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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F04D
管理番号 1275839
審判番号 不服2011-9910  
総通号数 164 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-08-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-05-11 
確定日 2013-06-18 
事件の表示 特願2006-530558「真空ポンプ」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 4月14日国際公開,WO2005/033521,平成19年 3月29日国内公表,特表2007-507658〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は,2004年9月23日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2003年9月30日,イギリス)を国際出願日とする出願であって,平成22年12月28日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,平成23年5月11日に拒絶査定不服審判が請求され,平成24年5月21日付けで当審の拒絶理由が通知され,これに対し,同年11月28日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,平成24年11月28日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。
「第1排気部分と,第1排気部分から下流の第2排気部分と,第2排気部分から下流の第3排気部分と,流体がポンプに入り,ポンプ出口に向かって排気部分の各々を通過することができるようにする第1ポンプ入口と,流体がポンプに入り,ポンプ出口に向かって第2及び第3排気部分だけを通過することができるようにする第2ポンプ入口と,を含み,第3排気部分は,ホルウィック機構からなり,該ホルウィック機構は,そのステータに形成された螺旋溝を含む,真空ポンプにおいて,第2排気部分は,そのロータに形成された螺旋溝を含み,ロータに形成された螺旋溝は前記ホルウィック機構のステータに形成された螺旋溝よりも深く,使用中,各入口は,差動排気質量分析計装置のそれぞれの室に連結され,第1排気部分は少なくとも1つのターボ分子段からなり,第1排気部分のターボ分子段は,使用中,ロータの螺旋溝に入る流体の分子が,ステータ段を第2排気部分の螺旋ロータの入口側に隣接してターボ分子部分の最後の段として置くことによって第1排気部分のターボ分子段のステータの表面から放出されるように構成される,ことを特徴とする真空ポンプ。」

2.引用例
(2-1)引用例1
これに対し,当審が平成24年5月21日付けで通知した拒絶の理由で引用した特開平6-280785号公報(以下「引用例1」という。)には,図面とともに以下の事項が記載又は示されている。

・「【請求項1】 ロータディスクおよびステータディスクを有する多段ターボ分子ポンプ(5)と,予真空側方向に後置された1つ以上のポンプ段(6)であってそのロータがターボ分子ポンプのロータと同じ軸上にありこれにより第1のポンプユニットを形成するところの前記ポンプ段(6)とおよび大気圧に対し吐出する他のドライポンプ段(8)とで構成される多段ガス吸込装置(3)用真空ポンプ装置において:個々のポンプ段の圧力比および吸込能力に関して,ポンプ段内部における出口圧力レベルの位置(11)から入口圧力レベルの位置(10)への逆流が出口レベルの位置および入口レベルの位置と接続されているそれぞれの真空室の間のガス流れに比較して小さくなるように寸法が決められかつ配置された吸込接続口(9)が個々の段の間に設けられていることを特徴とする多段ガス吸込装置用真空ポンプ装置。
【請求項2】 吸込接続口(9)が高真空接続口(14)と同じ平面内に配置されている接続フランジ(15,16,17)と接続されていることを特徴とする請求項1の真空ポンプ装置。
【請求項3】 吸込接続口(9)が高真空接続口(14)に対し直角に配置されている接続フランジ(15,16,17)と接続されていることを特徴とする請求項1の真空ポンプ装置。
【請求項4】 後置されたポンプ段(6)がホルヴェックポンプのタイプの分子ポンプであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかの真空ポンプ装置。」

・「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は請求項1の上位概念に記載の真空ポンプ装置に関するものである。」

・「【0026】
【実施例】ガス吸込口3を有するガス分析装置2のための複数の室1からなるガス導入装置が真空ポンプ装置により真空にされる。真空ポンプ装置はこの実施例においては第1のポンプユニット4で構成されている。このポンプユニットは多段ターボ分子ポンプ5とおよびたとえばホルヴェックの構造タイプのような分子ポンプ6とが組み合わされて構成されている。このポンプユニットの個々の段はそれらが1つの共通なハウジング内に存在するように相互に接続されまたロータは共通軸に取り付けられている。これにより,この第1のポンプユニット全体を1つの共通モータにより駆動することが可能であり,モータは駆動エレクトロニク7により駆動される。
【0027】さらに制御ユニット12を有する大気圧に対し吐出するドライな真空ポンプ8が存在する。この制御ユニットは第1のポンプユニット4のための駆動エレクトロニク7内に組み込まれている。ポンプユニット4の個々の段の間および第1のポンプユニットと大気に対し吐出するポンプ8との間に吸込接続口9が設けられている。第1のポンプユニットの中間段の例において,位置10における入口圧力レベルおよび位置11における出口圧力レベルが決定される。収着または凝縮装置が13で示され,この収着または凝縮装置は1つのポンプ段とガス分析装置の1つの段との間に設けられている。
【0028】図2においてポンプユニット4は2段のターボ分子ポンプ5a,5bと1つのホルヴェックポンプ6との組合せとして示されている。吸込接続口9は接続フランジ15,16,17と接続され,接続フランジ15,16,17は高真空フランジ14と同じ平面内に配置されている。コンダクタンスを増大して吸込接続口9の位置における吸込能力を向上するためにリングチャネル18が設けられ,リングチャネル18は吸込接続口とポンプ室との間に広い接続口を形成している。
【0029】図3にホルヴェックポンプとして形成されている後置されたポンプ段6の断面図が示されている。この断面図は吸込接続口9の1つがホルヴェックポンプのチャネル19内に入り込む位置を示している。回転部分が20で示されている。ポンプ移送方向は矢印で示されている。吸込接続口9がホルヴェックポンプのチャネル19内に入り込む位置においてチャネル19はその深さがポンプ移送方向とは反対側においてその深さが減少され,次に入口側21に進むに従って再び拡大される。吸込接続口からポンプ移送方向にチャネル深さは反対側よりも大きくなっている。」

・ホルヴェックポンプは,ステータに螺旋溝が形成されていることが技術常識であるから,ホルヴェックポンプ6は,そのステータに形成された螺旋溝を含むものといえる。

・図1及び図2からみて,使用中,各入口(高真空接続口14,接続フランジ15に接続された吸込接続口9)は,ガス分析装置2の複数の室1に連結されていることは明らかである。

・図2には,ターボ分子ポンプ5aが,複数のステータ及びロータからなる1つのターボ分子段からなる態様が示されている。

・図2には,ガスがポンプユニット4の出口に向かってターボ分子ポンプ5b及びホルヴェックポンプ6だけを通過することができるようにする接続フランジ15に接続された吸込接続口9が示されている。

上記記載及び図示内容を総合すると,引用例1には,次の事項からなる発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「ターボ分子ポンプ5aと,ターボ分子ポンプ5aから下流のターボ分子ポンプ5bと,ターボ分子ポンプ5bから下流のホルヴェックポンプ6と,ガスがポンプユニット4に入り,ポンプユニット4の出口に向かって各ターボ分子ポンプ5a,5b及びホルヴェックポンプ6の各々を通過することができるようにする高真空接続口14と,ガスがポンプユニット4に入り,ポンプユニット4の出口に向かってターボ分子ポンプ5b及びホルヴェックポンプ6だけを通過することができるようにする接続フランジ15に接続された吸込接続口9と,を含み,ホルヴェックポンプ6は,ホルヴェックの構造タイプからなり,該ホルヴェックの構造タイプは,そのステータに形成された螺旋溝を含む,真空ポンプ装置において,使用中,各入口は,ガス分析装置2の複数の室1に連結され,ターボ分子ポンプ5aは1つのターボ分子段からなる,真空ポンプ。」

(2-2)引用例2
同じく引用した特開2000-337290号公報(以下「引用例2」という。)には,図面とともに以下の事項が記載又は示されている。

・「【0002】
【従来の技術】真空ポンプは,例えば半導体製造装置におけるチャンバ内の気体を排気してこれを真空状態にする装置等に広く使用されている。この真空ポンプは,全体が翼で構成されたものや,翼部とネジ溝部とを組み合わせたもの等がある。」

・「【0009】
【発明の実施の形態】以下,本発明に好適な実施の形態について,図面を参照して詳細に説明する。図1は,本発明の真空ポンプの一実施形態の全体構成の断面を表したものである。この真空ポンプ1は,例えば半導体製造装置内等に設置され,チャンバ等からプロセスガスの排出を行うものである。またこの真空ポンプ1は,チャンバ等からのプロセスガスをステータ翼72とロータ翼62とにより下流側へ移送するターボ分子ポンプ部Tと,ターボ分子ポンプ部Tからプロセスガスが送り込まれ,このプロセスガスをネジ溝ポンプにより更に移送して排出するネジ溝ポンプ部Sとを備えている。
【0010】図1に示すように,真空ポンプ1は,略円筒形状のケーシング10と,このケーシング10の中心部に配置される略円柱形状のロータ軸18と,ロータ軸18に固定配置されロータ軸18とともに回転するロータ60と,ステータ70とを備えている。ケーシング10は,その上端部に半径方向外方へ延設されたフランジ11を有しており,このフランジ11をボルト等によって半導体製造装置等に留め付けてフランジ11の内側に形成される吸気口16とチャンバ等の容器の排出口とを連接し,容器の内部とケーシング10の内部とを連通させるようになっている。
【0011】ロータ60は,ロータ軸18の外周に配置された断面略逆U字状のロータ本体61を備えている。このロータ本体61は,ロータ軸18の上部にボルト19で取り付けられている。ロータ本体61は,ターボ分子ポンプ部Tにおいては,外周にロータ翼62が多段に形成されている。各段のロータ翼62は,外側が開放された複数の翼により構成されている。
【0012】ステータ70は,ターボ分子ポンプ部Tにおいては,スペーサ71と,このスペーサ71,71間に外周側が支持されることでロータ翼62の各段の間に配置されるステータ翼72とを備えており,ネジ溝ポンプ部Sにおいては,スペーサ71に連設するネジ溝部スペーサ80を備えている。スペーサ71は段部を有する円筒状であり,ケーシング10の内側に積み重ねられている。各スペーサ71の内側に位置する段部の軸方向の長さはロータ翼62における各段の間隔に応じた長さになっている。
【0013】ネジ溝部スペーサ80は,ケーシング10の内側に配設され,かつ,スペーサ71に連設され,スペーサ71とステータ翼72との下方に配設されている。このネジ溝部スペーサ80は,内径壁がロータ本体61の外周面と近接する位置まで張り出した厚みを有しており,内径壁に螺旋構造のネジ溝81が複数条形成されている。このネジ溝81は,上記ステータ翼72とロータ翼62との間と連通されており,ステータ翼72とロータ翼62との間を移送されてきた気体がネジ溝81に導入され,ロータ本体61の回転によってネジ溝81内を更に移送されるようになっている。なお,この実施形態では,ネジ溝81をステータ70側に形成したが,ネジ溝81をロータ本体61の外径壁に形成するようにしてもよい。またネジ溝81をネジ溝部スペーサ80に形成すると共に,ロータ本体61の外径壁にも形成するようにしてもよい。」

・図1には,ステータ翼72をネジ溝ポンプの入口側に隣接してターボ分子ポンプTの最後の段に置くことが示されている。
そして,ネジ溝81をロータ本体の外径壁に形成した場合には,ターボ分子ポンプTに関し,ステータ翼72をネジ溝ポンプの入口側に隣接してターボ分子ポンプTの最後の段に置くことにより,ロータのネジ溝に入るプロセスガスの分子がターボ分子ポンプTのステータ翼72の表面から放出するように構成されることは明らかである。

上記記載及び図示内容を総合すると,引用例2には,従来,チャンバ内の気体を排気してこれを真空状態にする装置等に広く使用されている真空ポンプには,全体が翼で構成されたものや,翼部とネジ溝部とを組み合わせたもの等があること,ネジ溝81をロータ本体61の外径壁に形成したネジ溝ポンプ部Sと,その上流側に配置されたターボ分子ポンプ部Tとを組み合わせた真空ポンプ,及び,ターボ分子ポンプTに関し,ステータ翼72をネジ溝ポンプの入口側に隣接してターボ分子ポンプTの最後の段に置くことにより,ロータのネジ溝に入るプロセスガスの分子がターボ分子ポンプTのステータ翼72の表面から放出するように構成されることが記載されているといえる。

(2-3)引用例3
同じく引用した特開平2-149798号公報(以下「引用例3」という。)には,図面とともに以下の事項が記載又は示されている。

・「本発明の課題は,はじめに述べた形式のポンプ段のポンプ特性を改善することにある。
この課題は本発明によれば,高真空ポンプ用の,ロータ及びステータを有するポンプ段であって,ロータ又はステータが気体の搬送を生じさせる構造部分を有する形式のものにおいて,上記構造部分が半径方向に延びるウエブから成り,該ウエブの傾斜角及び幅が吸込側から吐出側へ減少していることによって,解決されている。上記のような特徴を有するポンプ段は,従来のスクリューポンプ段に比して,圧縮度も良く,また吸込性能も,吸込側の圧力が比較的高い場合にも,高い。またこのポンプ段は構造がコンパクトである。たんにステータ又はロータのいずれか一方が本発明によるウエブを備えていればよいから,製作,組立,ひいてはまたサービス作業もターボ分子ポンプ段に比して著しく簡単である。特別のポンプ特性を有するため本発明によるポンプ段は,1つのスクリューポンプ段と,殊に2つのスクリューポンプ段と組合わせて用いるのに適している。このような形式の高真空ポンプは,圧縮度,吸込性能及び到達真空度に関して,殆んど,相応するターボ分子ポンプのポンプ特性に達する。さらに上記の形式の高真空ポンプは,比較的高い圧力の気体に対して,粘性の流動範囲の気体にまで,使用でき,従つて前段階の真空発生に要する経費を低減することができる。
次に図示の実施例につき本発明を説明する。
第1図の高真空ポンプは外側のケーシング1を有し,このケーシングは内側中心に支承スリーブ2を有している。この支承スリーブ2内には軸3が軸受4によつて支持されている。軸3には,駆動モータ5及びロータ系(6,7)が連結されている。
一体構造のロータ系は2つの異なる構成のロータ6,7を有している。ロータ6は円筒形で滑らかな外周面8及び内周面9を有している。外周面8に対応する範囲においてケーシング1はその内側にねじ山10を有し,スクリューポンプ段のステータを形成している。外周面8とねじ山10とは,この,それ自体としては公知のスクリューポンプ段のポンプ作用面であって,ポンプギヤツプ11に達した分子を出口12へ搬送する。
支承スリーブ2の外周面には,ロータ6の内周面9に対応する範囲に,ねじ山13が加工されており,これにより,さらに別の1つのスクリューポンプ段のステータが形成されている。ねじ山13と内周面9とは,ポンプギヤツプ14を有する上記の,別の1つのスクリューポンプ段のポンプ作用面である。ポンプギヤツプ14を通って下から上へ搬送される気体は支承ブツシュ2中の孔15を通つて出口12へ流れる。
スクリューポンプ段8,10に本発明のポンプ段が前置されている。このポンプ段はロータ7を有し,このロータ7は円錐形のボス部分23及びウエブ24から成る。これらのウエブ24は,これらのウエブを取囲む,ケーシング1内のステータ壁25と共に,1つのポンプ段(1,25)を形成する。個々のウエブ24間又はポンプギヤツプ26内に達する気体の分子は,本発明によるポンプ段(24,25)により,分子ポンプ段(6,10)のポンプギヤツプ11へ搬送される。
図示の実施例では,ウエブ24は円錐形のボス部分23に設けられており,ロータ系(6,7)と一緒に回転する。ウエブ24をステータ壁25に設けることも可能である。この構成の場合には,ポンプギヤツプ26は,この場合滑らかなボス部分23の外周面とウエブ24の内側の縁部との間にある。ポンプギヤツプ11,14及び26の幅はできるだけ小さくすべきである。このギヤツプの幅は,分子ポンプ段において公知のように,実地では10分の2,3ミリメートル乃至数ミリメートルである。
本発明によるポンプ段のロータ7の構成の細部は第2図に示されている。ロータ7の外側の半径rは,ポンプギヤツプ26までの円筒形のステータ内壁25の半径にほぼ等しい。ウエブ24は,吸込側で,ほぼ45°の傾斜角αを有している。ウエブ24の幅b_(l)は半径rのほぼ1/3であり,この場合半径rは,例えば,50?60mmである。この寸法比では,ウエブ24の幅b_(l)によって規定される環状面(ガス入口面)はロータ端面の50%より大になる。
吐出側ではウエブ24はほぼ15°の傾斜角βを有している。吐出側でのウエブ24の幅b_(2)は半径rのほぼ1/10である。ボス部分23,ウエブ24及びステータ壁25から形成されるポンプ通路は後続するスクリューポンプ段のねじ山10を有するポンプギヤツプに開口している。
図示の実施例では19枚のウエブ24が円錐状ボス部分23の外周に等間隔に配置されている。これらの各ウエブ24はそれぞれが角γに亘って延びている。この角度は有利には90°である。」(2頁右下欄8行?4頁左上欄4行)

・第1図及び第2図には,ロータ7に形成された螺旋状のウエブ24の幅b_(1),b_(2)を有するポンプ段をスクリューポンプ段の上流側に配置することが示されている。

・第1図及び第2図には,ロータ7に形成された螺旋状のウエブ24の幅b_(1),b_(2)が,スクリューポンプ段のステータに形成されたねじ山10,13の高さよりも深くした構成が示されている。

上記記載及び図示内容を総合すると,引用例3には,ロータ(「ロータ7」が相当)に形成された螺旋溝(「螺旋状のウエブ24の幅b_(1),b_(2)」が相当)を有するポンプ段を,ホルウィック機構(「スクリューポンプ段」が相当)の上流側に配置する構成,及び,ロータに形成された螺旋溝がホルウィック機構(「スクリューポンプ段」が相当)のステータに形成された螺旋溝(「ねじ山10,13の高さ」が相当)よりも深くした構成,及び,該ポンプ段は構造がコンパクトであり,ターボ分子ポンプ段に比して製作,組立が簡単であり,ホルウイック機構(「スクリューポンプ段」が相当)と組合せた形式の高真空ポンプは,圧縮度,吸込性能及び到達真空度に関して,殆んど,相応するターボ分子ポンプのポンプ特性に達することが記載されているといえる。

3.対比
本願発明と引用発明とを対比すると,その機能・作用からみて,後者における「ターボ分子ポンプ5a」は前者における「第1排気部分」に相当し,以下同様に,「ターボ分子ポンプ5b」は「第2排気部分」に,「ホルヴェックポンプ6」は「第3排気部分」に,「ガス」は「流体」に,「ポンプユニット4」は「ポンプ」に,「ポンプユニット4の出口」は「ポンプ出口」に,「各ターボ分子ポンプ5a,5b及びホルヴェックポンプ6の各々」は「排気部分の各々」に,「高真空接続口14」は「第1ポンプ入口」に,「接続フランジ15に接続された吸込接続口9」は「第2ポンプ入口」に,「ホルヴェックの構造タイプ」は「ホルウィック機構」に,「真空ポンプ装置」は「真空ポンプ」に,「ガス分析装置2」は「差動排気質量分析計装置」に,「複数の室1」は「それぞれの室」に,「ターボ分子ポンプ5aは1つのターボ分子段からな」る態様は「第1排気部分は少なくとも1つのターボ分子段からな」る態様に,それぞれ相当している。

したがって,両者は,
「第1排気部分と,第1排気部分から下流の第2排気部分と,第2排気部分から下流の第3排気部分と,流体がポンプに入り,ポンプ出口に向かって排気部分の各々を通過することができるようにする第1ポンプ入口と,流体がポンプに入り,ポンプ出口に向かって第2及び第3排気部分だけを通過することができるようにする第2ポンプ入口と,を含み,第3排気部分は,ホルウィック機構からなり,該ホルウィック機構は,そのステータに形成された螺旋溝を含む,真空ポンプにおいて,使用中,各入口は,差動排気質量分析計装置のそれぞれの室に連結され,第1排気部分は少なくとも1つのターボ分子段からなる,真空ポンプ。」の点で一致し,以下の点で相違する。

[相違点]
本願発明では,「第2排気部分は,そのロータに形成された螺旋溝を含み,ロータに形成された螺旋溝はホルウィック機構のステータに形成された螺旋溝よりも深く」,「第1排気部分のターボ分子段は,使用中,ロータの螺旋溝に入る流体の分子が,ステータ段を第2排気部分の螺旋ロータの入口側に隣接してターボ分子部分の最後の段として置くことによって第1排気部分のターボ分子段のステータの表面から放出されるように構成される」のに対し,引用発明では,そのような構成を備えていない点。

4.判断
そこで,上記相違点につき以下に検討する。
例えば,引用例3に開示されているように,圧縮度,吸込性能及び到達真空度に関して,殆んど,相応するターボ分子ポンプのポンプ特性に達し,構造をコンパクトにするために,ロータに形成された螺旋溝を有するポンプ段を,ホルウィック機構の上流側に配置するとともに,ロータに形成された螺旋溝がホルウィック機構のステータに形成された螺旋溝よりも深く構成したものは,真空ポンプの分野で周知の構成である。
複合型ポンプとしての真空ポンプである引用発明において,構造のコンパクト化を図ることは,普遍的な課題といえるから,かかる課題の下に,ホルウィック機構の上流側のターボ分子ポンプからなる第2排気部分について,上記周知の構成を適用して複合型ポンプとすることは当業者にとって適宜なし得る事項である。

また,引用例2には,第1排気部分のターボ分子段(「ターボ分子ポンプT」が相当)は,ステータ段(ステータ翼72)を第2排気部分(ネジ溝ポンプ)の入口側に隣接してターボ分子部分(ターボ分子ポンプT)の最後の段に置くことにより,ロータの螺旋溝(「ネジ溝」が相当)に入る流体(「プロセスガス」が相当)の分子が第1排気部分のターボ分子段(「ターボ分子ポンプT」が相当)のステータ(ステータ翼72)の表面から放出するように構成されることが開示されている。
そして,引用発明と引用例2に開示された事項は,いずれもターボ分子ポンプを含む複合型ポンプである点で共通するから,引用発明に上記周知の構成を適用する際に,引用例2に開示された事項を考慮して,上記相違点に係る本願発明の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たものである。

そして,上記周知の構成の「圧縮度,吸込性能及び到達真空度に関して,殆んど,相応するターボ分子ポンプのポンプ特性に達し,構造をコンパクトにする」ということは,「ポンプのサイズを著しく増大させることなく,排気された装置内の質量流量を増大させることができる」ことも技術的に自明であるから,本願発明の全体構成により奏される作用効果は,引用発明,引用例2に開示された事項,及び上記周知の構成から当業者が予測し得る範囲内のものである。

よって,本願発明は,引用発明,引用例2に開示された事項,及び上記周知の構成に基づいて,当業者が容易に想到し得たものである。

なお,平成24年11月28日付けの意見書における「(3)引用文献1と引用文献2,3又は4の組合せについて」の主張は,上記周知の構成からすると,採用できない。(当審決における引用例3は,平成24年5月21日付け拒絶理由通知における刊行物4(引用文献4)である。)

5.むすび
以上のとおり,本願発明は,引用発明,引用例2に開示された事項,及び上記周知の構成に基づいて,当業者が容易に想到し得たものであるので,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-01-11 
結審通知日 2013-01-21 
審決日 2013-02-01 
出願番号 特願2006-530558(P2006-530558)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F04D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田谷 宗隆  
特許庁審判長 田村 嘉章
特許庁審判官 藤井 昇
川口 真一
発明の名称 真空ポンプ  
代理人 井野 砂里  
代理人 宍戸 嘉一  
代理人 大塚 文昭  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 弟子丸 健  

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