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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01N
管理番号 1276609
審判番号 不服2011-22387  
総通号数 165 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-10-17 
確定日 2013-07-11 
事件の表示 特願2006- 42996「透光性物品の検査方法,マスクブランク用透光性基板の製造方法,マスクブランクの製造方法,及び露光用マスクの製造方法,並びに半導体装置の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 4月 5日出願公開,特開2007- 86050〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成18年2月20日(優先権主張 平成17年2月18日,平成17年8月5日,平成17年8月25日)の出願であって,平成23年7月13日付けで拒絶査定がされ,これに対し,同年10月17日に拒絶査定に対する不服の審判請求がなされるとともに,同日付けで手続補正(以下「本件補正」という)がなされたものである。さらに,平成24年7月9日付けで審尋がなされ,回答書が同年9月5日付けで請求人より提出された後,当審で,平成25年1月9日付けで拒絶理由を通知したところ,その応答期間中の同年3月8日に意見書および手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?17に係る発明は,平成25年3月8日付けの手続補正書で補正された,特許請求の範囲の請求項1?17に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ,その請求項1に係る発明は,次のとおりのものである。

「【請求項1】
光リソグラフィーに使用され,合成石英ガラスからなる透光性物品の内部に,露光光に対して局所又は局部的に光学特性が変化する不均一性の有無を検査する透光性物品の検査方法において,
前記透光性物品に200nm以下の波長を有する検査光を導入した場合に,該透光性物品内部で前記検査光が伝播する光路に前記局所又は局部的に光学特性が変化する部位がある場合にこの部位から発せられる光であって前記検査光の波長よりも長い光を感知することにより,前記透光性物品における光学的な不均一性の有無を検査するものであり,
前記局所又は局部的に光学特性が変化する部位は,合成石英ガラス中に金属元素が混入した局所又は局部的な領域からなる内部欠陥であり,
前記局所又は局部的に光学特性が変化する部位から発せられる光の波長は,200nm超600nm以下であり,
前記透光性物品における光学的な不均一性の有無の検査で,前記透光性物品の内部を前記検査光が伝播するときに8%/cmよりも大きい前記検査光の損失を生じさせる内部欠陥がない透光性物品を選定することを特徴とする透光性物品の検査方法。」
(以下,「本願発明」という。)

第3 当審の拒絶理由通知
当審における拒絶理由通知の概略は,以下のとおりである。

本願の請求項1?25に係る発明は,本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開2001-21494号公報(以下,「刊行物1」という。)に記載された発明,特開平3-221848号公報(以下,「刊行物2」という。)に記載された技術事項,よく知られた技術事項,技術常識,及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。

第4 引用刊行物とその記載事項

(1)本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物1には,図面とともに,次の事項が記載されている。(なお,下線は当審にて記したものである。以下同様。)

(1-ア)「【請求項1】 石英ガラス材に含まれる不純物元素を検出する方法において,検出対象の石英ガラス材に励起光を入射せしめる過程と,該石英ガラス材から発せられた蛍光を受光して蛍光強度を測定する過程と,不純物元素の含有量に対する蛍光強度の検量線に基づいて,測定された蛍光強度から前記不純物元素の含有量を算出する過程とを有することを特徴とする石英ガラス材の不純物元素検出方法。
【請求項2】 前記励起光は190nm?260nmの波長を有する単色光である請求項1に記載の石英ガラス材の不純物元素検出方法。
【請求項3】 前記不純物元素はアルカリ金属元素及び遷移金属元素からなるグループから選択した元素である請求項1又は2記載の石英ガラス材の不純物元素検出方法。」

(1-イ)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,石英ガラス材に含まれる不純物元素を定性的及び定量的に検出する不純物元素検出方法及びその実施に用いる不純物元素検出装置に関する。
【0002】
【従来の技術】石英ガラスは耐熱性及び耐摩耗性に優れており,TFT用基板,半導体製造装置のステッパ部材,炉心管材,窓枠材,壁材等に広く用いられている。いずれの用途においても石英ガラス中の不純物元素の濃度は厳しく管理されることが要求されている。特に半導体製造用治具として石英ガラスを用いる場合には,アルカリ金属,アルカリ土類金属,遷移金属等の不純物元素の濃度が高い場合,半導体製造工程で使用される紫外線光の透過率が低下したり,半導体を汚染する虞があるために,これらの不純物元素はPPbオーダの管理が必要である。」

(1-ウ)「【0006】第1発明にあっては,励起光を石英ガラス材に照射した際に石英ガラス材から発せられる蛍光の強度は,不純物元素の含有量が多くなるに従って高くなることに着目し,石英ガラス材から発光された蛍光の強度を測定し,測定された蛍光強度から予め作成された検量線を用いて,石英ガラス材中の不純物元素の含有量が検出される。
【0007】第2発明に係る石英ガラス材の不純物元素検出方法は,第1発明において,前記励起光は190nm?260nmの波長を有する単色光であることを特徴とする。
【0008】第2発明にあっては,190nm?260nmの波長の単色紫外光を用いる。特に,ArFエキシマレーザ光(波長195nm)又はKrFエキシマレーザ光(波長248nm)を用いた場合は,励起光のエネルギ密度を広範囲内で調整することができるので,不純物濃度に応じたパワーの励起光を石英ガラス材に照射でき,検出精度が高まる。」

(1-エ)「【0013】
【発明の実施の形態】以下,本発明をその実施の形態を示す図面に基づき具体的に説明する。図1は本発明の不純物元素検出装置の構成及び配置を示す構成図である。11はレーザ光源であり,本実施の形態ではKrFエキシマレーザ(波長245nm)の出射が可能である。レーザ光は検出対象の石英ガラス材Sに向けて出射され,石英ガラス材Sの一面から入射される。入射されたレーザ光は石英ガラス材Sを透過し,他面側へ出光する。石英ガラス材Sの他面側には,耐火レンガ製の光終端ブロック15が配されており,石英ガラス材Sを透過した光は光終端ブロック15にて吸収される。
【0014】石英ガラス材Sのレーザ光が入射する面及び出光する面とは別の面に対向する態様で蛍光光度計13が配されており,レーザ光の入射により石英ガラス材Sから発せられた蛍光が蛍光光度計13にて受光される。蛍光光度計13は受光した蛍光の強度を表示部14及び演算部12に出力し,表示部14では蛍光スペクトルが表示される。また,演算部12には各不純物元素に対応する蛍光波長と,予め測定された各不純物元素の含有量に対する蛍光強度の検量線データが入力されており,この検量線データと蛍光光度計13から与えられた蛍光強度とに基づいて,不純物元素の含有量を算出するようになっている。
【0015】このような構成の不純物元素検出装置を用いて,図2に示す手順にて,石英ガラス材Sが含有する不純物元素の定性試験及び定量試験を行なう。図2に示すように,まず,検出対象となる石英ガラス材Sに波長245nmのKrFエキシマレーザ光を照射する(ステップS11)。なお,石英ガラス材Sは,VAD(Vapor-phase Axial Deposition)法により形成された合成石英ガラスである。これは,SiClガス,H2 ガス及びO2 ガスを原料としてSiO2 微粒子をコア材に堆積させて形成した多孔質のスート母材を,真空炉内で1500℃で2時間処理して透明化し,それを5mm×5mm×15mmの寸法に切り出したものである。
【0016】励起光が入射されることにより石英ガラス材Sから蛍光が発せられ,その蛍光は蛍光光度計13により受光され,表示部14にて蛍光スペクトルが表示される(ステップS12)。上述したように,演算部12には各不純物元素に対応する蛍光波長と,不純物元素の含有量に対する蛍光強度の検量線が各不純物元素について入力されており,これらに基づいて石英ガラス材Sの不純物元素の定性及び定量が行なわれる。」

(1-オ)「【0022】上述したように,Cu元素による蛍光は略540nmに現れており,この蛍光波長はCu元素に固有のものといえる。他の元素についてもCuと同様に検量線を作成し,各元素に対応する蛍光波長と共に検量線のデータを演算部12に入力する。検出された,各元素に固有の蛍光波長を表1に示す。なお,Cuは540nmの他に410nmの蛍光を発する場合もある。
【0023】【表1】



(1-カ)「【0028】なお,上述した実施の形態では,245nmのKrFエキシマレーザ光を石英ガラス材Sに照射した場合を説明しているが,これに限るものではなく,単色の紫外光であれば良く,特に190nm?260nmの範囲が好ましい。また,励起光のエネルギ密度を調整することにより,石英ガラス材の不純物濃度に応じたパワーの励起光を石英ガラス材に照射でき,検出精度を高めることができる。【0029】また,本実施の形態ではVAD法による合成石英ガラス材を検出対象としているが,これに限るものではなく,他の製造方法による合成石英ガラス材,又は溶融石英ガラス材にも本発明を適用できる。
【0030】さらに,上述した実施の形態では,予め作成された検量線を用いて不純物元素の含有量を算出した場合を説明しているが,これに限るものではなく,不純物元素を検出する都度,同種の石英ガラス材について検量線を作成しても良い。
【0031】
【発明の効果】以上のように,本発明においては,石英ガラス材に単色の励起光を照射して発光した蛍光の強度と,同種の石英ガラス材についての不純物元素の含有量の検量線とに基づいて不純物元素を検出するので,検出対象の石英ガラス材を破壊することなく高精度に不純物元素を定性且つ定量できる等,本発明は優れた効果を奏する。」

以上の記載事項(1-ア)?(1-カ)を総合すると,上記刊行物1には,以下の発明が記載されていると認められる。

「合成石英ガラス材に含まれ,アルカリ金属元素及び遷移金属元素からなるグループから選択した元素である不純物元素を検出する方法において,
検出対象の合成石英ガラス材に,190nm?260nmの波長を有する単色光である励起光を入射せしめる過程と,
該合成石英ガラス材から発せられた蛍光を受光して蛍光強度を測定する過程と,
不純物元素の含有量に対する蛍光強度の検量線に基づいて,合成石英ガラス材の不純物元素の定性及び定量を行う過程とを有する合成石英ガラス材の不純物元素検出方法。」(以下,「引用発明」という。)

(2)本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物2には,図面とともに,次の事項が記載されている。

(2-ア)「2.特許請求の範囲
(1)蛍光発生用の励起光を検出すべき基板の表面に一定の面積で同時に照射するための照明光学系と,基板照射により基板上の異物が発する蛍光を検出するための光電変換素子と,前記基板上の蛍光を前記光電変換素子へ導くための検出光学系と,該光電変換素子の受光信号を基に基板上の異物の付着状態を検査するための電気処理系とを具備したことを特徴とする異物検査装置。」(公報1頁左下欄4?12行)

(2-イ)「[産業上の利用分野]
本発明は表面状態検査検査装置に関し,特に遠紫外光露光方式を用いた半導体製造工程においてレチクルやフォトマスク等の基板上に付着した回路パターン以外の異物,例えば不透過性のゴミ等を検出する際に好適な表面状態検査装置に関するものである。」(公報1頁右下欄19行?2頁左上欄3行)

(2-ウ)「[実施例]
第1図は本発明の第1の実施例であり,本発明の構成を用いた異物検査装置の構成図である。
101はエキシマレーザ-のような遠紫外光源であり,102は照明系ユニットであって,レチクル103を上部から均一に被検査領域全域を同時(-括)に,しかも,所定のNA(開口数)で照明する働きをもつ。レチクル103の下方にはビームスプリッタ104が設けられる。この働きは次のようである。つまり,レチクルを通過してきた遠紫外光束はそのまま,これを通り抜ける。これに対し,レチクルの基板上に付着していたゴミ等の異物は,一般に遠紫外光で照射されるど,その構成原子に応じて,可視域のうち特定波長の蛍光を発する。そして,このビームスプリッタはこの蛍光の波長帯域を反射し,照射光の波長は透過するように設計されている。したがって,こわ以降の検出光学系には異物の蛍光しか導かれないので,これにより異物の検出率を高める事ができる。検出光学系105は,レチクル面,特に回路バターニング面(図中の下面)を光電変換素子106の面上に縮小結像させる働きをもつ。
光電変換素子106としては例えば,二次元CCDアレー,或は,撮像管のような位置判別のできるものが望ましい。これによってレチクル面上のどの位置に,異物が付着しているか,が判るからである。」(公報2頁左下欄10行?右下欄16行)

(2-エ)「現在エキシマレーザー(波長248nmまたは198nm等)が光リソグラフィ用光源として検討されているが,これは,パルス状に発光する特性をもっている。」(公報5頁右上欄12?15行)

(2-オ)「エキシマレーザ-特有の問題として,波長による特殊性があげられる。すなわちレチクルのような光学部品は従来の公知例で走査に用いられていた連続発振のレーザー光の波長に対しては透明であっても,エキシマ光のような短波長に対しては不透明となる場合がある事が知られている。例えば高照度のエキシマ光をレチクルの基板である石英に長時間照射すると,カラーセンターのような欠陥が発生ずる事は良く知られた事実である。しかしながら,このカラーセンターの存在はエキシマ光を照射した時にはその欠陥部が発光する事により明瞭に観察できるが,それをエキシマ光を照射せず単に可視光で観察しただけでは検知しにくい。連続発振て用いる事のできる最も短いレーザー波長はHeCdの325nmである。検査に用いられているレーザー波長として良く用いられているのは,実際には442nm(HeCd),488nm(Ar+),515nm(Ar+),633nm(HeNe)等があるが,これらの波長てはエキシマ光,具体的には248nm(KrF)198nm(ArF)の代用は不可能である。上述実施例の様にエキシマ光を利用する事は露光の光ど同じ光て検査てきるというメリットに加えて,エキシマ光だからこそエキシマ光の波長域で不透明となる欠陥を蛍光という形で取り出せるという物理的なメリットが存在している。
[発明の効果]
本発明を用いる事によって,以下の効果がある。すなわちパターンとゴミとを簡易に判別しかつゴミの付着状態を正確に検査てきる。
以」二によりエキシマレーザ-に代表される遠紫外光源を用いた半導体焼付工程の,レチクル検査の信頼性を向上でき,ひいては,半導体製造の歩留まりを格段に高められる。」(公報5頁左下欄10行?6頁左上欄3行)

第5 対比・判断

1 対比

本願発明と引用発明とを対比する。

ア 引用発明における「合成石英ガラス材」が,本願発明における「合成石英ガラスからなる透光性物品」に相当することは明らかである。そして,引用発明では,前記「合成石英ガラス材」に含まれる「不純物元素」を検出するものであり,上記摘記事項(1-イ)のとおり,前記「不純物元素」により「半導体製造工程で使用される紫外線光の透過率が低下」するものであるから,前記「不純物元素」は,本願発明における「合成石英ガラスからなる透光性物品の内部」における「露光光に対して」「光学特性が変化する不均一性」に相当する。さらに,引用発明では,「合成石英ガラス材の不純物元素の定性及び定量を行う過程」を有しており,当該過程には,「合成石英ガラス材の不純物元素」の有無を検査することも含まれているから,引用発明と本願発明とは,「露光光に対して」「光学特性が変化する不均一性の有無を検査する透光性物品の検査方法」である点で共通する。

イ 引用発明では,「検出対象の合成石英ガラス材に,190nm?260nmの波長を有する単色光である励起光を入射せしめ」ているので,引用発明と本願発明とは,「透光性物品に200nm以下の波長を有する検査光を導入」する点で共通する。

ウ 引用発明では,「該合成石英ガラス材から発せられた蛍光を受光」しており,前記「蛍光」とは,上記摘記事項(1-ウ)の「【0006】…励起光を石英ガラス材に照射した際に石英ガラス材から発せられる蛍光の強度は,不純物元素の含有量が多くなるに従って高くなる…」及び(1-エ)の「【0016】励起光が入射されることにより石英ガラス材Sから蛍光が発せられ…演算部12には各不純物元素に対応する蛍光波長と,不純物元素の含有量に対する蛍光強度の検量線が各不純物元素について入力されており…」等の記載から,合成石英ガラス材に含まれる不純物元素から発せられる光であることは明らかであるから,引用発明においても,「透光性物品内部で前記検査光が伝播する光路に」「光学特性が変化する部位がある場合にこの部位から発せられる光」を受光しているといえる。したがって,引用発明と本願発明とは,「前記透光性物品に検査光を導入した場合に,該透光性物品内部で前記検査光が伝播する光路に」「光学特性が変化する部位がある場合にこの部位から発せられる光を感知する」点で一致する。

エ 引用発明は,「合成石英ガラス材に含まれ,アルカリ金属元素及び遷移金属元素からなるグループから選択した元素である不純物元素を検出」するものであるから,「アルカリ金属元素及び遷移金属元素」が本願発明における「金属元素」に相当することは明らかである。また,上記アのとおり,「アルカリ金属元素及び遷移金属元素」からなるグループから選択した元素である「不純物元素」は,本願発明における「露光光に対して」「光学特性が変化する不均一性」及び「内部欠陥」に相当するものであるといえるから,引用発明と本願発明とは,「光学特性が変化する部位は,合成石英ガラス中に金属元素が混入した」「内部欠陥」である点で一致する。

してみると,本願発明と引用発明とは,
「合成石英ガラスからなる透光性物品の内部に,露光光に対して光学特性が変化する不均一性の有無を検査する透光性物品の検査方法において,
前記透光性物品に200nm以下の波長を有する検査光を導入した場合に,該透光性物品内部で前記検査光が伝播する光路に前記光学特性が変化する部位がある場合にこの部位から発せられる光を感知することにより,前記透光性物品における光学的な不均一性の有無を検査するものであり,
前記光学特性が変化する部位は,合成石英ガラス中に金属元素が混入した内部欠陥である,透光性物品の検査方法」
である点で一致し,次の点で相違する。

(相違点1)「合成石英ガラスからなる透光性物品」が,本願発明では,「光リソグラフィーに使用され」るものであるのに対し,引用発明では,上記用途に使用されるか不明である点。

(相違点2)「光学特性が変化する部位から発せられる光」が,本願発明では,「200nm超600nm以下」の波長であり,かつ「前記検査光の波長よりも長い光」であるのに対し,引用発明では,「200nm以下の波長を有する検査光を導入した場合」に「不純物元素」から発せられる波長については明記されていない点。

(相違点3)「露光光に対して光学特性が変化する不均一性」でありかつ「合成石英ガラス中に金属元素が混入した内部欠陥」である部位が,本願発明では「局所又は局部的な領域からなる」ものであるのに対し,引用発明では,局所又は局部的な領域からなるかどうか不明である点。

(相違点4)「前記透光性物品における光学的な不均一性の有無の検査」で,本願発明では,「前記透光性物品の内部を前記検査光が伝播するときに8%/cmよりも大きい前記検査光の損失を生じさせる内部欠陥がない透光性物品を選定」しているのに対し,引用発明では,そのような構成を有していない点。

2 判断

以下,上記各相違点について検討する。

(相違点1について)
刊行物2には,上記摘記事項(2-ア)?(2-オ)からみて,半導体製造工程において使用される石英からなる基板を,「エキシマレーザ-のような遠紫外光源」を用いて異物検査することが記載されており,また,上記摘記事項(2-エ)のとおり,「エキシマレーザー(波長248nmまたは198nm等)が光リソグラフィ用光源として検討されている」ことが記載されている。
これらの記載から,刊行物2には,検査対象となる石英の基板を,光リソグラフィーに使用することが示唆されているといえる。
また,例えば2004-4299号公報の段落【0002】に「半導体集積回路の製造においては,微細パターンをウェハに形成する手段として,リソグラフィ技術が用いられる。」と記載されているように,リソグラフィ技術,すなわち光リソグラフィが,半導体製造工程に用いられる一つの技術であることは,技術常識である。
そして,引用発明も,上記摘記事項(1-イ)および(1-ウ)のとおり,半導体製造工程において使用される石英ガラス材からなる基板を,エキシマレーザ等を用いて検査するものであるから,引用発明において,エキシマレーザを用いて検査する石英からなる基板として,刊行物2に記載されるような半導体製造工程において特に光リソグラフィーに使用される基板を検査対象とすることは,動機付けも十分にあり,当業者であれば,容易に想到し得るものである。

(相違点2について)
刊行物1には,上記摘記事項(1-オ)のとおり,245nmのKrFエキシマレーザを用いた場合の実施例において,不純物元素が波長410?600nmの蛍光を発することが記載されており,また,上記摘記事項(1-カ)には,245nmのKrFエキシマレーザに限るものでなく,「単色の紫外光であれば良く,特に190nm?260nmの範囲が好ましい」と記載されている。さらに,上記摘記事項(1-ウ)には,具体的に,ArFエキシマレーザ光(波長195nm)を用いることが記載されている。
すなわち,励起光の波長が190?200nmであっても,発せられる蛍光の波長が大きく変わることはなく,前記実施例と同様の結果が得られることが記載されているといえる。
したがって,引用発明においても,波長190?200nmの励起光を照射した場合に波長200nm超600nm以下の蛍光を発するといえるから,相違点2は,実質的な相違点であるとはいえない。

また,仮に,相違点2が実質的な相違点であるとしても,本願発明と引用発明とは,合成石英ガラス中の金属元素からの蛍光を検出する点で一致するものであって,その蛍光の波長は励起光により定まるものであるから,合成石英ガラス中の金属元素からの蛍光を検出するにあたって,蛍光波長を調べてその検出波長範囲を200nm超600nm以下とすることは,当業者であれば適宜為し得る設計的事項である。

(相違点3について)
引用発明は,本願発明と同様に「合成石英ガラス」に含まれる不純物の検出方法であって,本願発明と同様に,不純物が「局所又は局部的な領域」に分布していることは明らかであり,また,上記「1 エ」のとおり,引用発明における「合成石英ガラス材の不純物元素」とは,「露光光に対して光学特性が変化する不均一性」であり,かつ,「アルカリ金属元素及び遷移金属元素からなるグループから選択した元素」が混入した「内部欠陥」であるから,引用発明においても,「露光光に対して光学特性が変化する不均一性」でありかつ「合成石英ガラス中に金属元素が混入した内部欠陥」である部位は,局所又は局部的な領域からなるものといえる。
したがって,相違点3は,実質的な相違点であるとはいえない。

(相違点4について)
検査において,どの程度の光学的不均一性を持つものを内部欠陥がない透光性物品と選定するかは,当業者が適宜為し得る設計的事項であり,また,「透光性物品の内部を前記検査光が伝播するときに8%/cmよりも大きい前記検査光の損失を生じさせる」ことの臨界的意義について,本願の出願当初の明細書及び図面に何ら記載がないことから,引用発明において,「透光性物品の内部を前記検査光が伝播するときに8%/cmよりも大きい前記検査光の損失を生じさせる内部欠陥がない透光性物品を選定する」ことに,格別の困難性はない。

そして,本願発明が奏する効果は,刊行物1?2の記載事項から,当業者が予測できる範囲のものであり,格別顕著なものとはいえない。

3 請求人の主張について
請求人は,平成25年3月8日に提出した意見書において,「さらに,パターン転写が正常に行えない透光性物品は,ArFエキシマレーザーがその内部を伝搬するときに,8%/cmよりも大きい光量損失が生じるものであることも突き止めました。
他方,透光性物品の内部に金属元素が混入した領域が存在する場合であっても,その領域が広く,金属元素が薄い濃度分布で存在しているような場合では,ArFエキシマレーザーの光量損失が小さく(8%/cm以下の光量損失),パターン転写が正常に行えないような問題は生じ難いことも判明しました。また,この8%/cmよりも大きい光量損失が生じるのは,透光性物品の内部に「金属元素が局所又は局部的に混入した領域」であることも判明しました。さらに,このような局所又は局部的な領域の内部欠陥から発するArFエキシマレーザーよりも長い波長の光(または蛍光)を検出されない透光性物品を「選定」することで,ArFエキシマレーザーの「光量損失が8%/cm以下」である透光性物品(特にマスクブランク用透光性基板)を製造できることを見出しました。…
また,本願発明によれば,実際のパターン転写に影響のない範囲である8%/cm以下の範囲の光量損失に収まる程度の欠陥が内部に存在する透光性物品を合格品として選定することから,透光性物品(特にマスクブランク用透光性基板)の製造歩留まりの大幅な向上が図れるという効果が得られます。」等と主張している。

しかしながら,半導体製造工程において用いられる基板の欠陥検査において,欠陥は存在するものの問題が生じない範囲であれば良品とすることは,半導体製造の技術分野では技術常識であり,また,閾値を「光量損失が8%/cm」とすることの具体的根拠も,出願当初の明細書及び図面,及び上記意見書にも示されておらず,「光量損失が8%/cm」の臨界的意義が見いだせない。さらに,製造歩留まりの向上は,当業者であれば当然考慮する課題であるから,当該課題を達成するために閾値を設定することに,格別の困難性はない。

したがって,請求人の主張は採用できない。

4 まとめ

以上のことから,本願発明は,引用発明,刊行物2に記載された技術事項,および技術常識に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび

以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないから,本願は拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-03-29 
結審通知日 2013-04-02 
審決日 2013-05-28 
出願番号 特願2006-42996(P2006-42996)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 森口 正治  
特許庁審判長 岡田 孝博
特許庁審判官 田部 元史
小野寺 麻美子
発明の名称 透光性物品の検査方法、マスクブランク用透光性基板の製造方法、マスクブランクの製造方法、及び露光用マスクの製造方法、並びに半導体装置の製造方法  
代理人 奥山 知洋  
代理人 福岡 昌浩  
代理人 油井 透  
代理人 阿仁屋 節雄  
代理人 清野 仁  

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