• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16K
管理番号 1276611
審判番号 不服2011-25803  
総通号数 165 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-11-29 
確定日 2013-07-11 
事件の表示 特願2006-100924「弁装置およびそれを備える整圧器」拒絶査定不服審判事件〔平成19年10月18日出願公開、特開2007-271068〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件に係る特許出願(以下、「本願」という。)は、平成18年3月31日の出願であって、平成23年2月22日付けで拒絶の理由が通知され、平成23年4月28日付けで意見書及び手続補正書が提出されたところ、平成23年8月22日付けで拒絶査定がされ、これに対して、平成23年11月29日に拒絶査定不服審判の請求がされるとともに同日付けで手続補正書が提出されたものである。

第2 平成23年11月29日付け手続補正書による手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成23年11月29日付け手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.本件補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、次のように補正された。
(1)本件補正前
「【請求項1】
気体供給管路に介在され、開度を調整する弁装置であって、
透孔が形成されるシリンダと、
シリンダ内に変位可能に設けられ、シリンダに対する変位によって開度を変化させるピストンと、
ピストンの外周部に保持され、周方向へ延び、ピストンとシリンダとの間をシールするシール部材と、
シール部材に対して軸線方向に間隔あけてピストンの外周部に保持され、周方向へ延びてシリンダに当接され、シリンダに対する摩擦抵抗がシール部材に比べて小さいスライダリングとを備え、
ピストンの外周部には、潤滑剤溝が形成され、
前記潤滑剤溝は、シール部材とスライダリングとの間に形成されることを特徴とする弁装置。」(平成23年4月28日付け手続補正書参照。)
(2)本件補正後
「【請求項1】
気体供給管路に介在され、開度を調整する弁装置であって、
透孔が形成されるシリンダと、
シリンダ内に変位可能に設けられ、シリンダに対する変位によって開度を変化させるピストンと、
ピストンの外周部に保持され、周方向へ延び、ピストンとシリンダとの間をシールするシール部材と、
シール部材に対して軸線方向に間隔あけてピストンの外周部に保持され、周方向へ延びてシリンダに当接され、シリンダに対する摩擦抵抗がシール部材に比べて小さいスライダリングとを備え、
ピストンの外周部には、潤滑剤溝が形成され、
前記潤滑剤溝は、シール部材とスライダリングとの間に形成され、
スライダリングの外周部におけるシール部材と反対側の端部は、外周面が円筒面であり、軸線を含む平面での断面において、外周面と端面との成す角度が鋭角であることを特徴とする弁装置。」

上記補正は、補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「潤滑剤溝」について、それが「スライダリングの外周部におけるシール部材と反対側の端部は、外周面が円筒面であり、軸線を含む平面での断面において、外周面と端面との成す角度が鋭角である」ことを限定するものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2.刊行物
(1)原査定の拒絶の理由に引用文献1として示された特開2002-106730号公報(以下「刊行物1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。
・ 「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、石油工業、化学工業などに用いられる弁装置、特に円筒状のケージと弁体(弁プラグ)によって流体の流量を制御するケージ型弁装置に関するものである。
・・・
【0015】
【課題を解決するための手段】このような目的を達成するために本発明は、ケージの内周面に沿った弁体の最端位置にリング状の封止部材を設け、ケージに設けた唯一の弁座に弁体を着座させるようにしたものである。この発明によれば、弁体がケージの唯一の弁座に着座すると、流入口と流出口との間の流体の流れが遮断される。弁体の最端位置に設けられた封止部材は、流量制御用窓、ケージの内周面と弁体の外周面との隙間、ケージの軸方向の一方側に形成された空間および弁体に形成された開口(圧力平衡用の開口)に生じる流体の流れを遮断する。また、弁体の最端位置に設けられた封止部材は、弁体の上端面からのケージの内周面と弁体の外周面との隙間への異物の侵入を防ぐ。弁体がケージの弁座から離れると、流入口からの流体の流れがケージの流量制御用窓を通して流出口へ流れる。この際、封止部材の一端面がケージの内周面に付着している異物を除去する。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を実施の形態に基づき詳細に説明する。
〔実施の形態1〕図1はこの発明の一実施の形態を示す単座形弁装置の構成図である。同図において、31は鋳造ステンレス製の弁箱であり、この弁箱31は仕切壁32により内部が上流側流路33と下流側流路34に仕切られている。弁箱31の上端開口部を閉鎖する上蓋35と仕切壁32との間にはステンレス製のケージ37が設けられている。ケージ37は円筒状のケージ本体37-1とこのケージ本体37-1の下端に着脱可能に取り付けられた弁座体37-2とから構成されている。弁座体37-2は、リング状とされ、その内周面の最上端位置を面取りして弁座44が形成されている。
【0017】ケージ37の下端部(弁座体37-2)は仕切壁32の中央に開設された通孔39にパッキンを介して嵌め込まれている。上蓋35によりケージ本体37-1および弁座体37-2が下方へ押圧され上記パッキンが弾性変形状態におかれるので、この部分を通じて上流側流路33の流体が下側流路34へもれることはない。ケージ37の周壁(ケージ本体37-1の周壁)には上流側流路33と下流側流路34とを連通させる複数個の流量制御用窓43が開設されている。ケージ37には、その内周面に沿って、ステンレス製の弁プラグ(弁体)45が摺動自在に嵌め込まれている。ケージ37と弁プラグ45との摺動面は滑らかに仕上げられており、摺動摩擦は十分に小さい。
【0018】弁プラグ45は、下面が開放する筒状体で、ステンレス製の弁軸48の先端にねじ込み後に端部をスポット溶接して取り付けられている。・・・弁軸48は上蓋35の中央に設けられた貫通孔46中のグランドパッキンに摺動自在に貫通して設けられている。弁プラグ45の外周面にはケージ37側の弁座44に対応して着座部49が設けられている。この弁座44および着座部49は完全に密着するように十分精密に仕上げられている。また、弁プラグ45には、弁プラグ45の内外の圧力が等しくなるように、開口(圧力平衡用の開口)51が複数個形成されている。開口51は弁プラグ45によって仕切られるケージ37の軸方向の一方側の空間47と他方側の空間(流体の通路)41との間を連通する。流体圧力により弁プラグ45が受ける軸方向の力をキャンセルして、小さな駆動力で弁プラグ45を開閉動作可能としている。
【0019】また、弁プラグ45の外周面の最上端位置に断面「L」字状の溝36を設け、この溝36に同一断面形状のピストンリング38を嵌め込んでいる。すなわち、弁プラグ45の外周を取り巻くように、ピストンリング38を設けている。ピストンリング38の上面38aと弁プラグ45の最上端位置の端面45aとは同一面を形成している。
【0020】ピストンリング38は弾性を有すると共に摺動相手のケージ(ステンレス)37よりも軟質で潤滑性を有する材料で形成される。ここでは、炭素繊維入りフッ素樹脂製とされている。図2(a)にピストンリング38の平面図を、図2(b)に図2(a)におけるb-b線断面図を示す。ピストンリング38は、一部周縁が切り欠かれて開放したリング状に形成されている。切り欠かれた開放端面の一方および他方には円周方向へ突起38bおよび38cが形成されている。切り欠かれた開放端面の他方および一方には突起38bおよび38cを受け入れる切欠溝38dおよび38eが形成されている。この切り欠かれた開放端面の一方および他方を開いてピストンリング38を弁プラグ45の溝36に嵌め込む。ピストンリング38の外周面はケージ37の内周面に密着して摺動することになるので、十分滑らかに形成されている。
【0021】図2(c)はピストンリング38を溝36に嵌め込んだ状態を示す断面図である。ピストンリング38を溝36に嵌め込んだ状態では突起38cと溝38eとの間および突起38bと溝38dとの間に隙間G1およびG2が生じる。ピストンリング38の外形はケージ37の内径よりもわずかに大きく形成されているため、ピストンリング38を弁プラグ45と共にケージ37に組み込む際に、この隙間G1およびG2の分だけピストンリング38の外形を縮めることができる。本実施の形態では、上側の隙間G1と下側の隙間G2とが縦方向に直につながっておらず、突起38-1と突起38-2との側部の接触面を介し横方向につながっている。これにより、ケージ37と弁プラグ45の摺動面間への隙間G1からの異物の侵入が防止される。ピストンリング38の外周面は、溝36内に嵌め込んだ状態において弁プラグ45の外周面よりも若干突出しており、弁プラグ45をケージ37内に組み込んだ状態では外周がケージ37の内周面に規制されているため、ピストンリング38の弾性による拡張力によってピストンリング38の外周面がケージ37の内周面に押し付けられ、全周にわたって密着している。
【0022】この単座形弁装置において、弁軸48は、自動制御装置による駆動部の作動や手動操作によって上下動される。弁軸48が上下動すると、弁プラグ45が弁軸48と一体になって上下動し、流量制御用窓43の開度すなわち開口面積が変化する。これによって、上流側流路33からケージ37の内部を通って下流側流路34に流れる被制御流体の流量が制御される。流量制御用窓43の形状により所望の流量特性を得ることができる。通常は、弁開度に対してイコールパーセント流量特性を持つように、流量制御用窓43の形状が定められていることが多い。
【0023】図3に弁プラグ45を最下端位置まで下げた状態を示す。弁プラグ45を最下端位置まで下げると、弁プラグ45の着座部49がケージ37の弁座44に着座し、流量制御用窓43を閉じて上流側流路33から下流側流路34への流体の流れを遮断する。また、上流側流体圧が高く、下流側に連通した空間47の流体圧が低いので、弁プラグ45とケージ37との隙間を通じて流体が流れようとするが、弁プラグ45にピストンリング38が設けられていることにより、流量制御用窓43からケージ37の内周面と弁プラグ45の外周面との隙間を通って空間47へ向かう流体の流れが生じず、ケージ37と弁プラグ45の摺動面へ新たな異物42が常に運び込まれることが防止される。
【0024】また、ピストンリング38の上面38aと弁プラグ45の最上端位置の端面45aとが同一面とされていることから、弁プラグ45の上端面においてはピストンリング38の外周面がケージ37の内周面に常に密着した状態で摺動するので、ここからのケージ37と弁プラグ45の摺動面への異物22の侵入も防止される。また、弁プラグ45が上昇する際に、ピストンリング38の上面38aがゲージ37の内周面に付着している異物42を除去する。この結果、異物の噛み込みによる作動不良を起こさず、また弁の耐久性および締切特性を向上させることが可能となる。
・・・
【0027】このように、本実施の形態によれば、ピストンリング38を弁プラグ45の最上端位置に設け、かつ単座形とすることにより、異物の噛み込みが生じにくく、安価でかつ長寿命とすることができる。なお、本実施の形態では、ケージ37がケージ本体37-1と弁座体37-2とに分かれているので、弁座44が摩耗した場合には弁座体37-2を交換するのみでよい。なお、この実施の形態1では、図1における左側を上流側とし右側を下流側として説明したが、逆に図1における右側を上流側とし左側を下流側として流体を流すようにしても使用可能である。
【0028】〔実施の形態2〕実施の形態2では、図4にそのケージと弁プラグの断面図を示すように、弁プラグ45の溝36の上側(ケージ37の軸方向の一方側)の側壁に斜面36-1を形成する。この斜面36-1に対応してピストンリングリング38に斜面38-1を形成し、斜面36-1と斜面38-1とが係合するようにピストンリング38を溝36に嵌め込む。ピストンリング38自身の弾性力によりピストンリング38の外周面がケージ37の内周面に押し付けられて全周にわたって密着状態になっている点は他の実施の形態と同様である。
・・・
【0032】〔実施の形態3〕実施の形態3では、図6にそのケージと弁プラグの断面図を示すように、弁プラグ45の溝36の下側(ケージ37の軸方向の他方側)の側壁に斜面36-2を形成する。この斜面36-2に対応してピストンリングリング38に斜面38-2を形成し、斜面36-2と斜面38-2とが係合するようにピストンリング38を溝36に嵌め込む。ピストンリング38自身の弾性力によりピストンリング38の外周面がケージ37の内周面に押し付けられて全周にわたって密着状態になっている点は他の実施の形態と同様である。
・・・
【0035】・・・なお、図7(a),(b)は作用を説明するために隙間寸法を誇張して描いたものであって、実際にはもっと小さな隙間寸法に設計されるべきものである。
・・・
【0037】また、実施の形態1,2,3では、弁プラグ45の最上端位置にしか封止部材(ピストンリング38)を設けなかったが、図9(a),図9(b)、図10(a),図10(b)、図11(a),図11(b)に示すように、ピストンリング38の下方に第2の封止部材として合成ゴム製のOリング50を設けるようにしてもよい。Oリング50は、弁プラグ45を閉じた状態において、流量制御用窓43よりも上方に位置するように設ける。このOリング50は、弁プラグ45に組み付けた状態において、その外周が弁プラグ45の外周よりもやや突出する寸法にされている。そのため、弁プラグ45と共にケージ37に組み込んだ際には、Oリング50の外周がケージ37の内周によって規制され、Oリング50の外周とケージ37の内周面とが全周にわたって密着状態となる。
【0038】図9(a),図10(a),図11(a)では、弁プラグ45に溝36とは別に溝52を設け、この溝52にOリング50を嵌め込んでいる。なお、Oリング50はエンドレス形状をしているが、自己の弾力性により径を拡張できるので、溝52への組み付けは容易である。図9(b),図10(b),図11(b)では、弁プラグ45のピストンリング38用の溝36を拡げてOリング50との共用溝とし、この共用溝36内にピストンリング38とOリング50を収容している。
【0039】Oリング50の上下には、ケージ37と弁プラグ45の摺動隙間にOリング50が噛み込まないように、炭素繊維入りフッ素樹脂製の保持リング53を設けている。保持リング53は、ピストンリング38と同様、一部周縁が切り欠かれて開放したリング状に形成されており、この切り欠かれた開放端面の一方および他方を開いて溝52に嵌め込んでいる。上下の保持リング53の外周面は、溝52に嵌め込んだ状態において、弁プラグ45の外周面よりも若干突出する。
【0040】Oリング50を設けることによって、流量制御用窓43およびピストンリング38との間に生じる流体の流れが遮断され、さらにシール性がアップする。また、弁プラグ45を閉じた状態とすると、流体の圧力P1がOリング50に加わり、Oリング50が横方向に広がってシール性が向上する。」

・ 図10(a)、図2(a)、図5(a)等の図面の記載内容からすると、ピストンリング(38)の外周部におけるOリング(50)と反対側の端部は、外周面が円筒面であること、軸線を含む平面での断面において、上側の側壁に斜面(38-1)が形成されていることが理解できる。
また、段落【0001】等の記載事項と図1の記載内容を併せると、単座形弁装置は、流体が流される上流側流路(33)と下流側流路(34)の間に配置されるものと理解できる。さらに、この単座形弁装置が開度を調整するものであることは、段落【0022】等から理解できる。

以上の事項を図10(a)に開示された実施の形態を中心にまとめ、本願補正発明にならって表現すると、刊行物1には、次の発明が記載されていると認めることができる(以下、この発明を「刊行物1記載の発明」と言う。)。
「流体が流される上流側流路(33)と下流側流路(34)の間に配置され、開度を調整する単座形弁装置であって、
流量制御用窓(43)が形成されるケージ(37)と
ケージ(37)内に変位可能に設けられ、ケージ(37)に対する変位によって開度を変化させる弁プラグ(45)と、
弁プラグ(45)の外周部に保持され、周方向へ延び、ケージ(37)と弁プラグ(45)との間をシールするOリング(50)と、
Oリング(50)に対して軸線方向に間隔をあけた弁プラグ(45)の最上端位置の外周部に保持され、周方向へ延びてケージ(37)に密着されるピストンリング(38)とを備え、
ピストンリング(38)の外周部におけるOリング(50)と反対側の端部は、外周面が円筒面であり、軸線を含む平面での断面において、上側の側壁に斜面(38-1)が形成されている単座形弁装置。」

(2)原査定の拒絶の理由に引用文献4として示された特開2001-289205号公報(以下「刊行物2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
・ 「【0002】
【従来の技術】従来、流体圧を利用したアクチュエータの一種として、ロッドを備えないタイプのエアシリンダ(いわゆるロッドレスシリンダ)が知られている。図6には、従来におけるマグネット式ロッドレスシリンダ71の要部が示されている。
【0003】このロッドレスシリンダ71では、図示しない一対のヘッドカバー間にシリンダチューブ73が架設されている。シリンダチューブ73の内側には、ピストン74が移動可能に収容されている。ピストン74の両端側には、それぞれ圧力作用室が区画されている。シリンダチューブ73の外側に配設された追従体75には挿通孔76が設けられ、その挿通孔76には前記シリンダチューブ73が挿通されている。また、追従体75とピストン74との間には磁気吸引力が常時作用している。従って、圧力作用室への加圧エアの給排を行うと、ピストン74及び追従体75が一体的に往復動するようになっている。
【0004】ところで、ピストン74がシリンダの長手方向に沿って移動する際、ピストン74の外周面はシリンダチューブ73の内周面に対して摺動する。それゆえ、一方側の摺動界面であるピストン74の外周面には、ピストンパッキング77に加え、摺動抵抗の低減を図るためにピストンウェアリング78が配設されている。
【0005】また、図7には従来における別のマグネット式ロッドレスシリンダ81が示されている。このシリンダ81では、さらなる摺動抵抗の低減を目的として、ピストン74の外周部にグリス溜まり82が一対配設されている。このようなグリス溜まり82は、ピストンパッキング77及びピストンウェアリング78の間に位置している。なお、同様の従来技術としては、特開平9-112504号公報に開示されたものが知られている。」

3.対比・判断
(1)本願補正発明と刊行物1記載の発明を対比する。
刊行物1記載の発明の「流体が流される上流側流路(33)と下流側流路(34)の間に配置され、」は、「流体」と「気体」の違いを除けば、本願補正発明の「気体供給管路に介在され、」に相当し、両者は、「流体供給管路に介在され、」という点で共通すると言える。
刊行物1記載の発明の「単座形弁装置」「流量制御用窓(43)」「ケージ(37)」「弁プラグ(45)」「Oリング(50)」「ピストンリング(38)」は、それぞれ、本願補正発明の「弁装置」「透孔」「シリンダ」「ピストン」「シール部材」「スライダリング」に相当する。
そして、刊行物1記載の発明の「Oリング(50)に対して軸線方向に間隔をあけた弁プラグ(45)の最上端位置の外周部に保持され、周方向へ延びてケージ(37)に密着されるピストンリング(38)とを備え」る態様と本願補正発明の「シール部材に対して軸線方向に間隔あけてピストンの外周部に保持され、周方向へ延びてシリンダに当接され、シリンダに対する摩擦抵抗がシール部材に比べて小さいスライダリングとを備え」る態様とは、「シール部材に対して軸線方向に間隔あけてピストンの外周部に保持され、周方向へ延びてシリンダに当接されるスライダリングとを備え」るものであるという概念で共通し、また、刊行物1記載の発明の「ピストンリング(38)の外周部におけるOリング(50)と反対側の端部は、外周面が円筒面であり、軸線を含む平面での断面において、上側の側壁に斜面(38-1)が形成されている」態様と本願補正発明の「スライダリングの外周部におけるシール部材と反対側の端部は、外周面が円筒面であり、軸線を含む平面での断面において、外周面と端面との成す角度が鋭角である」態様とは、「スライダリングの外周部におけるシール部材と反対側の端部は、外周面が円筒面である」という概念で共通する。

そうすると、両者の一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点]
「流体供給管路に介在され、開度を調整する弁装置であって、
透孔が形成されるシリンダと、
シリンダ内に変位可能に設けられ、シリンダに対する変位によって開度を変化させるピストンと、
ピストンの外周部に保持され、周方向へ延び、ピストンとシリンダとの間をシールするシール部材と、
シール部材に対して軸線方向に間隔あけてピストンの外周部に保持され、周方向へ延びてシリンダに当接されるスライダリングとを備え、
スライダリングの外周部におけるシール部材と反対側の端部は、外周面が円筒面である弁装置。」
[相違点1]
流される流体が、本願補正発明では「気体」とされているのに対して、刊行物1記載の発明ではそのような特定がなされていない点。
[相違点2]
本願補正発明では、「ピストンの外周部には、潤滑剤溝が形成され、」「前記潤滑剤溝は、シール部材とスライダリングとの間に形成され」ているのに対して、刊行物1記載の発明ではそのような特定がなされていない点。
[相違点3]
本願補正発明では、「スライダリング」の「シリンダに対する摩擦抵抗がシール部材に比べて小さい」とされているのに対して、刊行物1記載の発明ではそのような特定がなされていない点。
[相違点4]
スライダリングの外周部におけるシール部材と反対側の端部について、本願補正発明では「軸線を含む平面での断面において、外周面と端面との成す角度が鋭角である」とされているのに対して、刊行物1記載の発明では「軸線を含む平面での断面において、上側の側壁に斜面(38-1)が形成されている」点。

(2)相違点について検討する。
ア.相違点1について
刊行物1記載の発明を特に「気体」に適用することは、当業者が適宜なし得たことにすぎない。
イ.相違点2について
刊行物2には、シリンダチューブ73の内側に摺動するピストン74を配置してなるエアシリンダにおいて、ピストンパッキング77に加えて摺動抵抗の低減を図るためにピストンウェアリング78をピストン74の長手方向に位置を変えて配置することが、図7と共に記載されている。そしてまた、これの摺動抵抗のさらなる低減を目的として、ピストンパッキング77とピストンウェアリング78の間にグリス溜まり82を配置することが、図8と共に記載されている。
この刊行物2が開示するエアシリンダも本願補正発明や刊行物1記載の発明の弁構造も、シリンダ様の部材の内部をピストン様の部材が流体密に摺動するという点で軌を一にするものである。
そして、上記刊行物2記載の技術的事項に照らせば、刊行物1記載の発明において、弁プラグ(ピストン)の外周部の、Oリング(シール部材)とピストンリング(スライダリング)との間に潤滑剤溝を形成することは、当業者にとって格別の創作能力を要することなくなし得たことと言える。
ウ.相違点3について
本願補正発明で「スライダリング」の「シリンダに対する摩擦抵抗がシール部材に比べて小さい」とされている点につき、本願の明細書では、その具体的な構成としては「各スライダリング55,56は、シリンダ26に対する摩擦抵抗が、シール部材50に比べて小さい材料から成る。各スライダリング55,56は、たとえばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素樹脂から成る。」(段落【0027】)と説明するに留まる。また、本願の明細書では、シリンダの材料は「たとえば金属から成り、剛性を有する。」と説明され、また、シール部材については「たとえばゴムから成り、形状が円環状の部材であり、たとえばOリングによって実現される。」(段落【0024】)と説明されている。
刊行物1では、ピストンリング(スライダリング)の材料につき「弾性を有すると共に摺動相手のケージ(ステンレス)37よりも軟質で潤滑性を有する材料で形成される。ここでは、炭素繊維入りフッ素樹脂製とされている。」(段落【0020】)と説明され、また、Oリング(シール部材)の材料につき「合成ゴム製のOリング50」(段落【0037】)と説明されている。
そうすると、本願補正発明と刊行物1記載の発明とで、スライダリング、シール部材についての材料構成はほぼ同等のものと言える。
さらに、スライダリングとシール部材のシリンダへの密着度合いは、シール部材の方を大きくすることは、当業者が通常採用することと言える。
以上を踏まえれば、刊行物1記載の発明においてスライダリングのシリンダに対する摩擦抵抗をシール部材に比べて小さくすることには、当業者にとっての格別の創意工夫を見いだすことはできない。
エ.相違点4について
本願補正発明において、スライダリングの外周部におけるシール部材と反対側の端部について「軸線を含む平面での断面において、外周面と端面との成す角度が鋭角である」とした理由は、「シール部材と反対側において、スライダリングの外周面をシリンダに密着させ、シール部材と反対側の端部を、シリンダの内周面に沿って摺動させて、シリンダの内周面に付着する異物をシリンダの内周面から掻取ることができるので、異物の掻取効果を高くすることができる」という効果を奏させるためである(審判請求書【本発明が特許されるべき理由】(2)参照。)。
他方、刊行物1記載の発明にあっても、ピストンリング(スライダリング)のシール部材と反対側の端部は「ピストンリング38の外周面がケージ37の内周面に常に密着した状態で摺動するので、ここからのケージ37と弁プラグ45の摺動面への異物22の侵入も防止される。また、弁プラグ45が上昇する際に、ピストンリング38の上面38aがゲージ37の内周面に付着している異物42を除去する。この結果、異物の噛み込みによる作動不良を起こさず、また弁の耐久性および締切特性を向上させることが可能となる。」ものである(段落【0024】)。
そうしてみると、本願補正発明のスライダリングの外周部におけるシール部材と反対側の端部と刊行物1記載の発明のピストンリング(スライダリング)の外周部におけるシール部材(Oリング)と反対側の端部とは、シリンダ(ケージ)内周面の異物を掻き取る作用を果たすという点で一致している。
そして、シリンダ内周面の異物を掻き取る作用そのものについて考えれば、軸線を含む平面での断面において外周面と端面との成す角度が鋭角である態様が好ましいことは、当業者にとって自明である。
ここで、刊行物1記載の発明では、軸線を含む平面での断面において上側の側壁に斜面(38-1)が形成されている構成まで備えているのであるから、この斜面がそのままピストンリングの外周面に達するようにすれば上記好ましい態様が得られることもまた、当業者が容易に想起し得ることと言える。
したがって、刊行物1記載の発明において、上記相違点4に係る本願補正発明の発明特定事項を採用することは、当業者が通常の創作能力を発揮してなし得たことにすぎない。
オ.以上からすると、上記相違点に係る本願補正発明の発明特定事項は、当業者が容易に採用し得た域を出るものではなく、本願補正発明の発明特定事項は、刊行物1記載の発明及び刊行物2記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たものである。
しかも、本願補正発明の発明特定事項によって、刊行物1記載の発明及び刊行物2記載の技術的事項からみて格別顕著な効果が奏されると言うこともできない。

(3)以上を踏まえると、本願補正発明は、刊行物1記載の発明及び刊行物2記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明し得たものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(4)まとめ
よって、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の各請求項に係る発明は、原審において提出された平成23年4月28日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲に記載されたとおりのものであるところ、その請求項1は「第2 1.(1)」に記載したとおりである(以下、この請求項1に係る発明を「本願発明」という。)。

2.刊行物
刊行物1、2及びその記載事項並びに刊行物1記載の発明は、「第2 2.」に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、「第2」で検討した本願補正発明から前記の限定事項を省いたものに相当する。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、「第2 3.」において検討したとおり、刊行物1記載の発明及び刊行物2記載の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、刊行物1記載の発明及び刊行物2記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと言うことができる。

4.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-05-07 
結審通知日 2013-05-14 
審決日 2013-05-28 
出願番号 特願2006-100924(P2006-100924)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16K)
P 1 8・ 575- Z (F16K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大谷 謙仁所村 陽一  
特許庁審判長 新海 岳
特許庁審判官 藤井 昇
平城 俊雅
発明の名称 弁装置およびそれを備える整圧器  
代理人 西教 圭一郎  
代理人 西教 圭一郎  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ