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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08L
管理番号 1276806
審判番号 不服2011-9157  
総通号数 165 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-04-28 
確定日 2013-07-18 
事件の表示 特願2004-226444「液晶ポリエステル樹脂組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 2月16日出願公開、特開2006- 45298〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 主な手続の経緯
本願は,平成16年8月3日を出願日とする特許出願であって,平成23年2月3日付けで拒絶査定がされ,これに対して,同年4月28日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に特許請求の範囲が補正され,平成25年2月5日付けで拒絶理由(以下「本件拒絶理由」という。)が通知されたものである。
なお,本件拒絶理由に対して,指定期間内に,特許法50条所定の意見書は提出されておらず,願書に添付した明細書なども補正されていない。

第2 特許を受けようとする発明(特許請求の範囲の記載)について
特許を受けようとする発明は,平成23年4月28日付けで補正された特許請求の範囲並びに明細書(以下「本願明細書」という。)の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるとおりのものであり,そのうち,請求項1の記載は次のとおりである。(以下,請求項1に係る発明を「本願発明1」という。)
「液晶ポリエステル100重量部に対し,
ホウ酸アルミニウムウイスカおよび酸化チタンウイスカよりなる群から選ばれる一種以上のウイスカを50?150重量部,ならびに
比表面積が200m^(2)/g以上であるカーボンブラックを1?30重量部含む液晶ポリエステル樹脂組成物。」

第3 本件拒絶理由
本件拒絶理由は,要するに,この出願は特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に規定する要件(いわゆるサポート要件)を満たしていない,というものである。

第4 本願が拒絶されるべき理由
1 本願明細書の記載
本願明細書には次の記載がある(なお,下線は,審決による。)。
「液晶ポリエステルは電気・電子分野で求められる種々の性質に優れていることから,各種の電気・電子分野で幅広く利用されている。例えば,液晶ポリエステル100重量部に対し5?35重量部のホウ酸アルミニウムウイスカを含む液晶ポリエステル樹脂組成物は機械的性質に優れることが知られている(特許文献1)。また,液晶ポリエステル100重量部に対し,5?43重量部のカーボンブラックを含む液晶ポリエステル樹脂組成物が知られている(特許文献2)。
【特許文献1】特開平5-230342号公報
【特許文献2】特開昭62-131067号公報」(【0002】)
「しかしながら,特許文献1記載の液晶ポリエステル樹脂組成物は帯電し易く,この帯電により電子精密回路に影響を及ぼす問題があった。また,特許文献2記載の液晶ポリエステル樹脂組成物は導電性を有するため,上記の帯電に由来する問題は生じないが,電子精密回路の回路以外の部材のように,通電してしまっては困る用途には用いられず,さらに,この液晶ポリエステル樹脂組成物は機械的性質に劣る等の問題があった。本発明者らがさらに検討したところ,液晶ポリエステルに対するカーボンブラックの含有量を単に変化させただけでは,得られた液晶ポリエステル樹脂組成物の導電性が急激に変化するため,帯電しにくい絶縁体を得ることが困難であることを見出した。
本発明の目的は,優れた機械的性質を有し,かつ帯電しにくい絶縁体として用いられる液晶ポリエステル樹脂組成物を提供することにある。」(【0003】)
「本発明によれば,優れた機械的性質を有し,かつ体積固有抵抗値が10^(4)?10^(7)オーム・mの範囲となるような液晶ポリエステル樹脂組成物を提供することができる。」(【0005】)
「次に本発明に使用するホウ酸アルミニウムウイスカおよび酸化チタンウイスカについて説明する。…
上記ホウ酸アルミニウムウイスカおよび酸化チタンウイスカよりなる群から選ばれる一種以上のウイスカは,液晶ポリエステル100重量部に対し50?150重量部を通常用いるが,この使用量は50?130重量部の範囲が好ましく,50?100重量部の範囲がさらに好ましい。
上記ウイスカの使用量が少ないと,液晶ポリエステル樹脂組成物からなる成形体の強度が低下する傾向があり,多すぎると,得られた液晶ポリエステル樹脂組成物の溶融粘度が上昇し,取扱い性が低下する傾向がある。」(【0022】)
「次に本発明に使用するカーボンブラックについて説明する。
本発明に使用するカーボンブラックは,液晶ポリエステル100重量部に対し1?30重量部の範囲であるが,この使用量は3?20重量部の範囲が好ましい。
上記カーボンブラックの使用量が少ないと,液晶ポリエステル樹脂組成物からなる成形体の帯電を防止する効果が低下する傾向があり,多すぎると,得られた液晶ポリエステル樹脂組成物の強度が低下する傾向がある。
本発明に使用するカーボンブラックの比表面積は200m^(2)/g以上である。比表面積が少ないと,液晶ポリエステル樹脂組成物からなる成形体の帯電を防止する効果が低下する傾向がある。
この比表面積は200?3000m^(2)/gの範囲が好ましく,500?1500m^(2)/gの範囲が更に好ましい。
なお比表面積はBET法により測定する。」(【0025】?【0026】)
「以下,本発明を実施例に基づいて説明するが,本発明が実施例により限定されるものでないこと言うまでもない。なお,実施例中の物性等は次の方法で測定した。
(1)体積固有抵抗
64mm×64mm×1mmtの試験片を用い,マルチメータ3557A(ヒューレッドパッカード社製)にて測定を行った。
(2)引張強度
ASTM 4号ダンベル用い,ASTM D638に準拠して測定を行った。」(【0032】)
「実施例および比較例
参考例で得られた液晶ポリエステルを用いて表1に示す組成をヘンシェルミキサーで混合後,二軸押し出し機(池貝鉄工株式会社製 PCM30型)を用いて,シリンダー温度340℃で造粒し,液晶ポリエステル樹脂組成物を得た。この液晶ポリエステル樹脂組成物を120℃で12時間乾燥後,射出成形機(日精樹脂工業株式会社製 PS40E5ASE型)を用いてシリンダー温度370℃,金型温度130℃で64mm×64mm×1mmt,およびASTM4号ダンベルを成形した。これらの試験片を用い,各測定を行った。結果を下記表1に示す。」(【0035】)
「【表1】

ホウ酸アルミニウムウィスカ:アルボレックスY(四国化成工業株式会社製)
カーボンブラック1:ケッチェンEC(ライオン株式会社製)
カーボンブラック2:ケッチェンEC-600DJ(ライオン株式会社製)
カーボンブラック3:デンカブラック(電気化学工業株式会社製)」(【0036】)

2 本願がサポート要件を満たさない具体的理由について(本件拒絶理由において通知した内容と同じ。)
(1) 請求項1の記載について
ア 本願明細書の記載によれば,本願発明1は,優れた機械的性質を有しかつ帯電しにくい絶縁体(体積固有抵抗値10^(4) ?10^(7)Ω・m)として用いられる液晶ポリエステル樹脂組成物を提供することを解決課題とするものであり(【0003】,【0005】),発明の詳細な説明の実施例以外の記載によれば,本願発明1は,液晶ポリエステル100重量部に対し,ホウ酸アルミニウムウイスカおよび酸化チタンウイスカよりなる群から選ばれる一種以上のウイスカを50重量部以上含有させることで当該組成物からなる成形体の強度の低下を抑制し,150重量部以下とすることで当該組成物の溶融粘度の上昇を抑えて取扱い性の低下を抑制し(【0022】),また,液晶ポリエステル100重量部に対し,カーボンブラックの使用量を1重量部以上とすることで当該組成物からなる成形体の帯電防止効果を生じせしめ,30重量部以下とすることで組成物の強度の低下を抑制し(【0025】),さらに,カーボンブラックの比表面積を200m^(2)/g以上とすることで当該組成物からなる成形体の帯電防止効果の低下を抑制して(【0026】),もって,発明の上記課題を解決するものであるとのことである。
なお,本願発明1について直接説明するものではないが,ホウ酸アルミニウムウィスカが液晶ポリエステル樹脂組成物の機械的性質を向上させるのは,技術常識とのことである(【0002】)。

イ しかし,本願明細書の実施例及び比較例の対比(表1)からは,上述したような発明の解決課題とその課題解決手段との関係をみることができない。
すなわち,「比較例3」と「実施例1,3及び4」との対比から,カーボンブラック1を9重量部(実施例1),16重量部(実施例3),カーボンブラック2を4重量部(実施例4)含有させることで,帯電しにくい絶縁体(体積固有抵抗値10^(4) ?10^(7)Ω・m)を得るとの解決課題の達成は理解できるものの(比較例3:10^(16)Ω・m),機械的性質である引張強度については,ホウ酸アルミニウムウィスカが同量含まれているにもかかわらず,低下傾向が見られる(比較例3:145MPa,実施例1:141MPa,実施例3:116MPa,実施例4:138MPa)。
また,「実施例1」と「比較例4」との対比から,ホウ酸アルミニウムウィスカを含有せず,カーボンブラック1を9重量部含有してなる液晶ポリエステル(比較例4。体積固有抵抗値10^(1)Ω・m)について,ホウ酸アルミニウムウィスカを71重量部含有させることで,体積固有抵抗を増加させて,帯電しにくい絶縁体を得るといった解決課題の達成が理解できるものの(実施例1:10^(5)Ω・m),機械的性質である引張強度の向上については殆どみられない(比較例4:140MPa,実施例1:141MPa)。

ウ そうすると,本願明細書の全体の記載からは,本願発明1の解決課題(機械的性質の向上,帯電しにくい絶縁体)とその解決手段(ウイスカ,カーボンブラックの含有量)との間に,特定の関連性を見いだすことができない。すなわち,本願明細書は,解決課題とその解決手段の関係の技術的な意味が,当業者に理解できる程度に記載されているということはできない。(また仮に,本願明細書の記載から,ホウ酸アルミニウムウィスカを含有させることと解決課題との関係が理解できるといえたとしても,酸化チタンウィスカについて,【0022】以外に具体的記載のない本願明細書の記載からは,酸化チタンウイスカの含有と解決課題との関係が理解できるとは到底いえない。)
よって,本願発明1は,本願明細書の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるということはできず,また,当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということもできないから,本願発明1は,発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものであるといわざるを得ない。請求項1の記載は,いわゆるサポート要件に違反するものである。

エ 請求人は,平成22年11月4日付け意見書において,ホウ酸アルミニウムウィスカ及びカーボンブラックの含有量を本願発明1で特定する範囲とすることで,帯電しにくい絶縁体(体積固有抵抗値10^(4) ?10^(7)Ω・m)が得られる旨主張する。
しかし,請求人の上記主張は,出願の後に補充した実験結果(実験成績証明書)を踏まえたものであるところ,このような発明の効果は,本願当初明細書において明らかにしていなかった事項であり,しかも本願当初明細書に当業者において当該効果を認識できる程度の記載やこれを推論できる記載があるとは認められない。
なるほど,実験成績証明書の比較例4,比較実験例3及び実施例1の対比からは,ホウ酸アルミニウムウィスカが体積固有抵抗を増加させるべく機能するものであることが理解され,この限りで,本願明細書の記載と合致しているようにみえる。他方,比較実験例1,比較実験例2及び実験例1は,ホウ酸アルミニウムウィスカが体積固有抵抗を下げるべく機能するものであることを示しているが,このような作用効果の発現は本願明細書に全く記載のないものである。
よって,上記実験結果を参酌することは許されず,当該実験結果に基づく請求人の主張は採用できない。

(2) 請求項2?3の記載について
請求項2?3は請求項1のいわゆる従属項であり,それらの記載には,上記(1)と同様の拒絶理由がある。

第5 むすび
請求人は,本件拒絶理由に対して,意見書を提出するなどの反論を何らしていない。そして,以上のとおり,本件拒絶理由は妥当なものであって,これを覆すに足りる根拠が見いだせないから,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-05-14 
結審通知日 2013-05-21 
審決日 2013-06-03 
出願番号 特願2004-226444(P2004-226444)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (C08L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岡▲崎▼ 忠  
特許庁審判長 渡辺 仁
特許庁審判官 小野寺 務
須藤 康洋
発明の名称 液晶ポリエステル樹脂組成物  
代理人 坂元 徹  
代理人 中山 亨  
代理人 中山 亨  
代理人 坂元 徹  

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