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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 A61L
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A61L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61L
管理番号 1277089
審判番号 不服2011-11416  
総通号数 165 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-05-31 
確定日 2013-07-25 
事件の表示 特願2003-425977「屋内ダニ誘引抑制剤及び誘引抑制方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 6月 2日出願公開、特開2005-137868〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成15年12月22日〔優先権主張 平成15年1月27日、同年2月24日、同年4月9日、同年6月27日、同年10月17日〕の出願であって、
平成21年12月15日付けの拒絶理由通知に対し、平成22年2月22日付けで意見書の提出とともに手続補正がなされ、
平成23年2月25日付けの拒絶査定に対し、平成23年5月31日付けで審判請求がなされるとともに手続補正がなされ、
平成23年12月15日付けの審尋に対し、平成24年2月14日付けで回答書の提出がなされ、
平成24年12月18日付けの審尋に対し、回答書の提出がなされなかったものである。

第2 平成23年5月31日付け手続補正についての補正の却下の決定
〔補正の却下の決定の結論〕
平成23年5月31日付け手続補正を却下する。

〔理由〕
1.補正の内容
平成23年5月31日付けの手続補正(以下、「第2回目の手続補正」という。)は、補正前の請求項1に記載された
「人体分泌物及び/又は食品屑由来のダニ誘引性揮発成分を低減させる物質として、
(A):炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、炭酸カルシウム、塩化亜鉛、酸化亜鉛及び酸化マグネシウムから選ばれる1種以上の無機塩、
(B):アミンオキシド系界面活性剤、脂肪酸アルカノールアミド系界面活性剤、アルカノールアミン、尿素、アンスラニル酸エステル、アミノ酸またはアミノ糖からなる高分子化合物、及びポリアルキレンポリアミンから選ばれる1種以上の分子内に窒素原子を有する有機化合物、並びに
(C):乳酸、グルコン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、リンゴ酸、酒石酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クエン酸、フタル酸、酢酸、安息香酸、サリチル酸、ジエチルバルビツル酸、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、セリン、グルタミン酸、アスパラギン酸、炭素数が8?18のアルキル基もしくはアルケニル基を有するアルキルもしくはアルケニルコハク酸、リン酸、ホウ酸、又はこれらの酸とモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、メチルモノエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、水酸化ナトリウム、及び水酸化カリウムから選ばれる塩基との塩から選ばれる1種以上のpH緩衝作用を有する酸及び/又はその塩、
から選ばれるいずれか一つ以上を含む屋内ダニ誘引抑制剤。」
を、補正後の請求項1において、
「人体分泌物及び/又は食品屑由来のダニ誘引性揮発成分を低減させる物質として、
(B):アミンオキシド系界面活性剤及び脂肪酸アルカノールアミド系界面活性剤から選ばれる1種以上の分子内に窒素原子を有する有機化合物、より成る群から選ばれるいずれか一つ以上を含む屋内ダニ誘引抑制剤。」
に改める補正を含むものである。

2.補正の適否
(1)はじめに
上記請求項1についての補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「(A):…無機塩、(B):アミンオキシド系界面活性剤、脂肪酸アルカノールアミド系界面活性剤、アルカノールアミン、尿素、アンスラニル酸エステル、アミノ酸またはアミノ糖からなる高分子化合物、及びポリアルキレンポリアミンから選ばれる1種以上の分子内に窒素原子を有する有機化合物、並びに(C):…から選ばれるいずれか一つ以上」を、補正後の請求項1において「(B):アミンオキシド系界面活性剤及び脂肪酸アルカノールアミド系界面活性剤から選ばれる1種以上の分子内に窒素原子を有する有機化合物、より成る群から選ばれるいずれか一つ以上」に改めるものであって、
補正前の請求項2における(B)の選択肢への限定のみならず、補正前の請求項1における(A)及び(C)の選択肢をも削除しているという点において、補正前の請求項1に記載した発明特定事項を限定するものであり、
なおかつ、当該限定により補正前後の当該請求項に係る発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が変更されるものでもないことから、
平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮(第三十6条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」を目的とするものに該当する。
そこで、補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下、「補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか否か)について以下に検討する。

(2)サポート要件について
ア.ダニ誘引性揮発成分について
補正後の請求項1の「人体分泌物及び/又は食品屑由来のダニ誘引性揮発成分を低減させる物質」との記載における「ダニ誘引性揮発成分」という発明特定事項について、
本願明細書の段落0014には「また、本発明者らは、人体分泌物、食品屑、香粧品または化粧品が付着した繊維製品等から発せられる直鎖脂肪族アルデヒド、リモネンが、優れたダニ誘引性を有することを新たに見出した。この新たな知見に基づき、本発明者らは、直鎖脂肪族アルデヒド、特に炭素数7?10の直鎖脂肪族アルデヒドや、リモネンを消臭し、これらの成分の揮散を効果的に抑制することにより、ダニ誘引性を低減させ及び/又は抑制することを検討しダニ誘引抑制剤を得た。」との記載がなされ、
同段落0017には「本発明は、人体分泌物及び/又は食品屑由来のダニ誘引性揮発成分を低減させる物質を含む屋内ダニ誘引抑制剤であり、前記ダニ誘引性揮発成分は、炭素数4?18の脂肪酸及びその脂肪酸エステル、炭素数7?10の直鎖脂肪族アルデヒド、炭素数4?14の脂肪族ラクトン、炭素数4?12の脂肪族ケトン、並びにリモネンから選ばれるいずれか一つ以上を含むことができる。」との記載がなされている。

これに対し、例えば、平成21年12月15日付けの拒絶理由通知書において「引用文献4」として提示された「特開平11-151051号公報」の段落0005の「害虫忌避剤とは、…ダニ…などの害虫を接近もしくは付着させないようにする薬剤であって、…リモネン…などを例示することができる。」との記載にあるように、
当該「リモネン」等の化合物は、一般にダニに対して忌避性(ないし殺虫性)を示す成分として知られている。

そして、本願明細書の発明の詳細な説明には、当該「リモネン」等の化合物が「ダニ誘引性揮発成分」としての作用機序を示すことを裏付ける具体的な実験データについての記載がなく、
平成24年12月18日付けの審尋の『(あ)…当該「リモネン」等の化合物が「ダニ誘引性揮発成分」といえることの技術的根拠…を説明してください。』との指摘に対して、特段の説明もなされていないので、
当該「リモネン」等の化合物を「ダニ誘引性揮発成分」としている補正発明については、本願明細書の発明の詳細な説明の記載から、科学的に一般化することができない。

イ.ダニ誘引性揮発成分を低減させる物質について
補正後の請求項1の「人体分泌物及び/又は食品屑由来のとして、(B):アミンオキシド系界面活性剤及び脂肪酸アルカノールアミド系界面活性剤から選ばれる1種以上の分子内に窒素原子を有する有機化合物、より成る群から選ばれるいずれか一つ以上を含む屋内ダニ誘引抑制剤」との記載における「分子内に窒素原子を有する有機化合物」から選ばれる「ダニ誘引性揮発成分を低減させる物質」という発明特定事項について、
本願明細書の段落0104には「

」という結果が記載されている。

すなわち、本願明細書の実施例2の結果(表3)においては、その「ダニ誘引性揮発成分を低減させる物質」とされる「ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド(1:2型)」の使用量が、10μg/cm^(2)の処理区(41匹)よりも、100μg/cm^(2)の処理区(44匹)の方が、多くのダニを誘引していることから、
当該「ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド(1:2型)」は、その使用量が多ければ多いほど「誘引抑制」の効果を示していないという点において「ダニ誘引性揮発成分を低減させる物質」としての機能を奏し得ていないものと解さざるを得ない。

そして、平成24年12月18日付けの審尋の『(い)…当該(B)の物質それ自体が、本願請求項1に記載された「人体分泌物及び/又は食品屑由来のダニ誘引性揮発成分を低減させる物質」として機能して「屋内ダニ誘引抑制剤」についての発明が成り立っているものと解し得ないように思われます。』との指摘に対して、特段の反論ないし釈明もなされていないので、
当該「ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド(1:2型)」を含む「分子内に窒素原子を有する化合物」を「ダニ誘引性揮発成分を低減させる物質」としている補正発明については、本願明細書の発明の詳細な説明の記載から、科学的に一般化することができない。

ウ.サポート要件についての小括
以上のとおり、本願優先日前の技術常識に照らしても、本願請求項1に記載された発明の範囲にまで、本願明細書の発明の詳細な説明に開示された内容を科学的に一般化できるとは認められないので、補正後の本願請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、第2回目の手続補正により補正された場合の特許出願は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。
したがって、補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

(3)新規性について
ア.引用文献2及びその記載事項
平成23年7月27日付けの前置報告書において「引用文献2」として提示された本願優先日前に頒布された刊行物である「特開2002-309294号公報」には、次の記載がある。

摘記2a:請求項2
「非イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、両性界面活性剤のうちの一種以上が含有されてなることを特徴とする請求項1に記載の液体洗浄剤。」

摘記2b:段落0001、0021及び0025
「本発明は忌避剤を含有する液体洗浄剤に係り、その目的は、畳、フローリング、家具等を洗浄する際に使用することにより、その表面に付着した汚れを除去するとともに、ゴキブリ、ダニ、クモ等の節足動物を忌避するとともに、産卵を抑制してこれらの害虫を駆除することができる液体洗浄剤を提供することにある。…
本発明に係る忌避剤を含有する液体洗浄剤は、洗浄成分として界面活性剤が用いられる。…
非イオン性界面活性剤は特に限定されず、…脂肪酸アルカノールアミド、アルキルジメチルアミンオキシド、…等を例示することができる。」

摘記2c:段落0032、0034及び0039
「上記調製したヨモギ抽出物、ヒノキ抽出物、ドクダミ抽出物を重量比で60:2.0:38となるように混合した植物抽出物有効成分…以下に記載された組成の畳用洗浄剤に上記の混合物を、その含有量が0.6重量%となるように配合することにより、実施例4の試料を調製した。…
畳用洗浄剤
エチルアルコール 6.00
ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド 0.25
ポリグリセリン脂肪酸エステル 0.25
ケイ酸塩 0.20
水 残 量
合計 100.00重量% …
表2の結果のとおり、4回の試験のうち、実施例4の試料を塗布した畳の上で確認されたダニは1匹のみであり、既に死亡していた。また、実施例4の試料を塗布した畳の付近のシャーレ上ではダニが摂食困難な状態となっていた。さらに、当初放ったダニのうち約半数のダニはシャーレ上で確認できず、シャーレから逃亡したものと思われる。以上のことから、本発明に係る忌避剤を含有した液体洗浄剤は、ダニに対する忌避作用を有していることが分かる。」

イ.引用文献2に記載された発明
摘記2aの「非イオン性界面活性剤…が含有されてなる…液体洗浄剤。」との記載、
摘記2bの「畳…等を洗浄する際に使用することにより、その表面に付着した汚れを除去するとともに、…ダニ…等の節足動物を忌避するとともに、産卵を抑制してこれらの害虫を駆除することができる液体洗浄剤を提供する…非イオン性界面活性剤は…脂肪酸アルカノールアミド…等を例示することができる。」との記載、及び
摘記2cの「モギ抽出物、ヒノキ抽出物、ドクダミ抽出物を重量比で60:2.0:38となるように混合した植物抽出物有効成分…の含有量が0.6重量%となるように配合することにより、実施例4の試料を調製した。…畳用洗浄剤…ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド0.25…重量%…実施例4の試料を塗布した畳の上で確認されたダニは1匹のみであり、既に死亡していた。…以上のことから、本発明に係る忌避剤を含有した液体洗浄剤は、ダニに対する忌避作用を有していることが分かる。」との記載からみて、引用文献2には、
『非イオン性界面活性剤(ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド)が含有されてなる、畳の表面に付着した汚れを除去するとともに、ダニ等の節足動物を忌避することができる畳用洗浄剤。』についての発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

ウ.対比・判断
補正発明と引用発明とを対比すると、
引用発明の「非イオン性界面活性剤(ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド)」は、摘記2bの「非イオン性界面活性剤は…脂肪酸アルカノールアミド」との記載、及び本願明細書の段落0039の「脂肪酸アルカノールアミド系界面活性剤としては、ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド(1:2型)」との記載からみて、補正発明の「(B):アミンオキシド系界面活性剤及び脂肪酸アルカノールアミド系界面活性剤から選ばれる1種以上の分子内に窒素原子を有する有機化合物」に相当し、
引用発明の「畳の表面に付着した汚れを除去する」は、摘記2bの「洗浄成分として界面活性剤が用いられる」との記載からみて、引用発明の「非イオン性界面活性剤(ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド)」という物質の機能・特性を表しているものであって、引用発明の「付着した汚れ」に「人体分泌物及び/又は食品屑由来のダニ誘引性揮発成分」が含まれていることも明らかであるから、補正発明の「人体分泌物及び/又は食品屑由来のダニ誘引性揮発成分を低減させる物質として」に相当し、
引用発明の「ダニ等の節足動物を忌避することができる畳用洗浄剤」は、畳の上のダニを忌避するための「剤」に関するものであって、本願明細書の段落0021の「たたみ等のような屋内ダニが棲息しやすいところ」との記載からみて、引用発明の抑制対象とされている「ダニ」が補正発明の「屋内ダニ」に一致することも明らかであるから、補正発明の「屋内ダニ誘引抑制剤」に相当する。

してみると、両者は『人体分泌物及び/又は食品屑由来のダニ誘引性揮発成分を低減させる物質として、(B):アミンオキシド系界面活性剤及び脂肪酸アルカノールアミド系界面活性剤から選ばれる1種以上の分子内に窒素原子を有する有機化合物、より成る群から選ばれるいずれか一つ以上を含む屋内ダニ誘引抑制剤。』に関するものである点において一致し、補正発明と引用発明とに実質的な相違点は認められない。

また、仮に「分子内に窒素原子を有する有機化合物」の作用機序が、補正発明においては「人体分泌物及び/又は食品屑由来のダニ誘引性揮発成分を低減させる」ためのものであるのに対して、引用発明においては「畳の表面に付着した汚れを除去する」ためのものである点において一応相違するとしても、
補正発明の「屋内ダニ誘引抑制剤」と、引用発明の「ダニ等の節足動物を忌避することができる畳用洗浄剤」とは、適用対象・方法・化学的組成が全く同じであるから、両者を実質的に区別することができない。

エ.新規性についての小括
以上のとおり、補正発明は、引用文献2に実質的に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

3.まとめ
以上総括するに、補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないから、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、第2回目の手続補正は、その余のことを検討するまでもなく、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、〔補正の却下の決定の結論〕のとおり決定する。

第3 本願発明について
1.本願発明
第2回目の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?10に係る発明は、平成22年2月22日付けの手続補正(以下、「第1回目の手続補正」という。)により補正された特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定されるとおりのものと認める。

2.原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、「この出願については、平成21年12月15日付け拒絶理由通知書に記載した理由2-6によって、拒絶をすべきものです。」というものであって、
平成21年12月15日付けの拒絶理由通知書には、理由3として『この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。』との理由が示されるとともに、
当該「下記の点」として『請求項1-6,17-25に係る発明は、ダニの誘引を抑制する具体的な手段が請求項に反映されたものでないし、発明の詳細な説明には、ダニ誘引抑制剤として効果が確認されているのは実施例に記載された化合物のみであり、該化合物以外に、請求項1-6,17-25に係る発明に含まれるものとして何を用いることができるのか当業者が理解できるものでもない。』との指摘がなされている。
そして、平成23年2月25日付けの拒絶査定の備考欄には『請求項1に記載の種々の化合物のうち、発明の詳細な説明において具体的に効果が確認されているのは、炭酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、アミンオキシド系界面活性剤、脂肪酸アルカノールアミド系界面活性剤、アルケニルコハク酸のカリウム塩のみであって、その他の化合物については具体的に開示されていない。例えば、炭酸ナトリウムや硫酸ナトリウムは洗浄剤に含有させる形で使用されるが、水溶性でない酸化亜鉛や炭酸カルシウムが同様に用いることができるのか、水溶液において酸性を示す塩化亜鉛が同様に効果を奏するのか、合理的に説明されているとはいえない。また、アミノ酸やアミノ等からなる高分子のすべてが同様に中和できることも、自明であるとはいえない。アルケニルコハク酸の塩を用いた例から、乳酸やグリシン等、化学構造もpHも異なる化合物が同様に効果を奏することが一般化できるともいえない。そうすると、請求項1に係る発明のうち、具体的に開示されていない化合物については、発明の詳細な説明に実質的に記載されたものといえないし、かかる化合物について当業者はどのように用いれば目的とする効果を得られるのか理解できない。よって、請求項1,3,8-10に係る発明は依然として、発明の詳細な説明に実質的に記載されたものでないし、発明の詳細な説明は、請求項1,3,8-10に係る発明を当業者が実施し得る程度に明確かつ十分に記載されたものでない。』との指摘がなされている。

3.理由3の適否について
(1)先ず、平成22年2月22日付けの意見書の『(2-a)補正後の請求項1では、人体分泌物及び/又は食品屑由来のダニ誘引性揮発成分を低減させる物質(以下、単に前記物質ということがある)を、以下の(A)?(C)から選ばれるいずれか1つ以上を含むものに限定した。…(2-h)出願当初の請求項2?16、20?25は削除した。(2-i)補正後の請求項8?10は、上記補正に伴い、出願当初の請求項17?19において、
請求項番号及び引用する請求項番号を変更したものである。』との説明からも明らかなように、第1回目の手続補正により補正された請求項1は、出願当初の請求項1に対応するものである。
そして、同意見書においては『これら物質のうち(A)?(C)は、明細書段落0026?0030に記載のダニ誘引性揮発成分を中和反応、付加・縮合反応、酸化還元反応等の化学的作用により低減させる物質である。物質(A)?(C)は、本願の実施例において、そのダニ誘引抑制効果が確認されたもの、または、当業者が実施例の結果から上記化学的作用によりダニ誘引性揮発成分の低減及び/又は除去が可能であり、ダニ誘引抑制効果を有することが推測できるものである。』との主張がなされており、
平成23年5月31日付けの審判請求書の請求の理由においては『請求項1及び請求項2において、ダニ誘引性成分を低減させる物質を、実施例においてその効果が証明されている物質に限定したため、補正後の本願請求項1、2に係る発明、並びに本願請求項1又は2を引用する請求項3?5に係る発明は、発明の詳細な説明に実質的に開示されたものであり、また、発明の詳細な説明は、補正後の本願請求項に係る発明を当業者が実施し得る程度に明確且つ充分に記載されている。』との主張がなされている。

(2)次に、本願明細書の段落0010、0036?0037、0043及び0119?0129には、以下のとおりの記載がある。
「【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、安全で、かつ掃除者に負担感の少ない方法で、ダニの密集及び増殖を抑える新しい屋内ダニの誘引抑制剤、屋内ダニ誘引抑制方法、屋内ダニ誘引性成分を低減させる方法、及び洗濯仕上げ剤を提供する。…
【0036】
無機塩類は、上記脂肪酸、直鎖脂肪族アルデヒドに対し中和的な作用を示すもので、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、炭酸カルシウム、塩化亜鉛、酸化亜鉛、酸化マグネシウム等が挙げられる。
【0037】
分子内に窒素原子を有する有機化合物は、上記脂肪酸、直鎖脂肪族アルデヒドに対し中和的な作用を示すものであり、化合物の代表的な構造としては、アミン、アミド、イミド、アミンオキシド等が挙げられる。…
【0043】
pH緩衝作用を有する酸及びその塩は、上記脂肪酸、直鎖脂肪族アルデヒドに対し中和的な作用を示し、上記脂肪酸エステル、脂肪族ラクトン、脂肪族ケトン、リモネンと付加的な作用を示すものであり、本発明において好適に用いられる。…
【0119】
(実施例7)誘引性成分の低減効果
(1)試験方法
中古枕カバー布5×10cmを8等分に裁断し、その中から無作為に選んだ4枚を表8に示す洗浄剤20gを用いて以下の方法により洗浄したものを処理布とした。残りの4枚を未処理布とした。この処理布及び未処理布のノナナール揮散量をヘッドスペースGC-MSにより測定し、減少率を計算した。結果を表9に示す。
【0120】
【表8】

【0121】
洗濯機:ナショナル全自動洗濯機 NA-F601P
浴比 60:1(水30L)
洗浄6分、すすぎ2回、脱水4分、室内干し3時間
【0122】
(2)ヘッドスペースGC-MS分析条件
SPME:Carboxen/PDMS
カラム:DB-1701(長さ;60m、内径;0.25mm、膜厚;1μm)
昇温条件:20℃-(8℃/分)-60℃-(3℃/分)-200℃-(7℃/分)-280℃
【0123】
(3)誘引性成分減少率(%)の計算
【0124】
【数2】

【0125】
C:未処理布のn‐ノナナールのピーク面積
D:処理布のn‐ノナナールのピーク面積
【0126】
(4)試験結果
表9に示すように、誘引性成分減少率は未処理布に対して処理布が44%であった。
【0127】
(実施例8)ダニ誘引抑制効果
5cm角の中古枕カバー4枚を実施例7に記載の洗浄方法により処理した。また、対照区には5cm角のろ紙4枚を用意し、実施例4に記載の方法に従って誘引試験を行った。なお、未処理の中古枕カバーを比較例とした。結果を表9に示す。
【0128】
【表9】

【0129】
表9に示したとおり、洗浄処理により中古枕カバー中のノナナールが低減され、それに伴いダニ誘引抑制効果も認められた。」

(3)一般に『特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり,明細書のサポート要件の存在は,特許出願人…が証明責任を負うと解するのが相当である。』とされているところ〔平成17年(行ケ)第10042号判決参照。〕、
本願請求項1に列挙された多数の選択肢のものの全てが、本願明細書の段落0010に記載された「本発明は、安全で、かつ掃除者に負担感の少ない方法で、ダニの密集及び増殖を抑える新しい屋内ダニの誘引抑制剤、屋内ダニ誘引抑制方法、屋内ダニ誘引性成分を低減させる方法、及び洗濯仕上げ剤を提供する。」という本願所定の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かについて検討する。

(4)本願請求項1に記載された(A)?(C)のうちの「(A):炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、炭酸カルシウム、塩化亜鉛、酸化亜鉛及び酸化マグネシウムから選ばれる1種以上の無機塩」の一群の選択肢について、
本願明細書の段落0119?0129に記載された実施例7?8の具体例においては、その「表8に示す洗浄剤」によって「誘引性成分の低減効果」と「ダニ誘引抑制効果」が得られることが示されているが、
当該「表8に示す洗浄剤」は、本願請求項1に記載された(A)の選択肢のうちの「炭酸ナトリウム」と「硫酸ナトリウム」のみならず、本願請求項3に記載された(D)の選択肢のうちの「ゼオライト」や(F)の選択肢のうちの「アルキレングリコール」に含まれるかもしれないSP値不明の「ポリエチレングリコール」や、発明特定事項とされていない「直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム(C10?C18)」や「石鹸(C14?C20)」などの他の成分をも含んだ組成にあり、
当該「誘引性成分の低減効果」や「ダニ誘引抑制効果」は、上記「ゼオライト」や「石鹸(C14?C20)」などの他の成分の配合によって専ら得られたとも解し得るから、
当該「炭酸ナトリウム」や「硫酸ナトリウム」の配合によって、本願所定の課題が解決できることが、本願明細書の発明の詳細な説明の記載によって科学的に裏付けているとはいえない。
況してや、本願請求項1に記載された(A)の選択肢のうちの「炭酸水素ナトリウム、硫酸マグネシウム、炭酸カルシウム、塩化亜鉛、酸化亜鉛及び酸化マグネシウム」の6種類の選択肢については、これらの無機塩の水溶性などの諸性質が上記「炭酸ナトリウム」や「硫酸ナトリウム」の結果から類推できる程度に酷似した範囲にあるとは認められず、これら6種類の無機塩が上記「誘引性成分の低減効果」や「ダニ誘引抑制効果」を奏するという技術常識も見当たらない。
したがって、これら6種類の選択肢の各々が、本願明細書の発明の詳細な説明の記載により当業者が本願所定の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし本願所定の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められない。
そして、本願請求項1に記載された(B)の「分子内に窒素原子を有する有機化合物」及び(C)の「pH緩衝作用を有する酸及び/又はその塩」の場合についても、上記(A)の場合と同様である。

(5)してみると、原査定の『水溶性でない酸化亜鉛や炭酸カルシウムが同様に用いることができるのか、水溶液において酸性を示す塩化亜鉛が同様に効果を奏するのか、合理的に説明されているとはいえない。また、アミノ酸やアミノ等からなる高分子のすべてが同様に中和できることも、自明であるとはいえない。アルケニルコハク酸の塩を用いた例から、乳酸やグリシン等、化学構造もpHも異なる化合物が同様に効果を奏することが一般化できるともいえない。』との指摘は妥当なのものであり、
原査定の『請求項1…に係る発明は依然として、発明の詳細な説明に実質的に記載されたものではない』との結論に誤りはない。
したがって、本願請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、本願は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。

(6)なお、上記審判請求書の『請求項1…において、ダニ誘引性成分を低減させる物質を、実施例においてその効果が証明されている物質に限定したため、補正後の本願請求項1…に係る発明は、発明の詳細な説明に実質的に開示されたものであり』との主張は、第2回目の手続補正が却下されていることから、これを採用できず、
上記意見書の『物質(A)?(C)は、本願の実施例において、そのダニ誘引抑制効果が確認されたもの、または、当業者が実施例の結果から上記化学的作用によりダニ誘引性揮発成分の低減及び/又は除去が可能であり、ダニ誘引抑制効果を有することが推測できるものである。』との主張も、
上記『第3 3.(4)』に示したように、本願請求項1に記載された(A)のうちの「炭酸ナトリウム」や「硫酸ナトリウム」が単独で本願所定の課題を解決できることについては、本願明細書の発明の詳細な説明に客観的な裏付けがなく、況してや、酸化亜鉛や炭酸カルシウムや塩化亜鉛などの具体的に効果が確認されていないものにまで「誘引性成分の低減効果」や「ダニ誘引抑制効果」を推測できるとは認められないこと、及び、
上記『第2 2.(2)イ.』に示したように、本願請求項1に記載された(B)のうちの「脂肪酸アルカノールアミド系界面活性剤」は必ずしも本願所定の課題を解決できると認識できる範囲にあるものとして認められないことから、これを採用できない。

4.むすび
以上総括するに、本願請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、本願は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。
したがって、その余の理由について検討するまでもなく、また、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-05-22 
結審通知日 2013-05-28 
審決日 2013-06-13 
出願番号 特願2003-425977(P2003-425977)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (A61L)
P 1 8・ 537- Z (A61L)
P 1 8・ 575- Z (A61L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 今井 周一郎  
特許庁審判長 中田 とし子
特許庁審判官 木村 敏康
村守 宏文
発明の名称 屋内ダニ誘引抑制剤及び誘引抑制方法  
代理人 岸本 達人  

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