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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G11B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G11B
管理番号 1276047
審判番号 不服2012-13718  
総通号数 164 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-08-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-07-18 
確定日 2013-06-28 
事件の表示 特願2010-102033「二軸配向ポリエステルフィルムの磁気記録テープへの使用」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 9月30日出願公開、特開2010-218684〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成18年12月27日(優先権主張平成18年2月9日)に出願した特願2007-557753号の一部を平成22年4月27日に新たな特許出願としたものであって、平成23年5月31日付で通知した拒絶の理由に対し、同年7月19日付で意見書が提出されたが、平成24年5月22日付で拒絶査定がされ、これに対し、同年7月18日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされたものである。
その後、当審において平成24年11月29日付で、審査官が作成した前置報告書を利用した審尋を行い、平成25年1月22日付で回答書が提出されたものである。

2.平成24年7月18日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成24年7月18日付の手続補正を却下する。

[理由]
(1)本願発明と補正後の発明
平成22年4月27日の特許出願に最初に添付された特許請求の範囲の請求項1には、以下のとおりの発明(以下、「本願発明」という。)が記載されている。
「フィルムの製膜方向のヤング率(YMD)が6.5GPa以上であり、幅方向のヤング率(YTD)および温度膨張係数がそれぞれ8.2?9.8GPaおよび-5?-1ppm/℃の範囲にあり且つYTDがYMDと同等かそれよりも大きい二軸配向ポリエステルフィルム(但し、少なくとも一方の面に金属類または金属系無機化合物からなる層を有する二軸配向ポリエステルフィルムを除く)の、リニア記録方式の、塗布型磁性層を有する磁気記録テープ用ベースフィルムへの使用。」

また、平成24年7月18日付の手続補正により、前記特許請求の範囲の請求項1は、以下のとおりに補正された。
「フィルムの製膜方向のヤング率(YMD)が6.5GPa以上であり、幅方向のヤング率(YTD)および温度膨張係数がそれぞれ8.2?9.8GPaおよび-4?-1ppm/℃の範囲にあり且つYTDがYMDと同等かそれよりも大きい二軸配向ポリエステルフィルム(但し、少なくとも一方の面に金属類または金属系無機化合物からなる層を有する二軸配向ポリエステルフィルムを除く)の、リニア記録方式の、塗布型磁性層を有する磁気記録テープ用ベースフィルムへの使用。」

上記補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である、磁気記録テープ用ベースフィルムに使用される二軸配向ポリエステルフィルムの「幅方向の温度膨張係数の下限値」を「-4」ppm/℃と限定するものであって、特許法17条の2第4項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「補正後の発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)引用例
原査定の理由で引用された、本願の出願日(優先権主張の日)前に頒布された刊行物である、国際公開第02/47889号(以下、「引用例」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。

(a)
「本発明は二軸配向ポリエステルフィルムに関する。さらに詳しくは高密度磁気記録媒体、特にリニア記録方式のLTO、S-DLT用磁気テープのベースフィルムとして有用な高ヤング率を有しつつ、優れた寸法安定性をも兼備した二軸配向ポリエステルフィルムに関する。」 (第1頁第6行?同頁第9行)

(b)
「実施例1
平均粒径0.6μmの炭酸カルシウム粒子を0.02重量%および平均粒径0.1μmのシリカ粒子を0.2重量%含有したポリエチレン-2,6-ナフタレート(固有粘度:0.6)を180℃で5時間乾燥した後、300℃で溶融押出し、60℃に保持したキャスティングドラム上で急冷固化せしめて、未延伸フィルムを得た。
この未延伸フィルムを速度差を持った2つのロール間で縦方向に150℃の温度で6.2倍延伸した。なお、縦延伸後の一軸フィルムの縦方向の屈折率は1.77を超え、横方向の屈折率は1.587、厚み方向の屈折率は1.534であった。次いで、この一軸延伸フィルムを、フィルムの進行方向に向って温度を120?155℃に上昇させながら、横方向に87.5%/秒の延伸速度で4.5倍に第1横延伸した後、さらにフィルムの進行方向に向って温度を155?205℃に上昇させながら、横方向に2.9%/秒の延伸速度で1.1倍に第2横延伸した後、最終熱固定ゾーンにて190℃にて5%トーアウト(1.05倍)し、5秒間熱固定処理した。得られた二軸配向フィルムの厚みは4.5μmであった。
一方、下記に示す組成物をボールミルに入れ、16時間混練、分散した後、イソシアネート化合物(バイエル社製のデスモジュールL)5重量部を加え、1時間高速剪断分散して磁性塗料とした。
磁性塗料の組成:
針状Fe粒子 100重量部
塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体 15重量部
(積水化学製エスレック7A)
熱可塑性ポリウレタン樹脂 5重量部
酸化クロム 5重量部
カーボンブラック 5重量部
レシチン 2重量部
脂肪酸エステル 1重量部
トルエン 50重量部
メチルエチルケトン 50重量部
シクロヘキサノン 50重量部
この磁性塗料を上述の二軸配向PENフィルムの片面に最終塗布厚さ0.5μmとなるように塗布し、次いで2,500ガウスの直流磁場中で配向処理を行い、100℃で加熱乾燥後、スーパーカレンダー処理(線圧200kg/cm、温度80℃)を行い、巻き取った。この巻き取ったロールを55℃のオーブン中に3日間放置した。
さらに下記組成のバックコート層塗料を、二軸配向PENフィルムの他の面に、塗布厚さ1μmとなるように塗布し、乾燥させ、裁断し、磁気テープを得た。
バックコート層塗料の組成:
カーボンブラック 100重量部
熱可塑性ポリウレタン樹脂 60重量部
イソシアネート化合物 18重量部
(日本ポリウレタン工業社製コロネートL)
シリコーンオイル 0.5重量部
メチルエチルケトン 250重量部
トルエン 50重量部
こうして得られたフィルムおよび磁気テープの特性を表1に示す。この表から明らかなように、得られたテープは幅方向の寸法安定性(温湿度変化および縦方向荷重下の高温高湿処理)に優れ、トラックずれが少なく、また出力特性も良好であった。」(第16頁第27行?第18頁第19行)

(c)
「比較例5
実施例1において、縦方向に150℃の温度で4.0倍延伸した。なお、縦延伸後の一軸フィルムの縦方向の屈折率は1.77を超え、横方向の屈折率は1.587、厚み方向の屈折率は1.558であった。次いで、この一軸延伸フィルムを、フィルムの進行方向に向って温度を120?155℃に上昇させながら、横方向に110.0%/秒の延伸速度で5.4倍に第1横延伸した後、さらにフィルムの進行方向に向って温度を155?205℃に上昇させながら、レールをストレート化(1.00倍)し、さらに最終熱固定ゾーンにて190℃にて、レールをストレート化(1.00倍)し、5秒間熱固定処理した。得られた二軸配向フィルムの厚みは4.5μmであった。
こうして得られたフィルムを実施例1と同様にして磁気テープを得た。フィルムおよび磁気テープの特性を表1に示す。この表から明らかなように、得られたフィルムは横ヤング率が低く、テープの幅方向の寸法安定性(縦方向荷重下の高温高湿処理)が不良であった。」 (第21頁第27行?第22頁第12行)

(d)
比較例5の二軸配向フィルムに関し、フィルム厚みが4.5μmであり、フィルムの縦方向のヤング率が6.0GPaであり、横方向のヤング率および温度膨張係数がそれぞれ9.0GPaおよび-5×10-6/℃であること。(第24頁の「表1(続き)」)

よって、引用例には、リニア記録方式のLTO、S-DLT用磁気テープのベースフィルムに使用するために作成した二軸配向ポリエステルフィルムであって(上記(a))、その特性は、縦方向のヤング率が6.0GPaであり、横方向のヤング率および温度膨張係数がそれぞれ9.0GPaおよび-5×10-6/℃であり(上記(d))、係るフィルムに磁性材料を塗布して磁気テープを得ること(上記(b)(c))、が記載されている。
すなわち、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「フィルムの縦方向のヤング率が6.0GPaであり、横方向のヤング率および温度膨張係数がそれぞれ9.0GPaおよび-5×10-6/℃である二軸配向ポリエステルフィルムであって、リニア記録方式の、塗布型磁性層を有する磁気記録テープ用ベースフィルムへの使用を企図したもの。」

(3)対比
補正後の発明と引用発明とを対比する。
引用発明における「二軸配向ポリエステルフィルムであって、リニア記録方式の、塗布型磁性層を有する磁気記録テープ用ベースフィルムへの使用を企図したもの」は、引用発明が二軸配向ポリエステルフィルムのいずれの面にも金属類または金属系無機化合物からなる層を有さないことを勘案すると、補正後の発明における「二軸配向ポリエステルフィルム(但し、少なくとも一方の面に金属類または金属系無機化合物からなる層を有する二軸配向ポリエステルフィルムを除く)の、リニア記録方式の、塗布型磁性層を有する磁気記録テープ用ベースフィルムへの使用」に相当する。
引用発明における「フィルムの縦方向のヤング率」は、補正後の発明における「フィルムの製膜方向のヤング率(YMD)」に相当する。
引用発明における「横方向のヤング率」が「9.0GPaである」ことは、補正後の発明における「幅方向のヤング率(YTD)」が「8.2?9.8GPa」ことを満足する。
引用発明における「縦方向のヤング率が6.0GPa」であることから、補正後の発明における「YTDがYMDと同等かそれよりも大きい」ことを満足する。

そうすると、補正後の発明と引用発明とは次の点で一致する。

<一致点>
「フィルムの製膜方向のヤング率(YMD)が所定の値であり、幅方向のヤング率(YTD)が8.2?9.8GPaの範囲にあり、幅方向の温度膨張係数が所定の値であり、且つYTDがYMDと同等かそれよりも大きい二軸配向ポリエステルフィルム(但し、少なくとも一方の面に金属類または金属系無機化合物からなる層を有する二軸配向ポリエステルフィルムを除く)の、リニア記録方式の、塗布型磁性層を有する磁気記録テープ用ベースフィルムへの使用。」

一方、次の点で相違する。

<相違点>
[相違点1]フィルムの製膜方向のヤング率(YMD)について、補正後の発明は「6.5GPa以上」と規定しているのに対し、引用発明は「6.0GPa」である点。
[相違点2]フィルムの幅方向の温度膨張係数について、補正後の発明は「-4?-1ppm/℃」と規定しているのに対し、引用発明は「-5ppm/℃」である点。

(4)判断
「リニア記録方式の、塗布型磁性層を有する磁気記録テープ用ベースフィルムであることを特徴とする二軸配向ポリエステルフィルム」の技術分野においては、「高ヤング率」(上記、2.引用例(a))を有することが望ましいことを勘案すると、引用発明において「フィルムの縦方向のヤング率」を「6.0GPa」から単に「6.5GPa以上」に変更する程度のことは、当業者であれば適宜なしうることである。
また、係る磁気記録テープの技術分野において高記録密度化という技術課題は周知であり、リニア記録方式においてはフィルムの幅方向の寸法安定性が求められることは自明な事項に過ぎないから、その温度膨張係数に許容される値をより小さい値(0に近い値)に規定することは、当業者であれば当然に想起する程度のことである。
そして、「フィルムの製膜方向のヤング率(YMD)」を「6.0GPa」から「6.5GPa以上」に変更したことや「フィルムの幅方向の温度膨張係数」の下限値を「-5」から「-4」に変更したことにより、当業者に予測不可能な格別顕著な効果が奏されるなどの事情も見いだせない。
したがって、補正後の発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第5項で準用する同法126条5項の規定に違反するものであり、同法159条1項で準用する同法53条1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
平成24年7月18日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、前記2.(1)で「本願発明」として認定したとおりのものである。

(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例、及びその記載事項は、前記2.(2)に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、前記2.で検討した補正後の発明の「幅方向の温度膨張係数の下限値」に係る「-4」ppm/℃なる限定事項を省き、「-5」ppm/℃としたものである。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含んだ補正後の発明が、前記2.(4)に記載したとおり、引用例に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用例に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-04-30 
結審通知日 2013-05-01 
審決日 2013-05-14 
出願番号 特願2010-102033(P2010-102033)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G11B)
P 1 8・ 575- Z (G11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 谷澤 恵美馬場 慎  
特許庁審判長 石井 研一
特許庁審判官 萩原 義則
石丸 昌平
発明の名称 二軸配向ポリエステルフィルムの磁気記録テープへの使用  
代理人 大島 正孝  

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