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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1275815
審判番号 不服2012-21469  
総通号数 164 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-08-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-10-31 
確定日 2013-06-20 
事件の表示 特願2007- 72085「半導体基板の割断方法及び太陽電池の割断方法並びに太陽電池」拒絶査定不服審判事件〔平成20年10月 2日出願公開、特開2008-235521〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

この出願は、平成19年3月20日の特許出願であって、平成23年11月18日付けで拒絶の理由が通知され、これに対して平成24年1月16日(受付日)付けで意見書及び手続補正書が提出された。その後、平成24年3月23日付けで最後の拒絶の理由が通知され、これに対して平成24年5月25日(受付日)付けで意見書及び手続補正書が提出された。

この平成24年5月25日付け手続補正書により補正された請求項1、2に係る発明は、本件出願の際に独立して特許をうけることができないとして、原審で、平成24年7月19日付けで、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる改正前の特許法(以下、「改正前特許法」という。)第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるとして、特許法第53条第1項規定により却下された。そして、当該補正前の上記平成24年1月16日付け手続補正書により補正された本件特許請求の範囲の請求項1?3に係る発明に対して、上記平成24年3月23日付けで通知された拒絶の理由が解消していないとして、平成24年7月19日付けで、拒絶の査定がなされた。

その後、同年10月31日(受付日)付けで、当該拒絶の査定を不服とする本件審判の請求がされるとともに、同日付けで特許請求の範囲を補正対象とする手続補正(以下「本件補正」という。)がされ、平成24年12月14日付けの当審の審尋に対し、平成25年2月15日(受付日)付けで回答書が提出されている。

第2 本件補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]

本件補正を却下する。

[理由]

1 本件補正の内容

本件補正は特許請求の範囲について補正をするものであって、本件補正前の平成24年1月16日付手続補正書により補正された請求の範囲の請求項1及び3を削除するとともに、請求項2を新たな請求項1とし、併せて、本件補正前の請求項2の特定事項である「前記光電変換部上に、所定の深さを有する分割溝を形成する工程」を「前記終電電極を形成する工程後」と技術的に限定を付し、「前記分割溝に沿って前記光電変換部を折り曲げることにより、前記分割溝に沿って前記光電変換部を割断する工程」を「前記分割溝を形成する工程後」と技術的に限定を付するものである。

本件補正前の請求項2と本件補正後の請求項1の記載を補正箇所に下線を付して示すと以下のとおりである。

(1)本件補正前の請求項2

「【請求項2】
半導体基板を用いた半導体pn接合又は半導体pin接合を有する光電変換部を形成する工程と、
前記光電変換部上に、スクリーン印刷法またはオフセット印刷法を用いて、集電電極を形成する工程と、
前記光電変換部上に、所定の深さを有する分割溝を、前記所定のパターンに応じて形成する工程と、
前記分割溝に沿って前記光電変換部を折り曲げることにより、前記分割溝に沿って前記光電変換部を割断する工程と、を備え、
前記分割溝と、前記集電電極は、前記半導体基板の劈開面と平行ではないことを特徴とする太陽電池の割断方法。」

(2)本件補正後の請求項1

「【請求項1】
半導体基板を用いた半導体pn接合又は半導体pin接合を有する光電変換部を形成する工程と、
前記光電変換部上に、スクリーン印刷法またはオフセット印刷法を用いて、集電電極を形成する工程と、
前記集電電極を形成する工程後、前記光電変換部上に、所定の深さを有する分割溝を、前記所定のパターンに応じて形成する工程と、
前記分割溝を形成する工程後、前記分割溝に沿って前記光電変換部を折り曲げることにより、前記分割溝に沿って前記光電変換部を割断する工程と、を備え、
前記分割溝と、前記集電電極は、前記半導体基板の劈開面と平行ではないことを特徴とする太陽電池の割断方法。」

2 本件補正の適否

上記「1 本件補正の内容」のとおりであるから、本件補正は補正前の請求項1及び3を削除して、補正前の請求項2を請求項1へ繰り上げるとともに、併せて補正前請求項2の特定事項を技術的に限定するものであるから、全体として特許請求の範囲の減縮を目的とすることを含むものであることは明らかである。

そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下「補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、以下検討する。

(1)補正発明

補正後の請求項1には(そして補正前の請求項2にも)、「前記所定のパターンに応じて形成する工程」と記載があるが、この記載の前に「所定のパターン」は記載されておらず、「前記所定のパターンに応じて形成する工程」は、単に「所定のパターンに応じて形成する工程」と記載すべきものである。

したがって、補正発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の記載並びに上記検討結果からみて、以下のとおりのものであると認める。

「半導体基板を用いた半導体pn接合又は半導体pin接合を有する光電変換部を形成する工程と、
前記光電変換部上に、スクリーン印刷法またはオフセット印刷法を用いて、集電電極を形成する工程と、
前記集電電極を形成する工程後、前記光電変換部上に、所定の深さを有する分割溝を、所定のパターンに応じて形成する工程と、
前記分割溝を形成する工程後、前記分割溝に沿って前記光電変換部を折り曲げることにより、前記分割溝に沿って前記光電変換部を割断する工程と、を備え、
前記分割溝と、前記集電電極は、前記半導体基板の劈開面と平行ではないことを特徴とする太陽電池の割断方法。」

(2)引用例記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された本件出願日前に頒布された刊行物である特開2006-310774号公報(平成24年3月23日付け拒絶理由通知書記載の引用文献4、以下、「引用例1」という。)、特開昭62-105446号公報(平成24年3月23日付け拒絶理由通知書記載の引用文献2、以下「引用例2」という。)には、それぞれ以下の記載がある。

(2-1)引用例1

ア 段落【0016】、【0017】

「【0016】すなわち、単結晶基板の主面のうち、上記非晶質半導体層が形成された主面とは反対側の主面側からレーザ光を照射し、少なくとも上記非晶質半導体層まで達しないように太陽電池に溝を形成することによって、リーク電流が発生せず、開放電圧V_(OC)や曲線因子F.F.の低下が抑制された太陽電池を製造することができる。したがって、単結晶基板と同じ導電型の非晶質半導体層側からレーザ光を照射することによっても、少なくとも単結晶基板とは異なる導電型の非晶質半導体層に達しないように太陽電池に溝を形成することによって、リーク電流が発生せず、開放電圧V_(OC)や曲線因子F.F.の低下が抑制された太陽電池を製造することができる。

【0017】本発明に係る光起電力素子の製造方法は、第1導電型を有する結晶系半導体基板の第1の主面上に、第2導電型を有する第1の非晶質半導体層と第1の導電性薄膜とを含む第1の積層体を形成する工程と、前記結晶系半導体基板と前記第1の積層体とを備える構造体に前記結晶系半導体基板の第2の主面側からレーザ光を照射することにより、少なくとも前記第1の非晶質半導体層に達しないように前記結晶系半導体基板に溝を形成する工程と、該溝に沿って前記構造体を分割する工程とを含むことを特徴とする。」

イ 段落【0029】?【0034】

「【0029】(実施の形態1)
本発明の実施の形態1に係る光起電力素子及びその製造方法について、図1、図2及び図3を参照して説明する。

【0030】まず、図1に示す構造の非晶質半導体と結晶系半導体を組み合わせることにより構成されたヘテロ接合を有する構造体1を作製する。

【0031】 図1は、本実施形態に係る光起電力素子の製造方法によって製造する構造体の構造を示す模式的断面図である。構造体1は、n型の結晶系半導体基板2の第1の主面上に、第1の積層体11が形成され、第1の主面と対向する第2の主面上に、第2の積層体12が形成された構造となっている。結晶系半導体基板としては、単結晶や多結晶の構造を有するシリコン基板又はゲルマニウム基板等を用いることができる。前記第1の積層体11は、n型結晶系半導体基板2の第1の主面上に真性非晶質半導体層3、n型結晶系半導体基板2と異なる導電型を有するp型非晶質半導体層4、p側透明導電膜層5及びp側集電極6がこの順に形成された構造を有している。さらに、前記第2の積層体12は、n型結晶系半導体基板2の第2の主面上に真性非晶質半導体層7、n型結晶系半導体基板2と同じ導電型を有するn型非晶質半導体層8、n側透明導電膜層9及びn側集電極10がこの順に形成されている。非晶質半導体としては、シリコン又はゲルマニウム等を用いることができる。

【0032】真性非晶質半導体層3、p型非晶質半導体層4、真性非晶質半導体層7及びn型非晶質半導体層8は、それぞれプラズマCVD法を用いて形成することができる。また、p側透明導電膜層5及びn側透明導電膜層9は、ITO(Indium Tin Oxide)等の透光性の導電性膜を用いることができ、スパッタ法、真空蒸着法等を用いて形成することができる。また、p側集電極6及びn側集電極10は、Ag等の金属を用いることができ、それぞれ、スクリーン印刷法、真空蒸着法、スパッタ法等を用い、パターニング形成することができる。

【0033】次に、前記構造体1にレーザ光を照射することによって、該構造体1に溝を形成する工程について、図2を参照して説明する。図2は、図1に示す構造体1にレーザ光を照射することにより構造体1に溝を形成した構造体13を示す模式的断面図である。構造体1に、図2に示すように、レーザ光を矢印Lに示すように、n型結晶系半導体基板2の前記第2の主面側、本実施形態の場合、n型結晶系半導体基板2と同じ導電型を有するn型非晶質半導体層8を含む前記第2の積層体12側から照射することにより、第2の積層体12及びn型結晶系半導体基板2に溝15を形成し、構造体13を作製する。

【0034】本実施形態においては、図2に示すように、溝15はn側集電極10、n側透明導電膜層9、n型非晶質半導体層8、真性非晶質半導体層7及びn型結晶系半導体基板2に形成されているが、n型結晶系半導体基板2とは異なる導電型を有するp型非晶質半導体層4まで達しなければよく、溝15の深さは、溝15形成後に行う溝15に沿った分割を行いやすい深さで適宜選ぶことができる。」

ウ 段落【0038】

「【0038】続いて、図3に示すように、前記構造体13を溝15に沿って分割する。図3は、前記構造体13を溝15に沿って分割することによって得られた、本発明に係る光起電力素子14を示す模式的断面図である。分割の方法としては、例えば、溝15の部分を中心にして構造体13の周辺部を保持部材で挟み折り曲げることにより、折り曲げ切断する方法や、スクラバー、ダイシングソー等を用いて切断する方法等を用いることができる。かかる分割によって、所望のサイズの光起電力素子14を作製できる。」

エ 段落【0052】?【0057】

「【0052】以下、図1、図2及び図3を参照して、上記の実施の形態1にかかる光起電力素子の製造方法の一例について、説明する。

【0053】まず、比抵抗が約1Ω・cm、大きさが10.4cm角、厚さが約200μmのn型単結晶シリコン基板2を洗浄した後、真空チャンバー内に設置し、170℃に加熱した。次に前記チャンバー内に水素ガスを導入してプラズマ放電させることにより、n型単結晶シリコン基板2の第2の主面の界面処理を行った。

【0054】その後、チャンバー内にSiH_(4)ガス及び水素ガスを導入してプラズマCVD法により、厚さ10nmの真性非晶質シリコン層7を、前述のn型単結晶シリコン基板2の第2の主面上に形成した。続いて、チャンバー内にSiH_(4)ガス、PH_(3)ガス及び水素ガスを導入してプラズマCVD法により、真性非晶質シリコン層7上に、厚さ5nmのn型非晶質シリコン層8を形成した。

【0055】次に、上記真性非晶質シリコン層7とn型非晶質シリコン層8とが形成されたn型単結晶シリコン基板2をチャンバーから取り出し、再びチャンバーに設置した後、170℃に加熱し、前述の第2の主面の界面処理と同様の処理を、第2の主面と対向する第1の主面に行った。

【0056】その後、チャンバー内にSiH_(4)ガス及び水素ガスを導入してプラズマCVD法により、厚さ10nmの真性非晶質シリコン層3を、前述のn型単結晶シリコン基板2の第1の主面上に形成した。続いて、チャンバー内にSiH_(4)ガス、B_(2)H_(6)ガス及び水素ガスを導入してプラズマCVD法により、該真性非晶質シリコン層3上に、厚さ5nmのp型非晶質シリコン層4を形成した。

【0057】以上の非晶質シリコン層の成膜条件を、表1に示す。表1中、「i型」とは真性非晶質シリコン層3及び真性非晶質シリコン層7を、「p型」とはp型非晶質シリコン層4を、「n型」とはn型非晶質シリコン層8をそれぞれ示す。また、B_(2)H_(6)とPH_(3)は、H_(2)ガスにより、それぞれ2%、1%に希釈されている。」

オ 【0059】?【0063】

「【0059】次に、n型単結晶シリコン基板2の両主面上に形成されたn型非晶質シリコン層8及びp型非晶質シリコン層4上に、厚さ100nmのITOからなるn側透明導電膜層9及びp側透明導電膜層5をスパッタ法により形成した。

【0060】次に、n型単結晶シリコン基板2の第2の主面側に形成されたn側透明導電膜層9上及び第1の主面側に形成されたp側透明導電膜層5上に、銀ペーストからなるn側集電極10とp側集電極6をスクリーン印刷法により塗布した後、約180℃で約1時間焼成して銀ペーストを硬化させた。これにより、第2の積層体12と第1の積層体11を完成させた。このようにして、構造体1を作製した。

【0061】続いて、前記構造体1にレーザ光を照射し、レーザ光を照射された部分の構造体を除去することにより、構造体1に溝を形成した。

【0062】この際、レーザ光径が50μmで波長が1064nmのYAGレーザを用いて、3?5Wのパワーを使用して、構造体1に、図2に示すように、矢印Lの方向に第2の積層体12側、すなわち、n型単結晶シリコン基板2の第2の主面側からレーザ光を照射した。このようなレーザ光照射を行うことによって、図2に示すように、第1の積層体11及びn型単結晶シリコン基板2を除去することにより、構造体1に溝15を形成し、構造体13を作製した。レーザ光の照射条件を調整することによって、n型単結晶シリコン基板2とは異なる導電型を有するp型非晶質シリコン層4までは達しない深さの溝15を形成した。この溝15の深さは60μm程度であり、溝15の幅は前記レーザ光径と同程度であった。

【0063】最後に、構造体13に応力を印加することにより、前記溝15に沿って、構造体13を機械的に分割した。この分割によって、所望のサイズの光起電力素子14を作製した(図3)。」

カ また、上記摘記事項イ、段落【0034】には、「溝15はn側集電極10、n側透明導電膜層9、n型非晶質半導体層8、真性非晶質半導体層7及びn型結晶系半導体基板2に形成されているが、n型結晶系半導体基板2とは異なる導電型を有するp型非晶質半導体層4まで達しなければよく、溝15の深さは、溝15形成後に行う溝15に沿った分割を行いやすい深さで適宜選ぶことができる」と記載されていることから、「溝」の深さは所定の深さであるということができる。

(2-2)引用例2

キ 第1ページ右下欄第17行?第2ページ左上欄第2行

「第3図にPN接合及び電極形成後の半導体結晶基板を示している。1はP層電極、2はP層、3はN層、4はN層電極である。この半導体結晶基板にハーフダイスを行ない、第4図のように基板の厚みの半分近辺の深さまで極細幅の溝5を入れる。」

ク 第2ページ右上欄第3行?同欄第12行

「<発明が解決しようとする問題点>
上記は、半導体結晶基板をチップに分割するに当って、ダイシングライン10,スクライブライン6が基板の割れ易いへき開方向8及び9と一致しているので、チップ7(第6図参照)として良好な形状のものが得られるという利点がある。
しかし、ダイシングの工程及び半導体結晶基板のチップ化する分割までの工程において、半導体結晶基板の割れが、製造工程上歩留悪化に著しい影響を及ぼしている。」

ケ 第2ページ右上欄15行?同ページ左下欄6行

「<問題点を解決するための手段>
メサ型構造形成のため半導体結晶基板をハーフダイスするに際し、半導体結晶基板のへき開方向に対し、2?20°ずらせてハーフダイシングする。
<作用>
へき開方向に対し2?20°の範囲では、チップ化の分割に際し、へき開方向に逆ってスクライブラインに沿って割れるきっかけの方が強く、へき開方向からずれているものの良好なチップ形状のものが得られる。また、ダイシングラインがへき開方向からずれていることにより基板のワレは改善され、歩留を向上させることとなる。」

(2-3) 引用発明1

上記アないしオの摘記事項、カの認定事項より、引用例1には、以下の「光起電力素子の切断方法」が記載されていると認める。

「n型単結晶シリコン基板を用いた半導体pn接合又はpin接合を有する光電変換部を形成する工程と、
前記光電変換部上に、スクリーン印刷法を用いて、集電極を形成する工程と、
前記集電極を形成する工程後、所定の深さを有する溝を、形成する工程と、
前記溝を形成する工程後、前記溝に沿って前記光電変換部を折り曲げることにより、前記光電変換部を切断する工程と、を備えた光起電力素子の切断方法」(以下「引用発明1」という。)

(3)対比

補正発明と引用発明1とを対比する。

引用発明1の「n型単結晶シリコン基板」は、「半導体基板」の下位概念である。
また、引用発明1の、「スクリーン印刷法」、「集電極」、「溝」、「切断」は、それぞれ補正発明の「スクリーン印刷法」、「集電電極」、「分割溝」、「割断」にそれぞれ相当する。

上記摘記事項アから、引用発明1の「光起電力素子」は、太陽電池を構成するものであることは当業者にとって自明である。

そうすると、補正発明と引用発明1とは、以下の点で一致しているということができる。

<一致点>

「半導体基板を用いた半導体pn接合又は半導体pin接合を有する光電変換部を形成する工程と、
前記光電変換部上に、スクリーン印刷法を用いて、集電電極を形成する工程と、
前記集電電極を形成する工程後、前記光電変換部上に、所定の深さを有する分割溝を、形成する工程と、
前記分割溝を形成する工程後、前記分割溝に沿って前記光電変換部を折り曲げることにより、前記分割溝に沿って前記光電変換部を割断する工程と、を備える、
太陽電池の割断方法。」

そして、両者は以下の点で相違している。

<相違点1>

補正発明では、分割溝を「所定のパターンに応じて形成」するものであるのに対して、引用発明1では、「所定のパターンに応じて」形成するかどうか明らかでない点。

<相違点2>

補正発明では、分割溝は半導体基板の劈開面と平行ではないのに対して、引用発明1では、劈開面との関係は明らかでない点。

<相違点3>

補正発明では、集電電極は半導体基板の劈開面と平行ではないのに対して、引用文献1では、集電極の半導体基板の劈開面との関係は明らかではない点。

(4)相違点の検討

ア <相違点1>について

補正発明の「所定のパターンに応じて形成」は、本件特許請求の範囲、明細書及び図面全体の記載を参酌すれば、「光電変換部上に集電電極を所定のパターンで形成し、当該所定のパターンに応じて分割溝を形成すること」と解するべきである。
一方、上記摘記事項イ、段落【0032】には、「p側集電極6及びn側集電極10は、Ag等の金属を用いることができ、それぞれ、スクリーン印刷法、真空蒸着法、スパッタ法等を用い、パターニング形成することができる」との記載がある。そうすると、引用発明1の集電極も、予め決められたパターンとなるようにn型単結晶シリコン基板上に印刷されるものであるから、所定のパターンで形成するものであるということができる。そして、集電極は光起電力素子が発電した電流が流れるのであるから、光起電力素子を切断する部位である溝を形成するにあたり、上記集電極の所定のパターンに応じたものとすることは、当業者が容易に想到し得たものである。

イ <相違点2>について

上記引用例2の摘記事項キ、クによれば、「半導体結晶基板」が「割れ易いへき開方向」を有するものにおいて、「基板の厚みの半分近辺の深さまで極細幅の溝」を入れるに際して、当該「へき開方向に対し、2?20°ずらせてハーフダイシングする」方法が記載されている。

引用発明1は、半導体基板として「n型単結晶シリコン基板」を用いるものであるが、単結晶シリコンが劈開面を有し、当該劈開面に平行な方向であれば割れ易いものであることは当業者にとって技術常識である。そうすると、引用例2の上記摘記事項に係る技術的事項を適用し、引用発明1において溝を形成するにあたり、その方向を劈開面と平行ではないものとすることは、当業者にとって格別な困難性はない。

ウ <相違点3>について

太陽電池を製造するにあたり、電極を形成するためにスクリーン印刷法が用いられること、そして印刷の際に電極が印刷される面に対して力が作用することは本件出願前周知(例えば、特開平10-7493号公報の段落【0077】、特開2002-314105号公報の段落【0014】を参照されたい。)の事項である。

引用発明1が、スクリーン印刷によって集電極を形成する際にn型単結晶シリコン基板に加えられる力によって、劈開方向に沿って割れが生じることを避けるために、集電極をn型単結晶シリコン基板の劈開面と平行ではないものとすることは、上記「イ <相違点2>」にて指摘した技術常識や上記引用例2記載の事項及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たものである。

エ <補正発明の効果>について

補正発明によってもたらされる効果も、引用発明1、引用例2の記載の事項及び上従来周知の事項から当業者であれば予測できる程度のものであって格別のものではない。

オ したがって補正発明は、引用発明1、引用例2記載の事項及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 補正却下におけるむすび

以上のとおりであるので、本件補正は、改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本件発明について

1 本件発明

本件補正は、上記のとおり却下された。また、上記2.(1)に記載したとおり、本件補正前の請求項2には「前記所定のパターンに応じて形成する工程」と記載されているが、この記載の前に「所定のパターン」は記載されておらず、前記所定のパターンに応じて形成する工程」は、単に「所定のパターンに応じて形成する工程」と記載すべきものである。

したがって、本件補正前の請求項2に係る発明(以下「本件発明」という)は以下のとおりのものであると認める。

「半導体基板を用いた半導体pn接合又は半導体pin接合を有する光電変換部を形成する工程と、
前記光電変換部上に、スクリーン印刷法またはオフセット印刷法を用いて、集電電極を形成する工程と、
前記光電変換部上に、所定の深さを有する分割溝を、所定のパターンに応じて形成する工程と、
前記分割溝に沿って前記光電変換部を折り曲げることにより、前記分割溝に沿って前記光電変換部を割断する工程と、を備え、
前記分割溝と、前記集電電極は、前記半導体基板の劈開面と平行ではないことを特徴とする太陽電池の割断方法。」

2 対比及び判断

本件発明は、前記第2の「1 本件補正の内容」で述べたとおり、補正発明の発明特定事項である「前記集電電極を形成する工程後、前記光電変換部上に、所定の深さを有する分割溝を、前記所定のパターンに応じて形成する工程」及び「前記分割溝を形成する工程後、前記分割溝に沿って前記光電変換部を折り曲げることにより、前記分割溝に沿って前記光電変換部を割断する工程」から、下線部の前記限定事項が省かれたものである。

そうすると、上記第2の2で検討したとおり、本件発明は、引用発明1,引用例2記載の事項及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3 むすび

以上のとおりであるので、本件発明は、引用発明、引用例2記載の事項及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって、本願出願の請求項1、3に各々係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-04-19 
結審通知日 2013-04-23 
審決日 2013-05-08 
出願番号 特願2007-72085(P2007-72085)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山本 健晴  
特許庁審判長 野村 亨
特許庁審判官 長屋 陽二郎
久保 克彦
発明の名称 半導体基板の割断方法及び太陽電池の割断方法並びに太陽電池  
代理人 大橋 雅昭  

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