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審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C08F |
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管理番号 | 1277195 |
審判番号 | 不服2011-10980 |
総通号数 | 165 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-09-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2011-05-25 |
確定日 | 2013-07-24 |
事件の表示 | 特願2006-525812「ヘテロフェーズ重合技術によって製造された光安定剤の水性濃厚生成物形態」拒絶査定不服審判事件〔平成17年3月17日国際公開、WO2005/023878、平成19年3月8日国内公表、特表2007-505179〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は、平成16年9月1日(優先権主張 2003年9月11日 欧州特許庁)を国際出願日とする特許出願であって、平成19年8月27日に手続補正書が提出され、平成21年11月11日付けで拒絶理由が通知され、平成22年3月3日に意見書及び手続補正書が提出され、平成23年1月20日付けで拒絶をすべき旨の査定がされ、これに対し、同年5月25日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同年6月24日に手続補正書(方式)(対象書類:審判請求書)が提出されたものである。 第2.本願発明 本願の請求項1?7に係る発明は、平成22年3月3日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるものと認められるところ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 1000nm未満の平均粒度を有する水性重合体分散液であって、 a)少なくとも1種のエチレン性不飽和単量体をb)無極性有機光安定剤および0.01?10重量%の界面活性剤の存在下にヘテロフェーズラジカル重合することによって製造された重合体キャリヤを含み、ここで、無極性有機光安定剤対重合体キャリヤの重量比がキャリヤ100部当り光安定剤50部よりも大きい、水性重合体分散液。」 第3.原査定の拒絶の理由の概要 原審において拒絶査定の理由とされた平成21年11月11日付けで通知された拒絶理由の概要は、下記の理由を含むものである。 「この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 ・・・ 引 用 文 献 等 一 覧 1.特開平07-292009号公報」 第4.当審の判断 原査定の理由が妥当なものであるかについて、以下に検討する。 (1)刊行物 ・特開平7-292009号公報(以下、「引用文献」という。) (2)引用文献に記載された事項 ア.「【特許請求の範囲】 【請求項1】水性媒体中にラジカル重合性不飽和単量体と該ラジカル重合性不飽和単量体に可溶性の機能性物質とを界面活性剤の存在下に分散し、機能性物質含有ラジカル重合性不飽和単量体の平均粒子径が5?500nmの単量体水性分散液とし、次いで得られた単量体分散液にラジカル開始剤を加え重合させることを特徴とする樹脂水性分散液の製造方法。 【請求項3】機能性物質が、紫外線吸収剤である請求項1又は2記載の製造方法。 【請求項5】機能性物質を、ラジカル重合性不飽和単量体100重量部に対し、0.1?1000重量部使用することを特徴とする請求項1?4のいずれか1項記載の製造方法。 【請求項10】界面活性剤を、ラジカル重合性不飽和単量体100重量部に対し、2?5000重量部使用することを特徴とする請求項1?9のいずれか1項記載の製造方法。 【請求項12】機能性物質含有単量体分散液中の分散粒子の平均粒子径と、その機能性物質含有単量体分散液を重合させて得られた機能性物質含有樹脂水性分散粒子の平均粒子径との差異が30%以内である請求項1?11のいずれか1項記載の製造方法。」(特許請求の範囲の請求項1,3,5,10及び12) イ.「【発明が解決しようとする課題】本発明が解決しようとする課題は、多量の機能性物質を含有し、しかも、制御された粒子径をもつ機能性物質含有樹脂水性分散液の製造方法を提供することにある。」(段落[0006]) ウ.「本発明における界面活性剤の使用量は、単量体粒子を微細にし易い点と、重合安定性及び得られた樹脂粘度の観点からラジカル重合性不飽和単量体100重量部に対して2?5000重量部、なかでも5?200重量部であることが好ましい。」(段落[0018]) エ.「紫外線吸収剤としては、例えばサリチル酸メチル、サリチル酸フェニル、サリチル酸クレジル、サリチル酸ベンジル等のサリチル酸エステル類、2ーヒドロキシベンゾフェノン、2ーヒドロキシー4ーベンジロキシベンゾフェノン、2ーヒドロキシー4ーメトキシベンゾフェノン、2ーヒドロキシー4ーオクトキシベンゾフェノン、2ーアミノベンゾフェノン、2ーヒドロキシー4ードデシルオキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン類、2ー(2ーヒドロキシー5ーメチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2ー(2ーヒドロキシー5ーtーブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2ー(2ーヒドロキシー3,5ージーt-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2ー(2ーヒドロキシー3ーtーブチルー5ーメチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2ー[2ーヒドロキシー3,5ージー(1,1ージメチルベンジル)フェニル]ベンゾトリアゾール、2ー(2ーヒドロキシー3,5ージーt-アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2ー[2ーヒドロキシー3ーtーブチルー5ー(1-オクトキシカルボニルエチル)]ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール類、2ーエチルヘキシルー2ーシアノー3,3ージフェニルアクリレート、エチルー2ーシアノー3,3ージフェニルアクリレート等のシアノアクリレート類、2,2ーチオビス(4ーオクチルフェノレート)ニッケル錯塩、[2,2ーチオビス(4ーtーオクチルフェノラート)]ーnーブチルアミン・ニッケル錯塩等のニッケル錯塩等の紫外線吸収剤が挙げられる。」(段落[0022]) オ.「実施例4 MMA45部、BA40部の単量体混合液に「チヌビン384」{チバガイギー製 ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤 2ー[2ーヒドロキシー3ーtーブチルー5ー(1-オクトキシカルボニルエチル)]ベンゾトリアゾール 商品名}を200部溶かし紫外線吸収剤含有単量体混合液とした。 この混合液を「エレミノールRS-30」305部を用いてイオン交換水370部中に微粒分散させ紫外線吸収剤含有単量体水性分散液を調製した。光散乱法により測定した単量体微粒子の重量平均粒子径は63nmであった。 以下の実験は実施例1と同一の方法で行い、紫外線吸収剤含有樹脂水性分散液を得た。得られた樹脂水性分散液の固形分濃度は43.2重量%であった。次いで200メッシュのろ布でろ過し、紫外線吸収剤含有樹脂水性分散液[以下樹脂水性分散液(h)という]を取りだした。光散乱法により測定した樹脂微粒子の重量平均粒子径は58nmであり、単量体分散微粒子の重量平均粒子径に対する変化率は7.9%であった。」(段落[0055]?[0057]) (3)引用文献に記載された発明 引用文献には、摘示事項アの記載からみて、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。 「水性媒体中にラジカル重合性不飽和単量体と該ラジカル重合性不飽和単量体に可溶性の機能性物質とを界面活性剤の存在下に分散し、機能性物質含有ラジカル重合性不飽和単量体の平均粒子径が5?500nmの単量体水性分散液とし、次いで得られた単量体分散液にラジカル開始剤を加え重合させて製造された樹脂水性分散液であって、 機能性物質が、紫外線吸収剤であり、 機能性物質を、ラジカル重合性不飽和単量体100重量部に対し、0.1?1000重量部使用し、 界面活性剤を、ラジカル重合性不飽和単量体100重量部に対し、2?5000重量部使用し、 機能性物質含有単量体分散液中の分散粒子の平均粒子径と、その機能性物質含有単量体分散液を重合させて得られた機能性物質含有樹脂水性分散粒子の平均粒子径との差異が30%以内である、 樹脂水性分散液。」 (4)対比・判断 本願発明と引用発明を対比すると、引用発明の「ラジカル重合性不飽和単量体」は、本願発明の「エチレン性不飽和単量体」に相当し、引用発明の「機能性物質」である「紫外線吸収剤」は、本願発明の「光安定剤」に相当することは明らかである。 また、引用発明の「ラジカル重合性不飽和単量体に可溶性の機能性物質とを界面活性剤の存在下に分散し・・・得られた単量体分散液にラジカル開始剤を加え重合」は、「単量体分散液」が不均一な(ヘテロ)相(フェーズ)を形成している状態で行われるラジカル重合であるから、本願発明の「ヘテロフェーズラジカル重合」に相当し、引用発明の「機能性物質含有ラジカル重合性不飽和単量体の平均粒子径が5?500nmの単量体水性分散液・・・中の分散粒子の平均粒子径と、その機能性物質含有単量体分散液を重合させて得られた機能性物質含有樹脂水性分散粒子の平均粒子径との差異が30%以内である、樹脂水性分散液」は、単量体の重合物の平均粒子径が単量体の平均粒子径(5?500nm)の30%以内のものであるから、本願発明の「1000nm未満の平均粒度を有する水性重合体分散液」に相当する。 さらに、構成成分の配合量について、引用発明の「界面活性剤」の配合量は、「ラジカル重合性不飽和単量体100重量部に対し、2?5000重量部」であるから、本願発明の「0.01?10重量%」(本願発明における界面活性剤の重量%は、明細書の段落[0289]の記載からみて、単量体の重量を基準とするものである。)という数値範囲と重複一致し、引用発明の「機能性物質」(光安定剤)の配合量は、「ラジカル重合性不飽和単量体100重量部に対し、0.1?1000重量部」であるから、本願発明の「光安定剤対重合体キャリヤの重量比がキャリヤ100部当り光安定剤50部よりも大きい」と重複一致することは明らかである。 そうすると、両発明は、「1000nm未満の平均粒度を有する水性重合体分散液であって、a)少なくとも1種のエチレン性不飽和単量体をb)光安定剤および0.01?10重量%の界面活性剤の存在下にヘテロフェーズラジカル重合することによって製造された重合体キャリヤを含み、ここで、光安定剤対重合体キャリヤの重量比がキャリヤ100部当り光安定剤50部よりも大きい、水性重合体分散液。」の点で一致し、次の点で一応相違する。 相違点: 本願発明の光安定剤は、「無極性有機」であるのに対して、引用発明には、そのような規定がない点。 以下、上記相違点について検討する。 光安定剤の具体例として、引用文献の摘示事項エには、「サリチル酸メチル・・・[2,2ーチオビス(4ーtーオクチルフェノラート)]ーnーブチルアミン・ニッケル錯塩等のニッケル錯塩等の紫外線吸収剤」が例示的に記載されており、摘示事項オには、「「チヌビン384」{チバガイギー製 ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤 2ー[2ーヒドロキシー3ーtーブチルー5ー(1-オクトキシカルボニルエチル)]ベンゾトリアゾール 商品名}」が記載されていることからみて、引用発明の光安定剤が「無極性」で「有機」性のものを包含していることは明らかであるから、上記相違点は、実質的な相違点ではない。 よって、本願発明は、引用文献に記載された発明である。 第5.請求人の主張について 請求人は、審判請求書において、次のように主張している。 主張1: 「(a)相違点1(全固形分量) ・・・ 引用文献1には、樹脂水性分散液の固形分濃度が50重量%よりも大きいことは記載されていない。引用文献1の実施例には、具体的に、樹脂水性分散液の固形分濃度が31.1重量%(実施例1、5頁8欄19?20行)、35.3重量%(実施例2、6頁9欄28?29行)、35.1重量%(実施例3、7頁11欄2行)、43.2重量%(実施例4、7頁11欄40行)であることが記載されている。 一方、本発明の水性重合体分散液は、上述のとおり、全固形分が水性分散液の総重量を基にして50重量%よりも多い(本願明細書の18段落)。」 主張2: 「(b)相違点2(界面活性剤の量) 引用文献1には、界面活性剤の量が、ラジカル重合性不飽和単量体100重量部に対して、5?200重量部であることが記載されている(18段落)。 しかし、引用文献1には、界面活性剤の量が、ラジカル重合性不飽和単量体に基づいて、10重量%以下の樹脂水性分散液は、具体的に記載されていない。 ・・・ 上記表1及び表2に示すように、本発明と引用文献1の発明とは、具体的な界面活性剤の量が全く異なる。本発明の界面活性剤の量は、0.01?10重量%、具体的には9.1重量%以下であるのに対して、引用文献1の界面活性剤の量は、具体的には40重量%以上である。」 主張3: 「(c)相違点3(課題の相違) 上述のように、本発明の界面活性剤の量と、引用文献1の発明の界面活性剤の量が異なるのは、課題が異なるためと推測される。本発明は、エマルジョンをミニエマルジョンに重合することを課題としている・・・。一方、引用文献1の発明は、機械的せん断力による微粒子化という工程を不要とすることを課題としている(9段落)。」 以下、請求人の主張1?3について検討する。 ・主張1(全固形分量)について 本願発明は、水性重合体分散液の全固形分量に関する事項を、その発明を特定するために必要な事項として具備しておらず、「全固形分が水性分散液の総重量を基にして50重量%よりも多い」ものと限定して解釈すべき理由もないから、請求人の主張は妥当ではない。 ・主張2(界面活性剤の量)について 引用文献の摘示事項ウには、「界面活性剤の使用量は、単量体粒子を微細にし易い点と、重合安定性及び得られた樹脂粘度の観点からラジカル重合性不飽和単量体100重量部に対して2?5000重量部、なかでも5?200重量部であることが好ましい。」と記載されており、下位限定された好ましい数値範囲ですら、本願発明の「0.01?10重量%」と重複一致するのであるから、引用文献に界面活性剤の量が10重量%以下の実施例が記載されていないことをもって、発明の相違点とすることは妥当ではない。 また、本願発明においては、界面活性剤の量を「0.01?10重量%」に限定したことによって、先行技術と比較して際だって優れた効果が奏されているわけではないから、いわゆる数値限定発明が成立する余地もない。 ・主張3(課題の相違)について 引用発明は、「多量の機能性物質を含有し、しかも、制御された粒子径をもつ機能性物質含有樹脂水性分散液の製造方法を提供すること」(摘示事項イ)を課題とするものであるから、請求人の引用発明の課題の認定には無理があるし、そもそも、発明の課題の相違は、発明の同一性の判断に直ちに影響を与えるものではないから、請求人の主張は妥当ではない。 以上のことから、請求人の主張1?3はいずれも採用できない。 第6.むすび 以上のとおりであるから、本願の請求項1についての原査定の拒絶の理由は妥当なものであるので、他の請求項や他の理由について検討するまでもなく、本願は、前記拒絶の理由により拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-02-25 |
結審通知日 | 2013-02-26 |
審決日 | 2013-03-11 |
出願番号 | 特願2006-525812(P2006-525812) |
審決分類 |
P
1
8・
113-
Z
(C08F)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 松元 洋 |
特許庁審判長 |
田口 昌浩 |
特許庁審判官 |
近藤 政克 小野寺 務 |
発明の名称 | ヘテロフェーズ重合技術によって製造された光安定剤の水性濃厚生成物形態 |
代理人 | 齋藤 房幸 |
復代理人 | 川田 秀美 |
代理人 | 津国 肇 |
代理人 | 伊藤 佐保子 |