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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F01D
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F01D
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F01D
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F01D
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F01D
管理番号 1276729
審判番号 不服2012-6841  
総通号数 165 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-04-16 
確定日 2013-07-08 
事件の表示 特願2007-168410「低圧タービン駆動方法とその低圧タービン駆動装置」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 1月31日出願公開、特開2008- 19862〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本件出願は、平成19年6月27日を出願日とする出願であって、平成23年8月24日付けで拒絶理由が通知され、平成23年11月14日付けの手続補正書によって特許請求の範囲、明細書及び図面について補正する手続補正がなされたが、平成24年1月10日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成24年4月16日に拒絶査定に対する審判請求がなされると共に、同日付けの手続補正書によって特許請求の範囲、明細書及び図面について補正する手続補正がなされ、その後、当審における平成24年8月28日付けの書面による審尋に対し、平成24年11月5日付けで回答書が提出されたものである。

第2.平成24年4月16日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成24年4月16日付けの手続補正を却下する。

[理由]

1.本件補正の内容
平成24年4月16日付けの手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、明細書に関して、その全文を補正すると共に、特許請求の範囲に関して、本件補正により補正される前の(すなわち、平成23年11月14日付けの手続補正書により補正された)特許請求の範囲の下記(1)に示す請求項1ないし2を、下記(2)に示す請求項1ないし2へと補正するものである。

(1)本件補正前の特許請求の範囲
「 【請求項1】
プロペラの回転により流体がプロペラを構成するブレード断面へ流入する角度で、局所的に推力およびトルクの発生分布の高いプロペラ先端付近に流体を吹込むことにより、プロペラを回転させる工程を有することを特徴とする低圧タービンを駆動するプロペラの回転方法。
【請求項2】
プロペラの回転により流体がプロペラを構成するブレード断面へ流入する角度で、局所的に推力およびトルクの発生分布の高いプロペラ先端付近に流体を吹込むことにより、プロペラを回転させる手段を設けたことを特徴とする請求項1の記載の低圧タービンを駆動するプロペラの回転装置。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲
「 【請求項1】
プロペラの回転により流体がプロペラを構成するブレード断面へ流入する角度で、局所的に推力およびトルクの発生分布の高いプロペラ先端付近に流体を吹込み、第1の動翼のプロペラを回転させ流体を吸引し加速する工程と、加速した流体を第1の動翼のプロペラの直径より大きな第2の動翼のプロペラに吹込み、第2の動翼のプロペラを回転させる工程と、この回転方向に合わせ第1の動翼と同じ方法で第2の動翼のプロペラを回転させ流体をさらに吸引し加速し大きな推力とする工程を有することを特徴とする低圧タービンの駆動方法。
【請求項2】
流体の流れ方向に直列に間隔を置き配置した第1の動翼のプロペラとより口径の大きな第2の動翼のプロペラからなり、いずれのプロペラもプロペラの回転で流体がプロペラを構成するブレードの断面へ流入する角度で、局所的に推力およびトルクの発生分布の高いプロペラ先端付近に流体を吹込み回転させる。第1の動翼のプロペラの回転で吸引し加速した流体を第2の動翼のプロペラ吹込み回転させながら、この回転方向に合わせ第2の動翼のプロペラの先端付近に流体を吹込みプロペラを回転させ流体をさらに吸引し加速、大きな推力とする手段を設けたことを特徴とする低圧タービン駆動装置。」

2.本件補正の適否

2-1.新規事項の追加について

(1)判断
実施例1について説明する明細書の段落【0018】を、
「【0018】
以下に本発明の実施の形態にかかるプロペラの回転方法について図1を参照しながら説明する。図1は本発明の実施形態にかかる低圧タービンを駆動するプロペラの回転方法の構成図である。図1においてプロペラの回転方法はプロペラを構成するブレード1、ブレ-ド断面2、流体吹込ノズル3、流体吹込装置4、プロペラ回転軸5で構成する。プロペラは同じ形状をもつ複数のプロペラを構成するブレード1により構成され、各々のブレード断面2はプロペラ回転軸5を中心に非対称ラセン状に配置される。流体吹込ノズル3はこの配置に対応し、各々のブレード断面2へ流体が流入する角度に応じて複数の流体吹込ノズル3を向い合せに配置する。流体がブレード断面2へ流入する角度に流体を吹込みプロペラを回転させる場合、各々のプロペラを構成するブレード1に流体が流入する角度は、ブレードの翼形において設定された角度となる。したがって、流体吹込ノズル3は各翼形に応じて設定された角度に固定し、流量で回転数を調整する。流体吹込装置4は空気であればブロアー、水であればポンプになるがその配置は流体吹込ノズル3の配置にしたがい、空気もしくは水を流体吹込ノズル3により各々のプロペラを構成するブレード1の先端部にブレード断面2へ流体が流入する角度で吹込みプロペラを回転させる。」
と補正する点について、以下に検討する。
本件補正後の段落【0018】には、第1及び第2の動翼のように2つの動翼を有することに関する記載がなく、図1には1つの動翼を備えた低圧タービンが示されていること、実施例2について説明する本件補正後の段落【0019】の「以下に本発明の実施の形態にかかる低圧タービンを複数プロペラの組合せにより連携させ駆動する場合のプロペラの回転方法について図2を参照しながら説明する。」という記載及び2つの動翼を備えた低圧タービンが示された図2からみて、本件補正後の段落【0018】には、1つの動翼を備えた低圧タービンを含めた低圧タービンの駆動装置及び駆動方法が記載されていると認められる。
しかし、本件出願の願書に最初に添付された明細書及び図面(以下、「当初明細書等」という。)の、例えば段落【0015】の「本発明は第1の動翼のプロペラを、…(中略)…回転させ、周辺の流体を吸引し加速する。加速した流体を…(中略)…第2の動翼のプロペラに吹付け回転させる。この回転方向に合わせ第2の動翼のプロペラを第1の動翼のプロペラと同じ方法で回転させ、さらに流体を吸引し加速することにより大きな推力を得る低圧タービンの駆動方法とその低圧タービン駆動装置である。」という記載、当初明細書等の段落【0021】及び【0022】並びに図1に記載された実施例1は第1及び第2の動翼を備えており、また、当初明細書等の段落【0023】及び【0024】並びに図2に記載された実施例2は、低圧タービン駆動方法のうち特にプロペラへの流体吹込方法について説明したものであることからみて、当初明細書等に、1つの動翼を備えた低圧タービンに関して記載されていたとは認められないし、当初明細書等の記載から自明であるとも認められない。

よって、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものである。

(2)むすび
(1)のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

2-2.目的要件違反について
仮に、本件補正が2-1.で述べた新規事項の追加に当たらないとしても、以下に述べるように目的の要件を満たしていない。

(1)判断
特許請求の範囲の請求項1に関する本件補正は、「加速した流体を第1の動翼のプロペラの直径より大きな第2の動翼のプロペラに吹込み、第2の動翼のプロペラを回転させる工程と、この回転方向に合わせ第1の動翼と同じ方法で第2の動翼のプロペラを回転させ流体をさらに吸引し加速し大きな推力とする工程」を追加するものを含むものである。しかし、当該工程は、1.(1)に示した本件補正前の特許請求の範囲の請求項1及び請求項2に記載された発明の発明特定事項によって特定される工程とは異なる工程である。
したがって、特許請求の範囲の請求項1に関する本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1及び請求項2に記載されたいずれの発明の発明特定事項を限定するものでもない。

よって、特許請求の範囲に関する本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲を目的とするものでないものを含み、さらに、同項第1号の請求項の削除、同項第3号の誤記の訂正あるいは同項第4号の明りょうでない記載の釈明を目的とするものでもなく、同項各号に掲げるいずれにも該当しない。

(2)むすび
(1)のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

2-3.独立特許要件違反について
仮に、本件補正が2-1.で述べた新規事項の追加に当たらないものであり、さらに2-2.で述べた目的要件違反の補正にも当たらず、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものに該当するとして、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定される上記1.(2)【請求項1】のとおりの発明(以下、「本件補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下に検討する。

2-3-1.特許法第36条第4項第1号について

(1)判断

ア.本件補正後の明細書の段落【0001】の「本発明は、高温高圧の燃焼ガスもしくは蒸気を駆動流体とする高圧タービンに代え、常温常圧の空気もしくは常温の水を駆動流体に複数プロペラの組合せでタービンを構成し、個々プロペラの口径、回転数、ブレード枚数と回転方法により発生推力およびトルクを調整し、少ない動力で大きな推力をつくり、航空機もしくは船舶の推進用動力、ないし推力をプロペラ風車もしくは水車に受け、トルクに転換し発電をおこなう発電用動力として使用する低圧タービン駆動方法とその低圧タービン駆動装置に関するものである。」という記載から、本件補正発明は航空機もしくは船舶の推進用動力ないし推力からトルクを得るための低圧タービン駆動方法及び駆動装置に関するものと解される。
その一方で、段落【0009】の「本発明においては、…(中略)…大きな推力が得られる簡素な機構の駆動装置の選定を課題とする。」という記載や、段落【0012】の「本発明は…(中略)…より大きな推力を得る低圧タービンの駆動方法とその低圧タービンの駆動装置である。」という記載からは、本件補正発明は低圧タービンのプロペラに与えられたトルクから推力を得るための低圧タービン駆動方法及び駆動装置であると解される。
両者は投入するエネルギー及び取り出すエネルギーの形態が異なっており、本件補正発明がトルクを得るための方法であるのか推力を得るための方法であるのかが不明確である。

イ.本件補正後の明細書の段落【0014】の「第1の動翼のプロペラで吸引し加速した流体を、第1の動翼より直径の大きな第2の動翼のプロペラに吹付け回転させ、この回転方向に合わせ第2の動翼のプロペラを第1の動翼のプロペラと同じ方法で回転させることによりプロペラの回転に要する動力は低減する。」という記載、段落【0015】の「第2の動翼のプロペラの直径は第1の動翼のプロペラの直径より大きく、より大きなトルクを発生する。プロペラで加速された流体は収束し拡散する。したがって、第1の動翼のプロペラで加速した流体の拡散域を第2の動翼のプロペラの直径に準じた範囲に合わせるようにプロペラ間隔を調整し、第1の動翼のプロペラで加速した流体により第2の動翼のプロペラを回転させれば、第2の動翼のプロペラ回転用のブロアーもしくはポンプの所要電力はさらに低減する。」という記載及び段落【0019】の「前プロペラ6の回転により流体は吸引・加速され、この流体で後プロペラ円筒形外殻12に後プロペラ支持材13で固定された後プロペラ11を回転させ」という記載からは、第2の動翼ないし後プロペラは、第1の動翼ないし前プロペラで加速された流体によって回転されていると理解される。この場合、第2の動翼ないし後プロペラは、第1の動翼ないし前プロペラにより生じた流体の運動エネルギーをプロペラの回転エネルギーに変換する機能を果たしている。
一方、段落【0019】の「後プロペラ11の回転により流体はさらに吸引・加速され、後プロペラ円筒形外殻12と前プロペラ円筒形外殻7との口径差の空間を介し大きな推力になる。」という記載からは、第2の動翼ないし後プロペラは、第1の動翼ないし前プロペラにより加速された流体をさらに加速し、運動エネルギーを追加していると理解される。
第1の動翼ないし前プロペラにより生じた流体の運動エネルギーを使ってプロペラの回転エネルギーを生じることと、あるいは流体に運動エネルギーを追加することとでは、第2の動翼ないし後プロペラが果たす機能が全く異なるため、本件補正発明の第2の動翼の果たすべき機能が不明である。

ウ.本件補正後の明細者の段落【0020】には、「以上に説明において、本実施形態にかかる低圧タービンを駆動するプロペラの回転方法方法は、常温常圧の空気もしくは水を流体とし…(中略)…駆動流体も燃焼による高温高圧のガスではなく、常温常圧の空気もしくは水を吹込用のブロアーもしくはポンプで吹込むため運転経費はかからず、二酸化炭素の発生が抑制された効率の良い低圧タービンを駆動する方法となる。」と記載されている。
しかし、発明の詳細な説明には、本件補正発明の「第1の動翼」及び「第2の動翼」のプロペラを回転させるためにプロペラ先端付近に流体を吹込むブロアーもしくはポンプの駆動源に関し、「運転経費がかからず、二酸化炭素の発生が抑制された」ものとするための具体的な技術的手段がなんら示されていない。

(2)むすび
(1)のとおり、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件補正発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえないから、特許法第36条第4項第1号の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

2-3-2.特許法第29条第2項について

(1)引用文献1の記載
本件出願前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2006-138206号公報(以下、「引用文献1」という。)には、例えば、次の記載がある。

ア.「【0001】
本発明は、PDE(パルスデトネーションエンジン)でチップタービンを駆動するファンエンジンに関する。」(段落【0001】)

イ.「【0013】
本発明によれば、ファンの先端部に固定されたチップタービンと、該チップタービンにデトネーションで発生する高速排気流を噴射するデトネーション管を有するパルスデトネーションエンジンとを備え、前記高速排気流によりチップタービンを駆動する、ことを特徴とするPDE駆動チップタービンファンエンジンが提供される。
この構成により、ファン駆動用のコアエンジンが不要であり、エンジン構成も単純化されるため、軽量化が可能となる。
【0014】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記デトネーション管の排気口は、チップタービンの駆動に適した向きに設定され、排気口を出た高速排気流を偏向することなくチップタービンに向けて噴射する。
この構成により、排気流速を低下させるためのダンパーなどが不要となり、パルスデトネーションエンジンの排気を高速流のままタービンに噴射ことができるため、高効率作動が可能となる。」(段落【0013】及び【0014】)

ウ.「【0023】
図2は、本発明のPDE駆動チップタービンファンエンジンの第1実施形態図である。この図において、(A)は正面図、(B)はB-B断面図、(C)はC-C矢視図である。
【0024】
図2において、本発明のPDE駆動チップタービンファンエンジン10は、チップタービン12とパルスデトネーションエンジン14とを備える。
チップタービン12は、ファン11の先端部に固定され、ファン11を回転駆動するように構成された翼列である。
【0025】
パルスデトネーションエンジン14は、ファンナセル13内に収容された複数の螺旋状または円弧状のデトネーション管14aを有する。また、各デトネーション管14aの排気口は、チップタービン12の駆動に適した向きに設定され、チップタービン12にデトネーションで発生する高速排気流5を、排気口から偏向することなくチップタービンに向けて噴射し、この高速排気流によりチップタービンを駆動するようになっている。
なおこの例において、デトネーション管14aの排気口は、管の軸心に対して斜めに切断されているが、本発明はこの構成に限定されず、デトネーション管を3次元的に曲げて構成してもよい。」(段落【0023】ないし【0025】)

エ.「【0030】
図4は、本発明のPDE駆動チップタービンファンエンジンの第3実施形態図である。この図において、(A)は多段ファンが正回転ファンである場合、(B)は多段ファンが逆回転ファンである場合を示している。
この例において、本発明のPDE駆動チップタービンファンエンジン10は、パルスデトネーションエンジン14の他に、多段ファン32、及び多段ファン32で駆動される低圧コンプレッサ33を備える。
【0031】
多段ファン32は、ファン11、チップタービン12(動翼列)、静翼ファン15及び静翼列16が多段(複数)に直列配置されている。各チップタービン12は、各ファン11の先端部に固定され、ファンナセル13内に収容され各ファン11を順次回転駆動するように構成されている。
【0032】
パルスデトネーションエンジン14は、ファンナセル13内に収容された複数のデトネーション管14aを有する。デトネーション管14aは、螺旋状または円弧状でも直管でもよい。
デトネーション管14aが螺旋状または円弧状の場合、各デトネーション管14aの排気口は、チップタービン12の駆動に適した向きに設定され、チップタービン12にデトネーションで発生する高速排気流5を、排気口から偏向することなくチップタービンに向けて噴射し、この高速排気流によりチップタービンを駆動する。
また、デトネーション管14aが直管の場合は、ノズルを設け、ノズルにより高速排気流5を、チップタービンに適した向きに偏向し、この高速排気流によりチップタービンを駆動する。
また低圧コンプレッサ33は、多段ファン32で駆動され、この低圧コンプレッサ33で圧縮した圧縮空気をパルスデトネーションエンジン14に供給するようになっている。」(段落【0030】ないし【0032】)

オ.「【0034】
上述したように、本発明は、パルスデトネーションエンジン(PDE)によりチップタービンを駆動するファンエンジンであり、PDEの高速排気流をチップタービン駆動に利用する。またPDEは円曲管状とし、ファンナセル内に納める。
従ってファン駆動用のコアエンジンが不要であり、エンジン構成も単純化されるため、軽量化が可能となる。また、PDE高速排気をダンピングする必要もなくなるため、高効率エンジンとなる。
【0035】
またPDE高速排気流を有効利用するため、周速が高いチップタービン駆動に利用する。この理由は、タービンで有効に仕事を得るには、ガス流速とタービン周速が同レベルである必要があるためである。
これにより、排気流速を低下させるためのダンパーなどが不要となり、PDE排気を高速流のままタービンに噴射ことができるため、高効率作動が可能となる。
さらにPDEに必要な空気流量はガスタービンよりも少ないため、高バイパス、高効率エンジンが可能となる。
また、PDEはガスタービンよりも軽量であり、かつ形状自由度があるため、ファンナセル内にコンパクトに納めることが可能であり、エンジン全体の軽量、小型化が可能となる。
従って、本発明のPDE駆動チップタービンファンエンジンは、亜音速航空機の軽量、高効率エンジンとして有望である。」(段落【0034】及び【0035】)

(2)引用文献1の記載から分かること
上記(1)ア.ないしオ.及び図面の記載から、下記の事項カ.及びキ.が分かる。

カ.上記(1)ア.ないしウ.及びオ.並びに図2から、引用文献1には、ファン11の先端部に固定されたチップタービン12にデトネーション管から局所的に高速排気流を噴射することによってチップタービンを駆動する方法が記載されていることが分かる。また、デトネーション管の排気口は、チップタービン12の駆動に適した向きに設定されていることが分かる。

キ.上記(1)エ.及び図4から、引用文献1には、多段ファン32において、チップタービン12が先端部に固定された2段のファン11を直列配置し、各ファンを共にデトネーション管からの高速排気流による同じ方法で順次回転駆動する方法が記載されていることが分かる。また、低圧コンプレッサ33から遠く、多段ファン32の上流側に配置されるファン11(以下、便宜的に「第1のファン」という。)によって加速された空気は、低圧コンプレッサ33に近く、多段ファン32の下流側に配置されるファン11(以下、便宜的に「第2のファン」という。)に吹き込み、そのとき第2のファンはデトネーション管からの高速排気流によって回転することによって空気をさらに加速し、大きな推力を発生させていることが分かる。

(3)引用文献1に記載された発明
上記(1)ア.ないしオ.及び(2)カ.及びキ.並びに図面から、引用文献1には以下の発明(以下、「引用文献1記載の発明」という。)が記載されているといえる。

「チップタービン12の駆動に適した向きに、局所的にチップタービン12にデトネーション管から高速排気流を噴射し、第1のファンを回転させ空気を吸引し加速する工程と、加速した空気を第2のファンに吹込み、第2のファンを回転させる工程と、第1のファンを回転させた方法と同じ方法で第2のファンを回転させ空気をさらに吸引し加速し大きな推力とする工程を有する多段ファン32の駆動方法。」

(4)対比
本件補正発明と引用文献1記載の発明とを対比すると、引用文献1記載の発明における「チップタービン12」は、その機能、構成及び技術的意味からみて、本件補正発明における「推力およびトルクの発生分布の高いプロペラ先端付近」に相当し、以下同様に、「デトネーション管から高速排気流を噴射し」は「流体を吹込み」に、「第1のファン」は「第1の動翼のプロペラ」に、「空気」は「流体」に、「第2のファン」は「第2の動翼のプロペラ」に、「第1のファンを回転させた方法と同じ方法」は「第1の動翼と同じ方法」に、「多段ファン32」は「低圧タービン」に、それぞれ相当する。
また、引用文献1記載の発明における「チップタービン12の駆動に適した向きに」は、本件補正発明における「プロペラの回転により流体がプロペラを構成するブレード断面へ流入する角度で」に、「駆動対象となる翼の駆動に適した角度で」という限りにおいて相当する。

したがって、本件補正発明と引用文献1記載の発明とは、
「駆動対象となる翼の駆動に適した角度で、局所的に推力およびトルクの発生分布の高いプロペラ先端付近に流体を吹込み、第1の動翼のプロペラを回転させ流体を吸引し加速する工程と、加速した流体を第2の動翼のプロペラに吹込み、第2の動翼のプロペラを回転させる工程と、第1の動翼と同じ方法で第2の動翼のプロペラを回転させ流体をさらに吸引し加速し大きな推力とする工程を有する低圧タービンの駆動方法。」
である点で一致し、次の点において相違する。

ア.駆動対象となる翼の駆動に適した角度が、本件補正発明においては「プロペラの回転により流体がプロペラを構成するブレード断面へ流入する角度」であるのに対し、引用文献1記載の発明においては「チップタービン12の駆動に適した向き」である点(以下、「相違点1」という。)。

イ.本件補正発明においては、「第1の動翼のプロペラの直径より大きな第2の動翼のプロペラ」であるのに対し、引用文献1記載の発明においては、第1のファンの直径より大きな第2のファンであるのか不明である点(以下、「相違点2」という。)。

ウ.本件補正発明においては、「この回転方向に合わせ第1の動翼と同じ方法で第2の動翼のプロペラを回転させ」ると特定されており、第2の動翼の回転方向は第1の動翼のプロペラにより加速された流体が第2の動翼のプロペラを回転させる方向であるのに対し、引用文献1記載の発明においては、第2のファンの回転方向は不明である点(以下、「相違点3」という。)。

(5)判断
上記相違点について検討する。

ア.相違点1について
ファンを構成するブレードに流体を吹込むことによって回転駆動することは、引用文献1記載の発明において行われているほか、本件出願前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2001-294200号公報(以下、「引用文献2」という。)でも採用されているところであり(例えば、段落【0007】及び図2参照。)、ファンを回転駆動するためにブレードに吹込む流体の流入角度は、通常、引用文献1に記載されるように、駆動に適した向きに設計される。また、駆動効率の高い流入角度は、ブレードの翼型等によって定まる値である。
そして、引用文献1記載の発明において、チップタービン12の駆動に適した向きは、当業者がチップタービン12の翼型等に応じて適宜設計可能であるから、相違点1に係る本件補正発明の発明特定事項のように特定することは、当業者が容易に想到し得たことである。

イ.相違点2について
多段ファンにおいて、各ファンの大きさは、ファン通過後における流体の流束形状や所望の流体流量等に応じて適宜決定できる事項である。
したがって、引用文献1記載の発明において、ファンの軸形状を考慮してファンナセル13の形状を変更する等によって、相違点2に係る本件補正発明の発明特定事項のように特定することは、当業者が容易に想到し得たことである。

ウ.相違点3について
引用文献1記載の発明において、第2のファンを回転させ空気をさらに吸引し加速し大きな推力とするためには、必然的に、第1の動翼のプロペラにより加速された流体が第2の動翼のプロペラに吹込んだ場合に第2の動翼のプロペラが回転する方向に回転させる必要があることは自明である。
したがって、引用文献1記載の発明において、第2のファンの回転方向について、相違点3に係る本件補正発明の発明特定事項のように特定することは、当業者が容易に想到し得たことである。

さらに、本件補正発明の全体構成でみても、引用文献1記載の発明から予測できる作用効果以上の顕著な作用効果を奏するものでもない。

(6)むすび
(5)のとおり、本件補正発明は、引用文献1記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

2-3-3.独立特許要件のむすび
2-3-1.及び2-3-2.のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.むすび
本件補正は、上記2-1.ないし2-3.に示したとおり、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、結論のとおり決定する。

第3.本願発明について
1.本願発明
上記のとおり、平成24年4月16日付けの手続補正は却下されたため、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成23年11月14日付けの手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、第2.1.(1)【請求項1】のとおりのものである。

2.引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献及びその記載事項は、第2.2-3.2-3-2.(1)ないし(3)に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、本件補正発明から「プロペラの回転により流体がプロペラを構成するブレード断面へ流入する角度で、局所的に推力およびトルクの発生分布の高いプロペラ先端付近に流体を吹込」み回転させる対象が「第1の動翼のプロペラ」であるとの発明特定事項と、「加速した流体を第1の動翼のプロペラの直径より大きな第2の動翼のプロペラに吹込み、第2の動翼のプロペラを回転させる工程と、この回転方向に合わせ第1の動翼と同じ方法で第2の動翼のプロペラを回転させ流体をさらに吸引し加速し大きな推力とする工程」の発明特定事項とを省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の発明特定事項を付加したものに相当する本件補正発明が、第2.2-3.2-3-2.に記載したとおり、引用文献1記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由によって、引用文献1記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-03-26 
結審通知日 2013-04-16 
審決日 2013-05-01 
出願番号 特願2007-168410(P2007-168410)
審決分類 P 1 8・ 561- WZ (F01D)
P 1 8・ 572- WZ (F01D)
P 1 8・ 575- WZ (F01D)
P 1 8・ 121- WZ (F01D)
P 1 8・ 536- WZ (F01D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石黒 雄一  
特許庁審判長 小谷 一郎
特許庁審判官 久島 弘太郎
金澤 俊郎
発明の名称 低圧タービン駆動方法とその低圧タービン駆動装置  

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