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審決分類 審判 査定不服 公序、良俗、衛生 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1276601
審判番号 不服2010-14093  
総通号数 165 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-06-26 
確定日 2013-07-11 
事件の表示 特願2003-556512「多能性のヒト胚盤胞由来幹細胞株の樹立方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 7月10日国際公開、WO03/55992、平成17年 5月12日国内公表、特表2005-512593〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成14年12月27日(パリ条約に基づく優先権主張 平成13年12月28日 スウェーデン,平成13年12月28日 米国)を国際出願日とする特許出願であって,平成20年11月28日付で拒絶理由通知書が出され,平成21年3月5日に意見書及び手続補正書が提出されたが,平成22年2月22日付で拒絶査定がなされ,同年6月26日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに,同日付で手続補正書が提出されたものである。

第2 平成22年6月26日付け手続補正についての補正却下の決定
[結論]
平成22年6月26日付け手続補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 補正事項
本件補正は,請求項1に関する補正を含むものであって,本件補正前
「【請求項1】
多能性のヒト胚盤胞由来幹細胞株を取得する方法であって,
i) 1又は2のグレードを有する受精卵を用い,A又はBのグレードを有する胚盤胞を得,
ii) 胚盤胞を支持細胞と共培養することで,一つあるいはそれ以上の内部細胞塊細胞のコロニーを樹立し,
iii) 内部細胞塊細胞を機械的解体により単離し,
iv) 内部細胞塊細胞を支持細胞と共培養して胚盤胞由来の幹細胞株を得,
v) 必要に応じて,胚盤胞由来幹細胞株を増殖させるステップからなる多能性のヒト胚盤胞由来幹細胞株を取得する方法。」
と規定されていた請求項1は,本件補正により,次のように補正された。
「【請求項1】
多能性のヒト胚盤胞由来幹細胞株を取得する方法であって,
i) 任意に1又は2のグレードを有する受精卵を用い,任意にA又はBのグレードを有する胚盤胞を得,
ii) 胚盤胞を支持細胞と共培養することで,一つあるいはそれ以上の内部細胞塊細胞のコロニーの孵化および樹立を刺激し,
iii) 内部細胞塊細胞を切片への機械的解体により単離し,これにより免疫手術を使用することなく自然孵化胚盤胞から内部細胞塊細胞を単離することができ,
iv) 内部細胞塊細胞を支持細胞と共培養して胚盤胞由来の幹細胞株を得,
v) 必要に応じて,胚盤胞由来幹細胞株を増殖させるステップからなる多能性のヒト胚盤胞由来幹細胞株を取得する方法。」(下線は,補正箇所を示す。)

2 補正の目的
上記補正事項のうち,「i)任意に1又は2のグレードを有する受精卵を用い」とする補正事項について,「1又は2のグレードを有する受精卵」を用いるのは「任意」であるから,グレード3等他のグレードであってもよいものと解される。
同様に,「任意にA又はBのグレードを有する胚盤胞を得」とする補正事項についてについても,グレードC等他のグレードであってもよいものと解される。

他方,補正前の請求項1に係る発明は,「i)1又は2のグレードを有する受精卵を用い,A又はBのグレードを有する胚盤胞を得」とする特定事項を具備するものであって,「1又は2のグレードを有する受精卵」を用いること,「A又はBのグレードを有する胚盤胞」を得ることが必要とされるものである。
そうすると,本件補正により,補正前に含まれ得なかったグレードのものも含まれることとなり,上記補正事項の補正の目的は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前(以下,「平成18年改正前」という。)の特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものでないことは,明白である。
また,上記補正事項の補正の目的は,平成18年改正前の特許法第17条の2第4項の他の号に規定に規定するいずれの目的にも該当しないことは明白である。
したがって,本件補正は,平成18年改正前の特許法第17条の2第4項に規定に規定するいずれの目的にも該当しない補正事項を含むものであって,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
上記「第2」に記したように,本件補正は却下されたので,本願請求項1?40に係る発明(以下,「本願発明1?40」という。)は,平成21年3月5日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?40に記載されたとおりのものと認める。その内,本願発明1は,次の事項により特定される発明である。
「【請求項1】
多能性のヒト胚盤胞由来幹細胞株を取得する方法であって,
i) 1又は2のグレードを有する受精卵を用い,A又はBのグレードを有する胚盤胞を得,
ii) 胚盤胞を支持細胞と共培養することで,一つあるいはそれ以上の内部細胞塊細胞のコロニーを樹立し,
iii) 内部細胞塊細胞を機械的解体により単離し,
iv) 内部細胞塊細胞を支持細胞と共培養して胚盤胞由来の幹細胞株を得,
v) 必要に応じて,胚盤胞由来幹細胞株を増殖させるステップからなる多能性のヒト胚盤胞由来幹細胞株を取得する方法。」

第4 原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由は,概略,この出願の請求項1?35,37?41,46,48?55,56に係る発明は,特許法第32条の規定により特許を受けることができないというものである。

第5 当審の判断
本願発明1は,「ヒト胚盤胞由来細胞を取得する方法」であって,
「i) 1又は2のグレードを有する受精卵を用い,A又はBのグレードを有する胚盤胞を得,
ii) 胚盤胞を支持細胞と共培養することで,一つあるいはそれ以上の内部細胞塊細胞のコロニーを樹立し,
iii) 内部細胞塊細胞を機械的解体により単離」
する工程を含むものであって,実質的にヒト受精胚を滅失させる工程を包含することは明らかである。
ヒト受精胚は,母胎にあれば胎児となり,「人」として誕生し得る存在であるため,「人の尊厳」という社会の基本的価値を維持していくためには,「人」へと成長し得る「人の生命の萌芽」として位置付け,通常のヒトの組織,細胞,又は実験(非ヒト)動物等の道具や材料として取り扱われるものとは異なり,特に尊重されるべき存在として位置付けざるを得ない。
したがって,「人の尊厳」という社会の基本的価値の維持のために特に尊重されるべき「人の生命の萌芽」であるヒト受精胚を損なう取扱いを商業的に行うことによって,結果としてヒト受精胚を内部細胞塊を単離するための単なる道具や材料とすることは倫理上認められるべきでない。

ここで,本願明細書の段落【0019】に「・・・(略)・・・この新規手順は,幹細胞株の調製を可能とし,そしてこれらの細胞株を商業的にも実用的な形に分化させることが可能となる。」と記載されている。
よって,本願発明1が商業的に,又は商業的規模でヒト受精胚を損なう取扱いをする態様を明らかに包含し(そもそも,特許法は特許法第29条第1項柱書きで規定される「産業上利用することができる発明」を保護対象とするものである。),その結果として,本願発明1はヒト受精胚を内部細胞塊を単離するための単なる道具や材料とする実施の態様を包含するものであることは明らかである。

以上のことから,研究目的で,かつ,ごく限定的な場合であればともかく,商業的に,又は商業的規模でヒト受精胚を滅失させる実施の態様を包含する本願発明1は,「人の尊厳」という社会の基本的価値を維持していくことに反するおそれがあるものであるから,公序良俗を害するおそれがある発明に該当し,特許を受けることができない。

第6 請求人の主張について
1 請求人の主張の概要
(主張1)
請求人は,「出発原料はインフォームドコンセントを得られたドナーから提供された受精卵のみである点を強調致します。」(意見書3頁8?9行)
「本願発明において出発原料として使用される受精卵は,体外受精で余ったものであり,研究のために提供されなければ破壊されてしまうものであります。ドナーは提供の見返りとしていかなる金銭や利益も受取っておりません。」(意見書3頁9?12行)
「以下について保証いたします。」「会社は,近い将来において体細胞核移植(治療的クローニング)の必要性を見出しておりません。」「会社は,ヒトのクローニング(生殖型クローニング)は非倫理的であると認め,全世界的に向けたイニシアチブを支持します。」(意見書3頁21?20行)
等の会社の姿勢を強調する。

(主張2)
請求人は,「また,本願発明の実施に用いられた方法及びそれによって得られた3つのES細部が文部科学省によって承認されたものであることを申し上げます。」(意見書3頁28?29行)と述べた上で,
「本願発明は,「ヒトに関するクローン技術等の規制に関する法律」(平成12年法律第146号)(参考資料1)に違反するものではなく,文部科学省によって定められた「ヒトES細胞の樹立及び使用に関する指針」(平成13年告示,平成19年改正)(参考資料2)を完全に遵守したものです。かかる指針には,「ヒトES細胞の樹立及び使用において人の尊厳を侵すことのないよう,生命倫理の観点から遵守すべき基本的な事項を定め,もってその適正な実施の確保を図るため」定められた旨,明確に述べられております。
よって,かかる指針は,研究を促進し人の尊厳と生命倫理を確保するために書かれております。
かかる指針を満たし高い倫理基準と人間の尊厳に対する畏敬を有している本願発明に対して特許付与を拒絶することは,ヒトES細胞の研究を阻止することになり,この指針の意図に反することになります。」(意見書3頁30?41行)(なお,請求人が意見書に参考資料2として添付した文部科学省告示第87号の「ヒトES細胞の樹立及び使用に関する指針」を,以下,「指針」という。)と主張する。

2 当審の判断
(主張1について)
請求人の強調する会社の姿勢が,特許法第32条の判断とどのように関連するのか明確な主張がなく不明であるが,「出発原料はインフォームドコンセントを得られたドナーから提供された受精卵」であること,「体外受精で余ったものである」こと,及び,「クローニングを目的としていない」ことは本願発明1の特定事項に存在せず,特許請求の範囲に基づかない単なる会社の姿勢を述べたものにすぎないから,特許法第32条の判断に何等影響するものではない。

念のため,何等かの形で,これらの姿勢が本願発明1の特定事項に反映されたとした場合についても検討する。
インフォームドコンセントを得ていなかったり,体外受精で余ったものでもなく,すなわち,不妊治療の一環として母体に戻すことを前提として得られた受精卵であったり,クローニングを目的とするような場合は,特許法第32条の規定により,特許を受けることができないことは言うまでもないことである。

また,インフォームドコンセントを得ることは,一つの判断材料に過ぎず,インフォームドコンセントを得たからといって直ちに特許法第32条の要件が満たされることにはならないし,クローニング目的を排除したところで,公序良俗に反するような目的は他にもあるのであって,かかる排除によって,特許法第32条の要件が満たされることにはならない。体外受精で余ったものでも同様である。

以上のように,インフォームドコンセントがあったとしても,体外受精で余ったものであったとしても,また,クローニングを目的していなかったとしても,それだけで公序良俗を害するおそれがある発明に該当しないとはいえず,様々な観点から総合的に判断する必要のあるところ,本願発明1は,上記「第5」で述べたように,商業的に,又は商業的規模でヒト受精胚を損なう取扱いをする態様を明らかに包含するものであるから,本願発明1は,「人の尊厳」という社会の基本的価値を維持していくことに反するおそれがあるものであって,公序良俗を害するおそれがある発明に該当し,特許を受けることができない。

もっとも,人の健康と福祉に関する幸福追求の要請も,基本的人権に基づくものであるから,人の健康と福祉に関する幸福追求の要請に応えるためのヒト受精胚の取扱いについては,一定の条件を満たす場合には,たとえ,ヒト受精胚を滅失させる工程を含むとしても,例外的に認めざるを得ないとの考え方がある。
仮に,本願発明1に「ヒト余剰胚」との特定事項を含むとした場合に,このような考え方に立ち,ヒト受精胚を滅失させる工程を含むとしても,「人の尊厳」という社会の基本的価値を維持していくことに反するおそれはなく,公序良俗を害するおそれが例外的にないものといえるかについて,念のため以下検討する。
厚生科学審議会先端医療技術評価部会生殖補助医療技術に関する専門委員会が平成12年12月28日に公表した「精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療のあり方についての報告書」(http://www1.mhlw.go.jp/shingi/s0012/s1228-1_18.html)によると,「胚の提供を受けなければ妊娠できない夫婦が,提供された余剰胚の移植を受けることができる。」(III本論 1精子・卵子・胚の提供等による各生殖補助医療について(4)提供胚の移植)として,精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療については,容認するべきとの結論を出している。
そして,英国「ヒトの受精および胚研究認可局」が2000年に公表した「第9年次報告書」(http://www.hfea.gov.uk/docs/Annual-Report-9th-2000.pdf)によると,提供胚による新生児の出生例が42例あることが報告されている(第19頁表4.11)。
これらの事情を勘案すると,体外受精(IVF)処置から得たヒト余剰胚であっても,なお,生殖補助医療としてヒト余剰胚の提供がなされ,ヒト余剰胚による生殖補助医療を受けた人が妊娠・出産することによって,「人」として誕生し得る可能性が依然として残されているということができる。

したがって,仮に,本願発明1に係る方法によって損なう対象となるヒト受精胚が「ヒト余剰胚」と規定されている場合においても,ヒト余剰胚は通常のヒト受精胚と同様に人の生命の萌芽として尊重すべきものであり,体外受精(IVF)処置に係る特定の医療の現場においてひとたび余剰胚と扱われたことにより,当該ヒト受精胚が「人の生命の萌芽」でないものとなって,「人の尊厳」という社会の基本的価値を維持していくことに反するおそれはなくなり,公序良俗を害するおそれが例外的にないとの条件を満たすということはできない。
そして,その他に特許請求の範囲の記載からみて本願発明1が「人の尊厳」という社会の基本的価値を維持していくことに反するおそれはなく,公序良俗を害するおそれが例外的にないものといえるとの根拠を見出すことはできない。

(主張2について)
請求人が指針を引用し,本願発明1がそれを遵守したものである旨を主張する。
そこで,指針に記載された内容を検討する。
ヒトES細胞樹立の要件について,第5条
「ヒトES細胞の樹立は,次に掲げる要件に適合する場合に限り,行うことができるものとする。
一 第四十4条第1項に規定する使用の要件に適合したヒトES細胞の使用方針が示されていること。
二 前号の使用の方針が新たにヒトES細胞を樹立することの科学的合理性及び必要性を有すること。」
と規定されている。
すなわち,ヒトES細胞の樹立には,ヒト第四十4条第1項に規定する使用の要件に適合したヒトES細胞の使用方針が示され,しかも,ヒトES細胞を樹立することの科学的合理性及び必要性を有する場合に厳しく制限されている。
指針に従えば,ヒトES細胞の樹立毎に,要件の適合についての判断がなされるものであるが,本願発明1においては,樹立後の多能性のヒト胚盤胞由来幹細胞株がどのように用いられるか特定事項となっておらず,しかも,本願明細書「・・・(略)・・・この新規手順は,幹細胞株の調製を可能とし,そしてこれらの細胞株を商業的にも実用的な形に分化させることが可能となる。」(段落【0019】)のような,あらゆる商業的な細胞の使用のためのES細胞の樹立まで包含するものであり,本願発明1を使用したES細胞の樹立において,指針が許容するものがあるとしても,ヒトES細胞の樹立毎に,その都度要件の適合についての判断されるものであって,本願発明1に包含されるすべての態様について,指針が許容するとはいえない。

したがって,商業的に,又は商業的規模でヒト受精胚を損なう取扱いをする態様を明らかに包含する本願発明1が,「人の尊厳」という社会の基本的価値を維持していくことに反するとの判断を何ら覆すことができるものではない。
したがって,請求人の主張は採用することができない。

第8 むすび
以上のとおりであるから,本願請求項1に係る発明は,特許法第32条の規定により特許を受けることができないものであるから,その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく本願は拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-02-13 
結審通知日 2013-02-15 
審決日 2013-02-28 
出願番号 特願2003-556512(P2003-556512)
審決分類 P 1 8・ 24- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 水落 登希子  
特許庁審判長 郡山 順
特許庁審判官 齊藤 真由美
鵜飼 健
発明の名称 多能性のヒト胚盤胞由来幹細胞株の樹立方法  
代理人 浜田 治雄  
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