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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C10L
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C10L
管理番号 1276147
審判番号 不服2011-19901  
総通号数 164 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-08-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-09-14 
確定日 2013-07-04 
事件の表示 特願2007-501469「竹炭、炭化物」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 8月10日国際公開、WO2006/082632〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件審判請求に係る出願(以下「本願」という。)は、平成17年2月2日を国際出願日とする国際特許出願であって、以降の手続の経緯は以下のとおりである。

平成19年 7月31日 国内書面
平成20年 2月 4日 出願審査請求
平成23年 3月 7日付け 拒絶理由通知
平成23年 5月23日 意見書・手続補正書
平成23年 6月 8日付け 拒絶査定
平成23年 9月14日 本件審判請求
同日 手続補正書
平成23年 9月22日付け 手続補正指令(方式)
平成23年10月27日 手続補正書(方式)
平成23年11月 1日付け 審査前置移管
平成23年11月21日付け 前置報告書
平成23年11月25日付け 審査前置解除
平成24年 8月28日付け 審尋
平成25年 2月 7日付け 拒絶理由通知
平成25年 4月15日 意見書・手続補正書

第2 本願の請求項に記載された事項
平成25年4月15日付けで手続補正された本願の請求項1ないし3には、以下の事項が記載されている。

「【請求項1】
竹材を焼成窯において焼成することにより前記竹材を乾留・炭化させ、該乾留・炭化された前記竹材を前記焼成窯を密閉した状態で徐冷する黒炭化工程によって黒炭としての中間生成物を得て、
該中間生成物を焼成窯において前記黒炭化工程よりも高温で更に焼成したのちに消し粉を使わずに消火・急冷却する白炭該当物化工程によって、前記中間生成物を白炭該当物化させて白炭該当物を得ることを特徴とする竹炭。
【請求項2】
請求項1に記載の竹炭が、更に粒径の大きさが調整された状態で破砕された竹炭粒粉末として形成され、該竹炭粒粉末に、固着剤が混入され、固化して成形されたことを特徴とする竹炭。
【請求項3】
炭材の原料となる原材を焼成窯において焼成することにより前記原材を乾留・炭化させ、該乾留・炭化された前記原材を前記焼成窯を密閉した状態で徐冷する黒炭化工程によって黒炭としての第一中間生成物を得て、
該中間生成物を焼成窯において前記黒炭化工程よりも高温で更に焼成したのちに消し粉を使わずに消火・急冷却する白炭該当物化工程によって、前記中間生成物を白炭該当物化させて白炭該当物を得る第二中間生成物を得て、
該第二中間生成物が粒径の大きさが調整された状態で破砕され、固着剤が混入され、固化して成形されたことを特徴とする炭化物。」

第3 当審が通知した拒絶理由の概要
当審が平成25年2月7日付けで通知した拒絶理由の概要は、以下のとおりである。

「第3 拒絶理由
しかるに、本願は以下の拒絶理由を有するものである。

理由1:本願は、明細書の発明の詳細な説明(及び図面)の記載が下記の点で不備であるから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
理由2:本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備であるから、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。



1.前提事項
・・(中略)・・
2.上記理由1について
本願明細書の発明の詳細な説明には、それぞれ「窯から取り出さずに消し粉を使わず急冷し」(【0029】)、「二次焼成窯20から出さずに、消し粉を使わず消火・急冷却して、白炭該当物化する」(【0043】、【0049】)及び「焼成仕上がった炭化物は、台車付貯留ボックス20aごと、バッチ式炭化装置本体(キルン)20bから搬送出し、恰も消し粉で消火されたかの様に、急冷後、白炭該当物化し、」(【0058】)と記載されている。
ここで、二次焼成終了時の炭化物は、それ自体が燃料であり、発火点以上の高温燃焼状態のものであるから、酸素を遮断しない限りにおいて、燃焼の三要素が整った状態であり、消火は不可能であるとともに、消火が不可能であれば、当該炭化物を急冷却することも不可能であることが、当業者に自明である。
しかるに、本願明細書の発明の詳細な説明には、上記「消火」及び「急冷却」については、上記記載のみであり、具体的な「消火」及び「急冷却」の方法につき、記載又は示唆されていない。
・・(中略)・・
してみると、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、「消し粉を使わずに消火・急冷却する」ことを発明特定事項とする本願請求項1ないし3に係る発明を、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。

3.上記理由2について
・・(後略)」

第4 当審の判断
当審は、平成25年4月15日付けで補正された特許請求の範囲及び明細書の記載につき、上記のとおり通知した拒絶理由1と同一の理由が依然として成立するものであり、本願は拒絶すべきものと判断する。以下詳述する。

1.前提事項
上記拒絶理由の成否につき検討するにあたり、前提となる技術事項につき検討する。

・「黒炭」及び「白炭」について
当業者の技術常識(必要ならば下記参考資料など参照)からみて、「黒炭」と「白炭」とは、焼成工程後の消火・冷却方法の差異により区別されるものであり、「黒炭」とは、炭化焼成の終了後、炉窯の中への空気(酸素)の供給を遮断して消火し、炉窯全体の放冷の上で冷却後の炭化物を取り出したものであるのに対して、「白炭」とは、炭化焼成及び精錬(ねらし)の終了後、高温燃焼状態で炭化生成物を炉窯から取り出して、砂又は素灰などの消し粉をかけて埋没させ、空気(酸素)を遮断し消火するとともに急速に放冷・冷却を行ったものであり、当該消し粉が表面に付着して灰白色に見えることから、「白炭」との呼称を得ているものとそれぞれ定義づけ・理解できるものである。
なお、「白炭」の代表例である「備長炭」についてみても、その製法として、最小限の空気(酸素)量の存在下における400?700℃程度の炭化焼成、空気(酸素)供給量を上げた800℃以上の精錬(ねらし)及び精錬後の炭化生成物を炉窯から取り出して、砂又は素灰などの消し粉をかけて埋没させる消火・急冷却の各工程を経たものであり、破断面を観察すると、稠密で光沢のある黒色面なのであるから、砂又は素灰などの消し粉をかけて埋没させる消火・急冷却の工程を経てないもの、すなわち消し粉が表面に付着しておらず、材質が稠密化していないものは、「白炭」(又は「白炭該当物」)ということができないものと理解することができる。

参考資料:
1.伊与田正彦ら編、「炭素の事典」2007年4月20日、株式会社朝倉書店発行、第13頁
2.林野庁ホームページ(URL:http://www.rinya.maff.go.jp/j/tokuyou/mokutan/syurui.html)
3.和歌山県ホームページ(URL:http://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/070600/070800/tokuyou/koutei.html)

2.上記理由1について
本願明細書の発明の詳細な説明には、それぞれ「窯から取り出さずに消し粉を使わず急冷し」(【0029】)、「二次焼成窯20から出さずに、消し粉を使わず消火・急冷却して、白炭該当物化する」(【0043】、【0049】)及び「焼成仕上がった炭化物は、台車付貯留ボックス20aごと、バッチ式炭化装置本体(キルン)20bから搬送出し、恰も消し粉で消火されたかの様に、急冷後、白炭該当物化し、」(【0058】)と記載されている。
ここで、二次焼成終了時の炭化物は、それ自体が燃料であり、発火点以上の高温燃焼状態のものであるから、酸素を遮断しない限りにおいて、燃焼の三要素が整った状態であり、消火は不可能であるとともに、消火が不可能であれば、当該炭化物を急冷却することも不可能であることが、当業者に自明である。
しかるに、本願明細書の発明の詳細な説明には、上記「消火」及び「急冷却」については、上記記載のみであり、具体的な「消火」及び「急冷却」の方法につき、記載又は示唆されていない。
なお、炭化物を二次焼成窯から取り出さずに、消し粉を使わずに消火するにあたり、窯内に流入する酸素(空気)を遮断して消火して冷却するのであれば、それは「竹材を焼成窯において焼成することにより前記竹材を乾留・炭化させ、該乾留・炭化された前記竹材を前記焼成窯を密閉した状態で徐冷する」黒炭化における消火・徐冷却と実質的に同一の操作であるものと認められる。(必要ならば下記3.の説示参照のこと。)
してみると、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、「消し粉を使わずに消火・急冷却する」ことを発明特定事項とする本願請求項1ないし3に係る発明を、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。

3.審判請求人の主張について
審判請求人は、平成25年4月15日付け意見書において、
(a)「補正後の本願請求項1に係る発明は、上記手続補正書に記載されているように、「竹材を焼成窯において焼成することにより前記竹材を乾留・炭化させ、該乾留・炭化された前記竹材を前記焼成窯を密閉した状態で徐冷する黒炭化工程によって黒炭としての中間生成物を得て、
該中間生成物を焼成窯において前記黒炭化工程よりも高温で更に焼成したのちに消し粉を使わずに消火・急冷却する白炭該当物化工程によって、前記中間生成物を白炭該当物化させて白炭該当物を得ることを特徴とする竹炭。」です。
このような構成としたことにより、竹材を焼成することにより、乾留・炭化された竹炭が、更に焼成されたことを特徴とするので、400℃?700℃の窯温度で乾留し、窯を密閉しながら徐冷することで、黒炭化した竹炭は、竹酢液も抽出し終え、800℃以上の窯温度で更に焼成し、窯から取り出して消し粉で急冷し、白炭化した竹炭は、着火温度が比較的高温で、火持ちも良い。また、錬らし(精錬)の効果も期待できるという効果を奏します(段落[0024])。」(意見書「2.」の「(1)補正後の本願請求項に係る発明」の欄)
と主張するとともに、
(b)「本件特許出願に係る発明において、「消し粉を使わずに消火・急冷却」して「中間生成物を白炭該当物化」させる工程を詳述します。
本件特許出願に係る工程においては、黒炭化工程において、竹材や木材などを焼成窯に入れ、燃焼させるためにブロアー等で十分な空気を焼成窯内に送り込みながらバーナー等で加熱して、400℃?700℃で一旦焼成したのちに徐々に冷却し、中間生成物を生成します(段落[0048]等参照)。次に、中間生成物を、焼成窯に入れ、燃焼させるためにブロアー等によって十分な空気を焼成窯内に送り込みながらバーナー等によって800℃以上の温度で焼成させます(段落[0049]等参照)。
この焼成の後、ブロアー等を停止させて焼成窯内への空気の供給を止めると共に、バーナー等の火を止めると、焼成されていた中間生成物が消火されます。この状態で6?7時間程度放置することで中間生成物を急冷却させると、常温に近い温度となります。これらの工程によって、中間生成物は白炭該当物化されて、これにより白炭該当物が得られます。
このような、消し粉を使わずに消火・急冷却する工程や、あるいは、黒炭化工程において、焼成窯を密閉した状態で徐冷する工程は、いずれも、本件発明の属する技術の分野即ち炭の製造技術の分野においては広く一般に知られた工程です。また、このような工程は、炭の製造工程においては、ブロアー等の作動等によって焼成窯の内部に導入される空気の量や、バーナー等の火力等による焼成窯の内部の温度を調節することによって、適宜行われるものです。そして、本願の出願当初の明細書の記載(例えば、段落[0048]や[0049]の記載)や図面([図1]乃至[図5]の記載)においては、当業者が、そのような調節によって、黒炭化工程や、白炭該当物化工程を容易に行いうるために必要な記載がされています。即ち、当業者は、本願の出願当初の明細書や図面の記載に基づいて、黒炭化工程や白炭該当物化工程の空気量の調節や温度の調節を、容易に想起し実行することができます。
また、このような工程によって得られた白炭該当物は、出願当初の明細書の段落[0054]に記載された表の「白炭該当物」の項目に記載されたような成分特性(特に、同表に記載された揮発分率や固定炭素含有率)及び物性(特に「稠密度」)となることも、当業者であれば容易に想起しうる事項であります。」
と主張している(意見書「(3-1)拒絶理由通知の理由1について」の欄)。

しかるに、上記(a)の主張につき検討すると、下線を付したとおり、段落【0024】に記載された方法は「消し粉を使って急冷」するものであり、請求項1に記載された「消し粉を使わずに急冷却」することを構成事項とする発明に係る説明であるとは認められないから、上記(a)の主張は、明らかに当を得ないものである。
次に、上記(b)の主張について、本願明細書の発明の詳細な説明の記載に基づき検討する。
本願明細書の発明の詳細な説明には、
「図1に示すように、以下の製造工程が本発明の主流工程である。
〔黒炭化工程S1〕
本発明の原材料素材としての・・竹材をそれぞれ一次焼成窯・・に入れ、400℃?700℃の比較的低温で、一旦焼成する。・・火を制御しながら焼いた後、火を止めて一次焼成窯・・を密閉したまま徐々に冷却して、黒炭化する。ここで、密閉した状態で徐冷するのは、酸素に曝さないことで、燃え尽きて灰になることを防ぐためである。」(【0040】?【0041】)
と請求項1における「黒炭化工程」につき記載され、また、
「〔白炭該当物化工程S2〕
この黒炭化した第一の竹炭を二次焼成窯20に入れ、800℃以上の高温で、更に焼成する。二次焼成窯20から出さずに、消し粉を使わず消火・急冷却して、白炭該当物化する。」(【0042】?【0043】)
と請求項1における「白炭該当物化工程」につき記載されている。
しかるに、上記「白炭該当物化工程」における「消し粉を使わず消火・急冷却」が、仮に、上記意見書において審判請求人が主張するとおりの
「焼成の後、ブロアー等を停止させて焼成窯内への空気の供給を止めると共に、バーナー等の火を止めると、焼成されていた中間生成物が消火され・・この状態で6?7時間程度放置することで中間生成物を急冷却させる」
という操作で行われるとすると、当該「ブロアー等を停止させて焼成窯内への空気の供給を止め」て「放置すること」及び「バーナー等の火を止める」ことは、それぞれ、上記「黒炭化工程」における「一次焼成窯を密閉したまま冷却」すること及び「火を止め」ることに相当するものであることが当業者に自明である。
(なお、上記「ブロアー等を停止させて焼成窯内への空気の供給を止めると共に、バーナー等の火を止めると、焼成されていた中間生成物が消火され」た際、焼成窯につき外気に連通する空気の通路(吸気口、排気口、ブロアー口、隙間等)が存在する場合、技術常識からみて、窯内温度が低下するにつれて窯内圧力が低下し、酸素を含む外気が窯内に流入して内容物である炭の再燃焼が生起して窯内温度が上昇する蓋然性が高いことが当業者に自明であり、上記操作は実質的に焼成窯を「密閉」するものと認められる。)
また、本願明細書の発明の詳細な説明(及び図面)の記載を検討しても、上記「白炭該当物化工程」において、特段の冷却手段を付加しているものとも認めることができない。 してみると、上記「白炭該当物化工程」における冷却工程と「黒炭化工程」における冷却工程との間に、実質的な差異が存するものとは認められず、「黒炭化工程」における「徐冷」と「白炭該当物化工程」における「6?7時間程度」を要する「急冷却」との間にも実質的な差異が存するものとは認められない。
したがって、黒炭の製造工程における冷却方法(上記「徐冷する方法」)については、当業者がその技術常識及び本願明細書及び図面の記載に基づき適宜なし得ることといえるが、白炭該当物の製造工程における冷却方法については、当業者がその技術常識及び本願明細書及び図面の記載に照らしたとしても、「消し粉を使わず消火・急冷却」する工程を実施することができるものとは認められない。
以上のとおりであるから、審判請求人の上記(b)の主張についても、根拠を欠くものであり、当を得ないものである。

以上のとおり、審判請求人の上記意見書における主張は、いずれも失当であり、採用する余地がなく、当審の上記2.で示した拒絶理由に係る検討結果を左右するものではない。

4.判断のまとめ
以上のとおりであるから、本願明細書の発明の詳細な説明は、本願請求項1ないし3に係る発明を、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

第5 むすび
したがって、本願は、特許法第49条第4号の規定に該当するから、その余につき検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-04-30 
結審通知日 2013-05-07 
審決日 2013-05-21 
出願番号 特願2007-501469(P2007-501469)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (C10L)
P 1 8・ 537- WZ (C10L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 森 健一  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 橋本 栄和
菅野 芳男
発明の名称 竹炭、炭化物  
代理人 佐野 弘  

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