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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  E04G
管理番号 1277280
審判番号 無効2012-800174  
総通号数 165 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-09-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2012-10-19 
確定日 2013-07-24 
事件の表示 上記当事者間の特許第4628842号発明「タイル外壁改修・補修方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第4628842号(請求項の数[1]、以下、「本件特許」という。)は、平成17年3月30日に特許出願された特願2005-97385号に係るものであって、その請求項1に係る発明について、平成22年11月19日に特許権の設定登録がなされた。

これに対して、平成24年10月19日に、本件特許の請求項1に係る発明の特許に対して、本件無効審判請求人(以下「請求人」という。)により本件無効審判〔無効2012-800174号〕が請求されたものであり、本件無効審判被請求人(以下「被請求人」という。)により指定期間内の同年12月25日付けで審判事件答弁書が提出されたものである。

また、平成25年3月23日付けで被請求人より口頭審理陳述要領書が提出され、同年3月26日付けで請求人より口頭審理陳述要領書が提出され、同年4月9日に口頭審理が行われたものである。


第2 当事者の主張
1.請求人の主張、及び提出した証拠の概要
請求人は、特許4628842号発明の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、審判請求書、及び平成25年3月26日付け口頭審理陳述要領書、及び、同25年4月9日の口頭審理において、甲第1?10号証を提示し、以下の無効理由を主張した。

[無効理由]
本件の請求項1に係る特許発明は、甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証及び甲第4号証に基づいて、出願前に当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

[証拠方法]
甲第1号証:「公共建築改修工事標準仕様書 平成16年版」財団法人建築保全センター 平成16年(2004年)4月1日発行 表紙、目次、第1,76?79,90?95,98?99頁、奥付
甲第2号証:「タイル仕上げ外壁の補修・改修技術」財団法人日本建築センター 1992年(平成4年)8月20日発行 表紙、目次、第1?3,33?37頁、奥付
甲第3号証:「建築改修設計指針 昭和61年4月」財団法人建築保全センター 昭和61年(1986年)4月1日発行 表紙、目次、第50?53,72?75頁、奥付
甲第4号証:「建築改修工事監理指針(上巻)平成14年版」財団法人建築保全センター 平成15年(2003年)3月1日発行 表紙、「6.各種法令の略称」の頁、目次、第366?369,374?379頁、奥付
甲第5号証:「建築改修工事監理指針(上巻)平成14年版」財団法人建築保全センター 平成15年(2003年)3月1日発行 表紙、第359頁?361頁、365頁?366頁、奥付
甲第6号証:在来工法の一連の写真
撮影年月日 平成23年8月
撮影場所 東京都
施工業者 株式会社リフォームジャパン
甲第7号証の1:電動カッターの写真
甲第7号証の2:電動カッターの使用状態の写真
甲第8号証:電動カッターを用いた目地の切断状態の原寸大の説明図
甲第9号証:タイルクラック補修の工事写真
撮影年月日 平成23年11月
撮影場所 福島県
施工業者 有限会社雄和
甲第10号証:無効審判(無効2012-800015)の回答書

2.被請求人の主張
これに対して、被請求人は、平成24年12月25日付けの審判事件答弁書及び平成25年3月23日付け口頭審理陳述要領書、及び、同25年4月9日の口頭審理において、乙第1?4号証を提示し、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求め、請求人の無効理由に対して以下のように反論した。

[無効理由に対する反論]
本件審判の請求には理由がない。

[証拠方法]
乙第1号証:「公共建築改修工事標準仕様書(建築工事編)平成16年版」財団法人建築保全センター 平成18年7月1日発行
乙第2号証:「広辞苑 第二版補訂版」新村 出編 岩波書店 昭和57年10月15日発行
乙第3号証:「建築改修工事監理指針 平成14年版(上巻)」財団法人建築保全センター 平成15年3月1日発行
乙第4号証:「タイル仕上げ外壁の補修・改修技術」財団法人日本建築センター・財団法人建築保全センター 1992年8月20日発行


第3 本件に係る発明
本件特許の請求項1に係る発明は特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認める。(「A:」?「F:」の文字は当審で付与。)
「【請求項1】
A:タイル外壁改修・補修方法であって、
補修しようとする建築物のタイル外壁の補修すべき箇所の調査を行う工程と、
B:除去しようとするタイルの周囲に位置する目地の外側に切り込みを入れて、当該タイル及び周囲の目地を除去する工程と、
C:前記当該箇所の下地処理を行う工程とを含み、
D:前記下地処理工程において、ひび割れ部分に沿ってコンクリートをU形にカットし、U形にカットした溝内にプライマーを均一に塗布し、前記溝内に、コンクリート表面よりも3mm?5mm低くなるようにシーリング材を充填し、前記シーリング材の上部にポリマーセメントモルタルを充填し、コンクリート表面に合うようにポリマーセメントモルタルの頂面を平滑にし、
E:前記当該箇所に、除去したタイルの寸法、色、および風合いに合わせて製作したタイルを貼り、周囲の目地詰めを行う工程と、
F:前記タイル外壁のうち貼り変えたタイル以外のタイルの洗浄を行う工程と、を更に含むことを特徴とする方法。」(以下、「本件特許発明」という。)


第4 無効理由についての当審の判断
1.甲第1?甲第10号証の記載事項
(1)甲第1号証の記載事項
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第1号証には、公共建築改修工事標準仕様に関して、次の事項が記載されている。
(ア)「公共建築改修工事標準仕様書(建築工事編)平成16年版」(表紙)
(イ)「4章 外壁改修工事」(第77頁上欄外)
(ウ)「4.3.5
Uカットシール材充填工法 (a)プライマーの塗布及び充填時に被着体が5℃以下又は50℃以上になるおそれのある場合は,作業を中止する。
(b)シール材の仕上がり状態及び硬化状態を目視及び指触により確認し,その結果を監督職員に提出して,承諾を受ける。
(c)ひび割れ部の処置は,次による。
(1) ひび割れ部に沿って電動カッター等を用いて幅10mm程度,深さ10?15mm程度にU字型の溝を設ける。
(2) Uカット溝内部に付着している切片,粉塵等は,ワイヤーブラシ,はけ等で除去する。
(3) 被着体に適したプライマーを溝内部に塗残しのないよう均一に塗布する。
(4) プライマー塗布後,ごみ,ほこり等が付着した場合又は当日充填ができない場合は再清掃し,プライマーを再塗布する。
(d) 充填
(1)シーリング材を充填する場合
(i) シーリング材を隅々まで行きわたるようにコーキングガンのノズルをUカット溝に当て,加圧しながら空隙,打残しがないように充填し,へらで押え下地と密着させて表面を平滑に仕上げる。
(ii) 2成分形シーリング材は,製造所の指定する配合により,可使用時間に見合った量を,練り混ぜて使用する。
(iii) 2成分形シーリング材を用いて充填する場合は,各ロットごとにサンプリングを行う。
なお,サンプリング資料は,整理して監督職員に提出する。
(iv) 特記により,シーリング材のうえにポリマーセメントモルタルを充填する場合は,次による。
[1]シーリング材は、コンクリート表面から3?5mm程度低めに充填し,充填後は,へらで押え,下地と密着させて表面を落とし仕上げとする。
[2]ポリマーセメントモルタルをコンクリート表面に合わせて平滑に塗り込む。」
(第77頁第19行?第78頁第11行)
(なお、[]は、丸数字を表す。以下同様。)
(エ)「5節 タイル張り仕上げ外壁の改修
4.5.1
適用範囲 この節は,タイル張り仕上げ外壁の改修に適用する。
4.5.2
ひび割れ部改修一般事項 (a) ひび割れ部から漏水が見られる場合、ひび割れ部周辺のタイルに浮きが見られる場合又はひび割れ部から錆汁がでている場合は,事前に監督職員と協議を行う。
(b) タイル張りを撤去する場合
設計図書の指示又は監督職員と協議の結果,タイル張り仕上げを撤去してひび割れ部を改修する場合は,次による。
(i) ひび割れ周辺をダイヤモンドカッター等で健全部分と縁を切って,損傷が拡大しないようにタイル目地に沿って切り込む。
なお,切り込み深さは,次による。
[1]下地モルタルと構造体コンクリート界面の浮きの場合は,構造体コンクリートの表面までとする。
[2]張付けモルタルと下地モルタル界面の浮きの場合は,下地モルタル面までとする。
[3]タイル裏面と張付けモルタルの界面の浮きの場合は,張付けモルタル面までとする。
なお,浮きがなくてもタイルを除去する必要がある場合は,張り付けモルタル面までとする。
(ii) タイル片は,のみ,たがね等で健全部分への損傷が拡大しないようはつり撤去する。タイル撤去後に露出したひび割れを確認し監督職員に報告する。
(iii) ひび割れ部の改修工法は,(i)[1]の場合は4.3.4又は4.3.5により,(i)[2]及び[3]の場合は4.3.4による。
(iv) ひび割れ部改修後のタイル張り撤去部の補修は,次による。
[1] (i)[1]の場合は,4.5.7(b)又は4.5.8による。
[2] (i)[2]の場合は,4.5.7(b)による。
[3] (i)[3]の場合は,4.5.7(c)による。
(c) タイル張りを撤去しない場合の改修工法は,4.5.5による。」
(第91頁第27行?第92頁第19行)
(オ)「4.5.6
Uカットシール材充填工法 工法は,4.3.5による。」
(第93頁第3?5行)
(カ)「4.5.7
タイル部分張替え工法 (a)適用範囲
タイルの部分的な張替えで,既存の下地モルタル等がある場合及び1箇所当たりの張替え面積が0.25m^(2)程度以下の場合に適用する。
(b)ポリマーセメントモルタルを使用する場合
(1)張替え下地面の水湿しを行う。
(2)ポリマーセメントモルタルを製造所の仕様により調合し,均一になるまで混練りする。
なお,混ぜる量は,1回の張付け面積分とする。
(3)張替え下地面とタイル裏面の両面にポリマーセメントモルタルを塗り付け,タイルを張り付ける。
(4)タイル目地詰めは,タイル張り完了後,24時間以上の養生を行った後に目地ごて又はゴムごて等を用いて目地モルタルを塗り込む。小口タイル以上の大きさの場合は,更に目地ごてを用いて仕上げる。
なお,目地深さはタイル厚の1/2以内とする。
(5)ポリマーセメントモルタルが硬化するまでは衝撃を与えないようにし,降雨等からも養生する。
(6)張替え部以外に付着した材料は,適切な方法で除去する。
(c)エポキシ樹脂を使用する場合
(1)張替え下地面を良く乾燥させる。
(2)エポキシ樹脂を製造所の仕様により調合し,均一になるまで混練りする。
(3)張替え下地面にエポキシ樹脂を塗布し,タイルを張り付ける。
(4)タイル目地詰めは,(b)(4)による。
(5)エポキシ樹脂が硬化するまでは衝撃を与えないようにし,降雨等からも養生する。
(6)張替え部以外に付着した材料は,適切な方法で除去する。」
(第93頁第6?33行)
(キ)「(e) 養生及び清掃
・・・
(2)清掃
タイル張り終了後,タイル表面を傷めないように清掃し,汚れを取り除く。やむを得ず清掃に酸類を用いる場合は,清掃前に十分水湿しをし,酸洗い後は,直ちに水洗いを行い,酸分が残らないようにする。」
(第98頁第36行?第99頁第1行)

(ク)上記(ア)?(キ)に「・・・行う。」等と記載された各行為は、それぞれ工事が終了するまでの作業の一部をなすものであって、それぞれ「工程」といえる。
(ケ)上記(エ)の「(iii) ひび割れ部の改修工法」は、「(i)[1]」の場合、すなわち、「下地モルタルと構造体コンクリート界面の浮きの場合」は、「 4.3.4又は4.3.5に」よるものであって、それは、上記(ウ)の「(a)」?「(d)」からなる「4.3.5Uカットシール材充填工法」を含むものであるので、「Uカットシール材充てん」工程を含み、さらにその工程中に「(1)ひび割れ部に沿って電動カッター等を用いて幅10mm程度,深さ10?15mm程度にU字型の溝を設け」、「(3)被着体に適したプライマーを溝内部に塗残しのないよう均一に塗布」し、「(i) シーリング材を隅々まで行きわたるようにコーキングガンのノズルをUカット溝に当て,加圧しながら空隙,打残しがないように充填し,へらで押え下地と密着させて表面を平滑に仕上」し、「シーリング材のうえにポリマーセメントモルタルを充填する場合」は「[1]シーリング材は、コンクリート表面から3?5mm程度低めに充填」し、「充填後は,へらで押え,下地と密着させて表面を落とし仕上げとする。」工程を含むものといえる。
(コ)なお、甲第1号証には、記載事項(エ)のタイル張り仕上げ外壁の改修が、記載事項(キ)の「清掃」を引用しているといえる根拠が存在しないので、記載事項(エ)のタイル張り仕上げ外壁の改修が、記載事項(キ)の「清掃」の工程を伴っているとまでいうことはできない。

上記記載事項から、甲第1号証には、次の発明が記載されているものと認められる。(「a:」?「f:」の文字は当審で付与。)
「a:タイル張り仕上げ外壁の改修に適用する工事標準仕様であって、
ひび割れ部から漏水が見られる場合、ひび割れ部周辺のタイルに浮きが見られる場合又はひび割れ部から錆汁がでている場合は,事前に監督職員と協議を行う工程と、
b:ひび割れ周辺をダイヤモンドカッター等で健全部分と縁を切って,損傷が拡大しないようにタイル目地に沿って切り込み、タイル片は,のみ,たがね等で健全部分への損傷が拡大しないようはつり撤去する工程と、
c:Uカットシール材充填工程とを含み、
d:Uカットシール材充填工程において、ひび割れ部に沿って電動カッター等を用いて幅10mm程度、深さ10?15mm程度にU字型の溝を設け、被着体に適したプライマーを溝内部に塗残しのないよう均一に塗布し、シーリング材を隅々まで行きわたるようにコーキングガンのノズルをUカット溝に当て,加圧しながら空隙,打残しがないように充填し,へらで押え下地と密着させて表面を平滑に仕上し、シーリング材のうえにポリマーセメントモルタルを充填する場合は、シーリング材は、コンクリート表面から3?5mm程度低めに充填し,充填後は,へらで押え,下地と密着させて表面を落とし仕上げとし、ポリマーセメントモルタルをコンクリート表面に合わせて平滑に塗り込む、
e:張替え下地面とタイル裏面の両面にポリマーセメントモルタルを塗り付け、タイルを張り付け、タイル目地詰めは、タイル張り完了後、24時間以上の養生を行った後に目地ごて又はゴムごて等を用いて目地モルタルを塗り込む工程と、
f:張替え部以外に付着した材料は,適切な方法で除去する工程と、を更に含む工事標準仕様。」(以下、これを「甲第1号証記載の発明」という。)

(2)甲第2号証の記載事項
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第2号証には、タイル仕上げ外壁の補修・改修技術に関して、次の事項が記載されている。
(ア)「タイル仕上げ外壁の補修・改修技術」(表紙)
(イ)「1.1 目 的
本編では,既存建築物のうちタイル仕上げ外壁に対する補修・改修に係る技術的な基本事項を示すことによって外壁の性能・機能を所期のレベルで確保し,建物の的確な保全に資することを目的とする。・・・」
(ウ)「1.2 適用範囲
本編で対象とする既存タイル仕上げ外壁は,その躯体が鉄筋コンクリート(プレキャスト部材を含む),鉄骨鉄筋コンクリートで,その屋外部側表面がタイルで仕上げられているものとし,その補修・改修を行う場合に適用する。
ただし,当該建築物および部位,ならびにこれらを構成する材料・部材が特殊な劣化外力地域,環境にある場合は適用範囲外とする。また,建物用途がきわめて特殊なものも適用から除く。
また,コンタリート部分の劣化原因が海塩粒子の作用,コンクリート中の塩分による作用およびアルカリ骨材反応による場合も適用外とする。・・・」
(エ)解図1.1.1 タイル仕上げ外壁の補修・改修の流れ概念図には、「START」の次に「タイル仕上げの外壁の点検」と記載されている。
(オ)「5.1 概 説
補修・改修のための調査・診断は以下とする。
(1)調査:「予備調査」および「施工調査」
(2)診断:巻末資料1による診断指針によることとする。」
(カ)「5.2 予備調査
予備調査は,主として以下に示す調査を実施することにより,補修・改修対象の概要を把握する目的をもって行う。
(1)補修・改修建築物,部位などに関する保管設計図書およびそれらに関連する資料の調査。必要な場合は現場での目視による,現状の確認を行う。
(2)現在までの保全記録,過去の修繕,改修等の記録の調査。」
(キ)「5.3 診 断
タイル仕上げの診断は巻末資料1(診断指針)による。ただしシーリングの診断は5.5による。」
(ク)「5.4 タイル仕上げ外壁のタイル・モルタルおよびコンクリート部分の診断
診断は,巻末資料1の「診断指針」によるほか,第2編(打放しコンクリート)を参考とする。」
(ケ)「5.5.1 診断項目と診断手法
各診断レベルの調査項目,手法,部位は表5.5.1を標準とし,診断の詳細は,「シーリング防水改修設計・施工指針」による。

表5.5.1 診断レベルに応じた調査項目,調査手法,調査部位
診断レベル 調査項目 調査手法 調査部位
1次診断 対象とするすべ 目視観察 容易に観察できる部位
ての劣化現象 指触観察
2次診断 1次診断で故障 スケール等を用 {l階部分,開き窓
の認められた劣 いた目視観察 屋上笠木,塔屋等}
化現象 指触観察(脚立
梯子等の利用)
3次診断 シーリング材の 上記の観察 シーリング防水箇所の
破断および剥離 切取検査 各面ごとにその面積の
,シーリング材 (足場,ゴンド 20?30%の範囲
の物性(硬さ試 ラ等の利用)
験,引張試験)
(コ)「5.6 タイル仕上げ外壁の補修・改修の要否の判定
補修・改修の要否の判定は,4.点検で示された,劣化・不具合の程度,5.2予備調査および5.4診断の結果等を総合して行う。」
(サ)「5.6.1 タイル・モルタルの劣化による補修・改修の要否の判定
タイル仕上げ外壁のタイルおよびモルタル部分が劣化したことによる補修・改修の要否の判定は,原則として図5.6.1および表5.6.1による。」

(3)甲第3号証の記載事項
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第3号証には、建築改修設計指針に関して、次の事項が記載されている。
(ア)「5.3.2 Uカットシーリング材充てん工法
(a)適用範囲
コンクリート表面のひび割れ幅が1.0mm程度を越えかつ挙動が予想されるひび割れ部をUカットし、シーリング用材料を充てんし樹脂モルタルを塗込む場合に適用する。
(b)材 料
(1)シーリング用材料は9.3.1(b)(l)による。種別は特記により、特記のない場合は耐久性区分8020と同等以上のものとする。
(2)プライマは9.3.1(b)(2)のプライマによる。
(3)シーリングの材料の貯蔵などは9.3.1(b)(3)による。
(4)樹脂モルタルはカチオン系又はSBR系樹脂混入のモルタルとする。
(c)工 法
(1)ひび割れの状況について確認し、補修範囲について監督員と協議する。
(2)ひび割れ部に沿って電動カッター、のみ等を用いて幅10mm程度、深さ10?15mm程度にU字型の溝を設ける。
(3)Uカット溝内部に付着しているはつり片、粉塵をワイヤーブラシ等で除去する。
(4)被着体に適したプライマを溝内部に塗り残しのないよう均一に塗布する。
(5)プライマ塗布後、ごみ、ほこり等が付着した場合又は当日充てんができない場合は再清掃し、プライマを再塗布する。
(6)プライマ塗布後、シーリング用材料を製造業者の指定する時間内に十分隅々まで行きわたるように加圧しながら充てんする。
充てんはコンクリート表面から3?5mm程度低めに充てんし、充てん後はへらで十分押え下地と密着させて表面を平滑に仕上げる。
(7)樹脂モルタルをコンクリート表面に合わせて平滑に塗込む。
(d)確 認
シーリング材の充てん状況を目視により確認する。」
(イ)「5.3.3 Uカット可撓性エポキシ樹脂充てん工法
(a) 適用範囲
コンクリート表面のひび割れ幅が1.0mm程度を越えかつ挙動が少ないと予想されるひび割れ部をUカットし、エポキシ樹脂を充てんする場合に適用する。
(b) 材 料
(1)可撓性エポキシ樹脂は、特記製造所の製品とし製造後6ヵ月以上経過したものは使用してはならない。
(2)プライマは、可撓性エポキシ樹脂の製造所の指定する製品とする。
(c) 工 法
(1)ひび割れの状況について確認し、補修範囲について監督員と協議する。
(2)ひび割れ部に沿って電動カッタ、のみ等を用いて幅10mm程度、深さ10?15mm程度にU字型の溝を設ける。
(3)Uカット溝内部に付着しているはつり片、粉塵をワイヤーブラシ等で除去する。
(4)被着体に適したプライマを溝内部に塗残しのないよう均一に塗布する。
(5)プライマ塗布後、ごみ、ほこり等が付着した場合又は当日充てんができない場合は再清掃してプライマを再塗布する。
(6)可撓性エポキシ樹脂をコンクリート表面に合わせて充てんする。
(d) 確 認
可撓性エポキシ樹脂の充てん状況を目視により確認する。」
(ウ)「5.3.4 ひび割れ部シール工法
(a) 適用範囲
コンクリート表面のひび割れ幅が0.2mm程度未満で挙動が少ないと予想されるひび割れ部の表面をシールする場合に適用する。
(b) 材 料
シール材はパテ状エポキシ樹脂等で既存の塗材、塗料等又は新規の塗材、塗料等に支障のないものとし特記製造所の製品とする。
(c) 工 法
(1)ひび割れの状況について確認し、補修範囲について監督員と協議する。
(2)ひび割れ部を中心にして幅20?30mm程度ワイヤーブラシ、シンナー等で表面の汚れ、ほこり、油等を除去し清掃する。
(3)シール材を幅10mm程度塗布する。
(4)シール材の硬化後汚れを除去する。
(d) 確 認
下地とシール材との接着性について適合性を確認する。」
(エ)「6.3.1 部分張替工法
(a) 適用範囲
外壁タイル張りのタイル陶片又はタイル張りの欠損部分、躯体コンクリー卜の劣化を含む欠損のうち構造耐力に関連しない部分、浮きのうち通常レベルの打撃力によってはく落するおそれのあるタイル陶片又はタイル張りの浮き部除去部分、ひび割れのうちタイル陶片に幅0.2mm以上のひび割れ部除去部分に、外壁タイル張り仕上げをする場合に適用する。
(b) 材 料
(1)陶磁器質タイル及び引き金物は「共通仕様書」11.1.1(a)?(e)による。
(2)張付け用材料は「共通仕様書」11.1.1(g)による。
(3)張付けモルタルの調合は「共通仕様書」11.1.2による。
(4)既製調合モルタルは十分な接着強度のあるものとし、特記製造所の仕様により監督員の承諾を受けたものとする。
(c) 工 法
(1)テストハンマを用いた通常レベルの打撃力によってはがれ、はく落のおそれのある浮き部分について確認し、欠損部その他を含めた補修範囲について監督員と協議する。
(2)欠損部周辺の脆弱部分の除去等は5.3.6(c)(2)による。
浮き部張替え部分のタイル及び張付けモルタル等の除去に先立ち、ダイヤモンドカッタ等を用いて所定の面までタイル目地に沿って切込み、健全部分と縁を切って損傷が拡大しないようにし下記による。
(i)タイル裏面と張付けモルタル界面及び張付けモルタルと下地モルタル界面での浮きについては、下地モルタル表面まで切込む。
(ii)下地モルタルと躯体コンクリート界面での浮きについては躯体コックリート表面まで切込む。
(3)浮き部張替え部分を除去する。
(4)浮き部張替え部分の切断残存部分のタイル陶片又は幅0.2mm以上のひび割れのあるタイル陶片はのみ、タガネ等で健全部分への損傷が拡大しないようにはつり取る。
(5)下地面はデッキブラシなどで十分水洗いを行いモルタル等の接着を妨げるものを取除く。
(6)下地及びタイルごしらえはタイル及び張付けモルタル等を除去したモルタル又はコンクリート面に脆弱部分がないことを確認し、仕上り厚さを考慮のうえ「共通仕様書」11.1.3(b)による。
(7)タイル張りは、仕上り厚さを考慮し「共通仕様書」11.1.3(d)による。
(8)養生その他は「共通仕様書」11.1.5による。
(d) 確 認
張替え部分の確認は面積の大小にかかわらず「共通仕様書」11.1.4による。

解 説・・・
(b)(1)張替タイルは既存の使用タイルと形状、寸法、材質の他色調も同じものを原則として選定し、タイルの裏足については接着強さを確保出来るものとする。・・・」

(4)甲第4号証の記載事項
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第4号証には、建築改修工事監理指針に関して、次の事項が記載されている。
(ア)「建築改修工事監理指針 平成14年版 (上巻)」(表紙)
(イ)「(d)養生及び清掃
・・・
(2) 清掃
タイル面の水洗いを十分に行っても清浄にならない場合は,やむを得ず酸類を用いて汚れを落とすことがある。この場合は,その周辺及び酸が流れる途中の材料を汚染あるいは腐食させることのないように,十分注意する必要がある。酸は30倍程度に希釈した工業用塩酸を用いることが多いが,酸洗い後の水洗いが特に大切であり,酸が目地に残らないように手早く入念に行う必要がある。また,濃度の高い酸で洗うと,タイル面の汚れは落ちやすくなるが,目地材が浸されるので使用してはならない。酸性フッ化アンモニウム等のフッ酸系の溶液は,溶液の濃度,使用時の条件(温度,洗浄時間)及びタイルの種類により,タイル表面を傷めることがあり,ラスタータイルはタイル表面の損傷が目立ちやすいため,特に注意する必要がある。使用を検討する場合は必ずサンプルを用いて,実際の清掃時と同じ条件で試験を行い,タイル表面の損傷の有無を確認して判断する。」(第377頁第12行?第378頁第8行)

(5)甲第5号証の記載事項
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第5号証には、建築改修工事監理指針に関して、次の事項が記載されている。
(ア)「建築改修工事監理指針(上巻)平成14年版」(表紙)
(イ)第360頁?第361頁には、「タイル張り仕上げ外壁のひび割れ部改修工法適用上のチェックポイント(その2)」の表、及び「エポキシ樹脂注入工法」「Uカットシール材充填工法」の図が記載されている。
(ウ)第365頁?第366頁には「タイル部分張り替え工法の工程別施工管理ポイント(その1)」の表が記載されている。

(6)甲第6号証の記載事項
平成23年8月撮影の写真である甲第6号証には、在来工法が写っている。

(7)甲第7号証の1,2の記載事項
撮影日不明の甲第7号証の1,2には、電動カッター及び電動カッターの使用状況が写っている。

(8)甲第8号証の記載事項
作成日不明の甲第8号証には、電動カッターを用いた目地の切断状態の説明が記載されている。

(9)甲第9号証の記載事項
平成23年11月撮影の写真である甲第9号証には、タイルクラック補修の工事が写っている。

(10)甲第10号証の記載事項
甲第10号証には、無効審判(無効2012-800015)の回答が記載されている。

2.本件特許発明と甲第1号証記載の発明との対比
本件特許発明と甲第1号証記載の発明を対比する。
(a)甲第1号証記載の発明の「タイル張り仕上げ外壁の改修に適用する工事標準仕様」は、外壁改修工事を行う方法を規定したものであるので、本件特許発明の「タイル外壁改修・補修方法」に相当し、以下同様に、
「Uカットシール材充填工程」は、「ひび割れ部に沿って・・溝を設け」て行うものであって、その後に行われる「タイルを張り付け」に対して下地となる部分に対して行われるものであるので、「当該箇所」(すなわち、補修すべき箇所)の「下地処理を行う工程」に、
「ひび割れ部に沿って電動カッター等を用いて幅10mm程度、深さ10?15mm程度にU字型の溝を設け」ることは、「ひび割れ部分に沿ってコンクリートをU形にカットし」に、
「被着体に適したプライマーを溝内部に塗残しのないよう均一に塗布」は、「U形にカットした溝内にプライマーを均一に塗布」に、
「シーリング材を隅々まで行きわたるようにコーキングガンのノズルをUカット溝に当て,加圧しながら空隙,打残しがないように充填し」「コンクリート表面から3?5mm程度低めに充填し,充填後は,へらで押え,下地と密着させて表面を落とし仕上げとし、ポリマーセメントモルタルをコンクリート表面に合わせて平滑に塗り込む」ことは、「溝内に、コンクリート表面よりも3mm?5mm低くなるようにシーリング材を充填し、前記シーリング材の上部にポリマーセメントモルタルを充填し、コンクリート表面に合うようにポリマーセメントモルタルの頂面を平滑にし」に相当する。
(b)甲第1号証記載の発明の「張替え下地面とタイル裏面の両面にポリマーセメントモルタルを塗り付け、タイルを張り付け、タイル目地詰めは、タイル張り完了後、24時間以上の養生を行った後に目地ごて又はゴムごて等を用いて目地モルタルを塗り込む」ことと、本件特許発明の「当該箇所に、除去したタイルの寸法、色、および風合いに合わせて製作したタイルを貼り、周囲の目地詰めを行う」こととは、「当該箇所に、タイルを貼り、周囲の目地詰めを行う」点で共通する。
(c)甲第1号証記載の発明の「ひび割れ部から漏水が見られる場合、ひび割れ部周辺のタイルに浮きが見られる場合又はひび割れ部から錆汁がでている場合は,事前に監督職員と協議を行う工程」と、本件特許発明の「補修しようとする建築物のタイル外壁の補修すべき箇所の調査を行う工程」とは、「補修しようとする建築物のタイル外壁の状態を認識する工程」である点で共通する。
(d)甲第1号証記載の発明の「ひび割れ周辺をダイヤモンドカッター等で健全部分と縁を切って,損傷が拡大しないようにタイル目地に沿って切り込み、タイル片は,のみ,たがね等で健全部分への損傷が拡大しないようはつり撤去する工程」と、本件特許発明の「除去しようとするタイルの周囲に位置する目地の外側に切り込みを入れて、当該タイル及び周囲の目地を除去する工程」とは、前者の「タイル目地に沿っ」た切り込みとして普通に想定される態様が目地のいずれかの部位に切り込みを入れる態様であるので、「除去しようとするタイルの周囲に位置する目地に切り込みを入れて、当該タイル及び周囲の目地を除去する工程」である点で共通する。

一致点:
そうすると、両者は、
「A:タイル外壁改修・補修方法であって、
補修しようとする建築物のタイル外壁の状態を認識する工程と、
B:除去しようとするタイルの周囲に位置する目地に切り込みを入れて、当該タイル及び周囲の目地を除去する工程と、
C:前記当該箇所の下地処理を行う工程とを含み、
D:前記下地処理工程において、ひび割れ部分に沿ってコンクリートをU形にカットし、U形にカットした溝内にプライマーを均一に塗布し、前記溝内に、コンクリート表面よりも3mm?5mm低くなるようにシーリング材を充填し、前記シーリング材の上部にポリマーセメントモルタルを充填し、コンクリート表面に合うようにポリマーセメントモルタルの頂面を平滑にし、
E:前記当該箇所に、タイルを貼り、周囲の目地詰めを行う工程を更に含むことを特徴とする方法。」
で一致し、次の点で相違する。

相違点1:本件特許発明は、タイル外壁の状態を認識するのが「補修すべき箇所の調査」で行われるのに対し、甲第1号証記載の発明は、認識手法が特定されていない点。

相違点2:本件特許発明は、タイル及び周囲の目地を除去する工程が「目地の外側」に切り込みを入れて除去するのに対し、甲第1号証記載の発明は、そのように特定されていない点。

相違点3:本件特許発明は、タイル貼りのタイルが、「除去したタイルの寸法、色、および風合いに合わせて製作したタイル」であるのに対し、甲第1号証記載の発明は、そのように特定されていない点。

相違点4:本件特許発明は、「タイル外壁のうち貼り変えたタイル以外のタイルの洗浄を行う工程」を含むのに対し、甲第1号証記載の発明は、そうでない点。


3.相違点についての判断
(1)上記相違点1について
甲第2号証記載事項(ケ)で、「調査項目」として「対象とするすべての劣化現象」を示し、「調査手法」として「目視観察 指触観察」を示しているように、改修工事において、施工前の状態を認識する行為を、所謂「調査」と称して実施することが普通のことであることを考慮すると、甲第1号証記載の発明の「ひび割れ部から漏水が見られる」、「ひび割れ部周辺のタイルに浮きが見られる」、「ひび割れ部から錆汁がでている」状態の認識を行う行為は、実質的に補修すべき箇所の調査といえるものであり、相違点1は実質的には相違しない。

(2)上記相違点2について
ア.構成要件Bに関しての両当事者の主張
(ア)請求人は、平成25年3月26日付け口頭審理陳述要領書、同年4月9日の口頭審理等で、
(a)構成要件Bの「目地の外側に切り込みを入れる」ことも、甲1の「目地に沿って切り込む」の範囲に含まれる。
(b)目地の切り込みは、作業者が現場の目地の状態に合わせて、最良の位置に切り込みを入れて行う人的な作業であるから、「目地の外側に沿って切り込みを入れる」ことに困難性はない。
(c)「目地の外側に沿って切り込みを入れると工事完了後に切り込みが目立たない」という効果は生じない。
と主張している。
(イ)一方、被請求人は、平成25年3月23日付け口頭審理陳述要領書、同年4月9日の口頭審理等で、
「切断刃を目地の外縁に近づけすぎると電動カッターの振動により健全なタイルを傷つける恐れがある」としても、本件特許発明は、甲第8号証の1の様に、目地の中央部分を電動カッターで切り込みを入れるのではなく、「目地の外側に沿って切り込みを入れ」るものである。
と主張している。

イ.相違点2の容易想到性の検討
(a)まず、構成要件Bの「目地の外側に切り込みを入れる」ことは、本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第1?4号証のいずれにも記載されておらず、その他の甲号証を見ても、構成要件Bの「目地の外側に切り込みを入れる」ことが、本件特許出願前に周知、若しくは、公然知られていたということはできないし、本件特許出願前に「目地の外側に切り込みを入れる」ことの示唆があったことを示すものでもない。
(b)甲第1号証記載の発明の「ひび割れ周辺をダイヤモンドカッター等で健全部分と縁を切って,損傷が拡大しないようにタイル目地に沿って切り込み」は、構成要件Bの「目地の外側に切り込みを入れる」ことでも、それとは異なる、目地の中央部分で切り込みを入れることでもなし得ることであるが、切断刃を目地の外縁に近づけすぎると、電動カッターの振動により健全なタイルを傷つける恐れがあるうえ、上述のように「目地の外側に沿って切り込みを入れ」ることが開示も示唆もない以上、あえて「目地の外側に沿って切り込みを入れ」るとの着想に至ることができたものとはいえない。
(c)請求人は、平成25年3月26日付け口頭審理陳述要領書第4頁iii)の「目地全体に新しいモルタルを埋めていくものであり、目地の切り込みが残存することはない」旨主張しており、該主張は、目地全体に新しいモルタルを埋めることを前提とするものであるところ、「目地の中央部分で切り込みを入れる」ものでは、目地全体に新しいモルタルを埋めるために、切り込みを入れた後に、さらに、その外側の目地を除去する工程を必要とすると考えられるのに対して、構成要件Bの「目地の外側に切り込みを入れる」ものでは、一応そのような工程を要しないものと考えられ、両者は、作用効果においても差異を有する。
なお、甲第7号証の2には、目地の外側に沿って電動カッターで切り込みを入れたものが写っているが、撮影日不明であるので本願特許出願日前に目地の外側に沿って切り込みを入れることが公知であったということはできない。
(d)そうすると、第1?10号証のすべてを参酌しても、甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証及び甲第4号証に基づいて、本件特許発明の相違点2に係る発明特定事項とすることが当業者が容易に想到し得たということはできない。

(3)上記相違点3について
甲第1号証記載の発明の「張替え下地面とタイル裏面の両面にポリマーセメントモルタルを塗り付け、タイルを張り付け、タイル目地詰めは、タイル張り完了後、24時間以上の養生を行った後に目地ごて又はゴムごて等を用いて目地モルタルを塗り込む」は、記載事項(カ)の「タイルの部分的な張替え」であることを前提とするものである。
そして、甲第3号証記載事項(エ)に「張替タイルは既存の使用タイルと形状、寸法、材質の他色調も同じものを原則として選定し・・」と記載されているように、特段の事情がない限り、タイルの部分的な張替え前のタイルと同じ性質のものを使用するのが通常であるので、甲第1号証記載の発明の「タイルを張り付け」のタイルは、実質的に除去したタイルの寸法、色、および風合いに合わせて製作したタイルといえ、相違点3は実質的には相違しない。

(4)上記相違点4について
(a)まず、甲第1号証記載事項(キ)には、「タイル張り終了後,タイル表面を・・清掃し・・」と記載されており、甲第1号証記載の発明においても、工事完了後の外観が綺麗であることは一般的に望ましいことと認識できるので、甲第1号証記載の発明に、さらに一般的な清掃工程を付加することは当業者が容易に想到しえることである。
(b)さらに、例えば、甲第4号証記載事項(イ)に「清掃」に関して「タイル面の水洗いを十分に行っても清浄にならない場合は,やむを得ず酸類を用いて汚れを落とすことがある。」と記載されているように、水洗いや酸洗い等の「洗浄」が、タイル張り後の清掃として周知慣用のものであること、及び、通常の掃除もそうであるように、清掃対象箇所を局部に限定せず、その周辺も含めて全体的に清掃することも、通常に行われていることであり、かつ、甲第1号証記載の発明において「貼り変えたタイル以外のタイル」を清掃対象とすることに特段の技術的な支障が存在するようなものでもないことを考慮すると、甲第1号証記載の発明に、甲第1号証記載事項(キ)記載の清掃工程を付加するとともに、清掃を周知慣用の洗浄とし、清掃を周辺も含めて行うものとして、本件特許発明の相違点4に係る発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たことである。

(5)まとめ
したがって、本件特許発明は、甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証及び甲第4号証に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

第5 むすび
以上のとおり、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件特許発明の特許を無効とすることができない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-05-17 
結審通知日 2013-05-21 
審決日 2013-06-14 
出願番号 特願2005-97385(P2005-97385)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (E04G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 油原 博  
特許庁審判長 高橋 三成
特許庁審判官 筑波 茂樹
中川 真一
登録日 2010-11-19 
登録番号 特許第4628842号(P4628842)
発明の名称 タイル外壁改修・補修方法  
代理人 田中 二郎  
代理人 杉山 誠二  

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