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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1276717
審判番号 不服2010-16584  
総通号数 165 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-07-23 
確定日 2013-07-09 
事件の表示 特願2004-572050「TNF様分泌タンパク質」拒絶査定不服審判事件〔平成16年12月 2日国際公開、WO2004/104040、平成19年10月 4日国内公表、特表2007-527692〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯及び本願発明
本願は,2003年5月21日を国際出願日とする出願であって,平成22年3月15日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,平成22年7月23日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに,特許請求の範囲について,請求項1を削除し各請求項の番号を変更する手続補正がなされたものである。
そして,その請求項1及び17に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」,及び「本願発明17」という。)は,平成22年7月23日の手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて以下のとおりのものである。

・「【請求項1】
配列番号:10及び/又は配列番号:16に記載のアミノ酸配列から成るポリペプチド。」
・「【請求項17】
疾患、例えば、細胞増殖性異常(新生物、メラノーマ、肺臓、結腸直腸、乳房、膵臓、頭部及び頚部の腫瘍並びに他の固形腫瘍を含む)、骨髄増殖性異常(例えば白血病、非ホジキン型リンパ腫、白血球減少症、血小板減少症、血管形成異常、カポジ肉腫)、自己免疫/炎症性疾患(アレルギー、炎症性大腸症、関節炎、乾癬及び気道炎症、喘息及び器官移植拒絶を含む)、心脈管系異常(高血圧、浮腫、アンギナ、アテローム性硬化症、血栓症、敗血症、ショック、再還流損傷及び虚血を含む)、神経学的異常(中枢神経系疾患、アルツハイマー病、脳損傷、筋萎縮性側索硬化症及び疼痛を含む)、発達異常、代謝異常(真性糖尿病、骨粗鬆症及び肥満を含む)、エイズ及び腎疾患、感染症(ウイルス感染、細菌感染、カビ感染及び寄生虫感染を含む)、及びTNF-様分泌タンパク質が介在する他の異常、特にC1qファミリータンパク質が介在する異常の治療を目的とする医薬の製造で使用される、請求項1または2に記載のポリペプチド、請求項3から5のいずれかに記載の核酸分子、請求項6に記載のベクター、請求項7に記載の宿主細胞、請求項8若しくは9に記載のリガンド、請求項10に記載の化合物、又は請求項15に記載の医薬組成物。」

第2 原査定の拒絶理由
これに対し,原査定の拒絶理由の一つは,本願の発明の詳細な説明は,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないというものであり,具体的には平成21年6月16日付け拒絶理由通知に記載された以下のとおりである。

「各請求項に記載される配列番号で特定されるポリペプチド又は核酸分子の発明は、発明の詳細な説明において、INSP058あるいはINSP058SVと名付けられ、その機能については、TNF-様分泌タンパク質の機能を有すると説明されている。そして、実施例においては、cDNAライブラリーからクローニングすることにより、これらの配列が特定されたことが示されている。
しかしながら、INSP058及びINSP058SVの機能は、全く具体的に示されていない。そして、公知のタンパク質として比較しても(実施例1)、何らかの技術的に意味のある機能が推認できるとも認められない。
してみれば、本願発明のポリペプチド又は核酸分子は、その有用性が不明であり、技術的に意味のある特定の用途に使用できるとは到底認めることが出来ない。
よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1?24に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。」

第3 当審の判断

1.本願発明1について
特許を受けるためには,発明の詳細な説明の記載が,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が,その実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されている必要がある(特許法36条4項1号)。
物の発明において,「実施することができる」とは,その物を作ることができ,かつ,その物を「使用することができる」ことであり,遺伝子等の化学物質に係る発明において「使用することができる」とは,当該遺伝子等が特定の機能(有用性)を有することが発明の詳細な説明に記載されることを要する。
そこで,本願発明1に係るポリペプチドについて,明細書中にその「有用性」が明らかにされ,使用できるように記載されているか検討する。

(1)本願明細書の記載
本願明細書には以下の記載がある。

ア 「配列番号:10に記載の配列を有するポリペプチドは以下では「INSP058SVポリペプチド」又は「INSP058SV」と称される。INSP0158SVポリペプチドはINSP058ポリペプチドのスプライス変種であり、エクソン3の中央部分の欠失によって生じる(配列番号:5)。前記欠失は(エクソン3の一部分の欠失と同様に)、フレームシフトを前記ヌクレオチド配列に導入し(それにより初期終止コドンが導入される)、その結果翻訳されたINSP058SVポリペプチドはINSP058ポリペプチドよりも長さがはるかに短い(図10)。INSP058SVタンパク質は、完全長のINSP058に見出されるC1qドメインとマッチするドメインを欠き、INSP058SVはINSP058のアンタゴニストであろうと提唱され、例えばレセプター上の同じ結合部について前記ポリペプチドのINSP058型と競合するであろう。そのような機構では、INSP058SVポリペプチドはレセプターを刺激することができず、したがて正常な生物学的作用は誘発されないであろう。そのようなポリペプチドはしたがって天然のポリペプチドの競合性阻害物質であろう。理論に拘束されないが、INSP058ポリペプチド及びINSP058SVポリペプチドの最初の15アミノ酸はそれぞれシグナルペプチドを形成するとの仮定が成り立つ。」(段落【0006】)
イ 「配列番号8に記載の配列を持つ該ポリペプチドは,以下において「INSP058ポリペプチド」と呼ぶ。このタンパク質は本明細書ではTNF-様分泌タンパク質と注釈を付されている。本タンパク質について特定された公知の機能を有するタンパク質とのもっとも近縁の連関は補体1qタンパク質である。補体1q(C1q)タンパク質は、結晶学的研究によってTNF及びマウスACRP30の球状gC1qドメインが近縁な三次元構造及びトリマー機構を有することが明らかにされ。TNFとC1qファミリー間の進化上の連関が指摘されているTNF関連タンパク質である。ヒトC1q遺伝子ファミリーは今日までに13メンバーを含み、前記にはコラーゲン性メンバー(例えばCRF、ACRP30、CORS26、EMILIN-1、EMILIN-2、コラーゲンVII及びX)及び非コラーゲン性メンバー(例えばプレセレベリン及びマルチメリン)が含まれる。ACRP30は豊富な血清蛋白質であり、インスリンに反応して脂肪組織で合成され、肥満マウス及びヒトでダウンレギュレートされる。C1qファミリーに関する最近の総説について以下を参照されたい:Bodmer et al. (2002) TRENDS in Biochemical Sciences 27(1):19-26。
C1qファミリーメンバーは、例えば以下のような医学的状態及び疾患の治療、予防及び/又は診断に有用であろう:細胞増殖性異常(新生物、メラノーマ、肺臓、結腸直腸、乳房、膵臓、頭部及び頚部の腫瘍並びに他の固形腫瘍を含む)、骨髄増殖性異常(例えば白血病、非ホジキン型リンパ腫、白血球減少症、血小板減少症、血管形成異常、カポジ肉腫)、自己免疫/炎症性疾患(アレルギー、炎症性大腸症、関節炎、乾癬及び気道炎症、喘息および器官移植拒絶を含む)、心脈管異常(高血圧、浮腫、アンギナ、アテローム性硬化症、血栓症、敗血症、ショック、再還流損傷及び虚血を含む)、神経学的異常(中枢神経系疾患、アルツハイマー病、脳損傷、筋萎縮性側索硬化症及び疼痛を含む)、発達異常、代謝異常(真性糖尿病、骨粗しょう症及び肥満を含む)、エイズ及び腎疾患、感染症(ウイルス感染、細菌感染、カビ感染及び寄生虫感染を含む)、及びTNF-様分泌タンパク質が介在する他の異常(特にC1qファミリータンパク質が介在するもの)。」(段落【0005】)
ウ 「実施例1:INSP058
配列番号:8をNCBIノンリダンダント配列データベースに対するBLASTクェアリー(query)として用いた。前記クェアリー配列との最適マッチはオンコリンクス・ケタ(Oncorhynchus keta)由来のotolin-1に対して得られる(図1)。図2は、INSP058クェアリー配列とオンコリンクス・ケタ由来のotolin-1の配列とのアラインメントを示す。図3は配列番号:8(INSP058ポリペプチド配列)を用い、ゲノムスレッダにより得られた上位20個の結果を示す。上位3つの結果のためのPDBコードは以下のタンパク質構造を指す:1c28鎖A,C及びB。補体-1qファミリータンパク質の結晶構造は腫瘍壊死因子との進化的連関を示唆する。図4は配列番号:8(INSP058ポリペプチド配列)と図3の上位PDB構造(1c28)との間でゲノムスレッダにより作製された構造的アラインメントを示す。
INSP058ポリペプチド配列(配列番号:8)をSignalPv2.0を用いて解析した(www.cbs.dtu.dk/services/SignalP-2.0ウェブサイトに記載されたとおり)(SignalPv2.0は、種々の生物のアミノ酸配列でシグナルペプチド切断部位の存在及び位置を予想するプログラムである)。SignalPv2.0は2つのシグナルペプチド予想方法、SignalP-NN(神経ネットワークによる)及びSignalP-HMM(隠蔽マルコフ(Markov)モデルによる)を含む。INSP058ポリペプチド配列(配列番号:8)についてのSignalPの結果は図5A及び5Bとして示されている。図5A及び5Bは、INSP058ポリペプチド配列(配列番号:8)のもっとも蓋然性の高い切断部位は15位から16位の間に存在することを示している。」(段落【0067】)

(2)判断
これらの摘記した明細書の記載からは,本願発明1に係るポリペプチドは,INSP058のC1qドメインを欠くスプライス変種であり,そのうちの配列番号10のものは,シグナルペプチドを有するものであり,INSP058のアンタゴニストであろうこと,及び,INSP058はC1qファミリータンパク質であることが明らかにされている。ところが,明細書にC1qファミリーに関する最近の総説として紹介されているBodmer et al. (2002) TRENDS in Biochemical Sciences 27(1):19-26において参考文献としてあげられているKishore et al. (2000) Immunopharmacology 49:159-170の表2に示されるように,C1qファミリータンパク質には,補体の古典経路を活性化させる機能があるC1qの他,様々な機能を有しているものが知られているのである。そうすると,INSP058がC1qファミリータンパク質というだけでは,どのような特定の機能を有しているのか明らかになったとは到底いえない。
また,請求人は,INSP058は,C1qと同様の機能を発揮するとみなすことができることを主張しているが,配列や構造に関連があるからといって,同様の機能があるとは到底いえるものではない。例えば,本願の実施例1において,INSP058とBLASTにより配列の相同性が高いとされるotolin-1は,Murayama et al.(2002)Eur.J,Biochem. 269:688-696によれば,耳石の形成に寄与しているようであるし,ゲノムスレッダによりタンパク質構造が類似するとされるPDBの1c28は,ACRP30のものであるが,上述したKishore et al. (2000) Immunopharmacology 49:159-170の表2には,インシュリンに反応して,分泌が高められ,身体のエネルギーの恒常性と栄養状態の調節に関与していることが示唆され,それぞれに,C1qと全く異なる機能であると推定されることからも,INSP058にC1qと同様の機能があるとは到底いえるものではない。
さらに,たとえINSP058の特定の機能が明らかであるとしても,INSP058のC1qドメインを欠くスプライス変種である本願発明1に係るポリペプチドは,INSP058のアンタゴニスト(場合によってはアゴニスト)として作用しないと,その特定の機能が明らかでないことになり,到底有用とはいえないのである。ところが,本願発明1に係るポリペプチドは,「レセプター上の同じ結合部」についてINSP058と競合すると予想されている(前記(1)ア)ところ,C1qドメインなどが欠けたことなどにより,上記の結合部と相互作用ができなくなった可能性も否定できない。すなわち,INSP058が競合するときに,何のレセプター上の結合部と相互作用するのか,また,当該相互作用に寄与するINSP058の部位がどこであるかも明らかにしていないのであるから,本願発明1に係るポリペプチドがアンタゴニストとしてINSP058と競合するか不明であって,その特定の機能が明らかになっているとはいえず,有用性が明らかとはいえない。
したがって,本願の明細書の記載と本願出願日における技術常識からは,本願発明1に係るポリペプチドの有用性が明らかにはなっておらず,この出願の発明の詳細な説明は,当業者が本願発明1を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。

2.本願発明17について
上記1.で判断したように,本願発明1に係るポリペプチドが,どのような機能を有しているのか明らかになっていないから,本願発明1に係るポリペプチドを,細胞増殖性異常(新生物、メラノーマ、肺臓、結腸直腸、乳房、膵臓、頭部及び頚部の腫瘍並びに他の固形腫瘍を含む)、骨髄増殖性異常(例えば白血病、非ホジキン型リンパ腫、白血球減少症、血小板減少症、血管形成異常、カポジ肉腫)、自己免疫/炎症性疾患(アレルギー、炎症性大腸症、関節炎、乾癬及び気道炎症、喘息及び器官移植拒絶を含む)、心脈管系異常(高血圧、浮腫、アンギナ、アテローム性硬化症、血栓症、敗血症、ショック、再還流損傷及び虚血を含む)、神経学的異常(中枢神経系疾患、アルツハイマー病、脳損傷、筋萎縮性側索硬化症及び疼痛を含む)、発達異常、代謝異常(真性糖尿病、骨粗鬆症及び肥満を含む)、エイズ及び腎疾患、感染症(ウイルス感染、細菌感染、カビ感染及び寄生虫感染を含む)の治療を目的とする医薬の製造に用いることができるか明らかでない。
また,本願発明1に係るポリペプチドがこれらの疾病の治療に使用できることを示す薬理試験の結果は,本願明細書に全く記載されていない。
さらに,請求人の主張するように,もし仮に,C1q拮抗剤として,C1q仲介神経疾患の治療剤としての利用性があるとしても,他の羅列されている様々な疾患の治療剤として利用できることが明らかとは到底いえない。
したがって,この出願の発明の詳細な説明は,当業者が本願発明17を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。

第4 むすび
以上のとおり,本願発明1及び17について,本願の発明の詳細な説明は,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
したがって,本願に係る他の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-02-07 
結審通知日 2013-02-12 
審決日 2013-02-25 
出願番号 特願2004-572050(P2004-572050)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田中 晴絵長谷川 茜  
特許庁審判長 鵜飼 健
特許庁審判官 新留 豊
冨永 みどり
発明の名称 TNF様分泌タンパク質  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 小川 信夫  
代理人 箱田 篤  
代理人 浅井 賢治  

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