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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1276905
審判番号 不服2010-29036  
総通号数 165 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-12-22 
確定日 2013-07-16 
事件の表示 特願2000-547964「生物活性薬剤のカプセル化に関する改善」拒絶査定不服審判事件〔平成11年11月18日国際公開、WO99/58112、平成14年 5月21日国内公表、特表2002-514590〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、1999年5月7日(パリ条約による優先権主張1998年5月13日、英国)を国際出願日とする出願であって、平成21年12月24日付けで拒絶理由が通知され、平成22年6月28日に意見書及び手続補正書が提出され、同年8月25日付けで拒絶査定がなされ、これに対し同年12月22日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同日に手続補正書が提出された。その後、平成23年7月28日付けで前置報告書を用いた審尋がなされたが、回答書は提出されなかった。

2.本願発明
本件に係る発明は、平成22年12月22日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項によって特定されるとおりのものであり、その中、請求項3に係る発明は、以下のとおりである。
「【請求項3】 ポリマー微粒子であって、以下:
該微粒子の投与後にレシピエントにおいて発現されるコード配列を含むDNA;およびポリマー
を含み、ここで、該DNAは該ポリマー中にカプセル化され、該微粒子は直径10ミクロンまでのサイズであり、そして、該ポリマーは0.5dl/g未満の固有粘度を持つPLGを含む、ポリマー微粒子。」(以下、「本願発明」という。)

3.引用例
(1)引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である国際公開第97/17063号(原審における引用文献2。以下、「引用例A」という。)、特表平9-504026号公報(原審における引用文献1。以下、「引用例B」という。)及び、特表平8-510639号公報(原審における引用文献3。以下、「引用例C」という。)には、それぞれ、以下の事項が記載されている。
(なお、引用例Aは英文であるので、引用例Aの対応公表公報(特表2000-500744号)を参照しての訳文を示す。また、下線は当審で付した。)

(1-1)引用例Aの記載事項
a1 (12頁15行?17頁9行)
「以下の実施例に記載の本発明の特定の実施態様の使用において、本発明の微粒子の調製物は、タンパク質ルシフェラーゼをコードするDNAを含む。当業者により理解されるように、広範なDNA配列および構築物が本発明における使用に適切である。特に、本発明は、当該分野において既によく知られ、そして特徴づけられている広範なプラスミドベクターを取り込んで実施され得る。代表的には、本発明で用いられるプラスミドベクターは、所望の遺伝子産物をコードするcDNAを含む。DNA配列のさらなる成分(例えば、プロモーター、レポーター遺伝子、および転写終結配列)の選択は、公知のプラスミドベクターの構築に関する通常の常識に従って当業者により行われ得る。
本発明の組成物のための好ましい投与経路は、経口経路である。本発明の組成物は、好ましくは、高い酸レベルを有する胃を通過する際に顕著な分解を避けるように設計されるべきであることが意図される。
10μm未満の大きさの微粒子の取り込みがとりわけ腸のM細胞内で生じ、従ってこの大きさ範囲のDNA含有粒子の封入が、この腸位置での取り込みを促進するのに有利であり得ることが知られている。ポリマーの性質および特性および成分に対する他の変更は、本発明の概念内で行われ得る。
以下の図面を伴って、本発明の特定の実施態様の説明を続ける。
・・・
図2は、実施例3の結果、すなわち、PLGカプセル化プラスミドDNAによるルシフェラーゼ特異的血清抗体の誘導を示す。
・・・
実施例1 PLG微粒子におけるプラスミドDNAのカプセル化方法
装置:
・・・
試薬:
1)ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)(PLG)溶液-500mg(3mlジクロロメタン中)。
2)プラスミドDNA(水中12mg/ml)。
3)ポリビニルアルコール(PVA)溶液(水中8% w/v)。
4)無水エタノール。
5)TEN緩衝液(10mM tris pH 8.0+1mM EDTA+50mM NaCl)。
方法:
1)200μlプラスミドDNA溶液を250μl TENと混合し、そして150μlエタノールを撹拌しながら添加する。よく混合する。
2)この混合物を3ml PLG溶液に添加し、そしてSilversonミキサー中で3000rpmで2分間乳化する。
3)このエマルジョンを100ml PVAに添加し、そして3000rpmで2分間乳化する。
4)2重エマルジョンを1リットルの水に添加し、そして1分間活発に撹拌する。
5)微粒子の懸濁液を遠心分離容器中に分配し、そして10,000×gavで30分間遠心分離する。
6)微粒子ペレットを25mlの水中に再懸濁し、そして大きなクリアランス(0.5mm)を有する手動ホモジナイザーでホモジナイズし、均質な懸濁液にする。200mlの水で希釈し、そして上述のように再度遠心分離する。
7)工程6を3回繰り返す。
8)微粒子ペレットを25mlの水中に上述のように再懸濁し、凍結乾燥に適した容器に移し、イソプロパノール/ドライアイス混合物中で表面を凍結し、そして48時間凍結乾燥する。
この方法では、工程1?3を室温で行う。DNAは、微粒子中に約25%の効率で取り込まれた。
・・・
実施例3
本発明者らは、ヒトサイトメガロウイルス即時型(hCMV IE)プロモーターの転写制御下で、昆虫タンパク質ルシフェラーゼをコードするプラスミドDNAを構築し、そしてインビトロでトランスフェクトされた細胞におけるルシフェラーゼ活性を実証した。
本発明者らは、実施例1のプロトコルを用いて、中程度(約25%)の効率を有する、大きさが約2μmのPLG微粒子中に精製プラスミドDNAをカプセル化した。アガロースゲル電気泳動では、初めの閉環状スーパーコイル化DNAのある割合が、カプセル化プロセスにおける剪断応力の結果として、よりゆっくりと移動する形態(おそらくは弛緩された環)への変換を受けることが示される。カプセル化DNAは、粒子から放出され、そしてエレクトロポレーションによる細菌形質転換および培養細胞へのトランスフェクション後のルシフェラーゼ発現のアッセイにおいて、そのインビボでの生物学的活性の有意な割合を保持することが示された。
マイクロカプセル化DNA(50μg)を、腹腔内(i.p.)注射および経口によりマウスに投与した。コントロール動物は、非カプセル化DNAを同じ経路により受け、そしてポジティブコントロールとして標準的な筋肉内(i.m.)注射により受けた。ルシフェラーゼ特異的血清抗体を、DNA投与の3および6週間後にELISAにより分析した。結果を図2に示す。
図2に示すように、中程度の特異的IgGおよびIgM応答が、i.m.注射後に、予測したように見られた。カプセル化DNAは、i.p.注射後に強いIgGおよびIgM応答を惹起した。一方、非カプセル化DNAは、ずっと弱い応答を与えた。同様に、経口投与したカプセル化DNAは、良好なIgG応答を惹起した。これには、非カプセル化DNAは匹敵しなかった。IgGおよびIgM抗体応答から、ルシフェラーゼ発現および免疫系への提示が、PLG微粒子中にカプセル化されたプラスミドDNAの投与後に、標準的なi.m.経路で見られたより高く、かつ非カプセル化DNAの比較投与において見られたより高い効率で生じたことが示される。」

a2 図2として、筋肉内注射(i.m.)、腹腔内注射(i.p.)注射および経口でのDNA投与後3週および6週間後におけるルシフェラーゼ特異的IgG,IgM血清抗体価が示されている。(図2の記載は省略する。)

a3 (4頁9?12行)
「一般に、本発明の微粒子は、ファゴサイトーシス(例えば、マクロファージまたは他の抗原提示細胞によるファゴサイトーシス)によってレシピエントの細胞に入ることが意図される。続いて、微粒子本体は細胞内隙で分解し、そしてDNAが放出される。」

a4 (6頁13?23行)
「本発明の微粒子のポリマーは、好ましくは、生分解性および非毒性の両方である。・・・本発明の特定の実施態様では、ポリマーは、ポリ(DL-ラクチド-コ-グリコリド)(他に記されていなければ、PLGという)を含む。これは、ヒトおよび獣医学的用途について認可されているので選択した。
本発明の産物は、代表的には、動物(特に、動物)におけるインビボ用途のためである。従って、微粒子のポリマーは、インビボで非毒性であり、かつ薬学的用途に適切であるべきである。ポリマーはさらに、レシピエントにおいてそのDNAを放出するので、生分解性(生分解性ポリマーからなるか、または生分解性ポリマーを含むのいずれかにより)であるべきである。」

(1-2)引用例Bの記載事項
b1 (5頁3?9行)
「発明の要約
・・・本発明のミクロスフェアは、抗原、アジュバント、ペプチド、ポリペプチド、ホルモン、抗生物質等といったような、あらゆる種類の活性物質を封入することができる。本発明のミクロスフェアの形成に好ましいポリマーマトリックスは、・・ポリ(D-L-ラクチド-コ-グリコリド)である。」

b2 (7頁16?21行)
「本明細書中で使用する「ポリラクチド」および「PLGA」という用語は、区別なく使用され、また乳酸単独のポリマー、グリコール酸単独のポリマー、そのようなポリマーの混合物、グリコール酸および乳酸のコポリマー、そのようなコポリマーの混合物、またはそのようなポリマーおよびコポリマーの混合物を示すことを意図する。本発明のミクロスフェアの形成に好ましいポリマーマトリックスは、ポリ(D-L-ラクチド-コ-グリコリド)である。」

b3 (9頁6?14行)
「B.一般的方法
一般的に、抗原またはアジュバントの微量封入は、第3図に簡単に概要を示すプロトコルにより行われる。要約すると、まず最初に、ラクチド:グリコリドの望ましい比率(約100:0?0:100重量%、さらに好ましくは約65:35?35:65、最も好ましくは約50:50)および固有粘度(通例、約0.1?1.2dl/g、好ましくは約0.2?0.8dl/g)を有するPLGAを、・・・酢酸エチルといったような有機溶媒に溶解して、望ましい濃度(・・・)とする。」

b4 (10頁下から4?1行)
「本発明のミクロスフェアについての分解速度は、ポリマー中のラクチド:グリコリドの比率およびポリマーの分子量により部分的には決定される。様々な分子量(または固有粘度)のポリマーを混合して、望ましい分解プロフィールを得ることができる。」

(1-3)引用例Cの記載事項
c1 (6頁5?8行)
「この発明は、生分解性で徐放性のポリマー極微粒子内でタンパク質、抗体もしくは他の分子と接合化もしくは結合した核酸(・・・)の徐放に関する。この本発明は、遺伝的形質転換のためのカプセル化遺伝子の使用にも関する。」

c2 (19頁下から6行?20頁12行)
「本発明において用いる極微粒子のポリマーマトリックス材料は生体適合性で生分解性のポリマー物質でなければならない。適当なポリマーマトリックス材料としては・・・混合d,L-乳酸とグリコール酸とのコポリマー、・・・。
ポリマーマトリックス材料の分子量はかなり重要である。この分子量(MW)は、満足すべきポリマー皮膜を形成するのに十分な値にすべきである。・・ポリマーの分子量は分解速度においても、組成、純度および光学的形態等と共に、重要な役割を果たす。一般に、MWが大きければ大きいほど、分解速度は遅くなる。・・・
核酸はポリマーマトリックスを通る浸出(leaching)によって極微粒子から放出される。この場合、核酸はポリマーが著しく分解する前またはポリマーの分解と同時に放出される。」

(2)引用例Aに記載された発明
上記(1)で指摘した引用例Aの記載事項a1の実施例3には、「昆虫タンパク質ルシフェラーゼをコードするプラスミドDNA」を使用し、実施例1のプロトコルを用いて、「大きさが約2μmのPLG微粒子中に精製プラスミドDNAをカプセル化」したことが記載されている。そして、「マイクロカプセル化DNAを、マウスに投与した」ところ、図2に示すように、「ルシフェラーゼ特異的血清抗体の誘導」が示されたことが記載されている(上記a1,a2)から、マイクロカプセル化DNAは、ルシフェラーゼ特異的血清抗体を誘起するものである。
してみると、引用例Aには、
「昆虫タンパク質ルシフェラーゼをコードするプラスミドDNAがカプセル化された、大きさが約2μmのPLG微粒子であって、マウスへの投与後に、ルシフェラーゼ特異的血清抗体が誘導されるPLG微粒子。」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

4.対比
そこで、本願発明と引用発明を対比する。
まず、引用発明の「マウス」は、本願発明の「レシピエント」に相当する。また、引用発明の「昆虫タンパク質ルシフェラーゼをコードするプラスミドDNA」は、「マウスへの投与後に、ルシフェラーゼ特異的血清抗体が誘導される」ものであって、このルシフェラーゼ特異的血清抗体が、昆虫タンパク質ルシフェラーゼをコードするDNAがマウスで発現し、昆虫タンパク質ルシフェラーゼが産生されたことに起因して生体内で誘導されたものであることは当業者に明らかである。
してみると、引用発明のPLG微粒子に含まれる、「昆虫タンパク質ルシフェラーゼをコードするプラスミドDNA」は、本願発明の「微粒子の投与後にレシピエントにおいて発現されるコード配列を含むDNA」に相当する。
さらに、引用発明のPLG微粒子は、「大きさが約2μm」であるから、本願発明の「直径10ミクロンまでのサイズ」に相当する。

したがって、本願発明と引用発明は、
「ポリマー微粒子であって、以下:
該微粒子の投与後にレシピエントにおいて発現されるコード配列を含むDNA;およびポリマーを含み、
該DNAは該ポリマー中にカプセル化され、該微粒子は直径10ミクロンまでのサイズであり、該ポリマーはPLGを含む、ポリマー微粒子。」
で一致し、下記の点で相違する。

<相違点>
ポリマー微粒子のポリマーに含まれるPLGが、本願発明では、「0.5dl/g未満の固有粘度を持つ」と特定されているのに対し、引用発明では、この特定がなされていない点。

5.判断
上記の相違点について検討する。

(1)まず、本願発明において、PLGポリマーを「0.5dl/g未満の固有粘度を持つ」ものと特定する点についての技術的意義に関し、本願明細書には以下の記載がある。(下線は、当審による。)

「【0047】
本発明の1つの局面において、直径10ミクロンまでのサイズであり、そして生物活性薬剤を含有するポリマー微粒子が提供され、ここでそのポリマーは0.5dl/g未満の固有の粘度のPLGである。生物活性薬剤は、レシピエントへの投与後に発現されるポリペプチドをコードするか、またはアンチセンス配列をコードするDNAのようなDNAであり得る。
【0048】
このことは、この微粒子がレシピエントの内部で一度分解され、そして抗原提示細胞によって取り込まれ得るが、それは有意な割合のDNAが分解される前であるという利点を与える。
【0049】
微粒子の大部分が細胞によって取り込まれ、そしてインターナライズされた場合に、カプセル化されたDNAの最大量が放出される放出プロフィールを得ることが好ましい。本発明の好ましい実施態様の代表的な放出プロフィールは、動物への投与後に、1日目と20日目との間で、より好ましくは2日目と10日目との間で、カプセル化されたDNAの30?40%の放出を提供する。投与が経口経路を介する場合、有意なDNA放出が、微粒子が動物の胃を通して腸内への通過後に起こる。次いで、そこで微粒子はPeyerパッチのM細胞によって取り込まれ、次いで、ここで微粒子は分解し、カプセル化されたDNAを放出する。
【0050】
上記で、低いi.v.(代表的には低分子量)のPLGの使用が、より迅速な粒子の分解および粒子の内容物の放出によって、いかにして標準的な60kDPLG(高いi.v.を有する)を使用するよりも改善された免疫を与え得るかを議論した。それにもかかわらず、i.v.の範囲(従って、分子量の範囲)を有する微粒子を含む組成物が使用された場合、この組み合わせは有利な免疫効果を産生するということが利点であり得る。
【0051】
本発明の特定の実施態様において、微粒子についての放出プロフィールは、i.v.および/またはポリマーの分子量分布を調整することによって操作され得る。以下により詳細に記載される本発明の特定の実施例において、この調整は、より高いi.v.値およびより低いi.v.値のPLG調製物を組み合わせることによりなされ、中間体i.v.の複合ポリマーを産生する。中間体i.v.PLGから作られた微粒子は、改変されたDNA放出プロフィールを示し、ここで存在するより低いi.v.ポリマーの割合がより大きいほど、より迅速にDNAが放出される。このようにして、経口および他の投与経路に適切な所望の放出プロフィールを示す本発明の微粒子は産生される。
【0052】
好ましくは、i.v.は、0.1?0.4dl/gの範囲である。本発明の特定の実施態様において、この範囲内のi.v.を有するPLGからなるポリマー殻を有する微粒子が、良好なDNA放出プロフィールおよび保持された良好な粒子構造を示すことが、走査型電子顕微鏡の下で調べた場合に見出された。以下に記載される本発明の特定の実施例において、粒子は、0.19dl/gおよび0.39dl/gのi.v.を有するPLGの混合物で作製され、そしてこれらの粒子は、経時的に非常に良好な放出プロフィールを示した。
・・・
【0103】
(実施例9)
(ポリマーの固有粘度を変更することによる、PLG微粒子の放出プロフィールの改変)
実施例8の手順は、以下のPLG調製物を用いて以下の通りであった:
(a)0.19dl/gの固有粘度(RG502、Boehringer Ingelheimから)
(b)0.39dl/gの固有粘度(RG503、Boehringer Ingelheimから)
(c)0.19dl/gおよび0.39dl/gの固有粘度のPLGの50:50(重量による)の混合(RG502およびRG503の混合)
(d)0.19dl/gおよび0.39dl/gの固有粘度のPLGの75:25(重量による)の混合(RG502およびRG503の混合).
主に1ミクロン?10ミクロンのサイズの微粒子を得て、そしてこの粒子からのDNAの放出のプロフィールを測定し、そして図5に図示する。」

また、本願の図5に、実施例9の(a)0.19dl/gの固有粘度のPLG、(b)0.39dl/gの固有粘度のPLG、(c)0.19dl/gおよび0.39dl/gの固有粘度のPLGの50:50混合物、(d)0.19dl/gおよび0.39dl/gの固有粘度のPLGの75:25混合物を使用したPLG微粒子からのDNA放出プロフィールが示されており、図5から、より低い固有粘度(0.19dl/g)のPLGの微粒子からの放出がより高い固有粘度(0.39dl/g)のPLGの微粒子よりも速いこと、混合物の場合もより低い固有粘度(0.19dl/g)のPLGの割合が高いものがより放出速度が速いこと、が読み取れる。

以上、本願明細書及び図面の記載によれば、本願発明のポリマー微粒子は、レシピエントの腸のパイエル板(Peyerパッチ)のM細胞により取り込まれ、内部で分解され、そして、抗原提示細胞によって取り込まれ得るが、それが有意な割合のDNAが分解される前に行われるという利点を有するものであり、PLGポリマーを「0.5dl/g未満の固有粘度を持つ」、より低い固有粘度(i.v.)のポリマーを含む微粒子とすることで、この固有粘度を超えるポリマーを使用する場合よりも、より速くポリマーが分解され、より迅速にDNAが放出されるような放出プロフィールを有する微粒子とすることができるという技術的意義を有すると認められる。(さらには、そのことにより免疫効果における利点も得られる。)

(2)一方、引用例Aには、微粒子のポリマーは、レシピエントにおいてそのDNAを放出するので、生分解性であるべきであること(記載事項a4)、10μm未満の大きさの微粒子の取り込みがとりわけ腸のM細胞内で生じ、この大きさ範囲のDNA含有粒子の封入が腸位置での取り込みに有利であること(同a1)、及び、微粒子はファゴサイトーシスによってレシピエントの細胞に入り、続いて、微粒子本体が細胞内隙で分解し、DNAが放出されること(同a3)が記載されているから、引用発明のポリマー(PLG)微粒子も、本願発明と同様に、腸部位で細胞内に取り込まれ、微粒子のPLGが分解されてDNAが放出され得るものである。
また、引用例Aには、微粒子を構成するポリマーの性質および特性の変更が行われ得ることも記載されている(同a1)。

ところで、引用例Aと同様、生体に活性物質を投与するために使用されるミクロスフェア(微粒子)であって、好ましくはPLG(ポリ(D-L-ラクチド-コ-グリコリド))ポリマー微粒子であるものを開示する引用例B(記載事項b1,b2)には、微粒子を構成するポリマーの固有粘度は、通例、約0.1?1.2dl/g、好ましくは約0.2?0.8dl/gであること(同b3)、及び、微粒子の分解速度は、ポリマーの分子量により部分的に決定され、様々な分子量(または固有粘度)のポリマーを混合して、望ましい分解プロフィールを得ることができることが記載されているから(同b4)、引用例Bには、PLGポリマーの固有粘度に着目して、微粒子の分解プロフィールを調整することが示されているといえる。
ここで、微粒子を構成するポリマーの固有粘度が微粒子の分解プロフィールに与える影響については、ポリマーの分子量に関し引用例Bに「様々な分子量(または固有粘度)」(同b4)と記載され、また、本願明細書にも「本発明における使用のために適切なポリマーの分子量分布は、固有の粘度(i.v.)によって引用される。このi.v.は、・・・分子量分布に相関することが公知である。」(【0046】)と記載されるように、一般に、ポリマーの分子量と固有粘度には正の相関関係にあることが知られているところ、引用例Aと同様のカプセル化遺伝子(DNA)に関するものであって、カプセルを構成する生分解性ポリマーマトリックス材料としてPLG(混合d,L-乳酸とグリコール酸とのコポリマー)も記載する引用例Cに、ポリマーの分解速度にポリマーマトリックス材料の分子量がかなり重要であること及び、一般に分子量が大きいほど分解速度は遅くなることが記載されており(記載事項c1,c2)、当該記載からは、逆に、ポリマーの分子量が小さいほど、ポリマーの生体内での分解速度が速くなることも理解できるから、引用例Cを参酌すれば、当業者は、ポリマーの分子量が小さい程、すなわち、ポリマーの固有粘度が小さいほど、ポリマーの生体内での分解速度が速くなることが理解できる。

してみると、引用発明において、PLGポリマー微粒子の分解プロフィールに着目し、引用例Bに記載される固有粘度0.2?0.8dl/gの範囲内で、より迅速なPLGの分解及びDNAの放出が期待できる、より低い固有粘度範囲のポリマー、例えば、0.5dl/g未満といった固有粘度のPLGポリマーを採用することは、当業者が容易になし得ることである。

(3)さらに、0.5dl/g未満といったより固有粘度の低いPLGポリマーを採用することで、これより高い固有粘度のPLGを採用する場合に比べてDNAのより迅速な放出がなされることは、当業者が引用例A?Cの記載から予測し得る効果にすぎないし、本願明細書の記載を検討しても、PLGポリマーの固有粘度を0.5dl/g未満とする数値限定に格別の臨界的意義があるとも解されないから、本願発明の効果は格別とはいえない。
(4)請求人は、平成23年2月25日付けの手続補正書(方式)において、甲第4号証(「Inherent Viscosity vs.Molecular Weight」と称する文書)を示し、「固有粘度は、・・分子量と直接的に相関しません。それゆえ、分子量範囲は、本願発明の固有粘度のポリマーの使用の示唆を提供し得ません。」(手続補正書(方式)の8頁24?27行)と主張し、また、「引用文献3(審決における引用例C)は、「一般に、MWが大きければ大きいほど、分解速度は遅くなる。」・・・と教示しています。しかしながら、この記述は、概してこの文献の教示によって裏づけられていない一般論です。実際には、上述したように、引用文献1(審決における引用例B)の教示によれば、ポリマーの分解に対して、分子量よりも大きな(そして複雑かつ非線形の)影響を有する多くの要因が存在するのです。」(同13頁8?12行)と主張する。
しかしながら、まず、甲第4号証には、「IV(固有粘度)およびMW(分子量)との間の経験的相関である。」と記載されているところ(1頁目下から2?3行)、同号証に示される相関図では、ポリマー毎の個別の相関図は一致しないにせよ、いずれも分子量と固有粘度に正の相関関係があることが見て取れ、同種のポリマーでは、分子量が大きくなると固有粘度も高くなるという一般的に知られる経験的相関関係と一致しており、相関関係がないことは示されていない。
そして、上述のとおり、ポリマーの分子量または固有粘度は微粒子の分解速度の決定要因の一つであり、また、固有粘度の異なる複数のポリマーを混合して、望ましい分解プロフィールとなるように調整することも本願優先日前から知られている(上記b4)のであるから、分解速度を制御する要因が複数存在するとしても、引用発明のポリマー微粒子に含まれるPLGポリマーを、固有粘度の観点から調整することの阻害要因にはならない。
また、引用例Cの記載から、ポリマーの分子量と分解速度との関係については、ポリマーの分子量が小さい程(すなわち、固有粘度が小さい程)、ポリマーの生体内での分解速度が速くなることが理解できることは(2)で指摘したとおりであるし、この点は、例えば、引用例Bの、「ミクロスフェアのフラグメンテーションを引き起こすのに必要とされるポリマー主鎖中の切断数は、ポリマー分子量に左右される。」(6頁5?7行)なる記載や、引用例Bの図2から、同じラクチドとグリコリドの相対比においては、与えられた分子量が増加するにつれて分解が完了するまでのハーフタイムが長くなることが読み取れる点とも合致する。
したがって、請求人の主張は採用できない。

よって、本願発明は、本願優先日前に頒布された刊行物である引用例A?Cに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.むすび
以上のとおりであるから、本願請求項3に係る発明は、特許法第29条第2項の規定によって、特許を受けることができないものである。
それ故、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-02-19 
結審通知日 2013-02-20 
審決日 2013-03-05 
出願番号 特願2000-547964(P2000-547964)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 伊藤 清子  
特許庁審判長 内田 淳子
特許庁審判官 平井 裕彰
渕野 留香
発明の名称 生物活性薬剤のカプセル化に関する改善  
代理人 森下 夏樹  
代理人 山本 秀策  
代理人 安村 高明  

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