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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B66D
管理番号 1277101
審判番号 不服2012-10256  
総通号数 165 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-06-04 
確定日 2013-07-25 
事件の表示 特願2005-175299「ウインチと該ウインチを備える杭打機」拒絶査定不服審判事件〔平成18年12月28日出願公開、特開2006-347680〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
(1)本件出願は、平成17年6月15日の出願であって、平成23年2月7日付けの拒絶理由通知に対して平成23年4月15日付けで意見書が提出されるとともに同日付けの手続補正書により明細書及び特許請求の範囲について補正する手続補正がなされ、平成23年10月4日付けで最後の拒絶理由が通知された後に、平成24年2月29日付けで(平成23年10月4日付けの最後の拒絶理由通知に記載の理由によって)拒絶査定がなされ、これに対し、平成24年6月4日に拒絶査定不服の審判が請求されたものである。
(2)本件出願の請求項1ないし6に係る発明は、平成23年4月15日付けの手続補正書によって補正された明細書及び特許請求の範囲及び出願当初の図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項によって特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。

「【請求項1】
両端にフランジ部を有するウインチドラムの一端部側にワイヤロープ先端が取り付けられ、巻き取った当該ワイヤロープをウインチドラムの回転によって巻出し巻戻しするウインチにおいて、
前記ウインチドラムの両側のフランジ部に対し、環状のスペーサが対になって着脱可能に設けられ、前記一対のスペーサのうち、前記ワイヤロープ先端が取り付けられた位置に設けられた一方のスペーサは、前記ウインチドラムとの間に巻き取ったワイヤロープ1本分以上の隙間ができる大きさの径で内周面が形成され、他方のスペーサは、前記ウインチドラムとの間にワイヤロープが入る隙間のない大きさの径で内周面が形成されたものであることを特徴とするウインチ。」

2.引用文献の記載内容
(1)引用文献1に記載された発明
原査定の拒絶の理由に引用された実願昭47-125628号(実開昭49-79956号)のマイクロフィルム(以下、「引用文献1」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。
ア.「巻胴に巻回されるワイヤロープと、このワイヤロープの巻始め部を上記巻胴に押圧し、かつ上記巻胴のフランジ部に対向するフランジ部を有する緊締部材を備えたことを特徴とするワイヤロープの乱巻防止装置。」(明細書第1ページ第5行ないし第9行)

イ.「この考案は、巻上機や電動ホイストなどにおけるワイヤロープの乱巻防止装置に関するものである。」(明細書第1ページ第11行ないし第13行)

ウ.「以下第3図乃至第7図に基づいて、この考案の一実施例を説明する。図において、(1)はフランジ部(1a)と装着用の鉄丸鋲を有する緊締部材、(2)は巻胴、(3)はこの巻胴(2)に巻回され端部に負荷を吊下するワイヤロープで、この巻始め部(2b)は上記緊締部材により上記巻胴に押圧されている。また、上記緊締部材はワイヤロープ(3)の巻取始め部(2b)を覆う様に装着され、ボルト(4)と止めナット(5)により締付けられ、その締付力によりワイヤロープ(3)を上記巻胴(2)に押圧するようになされている。」(明細書第2ページ第17行ないし第3ページ第7行)

エ.「以上の様に構成された、たとえば電動ホイストにおいて、巻上用電動機(6)の巻上用押しボタンスイッチを閉成すると、ワイヤロープ(3)は順次巻胴(2)に巻回され、かつ負荷を巻き上げて行く。ワイヤロープ(3)が巻回されて行く過程を第4図矢印に示し、このものにおいて、1段目は緊締部材(1)の締付力が、ワイヤロープ(3)の剛性に打ち勝ち、巻き始め部(2b)は上記緊締部材により保持されつつ巻回されるため、従来のように隙間(α),(β)は無くなり、更に、1段目は巻胴(2)にワイヤロープ(3)の巻取用の溝が切られているため、整然と巻回され、また2段目は1段目が整然と巻回されているため、かつ両端に緊締部材(1)のフランジ部(1a)と巻胴(2)のフランジ部(2a)があるために整然と巻回され、乱巻状態になるのを防止することが出来る。」(明細書第3ページ第8行ないし第4ページ第3行)

したがって、引用文献1には、上記の記載事項ア.ないしエ.及び図面(特に、第3図ないし第7図)を参酌すると、次の発明が記載されているものといえる(以下、引用文献1に記載された発明」という。)。

「両端にフランジ部2aを有する巻胴2の一端部側にワイヤロープ3の先端が取り付けられ、巻き取ったワイヤロープ3を巻胴2の回転によって巻出し巻戻しする巻上機において、環状の緊締部材1は、巻胴2の一方のフランジに隣接した部位であってワイヤロープ3先端が取り付けられた位置に着脱可能に設けられ、巻胴2との間に巻き取ったワイヤロープ3の巻取始め部2bを押圧し保持しうる大きさの径をもって内周面が形成されており、緊締部材1をワイヤロープ3の巻取始め部2bを覆うように巻胴2に装着することにより、緊締部材1のフランジ部1aと巻胴2の他方のフランジ2aとの間に巻取始め部2bに続くワイヤロープを整然と巻回し乱巻状態になることを防止するように構成されてなる巻上機。」

(2)引用文献2に記載された発明
原査定の拒絶の理由に引用された実願昭56-160239号(実開昭58-67890号)のマイクロフィルム(以下、「引用文献2」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。

ア.「本考案は、外周面にロープ溝を有しない巻胴と、該巻胴の両端に並設されたフランジとを具え、巻胴にワイヤロープを多層状に巻取るワイヤロープ巻取ドラムにおいて、前記巻胴の幅を、所定の幅よりも適宜寸法だけ大きく形成し、少なくともどちらか一方のフランジには取付穴を設けて、そのフランジの内壁面に平板状のアジャスタを前記取付穴を介して着脱可能に取付けられるようにすると共に、該アジャスタの板厚を変えることによって前記巻胴の幅を変更できるように構成したことを特徴とする。」(明細書第4ページ第8行ないし第18行)

イ.「一方のフランジ12Bには、複数個のねじ穴13が穿設され、そのフランジ12Bの内壁面には、後述する板厚を有する平板状のアジャスタ14を前記ねじ穴13及びボルト15を介して着脱可能に取付けうるようになっている。該アジャスタ14は、全体としてドーナツ形に形成されていると共にフランジ12Bへの組付けを行えるよう2分割されている。またアジャスタ14の内壁には、前記ボルト15の頭部を納める凹部14aが形成されて、フランジ12B内壁に取付けられたとき、ボルト15の頭部をアジャスタ内壁から突出させないようになっている。」(明細書第5ページ第9行ないし第20行)

ウ.「尚、前記の実施例においては、アジャスタ14をフランジ12Bの内壁に取付ける例を示したが、該アジャスタ14をフランジ12Aの内壁に取り付けるようにしてもよい。またフランジ12A及び12Bの各内壁に、たとえば1/2の板厚をもつアジャスタを夫々取付けるように構成してもよい。
以上説明したように、本考案によれば、ワイヤロープの径が変化しても乱巻を生じることなく整列して多層巻きを行える。」(明細書第8ページ第7行ないし第15行)

したがって、引用文献2には、上記の記載事項ア.ないしウ.及び図面(特に、第3図及び第4図)を参酌すると、次の発明が記載されているものといえる(以下、「引用文献2に記載された発明」という。)。

「ワイヤロープの巻取ドラムにおいて、巻取ドラムとの間にワイヤロープが入る隙間のない大きさの径で内周面が形成された一対の環状のアジャスタを、巻取ドラムの両側のフランジに対しそれぞれ着脱可能に設け、巻取ドラムの両側のフランジにそれぞれ取付けられた一対のアジャスタの間にワイヤロープを多層状に巻取ることができるようにし、巻取ドラムの巻胴幅を変更しうるように構成したワイヤロープ巻取ドラム。」

3.対比
本願発明と引用文献1に記載された発明とを対比すると、引用文献1に記載された発明における「巻胴2」、「フランジ部2a」、「ワイヤロープ3」、及び「巻上機」は、それらの構造や機能及び意図する技術内容等からみて、それぞれ、本願発明における「ウインチドラム」、「フランジ部」、「ワイヤロープ」、及び「ウインチ」に相当する。また、引用文献1に記載された発明における「緊締部材1」は、巻胴の一方のフランジ部に隣接した部位であってワイヤロープ先端が巻胴に取り付けられた位置に着脱可能に装着されるものであり、ワイヤロープ3の巻取始め部2bを押圧し保持し得る大きさの径をもってその内周面が形成されており、すなわち、巻胴との間に巻き取ったワイヤロープ1本分の隙間ができる大きさの径で内周面が形成されている。緊締部材1をワイヤロープ3の巻取始め部2bを覆うように装着することにより、緊締部材1のフランジ部1aと巻胴2の他方のフランジ部2aとの間に巻取始め部2bに続くワイヤロープ3を整然と巻回し乱巻状態になることを防止するように構成されているところであり、引用文献1に記載された発明における「緊締部材1」は、その機能に関しては、本願発明における「(ウインチドラムとの間に巻き取ったワイヤロープ1本分の隙間ができる大きさの径で内周面が形成され、ワイヤロープ先端が取り付けられた位置に設けられる)一方のスペーサ」に相当する。

したがって、本願発明と引用文献1に記載された発明とは、「両端にフランジ部を有するウインチドラムの一端部側にワイヤロープ先端が取り付けられ、巻き取った当該ワイヤロープをウインチドラムの回転によって巻出し巻戻しするウインチにおいて、環状のスペーサが、ウインチドラムに対し着脱可能に設けられ、ワイヤロープ先端が取り付けられた位置に設けられたスペーサは、ウインチドラムとの間に巻き取ったワイヤロープ1本分の隙間ができる大きさの径で内周面が形成されてなるウインチ。」である点で一致し、次の点において相違する。
〔相違点〕
本願発明においては、スペーサは、ウインチドラムの両側のフランジ部に対し対になって着脱可能に設けられ、ワイヤロープ先端が取り付けられた位置に設けられたスペーサと反対側のフランジ部に設けられた他方のスペーサは、ウインチドラムとの間にワイヤロープが入る隙間のない大きさの径で内周面が形成されたものであるのに対し、引用文献1に記載された発明においては、緊締部材(スペーサ)は、ウインチドラムの一方のフランジ部に隣接した部位でワイヤロープ先端が取り付けられた位置に着脱可能に設けられているのみであり、ウインチドラムの他方のフランジ部側にはスペーサを備えていない点(以下、「相違点」という。)。

4.判断
相違点について検討すると、引用文献2に記載された発明におけるワイヤロープ巻取ドラムにおける一対の環状の「アジャスタ」は、巻取ドラム(ウインチドラム)の両側のフランジ(フランジ部)に対しそれぞれ着脱可能に取付けられ、巻取ドラムの巻胴幅を変化させるためのものであり、この点に関しては、本願発明の「スペーサ」と同様の機能を奏するものといえる。
してみると、ウインチドラム等の巻胴幅を変更させるべくウインチドラムの両側のフランジ部にそれぞれスペーサを着脱可能に設けることは、当業者が適宜なし得る程度のものである。
また、引用文献1に記載された発明において、緊締部材(スペーサ)をウインチドラムのワイヤロープ先端が取り付けられた位置に隣接する一方のフランジ部に着脱可能に装着するとともに、その反対側の他方のフランジ部に引用文献2に記載されているようなアジャスタ(本願発明における「スペーサ」)を取り付けて、ウインチドラムの巻胴幅を変更あるいは調整し得るように特定することは、当業者が格別な創意工夫を要することなく容易に想到し得る程度のものであり、引用文献1に記載された発明に引用文献2に記載された発明を適用して、前記相違点に係る本願発明のように特定することは、当業者が容易に発明し得るものである。
よって、本願発明は、引用文献1及び引用文献2に記載された発明に基づいて、当業者が格別な困難性を伴うことなく容易に発明をすることができたものである。
しかも、本願発明は、全体構成でみても、引用文献1及び引用文献2に記載された発明から予測できる作用効果以上の顕著な作用効果を奏するものとも認められない。

5.むすび
以上のように、本願発明は、引用文献1及び引用文献2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-05-21 
結審通知日 2013-05-28 
審決日 2013-06-11 
出願番号 特願2005-175299(P2005-175299)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B66D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤村 聖子  
特許庁審判長 小谷 一郎
特許庁審判官 藤原 直欣
金澤 俊郎
発明の名称 ウインチと該ウインチを備える杭打機  
代理人 特許業務法人コスモス特許事務所  

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