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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02J
管理番号 1277123
審判番号 不服2013-5139  
総通号数 165 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-03-18 
確定日 2013-07-25 
事件の表示 特願2011-186117「充電装置および充電方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 5月 2日出願公開,特開2013- 81262〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願の発明
本願は,平成23年 8月29日の特許出願であって,平成24年12月14日付けで拒絶査定がなされ,この査定を不服として,平成25年 3月18日に本件審判が請求された。
そして,この出願の請求項1?9に係る発明は,平成24年 8月27日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定されるものと認められるところ,そのうちの請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,次のとおりである。
「【請求項1】
バッテリを充電する充電部と,
前記充電部による前記バッテリの充電を制御する制御部であって,第1の充電モードの場合に前記バッテリの容量が第1の容量になったら前記バッテリの充電を停止させ,第2の充電モードの場合に前記バッテリの容量が前記第1の容量より低い第2の容量になったら前記バッテリの充電を停止させる,制御部と,
前記バッテリの容量の履歴に応じて,前記第1の充電モードと前記第2の充電モードとの間の切り替えに関わる処理を実行する切り替え手段と,
を具備し,
前記切り替え手段は,前記バッテリの容量が前記第1の容量と前記第2の容量との間の第3の容量を示す期間が設定期間経過した場合に,前記第1の充電モードから前記第2の充電モードへの切り替えに関わる処理を実行し,
前記バッテリの容量が前記第2の容量より低い第4の容量を示す回数が所定の期間の間に設定回数あった場合に,前記切り替え手段は,前記第2の充電モードから前記第1の充電モードへの切り替えに関わる処理を実行する
充電装置。」

2.引用例とその記載事項
(1)原査定における拒絶の理由で引用された本願の出願前に頒布された刊行物である特開2011-120316号公報(以下,「引用例1」という。)には,「電子機器」に関し,図面とともに次の事項が記載又は示されている。

・「【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部電源から電源供給を受ける手段と,
前記外部電源からの電源供給により充電可能なバッテリと,
前記バッテリの充電状態を検出する検出手段と,
前記検出手段によって前記バッテリが満充電状態にあることが検出されてから予め設定された期間が経過した後,満充電状態と判断する容量を示す充電終止容量を下げて設定する設定手段と,
前記充電終止容量が示す容量まで前記バッテリに対して充電する充電手段と
を具備したことを特徴とする電子機器。
【請求項2】
前記設定手段は,
前記期間が経過した後,前記バッテリにより駆動されるバッテリ駆動状態となった場合に,前記充電終止容量を上げて設定することを特徴とする請求項1記載の電子機器。
【請求項3】
前記期間及び前記充電終止容量を示すデータを入力する入力手段と,
前記入力手段により入力された前記データを記録する記録手段とをさらに具備し,
前記設定手段は,前記記録手段に記録された前記データをもとに,前記充電終止容量を設定することを特徴とする請求項1記載の電子機器。
・・・
【請求項7】
前記バッテリ駆動状態による利用履歴を記録する履歴記録手段をさらに具備し,
前記設定手段は,前記利用履歴をもとに前記充電終止容量を設定することを特徴とする請求項1または請求項3記載の電子機器。」

・「【技術分野】
【0001】
本発明は,バッテリ駆動が可能な電子機器に関する。」

・「【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の課題を解決するため,本発明は,外部電源から電源供給を受ける手段と,前記外部電源からの電源供給により充電可能なバッテリと,前記バッテリの充電状態を検出する検出手段と,前記検出手段によって前記バッテリが満充電状態にあることが検出されてから予め設定された期間が経過した後,満充電状態と判断する容量を示す充電終止容量を下げて設定する設定手段と,前記充電終止容量が示す容量まで前記バッテリに対して充電する充電手段とを具備したことを特徴とする。」

・「【発明の効果】
【0011】
本発明によれば,バッテリの満充電状態を長期間継続することによる劣化を回避してバッテリの寿命を延ばすと共に,バッテリ駆動に要する十分な充電容量を確保することが可能となる。」

・「【0017】
コンピュータ本体11は,例えば底部において,バッテリ142(図2に示す)が脱着可能となっている。また,コンピュータ本体11には,電源コネクタ(図示せず)が設けられており,ACアダプタ143(図2に示す)を接続することができる。」

・「【0028】
電源回路141は,コンピュータ本体11に装着されたバッテリ142,またはACアダプタ143を介して接続された外部電源から電源供給を受けて,各コンポーネントへの動作電源を生成して供給する。電源回路141には,電源マイコン144が設けられている。電源マイコン144は,各コンポーネントとバッテリ142に対する電源供給(充放電)や,バッテリ142の充電状態(充電容量(電圧))を監視する。電源回路141は,バッテリ142とACアダプタ143とが接続されている場合,外部電源によりバッテリ142を充電する。
【0029】
(第1実施形態)
第1実施形態では,バッテリ142の充電制御をするために,図3に示すように,充電終止容量変更期間及び充電終止容量を示すデータが設定されている。このデータは,例えばEC/KBC140,あるいは電源マイコン144に記憶される。
【0030】
図4は,第1実施形態における充電制御によるバッテリ142の充電容量の変化を示す図である。
充電終止容量変更期間は,図4に示すように,バッテリ142が初期状態の充電終止容量に基づいて満充電状態にあると判断されてから,充電終止容量低下モードに移行させるための期間を示している。充電終止容量変更期間は,予め初期値(デフォルト値)が設定されている。充電終止容量変更期間は,例えば,時間単位,日単位,週単位,月単位などによって指定される。充電終止容量低下モードは,充電終止容量が100%未満に変更されている状態である。
【0031】
充電終止容量は,バッテリ142が満充電状態にあると判断する基準容量である。充電終止容量は,初期状態(デフォルト値)では100%充電状態となっており,充電終止容量低下モードに移行した際には,初期状態よりも下げた値に設定される。例えば,図4では,充電終止容量低下モード時の充電終止容量は,予め決められた80%充電状態に設定されていることを示している。充電終止容量の下限は,例えば過放電によりバッテリ142が劣化しない容量が決められているものとする(バッテリ142の性能によって異なる)。従って,充電終止容量は,デフォルト値(100%充電状態)?下限値の範囲で設定される。
【0032】
なお,充電終止容量変更期間及び充電終止容量は,後述するバッテリ管理ユーティリティによって,ユーザの指定に応じて任意に変更することができる。詳細については後述する(図6,図7)。
【0033】
次に,第1実施形態におけるバッテリ142の充電制御動作について,図5に示すフローチャートを参照しながら説明する。
電源回路141は,ACアダプタ143が接続され(ACアダプタ駆動状態),外部電源が供給されている場合には(ステップA1,Yes),バッテリ142を充電する。電源回路141は,電源マイコン144によって検出されたバッテリ142の充電容量が,満充電状態から予め決められた一定量以下となっている場合には(ステップA2,Yes),バッテリ142に対する充電を継続する(ステップA3)。従って,電源回路141は,ACアダプタ143が接続されていれば,バッテリ142が満充電状態となるまで充電する。
【0034】
なお,予め設定された一定量は,バッテリ142の自然放電によって減少した充電容量を判断するための基準値である。バッテリ142が満充電状態となってから,図4中のAに示すように,自然放電により充電容量が一定量減少した時(ステップA2,Yes),電源回路141は,図4中のBに示すように,バッテリ142の充電を行う(ステップA3)。
【0035】
また,電源回路141は,バッテリ142が満充電状態(初期値の100%充電状態)となったことが判別されると(ステップA4,Yes),充電終止容量変更期間の経過を判別するために時間計測を開始する(ステップA5)。この時間計測は,ACアダプタ143が外されて,バッテリ142により駆動されるバッテリ駆動状態となるまで継続される。バッテリ駆動状態となった場合には(ステップA6,Yes),それまでに計測した時間をリセットする(ステップA7)。
【0036】
一方,電源回路141は,バッテリ駆動状態とならず(ステップA6,No),バッテリ142が自然放電により一定量分の充電容量が減少すると(ステップA9,Yes),バッテリ142を自動的に充電する(ステップA10)。バッテリ142が満充電状態となると充電を停止する(ステップA12)。以下,同様にして,バッテリ駆動状態とならなければ(ステップA6,No),図4に示す充電終止容量変更期間では,バッテリ142が自然放電により一定量分の充電容量が減少すると(ステップA9,Yes),バッテリ142を自動的に充電して満充電状態を維持する(ステップA10)。
【0037】
そして,バッテリ142が満充電状態と判別されてから充電終止容量変更期間が示す一定期間を経過すると(ステップA8,Yes),電源回路141は,現在の充電終止容量(初期値は100%充電状態)を予め設定された設定値に変更して(ステップA13),充電終止容量低下モードに移行する。ここでは,充電終止容量低下モードにおける充電終止容量が,例えば80%充電状態に設定されるものとする。
【0038】
なお,電源回路141は,電源マイコン144において記憶された設定値,あるいはEC/KBC140に設定値が記憶されている場合には,EC/KBC140から読み取った設定値をもとにして,充電終止容量を変更する。
【0039】
充電終止容量低下モードでは充電終止容量が下げられているため,図4中のCに示す期間,すなわち新たに設定された充電終止容量から一定量まで充電容量が自然放電によって減少するまでの期間,電源回路141は,バッテリ142を充電しない(ステップA16,No)。
【0040】
そして,新たに設定した充電終止容量(80%充電状態)から一定量まで充電容量が減少すると(ステップA16,Yes),電源回路141は,前述と同様にして,バッテリ142を充電する(ステップA17)。すなわち,電源回路141は,80%充電状態までバッテリ142が充電されたら満充電状態と判別し(ステップA18,Yes),充電を停止する(ステップA19)。
【0041】
以下,バッテリ駆動状態となる,あるいはバッテリ142がコンピュータ本体11から外されることがなければ(ステップA14,A15,No),自然放電によりバッテリ142の充電容量が一定量減少するたびに,繰り返して満充電状態(80%充電状態)となるまでバッテリ142を充電して,満充電状態を維持する(ステップA9?A12)。
【0042】
すなわち,充電終止容量低下モードでは,ACアダプタ143が接続されて外部電源が供給されている状態が長時間続いたとしても,バッテリ142が100%充電状態とならないため,バッテリ142の劣化を回避することができる。このため,バッテリ142の寿命を延ばすことができる。
【0043】
一方,ACアダプタ駆動状態からバッテリ駆動状態となった場合(ステップA14,Yes),あるいはバッテリ142がコンピュータ本体11から外された場合(ステップA15,Yes)には,電源回路141は,充電終止容量を上げる。例えば,電源回路141は,初期値の100%充電状態に戻す(ステップA20)。なお,充電終止容量を上げる場合,初期値の100%充電状態まで上げなくても良い。
【0044】
こうして充電終止容量を上げることにより,再度,バッテリ142が接続されたACアダプタ駆動状態となった時に,バッテリ142へ再充電してバッテリ駆動によって消費した充電容量を回復させることができる。そして,バッテリ142が満充電状態となって充電終止容量変更期間が経過した場合には,前述と同様にして,充電終止容量を予め決められた値まで下げることにより,バッテリ142の100%充電状態を長時間継続することによる劣化を回避する。
【0045】
また,バッテリ142がコンピュータ本体11から外された場合には,別のバッテリ142に交換される場合があるため,100%充電状態となるまで充電することができるように充電終止容量を初期値に戻している。
【0046】
なお,前述した説明では,ACアダプタ駆動状態からバッテリ駆動状態となった場合,あるいはバッテリ142がコンピュータ本体11から外された場合に充電終止容量を上げる(初期値に戻す)としているが,その他のタイミングで充電終止容量を初期値に戻すようにしても良い。例えば,バッテリ駆動された後にACアダプタ143が接続された時(ACアダプタ駆動状態)に,充電終止容量を初期値に戻しても良い。
【0047】
このようにして,第1実施形態では,バッテリ142が満充電状態(初期値の100%充電状態)となったことが検出されてから充電終止容量変更期間が経過した場合,すなわちバッテリ142の100%充電状態が長時間続いた場合には,充電終止容量を初期値よりも下げて,この新たな充電終止容量までしか充電しないことによりバッテリ142の劣化を回避することができる。
【0048】
また,充電終止容量低下モードではバッテリ142が100%充電状態でないため,この状態でパーソナルコンピュータ10をバッテリ駆動した場合にはバッテリ駆動時間が短くなるが,充電終止容量が初期状態に戻るため,その後は通常の充電終止容量(100%充電状態)で充電して爆駆動時間を長くすることができる。」

・「【0072】
また,第1実施形態及び第2実施形態では,バッテリ管理ユーティリティ処理によって,ユーザが任意に充電終止容量を設定できるとしているが,バッテリ駆動によるパーソナルコンピュータ10の使用状況に基づいて充電終止容量を自動設定するようにしても良い。
【0073】
図11は,充電終止容量の自動設定を説明するためのフローチャートである。充電終止容量の自動設定は,例えば電源制御プログラム202によって実行する。
【0074】
CPU111は,電源制御プログラム202により,パーソナルコンピュータ10がACアダプタ駆動状態にあるかバッテリ駆動状態にあるかを監視している。バッテリ駆動状態となった場合(ステップD1,Yes),バッテリ駆動による利用履歴を,例えばHDD121に記録していく(ステップD2)。利用履歴には,例えばバッテリ駆動時間(開始時刻,終了時刻),バッテリ142の充電容量の減少量などを含む。
【0075】
充電終止容量の変更時期となった場合,CPU111は,HDD121に記録されたバッテリ駆動による利用履歴をもとに充電終止容量を設定する(ステップD4)。例えば,充電終止容量の変更時期は,例えば,1か月毎など,予め決められた一定期間毎とする。
【0076】
例えば,利用履歴において,1回のバッテリ駆動による利用時間が長いことが判別された場合には,充電終止容量を高い値(例えば90%)に設定して,充電終止容量低下モードからバッテリ駆動に移行した場合でも,支障がでないようにする。
【0077】
また,バッテリ駆動する使用頻度が多くても,1回のバッテリ駆動時間が短い場合には,充電終止容量の値を低くして,バッテリ142の充電量を下げて劣化を回避できるようにする。
【0078】
その他,利用履歴をもとにして,充電終止容量を下げることによりバッテリ駆動による利用に支障が発生しないように,適切な値に充電終止容量を設定することができる。
【0079】
なお,充電終止容量だけでなく,充電終止容量変更期間や総和設定値(第2実施形態)についても,利用履歴を設定できるようにしても良い。」

・図4からは,充電終止容量変更期間のモードと充電終止容量低下モードが看て取れる。

・図4からは,段落【0033】?【0037】の記載事項を参酌すると,バッテリの容量が100%充電状態になってからバッテリ駆動状態とならずに充電終止容量変更期間経過した場合に,充電終止容量変更期間のモードから充電終止容量低下モードへ移行させたものが看て取れる。

・段落【0041】?【0044】の記載事項からみて,充電終止容量低下モードにおいて,バッテリ駆動状態となった場合,あるいは,バッテリがコンピュータ本体から外された場合に,前記電源回路141は,前記充電終止容量低下モードから充電終止容量変更期間のモードへ移行させることが理解できる。

これらの記載事項及び図示内容を総合すると,引用例1には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「バッテリに対して充電する充電手段と,
前記充電手段による前記バッテリの充電を制御する電源マイコン144を有する電源回路141であって,充電終止容量変更期間のモードの場合に前記バッテリの容量が100%充電状態になったら前記バッテリの充電を停止させ,充電終止容量低下モードの場合に前記バッテリの容量が前記100%充電状態より下げた80%充電状態になったら前記バッテリの充電を停止させる,電源マイコン144を有する電源回路141と,
前記バッテリの容量が100%充電状態になってからバッテリ駆動状態とならずに充電終止容量変更期間経過した場合に充電終止容量変更期間のモードから充電終止容量低下モードへ移行させる電源回路141及び前記充電終止容量低下モードにおいて,バッテリ駆動状態となった場合に前記充電終止容量低下モードから充電終止容量変更期間のモードへ移行させる電源回路141とを具備し,
前記電源回路141は,前記バッテリの容量が自然放電により一定量分減少すると自動的に充電して100%充電状態を維持し,100%充電状態になってから充電終止容量変更期間経過した場合に,前記充電終止容量変更期間のモードから充電終止容量低下モードへ移行させ,
前記充電終止容量低下モードにおいて,バッテリ駆動状態となった場合,あるいは,バッテリがコンピュータ本体から外された場合に,前記電源回路141は,前記充電終止容量低下モードから充電終止容量変更期間のモードへ移行させる,充電手段を備えた電子機器。」

(2)原査定における拒絶の理由で引用された本願の出願前に頒布された刊行物である特開2006-148997号公報(以下,「引用例2」という。)には,「充電装置及び充電方法」に関し,図面とともに次の事項が記載されている。

・「【技術分野】
【0001】
本発明は充電装置及び充電方法に関し,特に充電池の劣化防止と稼働時間の双方を確保する技術に関する。」

・「【0014】
本発明は上記課題を解決するためになされたもので,その目的の一つは,充電池の劣化防止と稼働時間の確保の両立を可能にする充電装置及び充電方法を提供することにある。」

・「【0031】
図3は本発明の第1の実施形態を示す処理のフロー図である。まず,端子80乃至83が全て接続され,さらに交流電源60から電源が供給された場合(すなわち電池43に電源が供給されることにより充電を開始する場合)に,電圧検出部24は,電池電圧Vbat(充電開始時の電池電圧)を測定することにより検出し(S101),充電制御部21に対して出力する。このように,充電制御部21は充電開始時の充電電圧を示す電池電圧情報を取得する電池電圧情報取得手段として機能する。そして判定部22は充電制御部21から該Vbatを受け取り,受け取ったVbatと予めメモリ部23に記憶される第1閾値電圧V1と比較して(S102),該比較結果を該Vbatの電圧範囲を示す充電開始時電池電圧範囲情報として取得する。さらに,後述するS104の処理によりメモリ部23に記憶される過去N-1回分のS102における比較結果を示す過去N-1回分の充電開始時電池電圧範囲情報を読み出す。そして,S102における比較結果と,該過去N-1回分の比較結果と,を併せたN回分の比較結果を示すN回分の充電開始時電池電圧範囲情報を取得する(S103)。」

・「【0033】
電池残量メータの表示は,以下のようにして決定される。すなわち,Vbatがある第1閾値電圧V1を超える場合を「3灯」(すなわち3灯と2灯の境界値=第1閾値電圧)とし,Vbatが第1閾値電圧V1以下であり,かつ第2閾値電圧V2を超える場合を「2灯」(すなわち2灯と1灯の境界値=第2閾値電圧)とし,とする。より具体的には,第1閾値電圧V1は電池43の残充電容量が50%になったときの電池43の電池電圧(例えば第1充電電圧の50%である2.1V),第1閾値電圧V1(当審注:「第2閾値電圧V2」の誤記と認める。)は電池43の残充電容量が20%になったときの電池43の電池電圧(例えば第1充電電圧の20%である0.84V),のように決定することができる。」

・「【0035】
ここで図3の説明に戻る。判定部22は,上記N回分の充電開始時電池電圧範囲情報のうち,新しい結果からN-1回分の充電開始時電池電圧範囲情報を,メモリ部23に上書きで書き込む(S104)。また,判定部22は,N回分の充電開始時電池電圧範囲情報により,充電開始時の電池電圧が第1閾値電圧V1より高いことを示す割合を示す割合関係量(高電圧時充電回数割合関係量)が,使用傾向閾値割合関係量より小さいか否かを判断する(S105)。ここで,使用傾向閾値割合関係量は,電池43のユーザが頻繁に充電する傾向にあるのか,それとも少なくとも第1閾値電圧V1以下まで放電してから充電する傾向にあるのか,といったユーザの使用傾向を示すための閾値である。充電開始時の電池電圧が第1閾値電圧V1より高いことを示す割合を示す高電圧時充電回数割合関係量が使用傾向閾値割合関係量より少なければ,電池43のユーザは第1閾値電圧V1以下まで放電してから充電する傾向にあると判断され,充電開始時の電池電圧が第1閾値電圧V1以下より高いことを示す割合を示す高電圧時充電回数割合関係量が使用傾向閾値割合関係量以上であれば,電池43のユーザは頻繁に充電する傾向にあると判断される。」

・「【0038】
なお,第1充電電圧及び第2充電電圧の具体的な値は,例えば電池に含まれるリチウムイオン電池セルの個数によって変化する。例えばセルが1つである場合(1セルの場合)には,第1充電電圧が4.2V,第2充電電圧が4.1Vとなる。」

・「【0040】
以上のようにすることにより,過去の充電開始時の電池電圧に応じて,充電電圧を変化させることができる。すなわち,ユーザが充電できない状態でどれだけ電池43を使用するかに関する傾向を取得することができるので,該傾向に応じて,充電電圧を変えることにより,ユーザの観点から十分に稼働時間を確保するとともに,充電池の劣化防止を図るべく充電電圧を下げることを可能としている。また,携帯型機器を携帯して使用する時間が長く,充電器を接続して充電を開始するときの電池電圧が所定値(第1閾値電圧)より高い場合が使用傾向閾値割合関係量により示される割合より小さければ,電池の充電電圧を高く設定して(第1充電電圧に設定して)充電される容量を多くし,机上で充電しながら使用する時間が長かったり,頻繁に充電を行ったりする場合など,充電器を接続して充電を開始するときの電池電圧が所定値(第1閾値電圧)より高い場合が使用傾向閾値割合関係量により示される割合以上であれば,電池の充電電圧を低く設定して(第2充電電圧に設定して)電池の劣化を防ぐ,といったことを可能にしている。」

・「【0043】
また,第1の実施形態において充電部20に含まれる充電電圧制御ON/OFF操作部27では,電池43のユーザが,電池43の劣化を防止する電池劣化防止モード又は電池43の稼働時間を長くする電池稼働時間確保モードのいずれかを選択する操作を受け入れることができるようになっている。そしてユーザが電池劣化防止モードを選択した場合には,上記S101乃至S107の処理を行うことにより,過去の充電開始時の電池電圧に応じ,充電電圧を決定することができるので,電池43の劣化を防止することができる。一方,ユーザが電池稼働時間確保モードを選択した場合には,S106及びS107の処理を行わず,常に充電電圧を4.2Vに設定することにより,図8と同様の充電動作を行い,電池43の稼働時間を最大限にすることができる。
【0044】
また,充電開始時において,第1閾値電圧との比較に加え,第2閾値電圧との比較も行うようにし,第2閾値電圧以下の充電電圧が検出された場合には少なくともその直後に行う充電(充電器の接続開始から接続解除までの間に行われる充電)については,定電圧充電時の充電電圧を第1充電電圧に設定することにより,電池43をできるだけ長く使用できるようにすることとしてもよい。」

3.発明の対比
本願発明と引用発明とを対比すると,後者の「充電手段」は前者の「充電部」に相当し,以下同様に,「電源マイコン144を有する電源回路141」は「制御部」に,「充電終止容量変更期間のモード」は「第1の充電モード」に,「100%充電状態」は「第1の容量」に,「充電終止容量低下モード」は「第2の充電モード」に,「80%充電状態」は「第2の容量」に,「電源回路141」は「切り替え手段」に,「充電終止容量変更期間」は「設定期間」に,「充電手段を備えた電子機器」は「充電装置]に,それぞれ相当する。
また,後者の「バッテリに対して充電する充電手段」は,前者の「バッテリを充電する充電部」に相当し,後者の「充電終止容量低下モードの場合にバッテリの容量が100%充電状態より下げた80%充電状態になったら前記バッテリの充電を停止させる」態様は,前者の「第2の充電モードの場合にバッテリの容量が第1の容量より低い第2の容量になったら前記バッテリの充電を停止させる」態様に相当する。
後者の「バッテリの容量が100%充電状態になってからバッテリ駆動状態とならずに充電終止容量変更期間経過した場合」及び「バッテリ駆動状態になった場合」は,前者の「バッテリの容量の履歴に応じて」に相当し,後者の「充電終止容量変更期間のモードから充電終止容量低下モードへ移行させる電源回路141」及び「充電終止容量低下モードから充電終止容量変更期間のモードへ移行させる電源回路141」は「第1の充電モードと第2の充電モードとの間の切り替えに関わる処理を実行する切り替え手段」に相当する。
そして,後者の「電源回路141は,バッテリの容量が自然放電により一定量分減少すると自動的に充電して100%充電状態を維持し,100%充電状態になってから充電終止容量変更期間経過した場合に,前記充電終止容量変更期間のモードから充電終止容量低下モードへ移行させ」る態様は,図4を参照すると,自然放電により一定量分減少したバッテリの容量は,100%充電状態と80%充電状態の間の容量であることは明らかであるから,前者の「切り替え手段は,バッテリの容量が第1の容量と第2の容量との間の第3の容量を示す期間が設定期間経過した場合に,第1の充電モードから第2の充電モードへの切り替えに関わる処理を実行」する態様に相当する。
さらに,後者の「充電終止容量低下モードにおいて,バッテリ駆動状態となった場合,あるいは,バッテリがコンピュータ本体から外された場合に,前記電源回路141は,前記充電終止容量低下モードから充電終止容量変更期間のモードへ移行させる」態様と,前者の「バッテリの容量が第2の容量より低い第4の容量を示す回数が所定の期間の間に設定回数あった場合に,切り替え手段は,第2の充電モードから第1の充電モードへの切り替えに関わる処理を実行する」態様とは,「第2の充電モードにおいてバッテリが所定の条件を満たす場合に,切り替え手段は,第2の充電モードから第1の充電モードへの切り替えに関わる処理を実行する」概念において共通する。
そうすると,両者は,
「バッテリを充電する充電部と,
前記充電部による前記バッテリの充電を制御する制御部であって,第1の充電モードの場合に前記バッテリの容量が第1の容量になったら前記バッテリの充電を停止させ,第2の充電モードの場合に前記バッテリの容量が前記第1の容量より低い第2の容量になったら前記バッテリの充電を停止させる,制御部と,
前記バッテリの容量の履歴に応じて,前記第1の充電モードと前記第2の充電モードとの間の切り替えに関わる処理を実行する切り替え手段と,
を具備し,
前記切り替え手段は,前記バッテリの容量が前記第1の容量と前記第2の容量との間の第3の容量を示す期間が設定期間経過した場合に,前記第1の充電モードから前記第2の充電モードへの切り替えに関わる処理を実行し,
第2の充電モードにおいて前記バッテリが所定の条件を満たす場合に,前記切り替え手段は,前記第2の充電モードから前記第1の充電モードへの切り替えに関わる処理を実行する
充電装置。」
の点で一致し,以下の点で相違すると認められる。

<相違点>
バッテリが所定の条件を満たす場合に,切り替え手段は,第2の充電モードから第1の充電モードへの切り替えに関わる処理を実行することに関し,バッテリの所定の条件が,本願発明では,「バッテリの容量が第2の容量より低い第4の容量を示す回数が所定の期間の間に設定回数あった場合」であるのに対して,引用発明では,バッテリ駆動状態となった場合,あるいは,バッテリがコンピュータ本体から外された場合であるものの,それ以上の特定はなされていない点。

4.相違点の検討・当審の判断
引用例2には,段落【0043】,【0044】,【0033】,【0038】の記載事項からみて,
「電池のユーザが,電池劣化防止モードを選択した場合において,充電開始時に,第2閾値電圧(第1充電電圧の20%)以下の充電電圧が検出された場合には,充電電圧を第2充電電圧(4.1V)よりも高い第1充電電圧(4.2V)に設定すること」
が記載されていると認められる。これにより,本願発明の表現にならえば,
「電池(バッテリ)の容量が第2の充電電圧(第2の容量)より低い第2閾値電圧(第4の容量)を示した場合に,充電電圧を第2の充電電圧から第1の充電電圧にすること(第2の充電モードから第1の充電モードに切り替わる処理を実行すること)」
が理解できる(括弧内は相当する本願発明の構成を表す。)。
また,引用例2には,段落【0031】,【0035】,【0040】の記載事項からみて,「充電器を接続して充電を開始する時の電池電圧が所定値より高い場合の割合に応じて,充電電圧を設定すること(第1の充電モードと第2の充電モード間の切り替えを実行すること)」が開示されており,これにより,「充電電圧の設定(充電モードの切り替え)を,電池電圧(バッテリの容量)が所定の状態となる頻度に応じて行うこと」が示唆されているといえる。
そして,一般的に所定の状態となる頻度の判定を,「所定の状態となる回数が所定の期間の間に設定回数あった場合」とすることは,広く知られていること(以下,「周知の事項」という。)であって,次の特開平1-248990号公報記載の事項にあるように,バッテリの制御分野においても採用されているものである。
「【特許請求の範囲】
・・・
(3) 前記第一の比較手段は,更に,
所定時間毎にバッテリの電圧と第一の基準電圧を比較し,バッテリの電圧が第一の基準電圧よりも高いか否かを判断する第一のサンプリング手段と,
該第一のサンプリング手段の判断結果を所定回数分記憶する第一の記憶手段と,
該第一の記憶手段に記憶された判断結果から,バッテリの電圧が第一の基準電圧よりも低いと判断された回数を数え,該回数が所定回数未満の時にはバッテリの電圧が第一の基準電圧よりも高いと判断し,該回数が所定回数以上の時にはバッテリの電圧が第一の基準電圧よりも低いと判断する第一の判断手段と,
を備える請求項1記載のバッテリ負荷制御装置。
(4) 前記第二の比較手段は,更に,
所定時間毎にバッテリの電圧と第二の基準電圧を比較し,バッテリの電圧が第二の基準電圧よりも高いか否かを判断する第二のサンプリング手段と,
該第二のサンプリング手段の判断結果を所定回数分記憶する第二の記憶手段と,
該第二の記憶手段に記憶された判断結果から,バッテリの電圧が第二の基準電圧よりも低いと判断された回数を数え,該回数が所定回数未満の時にはバッテリの電圧が第二の基準電圧よりも高いと判断し,該回数が所定回数以上の時にはバッテリの電圧が第二の基準電圧よりも低いと判断する第二の判断手段と,
を備える請求項2記載のバッテリ負荷制御装置。」(特許請求の範囲第3項,第4項を参照のこと。)
そうすると,引用発明と引用例2に記載されたものは,バッテリの劣化防止と稼働時間の確保という課題において共通しているから,引用発明におけるバッテリの所定の条件として,相違点に係る本願発明の構成を採用することは,上記引用例2に記載された示唆及び上記周知の事項を考慮しつつ引用例2に開示された事項を適用することにより,当業者が容易に想到し得たものである。

そして,本願発明の作用効果について検討しても,引用発明,引用例2に開示された事項,引用例2に記載された示唆及び上記周知の事項から予測される以上の効果が奏されるとは認められない。

したがって,本願発明は,引用発明,引用例2に開示された事項,引用例2に記載された示唆及び上記周知の事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおりであるから,本願発明は,引用発明,引用例2に開示された事項,引用例2に記載された示唆及び上記周知の事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そうすると,このような特許を受けることができない発明を包含する本願は,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-05-22 
結審通知日 2013-05-28 
審決日 2013-06-10 
出願番号 特願2011-186117(P2011-186117)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H02J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田中 慎太郎  
特許庁審判長 新海 岳
特許庁審判官 槙原 進
藤井 昇
発明の名称 充電装置および充電方法  
代理人 井関 守三  
代理人 砂川 克  
代理人 佐藤 立志  
代理人 野河 信久  
代理人 竹内 将訓  
代理人 福原 淑弘  
代理人 河野 直樹  
代理人 幸長 保次郎  
代理人 中村 誠  
代理人 白根 俊郎  
代理人 岡田 貴志  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 峰 隆司  
代理人 堀内 美保子  

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