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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G05D
管理番号 1277120
審判番号 不服2012-25197  
総通号数 165 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-12-19 
確定日 2013-07-25 
事件の表示 特願2010- 73386「経路設定装置、経路設定方法、及びプログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成23年10月13日出願公開、特開2011-204181〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1 手続の経緯

この出願は、平成22年3月26日の出願であって、平成24年4月25日付けで拒絶の理由が通知され、これに対して、平成24年6月14日(受付日)付けで意見書及び手続補正書が提出された。その後、上記手続補正書により補正された、特許請求の範囲、請求項1?8は、上記通知された拒絶の理由が解消していないとして、平成24年9月20日付けで拒絶の査定がなされた。

その後、平成24年12月19日(受付日)付けで、上記拒絶の査定を不服とする本件審判の請求がされるとともに、同日付けで特許請求の範囲を対象とする手続補正(以下、「本件補正」という。)がされ、平成25年2月15日付けの当審の審尋に対し、平成25年4月8日(受付日)付けで回答書が提出されている。

第2 本件補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]

本件補正を却下する。

[理由]

1 本件補正の内容

本件補正は特許請求の範囲について補正をするものであって、その内容は、本件補正前の平成24年6月14日(受付日)付け手続補正書により補正された特許請求の範囲、請求項1、7及び8の各々に含まれる発明特定事項である「予想移動範囲」を、本件補正により「前記位置情報が示す位置を含む」ものであると限定するものである。

本件補正前後の請求項1の記載を補正箇所に下線を付して示すと以下のとおりである。

(1)本件補正前の請求項1

「【請求項1】
移動体の移動経路を設定する経路設定装置であって、
目的地の位置を示す目的地情報を取得する目的地情報取得手段と、
前記移動体の周囲に位置する人の位置情報と前記人の顔の向きを取得する人情報取得手段と、
前記位置情報及び前記人の顔の向きに基づいて、前記人の顔の向きが前記移動体に向いている場合に、前記人の顔の向きが前記移動体に向いていない場合と比較して、前記人の予想移動範囲を狭くするように前記人の予想移動範囲を算出する予想範囲算出手段と、
前記予想移動範囲及び前記目的地情報を用いて前記移動体の移動経路を算出する移動経路算出手段と、
を備える経路設定装置。」

(2)本件補正後の請求項1

「【請求項1】
移動体の移動経路を設定する経路設定装置であって、
目的地の位置を示す目的地情報を取得する目的地情報取得手段と、
前記移動体の周囲に位置する人の位置情報と前記人の顔の向きを取得する人情報取得手段と、
前記位置情報及び前記人の顔の向きに基づいて、前記人の顔の向きが前記移動体に向いている場合に、前記人の顔の向きが前記移動体に向いていない場合と比較して、前記人の予想移動範囲を狭くするように前記人の予想移動範囲を算出する予想範囲算出手段と、
前記予想移動範囲及び前記目的地情報を用いて前記移動体の移動経路を算出する移動経路算出手段と、
を備え、
前記予想移動範囲は、前記位置情報が示す位置を含むこと、
を特徴とする経路設定装置。」

2 本件補正の適否

上記「1.本件補正の内容」のとおり、本件補正は補正前請求項1、7及び8の特定事項である「予想移動範囲」を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)が本件特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、以下検討する。

(1)補正発明

補正発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の記載、請求項1に記載されたものであって、上記第2の1「(2)本件補正後の請求項1」に記載されたとおりのものと認める。

(2)引用例

ア 引用例記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された本件出願日前に頒布された刊行物である特開2009-110495号公報(平成24年4月25日付け拒絶理由通知書記載の引用文献1、以下「引用例」という。)には、【図1】、【図2】とともに以下の記載がある。

(ア) 段落【0087】?【0090】

「【0087】
以上、本発明の一実施形態に係る自律移動型装置、自律移動型装置用の制御装置および自律移動型装置用のプログラムを説明した。さらに、他の自律移動型装置を図面に基づいて説明する。なお、当該他の自律移動型装置の制御装置の各構成は、上述した自律移動型装置500の制御装置の各構成に適宜に組み合わせることができる。
【0088】
自律移動型装置1は、図1に示すように、基台3と、載置部4と、駆動部5と、位置移動部100と、衝突回避制御装置200(制御装置)とを備えている。
【0089】
基台3には移動手段が設けられ、例えば車輪6等を駆動することにより当該自律移動型装置1の位置を移動させることができる。また、基台3上には載置部4が設けられ、載置部4には例えば介護、掃除、運搬、案内、及び巡回等の使用目的に応じた動作ユニット(図示せず)が設置される。
【0090】
また、駆動部5には自律移動型装置1を駆動するための機構および動力のほか、人2を識別する人識別部7、人2の視線を検出する視線検出部8、人2等の移動物体(障害物)の検出や周囲にある静止物体を検出する第1検知部としての障害物検出部10、人2に安全領域300を識別可能に報知する報知部11、人2との衝突を回避するための動作制御を行う衝突回避制御装置200を備えている。」

(イ) 段落【0092】、【0093】

「【0092】
視線検出部8は、撮像装置等により構成され、人2の視線や、顔の向きを検出する。視線検出方法としては、撮像装置で撮影した画像から視線を推定する公知のVTR法等が利用できる。
【0093】
障害物検出部10は、人2等の移動物体を検出する移動物体検出部12と、周囲環境にある静止物体を検出する静止物体検出部13とを備えている。移動物体検出部12に用いるセンサとしては、空間の形状が計測できるものが利用でき、例えばステレオカメラ、TOF(Time Of Flight)形式の距離画像カメラ、レーザーレンジファインダ(以下、「LRF」という)等がある。このLRFを用いたときの障害物検出方法については後述する。」

(ウ) 段落【0098】?【0101】

「【0098】
図2は、自律移動型装置1の構成を示すブロック図である。図2に示すように、衝突回避制御装置200は、障害物検出部10から人2の移動の実態を示す移動情報を取得する移動情報取得部201と、人2の移動に係る要件を示す補助情報を取得する手段としての補助情報取得部202と、補助情報を記憶する補助情報記憶部209と、移動情報と補助情報とに基づいて移動物体の移動経路の候補を生成する移動経路候補生成部203と、当該人2の経時的な位置のばらつきに関する情報に基づいて、人2が所定時間経過時に移動すると予測される仮想障害物領域を設定する仮想障害物領域設定部204と、障害物検出部10で検出された静止物体の障害物領域(現実障害物領域)と人2の仮想障害物領域とを合成し、新たな仮想障害物領域を生成する障害物データ合成部210と、新たな仮想障害物領域に基づいて人2との衝突を回避する動作制御情報を生成する障害物回避制御部250とを備えたことを特徴とする。
【0099】
移動情報取得部201は、障害物検出部10で検出された移動物体の位置および速度ベクトル、加速度ベクトル等、移動物体の移動の実態を示す移動情報の取得を行う。
【0100】
補助情報取得部202は、移動物体の移動に係わる要件を示す補助情報を取得する。補助情報とは、移動物体の移動に関し、移動方向や移動速度等に影響を与える可能性のある要件を示す補助的な情報をいう。補助情報として、例えば、地図等の環境情報、移動物体の属性情報(人の場合は挙動、視線、顔の向き、身長、興味、外見、過去の履歴等の個人情報)、イベント(催し物、行事等)に係わる要件を示すイベント情報等がある。また、補助情報には、人の歩行時の最高速度に関する情報も含まれている。補助情報取得部202は、必要に応じて、外部の情報格納場所から環境情報、移動物体の属性情報およびイベント情報等を外部からデータファイルとしてダウンロードすることで更新できる。なお、外部装置から自律移動型装置1に対して、環境情報、移動物体の属性情報およびイベント情報等を更新するようにしてもよい。
【0101】
また、仮想障害物設定部230は、移動経路候補生成部203と、仮想障害物領域設定部204と、障害物データ合成部210とを備え、人2の移動ベクトルだけでなく、人2に係わる移動情報および補助情報に基づいて人2が向かう可能性の高い経路上に仮想障害物領域を設定する。ここで、障害物データ合成部210は、障害物検出部10で検出された静止物体の障害物領域(現実障害物領域)と人2の仮想障害物領域とを合成し、新たな障害物領域を生成する。障害物検出部10によって、障害物として静止物体と移動体の双方が検出される場合があるので、この場合には、両障害物についての情報を合成して1つの障害物情報としてもよい。具体的には、図6に示すように、人2(移動体)が検出された場合には、所定時間経過後における人2の移動先として導出された仮想障害物領域Z6A,Z6Bを設定するだけでなく、現時点での人2が占める領域や壁等の静止物体が占める領域を現実障害物領域Arとして設定する。そして、これらの障害物領域Z6A,Z6B,Arを新たな障害物領域として記憶する。これにより、静止物体の障害物領域と移動物体の人2の仮想障害物領域とを考慮した新たな障害物領域を設定することができる。」

(エ) 段落【0175】

「【0175】
(3) 前記自律移動型装置の移動経路を設定する移動経路設定部と、前記移動経路設定部で設定された移動経路に沿って当該自律移動型装置を移動させる移動制御部とを備え、前記移動経路設定部は、前記仮想障害物領域及び前記現実障害物領域が設定された場合には、前記仮想障害物領域及び前記現実障害物領域を避けるように、当該自律移動型装置の移動経路を設定するのが好ましい。」

(オ) 段落【0186】

「【0186】
(11)前記第1検知部で検知された障害物が人であるか否かを判断する第1判断部と、当該人の顔の向き又は視線の方向を検知する第5検知部とを備え、前記第1判断部で障害物が人であると判断された場合に、前記第5検知部で検知された人の顔の向き又は視線の方向が、前記自律移動型装置と前記人を結ぶ直線に対してなす角度に応じて、前記仮想障害物領域を拡げるのが好ましい。この態様では、人が自律移動型装置の存在に気付き難くい場合に、適切に対処し易くなる。この態様において、仮想障害物領域を周囲の全方向に均等に拡げるようにしてもよく、あるいは、仮想障害物領域を当該人の顔の向き又は視線の方向に拡げるようにしてもよい。仮想障害物領域を周囲の全方向に均等に拡げる場合には、顔の向き又は視線の方向を検出しなくても自律移動型装置の存在に気付き難い場合に適切に対処できる。一方、仮想障害物領域を当該人の顔の向き又は視線の方向に拡げる場合には、当該人が移動する傾向のある領域に適切に仮想障害物領域を設定することができる。」

(カ) 上記摘記事項(ア)段落【0090】より、「障害物検出部10」は「人2等の移動物体」や「周囲にある静止物体」を検出するものである。「周囲にある静止物体」が検出できるのだから、周囲に位置する「人2」をも検出することは、上記摘記事項に基づいて当業者にとって自明である。

(キ) 上記摘記事項(オ)によれば、「人の顔の向き又は視線の方向が、前記自律移動型装置と前記人を結ぶ直線に対してなす角度に応じて、仮想障害物領域を拡げるのが好ましい」のは、「人が自律移動型装置の存在に気付き難くい(当審注:「気付き難い」の明らかな誤記である)場合に、適切に対処し易くなる」からである。「人が自律移動型装置の存在」に最も気付き易いのは、「人の顔の向き」が「自律移動装置」に向いているときであることは、当業者にとって技術常識である。
「仮想障害物領域」を算出するにあたって、「人の顔の向き」が前記「自律移動装置」に向いている場合に、向いていない場合と比較して、前記「仮想障害物領域」を狭くすることは、上記技術常識を踏まえると上記摘記事項(オ)の記載から当業者にとって自明である。

イ 引用発明

上記(ア)?(オ)の摘記事項、及び(カ)?(キ)の検討事項を技術常識を考慮しながら補正発明に照らして整理すると、引用例には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

「自律移動型装置1の移動経路を設定する衝突回避制御装置200であって
前記自律移動型装置1の周囲に位置する人2の位置情報と前記人2の顔の向きをそれぞれ取得する移動情報取得部201と補助情報取得部202と、
前記位置情報及び前記人2の顔の向きに基づいて、前記人2の顔の向きが前記自律移動型装置1に向いている場合に、前記人2の顔の向きが前記自律移動型装置1に向いていない場合と比較して、前記人2の仮想障害物領域を狭くするように前記人2の仮想障害物領域を算出する仮想障害物設定部230と、
前記仮想障害領域を用いて前記自律移動型装置1の移動経路を算出する移動経路設定部と、
を備える衝突回避制御装置200」

(3)対比

補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「衝突回避制御装置200」は、補正発明の「経路設定装置」に相当する。
引用発明の「自律移動型装置1」は、補正発明の「移動体」に相当する。
引用発明の「移動経路設定部」は、補正発明の「移動経路算出手段」に相当する。
引用発明の「人2」、「位置情報」、「人2の顔の向き」は、それぞれ補正発明の「人」、「位置情報」、「人の顔の向き」に相当する。
引用発明の「仮想障害物領域」は、補正発明の「予想移動範囲」に相当する。
引用発明の「仮想障害物設定部230」は、補正発明の「予想範囲算出手段」に相当する。
引用発明の「移動経路設定部」は、補正発明の「移動経路算出手段」に相当する。
引用発明の「移動情報取得部201」、「補助情報取得部202」は、上記摘記事項(ウ)段落【0098】?【0100】及び【図2】の記載によれば、両者は「衝突回避制御装置200」に備えられたものである。そうすると、引用発明の「衝突回避制御装置200」は、補正発明の「人情報取得手段」に相当する。

そうすると、補正発明と引用発明とは、以下の点で一致しているということができる。

<一致点>

「移動体の移動経路を設定する経路設定装置であって、
前記移動体の周囲に位置する人の位置情報と前記人の顔の向きを取得する人情報取得手段と、
前記位置情報及び前記人の顔の向きに基づいて、前記人の顔の向きが前記移動体に向いている場合に、前記人の顔の向きが前記移動体に向いていない場合と比較して、前記人の予想移動範囲を狭くするように前記人の予想移動範囲を算出する予想範囲算出手段と、
前記予想移動範囲を用いて前記移動体の移動経路を算出する移動経路算出手段と、
を備える経路設定装置。」

そして、両者は以下の点で相違している。

<相違点1>

補正発明の「経路設定装置」は、「目的地の位置を示す目的地情報を取得する目的地情報取得手段」を備え、「移動経路算出手段」が「移動体の移動経路」を算出するにあたっては、上記「予想移動範囲」に加えて、取得された上記「目的地情報」をも用いるものであるのに対し、引用発明の「衝突回避制御装置200」は、目的地の位置を示す目的地情報を取得する手段を備えるか否か、そして引用発明の「移動経路設定部」が移動経路の算出にあたって、上記目的地情報を用いるか否かについて明らかではない点。

<相違点2>

補正発明の「予想移動範囲」は、「移動体の周囲に位置する人の」「位置情報が示す位置を含む」ものであるのに対し、引用発明の「仮想障害物設定領域」は、「自律移動型移動装置1」の周囲に位置する「人2」の位置情報が示す位置を含むか否かについて明らかではない点。

(4)相違点の検討

ア <相違点1>について

移動体の移動経路を設定するものにおいて、目的地の位置を示す目的地情報を取得するための手段を具備せしめ、移動経路を算出するために当該目的地情報を用いることは、本件出願前周知(例えば、特開2001-142531号公報(特に段落【0026】、【0027】)、特開2004-313587号公報(特に段落【0014】、【0015】)、特開平4-153709号公報(特に4ページ右下欄6行?5ページ左上欄7行)、特開2003-141676号公報(特に段落【0094】?【0117】)、を参照されたい。)の事項である。
引用発明の「衝突回避制御装置200」に、「目的地の位置を示す目的地情報を取得する手段」を具備せしめ、「移動経路設定部」が取得された「目的地情報」をも用いて「移動経路」を算出するようにした点は、上記本件出願前周知の事項を引用発明に適用したに過ぎず、当業者が容易になし得たものである。

イ <相違点2>について

移動体の移動経路を算出するに際して、移動体と人との衝突を避けるべく、移動経路が避けて設定されるべき範囲に、そのときの人の位置を含めることは、平成25年2月1日付け前置報告書にも記載されたとおり、本件出願前周知(例えば、特開2007-331458号公報(上記前置報告書記載の引用文献2、特に【図7】、段落【0049】)、特開2008-257531号公報(上記前置報告書記載の引用文献3、特に【図7】、段落【0031】、【0043】)を参照されたい。)の事項である。
引用発明の「移動経路設定部」は、上記摘記事項(エ)によれば、「仮想障害物領域」と「現実障害物領域」を避けるように移動経路を設定するものである。ここで、上記摘記事項(ウ)段落【0101】によれば、「現実障害物領域」は、「現時点での人2が占める領域や壁等の静止物体が占める領域を現実障害物領域Arとして設定する」ものである。「現時点での人2が占める領域」に「人2」の「位置」が含まれることは、当業者にとって技術常識であるから、引用発明には、「人2」の「位置」を避けるように「移動経路」を算出しようする動機付けが存在する。
引用発明の前記「移動経路設定部」が、「移動経路」を算出する際に用いる「仮想障害物領域」に「人2」の位置情報が示す位置を含めることは、上記動機付けに基づいて、上記本件出願前周知の事項を引用発明に適用することで、当業者が容易に想到し得たものである。

ウ <補正発明の効果>について

補正発明によってもたらされる効果も、引用発明及び本件出願前周知の事項から当業者であれば予測できる程度のものであって格別のものではない。

エ したがって補正発明は、引用発明及び本件出願前周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 回答書記載の発明について

上記平成25年4月8日(受付日)付けで提出した回答書において、本件請求人は補正案を示し、特許請求の範囲の請求項1について補正の機会を与えるよう主張している。当該補正案を検討するべきであるとの法的な根拠はないが、念のため、当該補正案についての判断も述べる。

(1)回答書の発明

平成25年4月8日(受付日)付の回答書における補正案により補正を求める、特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「回答書発明」という。)は、補正箇所に下線を付して記載すると、以下のとおりである。

「移動体の移動経路を設定する経路設定装置であって、
目的地の位置を示す目的地情報を取得する目的地情報取得手段と、
前記移動体の周囲に位置する人の位置情報と前記人の顔の向き、及び年齢層を取得する人情報取得手段と、
前記位置情報及び前記人の顔の向きに基づいて、前記人の顔の向きが前記移動体に向いている場合に、前記人の顔の向きが前記移動体に向いていない場合と比較して、前記人の予想移動範囲を狭くするように前記人の予想移動範囲を算出する予想範囲算出手段と、
前記人の移動方向を算出する移動方向算出手段と、
前記予想移動範囲及び前記目的地情報を用いて前記移動体の移動経路を算出する移動経路算出手段と、
を備え、
前記予想移動範囲は、前記位置情報が示す位置を含み、前記移動方向算出手段によって算出された移動方向とは反対方向にある所定範囲を包含し、当該所定範囲は年齢層が低いほど広いこと、
を特徴とする経路設定装置。」

(2)引用例との対比・検討

引用例には、以下の点、記載されている。

(ク) 段落【0158】

「【0158】
また、上述したように個人情報は身長情報としてもよい。これによれば、身長情報に基づいて適切な衝突回避の動作制御を行うことができ、大人よりも経路が予測しにくい子供の仮想障害物領域を広めに設定するなどすることで、大人と子供のすれ違い時の回避制御を変えることで、大人と子供の違いに合わせて無駄に遠回りの回避を行うことなく、かつ子供にも安全安心な回避動作を行うことが可能となる。」

(ケ) 上記摘記事項(ウ)段落【0100】には、引用発明の「補助情報取得部202」が取得する「補助情報の例」として、人の「身長」が記載されている。そして上記摘記事項(ク)には、取得した「身長」に基づいて、「大人よりも経路が予測しにくい子供の仮想障害物領域を広めに設定する」点、記載されている。ここで、「大人」と「子供」の区別は、「年齢層」による区別の一手法ということができる。そうすると、引用例記載の「衝突回避制御装置200」が、「年齢層」をも把握し、「仮想障害物領域」を把握した「年齢層」が低いほど広くすることができるものである点は、上記摘記事項(ウ)、(ク)より当業者にとって自明である。

(コ) 上記摘記事項(ウ)段落【0099】には、「移動情報取得部201」が「速度ベクトル」の取得を行う点、記載されている。「速度ベクトル」は「移動方向」をも含む概念である。

(サ) 移動体の移動経路を設定するに際して、移動体と人との衝突を避けるべく、移動経路が避けて設定されるべき範囲を移動方向とは反対方向にある所定範囲を包含させることは本件出願前周知(例えば、上記「2(4)イ<相違点2>について」に周知例として記載した特開2007-331458号公報(特に【図7】、段落【0049】を参照))の事項でもある。

以上の検討事項(ケ)?(サ)より、回答書の補正案に係る発明特定事項は、引用発明において、上記自明な年齢層による「仮想障害物領域」の設定手法を適用しつつ、上記本件出願前周知の人の移動方向とは反対方向にある範囲をも「仮想障害物領域」を包含せしめることで、当業者が容易になし得たものである。

(3) むすび

以上のとおりであるから、回答書発明も、引用例に記載された発明及び本件出願前周知の事項に基づいて、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

4 補正却下におけるむすび

以上のとおりであるので、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本件発明について

1 本件発明

本件補正は、上記のとおり却下された。

したがって、本件補正前の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という)は上記第2の1に記載された「(1)本件請求前の請求項1」に記載されたとおりのものであると認める。

2 対比及び判断

本件発明は、前記「1 本件補正の内容」で述べたとおり、補正発明の発明特定事項である「予想移動範囲」について、上記限定事項である「前記位置情報が示す位置を含む」が省かれたものである。

そうすると、上記第2の2で検討したとおり、本件発明は、引用発明及び本件出願前周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3 むすび

以上のとおりであるので、本件発明は、引用発明及び本件出願前周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって、本件出願の請求項2?8の各々係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-05-23 
結審通知日 2013-05-28 
審決日 2013-06-10 
出願番号 特願2010-73386(P2010-73386)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G05D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 牧 初  
特許庁審判長 野村 亨
特許庁審判官 長屋 陽二郎
久保 克彦
発明の名称 経路設定装置、経路設定方法、及びプログラム  
代理人 速水 進治  

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