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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A62B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A62B
管理番号 1276825
審判番号 不服2012-14084  
総通号数 165 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-07-23 
確定日 2013-07-18 
事件の表示 特願2007-148446「マスク」拒絶査定不服審判事件〔平成20年12月11日出願公開、特開2008-295961〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本件出願は、平成19年6月4日の出願であって、平成23年12月15日付けの拒絶理由通知に対して平成24年2月20日付けで意見書が提出されるとともに同日付けの手続補正書により特許請求の範囲について補正する手続補正がなされたが、平成24年4月20日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成24年7月23日に拒絶査定に対する審判請求がされると同時に、同日付けの手続補正書により特許請求の範囲について補正する手続補正がなされ、その後、当審における平成24年11月8日付けの書面による審尋に対して平成25年1月15日付けで回答書が提出されたものである。

第2.平成24年7月23日付けの手続補正についての補正却下の決定
〔補正却下の決定の結論〕
平成24年7月23日付けの手続補正を却下する。
〔理由〕
1.本件補正について
(1)本件補正の内容
平成24年7月23日付けの手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲に関して、本件補正により補正される前の(すなわち、平成24年2月20日付けの手続補正により補正された)下記(a)に示す請求項1ないし16を、下記(b)に示す請求項1ないし15と補正するものである。

(a)本件補正前の請求項1ないし16
「【請求項1】
通気性を有し、口及び鼻孔を覆うマスク本体と、
前記マスク本体の両端部に設けられ、当該マスク本体を顔に保持するための一対の耳掛け部と、
前記マスク本体に装着され、保水液が含浸される吸収性コアと、を備え、
前記マスク本体は、顔への装着時に口及び鼻孔との間に空間を形成するように構成され、
前記吸収性コアは、前記マスク本体において前記空間と対向する領域に配置される、マスク。
【請求項2】
前記空間の体積は、10cm^(3)以上である請求項1に記載のマスク。
【請求項3】
前記マスク本体は、左右均等に折りたたんだ際に折り目となる縦中央線を有しており、
前記縦中央線は、前記マスク本体を折りたたんだときに、少なくとも一部が平面視で円弧状に形成されている、請求項1又は2に記載のマスク。
【請求項4】
前記マスク本体は、前記縦中央線を挟む一対のマスク片から構成され、
前記吸収性コアは、前記各マスク片にそれぞれ装着されている、請求項3に記載のマスク。
【請求項5】
前記吸収性コアは、前記縦中央線から離れる側の下端の角部が切り取られている請求項4に記載のマスク。
【請求項6】
前記マスク本体は、少なくとも2枚のシート材を重ね合わせることで、構成され、
前記吸収性コアは、前記隣接する2枚のシート材の間に配置されている、請求項1から5のいずれかに記載のマスク。
【請求項7】
前記吸収性コアを挟む2枚のシートは、複数の接着部において接着されており、
前記接着部は、前記吸収性コアの周縁の少なくとも一部を囲むように構成されている、
請求項6に記載のマスク。
【請求項8】
前記吸収性コアは、目付が、200?1000g/m2の繊維素材を有している、請求項1から7のいずれかに記載のマスク。
【請求項9】
前記繊維素材は、パルプを含有している、請求項8に記載のマスク。
【請求項10】
前記繊維素材は、エアレイド法により製造されている、請求項8または9に記載のマスク。
【請求項11】
前記吸収性コアは、前記繊維素材を挟む一対の不織布シートをさらに備えている、請求項8から10のいずれかに記載のマスク。
【請求項12】
前記一対の不織布シートのうち、一方の不織布シートが疎水性を有し、他方の不織布シートが親水性を有している、請求項11に記載のマスク。
【請求項13】
前記吸収性コアには、1.3?30gの保水液が含浸されている、請求項8から12のいずれかに記載のマスク。
【請求項14】
前記保水液は、水に、ポリオールが10?50重量%配合されてなる、請求項13に記載のマスク。
【請求項15】
前記空間の体積a(cm3)と、前記吸収性コアに保水液として含浸される水の質量b(g)との関係が、
0.8/70 × a + 1.2 ≦ b
を満たす、請求項1から13のいずれかに記載のマスク。
【請求項16】
前記マスク本体の通気度が、5?150cm3/cm2・secである、請求項1から15のいずれかに記載のマスク。」

(b)本件補正後の請求項1ないし15
「【請求項1】
通気性を有し、口及び鼻孔を覆うマスク本体と、
前記マスク本体の両端部に設けられ、当該マスク本体を顔に保持するための一対の耳掛け部と、
前記マスク本体に装着され、保水液が含浸される吸収性コアと、を備え、
前記マスク本体は、顔への装着時に口及び鼻孔との間に空間を形成するように構成され、
前記吸収性コアは、前記マスク本体において前記空間と対向する領域に配置され、
前記空間の体積は、30?200cm^(3)以上である、マスク。
【請求項2】
前記マスク本体は、左右均等に折りたたんだ際に折り目となる縦中央線を有しており、
前記縦中央線は、前記マスク本体を折りたたんだときに、少なくとも一部が平面視で円弧状に形成されている、請求項1に記載のマスク。
【請求項3】
前記マスク本体は、前記縦中央線を挟む一対のマスク片から構成され、
前記吸収性コアは、前記各マスク片にそれぞれ装着されている、請求項2に記載のマスク。
【請求項4】
前記吸収性コアは、前記縦中央線から離れる側の下端の角部が切り取られている、請求項3に記載のマスク。
【請求項5】
前記マスク本体は、少なくとも2枚のシート材を重ね合わせることで、構成され、
前記吸収性コアは、前記隣接する2枚のシート材の間に配置されている、請求項1から4のいずれかに記載のマスク。
【請求項6】
前記吸収性コアを挟む2枚のシートは、複数の接着部において接着されており、
前記接着部は、前記吸収性コアの周縁の少なくとも一部を囲むように構成されている、請求項5に記載のマスク。
【請求項7】
前記吸収性コアは、目付が、200?1000g/m^(2)の繊維素材を有している、請求項1から6のいずれかに記載のマスク。
【請求項8】
前記繊維素材は、パルプを含有している、請求項7に記載のマスク。
【請求項9】
前記繊維素材は、エアレイド法により製造されている、請求項7または8に記載のマスク。
【請求項10】
前記吸収性コアは、前記繊維素材を挟む一対の不織布シートをさらに備えている、請求項7から9のいずれかに記載のマスク。
【請求項11】
前記一対の不織布シートのうち、一方の不織布シートが疎水性を有し、他方の不織布シートが親水性を有している、請求項10に記載のマスク。
【請求項12】
前記吸収性コアには、1.3?30gの保水液が含浸されている、請求項7から11のいずれかに記載のマスク。
【請求項13】
前記保水液は、水に、ポリオールが10?50重量%配合されてなる、請求項12に記載のマスク。
【請求項14】
前記空間の体積a(cm^(3))と、前記吸収性コアに保水液として含浸される水の質量b(g)との関係が、
0.8/70 × a + 1.2 ≦ b
を満たす、請求項1から12のいずれかに記載のマスク。
【請求項15】
前記マスク本体の通気度が、5?150cm^(3)/cm^(2)・secである、請求項1から14のいずれかに記載のマスク。」
(なお、下線は審判請求人が付したものである。)

(2)本件補正の目的
本件補正は、本件補正前の請求項1を削除し、本件補正前の請求項1を引用する請求項2における発明特定事項である「空間の体積」の範囲を「10cm^(3)以上」から「30?200cm^(3)」へと限定して本件補正後の請求項1とする補正を含むものであり、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

2.本件補正の適否についての判断
本件補正における請求項1に関する補正事項は、前述したように、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するので、本件補正により補正された請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、以下に検討する。

(1)本願補正発明
本願補正発明の認定にあたって、請求項1に記載された事項である「30?200cm^(3)以上」は「30?200cm^(3)」の明らかな誤記であるので、出願当初の明細書及び図面の記載からみて、請求人が回答書で主張するように、以下のように認定する。
「通気性を有し、口及び鼻孔を覆うマスク本体と、
前記マスク本体の両端部に設けられ、当該マスク本体を顔に保持するための一対の耳掛け部と、 前記マスク本体に装着され、保水液が含浸される吸収性コアと、を備え、
前記マスク本体は、顔への装着時に口及び鼻孔との間に空間を形成するように構成され、
前記吸収性コアは、前記マスク本体において前記空間と対向する領域に配置され、
前記空間の体積は、30?200cm^(3)である、マスク。」

(2)引用文献
(2)-1 引用文献の記載
原査定の拒絶理由に引用された特開2006-187508号公報(以下、「引用文献」という。)には、例えば、以下の記載がある。

ア.「【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも口及び鼻孔を覆うことが可能な形状及び寸法に作成された通気性を有する覆い部と、前記覆い部の両側に設けられた耳掛け部とを備え、前記覆い部の内面側が非吸湿性の織布又は不織布で覆われているとともに、前記覆い部に、吸湿性の布又は不織布に不揮発性又は沸点が120℃以上の液体を含浸させた液含浸シートが挟まれていることを特徴とするマスク。
【請求項2】
少なくとも口及び鼻孔を覆うことが可能な形状及び寸法に作成された通気性を有する覆い部と、前記覆い部の両側に設けられた耳掛け部とを備え、前記覆い部が、非吸湿性の不織布が少なくとも二重に重ねられており、前記非吸湿性不織布の間に、吸湿性の布又は不織布に不揮発性又は沸点が120℃以上の液体を含浸させた液含浸シートが挟まれていることを特徴とするマスク。
【請求項3】
前記覆い部が、口及び鼻孔に密着しないような立体形状に形成された請求項1又は2に記載のマスク。
【請求項4】
前記覆い部が、上方又は側方に開口するポケットが設けられており、該ポケット内に前記液含浸シートが収容されている請求項1?3のいずれかに記載のマスク。
【請求項5】
前記覆い部の内面側が、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂及びナイロン系樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の熱可塑性樹脂からなる不織布で構成されている請求項1?4のいずれかに記載のマスク。
【請求項6】
前記液含浸シートが、吸湿性の不織布からなる請求項1?5のいずれかに記載のマスク。
【請求項7】
前記吸湿性の不織布が、コットン、レーヨン又はそれらと熱可塑性合成繊維との混紡物からなる請求項6記載のマスク。
【請求項8】
前記液体が、グリセリン、ポリエリレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオールからなる群から選択される少なくとも1種の多価アルコールである請求項1?7のいずれかに記載のマスク。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】ないし【請求項8】)

イ.「【0021】
また、本発明のマスクは、覆い部の内面側が非吸湿性の織布又は不織布で覆われているか、覆い部自体が非吸湿性の不織布などにて作成されていることから、該覆い部に挟んだ液含浸シートに含浸された液体が覆い部から滲みだして着用者の鼻や口元等を濡らして不快感を与えるといったこともない。
【0022】
更に、前記液体は、非揮発性又はその沸点が120℃以上で低揮発性の液体であるので、呼吸時にマスク本体を通過する空気によっても揮散され難く、前記のような有害物質や汚染物質、悪臭成分等の吸着効果が長時間にわたって維持される。なお、前記液含浸シートに含浸されている液体は、マスク使用時に液体である必要があり、例えば極寒環境下で使用する場合には、前記液体として、そのような極寒環境下でも凍結せずに液体状態を維持可能な融点を有しているものを用いる必要がある。
【0023】
更に、本発明に係るマスクは、内面側に非吸湿性の織布又は不織布を重ねるか、あるいは非吸湿性の不織布からなる覆い部に、液含浸シートを挟んだだけの簡単構造であり、マスクの素材として特に高機能で高価なものを用いる必要もなく、前記のような高機能なマスクを比較的廉価に製造することができる。
【0024】
また、前記覆い部を、口及び鼻孔に密着しないような立体形状に形成すれば、装着感が向上するとともに、液含浸シートの重みによってマスクが顔からずり落ちることを確実に防止することができる。
【0025】
前記覆い部が、上方又は側方に開口するポケットが設けられており、該ポケット内に前記液含浸シートが収容されているマスクは、覆い部への液含浸シートの装着が容易であるだけでなく、液含浸シートを覆い部へ着脱したり、液含浸シートを交換して、マスクを繰り返し使用することも可能である。
【0026】
前記覆い部の内面側に、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂及びナイロン系樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の熱可塑性樹脂からなる不織布を重ねる、あるいは覆い部を前記不織布で構成することで、覆い部に挟まれた液含浸シートに含浸された液体が覆い部の内面側に位置する非吸湿性の不織布に移行することがなく、前記液体が覆い部から滲みだして着用者の鼻や口元の周辺を濡らして不快感を与えることを確実に防止することができる。
【0027】
前記液含浸シートが、吸湿性の不織布、とりわけコットン、レーヨン又はそれらと熱可塑性合成繊維との混紡物からなる不織布から構成されていると、液体を液含浸シートに容易に含浸させることができると同時に、含浸された液体が液含浸シートに確実に保持されて、覆い部から滲みだして着用者の鼻や口元周辺等を濡らすおそれがない。
【0028】
前記液体として、グリセリン、ポリエリレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオールからなる群から選択される少なくとも1種の多価アルコールを使用した場合には、これら多価アルコールは、経時的な蒸発減量が無いか極めて少なく、逆に空気中から水分を吸収し、増量する性質を有することから、マスクの保湿性が向上する。また、これらの多価アルコールは、毒性が非常に低く、着用者に無害であり、かつ無臭であることから装着感を損なうこともない。」(段落【0021】ないし【0028】)

ウ.「【0034】
図1は、本発明に係るマスクの一実施の形態を示す斜視図、図2は同じく平面図、図3は同じく縦断面図である。このマスク1は、口及び鼻孔を覆うことが可能な形状及び寸法に作成された通気性を有する覆い部2と、覆い部2の両側に設けられた一対の耳掛け部3,3、従来の一般的なマスクと同様の基本構成を有する。覆い部2は、図1、3に示すように、口m及び鼻孔nに密着しないような立体形状に形成されている。なお、覆い部2の形状は、図例のものに限定されるものではなく、種々の立体形状に形成することができる。更に、覆い部2は、必ずしも立体形状でなくてもよく、例えば図4に示すように、覆い部2Aが平面形状であってもよい。また、図1?3に示すマスク1では、覆い部2の両側に、耳を掛ける孔4を有する耳掛け部3,3が一体に形成されているが、図4に示すマスク1Aのように、覆い部2Aの両側に、ゴム紐等の伸縮性を有する材料からなる耳掛け部3A,3Aを設けたものでもよい。
【0035】
覆い部2は、非吸湿性の不織布W,Wが重ねられ、上方に開口するポケットPが設けられており、ポケットP内に液含浸シート5が収容されている。図例のマスク1、1Aでは、覆い部2、2Aは、1枚の不織布が折り畳まれた状態で、その両側縁が接着又は融着され、上方に開口したポケットPが形成されているが、2枚の不織布を重ね合わせて、その下端縁及び両側縁を接着又は融着して上方に開口したポケットPを設けてもよく、内部に液含浸シート5を挟むことが出来る構造であればよい。また、図例のマスク1、1Aでは、覆い部2、2Aは不織布を二重にして、間に液含浸シート5を挟んで構成されているが、覆い部2、2Aの内面側、又は外面側が2枚以上の不織布を重ねた構造であってもよい。更に、ポケットPは覆い部2の側方に開口していてもよく、その場合、両側に開口していてもよい。」(段落【0034】及び【0035】)

エ.「【0039】
前記含浸液としては、例えばグリセリン、ポリエリレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール等の多価アルコールが好適に使用される。グリセリンは、透明で、糖蜜状態であり、沸点290℃の不揮発性液体であり、特に強湿性であり、保湿性に優れる。ポリエチレングリコールは、不揮発性液体で、吸湿性を有する。ポリプロピレングリコールは、不揮発性液体で、一般に保湿剤として多用されている。1,3-ブタンジオールは、沸点207℃、吸湿性の、経時400時間で25%吸湿する。1,4-ブタンジオールは、沸点228℃で、水と任意の割合で混合する。また、1,5-ペンタンジオールは、沸点238℃で、水と任意の割合で混合する。これらの多価アルコール類は、経時で蒸発減量することがなく、逆に経時により空気中から水分を吸収し、増量する性質を有し、マスクの保湿効果を向上させる。また、これら多価アルコールは毒性が低く、着用者に害を与えるおそれがなく、また無臭であることから、液含浸シートに含浸させる液体として好適である。これらの多価アルコールは、それぞれ単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。更には、水と混合して、適宜粘度や沸点を調整して使用することも好ましい実施の形態である。」(段落【0039】)

オ.「【0053】
更に、図例のマスク1、1Aは、覆い部2、2A自体を非吸湿性の不織布で作製し、内部に液含浸シート5を挟んである。しかし、覆い部2は必ずしも非吸湿性の素材で作製する必要はなく、従来から一般的に使用されている、覆い部が、複数枚重ねられた綿布で作製されたコットンマスクの内面側、即ち、着用者の鼻や口などに当たる側に、前記のような非吸湿性の素材からなるシートを重ねるとともに、覆い部の重ねられた綿布の間に、前記のような液含浸シートを挿入し、挟んで使用してもよい。前記の場合、覆い部の内面側に重ねた非吸湿性シートが覆い部から脱落することを防止するために、通気性を損ねないようにして覆い部に対して接着したり、縫い付けたりしてもよい。更に、前記非吸湿性の素材で作製されたシートを、前記コットンマスクの綿布間に挿入し、該綿布間に挟むとともに、前記吸湿性の素材から作製されたシートより外面側、即ち、着用者の顔から離れた側の綿布間に、前記液含浸シートを挟むようにしてもよい。更に、前記非吸湿性シートや液含浸シートを、覆い部からの脱落防止のため、覆い部の綿布に接着したり、縫着してもよい。この場合に使用される非吸湿性の素材や、液含浸シートの吸湿性の素材、更に該液含浸シートに含浸させる液体、更には該液体に含ませる薬剤などについては、先に記載したものと同様のものを使用することができる。
【0054】
このように、市販のマスクを用い、その覆い部の内側を非吸湿性のシートで覆ったり、前記非吸湿性シートを覆い部に挟み込み、かつ液含浸シートをその外側に挟むことで、本発明の目的とする効果を発揮しうるマスクを簡単に得ることができる。更に、この場合に使用できるマスクは、前記のコットンマスクに限定されることははなく、覆い部が、複数の織布又は不織布などのシートが重ねられて構成されて、前記液含浸シートや非吸湿性シートを挟むことができる構造のマスクであれば、いずれも採用することができる。」(段落【0053】及び【0054】)
なお、下線は、発明の理解の一助として当審において付したものである。

(2)-2 引用文献に記載された事項
上記(2)-1ア.ないしオ.及び図面の記載から参酌すると、引用文献には以下の事項が記載されていることが分かる。

カ.通気性を有し、口及び鼻孔を覆う覆い部2と、
前記覆い部2の両側に設けられ、当該覆い部2を顔に保持するための一対の耳掛け部3と、
前記覆い部2に装着され、含侵液が含浸される液含浸シート5と、を備えたマスク1であることが分かる。

キ.覆い部2を、口及び鼻孔に密着しないような立体形状に形成すれば、装着感が向上する旨の記載及び図面を参酌すると、前記覆い部2は、顔への装着時に口及び鼻孔との間に空間(以下、「空間A」という。)を形成するように構成されていることが分かる。

ク.液含浸シート5は、覆い部2に配置されているマスク1であることが分かる。

(2)-3 引用文献に記載された発明
以上、(2)-1ア.ないしオ.、(2)-2カ.ないしク.及び図面を参酌すると、引用文献には以下の発明が記載されているといえる。

「通気性を有し、口及び鼻孔を覆う覆い部2と、
前記覆い部2の両側部に設けられ、当該覆い部2を顔に保持するための一対の耳掛け部3と、
前記覆い部2に装着され、含侵液が含浸される液含浸シート5と、を備え、
前記覆い部2は、顔への装着時に口及び鼻孔との間に空間Aを形成するように構成され、
前記液含浸シート5は、前記覆い部2に配置されている、マスク1。」(以下、「引用文献に記載された発明」という。)

(3)対比
本願補正発明と引用文献に記載された発明とを対比すると、引用文献に記載された発明における「覆い部2」は、その形状、構造、機能及びその意図する技術内容からみて本願補正発明における「マスク本体」に相当し、同様に、「覆い部2の両側」は「マスク本体の両端部」に、「耳掛け部3」は「耳掛け部」に、「液含浸シート5」は「吸水性コア」に、「含侵液」は「保水液」に、「空間A」は「空間」に、「マスク1」は「マスク」に各々相当するから、本願補正発明と引用文献に記載された発明とは
「通気性を有し、口及び鼻孔を覆うマスク本体と、
前記マスク本体の両端部に設けられ、当該マスク本体を顔に保持するための一対の耳掛け部と、
前記マスク本体に装着され、保水液が含浸される吸収性コアと、を備え、
前記マスク本体は、顔への装着時に口及び鼻孔との間に空間を形成するように構成され、
前記吸収性コアは、前記マスク本体に配置されている、マスク。」の点で一致し、以下の点で相違する。
〈相違点〉
1)本願補正発明においては、吸収性コアは、前記マスク本体において前記空間と対向する領域に配置されているのに対して、引用文献に記載された発明においては、その点が特定されていない点(以下、「相違点1」という。)。

2)本願補正発明においては、空間の体積は、30?200cm^(3)であるのに対して、引用文献に記載された発明においては、空間の体積が具体的数値で特定されていない点(以下、「相違点2」という。)。

(4)判断
相違点1及び2について検討する。
1)相違点1について
引用文献の記載をさらに検討すると、引用文献における【0053】及び【図3】の記載を参酌すると、液含侵シート5が覆い部2において空間Aと対向する領域を包含する領域に配置されているといえる。すなわち、本願補正発明の用語で表現すると引用文献には、「吸収性コアは、マスク本体において空間と対向する領域を含む領域に配置され」ているといえる。そして、可能な限り鼻や口が吸収性コアに接触することがないように、マスク本体に吸収性コアを配置することは周知(例えば、拒絶査定時に提示した特開2001-178837号公報、特開平1-268568号公報参照、以下、「周知技術」という。)であることを考慮すれば、相違点1に係る本願補正発明のように特定することは、当業者が容易に推考し得るものである。

2)相違点2について
引用文献には例えば、段落【0008】において「使用者に不快感を与えることのないマスク」が記載され、また、段落【0024】において「口及び鼻孔に密着しないように立体形状に形成」することが記載されており、これらの記載及び図面を参酌すれば、本願補正発明と同様に、使用者に不快感を与えることのなく、口及び鼻孔に密着しないように立体形状に形成した「空間」が開示されているといえる。そして、口及び鼻孔に密着しないように、どの程度の空間の体積にするかは、当業者が適宜なし得るものといえる。
しかも、本願明細書の段落【0021】において「このとき形成される空間は、顔の形状にもよるが、例えば、10?200cm^(3) の体積を有することが好ましく、30?150cm^(3) の体積を有することがさらに好ましい。」と記載されるように、そもそも当該空間の体積は使用者によって異なるものであることからしても、空間の体積を特定することは当業者が適宜なし得るものである。
よって、相違点2に係る本願補正発明のように特定することに、格別な困難性はない。

したがって、本願補正発明は、引用文献に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が格別な困難性を伴うことなく容易に想到し得る程度のものである。
しかも、本願補正発明は、全体構成でみても、引用文献に記載された発明及び周知技術から予測できる作用効果以上の顕著な作用効果を奏するものとも認められない。

以上のように、本願補正発明は、引用文献に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3.むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって、補正却下の決定の結論のとおり決定する。

第3.本願発明について
1.手続の経緯及び本願発明
平成24年7月23日付けの手続補正は前述したとおり却下されたので、本件出願の請求項1ないし16に係る発明は、平成24年2月20日付けの手続補正書によって補正された特許請求の範囲、並びに出願当初の明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし16に記載された事項により特定されるものであり、その請求項1を引用する請求項2に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、前記「第2.の〔理由〕1.(1)(a)」に記載されたとおりである。

2.引用文献に記載された発明
原査定の拒絶理由に引用された引用文献(特開2006-187508号公報)に記載された発明は、前記「第2.の〔理由〕2.(2)-3」に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、前記「第2.の〔理由〕1.(1)及び(2)」で検討したように、本願補正発明における発明特定事項についての限定を省いたものに相当する。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含む本願補正発明が、前記「第2.の〔理由〕2.(3)及び(4)」に記載したとおり、引用文献に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用文献に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-05-13 
結審通知日 2013-05-14 
審決日 2013-05-31 
出願番号 特願2007-148446(P2007-148446)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A62B)
P 1 8・ 121- Z (A62B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山田 裕介田中 将一  
特許庁審判長 小谷 一郎
特許庁審判官 柳田 利夫
加藤 友也
発明の名称 マスク  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  

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