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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1276087
審判番号 不服2012-51  
総通号数 164 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-08-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-01-04 
確定日 2013-06-26 
事件の表示 特願2009-243336「高電子移動度トランジスタの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 1月28日出願公開、特開2010- 21581〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成14年7月23日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2001年7月24日,アメリカ合衆国)を国際出願日とする特願2003-535260号の一部を,平成21年10月22日に新たな特許出願としたものであって,平成23年4月4日に手続補正がされ,同年4月13日付けで拒絶理由が通知され,同年7月26日に手続補正がされ,同年8月24日付けで,同年7月26日にされた手続補正が却下されるとともに拒絶査定がされ,これに対して平成24年1月4日に拒絶査定に対する審判請求がされるとともに手続補正がされたものである。その後,平成24年5月28日付けで審尋がされ,同年8月29日に回答書が提出されたものである。

第2 補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成24年1月4日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.本件補正の内容
本件補正は,特許請求の範囲を補正するものであって,本件補正の前後の特許請求の範囲は,各々以下のとおりである。

〈補正前〉
「【請求項1】
ゲート漏洩のバリアを備えた高電子移動度トランジスタの製造方法であって,
基板を金属有機化学気相成長反応器中に置く工程と,
前記基板上に高比抵抗のGaN層を形成するために,原料ガスを前記金属有機化学気相成長反応器の反応チャンバー中に流す工程と,
前記GaN層上に,該GaN層よりも広いバンドギャップを有するAlGaNバリア半導体層を形成するために,原料ガスを前記反応チャンバー中に流す工程と,
前記AlGaNバリア半導体層上に絶縁層を形成するために原料ガスを前記反応チャンバー中に流す工程であって,前記絶縁層が,SiN絶縁層とAlN絶縁層とからなり,該AlN絶縁層が,前記AlGaNバリア半導体層と前記SiN絶縁層との間に挟まれており,
前記反応チャンバーを冷却する工程と,
堆積された層を備える前記基板を前記反応チャンバーから取り出す工程と
を有することを特徴とする高電子移動度トランジスタの製造方法。
【請求項2】
ゲート漏洩のバリアを備えた高電子移動度トランジスタの製造方法であって,
高比抵抗のGaN層およびAlGaNバリア層を有する,前記高電子移動度トランジスタの活性層を基板上に形成する工程と,
前記基板をスパッタチャンバー中に置く工程と,
前記スパッタチャンバーの中で前記基板上に絶縁層をスパッタする工程であって,前記絶縁層が,SiN絶縁層とAlN絶縁層とからなり,該AlN絶縁層が,前記バリアと前記SiN絶縁層との間に挟まれており,
前記スパッタチャンバーから前記基板を取り出す工程と
を有することを特徴とする高電子移動度トランジスタの製造方法。」

〈補正後〉
「【請求項1】
ゲート漏洩のバリアを備えた高電子移動度トランジスタの製造方法であって,
基板を金属有機化学気相成長反応器中に置く工程と,
前記基板上に高比抵抗のGaN層を形成するために,原料ガスを前記金属有機化学気相成長反応器の反応チャンバー中に流す工程と,
前記GaN層上に,該GaN層よりも広いバンドギャップを有するAlGaNバリア半導体層を形成するために,原料ガスを前記反応チャンバー中に流す工程と,
前記AlGaNバリア半導体層上に絶縁層を形成するために原料ガスを前記反応チャンバー中に流す工程であって,前記絶縁層が,SiN絶縁層とAlN絶縁層とからなり,該AlN絶縁層が,前記AlGaNバリア半導体層と前記SiN絶縁層との間に挟まれており,前記AlN絶縁層が,前記SiN絶縁層の成長中に前記AlGaNバリア半導体層のドーピングまたは劣化を防止し,
前記反応チャンバーを冷却する工程と,
堆積された層を備える前記基板を前記反応チャンバーから取り出す工程と
を有することを特徴とする高電子移動度トランジスタの製造方法。
【請求項2】
ゲート漏洩のバリアを備えた高電子移動度トランジスタの製造方法であって,
高比抵抗のGaN層および前記高比抵抗のGaN層上のAlGaNバリア層を有する,前記高電子移動度トランジスタの活性層を基板上に形成する工程と,
前記基板をスパッタチャンバー中に置く工程と,
前記スパッタチャンバーの中で前記基板上に二重絶縁層をスパッタする工程であって,前記二重絶縁層が,SiN絶縁層とAlN絶縁層とからなり,該AlN絶縁層が,前記AlGaNバリア層と前記SiN絶縁層との間に挟まれており,前記AlN絶縁層が,前記SiN絶縁層の成長中に前記AlGaNバリア層のドーピングまたは劣化を防止し,
前記スパッタチャンバーから前記基板を取り出す工程と
を有することを特徴とする高電子移動度トランジスタの製造方法。」

2.補正内容の整理
上記補正の内容を整理すると次のとおりとなる。

〈補正事項1〉
補正前の請求項1の「前記AlGaNバリア半導体層上に絶縁層を形成するために原料ガスを前記反応チャンバー中に流す工程であって,前記絶縁層が,SiN絶縁層とAlN絶縁層とからなり,該AlN絶縁層が,前記AlGaNバリア半導体層と前記SiN絶縁層との間に挟まれており」を,補正後の請求項1の「前記AlGaNバリア半導体層上に絶縁層を形成するために原料ガスを前記反応チャンバー中に流す工程であって,前記絶縁層が,SiN絶縁層とAlN絶縁層とからなり,該AlN絶縁層が,前記AlGaNバリア半導体層と前記SiN絶縁層との間に挟まれており,前記AlN絶縁層が,前記SiN絶縁層の成長中に前記AlGaNバリア半導体層のドーピングまたは劣化を防止し」とすること。

〈補正事項2〉
補正前の請求項2の「高比抵抗のGaN層およびAlGaNバリア層を有する,前記高電子移動度トランジスタの活性層を基板上に形成する工程」を,補正後の請求項2の「高比抵抗のGaN層および前記高比抵抗のGaN層上のAlGaNバリア層を有する,前記高電子移動度トランジスタの活性層を基板上に形成する工程」とすること。

〈補正事項3〉
補正前の請求項2の「前記スパッタチャンバーの中で前記基板上に絶縁層をスパッタする工程であって,前記絶縁層が,SiN絶縁層とAlN絶縁層とからなり,該AlN絶縁層が,前記バリアと前記SiN絶縁層との間に挟まれており」を,補正後の請求項2の「前記スパッタチャンバーの中で前記基板上に二重絶縁層をスパッタする工程であって,前記二重絶縁層が,SiN絶縁層とAlN絶縁層とからなり,該AlN絶縁層が,前記AlGaNバリア層と前記SiN絶縁層との間に挟まれており,前記AlN絶縁層が,前記SiN絶縁層の成長中に前記AlGaNバリア層のドーピングまたは劣化を防止し」とすること。

3.補正の目的の適否及び新規事項の追加の有無についての検討

〈補正事項1について〉
補正事項1は,補正前の請求項1に係る発明特定事項である「前記AlGaNバリア半導体層上に絶縁層を形成するために原料ガスを前記反応チャンバー中に流す工程」において形成される「前記絶縁層が,SiN絶縁層とAlN絶縁層とからなり,該AlN絶縁層が,前記AlGaNバリア半導体層と前記SiN絶縁層との間に挟まれて」いるものについて,その具体的機能をもって技術的に限定するものであるから,特許法第17条の2第4項(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項をいう。以下同じ。)第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また,上記補正に係る事項は,本願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)の段落【0047】?【0049】及び図4等に記載されており,当初明細書等の記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものであるから,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものである。

〈補正事項2について〉
補正事項2は,補正前の請求項2の「高比抵抗のGaN層およびAlGaNバリア層を有する,前記高電子移動度トランジスタの活性層を基板上に形成する工程」における「AlGaNバリア層」について,補正後の請求項2において「前記高比抵抗のGaN層上のAlGaNバリア層」として,「高比抵抗のGaN層」と「AlGaNバリア層」との上下関係を明りょうにしたものであるから,特許法第17条の2第4項第4号に掲げる明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
また,上記補正に係る事項は,当初明細書等の段落【0047】?【0049】及び図4等に記載されており,当初明細書等の記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものであるから,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものである。

〈補正事項3について〉
補正事項3のうち,補正前の請求項2の「前記スパッタチャンバーの中で前記基板上に絶縁層をスパッタする工程であって,前記絶縁層が,SiN絶縁層とAlN絶縁層とからなり,該AlN絶縁層が,前記バリアと前記SiN絶縁層との間に挟まれており」を,補正後の請求項2の「前記スパッタチャンバーの中で前記基板上に二重絶縁層をスパッタする工程であって,前記二重絶縁層が,SiN絶縁層とAlN絶縁層とからなり,該AlN絶縁層が,前記AlGaNバリア層と前記SiN絶縁層との間に挟まれており」とすることは,補正前の「絶縁層」が「二重絶縁層」であることを明りょうにし,また,補正前の「前記バリア」が「前記AlGaNバリア層」であることを明りょうにするものであるから,特許法第17条の2第4項第4号に掲げる明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
補正事項3のうち,補正後の請求項2の「前記AlN絶縁層が,前記SiN絶縁層の成長中に前記AlGaNバリア層のドーピングまたは劣化を防止し」を加入することは,補正前の請求項2に係る発明特定事項である「AlN絶縁層」について,その具体的機能をもって技術的に限定するものであるから,特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また,上記補正に係る各事項は,当初明細書等の段落【0047】?【0049】及び図4等に記載されており,当初明細書等の記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものであるから,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものである。

上記のとおり,本件補正は,特許法第17条の2第3項及び第4項に規定する要件を満たすものであり,同法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものを含むから,以下,本件補正後の特許請求の範囲に記載された発明が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定を満たすか)どうかを,補正後の請求項1に係る発明について検討する。

4.独立特許要件についての検討
(1)本願補正発明
本件補正後の請求項1に係る発明は,本件補正後の特許請求の範囲,特許請求の範囲,明細書及び図面の記載から見て,その請求項1に記載された事項により特定される,以下のとおりのものである。(再掲。以下「本願補正発明」という。)
「【請求項1】
ゲート漏洩のバリアを備えた高電子移動度トランジスタの製造方法であって,
基板を金属有機化学気相成長反応器中に置く工程と,
前記基板上に高比抵抗のGaN層を形成するために,原料ガスを前記金属有機化学気相成長反応器の反応チャンバー中に流す工程と,
前記GaN層上に,該GaN層よりも広いバンドギャップを有するAlGaNバリア半導体層を形成するために,原料ガスを前記反応チャンバー中に流す工程と,
前記AlGaNバリア半導体層上に絶縁層を形成するために原料ガスを前記反応チャンバー中に流す工程であって,前記絶縁層が,SiN絶縁層とAlN絶縁層とからなり,該AlN絶縁層が,前記AlGaNバリア半導体層と前記SiN絶縁層との間に挟まれており,前記AlN絶縁層が,前記SiN絶縁層の成長中に前記AlGaNバリア半導体層のドーピングまたは劣化を防止し,
前記反応チャンバーを冷却する工程と,
堆積された層を備える前記基板を前記反応チャンバーから取り出す工程と
を有することを特徴とする高電子移動度トランジスタの製造方法。」

(2)刊行物に記載された発明
ア 引用例1: Syunji Imanaga and Hiroji Kawai, ‘Novel AlN/GaN insulated gate heterostructure field effect transistor with modulation doping and one-dimensional simulation of charge control’, Journal of Applied Physics, Vol.82, No.11, p.5843-5858, 1997年12月,米国

原査定の拒絶の理由において引用され,本願の優先権主張の日前に外国において頒布された刊行物である上記文献(以下「引用例1」という。)には,FIG.1とともに次の記載がある。(日本語訳は当合議体において作成。下線は当合議体において付加。以下同様。)

(ア)「In order to investigate the potential of FETs using GaN-type materials, we analyzed in detail charge control in vertical structures of AlN/GaN insulated gate heterostructure FETs with modulation doping.」(5843ページ右欄6?9行)
(日本語訳:GaN系材料を用いたFETの可能性を調査するために,我々は変調ドーピングされたAlN/ GaNの絶縁ゲートヘテロ構造FETの垂直構造における電荷制御の詳細を分析した。)

(イ)「The vertical structures under the gate of the FET which were analyzed are shown in Fig. 1. We explain the role of each layer in the structure shown in Fig. 1(c). Layer(1) AlN is the gate insulator or the first barrier layer which prevents the gate leakage current and confines channel electrons. The shaded regions of layers(2) and (4) are the electron supplying layers and are doped n-type. The unshaded regions of layers(2) and (4) are the spacer layers and are undoped. Layer(3) is the channel. Layer(5) is the second barrier layer which confines channel electrons. Layer(6) is the substrate which is assumed to be lightly doped p-type with a doping concentration of N_(A)=1.0×10^(14)cm^(-3). The typical layer widths and the conduction band discontinuities are shown in Fig. 1.」(5843ページ右欄27行?5844ページ左欄12行)
(日本語訳:分析されたFETのゲート下の垂直構造を図1に示す。図1(c)に示す構造での各層の役割を説明する。層(1)AlNは,ゲート絶縁膜,すなわちゲートリーク電流を防ぎチャネル電子を閉じ込める第一バリア層である。層(2)及び(4)の網掛けされた領域は電子供給層であり,n型にドープされている。層(2)及び(4)の網掛けされていない領域はスペーサ層であり,ドープされていない。層(3)はチャネルである。層(5)はチャネル電子を閉じ込める第二バリア層である。層(6)は,N_(A)=1.0×10^(14)cm^(-3)のドーピング濃度を有する軽くp型にドープされていると想定される基板である。典型的な層の幅と伝導帯の不連続性を図1に示す。)

(ウ)「FIG. 1. The simulated three vertical structures to obtain the effect of the position of the electron supplying layer to charge control. The structure (a) has the electron supplying layer at the substrate side of the channel. The structure (b) has the electron supplying layer at the surface side of the channel. The structure (c) has the electron supplying layers on both sides of the channel. The hatched regions are the electron supplying layers and are doped n type. The doping concentrations of the electron supplying layers in the cases of (a) and (b) are 4×10^(19)cm^(-3) and 3×10^(19) cm^(-3), respectively. In the case of (c), the doping concentrations of the electron supplying layers at the surface side and at the substrate side are 3×10^(19) cm^(-3) and 4×10^(19) cm^(-3), respectively.」(FIG.1に付加された説明文)
(日本語訳:電荷制御に対する電子供給層の位置の効果を得るためにシミュレートされた3つの垂直構造。構造(a)は,チャネルの基板側に電子供給層を持っている。構造(b)は,チャネルの表面側に電子供給層を持っている。構造(c)は,チャネルの両側に電子供給層を持っている。斜線領域は電子供給層であり,n型にドープされている。(a)と(b)の場合では,電子供給層のドーピング濃度はそれぞれ4×10^(19)cm^(-3)と3×10^(19) cm^(-3)である。(c)の場合には,表面側と基板側の電子供給層のドーピング濃度は,それぞれ3×10^(19) cm^(-3)と4×10^(19) cm^(-3)である。)

(エ)「In such structures as those shown in Fig. 1, Poisson and Schroedinger equations were solved self-consistently for given two-dimensional electron gas (2DEG) concentrations in the system.」(審決注:「Schroedinger」中の「oe」は,oのウムラウトを示す。)(5844ページ左欄19行?同ページ右欄3行)
(日本語訳:図1に示したこれらのような構造において,システム内の与えられた2次元電子ガス(2DEG)濃度について,ポアッソン及びシュレディンガーの方程式を自己無撞着に解いた。)

(オ)「V. SUMMARY
We propose a novel AlN/GaN insulated-gate heterostructure field effect transistor (FET) with modulation doping.」(5858ページ左欄22?25行)
(日本語訳:V.要約 我々は,変調ドーピングされたAlN/GaN絶縁ゲート絶縁ゲートヘテロ構造電界効果トランジスタ(FET)を提案する。)

ここで,上記(ア)?(ウ)とともにFIG.1(b)を参照すると,ゲート下の構造として,ゲートから最も離れた側(図上では右端)から順に,GaNから成るバリア層(5),Al_(0.4)GaNからなるアンドープのスペーサ層(4),GaIn_(0.28)Nからなるチャネル層(3),Al_(0.15)GaNからなるアンドープのスペーサ層(2;網掛けなし),Al_(0.15)GaNからなりn型にドープされた電子供給層(2;網掛けあり),及びAlNから成るゲート絶縁膜(1)の各層からなる構造を有する,絶縁ゲートヘテロ構造FETの垂直構造が見て取れる。
また,上記(ウ)の記載によれば,引用例1のFIG.1(a)に記載されたものがチャネルの基板側に電子供給層を持っていることから,FIG.1(b)に記載されたものは,チャネルの基板とは反対側に電子供給層を持っており,当該基板上に,GaNから成るバリア層(5),Al_(0.4)GaNからなるアンドープのスペーサ層(4),GaIn_(0.28)Nからなるチャネル層(3),Al_(0.15)GaNGaNからなるアンドープのスペーサ層(2;網掛けなし),Al_(0.15)GaNからなりn型にドープされた電子供給層(2;網掛けあり),及びAlNから成るゲート絶縁膜(1)の各層が,この順に設けられていることがわかる。
さらに,上記各記載及びFIG.1(b)からは,上述の垂直構造を備えた絶縁ゲートヘテロ構造FET自体を把握することができ,AlNから成るゲート絶縁膜(1)上にゲート電極が設けられることは明らかである。

以上を総合すると,引用例1には以下の発明が記載されているものと認められる。(以下「引用発明」という。)
「基板上に設けられた,GaNから成るバリア層,
該バリア層の上に設けられた,Al_(0.4)GaNからなるアンドープのスペーサ層,
該スペーサ層の上に設けられた,GaIn_(0.28)Nからなるチャネル層,
該チャネル層の上に設けられた,Al_(0.15)GaNGaNからなるアンドープのスペーサ層,
該スペーサ層上に設けられた,Al_(0.15)GaNGaNからなりn型にドープされた電子供給層,
該電子供給層上に設けられた,AlNから成るゲート絶縁膜,及び
該ゲート絶縁膜上に設けられたゲート電極を備える,
変調ドーピングされたAlN/ GaNの絶縁ゲートヘテロ構造FET。」

イ 引用例2:特開2000-252458号公報
原査定の拒絶の理由において引用され,本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である特開2000-252458号公報(以下「引用例2」という。)には,図1及び8とともに次の記載がある。

・「【0004】図8は,従来のGaNを用いたMISFETの一例を表すものである(Electron Lett., 34 (1998) p.592 参照)。このMISFETは,例えば,サファイアよりなる基板101の上にGaNよりなるバッファ層102,不純物を添加していないアルミニウムガリウムナイトライド(undope-AlGaN;undope-は不純物を添加していないことを表す)よりなる下地層103およびn型GaNよりなるチャネル層としての電子走行層104が順次積層され,電子走行層104の上にはアルミニウムナイトライド(AlN)よりなる絶縁膜105を介して制御電極としてのゲート電極106が形成された構造を有している。電子走行層104の上には,また,n型GaNよりそれぞれなるソース領域107およびドレイン領域108がゲート電極106を間に挟むように形成されており,それぞれに対応してソース電極109およびドレイン電極110がそれぞれ設けられている。これらソース電極109およびドレイン電極110はソース領域107およびドレイン領域108とそれぞれオーミック接触しており,ゲート電極106は絶縁膜105と非オーミック接触状態となっている。
【0005】このような構成を有するMISFETは,化学的および熱的に安定でかつ高抵抗のAlNよりなる絶縁膜105をゲート電極106と電子走行層104との間に有しているので,Si系の金属-酸化膜-半導体電界効果トランジスタ(Metal-Oxide-Semiconductor Field Effect Transistor ;MOSFET)と同様に反転層をチャネルとして動作させることが可能であり,入力振幅を大きくとることができるものと期待されていた(J.Appl.Phys.; 82 (1997) p.5843参照)。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら,AlNよりなる絶縁膜105を用いた従来のMISFETでは,ゲート電極106に電圧を印加すると電荷が絶縁膜105を通過してしまい,ゲート電極106と電子走行層104との間のリーク電流を少なく押さえることが難しいという問題があった。そのため,MISFETが有する本来の性能を十分に得ることができなかった。
【0007】本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので,その目的は,絶縁膜を通過するリーク電流を少なくすることができる半導体素子を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明による半導体素子は,チャネル層と制御電極との間に絶縁膜を備えると共に,チャネル層は,III族元素であるガリウム,アルミニウム,ホウ素およびインジウムからなる群のうちの少なくとも1種と,V族元素である窒素,リンおよびヒ素からなる群のうちの少なくとも窒素とを含む窒化物系III-V族化合物半導体よりなるものであって,絶縁膜は多層膜により構成されている。
【0009】(略)
【0010】本発明による半導体素子では,絶縁膜が多層膜により構成されているので,制御電極に電圧が印加されても,絶縁膜を通過するリーク電流が抑制される。」

・「【0012】
【発明の実施の形態】以下,本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0013】(第1の実施の形態)図1は,本発明の第1の実施の形態に係る半導体素子であるFETの断面構成を表すものである。このFETは,例えば,基板11の一面に,バッファ層12を介して下地層13,電子供給層14およびチャネル層としての電子走行層15が順次積層された構成を有している。
【0014】(略)
【0015】下地層13は,例えば,厚さが2μmであり,不純物を添加しないundope-Al_(0.15)Ga_(0.85)Nの結晶により構成されている。電子供給層14は,例えば,厚さが5nmであり,Siなどのn型不純物が添加されたn型Al_(0.15)Ga_(0.85)Nの結晶により構成されている。この電子供給層14の不純物濃度は,例えば,2×10^(19)/cm^(3) 程度となっている。電子走行層15は,例えば,厚さが15nmであり,Siなどのn型不純物が添加されたn型GaNの結晶により構成されている。この電子走行層15の不純物濃度は,例えば,2×10^(19)/cm^(3) 程度となっている。
【0016】なお,電子走行層15の不純物濃度と厚さとをそれぞれ制御することにより,または,後述するゲート電極17を構成する金属の種類を変えてゲート電極17の仕事関数値を変えることにより,ゲート閾値電圧を適宜に調節することができる。すなわち,不純物濃度を高くすればノルマルオン(デプレッションモード;depletion mode)となり,不純物濃度を低くすればノルマルオフ(エンハンスメントモード;enhancement mode)となる。ちなみに,本実施の形態ではデプレッションモードとなっている。
【0017】電子走行層15の基板11と反対側には,例えば,絶縁膜16を介して制御電極としてのゲート電極17が形成されている。この絶縁膜16は電子走行層15とゲート電極17との間において積層された多層膜により構成されており,例えば,電子走行層15の側に設けられた第1の絶縁膜16aと,第1の絶縁膜16aとゲート電極17との間に設けられた第2の絶縁膜16bとを含んでいる。
【0018】第1の絶縁膜16aは,例えば,厚さが6nmであり,III族元素としてアルミニウム(Al)を少なくとも含む窒化物系III-V族化合物半導体により構成されている。具体的には,例えば,不純物を添加しないundope-AlNまたはundope-AlGaNなどにより構成されている。なお,第1の絶縁膜16aを構成する窒化物系III-V族化合物半導体におけるアルミニウムの組成比は高い方が好ましい。アルミニウムの組成比が高いほど絶縁障壁が大きくなると共に,格子不整合が緩和していない場合にはピエゾ効果による界面の二次電子生成量が多くなるからである。従って,第1の絶縁膜16aはAlNにより構成される方がより好ましい。
【0019】第2の絶縁膜16bは,例えば,厚さが10nmであり,アルミニウムを少なくとも含む窒化物系III-V族化合物半導体以外の絶縁体により構成されている。具体的には,二酸化ケイ素(SiO_(2) ),窒化ケイ素(Si_(3) N_(4) )または酸化アルミニウム(Al_(2) O_(3) )などにより構成されている。このように,アルミニウム含有窒化物系III-V族化合物半導体よりなる第1の絶縁膜16aに加えて,SiO_(2) ,Si_(3) N_(4) またはAl_(2) O_(3) などよりなる第2の絶縁膜16bを設けているのは,第2の絶縁膜16bにより絶縁膜16を通過するリーク電流を抑制するためである。
【0020】ゲート電極17は,例えば,絶縁膜16の側からニッケル(Ni)層および金(Au)層を順次積層した構成を有しており,絶縁膜16とは非オーミック接触状態となっている。
【0021】電子走行層15の基板11と反対側には,また,例えば,ゲート電極17を間に挟むように第1の絶縁膜16aを介してソース電極18とドレイン電極19とが離間してそれぞれ設けられている。但し,これらソース電極18およびドレイン電極19は電子走行層15に直接設けられていてもよい。ソース電極18およびドレイン電極19は,例えば,第1の絶縁膜16aの側からチタン(Ti)層,アルミニウム層,白金(Pt)層および金層を順次積層して加熱処理により合金化した構造をそれぞれ有している。これらソース電極18およびドレイン電極19は,電子走行層15とそれぞれオーミック接触している。」

・「【0022】このような構成を有するFETは,次のようにして製造することができる。
【0023】まず,例えば,サファイアよりなるc面の基板11を用意し,水素(H_(2) )ガス雰囲気中において1050℃でクリーニングする。次いで,基板11の一面に,例えば,MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition )法により温度を550℃に下げて原料ガスを供給しつつ,undope-Al_(0.15)Ga_(0.85)Nよりなるバッファ層12を成長させる。続いて,このバッファ層12の上に,例えば,同じくMOCVD法により温度を990℃に上げて原料ガスを供給しつつ,undope-Al_(0.15)Ga_(0.85)Nよりなる下地層13,n型Al_(0.15)Ga_(0.85)Nよりなる電子供給層14,n型GaNよりなる電子走行層15を順次成長させる。そののち,電子走行層15の上に,例えば,同じくMOCVD法により温度を1000℃に上げて原料ガスを供給しつつ,undope-AlNあるいはundope-AlGaNよりなる第1の絶縁膜16aを成長させる。
【0024】なお,MOCVDにおける原料ガスには,例えば,ガリウムの原料としてトリメチルガリウム(Ga(CH_(3 ))_(3 );TMG),アルミニウムの原料としてトリメチルアルミニウム(Al(CH_(3 ))_(3 );TMA),窒素の原料としてアンモニア(NH_(3 ))およびn型不純物の原料としてシラン(SiH_(4 ))をそれぞれ用いる。各ガスの流量は,例えば,TMGが40μmol/min,TMAが10μmol/min,アンモニアが0.4mol/minおよびシランが約0.01?0.1μmol/minである。また,原料ガスと共に,キャリアガスとして例えば8リットル/minの水素ガスと8リットル/minの窒素(N_(2 ))ガスを流す。成長圧力は例えば250Torrである。
【0025】このようにして第1の絶縁膜16aを成長させたのち,この第1の絶縁膜16aの上に,例えば,プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition )法によりSiO_(2 )などの絶縁体よりなる第2の絶縁膜16bを形成する。第2の絶縁膜16bを形成したのち,例えば,反応性イオンエッチング(Reactive Ion Etching;RIE)法により,ソース電極18およびドレイン電極19の各形成領域にそれぞれ対応して第2の絶縁膜16bを選択的に除去し,第1の絶縁膜16aを露出させる。
【0026】第1の絶縁膜16aを選択的に除去したのち,露出させた第1の絶縁膜16aの上に,例えば,チタン層,アルミニウム層,白金層および金層を順次蒸着し,熱処理により合金化を行い,ソース電極18およびドレイン電極19をそれぞれ形成する。そののち,ソース電極18とドレイン電極19との間の第2の絶縁膜16bの上に,例えば,ニッケル層および金層を順次蒸着してゲート電極17を形成する。これにより,図1に示したFETが形成される。」

・「【0061】加えてまた,上記各実施の形態では,FETの構成について具体的に例を挙げて説明したが,本発明は,他の構成を有するFETについても同様に適用される。例えば,上記各実施の形態では,デプレッションモードの場合について具体的に説明したが,本発明は,エンハンスメントモードの場合についても同様に適用される。その場合,ゲート電極19に正の電圧を加えると電子走行層15内に電荷が誘起されてドレイン電流が流れることを除き,または電子走行層15と絶縁膜16,26,36,46との界面の電子走行層15側内に電荷が誘起され反転層が形成されてドレイン電流が流れることを除き,デプレッションモードと同様である。」

上記各記載から,引用例2には,GaNを用いたMISFETにおいて,AlNよりなる絶縁膜上にゲート電極を設けた従来のものでは,ゲート電極に電圧を印加すると電荷が前記絶縁膜を通過してしまい,ゲート電極と電子走行層との間のリーク電流を少なく押さえることが難しいという問題があり,これを解決するために,AlN及びその上のSi_(3)N_(4)からなる多層絶縁膜上にゲート電極を設けることにより,リーク電流を抑制することが記載されている。また,上記段落【0023】の記載から,GaNを用いたMISFETであって,AlN及びその上のSi_(3)N_(4)からなる多層絶縁膜上にゲート電極を設けたものの製造にあたり,MOCVD法により,Al_(0.15)Ga_(0.85)Nよりなる電子供給層14,n型GaNよりなる電子走行層15,及びundope-AlNあるいはundope-AlGaNよりなる第1の絶縁膜16aを順次成長させることも記載されている。

(3)対比
引用発明は,「変調ドーピングされたAlN/ GaNの絶縁ゲートヘテロ構造FET」の発明であって,製造方法の発明ではない。しかしながら,上記第2 4.(2)ア(オ)に摘記したとおり,引用例1においては,「変調ドーピングされたAlN/GaN絶縁ゲート絶縁ゲートヘテロ構造電界効果トランジスタ(FET)」が提案されているのであり,当該「変調ドーピングされたAlN/ GaNの絶縁ゲートヘテロ構造FET」を製造し,それを使用することが当然に想定されているといえる。そして,引用発明に係る「変調ドーピングされたAlN/ GaNの絶縁ゲートヘテロ構造FET」は,基板上に,GaNから成るバリア層(5),Al_(0.4)GaNからなるアンドープのスペーサ層(4),GaIn_(0.28)Nからなるチャネル層(3),Al_(0.15)GaNGaNからなるアンドープのスペーサ層(2;網掛けなし),Al_(0.15)GaNGaNからなりn型にドープされた電子供給層(2;網掛けあり),及びAlNから成るゲート絶縁膜(1)の各層を,この順に成長させることによって製造されることは明らかである。すなわち,引用発明において,当該スペーサ層,チャネル層,スペーサ層,電子供給,及びゲート絶縁膜の各層を設けることは,当該各層を順次形成することに等しいといえる。
そうすると,本願補正発明と引用発明とを対比すると次のとおりとなる。

・引用発明における,「基板上に設けられた,GaNから成るバリア層, 該バリア層の上に設けられた,Al_(0.4)GaNからなるアンドープのスペーサ層, 該スペーサ層の上に設けられた,GaIn_(0.28)Nからなるチャネル層」を簡略に記載すると,基板-バリア層-アンドープのスペーサ層-チャネル層の順に形成されており,「GaIn_(0.28)Nからなるチャネル層」も基板上に形成されるものである。それゆえ,引用発明における「基板上に設けられた,GaNから成るバリア層, 該バリア層の上に設けられた,Al_(0.4)GaNからなるアンドープのスペーサ層,」「GaIn_(0.28)Nからなるチャネル層」を「該スペーサ層の上に設け」ることと,本願補正発明の「基板上に高比抵抗のGaN層を形成するために,原料ガスを前記金属有機化学気相成長反応器の反応チャンバー中に流す工程」とは,「基板上にIII族窒化物の半導体材料から成る半導体層を形成する工程」である点で共通する。

・引用発明の「該チャネル層の上に設けられた,Al_(0.15)GaNからなるアンドープのスペーサ層」及び「該スペーサ層上に設けられた,Al_(0.15)GaNからなりn型にドープされた電子供給層」は,「アンドープ」であるか「n型にドープされた」ものであるかの差異はあるものの,ともにAl_(0.15)GaNすなわち同じ組成比のAlGaNからなる半導体層であるところ,当該半導体層は,引用例1の図1に示された伝導帯の不連続性から,「チャネル層」に対して高い伝導帯レベルを有し,「チャネル層」を流れる電子に対してバリアを構成することは明らかである。また,「Al_(0.15)GaN」が,引用発明における「GaIn_(0.28)Nからなるチャネル層」を構成する「GaIn_(0.28)N」よりもバンドギャップが広いことは明らかである。それゆえ,引用発明の「Al_(0.15)GaNからなるアンドープのスペーサ層」及び「該スペーサ層上に設けられた,Al_(0.15)GaNからなりn型にドープされた電子供給層」を併せたものを「該チャネル層の上に設け」ることと,本願補正発明の「前記GaN層上に,該GaN層よりも広いバンドギャップを有するAlGaNバリア半導体層を形成するために,原料ガスを前記反応チャンバー中に流す工程」とは,「前記III族窒化物の半導体材料から成る半導体層上に,該半導体層よりも広いバンドギャップを有するAlGaNバリア半導体層を形成する工程」である点で共通する。

・引用発明の「AlNから成るゲート絶縁膜」を「該電子供給層上に設け」ることと,本願補正発明の「前記AlGaNバリア半導体層上に絶縁層を形成するために原料ガスを前記反応チャンバー中に流す工程であって,前記絶縁層が,SiN絶縁層とAlN絶縁層とからなり,該AlN絶縁層が,前記AlGaNバリア半導体層と前記SiN絶縁層との間に挟まれており,前記AlN絶縁層が,前記SiN絶縁層の成長中に前記AlGaNバリア半導体層のドーピングまたは劣化を防止」するものとは,「前記AlGaNバリア半導体層上にAlN絶縁層を含む絶縁層を形成する工程」である点で共通する。

・引用発明における「AlNから成るゲート絶縁膜」は,上記第2 4.(2)ア(イ)に摘記したとおり「ゲートリーク電流を防ぎチャネル電子を閉じ込める第一バリア層である」から,本願補正発明の「ゲート漏洩のバリア」に対応するものといえる。それゆえ,引用発明において,スペーサ層,チャネル層,スペーサ層,電子供給,及びゲート絶縁膜の各層を設けて「変調ドーピングされたAlN/ GaNの絶縁ゲートヘテロ構造FET」とすることと,本願補正発明の「ゲート漏洩のバリアを備えた高電子移動度トランジスタの製造方法」とは,「ゲート漏洩のバリアを備えたトランジスタの製造方法」である点で共通する。

したがって,引用発明と本願補正発明とは,
「ゲート漏洩のバリアを備えたトランジスタの製造方法であって,
基板上にIII族窒化物の半導体材料から成る半導体層を形成する工程と,
前記III族窒化物の半導体材料から成る半導体層上に,該半導体層よりも広いバンドギャップを有するAlGaNバリア半導体層を形成する工程と,
前記AlGaNバリア半導体層上にAlN絶縁層を含む絶縁層を形成する工程と
を有することを特徴とするトランジスタの製造方法。」
である点で一致する。

一方,両者は,以下の各点で相違する。

《相違点1》
本願補正発明は「ゲート漏洩のバリアを備えた高電子移動度トランジスタの製造方法」であるのに対し,引用発明は「ゲート漏洩のバリアを備えたトランジスタの製造方法」に対応するものではあるものの,「高電子移動度トランジスタの製造方法」であることは明らかでない点。

《相違点2》
本願補正発明は「基板を金属有機化学気相成長反応器中に置く工程と, 前記基板上に高比抵抗のGaN層を形成するために,原料ガスを前記金属有機化学気相成長反応器の反応チャンバー中に流す工程」を備えるが,引用発明は「基板上にIII族窒化物の半導体材料から成る半導体層を形成する工程」に対応する構成を有するとはいえるものの,「基板を金属有機化学気相成長反応器中に置く工程」と,「前記基板上に高比抵抗のGaN層を形成するために,原料ガスを前記金属有機化学気相成長反応器の反応チャンバー中に流す工程」は備えない点。

《相違点3》
本願補正発明は「前記GaN層上に,該GaN層よりも広いバンドギャップを有するAlGaNバリア半導体層を形成するために,原料ガスを前記反応チャンバー中に流す工程」を備えるが,引用発明は「前記III族窒化物の半導体材料から成る半導体層上に,該半導体層よりも広いバンドギャップを有するAlGaNバリア半導体層を形成する工程」に対応する構成を備えるとはいえるものの,本願補正発明に係る上記構成は備えない点。

《相違点4》
本願補正発明は「前記AlGaNバリア半導体層上に絶縁層を形成するために原料ガスを前記反応チャンバー中に流す工程であって,前記絶縁層が,SiN絶縁層とAlN絶縁層とからなり,該AlN絶縁層が,前記AlGaNバリア半導体層と前記SiN絶縁層との間に挟まれており,前記AlN絶縁層が,前記SiN絶縁層の成長中に前記AlGaNバリア半導体層のドーピングまたは劣化を防止」するものを備えるが,引用発明は,「前記AlGaNバリア半導体層上にAlN絶縁層を含む絶縁層を形成する工程」に対応する構成を備えるとはいえるものの,本願補正発明に係る上記構成は備えない点。

《相違点5》
本願補正発明は「前記反応チャンバーを冷却する工程」及び「堆積された層を備える前記基板を前記反応チャンバーから取り出す工程」とを備えるが,引用発明は前記各工程を備えない点。

(4)当審の判断
《相違点1について》
前記第2 4.(2)ア(エ)に摘記した「図1に示したこれらのような構造において,システム内の与えられた2次元電子ガス(2DEG)濃度について,ポアッソン及びシュレディンガーの方程式を自己無撞着に解いた」との記載から,引用例1において図1に示された(a)?(c)の各構造が,2次元電子ガス(2DEG)が形成されるものとして構成されていることがわかる。そして,一般に,2次元電子ガス(2DEG)を形成するために電子を供給する層が「電子供給層」とされ,また「電子供給層」よりも伝導帯が低い層の「電子供給層」側に2次元電子ガス(2DEG)が形成されるものであるから,引用発明において「GaIn_(0.28)Nからなるチャネル層」の「Al_(0.15)GaNからなりn型にドープされた電子供給層」側に2次元電子ガス(2DEG)が形成されることは当業者に明らかなことである。そして,前記周知例1にも記載されているように,チャネル層に2次元電子ガス(2DEG)を形成して動作するトランジスタをHEMT,すなわち「高電子移動度トランジスタ」と呼ぶことは普通になされることである。
そうすると,引用発明に係る「変調ドーピングされたAlN/ GaNの絶縁ゲートヘテロ構造FET」は「高電子移動度トランジスタ」であるということができ,引用発明は「ゲート漏洩のバリアを備えた高電子移動度トランジスタの製造方法」に対応するものということができる。
よって,相違点1は実質的な相違点ではなく,仮にそうでないとしても,当業者が適宜になし得た範囲に含まれる程度のものである。

《相違点2について》
前記第2 4.(2)イに摘記した引用例2の段落【0022】?【0024】に記載されているほか,以下の周知例1にも記載されているように,GaN,AlGaN及びAlNなどのIII族窒化物の半導体材料から成る半導体層により構成される素子を,MOCVD法,すなわち有機金属気相成長法により形成することは,従来より周知の技術であり,また,MOCVD法によって半導体層を成長させるにあたり,成長装置のリアクタ,すなわち反応器の反応チャンバーの中に基板をおき,当該反応チャンバー中に原料ガスを流すことも,以下の周知例2にも記載されているように従来より周知の技術である。

周知例1: 特開平11-261052号公報
原査定の拒絶の理由において引用され,本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である特開平11-261052号公報には,図1とともに次の記載がある。
・「【0010】
【発明の実施の形態】以下,本発明のHEMTにつき,その基本構造を示す図1に基づいて詳細に説明する。本発明のHEMTは,半絶縁性基板1の上に,バッファ層2,下部i型半導体層3,n型半導体層4,上部i型半導体層5から成る積層構造Aが形成され,上部i型半導体層5の上には,絶縁層6を介してゲート電極Gが装荷され,また,低抵抗n型半導体層7a,7bを介してソース電極S,ドレイン電極Dがそれぞれ装荷された構造になっている。
【0011】ここで,ソース電極S,ドレイン電極Gは,それぞれ,低抵抗のn型半導体層7a,7bを介して上部i型半導体層5に装荷されているので,電子のチャネルとして機能する上部i型半導体層6(審決注:「上部i型半導体層5」の誤記と認める。)とソース電極S,ドレイン電極との間ではオーミック接触を実現させることができ,電子高移動度を可能にしている。本発明のHEMTに積層構造Aは,GaN系化合物半導体に対してMOCVD法やMOMBE法など公知のエピタキシャル成長法を適用することにより,半絶縁性基板1の上に所定組成の半導体層を成膜していくことによって製造することができる。
【0012】・・・(中略)・・・
【0013】下部i型半導体層3,上部i型半導体層5を構成するGaN系化合物半導体としては,例えば,i型GaN,i型inGaN,i型GaNAs,i型GaNP,i型InGaNAs,i型InGaNPなどをあげることができる。これらのうち,i型GaNは好適である。」

周知例2: 特開2001-77415号公報
原査定の拒絶の理由において引用され,本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である特開2001-77415号公報には,図1?3とともに次の記載がある。
・「【0028】まず,図2を参照して,本発明の製造方法において成長装置として使用した公知のMOCVD装置の概略について,説明する。
【0029】図2の装置構成では,GaN系化合物半導体層を結晶成長させるための(0001)面を有する基板201(サファイア基板)が,炭素からなるサセプタ202の上に配置されている。サセプタ202の内部には,同じく炭素からなる抵抗加熱式のヒータ(図示せず)が配置されている。熱電対を用いてヒータに流れる電流を制御することにより,基板201の温度を制御することができる。これらの基板201及びサセプタ202は,石英からなる二重のリアクタ203に収容されている。リアクタ203は水冷されている。
【0030】基板201の上に結晶成長されるGaN系化合物半導体結晶のV族原料及びIII族原料は,キャリアガス(H_(2)或いはN_(2))と混合された混合ガス210として,原料入口204よりリアクタ203に導入され,排気ガス出口205より排出される。V族原料としては,アンモニア(NH_(3))206を使用し,III族原料としては,トリメチルガリウム(TMG)207a,トリメチルアルミニウム(TMA)207b,及びトリメチルインジウム(TMI)207cを窒素ガス或いは水素ガスでバブリングして使用した。n型のドーピング原料としては,SiH_(4)209を使用し,p型のドーピング原料としては,ビスシクロペンタジエニルマグネシウム(Cp_(2)Mg)207dを使用した。なお,各原料の流量は,マスフローコントローラMFCでそれぞれ正確に制御される。
【0031】次に,上述のMOCVD装置を用いて,GaN系化合物半導体発光ダイオードを形成する結晶成長手順について,図1及び図3を参照して以下に説明する。図1は,発光層近傍の半導体層の成長における結晶成長温度と各原料ガスの供給量とを示すタイミングチャートである。図3は,形成されるGaN系化合物半導体発光ダイオード300の構成を模式的に示す概略断面図である。
【0032】まず,(0001)面を有するサファイア基板301を洗浄して,MOCVD装置の内部(図2における参照番号201の位置)に,設置する。次いで,・・・(中略)・・・
【0033】その後,TMGの供給を停止して,温度を約1050℃まで昇温する。その後,再びTMGを約50μmol/minで供給するとともに,n型ドーピング原料としてSiH_(4)ガスを約10nmol/minで供給して,n型GaN層303を約4μmの厚さで成長させる(図1のn型GaN層成長期間104)。
【0034】
・・・(中略)・・・
【0042】上記のInGaN発光層306の成長後に,昇華防止層成長期間106(図1)に示すように,TMGを10μmol/min,TMAを5μmol/min,及びp型ドーピング原料としてCp_(2)Mgを供給して,p型AlGaN層307を約30nmの厚さで成長させる。このp型AlGaN層307は,InGaN発光層306の昇華を防止する目的で設けられる。
【0043】その後,昇温期間108(図1)において,TMG,TMA,及びCp_(2)Mgの供給を停止して,基板温度を再び約1050℃まで昇温する。基板の昇温後,p型GaN層成長期間105(図1)に示すように,TMGを50μmol/min,及びCp_(2)Mgを供給し,p型GaNコンタクト層310を約0.5μmの厚さで成長させる。成長終了後,TMGとCp_(2)Mgの供給を停止し,基板加熱を終了する。
【0044】基板温度がほぼ室温になれば,上記により作製された基板を結晶成長装置から取りだして,反応性イオンエッチングを用いて,結晶成長方向に対して上面からn型GaN層303の途中までエッチングして,n型GaN層303の露出面を形成する。その後に,所定の形状の絶縁層311を形成し,更に,p型電極312a及びn型電極312bを蒸着法により形成する。」

また,上記周知例1の段落【0011】及び【0013】に記載されているように,高電子移動度トランジスタ(HEMT)のチャネル層としてi型GaN,すなわち,高比抵抗のGaNから成る半導体層を用いることも従来より周知の技術である。
したがって,引用発明について,チャネル層を構成する材料を,「GaIn_(0.28)N」に代えて高比抵抗のGaNとするとともに,引用発明に係る「変調ドーピングされたAlN/ GaNの絶縁ゲートヘテロ構造FET」を構成するIII族窒化物からなる各層を,有機金属気相成長法により形成すべく,「基板を金属有機化学気相成長反応器中に置」き,「前記基板上に高比抵抗のGaN層を形成するために,原料ガスを前記金属有機化学気相成長反応器の反応チャンバー中に流す工程」を備えて,相違点2に係る構成を備えるようにすることは,当業者が適宜になし得たことである。
よって,相違点2は,当業者が適宜になし得た範囲に含まれる程度のものである。

《相違点3について》
上記《相違点2について》において述べたとおり,チャネル層を構成する材料を,「GaIn_(0.28)N」に代えて高比抵抗のGaNとすることは当業者が適宜になし得たことであるところ,本願補正発明の「AlGaNバリア半導体層」に対応する,引用発明の「Al_(0.15)GaNからなるアンドープのスペーサ層」及び「該スペーサ層上に設けられた,Al_(0.15)GaNからなりn型にドープされた電子供給層」を併せたものが,「GaN層よりも広いバンドギャップを有」し,また,「GaN」よりも高い伝導帯レベルを有し,電子に対してバリアを構成することは明らかである。それゆえ,チャネル層を構成する材料を,「GaIn_(0.28)N」に代えて高比抵抗のGaNとすることに伴い,「前記GaN層上に,該GaN層よりも広いバンドギャップを有するAlGaNバリア半導体層を形成する」ことはおのずと得られる構成である。
また,上記《相違点2について》において述べたとおり,GaN,AlGaN及びAlNなどのIII族窒化物の半導体材料から成る半導体層により構成される素子を,MOCVD法,すなわち有機金属気相成長法により形成することは,従来より周知の技術であるところ,前記III族窒化物の半導体材料から成る複数の半導体層からなる積層構造を,MOCVD法の成長装置のリアクタ,すなわち反応器の反応チャンバーの中に基板をおいたまま,当該反応チャンバー中に種々の原料ガスを流すことにより形成することも,前記周知例2に記載されているように,従来より周知の技術である。
それゆえ,引用発明について,チャネル層を構成する材料を,「GaIn_(0.28)N」に代えて高比抵抗のGaNとしてMOCVD法により形成するとともに,引き続いて,MOCVD法の成長装置のリアクタ,すなわち反応器の反応チャンバーの中に基板をおいたまま,該GaN層よりも広いバンドギャップを有するAlGaNバリア半導体層を形成するために,原料ガスを前記反応チャンバー中に流すことは,当業者が適宜になし得たことである。
よって,相違点3は,当業者が適宜になし得た範囲に含まれる程度のものである。

《相違点4について》
引用発明は,「電子供給層上に設けられた,AlNから成るゲート絶縁膜,及び 該ゲート絶縁膜上に設けられたゲート電極を備える」ところ,「AlNから成るゲート絶縁膜」は,引用例1に記載されているように,「AlNは,ゲート絶縁膜,すなわちゲートリーク電流を防」ぐために設けられているものである。ところが,引用例2には,AlNよりなる絶縁膜上にゲート電極を設けたものでは,ゲート電極に電圧を印加すると電荷が前記絶縁膜を通過してしまい,ゲート電極と電子走行層との間のリーク電流を少なく押さえることが難しいという問題があることが記載されているから,引用発明において,ゲートリーク電流をより確実に低減すべく,「AlNから成るゲート絶縁膜」に代えて,引用例2に記載された,AlN及びその上のSi_(3)N_(4)からなる多層絶縁膜上にゲート電極を設けることにより,リーク電流を抑制する技術を採用することは,当業者が容易になし得たことといえる。そして,引用例2に記載された,AlN及びその上のSi_(3)N_(4)からなる多層絶縁膜を採用することに伴い,Si_(3)N_(4)の形成時には,AlNが表面に存在することにより,AlN層よりも下の構造への,成膜環境からの物質の混入が抑えられ,これに伴う劣化が少なくなることは自明なことである。ここで,「Si_(3)N_(4)」は「SiN」とも略記されるものである。また,AlN層がリーク電流を抑制するバリアとなることは明らかである。
そして,上記《相違点3について》において述べたとおり,III族窒化物の半導体材料から成る複数の半導体層からなる積層構造を,MOCVD法の成長装置のリアクタ,すなわち反応器の反応チャンバーの中に基板をおいたまま,当該反応チャンバー中に種々の原料ガスを流すことにより形成することは,従来より周知の技術であるところ,MOCVD装置において,半導体層の成長に引き続き連続してSiN(窒化シリコン膜)を形成することも,以下の周知例3及び4にも記載されているように,従来より周知の技術である。

周知例3: 特開平7-283140号公報
原査定の拒絶の理由において引用され,本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である特開平7-283140号公報には,図1とともに次の記載がある。
・「【0007】
【実施例】以下に本発明の実施例を挙げ,図面を用いてさらに詳細に説明する。
<実施例1>図1に,本発明の活性原子供給装置の構成の一例を示す。本実施例に示す活性原子供給装置は,石英ガラス管1中にプラズマを閉じ込め,プラズマ領域2で生成する活性原子は,ガス流に同伴して反応容器9へ供給される。高周波発振器3から供給される高周波は導波路5を通り,電磁場調整器4によりプラズマ領域2で高周波の吸収が最大となるように調整される。」
・「【0009】<実施例3>本発明の活性原子の供給制御方法により,活性窒素原子を生成させ,これを反応容器に供給して,窒化ガリウム半導体薄膜を成長させた。窒化ガリウム半導体は,青から紫外にかけて発光する発光素子材料として注目されている半導体である。窒素原料は窒素ガス,ガリウム原料はトリエチルガリウム,キャリアガスとして水素ガス,プラズマ制御用の不活性ガスとしてアルゴンを用いた。そして,窒化ガリウム半導体の結晶成長は,以下の手順で行った。GaAs基板またはサファイア基板を反応容器内の基板支持台に載置し,キャリアガスとアルゴンガスを供給する。反応容器の圧力を,プラズマが安定し効率のよい原料供給が行える圧力(50?100Pa)に設定する。高周波を活性原子供給装置に供給し,アルゴンプラズマを点火する。基板の表面を清浄化するため温度を上昇する。基板の温度を結晶成長温度に保持する。活性原子供給装置に窒素ガスの供給を開始し,その後,速やかにトリエチルガリウムの供給を開始する。本発明の実施例において,反応容器内の圧力を一定に保持したまま,容易に活性窒素原子の供給を開始することができた。そして,基板を清浄化した後は,中断することなく半導体結晶薄膜を成長させることができた。そして,基板と半導体結晶薄膜の界面に蓄積された不純物の量は極めて少なく,高品質の窒化ガリウム半導体薄膜を作製することができた。また,従来法では避けられなかったプラズマ点火時の活性原子の供給量の変動を軽減することができるため,半導体薄膜の結晶成長中の活性窒素原子とガリウム原子との比率が一定に保たれ,均一性のよい窒化ガリウム半導体薄膜を得ることができた。」
・「【0014】<実施例8>本実施例では,本発明の活性原子供給装置により活性窒素原子と,シランガスとを反応容器に併せて供給することにより窒化シリコン絶縁膜を作製した。なお,不活性ガスとしてアルゴンを用いた。本実施例において,反応容器を一定の圧力に保ったまま,窒化シリコン絶縁膜の作製の開始または停止が可能であった。そして,活性窒素原子が基板表面でシランの分解を促進させるため,緻密な窒化シリコン絶縁膜を作製することができた。また,窒素およびシランガスの供給を,バルブのみで瞬時にON/OFF制御することができるため,膜厚の制御性のよい窒化シリコン絶縁膜が得られた。また,本発明の活性原子供給装置は容易に結晶成長装置に組み込むことが可能であるため,結晶成長を終了した基板を大気中に取り出すことなく,引き続き同じ反応容器で絶縁膜の形成を行うことができる。」
ここで,上記段落【0009】に記載のとおり,窒化ガリウム半導体薄膜が,キャリアガスとともにガリウム原料としてトリエチルガリウムが供給されることから,有機金属気相成長(MOCVD)法により成長されているといえ,また,その成長の後に,段落【0014】に記載されているように,結晶成長を終了した基板を大気中に取り出すことなく,引き続き同じ反応容器で,窒化シリコン絶縁膜の形成を行うことができることは明らかである。

周知例4: 特開平10-189562号公報
本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である特開平10-189562号公報には,図1?3とともに次の記載がある。
・「【0030】(第一実施形態)図1?図3を用いて,本発明の第一実施形態に係わる化合物半導体装置及びその製造方法を説明する。図1は,第一実施形態において,化合物半導体装置の製造に用いる製造装置の簡略構成図である。
【0031】同図に示すように,本製造装置は供給口と排出口を有する密閉可能な成長室10を備えている。排出口には,図示しないが成長室10内を真空排気できるよう排気ポンプが接続されていることが多い。成長室10内には,ヒータを内蔵した基板台11が備えられ,基板21はこの基板台11上に設置される。
【0032】成長室10の供給口には,配管を通じてキャリヤガスであるN_(2)の供給源12とH_(2)の供給源13,成長層の原料ガスとなるトリメチルガリウム(TMG),トリメチルインジウム(TMI),トリメチルアルミニウム(TMA)およびNH_(3)それぞれの供給源14?17,さらに各成長層のドーピングガスとなるシクロペンタジエニルマグネシウム(Cp_(2)Mg)の供給源18とSiH_(4)の供給源19がそれぞれ接続されている。各供給源は流量調整のためマスフローメータとバルブを介して共通する配管に接続されている。
【0033】第一実施形態では,基板としてサファイア基板を用い,この基板上にMOCVD法を用いて窒化ガリウム系の各成長層をエピタキシャル成長させ,さらに保護薄膜として誘電体薄膜であるSiN_(x)膜を成長させた場合について説明する。
【0034】図1に示すように,サファイア基板21(図2(A))を,成長室10内に載置し,キャリヤガスとして用いるN_(2)およびH_(2)を流しながら成膜に必要な温度800℃?1300℃まで基板を昇温する。以下,各成長層の形成中は,継続してN_(2)とH_(2)のキャリヤガスを流し,反応ガスとドーピングガスは,形成する成長層の種類に応じて供給停止操作を使い分ける。なお,圧力条件は成長層および保護薄膜いずれを形成する際も常圧とする。
【0035】まず反応ガス源としてTMGとNH_(3 )ガスを用いてGaNバッファー層23(図2(B))を形成する。次に,反応ガス源としてTMG,NH_(3 )ガス,n型のドーピングガス源としてSiH_(4)を用いてn-GaN層25(図2(C))を形成する。さらに,反応ガスとしてTMG,TMI,NH_(3 )を用い,ノンドープのInGaN活性層27(図2(D))を成長させる。この後,TMA,TMG,NH_(3 )ガスを反応ガス源として用い,Cp_(2 )Mgをp型ドーピングガス源として用いてp-AlGaN層29(図3(A))を形成し,引き続きTMGとNH_(3)ガスおよび流量を増やしたCp_(2 )Mgを用い,p^(+)-GaNコンタクト層31(図3(B))を成長させる。
【0036】この成長層最表面のp^(+ )-GaNコンタクト層31の形成が終了したら,反応ガスとして用いたTMGとドーピングガスであるCp_(2)Mgの供給を止め,代わりに上記成長層形成においてn型ドーピングガス源として用いたSiH_(4)ガスの供給を開始する。
【0037】即ち,サファイア基板21の上に複数層の成長層23?31が積載された半導体装置を成長室10内に載置したまま,基板温度は成長層23?31の成長終了時の温度である800℃?1300℃を維持し,キャリヤガスであるN_(2)とH_(2),および反応ガスとして用いたNH_(3)ガスを流した状態でSiH_(4 )ガスが成長室10内に供給される。SiH_(4 )ガスとNH_(3 )ガスが反応し,最上層であるp^(+ )-GaNコンタクト層31の表面にSiN_(x)膜(誘電体薄膜)33を連続成長できる。」

それゆえ,引用発明について,AlGaNバリア半導体層上にAlN絶縁層を形成することに続けて,さらにSiN絶縁膜を形成すべく,MOCVD法の成長装置のリアクタ,すなわち反応器の反応チャンバーの中に基板をおいたまま,当該反応チャンバー中に種々の原料ガスを流して,相違点4に係る「AlGaNバリア半導体層上に絶縁層を形成するために原料ガスを前記反応チャンバー中に流す工程であって,前記絶縁層が,SiN絶縁層とAlN絶縁層とからなり,該AlN絶縁層が,前記AlGaNバリア半導体層と前記SiN絶縁層との間に挟まれており,前記AlN絶縁層が,前記SiN絶縁層の成長中に前記AlGaNバリア半導体層のドーピングまたは劣化を防止」するものとすることは,当業者が適宜になし得たことである。
よって,相違点4は,当業者が適宜になし得た範囲に含まれる程度のものである。

《相違点5について》
前記《相違点2について》?《相違点4について》において述べたとおり,GaN,AlGaN及びAlNなどのIII族窒化物の半導体材料から成る層構造を有機金属気相成長法により形成し,また,引き続いて,反応器の反応チャンバーにおいてSiN絶縁層を形成することは当業者が適宜になし得たことであるところ,当該各形成工程が終了した後に,前記反応チャンバーを冷却し,前記各層が堆積された基板を前記反応チャンバーから取り出すことは,前記周知例2の段落【0043】?【0044】にも記載されているように,当然になされることである。それゆえ,引用発明について,相違点5に係る,「前記反応チャンバーを冷却する工程」及び「堆積された層を備える前記基板を前記反応チャンバーから取り出す工程」とを備えるようにすることは,当業者が適宜になし得たことである。
よって,相違点5は,当業者が適宜になし得た範囲に含まれる程度のものである。

(5)小括
以上のとおりであるから,本願補正発明は,周知技術を勘案して,引用発明及び引用例2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。
よって,本願補正発明は,特許出願の際独立して特許を受けることができない。

5.むすび
したがって,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成24年1月4日にされた手続補正は上記のとおり却下され,また,平成23年7月26日にされた手続補正は,同年8月24日付けで却下されているので,本願の請求項1に係る発明は,同年4月4日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲,明細書及び図面の記載から見て,その請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。(以下「本願発明」という。)
「【請求項1】
ゲート漏洩のバリアを備えた高電子移動度トランジスタの製造方法であって,
基板を金属有機化学気相成長反応器中に置く工程と,
前記基板上に高比抵抗のGaN層を形成するために,原料ガスを前記金属有機化学気相成長反応器の反応チャンバー中に流す工程と,
前記GaN層上に,該GaN層よりも広いバンドギャップを有するAlGaNバリア半導体層を形成するために,原料ガスを前記反応チャンバー中に流す工程と,
前記AlGaNバリア半導体層上に絶縁層を形成するために原料ガスを前記反応チャンバー中に流す工程であって,前記絶縁層が,SiN絶縁層とAlN絶縁層とからなり,該AlN絶縁層が,前記AlGaNバリア半導体層と前記SiN絶縁層との間に挟まれており,
前記反応チャンバーを冷却する工程と,
堆積された層を備える前記基板を前記反応チャンバーから取り出す工程と
を有することを特徴とする高電子移動度トランジスタの製造方法。」

2.引用発明
引用発明は,前記第2 4.「(2)刊行物に記載された発明」に記載したとおりのものである。

3.対比・判断
前記第2「1.本件補正の内容」?第2「3.補正の目的の適否及び新規事項の追加の有無についての検討」において記載したように,本願補正発明は,本件補正前の請求項1(本願発明)について前記〈補正事項1〉に係る限定を付したものである。言い換えると,本願発明は,本願補正発明から前記限定を除いたものである。
そうすると,本願発明の構成要件をすべて含み,これをより限定したものである本願補正発明が,前記第2の4.「(3)補正発明と引用発明との対比」?第2の4.「(5)小括」において検討したとおり,周知技術を勘案して,引用発明及び引用例2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も同様の理由により,当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって,本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおりであるから,本願は,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-01-23 
結審通知日 2013-01-29 
審決日 2013-02-12 
出願番号 特願2009-243336(P2009-243336)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 池渕 立原 和秀  
特許庁審判長 鈴木 匡明
特許庁審判官 恩田 春香
近藤 幸浩
発明の名称 高電子移動度トランジスタの製造方法  
代理人 名古屋国際特許業務法人  

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