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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A23L
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A23L
管理番号 1277044
審判番号 不服2010-16401  
総通号数 165 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-07-21 
確定日 2013-07-24 
事件の表示 特願2008-513457「食用組成物の一部としての、被覆された、有効成分送達システム」拒絶査定不服審判事件〔平成18年11月30日国際公開、WO2006/127079、平成20年11月20日国内公表、特表2008-539802〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯・本願発明
本願は、平成18年3月2日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 平成17年5月23日 米国)を国際出願日とする出願であって、その請求項1ないし19に係る発明は、平成25年1月18日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし19に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、その請求項1に係る発明は次のとおりのものである。
「【請求項1】
送達システムであって、コーティング材料によって少なくとも一部が被覆された少なくとも1つの粒子を含み、
前記少なくとも1つの粒子が、少なくとも1つの封入材料、少なくとも1つの引張強度改良剤及び少なくとも1つの有効成分の混合物を含み、
前記封入材料は、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレン、架橋ポリビニルピロリドン、ポリメチルメタクリレート、ポリ乳酸、ポリヒドロキシアルカノエート、エチルセルロース、ポリ酢酸ビニルフタレート、ポリエチレングリコールエステル、メタクリル酸-コ-メチルメタクリレート及びこれらの組み合わせからなる群から選択される高分子量ポリマーであり、
前記引張強度改良剤は水素化油を含み、送達システムのうちコーティング材料を除いた質量100質量部に対して5質量%以下の量で存在し、
前記コーティング材料は、アラビアゴム、セルロース、修飾セルロース、ゼラチン、ソルビトール、マルチトール、ゼイン、ポリビニルアルコール及びこれらの組み合わせからなる群から選択され、
前記送達システムが少なくとも6500psi(44.82MPa)の引張強度を有する送達システム。」(以下、「本願発明」という。)

2 引用刊行物とその記載事項
当審の拒絶の理由に引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である、刊行物1ないし4には以下の事項がそれぞれ記載されている。なお、下線は当審で付した。

(1)刊行物1:特開昭62-215349号公報の記載事項
(1a)「特許請求の範囲
1)無溶媒封入組成物中に封入された活性成分を含有するチユーインガム組成物において、封入組成物が高分子量ポリ酢酸ビニル及び疎水性可塑剤の混合物よりなり、該混合物が封入膜を形成することができることを特徴とする上記組成物。
2)ポリ酢酸ビニルが、分子量約20,000MWU?約100,000MWUを有する特許請求の範囲第1項記載の組成物。
3)ポリ酢酸ビニルが、分子量約30,000MWU?約60,000MWUを有する特許請求の範囲第2項記載の組成物。
4)疎水性可塑剤が、モノ、ジまたはトリグリセリド、またはそれらのエステル誘導体よりなり、上記可塑剤は約16?約22個の炭素原子の脂肪酸鎖を有する特許請求の範囲第1項記載の組成物。
・・・
10)上記活性成分が、天然または人工の甘味料、可溶性食物繊維、着香料及び生物作用剤よりなる群から選択される特許請求の範囲第1項記載の組成物。
11)甘味料が、アミノ酸ベース甘味料、ジペプチド甘味料、グリシリジン、サツカリン及びその塩、アセサルフエーム塩、シクラメート、ステビオサイド、タリン、ジヒドロカルコン及びそれらの混合物よりなる群から選択される特許請求の範囲第10項記載の組成物。
・・・
13)活性成分が、ミネラル補助剤・・・よりなる群から選択される生物に対する作用を有する化合物である特許請求の範囲第10項記載の組成物。
・・・
25)水分による劣化から保護され、制御された放出を示す封入活性成分を含有する食品において、上記活性成分が、甘味料、フレーバー、可溶性食物繊維、生物に対する作用を有する化合物、及びそれらの混合物よりなる群から選択され、上記封入体が無溶媒であり、高分子量ポリ酢酸ビニル及び疎水性可塑剤の混合物を可食マトリックス中に含有する上記食品。
・・・
27)上記製品が、菓子製品である特許請求の範囲第26項記載の製品。
28)上記製品が、医薬製品である特許請求の範囲第26項記載の製品。
・・・
38)活性成分を、上記溶融混合で生成した溶融塊中に混合し、つぎに冷却固化し、粉砕して粒子にすることにより封入する特許請求の範囲第37項記載の方法。」

(1b)従来技術として
「米国特許第4,384,004号明細書はセルロース、セルロース誘導体、でんぷん、炭水化物、ガム、ポリオレフィン、ポリエステル、ワックス、ビニル重合体、ゼラチン、ゼイン、及びこれらの混合物よりなる群から選択されるコーテイング物質の少なくとも一つの層で封入形態となった人工甘味料即ち、APM (但し、コーテイング物質のAPMに対する比が1:1を越えないもの)の調製を開示している。」(6頁左上欄3?11行)

(1c)「またさらに本発明の他の目的は、食品に用いるための高度に制御された放出特性を有する封入された活性成分を提供することにある。」(7頁左下欄2?4行)

(1d)「本発明の一方法によれば、ポリ酢酸ビニル及び可塑剤、好ましくはグリセリルモノステアレート、を約70℃?約90℃、好ましくは約85℃の温度で混合し、これに活性成分を添加して混合し、引き続き冷やして固形物にし、粉砕して粒子とすることができる。」(9頁左上欄8行?13行)

(1e)「チユーインガム組成物中に用いられると、そしやく中チユーインガムから放出される天然及び人工のチユーインガム甘味料は、放出が長続きするのを示すが、これは、封入組成物中に用いられる処方を操作することにより調節することができる。結果的に、甘味の知覚は、10分?20分間延長することができ、これは、非常に効果的な放出延長剤となる。封入着香料が封入剤とともに含有されると、甘味フレーバー知覚のかなりの持続を達成することもできる。アスパルテームを封入する場合、チユーインガム中で通常起こる水分劣化は安定化し、ガムは長期間にわたりそのアスパルテーム含有量を維持し、同時に、ガムの甘味知覚を延長する。」(9頁左下欄1?14行)

(1f)「さらに、本発明の保護封入系は、ガム組成物からの活性成分の放出を高度に制御するのに極めて効果的である。これは、とりわけ全組成物の製造中に封入活性成分を配合する場合に、チューインガム組成物に配合されるアスパルテームやサッカリンのような人工甘味料並びに着香料とともに用いて極めて効果的であることがわかった。
したがって本発明の保護系は、第1の成分である高分子量ポリ酢酸ビニルを有する組成物を包含し、ポリ酢酸ビニルの分子量は、20,000MWU?100,000MWU、好ましくは30,000MWU?60,000MWU、最も好ましくは、40,000MWUである。ここで用いる分子量単位は、ゲル透過クロマトグラフィー(GPC)を用いて測定したものをいう。高分子量ポリ酢酸ビニルは、本発明の独特の成分であることがわかり、熱可塑性高分子重合体であり、高結晶構造を有し、そのために脆い。それはまた、極めて不活性であり、殆どの溶媒、とりわけ水に対して比較的不溶である。高分子量ポリ酢酸ビニルの高結晶構造及び極めて脆いテクスチャーのために、水分劣化から保護すると同時に極めて制御の効く活性成分の放出が可能な、効果的な封入組成物の役割にとって有用であるとは普通は考えられない。
しかしながら高分子量ポリ酢酸ビニルが、本発明の独特の封入組成物の第2の成分、即ち溶媒が無くても高分子量ポリ酢酸ビニルと組合わせて膜を形成することができる疎水性可塑剤と組み合わせられると、構造及び操作性に関する不利を伴うことなく高分子量ポリ酢酸ビニルの最高の品質を利用することができる。独特の封入組成物中で、特に効果的な可塑剤は、約45℃?約70℃の融点を有し、溶媒を用いなくてもポリ酢酸ビニルと容易に溶融混合して、所望の封入剤となるようなモノ-、ジ-、またはトリグリセリドである。グリセリドは効果的であるためには、室温で固形または半固形でなければならない。ここで用いるグリセリドの脂肪酸成分は、8?22個の炭素範囲の炭素鎖を有することができ、分子量40,000MWUのポリ酢酸ビニルに対する特に効果的な可塑剤は、グリセリルモノステアレートであることが分かった。
本発明に従って、約70℃?約90℃の範囲で、独特の疎水性可塑剤と高分子量ポリ酢酸ビニルを溶融混合すると、通常はコートしにくい人工甘味料アスパルテームは、そこで容易に混合され、以後の冷却及び粉砕粉末化のために、個々の粒子を完全に封入する。さらに、この組成物が後でチューインガムに配合されるアスパルテーム用の封入剤となる時には、生成する製品は、貯蔵安定性が改善され、持続性の甘味知覚が得られる。」(9頁右上欄4行?10頁左下欄5行)

(1g)「ここで用いるグリセリドという用語は、グリセロールと脂肪酸のエステルであるグリセリドで、但し、グリセロールの水酸基の一つまたはそれより多くが酸基で置換されているものをさす。グリセリド成分は、ポリ酢酸ビニルの可撓性及び弾力性に寄与し、ブレンドとして成分コア物質上に膜を形成し、これによりこのブレンドを封入剤としての役割上極めて効果的なものとする。
封入物質はポリ酢酸ビニルのグリセリドに対する比が、所望の放出の型により約5:1?約1:5、好ましくは約2:1?約1:2であるように調製することができる。」(10頁右下欄2?14行)

(1h)「封入活性成分は好ましくは70℃?90℃のような高められた温度で成分を混合し、これに活性成分を加え、次にこのようにして形成された十分混合された活性成分を冷却して固形物としこれを粉砕して粒子とし、次にこれを供給系に含有させることにより調製できる。冷却固形物は通常は30メッシュふるいを通過する粒子となるまで十分粉砕する。封入のために噴霧凍結法を用いる場合には、均一な球状粒子が生成する。径の均一性と被覆の効果性もまたこの方法により達成される。即ち、噴霧凍結封入活性成分の粒径はノズル径、圧力、および温度を変化させることにより調節でき、粉砕は不要である。」(12頁左上欄5行?右上欄1行)

(1i)「実施例1
封入アスパルテームは、ポリ酢酸ビニル50gとグリセリルモノステアレート100gを約5分間約85℃の温度で機械攪はんにより熔融混合して調製した。熔融混合物を加熱装置から取り出し、微砕化しアスパルテーム40gをさらに5分間かけて溶融塊に十分添加混合した。生成した半固形塊を例えば0℃まで冷却して固体形物を得、十分粉砕して生成粒子が30メッシュふるいを通過するようにした。試料をAPM分析に付すと総重量の21%のAPMを含有することがわかった。このことは調製中のAPMの分解または損失は無視できることを示す。」(13頁左上欄3?15行)

(2)刊行物2:特開平5-292890号公報の記載事項
(2a)「【0002】
【産業上の利用分野】本発明は、活性剤を徐々に放出するための放出系及びそのような系の製造法に関し、特に溶媒との直接の相互作用により徐々に放出される活性剤を有するチューインガムにおいて使用するための放出系及びそのような系を製造するための押出法に関する。」

(2b)「【0007】・・・更に、支持体マトリックスは支持体マトリックスを形成する壁材料の剛性に依存して変形し、活性剤の新たな表面を露出させ、溶媒との直接接触をもたらす。例えば、ガムがかみ砕かれるにしたがって繊維がチューインガム中に取り込まれると、かみ砕く圧力が繊維を平らにし、延伸し、かつ変形して活性剤の新しい表面を溶媒に露出する。この変形による徐放は、活性剤が隣接相でなくても起こるはずである。壁材料として使用されるポリマーの分子量が高くなれば高くなるほど、この変形による徐放は容易には示さなくなるであろう。例えば、分子量が約100,000以上のポリ酢酸ビニルはガムをかんでいる間中変形による徐放は示さないであろう。更に、活性剤が隣接相にない場合には支持体マトリックスの変形が前述の流路と同様なものを創造し、それにより溶媒は活性剤との接触することができる。最終的に、選択された壁材料、選択された活性剤、及び使用される溶媒に依存して極少量の活性剤が壁材料による拡散により溶解しうる。」

(2c)「【0013】好ましくは、ガム基剤は脂肪、油、蝋、及びそれらの混合物から成る群から選択された可塑剤も含む。脂肪及び油には牛脂、水素化及び部分水素化植物油、及びココアバターが含まれうる。一般的に使用される蝋にはパラフィン蝋、微結晶質蝋及び密蝋及びカルナバ蝋のような天然の蝋が含まれる。更に、パラフィン蝋、部分水素化植物油、及びグリセロールモノステアレートの混合物のような可塑剤の混合物も使用しうる。」

(3)刊行物3:特開平6-14739号公報の記載事項
(3a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】下記成分:
A.アミノ酸系甘味料、スクロースのクロロ誘導体、ジヒドロフラビノール、ヒドロキシグアイアコールエステル、L-アミノジカルボン酸ジェム-ジアミン、L-アミノジカルボン酸アミノアルケン酸エステルアミド、ジペプチド甘味料、グリチルリチン、サッカリンおよびその塩、エースサルフェーム塩、サイクラメート、ステビオサイド、タリン、ジヒドロカルコン化合物およびこれらの混合物よりなる群から選択される少なくとも1つの第1の固体の天然または人工の強力甘味料:
B.疎水性および親水性のコーティング物質より選択される第1の内部コーティング、ただし、内部コーティングおよび第1の甘味料は混合され、調製されて、コアの約1?約50重量%の量で存在する第1の甘味料を有するコアを形成したもの;および、
C.第2の甘味料を含有する親水性重合体の第2の外部コーティング、ただし、第2の外部コーティングは、親水性重合体および第2の甘味料から調製され、そして第2の甘味料は重合体溶液中、溶液の約10?約25重量%の量で存在し、外部コーティングは内部コーティングの約5?約50重量%の量で存在するもの、を含有する、甘味料の放出を調整し、甘味料のより大きい保護を可能にすると同時により大きい上立ち甘味を与えることのできる甘味料デリバリーシステム。
【請求項2】下記成分:
A.アミノ酸系甘味料、スクロースのクロロ誘導体、ジヒドロフラビノール、ヒドロキシグアイアコールエステル、L-アミノジカルボン酸ジェム-ジアミン、L-アミノジカルボン酸アミノアルケン酸エステルアミド、ジペプチド甘味料、グリチルリチン、サッカリンおよびその塩、エースサルフェーム塩、サイクラメート、ステビオサイド、タリン、ジヒドロカルコン化合物およびこれらの混合物よりなる群から選択される少なくとも1つの第1の固体の天然または人工の強力甘味料;
B.レシチン、ステアレート、ステアレートのエステル誘導体、パルミテート、パルミテートのエステル誘導体、オレエート、オレエートのエステル誘導体、グリセリド、グリセリドのエステル誘導体、スクロースポリエステル、ポリグリセロールエステル、および動物性ワックス、植物性ワックス、合成ワックス、石油ワックスおよびこれらの混合物よりなる群から選択される乳化剤;
C.総組成物の約20?約93重量%の量で存在し、分子量約2,000?約14,000のポリ酢酸ビニルの第1の内部コーティング;および、
D.第2の甘味料を含有する親水性重合体の第2の外部コーティング、ただし、外部コーティングは親水性重合体の溶液および第2の甘味料から調製し、第2の甘味料は重合体溶液中、溶液の約20?約25重量%の量で存在し、外部コーティングは内部コーティングの約5?約50重量%の量で存在するもの、を含有する、甘味料の放出を調整し、甘味料のより大きい保護を可能にすると同時により大きい上立ち甘味を与えることのできる甘味料デリバリーシステム。
・・・
【請求項12】第2の外部コーティングが、アラビアゴム、トラガカント、カラヤ、ガッティ、寒天、アルギネート、カラジーナン、フセラン、サイリウムおよびこれらの混合物よりなる群から選択される請求項11記載の甘味料デリバリーシステム。
【請求項13】第2の外部コーティングがポリビニルピロリドン、ゼラチン、デキストラン、キサンタン、カードラン、セルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、低メトキシペクチン、プロピレングリコールアルギネート、およびこれらの混合物よりなる群から選択される請求項11記載の甘味料デリバリーシステム。」

(3b)「【0022】
【問題点を解決するための手段】第1の内部またはコアのコーティングおよびある量の甘味料を中に溶解した状態で有する親水性重合体の溶液から調製した第2の外部コーティングを有する多重コーティング系を用いることにより、甘味料デリバリーシステムを調製できることが解った。コアコーティングは脂肪またはワックスのような疎水性物質または親水コロイドのような親水性物質を含有する。適当な親水コロイドはガム、ペクチン、アルギネート、粘液、膜形成炭水化物、およびこれらの混合物を包含する。特定のコア物質は、乳化剤と低分子量ポリ酢酸ビニルの組合せより形成した甘味料を含有するコーティングを有する。
【0023】この多重コーティング系は、本発明のデリバリーシステムをチューインガムに配合した場合、フレーバー成分からの攻撃に対する進歩した耐性を付与し、そして高温での進歩した安定性を付与する。アスパルテームのような甘味料に適用した場合、これらのコーティングは甘味料の持続性放出を可能にし、これによりチューインガムや菓子の甘味知覚や味覚の持続時間を延長すると同時に、外部親水性コーティング中に第2の甘味料の別個の量を含有させたことにより、初期の甘味の強度や甘味感覚を増強する。」

(4)刊行物4:特公平5-39585号公報の記載事項
(4a)「特許請求の範囲
1 セルロース、セルロース誘導体、澱粉、炭水化物、ガム状物、ポリオレフイン、ポリエステル、ワツクス、ビニル重合体、ゼラチン、ゼインおよびそれらの混合物から成る群中より選ばれた被覆用物質の微粒子化された液状小滴のゾーンを通過する空気の流れに、約200°F以下で実質的に無水の条件でL-アスパルチル-L-フエニルアラニンメチルエステル(APM)粒子を導入して前記被覆用物質の微粒子化された小滴を前記APM粒子の表面に付着せしめることにより製造された、前記被覆用物質のAPMに対する割合が1:1またはそれ以下であるカプセル化されたAPM粒子。
2 上記の被覆用物質がセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、セルロースニトレート、セルロースアセテートフタレート、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、アラビノガラクタン、ポリエチレン、ポリメタアクリレート、ポリアミド、エチレン-ビニルアセテート共重合体、ポリビニルピロリドン、アラビアゴム、パラフインワツクス、カルナウバワツクス、鯨蝋、蜜蝋、ステアリン酸、ステアリルアルコール、グリセリルステアレート、ゼラチン、ゼインおよびそれらの混合物から成る群中より選ばれる特許請求の範囲第1項記載のAPM粒子。
・・・
7 上記の被覆用物質から成る複数の層が上記の粒子に付着せしめらる特許請求の範囲第5項記載のAPM粒子。
8 複数の被覆用物質が使用される特許請求の範囲第4項記載のAPM粒子。
9 上記の複数の被覆用物質が上記の粒子に付着せしめられるまえに互いに混合せしめられる、特許請求の範囲第8項記載のAPM粒子。
10 上記の被覆用物質が別々にそして順次的に上記の粒子に付着せしめられる、特許請求の範囲第8項記載のAPM粒子。」(特許請求の範囲請求項1、2、7?10)

(4b)「APMは単独でカプセル化することできるかまたは最初に糖または他の糖の代用品たとえばソルビトールと組み合わせることができる。APMは1種よりも多い被覆用物質でカプセル化することができ、そして被覆用物質は一つよりも多い層で適用することができる。一つの態様において異なつた被覆用物質の複数の層が実質的に適用される。
本発明により製造されたAPMは食物製品中に混入した場合に貯蔵安定性を示すことが見い出され、それは先行技術により処理されたAPMで得られた安定性よりも実質的に優れている。さらにこの安定性は必要な被覆用物質の量を同時に減ずることにより得られるので、食品製品においてAPMの甘味の放出を制御することができる。」(3頁6欄20行?34行)

(4c)「APMの粒子は以下に記載される被覆方法により一層より多い被覆用物質の層でカプセル化することができる。もう一つの態様においてはAPMの粒子は複数の異なつた被覆用物質で被覆することができ、その場合被覆用物質は互いに混合物としてかまたは別々の層として存在する。後者の場合にはたとえばAPMを最初に水溶性の樹脂で被覆することができ、その後水不溶性の樹脂をその上に介在させることができる。この後者の順次的操作の利点は必要以上に早く水にさらし、その結果解裂が生起することからのAPMの保護を延長することである。」(4頁8欄23?34行)

3 対比・判断
刊行物1の組成物の請求項1には、「活性成分を含有するチユーインガム組成物において、封入組成物が高分子量ポリ酢酸ビニル及び疎水性可塑剤の混合物よりなり、該混合物が封入膜を形成する」(上記(1a)の請求項1)と記載され、封入膜を形成するとしているが、組成物の調整方法の請求項38には、「活性成分を、上記溶融混合で生成した溶融塊中に混合し、つぎに冷却固化し、粉砕して粒子にすることにより封入する」(上記(1a)の請求項38)と記載され、さらに、ポリ酢酸ビニル及び疎水性可塑剤の混合物に活性成分を混合し粒子とすること(上記(1d)(1h))が記載されて、実施例(上記(1i))でも、活性成分、ポリ酢酸ビニル及び可塑剤(グリセリンモノステアレート)の混合物を固体としてから粉砕しているから、封入膜を形成するとは、実質的に、活性成分を封入した粒子を形成することといえる。
したがって、上記記載事項(特に(1a)(1d)(1g)(1h)(1i))から、刊行物1には、
「分子量約20,000MWU?約100,000MWUを有する高分子量ポリ酢酸ビニル及び疎水性可塑剤の混合物よりなる無溶媒封入組成物中に、活性成分を封入した粒子」の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されていると認められる。

そこで、本願発明と刊行物1発明を比較する。
(ア)刊行物1発明の「活性成分」は、本願発明の「有効成分」に相当する。
(イ)刊行物1発明の「分子量約20,000MWU?約100,000MWUを有する高分子量ポリ酢酸ビニル」は、本願発明の「ポリ酢酸ビニル、ポリエチレン、架橋ポリビニルピロリドン、ポリメチルメタクリレート、ポリ乳酸、ポリヒドロキシアルカノエート、エチルセルロース、ポリ酢酸ビニルフタレート、ポリエチレングリコールエステル、メタクリル酸-コ-メチルメタクリレート及びこれらの組み合わせからなる群から選択される高分子量ポリマー」である「封入材料」に相当する。
(ウ)刊行物1発明の「疎水性可塑剤」と本願発明の「引張強度改良剤」とは、添加剤である点で共通する。
(エ)刊行物1発明の「活性成分を封入した粒子」は、刊行物1(上記(1c))に活性成分の放出を高度に制御するものであることが記載されているから、活性成分を送達する機能を有するといえ、送達システムといえる。

そうすると、両者の間には以下の一致点及び相違点がある。
(一致点)
送達システムであって、少なくとも1つの粒子を含み、
前記少なくとも1つの粒子が、少なくとも1つの封入材料、少なくとも1つの添加剤、及び少なくとも1つの有効成分の混合物を含み、
前記封入材料は、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレン、架橋ポリビニルピロリドン、ポリメチルメタクリレート、ポリ乳酸、ポリヒドロキシアルカノエート、エチルセルロース、ポリ酢酸ビニルフタレート、ポリエチレングリコールエステル、メタクリル酸-コ-メチルメタクリレート及びこれらの組み合わせからなる群から選択される高分子量ポリマーである送達システムである点。

(相違点1)
送達システムが、本願発明では、粒子が「アラビアゴム、セルロース、修飾セルロース、ゼラチン、ソルビトール、マルチトール、ゼイン、ポリビニルアルコール及びこれらの組み合わせからなる群から選択され」る「コーティング材料によって少なくとも一部が被覆された」ものであるのに対して、刊行物1発明では、コーティング材料で被覆されていない点。

(相違点2)
添加剤が、本願発明では、引張強度改良剤であり、水素化油を含み、送達システムのうちコーティング材料を除いた質量100質量部に対して5質量%以下の量で存在しているのに対して、刊行物1発明では、疎水性可塑剤である点。

(相違点3)
本願発明では、伝達システムが「少なくとも6500psi(44.82MPa)の引張強度を有する」のに対して、刊行物1発明では、粒子が「分子量約20,000MWU?約100,000MWUを有する高分子量ポリ酢酸ビニル及び疎水性可塑剤の混合物よりなる無溶媒封入組成物」を用いたものであるが、粒子の引張強度は明らかでない点。

そこで、上記各相違点について検討する。
(相違点1について)
刊行物1には、発明の目的の1つとして、活性成分の放出を高度に制御することが記載され(上記(1c))、チューインガムに用いた場合、放出を長続きすることが記載されている(上記(1e))。
そして、刊行物3(上記(3a))には、第1の甘味料を、ポリ酢酸ビニル等の第1の内部コーティングに混合してコアを形成し、第2の甘味料を含有する第2の外部コーティングとして、アラビアゴム、ゼラチン、セルロース、修飾セルロース等の親水性重合体のコーティングを設けた甘味料デリバリーシステムが記載されている。そして、この多重コーティング系は、チューインガムに配合した場合、甘味料の持続性放出を可能にし、チューインガムや菓子の甘味知覚や味覚の持続時間を延長すると同時に、第2の甘味料を含有させたことにより、初期の甘味の強度を増強することが記載されており(上記(3b))、甘味料の持続性放出を可能にし、味覚の持続時間を延長することは、第2の外部コーテイングに含有される第2の甘味料によるというより、多重コーテイングによるものといえる。また、刊行物4には、APM(アスパルテーム)粒子を異なる種類の被覆用物質の複数層で被覆することが記載されていおり、発明の目的がAPMを保護することであることが記載されているが、「食品製品においてAPMの甘味の放出を制御することができる。」とも記載されている(上記(4b))。
そして、刊行物1発明は、活性成分の放出を高度に制御でき、チューインガムに用いた場合放出が長続きするものであるが、活性成分は種類により溶解性等の性質が異なるものであるし、求められる放出特性も異なるものであるから、これに対応できるように、高度に制御した活性物質の放出制御を調整のために、刊行物1発明の高分子量ポリ酢酸ビニル及び疎水性可塑剤に活性成分を封入した粒子に、刊行物3に記載されるアラビアゴム、ゼラチン、セルロース等のコーティング材料を塗布することは、当業者であれば容易に想到し得ることといえる。

(相違点2について)
刊行物1(上記(1f))には、疎水性可塑剤として、モノ-、ジ-、トリグリセリド記載され、これらのグリセリドが効果的であるためには、室温で固形または半固形でなければならないことが記載されている。そして、分子量が40,000MWUのポリ酢酸ビニルに対する特に効果的な可塑剤が、グリセリンモノステアレートであることが記載されているが、刊行物1の記載全体からみて、これに限られるものではなく、ポリ酢酸ビニルの分子量や活性成分の種類に応じて、固形または半固形のトリグリセリドも可塑剤として用いることができるといえる。また、刊行物1(上記(1g))に、ポリ酢酸ビニルのグリセリドに対する比が、所望の放出の型により約5:1?約1:5と記載されているものの、刊行物1の記載全体からみて、刊行物1発明はこの範囲に限られるものでなく、高分子量ポリ酢酸ビニルの分子量や可塑剤の種類、及び活性部成分の種類により、所望の放出の程度となるように変更し得るものといえる。
そして、トリグリセリドが油脂の主成分であること、及び油脂に水素添加すると固形または半固形の硬化油となることは、例えば、「総合食品辞典,第3版改訂第3刷,昭和51年,同文書院,930頁、298頁」に記載されるように、本願優先日前の技術常識である。
また、チューインガム基剤ではあるが、食品用のポリ酢酸ビニル等の可塑剤として、水素化及び部分水素化植物油を用いることは、例えば、刊行物2(上記(2c))、特開平4-311365号公報(【0041】、【0056】)にも記載されるように周知技術である。
そうすると、刊行物1発明において、可塑剤である固形のまたは半固形のトリグリセリドとして、あるいはこれに代えて「水素化油」を用い、添加量を、有効成分の放出の程度が所望のもとのなるように、高分子量ポリ酢酸ビニルの分子量や可塑剤の種類に応じて最適化し、粒子の質量に対して、5%未満とすることは、当業者が容易になし得たことといえる。

(相違点3について)
本願発明の「前記送達システムが少なくとも6500psi(44.82MPa)の引張強度を有する」ものであることについては、以下の「4 明細書の記載要件について」で記載するように、送達システムの引張強度を直接測定することができるとは考えられないが、封入材料については、本願明細書段落【0059】に記載された、ASTM-D638に従って測定でき、同段落に、封入材料として好適なポリ酢酸ビニルとして、「Vinnapas(登録商標) B100」が記載されており、審判請求人は、審判請求理由で、この製品は、80000?100000という高い分子量を有するものであり、分子量80000?100000のポリ酢酸ビニルを封入材料として用いると、高い引張強度が得られるとしていることから、本願発明は、上記の範囲の分子量のポリ酢酸ビニルを封入材料として用いたものであるとして検討する。
刊行物1発明は、「分子量約20,000MWU?約100,000MWUを有する高分子量ポリ酢酸ビニル及び疎水性可塑剤の混合物よりる無溶媒封入組成物」を封入材料としている。
そして、刊行物2(上記(2b))には、ポリ酢酸ビニルを壁材料とした除放性構造物において、壁材料として使用されるポリマーの分子量が高くなれば高くなるほど、活性剤の徐放が容易には示されなくなること、分子量が100000以上では、ガムをかんでも徐放性を示さないことが記載されており、徐放性の程度とポリ酢酸ビニルの分子量が関係し、分子量が大きい程、活性剤が放性され難くなる、つまり放出が長続きすることが示唆されているといえる。
そうすると、活性成分の放出を高度に制御し、活性成分の放出を長続きさせることを目的とした刊行物1発明において、高分子量ポリ酢酸ビニルの分子量を、活性成分の種類や粒子を添加する食品の種類に応じて、所望の程度に活性成分の放出が制御されるように最適化し、分子量80000?100000とすることは、当業者が容易になし得たことといえる。
また、仮に、送達システムの引張強度を直接測定することができたとしても、誤訳訂正後の明細書段落【0056】に、「封入材料は送達システムの引張強度に応じて選択され」と記載され、さらに、段落【0059】に「得られる送達システムの引張強度は、封入材料を必要な大きさ及び形状に成形した後、ASTM-D638に従って容易に試験することができる。」と記載され、送達システム引張強度が、封入材料を試験片として測定できることが記載されていること、及び本願発明の「コーテイング材料」は、粒子の少なくとも一部を被覆すればよく、その材質も、ソルビトールやマルチトールといった糖類も選択しうるものであるから、送達システムの引張強度に影響するとは考え難いことから、実質的に、封入材料の引張強度とさほど変わるものでないといえる。
そうすると、上記のとおり、高分子量ポリ酢酸ビニルの分子量を、活性成分の種類や粒子を添加する食品の種類に応じて、活性成分が所望の程度に放出が制御されるように最適化し、分子量80000?100000とすることで、実質的に、送達システムは「少なくとも6500psi(44.82MPa)の引張強度を有する」ものとなるといえ、送達システムを「少なくとも6500psi(44.82MPa)の引張強度を有する」ものとすることは、当業者が容易になし得たことといえる。

(効果について)
本願明細書段落【0005】に記載された、有効成分の放出制御及び/又は遅延放出が得られるという効果は、刊行物1ないし4の記載事項から予測し得たものであり、格別顕著なものとはいえない。

4 明細書の記載要件について
当審の拒絶理由における、明細書の記載要件についての理由の概要は、特許請求の範囲に記載された「前記送達システムが少なくとも6500psi(44.82MPa)の引張強度を有する送達システム」の「引張強度」について、引張強度の測定方法として、本願明細書段落【0059】に「得られる送達システムの引張強度は、封入材料を必要な大きさ及び形状に成形した後、ASTM-D638に従って容易に試験することができる。」と記載されているが、封入材料は樹脂であり試験片を成形できるが、送達システムは、封入材料と有効成分を含む粒子にコーテイングしたものであるから、どのようにして送達システムの引張強度を測定するのか不明であるし、実施例においても、実際に、「送達システムの引張強度」及び「封入材料の引張強度」のいずれも測定していないから、本願発明は、当業者が実施し得るように明確かつ十分に記載したものともいえないというものである。
これに対して、請求人は意見書で、段落【0059】に記載のとおり、送達システムの試験片は、0℃に冷却された固体であり、送達システムが封入材料と有効成分を含む粒子をコーテイング材料でコーテイングした物であったとしても、その物を試験片に形成することは可能であると主張する。
しかしながら、ASTM-D638の試験法で使用する試験片は、通常ダンベル型に成形された試験片であり、封入材料についてはこのような試験片を作成できるが、送達システムは、粒径がわずか125?900μm(請求項3)程度であることから、これをどのようにして上記のような試験片にするのか、明細書の記載及び技術常識を考慮しても不明であり、発明の詳細な説明の記載は、送達システムの引張強度を直接測定することを実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものとすることはできない。
なお、錠剤の引張強度を、錠剤の硬度から算出することは、例えば、特開2005-535681号公報(【請求項24】、【0016】)に記載されているが、本願明細書には、ASTM-D638に従って試験することが記載されるだけであり、このような手法を採用することが自明であるとすることもできない。

5 むすび
以上のとおり、本願請求項1に係る発明は、刊行物1ないし4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
また、本願明細書の記載は、当業者が発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとすることはできず、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないため特許を受けることはできない。
したがって、その他の点についての判断を示すまでもなく本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-02-20 
結審通知日 2013-02-26 
審決日 2013-03-11 
出願番号 特願2008-513457(P2008-513457)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (A23L)
P 1 8・ 121- WZ (A23L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 伊藤 佑一  
特許庁審判長 秋月 美紀子
特許庁審判官 齊藤 真由美
菅野 智子
発明の名称 食用組成物の一部としての、被覆された、有効成分送達システム  
代理人 藤田 和子  

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