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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1276864
審判番号 不服2011-27244  
総通号数 165 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-12-16 
確定日 2013-07-17 
事件の表示 特願2008- 14075「ウイルス変種およびその検出方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 7月10日出願公開、特開2008-154590〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、1997年(平成9年)8月15日を国際出願日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1996年11月8日 オーストラリア)を出願日とする特願平10-521944号の一部を、特許法第44条第1項の規定により平成20年1月24日に新たな特許出願としたものであって、平成23年2月24日付で特許請求の範囲について手続補正がなされたが、同年8月9日付で拒絶査定がなされ、これに対して、同年12月16日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同日付で特許請求の範囲について手続補正がなされたものである。

第2 平成23年12月16日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成23年12月16日付の手続補正を却下する。

[理由]
1.本件補正について
上記補正により特許請求の範囲の請求項1は、補正前の
「【請求項1】Ile509Val、Val519Leu、Pro523Leu、Leu526Met、Ile533Leu、Ser559Thr、およびArg/Trp499Gluから選択される1つまたはそれ以上の変異をDNAポリメラーゼ中に含むHBV変種であって、ただし、該変異がLeu526Metである場合、変異していないYMDDモチーフを含む、HBV変種。」
から、
「【請求項1】Ile509Val、Val519Leu、Pro523Leu、Leu526Met、Ile533Leu、Ser559Thr、およびArg/Trp499Gluから選択される1つまたはそれ以上の野生型HBVと比べてヌクレオシドアナログに対して低下した感受性をもたらす変異をDNAポリメラーゼ中に含むHBV変種であって、ただし、Leu526MetおよびMet550Valの変異を含むHBV変種を除く、HBV変種。」
へと補正された。

2.本件補正の目的について
(1)当審の判断
ア.第17条の2第4項の規定について
上記補正は、補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「HBV変種」の「変異」について、「該変異がLeu526Metである場合、変異していないYMDDモチーフを含む」と規定されていたものを、「Leu526MetおよびMet550Valの変異を含むHBV変種を除く」とする補正を含むものである。
この補正は、補正前は、「該変異がLeu526Metである場合、変異していないYMDDモチーフを含む」と、特定の構造を規定していた記載から、いわゆる「除くクレーム」へと変更するものであり、補正前の発明特定事項を限定したものとはいえない。
また、Leu526Metの変異を含む場合についてみると、補正前はYMDDモチーフに変異がないと規定していたものを、補正後は該YMDDモチーフの変異のひとつであるMet550Valの変異を除くとするものであって、例えば、該YMDDモチーフのうち、M以外の「Y」と2つの「D」は変異しているものが補正後の請求項1に包含されることになり、当該補正はむしろ特許請求の範囲を拡張するものである。

さらに、この補正は、請求項の削除、誤記の訂正、明瞭でない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)のいずれに該当するものでもない。

以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項各号のいずれを目的とするものに該当せず、同法第17条の2第4項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

イ.特許法第17条の2第3項の規定について
請求人は、平成24年12月27日付回答書において、上記補正は、原査定の拒絶の理由における引用例2(HEPATOLOGY,(1996-9),24(3),p711-713)に記載された患者1B由来のHBV株そのものを除外する「除くクレーム」とすることを意図していることを主張する(回答書2.(2)(ロ))。

審査基準(第III部第1節新規事項 4.2(4)除くクレーム)によると、「補正前の請求項に記載した事項の記載表現を残したままで、補正により当初明細書等(当審注:「願書に最初に添付した明細書又は図面」に相当)に記載した事項を除外する「除くクレーム」は、除外した後の「除くクレーム」が当初明細書等に記載した事項の範囲内のものである場合には、許される。」とされており、さらに、「(i)請求項に係る発明が、先行技術と重なるために新規性等(第29条第1項第3号第29条の2又は第39条)を失う恐れがある場合に、補正前の請求項に記載した事項の記載表現を残したままで、当該重なりのみを除く補正。」は、当初明細書等に記載した事項の範囲内でするものとして取り扱うとされている。
すなわち、「除くクレーム」により除くことが許されるのは、当初明細書等に記載した事項であって、かつ、除外した後の「除くクレーム」が当初明細書等に記載した事項の範囲内のものである場合であり、さらに、除く部分が請求項に係る発明と先行技術とが重なる部分のみの場合である。

そもそも、出願当初明細書等に記載されておらず、自明でもない事項を補正により導入することは、特許法第17条の2第3項の要件を満たさないことになる。しかし、先行技術と技術的思想が異なる発明であって、たまたまその一部が重複するに過ぎない発明の場合は、その部分のみを除く補正は、例えば、顕著な効果を奏する部分への限定などの技術的な意味を持つ補正ではなく、いわば非技術的な目的での補正であるから、原則として、出願当初の明細書又は図面のすべてを総合することによって導かれる技術的事項との関係で、新たな技術的事項を導入しないものといえる。
しかし、その範囲を超えて、さらに特許を受けようとする発明の一部の態様を除くことは、非技術的な目的での補正とはいえないから、それが自明な事項でない限り、出願当初の明細書又は図面のすべてを総合することによって導かれる技術的事項との関係で、新たな技術的事項を導入する補正であるというべきである。

そこで、本願当初明細書等をみると、図5に配列番号38として、HBV(3TC 1)のDNAポリメラーゼのアミノ酸配列が記載されており、これは、512位のFがLに、526位のLがMに、550位のMがV又はIに変異を有するものである。このように、本願当初明細書等には、3箇所のアミノ酸位置のみに変異を有する配列番号38に示されたアミノ酸配列からなるDNAポリメラーゼは記載されているが、そのうちの2箇所の変異を含み、その他の領域のアミノ酸配列の変異は任意である「Leu526MetおよびMet550Valの変異を含むHBV変種」に関する記載は何もされていないから、「Leu526MetおよびMet550Valの変異を含むHBV変種」は当初明細書等に記載した事項ではなく、かつ、当業者にとって自明な事項でもない。

また、補正後の請求項1に係る発明から除く対象であると請求人が主張する引用例2に記載された患者1B由来のHBV株のDNAポリメラーゼのアミノ酸配列をみると、本願における番号付けでいうところの526位のLがMに、550位のMがVに変異したアミノ酸配列が記載されている(図2)。すなわち、引用例2には、上記の2箇所のみが変異したものが記載されている。しかしながら、その2箇所の変異を含み、その他の領域のアミノ酸配列の変異は任意である「Leu526MetおよびMet550Valの変異を含むHBV変種」は記載されていない。すなわち、補正後の請求項1に係る発明から除こうとする「Leu526MetおよびMet550Valの変異を含むHBV変種」という事項は、本願請求項1に係る発明と先行技術とが重なる部分のみでもない。

そうすると、上記補正は「除くクレーム」の形態をとっているが、適切な「除くクレーム」ではない。

したがって、上記補正は、出願当初明細書等に記載されている事項ではなく、出願当初の明細書又は図面のすべてを総合することによって導かれる技術的事項との関係で、新たな技術的事項を導入するものといえるから、新規事項を追加するものである。

よって、本件補正は特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により、却下すべきものである。

ウ.小括
以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項各号のいずれを目的とするものに該当せず、同法第17条の2第4項の規定に違反するものであり、また、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
1.本願発明
平成23年12月16日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成23年2月24日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】Ile509Val、Val519Leu、Pro523Leu、Leu526Met、Ile533Leu、Ser559Thr、およびArg/Trp499Gluから選択される1つまたはそれ以上の変異をDNAポリメラーゼ中に含むHBV変種であって、ただし、該変異がLeu526Metである場合、変異していないYMDDモチーフを含む、HBV変種。」

2.引用例
(1)原査定の拒絶の理由で引用文献1として引用された本願優先日前の1996年10月に頒布された刊行物であるHEPATOLOGY(1996-10)Vol.24,No.4,Pt.2,p.285A,633(以下、「引用例1」という。)は、「肝移植後の患者におけるファムシクロビル治療の間のHBVポリメラーゼ変異体」という講演要旨であって、以下の事項が記載されている(下線は、合議体による。以下、同様)。
(i)「目的:この研究の目的は、肝移植後の長期間にわたるファムシクロビル治療を受けている2人の患者におけるHBVポリメラーゼ遺伝子に生じたファムシクロビル耐性変異体を調べることである。
方法:長期間(365日以上)にわたるファムシクロビルの投与に基づいて、二人の患者がこの研究のために選択された。HBVのポリメラーゼ及びX遺伝子は特異的プライマーを用いたPCRにより増幅され、HBVのDNAは配列決定された。
結果:患者Aにおいて、典型的な時間間隔で集められた血清サンプルからウイルスポリメラーゼ遺伝子及びX遺伝子は配列決定された。X遺伝子の変異はみつからなかった。全体の抗ウイルス治療(ファムシクロビルで370日)の816日後、アミノ酸配列を変える2つのヌクレオチド変異がポリメラーゼ遺伝子で検出された。これらの変異は、ファムシクロビル治療の883日後も依然として存在した。両変異はRNAポリメラーゼの“B領域”に生じた。患者Bにおいてファムシクロビル治療>800日後、これら変異の一つが存在した。これら変異は、インビトロHBV DNAポリメラーゼアッセイにおけるペンシクロビル三リン酸に対する低減された感受性と、患者Aにおける統計的に有意な血清HBV DNAレベルの上昇によって示されたように、ペンシクロビルに対する低レベルな耐性と関連づけられた。 …(途中省略)… ここに記載したペンシクロビル変異は、HBVポリメラーゼの触媒部位であるC領域中のYMDDコンセンサス配列内には位置しなかった。
結論:ペンシクロビル誘導HBVポリメラーゼ変異は、免疫低下患者における長期治療の後にのみ現れ、薬感受性の減少に関連した。」(第285A頁633欄第3行?第29行)

(2)原査定の拒絶の理由で引用文献2として引用された本願優先日前の1996年9月に頒布された刊行物であるHEPATOLOGY(1996-9)Vol.24,No.3,p.711-713(以下、「引用例2」という。)は、「移植患者のラミブジン治療の間のHBVポリメラーゼにおける変異の選択」という表題の学術文献であって、以下の事項が記載されている。
(ii)「慢性B型肝炎のための同所性肝移植に続いて、2’-デオキシ-3’-チアシチジン、あるいはラミブジン(3TC)での治療の間に、2人の患者で再活性化したウイルスにおけるB型肝炎ウイルス(HBV)ポリメラーゼ遺伝子の変異を記述する。」(第711頁要約の項、第1行?第5行)、と記載され、
(iii)第712頁の表1には、HBVポリメラーゼ遺伝子の変異を検出するために用いたPCRのオリゴヌクレオチドプライマーの配列とヌクレオチド位置が列挙されている。

3.当審の判断
(1)本願発明
本願発明は、Ile509Val、Val519Leu、Pro523Leu、Leu526Met、Ile533Leu、Ser559Thr、Arg/Trp499Gluから選択される1つまたはそれ以上の野生型HBVと比べてヌクレオシドアナログに対して低下した感受性をもたらす変異をDNAポリメラーゼ中に含むHBV変種であって、該変異がLeu526Metである場合には変異していないYMDDモチーフを含むHBV変種に係るものである。

本願明細書の段落【0031】によれば、B領域は、HBV DNAポリメラーゼのアミノ酸残基505から529にあり、段落【0033】によれば、C領域は、アミノ酸546から556にあるので、本願発明で選択肢として記載されたそれぞれのアミノ酸変異位置である509、519、523、526、533、559、499のうち、509、519、523、526の4箇所はB領域に存在する。すなわち、本願発明は、DNAポリメラーゼのB領域の上記4箇所の特定のアミノ酸のいずれかに特定の変異を含み、かつ、C領域にあるYMDDモチーフは変異していないHBVの変種を包含するものであるから、以下、本願発明のうち、その態様のものについて、新規性進歩性を検討する。

(2)引用例1の記載
引用例1記載事項(i)には、肝移植後、1年以上の長期間にわたり抗ウイルス剤ファムシクロビル(ペンシクロビルのプロドラッグであり、以下、両者をまとめて「FCV」という。)治療を受けた2人のHBV患者A、Bの、2人の血清中から得られたHBVのFCV耐性変異体について記載され、HBVのポリメラーゼ遺伝子を特異的プライマーを用いたPCRにより増幅してDNA配列を決定することにより、患者AにおいてはHBVポリメラーゼ遺伝子のB領域にアミノ酸を変える2つの変異が検出されたこと、患者Bにおいては患者Aと同じ1つのB領域の変異が検出されたこと、2人ともC領域にあるYMDDモチーフは変異していなかったことが記載され、患者Aにおいて血清中HBV DNAレベルの有意な上昇が見られ、かつ、2人の血清中のHBVは、インビトロHBV DNAポリメラーゼアッセイにおいてペンシクロビル三リン酸に対しての感受性が減少したことから、このFCV誘導HBVポリメラーゼにおける変異は、移植後の免疫低下状態の患者におけるFCV長期治療の後にのみ現れ、薬感受性の減少に関連していると結論付けている。

(3)対比・判断
本願発明と引用例1に記載された発明を対比する。
引用例1に記載のFCV誘導HBVポリメラーゼ変異を有するHBV変種は、DNAポリメラーゼのB領域の1又は2箇所の特定のアミノ酸に変異を有し、かつ、C領域にあるYMDDモチーフは変異していないものであるから、両者は、DNAポリメラーゼのB領域に1つまたはそれ以上の変異を含み、C領域にあるYMDDモチーフは変異していないHBV変種である点で一致するが、B領域のアミノ酸の変異が、本願発明では、Ile509Val、Val519Leu、Pro523Leu、Leu526Metから選択される1つまたはそれ以上の変異と特定されているのに対して、後者では、1又は2箇所という個数だけで、アミノ酸の変異が具体的に特定されていない点で一応相違する。

しかしながら、引用例1において患者の治療に用いた抗ウイルス剤は本願と同じくFCVであり、しかも本願と同様、肝移植後1年以上FCV治療しているにもかかわらず、血清中HBV DNAレベルが上昇した患者の血清中から得られたHBV変種であって、そのDNAポリメラーゼの変異によりFCVに対する感受性が低減したものである。このように、変異誘導手段及びFCVに対する感受性の低減というHBV変種の性質において、引用例1のHBV変種は本願発明のものと一致する。

しかも、1、2箇所のアミノ酸変異によりFCVに対する感受性が低下するようなDNAポリメラーゼのB領域中のアミノ酸は、どこの位置でもよいわけではなく、特定のものに限られることは当該技術分野の技術常識であり、引用例1に記載のHBV変種のB領域の1、2箇所のアミノ酸変異は、本願発明のIle509Val、Val519Leu、Pro523Leu、Leu526Metのいずれかである蓋然性が高いから、上記相違点は実質的な相違ではないといえる。

また、このような変異を有するHBV変種は、引用例1に記載のように、移植後にしばしばみられる免疫低下状態のHBV患者に1年以上のFCV治療後、薬感受性の減少が見られる患者の血清から得ることができるものである。

してみると、引用例1には本願発明に係るHBV変種が実質的に記載されており、両者は同一であるから、本願発明は引用例1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

あるいは、たとえ仮に、引用例1では変異したB領域のアミノ酸が特定されていない点で、本願発明と引用例1に記載された発明は実質的に相違しているとした場合であっても、引用例2の表1に記載されたHBVポリメラーゼ遺伝子の変異を検出するために用いたPCRのオリゴヌクレオチドプライマーを用いて、引用例1に記載のように、HBVのポリメラーゼ遺伝子をその特異的プライマーを用いたPCRにより増幅し、その部分のDNA配列を決定して既知の配列と比較して、変異したアミノ酸を特定することは、引用例1及び2の記載から当業者であれば困難なくなし得たことであり、その結果も引用例1及び2の記載から予測し得るものにすぎず、本願発明は、引用例1及び2の記載から当業者が容易になし得たものでもあり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

(4)請求人の主張
ア.請求人は、審判請求の理由及び回答書において、以下のa?cの点を主張する。
a.引用例1は、単にRNAポリメラーゼのBおよびC領域中の変異が薬物耐性を生じることを幅広く示しているに過ぎず、本願発明において規定するDNAポリメラーゼ中の具体的なアミノ酸変異を何ら開示していないのだから、本願発明のHBV変種が引用例1に記載されていないことは明らかである。
b.薬剤に対する感受性が低下するようなDNAポリメラーゼのBまたはC領域中のアミノ酸はどこの位置でもよいわけではなく、特定のものに限られるので、本願発明で同定された新規なアミノ酸変異が、具体的なアミノ酸変異について何ら記載も示唆もない引用例1から容易に想到できるものではない。
c.引用例2には、C領域のYMDDモチーフにおけるメチオニンからバリンへの置換は感受性減少に関与するが、B領域における置換(Leu526Met)は重要性が不明である旨述べているだけであるから、当業者といえども、引用例2に基づいて、B領域の変異(Leu526Met)が感受性減少に重要であるとは予測できない。

イ.請求人の主張に対する判断
a.主張aについて
主張aは、本願発明と引用例1に記載された発明との相違点を指適しているにすぎず、上記「(3)対比・判断」で述べた、当該相違点が実質的な相違ではないこと、あるいはたとえ実質的に相違するとしても当業者が困難なく本願補正発明を想到し得たことについて、反証するものとなっていない。

b.主張bについて
薬剤に対する感受性が低下するようなDNAポリメラーゼのBまたはC領域中のアミノ酸が特定のものに限られることは、引用例1に記載のHBV変種のB領域の1又は2箇所のアミノ酸変異が本願発明のIle509Val、Val519Leu、Pro523Leu、Leu526Metのいずれかである蓋然性が高いことをむしろ意味しているといえるので、当該主張によっても、上記「(3)」の判断に変わりはない。

c.主張cについて
引用例1には、予め特定の領域について変異を誘導することを意図しない変異誘導手段によって、HBV変種を取得したところ、そのDNAポリメラーゼは、B領域に1又は2箇所の変異を有するものであったことが記載されている。そして、本願発明と引用例1に記載されたHBV変種は同一であることは、上記「(3)」で述べたとおりであるから、引用例2における526位や550位における変異の薬剤感受性に対する重要性に関する記載は、上記判断に影響するものではない。
そして、引用例1には、ヌクレオシドアナログに対して低下した感受性をもたらす1又は2箇所の変異をB領域に有し、YMDDモチーフは変異していないDNAポリメラーゼを有するHBV変種が記載されているのであるから、本願発明におけるヌクレオシドアナログに対して感受性が減少するという効果は当業者が予測し得る程度のものである。

4.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条1項第3号に該当し、あるいは、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その他の請求項に係る発明については検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。

第4 本願補正発明
1.本願補正発明
念のため、仮に、本件補正が適法なものであったと仮定して、補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)の特許性について検討する。

本願補正発明は、平成23年12月16日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】Ile509Val、Val519Leu、Pro523Leu、Leu526Met、Ile533Leu、Ser559Thr、およびArg/Trp499Gluから選択される1つまたはそれ以上の野生型HBVと比べてヌクレオシドアナログに対して低下した感受性をもたらす変異をDNAポリメラーゼ中に含むHBV変種であって、ただし、Leu526MetおよびMet550Valの変異を含むHBV変種を除く、HBV変種。」

2.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1、2、及びその記載事項は、前記「第3 2.引用例」に記載したとおりである。

3.当審の判断
(1)本願補正発明
本願補正発明は、Ile509Val、Val519Leu、Pro523Leu、Leu526Met、Ile533Leu、Ser559Thr、Arg/Trp499Gluから選択される1つまたはそれ以上の野生型HBVと比べてヌクレオシドアナログに対して低下した感受性をもたらす変異をDNAポリメラーゼ中に含むHBV変種であって、Leu526MetおよびMet550Valの変異を含むHBV変種を除くものである。

本願補正発明で選択肢として記載されたアミノ酸変異位置である509、519、523、526、533、559、499のうち、509、519、523、526はDNAポリメラーゼのB領域に存在する。すなわち、本願補正発明は、DNAポリメラーゼのB領域の上記4箇所の特定のアミノ酸のいずれかに特定の変異を含み、かつ、Leu526MetおよびMet550Valの変異を含むHBV変種を除くHBV変種を包含するものであるから、以下、本願補正発明のうち、その態様のものについて、新規性進歩性を検討する。

(2)対比・判断
引用例1に記載されたペンシクロビルは、ヌクレオシドアナログであるから、引用例1に記載のFCV誘導HBVポリメラーゼ変異を有するHBV変種は、DNAポリメラーゼのB領域の1又は2箇所に、野生型HBVと比べてヌクレオシドアナログに対して低下した感受性をもたらす変異を有するものである。そして、C領域にあるYMDDモチーフは変異していないものであることから、550位のMetは変異していないものである。

そこで、本願補正発明と引用例1に記載された発明を対比すると、両者は、DNAポリメラーゼのB領域に1つまたはそれ以上の、野生型HBVと比べてヌクレオシドアナログに対して低下した感受性をもたらす変異を含み、かつ、Leu526MetおよびMet550Valの変異を含むHBV変種ではないHBV変種である点で一致するが、B領域のアミノ酸の変異が、本願補正発明では、Ile509Val、Val519Leu、Pro523Leu、Leu526Metから選択される1つまたはそれ以上の変異と特定されているのに対して、後者では、1又は2箇所という個数だけで、アミノ酸の変異が特定されていない点で一応相違する。

しかしながら、上記相違点は、上記「第3 3.(3)対比・判断」にて検討したとおり、実質的な相違点ではないから、本願補正発明は引用例1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。

あるいはたとえ仮に実質的に相違するとした場合であっても、上記「第3 3.(3)対比・判断」にて検討したとおり、引用例2の表1に記載されたHBVポリメラーゼ遺伝子の変異を検出するために用いたPCRのオリゴヌクレオチドプライマーを用いて、引用例1に記載のように、HBVのポリメラーゼ遺伝子をその特異的プライマーを用いたPCRにより増幅し、その部分のDNA配列を決定して既知の配列と比較して、変異したアミノ酸を特定することは、引用例1及び2の記載から当業者であれば困難なくなし得たことであり、その結果も引用例1及び2の記載から予測し得るものにすぎず、本願補正発明は、引用例1及び2の記載から当業者が容易になし得たものでもあり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

(3)むすび
以上のとおりであるから、本件補正が適法なものであると仮定した場合であっても、本願補正発明は、特許法第29条1項第3号に該当し、あるいは、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その他の請求項に係る発明については検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。

第5 むすび
以上のとおりであるから、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条1項第3号に該当し、あるいは、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その他の請求項に係る発明については検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-02-15 
結審通知日 2013-02-19 
審決日 2013-03-05 
出願番号 特願2008-14075(P2008-14075)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12N)
P 1 8・ 561- Z (C12N)
P 1 8・ 113- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鶴 剛史吉田 知美  
特許庁審判長 鵜飼 健
特許庁審判官 冨永 みどり
田中 晴絵
発明の名称 ウイルス変種およびその検出方法  
代理人 田中 光雄  
代理人 山崎 宏  
代理人 冨田 憲史  

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