。3は現場敷地1内を障害物2を回避しながら走行ルート4に沿って走行する自走車であり、この自走車3上には、自走車3の位置センサを兼ねた敷地内撮影用のビデオカメラ5、および監視センタとの信号の送受信を行なう送信アンテナ6、受信アンテナ7が設置されている。監視センタ8には、自走車3の走行ルートマップデータなどを演算して自走車3に送信するパーソナルコンピュータ等からなるルートマップ生成装置9、および自走車3から送信されてくる現場敷地内の撮影画像をモニタするモニタ装置10が設置されている。
図2は、自走車3およびルートマップ生成装置、モニタ装置の詳細を示すブロック図である。図において、ビデオカメラ5は、旋回、傾斜機構を内蔵した雲台11上に設置される。雲台11には旋回および傾斜機構を駆動制御する駆動回路12が接続されている。また、ビデオカメラ5には、その撮影画像を送信する送信器13、およびA/D変換回路14を介して画像処理回路15が接続されている。16は全体を制御する中央処理装置(以下CPUという)であり、このCPU16には、D/A変換回路17を介して雲台駆動回路12が接続され、画像処理回路15も接続されている。また、CPU16には、監視センタ8から送信されてくる走行ルートマップデータおよび雲台操作データなどを受信する受信器18がA/D変換回路19を介して接続されており、さらに走行ルートマップデータ等を格納するメモリ20が接続されている。21は走行車3から障害物2までの距離および障害物2の方向を検出する超音波、赤外線などのセンサであり、このセンサ21はA/D変換回路22を介してCPU16に接続される。23は自走車駆動制御回路であり、この駆動制御回路23はD/A変換回路24を介してCPU16に接続され、駆動制御回路23には自走車3の駆動輪用モータ25および操舵輪用モータ26がそれぞれ接続されている。
ルートマップ生成装置9は、全体を制御し管理するCPU91と、このCPU91に接続されたキーボード等からなる入力装置92、作業現場の平面図データおよび走行ルートマップデータ等を格納するフロッピディスク等の外部記憶装置93、走行ルートマップデータおよび入力装置92から入力される雲台操作データなどを一時記憶するメモリ94と、CPU91にD/A変換回路95を介して接続され走行ルートマップデータ等を自走車3へ送信する送信器96と、CPU91にD/A変換回路97を介して接続されたCRT等からなる表示装置98とから構成される。また、モニタ装置10は、自走車3から送られてくる画像信号を受信する受信器101と、この受信器101で受信された画像信号を表示するテレビ受像機102とから構成される。
次に動作について説明する。まず、入力装置92を操作して作業現場敷地7の全体の平面図データを外部記憶装置93から読み出し、これをCPU91およびD/A変換回路97を通して表示装置98に出力し、表示する。次に、表示装置98の画面に表示された現場平面図を見ながら、希望する監視領域内での走行ルートを決定する。その後、入力装置92を操作して走行領域および走行ルートマップデータを外部記憶装置93から読み込んで自走車3の走行ルートマップをCPU91での演算により求め、これをメモリ94に一時記憶する。しかる後、メモリ94に一時記憶された走行ルートマップデータを読み出してD/A変換回路95によりアナログ量に変換し送信器96に入力する。送信器96では走行ルートマップデータを変調して自走車3に向け送信する。この時、雲台11の操作データおよび自走車3、ビデオカメラの初期動作等のデータも同時に送信される。
自走車3側では、監視センタ8から送信されてくる現場平面図を含む走行ルートマップデータおよびその他の送信データをアンテナ7を通して受信器18により受信し、復調した後、A/D変換回路19を通してCPU16に取り込み、メモリ20に格納する。その後、始動信号によりビデオカメラ5を始動させ、撮影を開始する。ビデオカメラ5で撮影された画像信号は送信器13で変調されてアンテナ6から監視センタ8に向け送信される。監視センタ8では、画像信号をモニタ装置10の受信器101により受信し、テレビ受像機102に出力することにより、作業現場の画像を受像機102に表示する。したがって、受像機102の画面に表示される映像を見ることにより、作業現場の状況を監視できる。
一方、ビデオカメラ5で撮影された画像は1フレーム毎にA/D変換回路14により2値化されて画像処理回路15に入力される。画像処理回路15では、2値化された入力画像を1フレーム毎に平滑化、エッジ抽出などのフィルタリング処理することにより、走行経路認識のための画像データを生成する。この画像データはメモリ20に記憶されている走行ルートマップデータと比較処理され、これにより現場敷地内における自走車3の位置を割り出す。そして、この位置データおよび走行ルートマップデータを基にして、CPU15からD/A変換回路24を通して自走車駆動制御回路23に走行指令を出力する。駆動制御回路23は走行指令信号にしたがって、駆動輪用モータ25および操舵輪用モータ26を駆動することにより、自走車3を図1の走行ルート4に沿って自動走行させる。」

以上によれば、引用刊行物3には、
「現場敷地内を自動走行する自走車3と、監視センタ8からなる自走車の走行制御装置であって、
前記自走車3には、現場敷地内を撮影するビデオカメラ5と、前記ビデオカメラで撮影した画像信号を監視センタへ送信する送信器6と、前記ビデオカメラで撮影された画像を2値化処理して位置認識のための走行経路用画像データを作成する画像処理回路15と、監視センタ8から送信されてくる走行ルートマップデータを受信する受信器7と、前記受信器7で受信された走行ルートマップデータと前記画像処理回路15からの画像データとを比較して自走車3の位置を割り出すと共に、この位置データと前記走行ルートマップデータを基に自走車3の走行経路を決定する処理手段16と、前記処理手段からの走行経路データに応じて制御され自走車を走行経路に沿って走行させる駆動手段23と、が搭載され、
前記監視センタ8には、前記現場敷地内での自走車の走行ルートを決定するルートマップ生成手段9と、前記ルートマップ生成手段9で生成したルートマップデータを自走車に送信する送信機96と、前記自走車3の送信器6から送られてくる画像信号を受信して現場状況を表示するモニタ手段102と、が設けられる、
自走車の走行制御装置。」
との発明(以下、「引用刊行物発明3」という。)が開示されていると認められる。

第4.対比・判断

本件発明と引用刊行物発明1とを比較すると、後者は、「サーバ装置」に、「ロボットの移動空間内の障害物位置情報をマップデータとして記憶」し、これに基づいて、「複数の自律移動型ロボット」の移動を制御する「自律移動型ロボットシステム」であるから、「ロボットシステム」ということができ、本件発明の「ロボットシステム」と基本的に共通していて、後者の「自律移動型ロボット」は、前者の「ロボット」に相当し、後者の、「サーバ装置」は、「ロボットの移動空間内の障害物位置情報をマップデータとして記憶する」点では、前者の「コントローラ」に相当する。
さらに、後者の自律移動型ロボットシステムとサーバ装置が、「通信接続可能」である点は、前者が、ロボットに「コントローラとの通信を行う第1の送受信部」を備え、コントローラに「ロボットとデータの送受信を行う第2の送受信部」を備える点に相当し、後者の、「サーバ装置から受信した移動経路情報に基いて移動機構を制御して移動する」点は、前者の、「ロボットの走行状態を制御する走行制御部」を備える点に相当し、後者が、「サーバ装置」に「ロボットの移動空間内の障害物位置情報をマップデータとして記憶する第1記憶部」を備える点は、前者が、「コントローラ」に「ロボットが走行する領域の地図データを記憶した地図データ記憶部」を備える点に相当している。
そして、後者の「センサー情報送信部から送信されたセンサー情報及び上記画像データ処理部での処理結果から位置を推定する位置推定部」は、上記摘記事項エ.にあるように、マップデータを参照して自律移動型ロボットの位置を推定するという動作を行うから、前者の、「地図データと照合することでロボットの位置と角度を同定する同定装置」に共通している。

してみれば、両者の一致点は以下のとおりである。

<一致点>
「地図データを有するコントローラと移動する複数のロボットから構成されるロボットシステムであって、
前記複数のロボットは、それぞれ、
前記コントローラとの通信を行う第1の送受信部と、
前記ロボットの走行状態を制御する走行制御部と、
前記地図データと照合することで前記ロボットの位置と角度を同定する同定装置を備え、
前記コントローラは、
ロボットが走行する領域の地図データを記憶した地図データ記憶部と、
前記ロボットとデータの送受信を行う第2の送受信部と、
を備えるロボットシステム。」

そして、以下の点で相違している。

<相違点1>
ロボットの位置と角度を同定するためのデータを得るための手段として、本件発明は、「周囲の物体との距離を複数計測する距離センサ」を備えているのに対して、引用刊行物発明1の自律移動型ロボットは、そのような距離センサに代えて、撮影部を備えている点。

<相違点2>
本件発明は、「前記第1の送受信部と前記第2の送受信部との通信によって、前記コントローラの前記地図データ記憶部から地図データを得て、前記距離センサによって得られた距離データから前記ロボットの位置と角度を同定」する「地図データと照合することでロボットの位置と角度を同定する同定装置」を、ロボットが備えるものであるのに対して、引用刊行物発明1は、本件発明の同定装置と同様の作用をする「画像データ転送部から転送された画像データを処理する画像データ処理部と、センサー情報送信部から送信されたセンサー情報及び上記画像データ処理部での処理結果から位置を推定する位置推定部」を備えるものではあるが、その「位置推定部」が「サーバ装置」に備えられたものであり、ロボットに備えたものではない点。

<相違点3>
本件発明は、「ロボットの位置と角度、及び、計測した前記物体との距離を基に、地図データを生成又は更新する地図生成装置とを備え、
前記地図生成装置は、第2の送受信部と第1の送受信部との通信によって、複数のロボットのセンサからそれぞれ距離データを得て、複数のロボットに対して1つの地図データを生成又は更新する」するものであるのに対して、引用刊行物発明1は、係る地図データの生成又は更新について不明である点。

<相違点1>について検討する。
引用刊行物発明2は、「位置推定手段」の入力を得るため、「移動体から外界物体上の諸点までの距離に関する情報を得るための測距手段として、距離値を出力する測距センサ」を備えるものであり、「外界物体上の諸点までの距離」を測るということは、「周囲の物体との距離を複数計測する」ことに相当する。
以上のとおり、相違点1に係る本件発明の発明特定事項は引用刊行物発明2に示されているということができ、技術分野に関しても、引用刊行物発明1と引用刊行物発明2は共通しており、これらを組み合わせるにあたっての阻害要因があるとすることもできない。
してみれば、相違点1に係る発明特定事項の違いは、引用刊行物発明1に引用刊行物発明2を組み合わせたにすぎないものであり、当業者が容易に想到し得たものである。

<相違点2>について検討する。
引用刊行物発明3は、「現場敷地内を自動走行する自走車3と、監視センタ8からなる自走車の走行制御装置であって」、「自走車3に、ビデオカメラで撮影された画像を2値化処理して位置認識のための走行経路用画像データを作成する画像処理回路15と、監視センタ8から送信されてくる走行ルートマップデータを受信する受信器7と、前記受信器7で受信された走行ルートマップデータと前記画像処理回路15からの画像データとを比較して自走車3の位置を割り出すと共に、この位置データと前記走行ルートマップデータを基に自走車3の走行経路を決定する処理手段16を搭載したもの」である。
引用刊行物発明3において、「自走車3」は、相違点2に係る「ロボット」に相当し、「監視センタ8」が相違点2に係る「コントローラ」に相当するものであることは明らかであり、
また、同じく「ビデオカメラで撮影された画像を2値化処理して位置認識のための走行経路用画像データを作成する画像処理回路15と」、「受信された走行ルートマップデータと前記画像処理回路15からの画像データとを比較して自走車3の位置を割り出す」点は、相違点2に係る「位置推定部」と同様の動作であり、これを「自走車3」に搭載したということは、相違点2に係る「同定装置」を、ロボットが備える点に相当するものである。
以上のとおり、相違点2に係る本件発明の発明特定事項は引用刊行物発明3に示されているということができ、技術分野に関しても、引用刊行物発明1と引用刊行物発明3は共通しているから、これらを組み合わせるにあたっての阻害要因があるとすることもできない。
してみれば、相違点2に係る発明特定事項の違いは、引用刊行物発明1に引用刊行物発明3を組み合わせたにすぎないものであり、当業者が容易に想到し得たものである。

<相違点3>について検討する。
引用刊行物発明2は、
「測距手段により得られるべき情報を位置検知手段の出力情報と記憶手段中の地図情報とから予測するステツプと、前記予測ステツプにより得られた情報と前記測距手段の出力情報を対応付けて移動体のより正確な現在位置を推定するステツプと、前記推定ステツプにより得られた情報を用いて前記記憶手段中の地図情報を更新するステツプとを有する」ものであり、ここにおいて、「測距手段の出力情報」は、「移動体から外界物体上の諸点までの距離に関する情報」であり、ロボットのセンサから得られた距離データにほかならず、また、「更新」される「地図情報」は地図であるから、地図データを生成又は更新していることにほかならない。
以上のとおり、相違点3に係る本件発明の発明特定事項は引用刊行物発明2に示されているということができ、技術分野に関しても、引用刊行物発明1と引用刊行物発明2は共通しているから、これらを組み合わせるにあたっての阻害要因があるとすることもできない。
してみれば、相違点3に係る発明特定事項の違いは、引用刊行物発明1に引用刊行物発明2を組み合わせたにすぎないものであり、当業者が容易に想到し得たものである。

作用ないし効果について
本件発明の作用ないし効果も引用刊行物発明1、引用刊行物発明2、及び、引用刊行物発明3から当業者が予想できる範囲のものである。

第5.むすび

以上のとおり、本件発明は、引用刊行物発明1、引用刊行物発明2、及び、引用刊行物発明3に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、本願は、その余の請求項に係る発明についてみるまでもなく、拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-04-17 
結審通知日 2013-04-23 
審決日 2013-05-08 
出願番号 特願2007-261517(P2007-261517)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G05D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 青山 純  
特許庁審判長 野村 亨
特許庁審判官 菅澤 洋二
刈間 宏信
発明の名称 ロボットシステム  
代理人 井上 学  

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