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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B21J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B21J
管理番号 1275811
審判番号 不服2012-17414  
総通号数 164 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-08-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-09-07 
確定日 2013-06-20 
事件の表示 特願2007-526945「鍛造用金型、鍛造成形品製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 2月 1日国際公開、WO2007/013675〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、平成18年7月27日(パリ条約による優先権主張2005年7月29日 日本国)を国際出願日とする特許出願であって、同23年10月21日付けで拒絶の理由が通知され、同23年12月21日に意見書とともに特許請求の範囲及び明細書についての手続補正書が提出されたが、同24年6月4日付けで拒絶をすべき旨の査定がなされた。
これに対し、平成24年9月7日に該査定の取消を求めて本件審判の請求がされるとともに特許請求の範囲及び明細書についてさらに手続補正書が提出され、その後、当審の同24年11月30日付け審尋に対して同25年2月28日に回答書が提出されたものである。

第2 平成24年9月7日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成24年9月7日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容の概要
平成24年9月7日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、平成23年12月21日付けで補正された特許請求の範囲及び明細書をさらに補正をするものであって、特許請求の範囲の請求項1に関する以下の補正を含んでいる。なお、下線部は補正箇所を示す。

(1)<補正前の請求項1>
「 【請求項1】
成形時に鍛造金型の成形孔内に閉じ込められたガスを排出するためのガス抜き通路を有する鍛造用金型において、
前記ガス抜き通路は、ガス流方向と垂直方向の断面積が異なる複数の段部を有して成形順序で最後に成形される箇所に設けられ、前記成形孔壁面に臨む第1段部の開口部面積がこれに接続する第2段部の開口部面積より小さく、かつ、その開口部が型分割部からなる壁面又は一体型部からなる壁面に設けられていることを特徴とする鍛造用金型。」

(2)<補正後の請求項1>
「 【請求項1】
成形時に鍛造金型の成形孔内に閉じ込められたガスを排出するためのガス抜き通路を有する鍛造用金型において、
前記ガス抜き通路は、ガス流方向と垂直方向の断面積が異なる複数の段部を有して成形順序で最後に成形される箇所に設けられ、前記成形孔壁面に臨む第1段部の開口部面積がこれに接続する第2段部の開口部面積より小さく、かつ、その開口部が型分割部からなる壁面又は一体型部からなる壁面に設けられ、
前記ガス抜き通路の向きは、主鍛造方向又は金型の移動方向に対して斜め方向であることを特徴とする鍛造用金型。」

2 補正の適否
本件補正のうち特許請求の範囲の請求項1についてする補正は、補正前の請求項1の「ガス抜き通路」ついて、「ガス抜き通路の向きは、主鍛造方向又は金型の移動方向に対して斜め方向であること」を限定的に減縮するものである。
そこで、補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか否か、すなわち独立特許要件について検討する。

(1)補正発明
補正発明は、特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、上記1(2)に示す特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりの「鍛造用金型」であると認める。

(2)刊行物
これに対して、原査定の平成23年10月21日付け拒絶の理由に引用された、本件出願の優先日前に頒布された刊行物である以下の文献には、以下の発明、あるいは事項が記載されていると認められる。

刊行物1:特開昭63-165038号公報(原査定の引用文献1)

ア 刊行物1記載の事項
刊行物1は、「熱間鍛造型」に関し、図面とともに以下の事項が記載されている。

(ア)特許請求の範囲
「(1)熱間鍛造品を形成するキャビティを規定する型面をもち割面で分割された少なくとも2個の分割型からなり、
少なくとも一の該分割型は、該型面または型面近傍の割面に開口する貫通状態のガス抜き孔をもつことを特徴とする熱間鍛造型。
(2)ガス抜き孔は、一の分割型の型抜き方向と平行な軸芯をもつ孔部を有する特許請求の範囲第1項記載の熱間鍛造型。
(3)ガス抜き孔は、型面に開口する内径0.1?2.0mmの小孔と、該小孔に連通し該小孔の内径よりも大きな内径をもち外気に連通する大孔と、で形成されている特許請求の範囲第1項記載の熱間鍛造型。
(4)ガス抜き孔は、型面の方向が変わる部位で開口している特許請求の範囲第1項記載の熱間鍛造型。」

(イ)第2ページ左上欄第6?10行
「しかしながら、冷却に使用した水等の冷却液が水蒸気などのようにガス化し、水蒸気などのガスが、熱間鍛造型のキャビテイを規定する型面と金属素材との間に閉じ込められることが往々にしてある。」

(ウ)第2ページ左下欄第4?14行
「本発明に係る熱間鍛造型は、前述したように、分割型が、熱間鍛造品を形成するキャビティを規定する型面または型面近傍の割面に開口する貫通状態のガス抜き孔をもつことを特徴とする。ここで、型面とは、鍛造品を形成するための面をいう。
ガス抜き孔は、分割型の型抜き方向と平行な軸芯をもつ孔部を有することが好ましい。このようにすれば、ガス抜き孔に万一余肉が生じた場合であっても、鍛造製品を分割型から取出す際に、その余肉は、鍛造品とともに一体的に分割型から取出されるからである。」

(エ)第2ページ左下欄第18行?右下欄第7行
「ガス抜き孔は、型面または型面近傍の割面に開口する内径の小さな小孔と、この小孔に連通し小孔の内径よりも大きな内径をもち外気に連通する大孔とで、形成することができる。
ガス抜き孔は、型面の方向が変わる部位で開口していることが好ましい。その主たる理由は、型面の方向が変わる部位に、冷却液が気化したガス、例えば水蒸気がたまりやすく、従って欠肉や熱間鍛造型にクラックが生じ易くなるからである。」

(オ)第3ページ右上欄第17行?左下欄第3行
「本実施例に係る熱間鍛造型は、フランジ成形してフランジ部W2を形成する場合の熱間鍛造型であり、第2図に示すように、キャビティ10をもつ分割型としての上型グリップ台1と、キャビティ20をもつ分割型としての下型グリップ台2と、突部30をもつ分割型としてのヘッティングツール3と、から構成されている。」

(カ)第3ページ右下欄第4?17行
「本実施例に係る熱間鍛造型では、第3図に示すように、ガス抜き孔5、6、7、8が形成されている。ここで、ガス抜き孔5、6、7、8は内径が1.0mm程度の機械加工した小孔50、60、70、80と、小孔50、60、70、80の内径よりも大きな内径をもつ大孔51、61、71、81と、で形成されている。このようにすればガス抜き孔5?8のつまり抑制に有効である。第3図に示すように、ガス抜き孔5、6、7、8の小孔50、60、70、80は、キャビティを規定する型面の方向が変わる部位で開口している。
ガス抜き孔5、6の大孔51、61は、第3図に示すように、ヘッティングツール3の突部30の割面30aに開口している。」

イ 刊行物1に記載の発明
摘記事項(エ)の「ガス抜き孔は、型面または型面近傍の割面に開口する内径の小さな小孔と、この小孔に連通し小孔の内径よりも大きな内径をもち外気に連通する大孔とで、形成することができる」なる記載、及び摘記事項(カ)の「ガス抜き孔5、6、7、8は・・・小孔50、60、70、80と、小孔50、60、70、80の内径よりも大きな内径をもつ大孔51、61、71、81と、で形成されている。」なる記載を合理的に解釈すれば、ガス抜き孔5,6,7,8は、ガス流方向と垂直方向の断面積が異なる複数の段部を有しており、また、キャビティ型面に臨む第1段部の開口部面積がこれに接続する第2段部の開口部面積より小さい、ということができる。
そこで、上記摘記事項(ア)ないし(カ)を、図面を参照しつつ、技術常識を踏まえて補正発明に照らして整理すると刊行物1には以下の発明が記載されていると認める。
「成形時に熱間鍛造型のキャビテイ内に閉じ込められたガスを排出するためのガス抜き孔5,6,7,8を有する熱間鍛造型において、
前記ガス抜き孔5,6,7,8は、ガス流方向と垂直方向の断面積が異なる複数の段部を有してキャビティ型面の方向が変わる部位に設けられ、前記キャビティ型面に臨む第1段部の開口部面積がこれに接続する第2段部の開口部面積より小さく、かつ、その開口部がキャビティを規定する型面または型面近傍の割面に設けられ、
前記ガス抜き孔5,6,7,8は、分割型の型抜き方向と平行な軸芯をもつ熱間鍛造型。」 (以下、「刊行物1発明」という。)

(3)対比
補正発明と刊行物1発明とを対比すると以下のとおりである。
刊行物1発明の「熱間鍛造型」は、補正発明の「鍛造金型」または「鍛造用金型」に相当することは、技術常識に照らして明らかであり、以下同様に「キャビテイ」は「成形孔」に、「ガス抜き孔5,6,7,8」は「ガス抜き通路」に、「キャビティ型面」は「成形孔壁面」に、「キャビティを規定する型面または型面近傍の割面」は「型分割部からなる壁面又は一体型部からなる壁面」に相当することも明らかである。

したがって、補正発明と刊行物1発明とは、以下の点で一致しているということができる。
<一致点>
「成形時に鍛造金型の成形孔内に閉じ込められたガスを排出するためのガス抜き通路を有する鍛造用金型において、
前記ガス抜き通路は、ガス流方向と垂直方向の断面積が異なる複数の段部を有して設けられ、前記成形孔壁面に臨む第1段部の開口部面積がこれに接続する第2段部の開口部面積より小さく、かつ、その開口部が型分割部からなる壁面又は一体型部からなる壁面に設けられた鍛造用金型。」

そして、補正発明と刊行物1発明とは、以下の2点で相違している。
<相違点1>
補正発明のガス抜き通路は、成形順序で最後に成形される箇所に設けられるものであるのに対し、刊行物1発明のガス抜き孔5,6,7,8(ガス抜き通路)は、キャビティ型面の方向が変わる部位に設けられるものである点。
<相違点2>
補正発明のガス抜き通路の向きは、主鍛造方向又は金型の移動方向に対して斜め方向であるのに対し、刊行物1発明のガス抜き孔5,6,7,8(ガス抜き通路)は、分割型の型抜き方向と平行な軸芯をもつものである点。

(4)相違点の検討
ア <相違点1>について
補正発明が、ガス抜き通路を成形順序で最後に成形される箇所に設けていることの技術的意義に関し、本件明細書には、「<ガス抜き通路の位置>金型の鍛造成形孔35に対して、ガス抜き通路34の開口部36の位置は、製品形状に応じて決定されるが、空気溜りが生じ易い箇所である限り、製品のコーナー部,行き止まり部,肉厚の大きな部分,肉厚変化の大きな部分等の何れであっても良い。特に、成形順序で最後に成形される箇所に設けるのが、そのような箇所は閉じ込められた空気による欠肉の発生度合いが大きいので、その発生を解消できる点から好ましい。」(段落【0055】)と記載されていることから、当該技術的意義は、ガスが閉じ込められ易い箇所にガス抜き通路を設けることにあるものと認められる。
一方、上記摘記事項(2)ア(エ)に「ガス抜き孔は、型面の方向が変わる部位で開口していることが好ましい。その主たる理由は、型面の方向が変わる部位に、冷却液が気化したガス、例えば水蒸気がたまりやすく」とあるように、刊行物1発明も、ガスがたまりやすい箇所である「キャビティ型面の方向が変わる部位に」にガス抜き孔5,6,7,8(ガス抜き通路)を設けるものであり、技術的意義として補正発明と共通している。
加えて、ガス抜き通路を成形順序で最後に成形される箇所に設けることは、例えば、原審の拒絶査定にて例示した特開昭61-38733号公報(「通孔20」等を参照)に示されるように従来周知の事項でもある。
これらを併せ考えると、刊行物1発明において、ガスがたまり易い箇所たる、成形順序で最後に成形される箇所にガス抜き通路を設け、相違点1に係る発明特定事項を補正発明のものとすることは、当業者が容易に想到し得るところというのが相当である。

イ <相違点2>について
成形用金型において、ガス抜き通路の向きを斜め方向とすることは、例えば、当審の審尋にて示した特開平11-319973号公報(図1に示された「エア吸引口17」等を参照)、及び新たに示す特開昭59-47060(「ガス抜き傾斜溝3」等を参照)に示されるように、従来周知の事項である。そして、一般に通路の形成方向は設計的事項とも言い得るものであることに鑑みれば、かかる従来周知の事項を、同じ成形用金型の技術に関する刊行物1発明に適用することに格別困難性はない。
そうしてみると、刊行物1発明に上記従来周知の事項を適用して、ガス抜き通路の向きを、主鍛造方向又は金型の移動方向に対して斜め方向として、相違点2に係る発明特定事項を補正発明のものとすることは、当業者が通常の創作能力の発揮によりなし得るものというのが相当である。

ウ 補正発明の効果について
上記相違点1及び相違点2を総合的に勘案しても、刊行物1発明及び上記従来周知の事項から予測できない格別な効果が生じるとは考えられない。

エ 回答書における補正案について
請求人は、平成25年2月28日提出の回答書において、補正発明1をさらに「ガス抜き通路」について「第1段部は、前記ガス流方向に拡開する先太りのテーパ状に形成されている」なる事項で限定する補正案を提示しているところ、補正案に法的根拠はないが、念のため検討する。
まず、そもそも、通路の形状としてテーパ形状はごく一般的な形態であるところ、一般にガス抜き通路の形状をテーパ形状とすることは、例えば、特開昭56-119667号公報(「ガス抜け部6」等を参照)、特開平4-055039(「テーパーガス抜き溝6」等を参照)に示されるように、従来周知の事項であり、かかる周知事項の刊行物1発明への適用は容易である。
よって、補正案のように補正したとしても、特許性を認めることはできず、結論に変わりはない。

オ 小括
したがって、補正発明は、刊行物1発明及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 むすび
よって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本件出願の発明について
1 本件出願の発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本件出願の特許請求の範囲の請求項に係る発明は、平成23年12月21日付け手続補正書により補正された明細書及び願書に添付した図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本件出願の発明」という。)は、上記第2の1(1)に示す特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの「鍛造用金型」である。

2 引用例
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物は、上記第2の2(2)に示した刊行物1であり、その記載事項は上記第2の2(2)ア及びイのとおりである。

3 対比・検討
本件出願の発明は、上記第2の2で検討した補正発明から、実質的に、「ガス抜き通路の向きは、主鍛造方向又は金型の移動方向に対して斜め方向であること」する、という限定を削除したものである。
そうすると、補正発明と刊行物1発明とは、上記第2の2(3)で示した一致点を有し、相違点1において相違する。そして、相違点1については、上記第2の2(4)アで検討したとおりである。
したがって、本件出願の発明は、刊行物1発明及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということになる。

4 むすび
以上により、本件出願の発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件出願の請求項2ないし10に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきであるから、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-04-17 
結審通知日 2013-04-23 
審決日 2013-05-08 
出願番号 特願2007-526945(P2007-526945)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B21J)
P 1 8・ 121- Z (B21J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 村山 睦仁木 学  
特許庁審判長 野村 亨
特許庁審判官 長屋 陽二郎
刈間 宏信
発明の名称 鍛造用金型、鍛造成形品製造方法  
代理人 福田 伸一  
代理人 福田 賢三  

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