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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C07C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07C
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C07C
管理番号 1277363
審判番号 不服2009-25941  
総通号数 165 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-12-28 
確定日 2013-07-31 
事件の表示 特願2005-141121「高汚染メチレンジアニリンの水素化方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年12月2日出願公開、特開2005-330279〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成17年5月13日〔パリ条約による優先権主張 2004年5月19日 (US)米国〕の出願であって、
平成20年10月2日付けの拒絶理由通知に対し、平成21年4月7日付けで意見書及び手続補正書の提出がなされ、
平成21年8月24日付けの拒絶査定に対し、平成21年12月28日に審判請求がなされるとともに手続補正書の提出がなされ、
平成23年8月29日付けの審尋に対し、平成24年2月28日付けで回答書の提出がなされ、
平成24年5月14日付けの審尋に対し、平成24年11月15日付けで回答書の提出がなされたものである。

第2 平成21年12月28日付け手続補正についての補正の却下の決定
〔補正の却下の決定の結論〕
平成21年12月28日付け手続補正を却下する。

〔理由〕
1.補正の内容
平成21年12月28日付け手続補正(以下、「第2回目の手続補正」という。)は、補正前の請求項1の
「担体に担持されたロジウムおよびルテニウムを含む触媒系の存在下で、メチレンジアニリンと水素を接触させることにより、メチレンジアニリンをその環水素化対象物へ接触水素化させる方法において、少なくとも40質量%の多環オリゴマー不純物を有するメチレンジアニリン原料を使用すること、そしてアルミン酸リチウム担体上に担持されたロジウムおよびルテニウムを含む触媒系の存在下で水素化を実施することを特徴とする接触水素化方法。」
との記載を、補正後の請求項1の
「担体に担持されたロジウムおよびルテニウムを含む触媒系の存在下で、メチレンジアニリンと水素を接触させることにより、メチレンジアニリンをその環水素化対象物へ接触水素化させる方法であって、少なくとも40質量%の多環オリゴマー不純物を有するメチレンジアニリン原料を使用すること、そしてアルミン酸リチウム担体上に担持されたロジウムおよびルテニウムを含む触媒系の存在下で水素化を実施すること、ここで、前記触媒系において、ルテニウムに対するロジウムの質量比が、ルテニウム1質量部に対してロジウムが6?15質量部である、を特徴とする接触水素化方法。」
との記載に改める補正を含むものである。

2.補正の適否
(1)はじめに
上記請求項1についての補正のうち、補正前の請求項1の「実施することを特徴とする」との記載部分を、補正後の請求項1の「実施すること、ここで、前記触媒系において、ルテニウムに対するロジウムの質量比が、ルテニウム1質量部に対してロジウムが6?15質量部である、を特徴とする」との記載に改める補正については、
補正前の請求項2の「触媒系において、ルテニウムに対するロジウムの質量比が、ルテニウム1質量部に対しロジウムが1?20質量部であることを特徴とする請求項1に記載の方法。」との記載からみて、
実質的に(補正前の請求項1を削除した上で)、補正前の請求項1を引用する従属形式で記載された請求項2を独立形式での記載に改めて補正後の請求項1にするとともに、
補正前の請求項2に記載されていた「ルテニウムに対するロジウムの質量比が、ルテニウム1質量部に対しロジウムが1?20質量部である」という事項に対応する発明特定事項の数値範囲を、補正前の「1?20質量部」から補正後の「6?15質量部」に限定的に減縮するものであって、
なおかつ、当該減縮により補正前後の当該請求項に係る発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が変更されるものでもないことから、
平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮(第三十6条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」を目的とするものに該当する。
そこで、補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下、「補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか否か)について以下に検討する。

(2)サポート要件について
平成24年5月14日付けの審尋の『本願明細書の段落0029の「評価のため使用した粗MDA-60の典型的なサンプルは、…少なくとも40質量%の多環オリゴマー不純物が存在する余地がないように思料されます。…ついては、審尋事項(あ)として、補正後の請求項1の記載が、特許法第36条第6項第1号のサポート要件を満たし、独立特許要件を満たし得ることを説明してください。』との指摘に対して、
平成24年11月15日付けの回答書においては『[審尋事項(あ)について]…なお、本件審判請求人は、請求項1に記載の発明をより明確とするために、以下の補正を行う準備もございます(下線は、上記補正案の請求項1からの変更点です)。[請求項1’]…少なくとも38.7質量%の多環オリゴマー不純物と、0.2?0.6質量%のホルムアミド副生成物とを有するメチレンジアニリン原料を、アルミン酸リチウム担体上に担持されたロジウムおよびルテニウムを含む触媒系の存在下で水素化するステップ、…を含む、前記方法。』との釈明がなされている。
しかしながら、補正発明は「少なくとも40質量%の多環オリゴマー不純物を有するメチレンジアニリン原料を使用する」という事項を発明特定事項とするものであって、上記回答書の「少なくとも38.7質量%の多環オリゴマー不純物と、0.2?0.6質量%のホルムアミド副生成物とを有するメチレンジアニリン原料」という事項を発明特定事項とするものではない。
そして、一般に『特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり,明細書のサポート要件の存在は,特許出願人…が証明責任を負うと解するのが相当である。』とされているところ〔平成17年(行ケ)10042号判決参照。〕、
本願明細書の発明の詳細な説明に記載された『例1、比較例2、比較例3及び例4で用いられたメチレンジアニリン原料であるMDA-60』は、本願明細書の段落0029の記載にあるように『61.3%のMDAと38.7%の不純物(38.1%の多環オリゴマー不純物と0.6%のホルムアミド副生物)を含むもの』であって、補正発明の「少なくとも40質量%の多環オリゴマー不純物を有するメチレンジアニリン原料を使用する」という発明特定事項を満たすものではないから、
補正後の請求項1の記載は、発明の詳細な説明の記載により当業者が補正発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められない。
また、本願出願時の技術水準について、例えば、平成24年5月14日付けの審尋において提示した本願優先権主張日前に頒布された刊行物である文献3(特開平6-122754号公報)の段落0020?0021の「約15?50重量%の3環及びそれより大きい分子量のオリゴマーを含み、残りはメチレンジアニリンである…粗製のメチレンジアニリン」との記載や、同じく文献4(特開昭53-65861号公報)の第8頁左下欄第17行?右下欄第5行の「63.9重量%のメチレンジアニリン(MDA)および35.4重量%のポリ-MDA…からなる供給混合物」との記載からみて、メチレンジアニリン原料に含まれる「多環オリゴマー不純物」の量として『約15?50重量%』の数値範囲は、既に当業者にとって普通一般の常識的な許容量になっていたものと解し得るが、
このような普通一般の常識的な許容量を斟酌しても、補正発明の「多環オリゴマー不純物」の量の全ての範囲(すなわち『約51?99重量%』の数値範囲を含む全ての範囲)にまで補正発明を一般化し得る科学的な根拠は見当たらないので、
補正後の請求項1の記載は、当業者が出願時の技術常識に照らし補正発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められない。
したがって、補正後の請求項1の記載は、特許を受けようとする発明の全てが、補正後の本願明細書の発明の詳細な説明に記載した範囲内のものであるとは認められないから、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、第2回目の手続補正により補正された場合の特許出願は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていないので、補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

(3)進歩性について
ア.引用例及び周知例並びにその記載事項
(ア)引用例1(特開2001-314767号公報)
平成20年10月2日付けの拒絶理由通知書において「引用例1」として引用(原査定において「刊行物1」と表記)された本願優先権主張日前に頒布された刊行物である上記「引用例1」には、次の記載がある。

摘記1a:請求項1、5?6及び10
「【請求項1】混合金属担体上に担持されたロジウム触媒の存在下で芳香族アミンを水素と接触することにより、水素化された環状の対応物へと芳香族アミンを接触水素化する方法であって、リチウムアルミネート担体上に担持されたロジウムからなる触媒を利用することにより水素化を実施することからなる改良された接触水素化方法。…
【請求項5】触媒がリチウムアルミネート担体上に担持されたロジウムおよびルテニウムからなる請求項4に記載の方法。
【請求項6】ロジウムとルテニウムとの重量比が1?20:1である請求項5に記載の方法。…
【請求項10】アミンがメチレンジアニリンである請求項9に記載の方法。」

摘記1b:段落0012及び0017
「好ましい触媒については、ロジウムとルテニウムとの重量比が約1?20:1であり、望ましくは担体上のロジウム重量部/ルテニウム重量部が6?12であるように触媒に添加される。…
芳香族アミン、そして特に、15?20重量%のオリゴマーを含有し、しばしばMDA85と称される粗メチレンジアニリンを低い水素化分圧で環水素化して、優れた反応速度および選択性とを同時に達成する一方、摩滅損耗を最小にする能力は、特定の触媒系の利用によって実現される。担体としてのリチウムアルミネートは、メチレンジアニリンでそうであるように思われる、汚染性のオリゴマーの存在下で芳香族アミンを水素化する能力を付与する。」

摘記1c:段落0026?0028
「実施例8 MDA水素化の比較 一般的な水素化手順 この作業のために300ccのオートクレーブバッチ反応器を使用した。すべての操作を180℃および850psigの水素圧力で実施した。溶媒はTHFであった。メチレンジアニリン(MDA)供給物は97%MDAとTHFとの50/50混合物であった。水素の物質移動の限界を最小にするために、1500rpmで撹拌して水素化反応をすべて実施した。このプロセスでは、反応器内で0.08gのRu/Al_(2)O_(3)とともに0.67gの所望の触媒を予め還元した。次いで100gのMDA/THF供給物を反応器に移した。系を閉鎖し、漏れをチェックし、窒素で3回パージし、次に水素で3回パージした。次いで反応器を水素で850psigに加圧し、撹拌しつつ180℃に加熱した。(水素圧力を1000psig以下に低下することなく反応に必要な水素をすべて供給するのに十分なようにバラストの体積および水素圧力が選ばれる。)
水素の消費速度が<2psig/分に低下した時、またはバラスト圧力が予め決めた水準に達した時、加熱を停止しまた水素供給管を閉じることにより反応を停止した。反応器が室温に達したらすぐに、残留する水素を排気し、2μのフィルターがある装入管を通じ100psigの窒素下で濾過によって生成物を収集した。…
表1は先行技術の触媒との比較を含めて、一連の水素化操作に関する条件および結果を示す。いくつかの場合、触媒寿命を決定するために触媒を再使用した。従って、これらの操作を数字でラベル化した。…
表1 180℃、水素圧力850psig、MDAの重量に対する触媒装荷率1.5重量%での50%MDA/THFの水素化…
操作 触媒^(a)) …
4 3%Rh/LiAl_(5)O_(8) …
a)Rh:Ru比が10:1であるように5%Ru/Al_(2)O_(3)を添加した。」

(イ)周知例A(特開平6-122754号公報)
平成24年5月14日付けの審尋において「文献3」として提示した本願優先権主張日前に頒布された刊行物である上記「周知例A」には、次の記載がある。

摘記A1:段落0020?0021
「アニリンの縮合によって得られる粗製の反応生成物は、一般に、約15?50重量%の3環及びそれより大きい分子量のオリゴマーを含み、残りはメチレンジアニリンである。…粗製のメチレンジアニリン…の水素化は、水素化触媒を使用して良く知られた方法によって実施することができる。典型的には、ルテニウム若しくはロジウム触媒またはこれらの二つの触媒の混合物が、水素化を実施するために使用される。」

(ウ)周知例B(特表平10-506386号公報)
平成24年5月14日付けの審尋において「文献5」として提示した本願優先権主張日前に頒布された刊行物である上記「周知例B」には、次の記載がある。

摘記5a:第4頁の図




摘記5b:第11頁下から15?4行
「ルテニウム、ロジウム…の如き貴金属…の混合物…の…不活性支持体上の金属自身が、水素化工程に使用可能である。…好適な担体材料はアルミナである。…水素化工程で触媒系の高活性度を維持するために、触媒の貴金属成分を水酸化リチウム調整する。」

イ.引用例1に記載された発明
摘記1aの「混合金属担体上に担持されたロジウム触媒の存在下で芳香族アミンを水素と接触することにより、水素化された環状の対応物へと芳香族アミンを接触水素化する方法であって、リチウムアルミネート担体上に担持されたロジウムからなる触媒を利用することにより水素化を実施することからなる改良された接触水素化方法。…ロジウムとルテニウムとの重量比が1?20:1である請求項5に記載の方法。…アミンがメチレンジアニリンである請求項9に記載の方法。」との記載、
摘記1bの「好ましい触媒については、…望ましくは担体上のロジウム重量部/ルテニウム重量部が6?12であるように触媒に添加される。…芳香族アミン、そして特に、15?20重量%のオリゴマーを含有し、しばしばMDA85と称される粗メチレンジアニリンを低い水素化分圧で環水素化して、優れた反応速度および選択性とを同時に達成する一方、摩滅損耗を最小にする能力は、特定の触媒系の利用によって実現される。担体としてのリチウムアルミネートは、メチレンジアニリンでそうであるように思われる、汚染性のオリゴマーの存在下で芳香族アミンを水素化する能力を付与する。」との記載からみて、引用例1には、
『混合金属担体上に担持されたロジウムおよびルテニウムからなる触媒の存在下で、芳香族アミン(メチレンジアニリン)を水素と接触することにより、芳香族アミン(メチレンジアニリン)を水素化された環状の対応物へと接触水素化する方法であって、芳香族アミン(メチレンジアニリン)は15?20重量%のオリゴマーを含有する粗メチレンジアニリンであり、リチウムアルミネート担体上に担持されたロジウムおよびルテニウムからなる触媒を利用することにより水素化を実施することからなり、ロジウムとルテニウムとの重量比が6?12:1である改良された接触水素化方法。』についての発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

ウ.対比
補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「混合金属担体上に担持されたロジウムおよびルテニウムからなる触媒の存在下で」及び「リチウムアルミネート担体上に担持されたロジウムおよびルテニウムからなる触媒を利用することにより水素化を実施する」は、補正発明の「担体に担持されたロジウムおよびルテニウムを含む触媒系の存在下で」及び「アルミン酸リチウム担体上に担持されたロジウムおよびルテニウムを含む触媒系の存在下で水素化を実施する」に相当し、
引用発明の「芳香族アミン(メチレンジアニリン)を水素と接触することにより」、「芳香族アミン(メチレンジアニリン)」、「水素化された環状の対応物」及び「接触水素化する方法」は、補正発明の「メチレンジアニリンと水素を接触させることにより」、「メチレンジアニリン」、「その環水素化対象物」及び「接触水素化させる方法」に相当し、
引用発明の「15?20重量%のオリゴマーを含有する粗メチレンジアニリン」と、補正発明の「少なくとも40質量%の多環オリゴマー不純物を有するメチレンジアニリン原料」は、『多環オリゴマー不純物を有するメチレンジアニリン原料』の点で共通し、
引用発明の「ロジウムとルテニウムとの重量比が6?12:1である」は、補正発明の「前記触媒系において、ルテニウムに対するロジウムの質量比が、ルテニウム1質量部に対してロジウムが6?15質量部である」に相当し、
引用発明の「接触水素化方法」は、補正発明の「接触水素化方法」に相当する。

してみると、補正発明と引用発明は『担体に担持されたロジウムおよびルテニウムを含む触媒系の存在下で、メチレンジアニリンと水素を接触させることにより、メチレンジアニリンをその環水素化対象物へ接触水素化させる方法であって、多環オリゴマー不純物を有するメチレンジアニリン原料を使用すること、そしてアルミン酸リチウム担体上に担持されたロジウムおよびルテニウムを含む触媒系の存在下で水素化を実施すること、ここで、前記触媒系において、ルテニウムに対するロジウムの質量比が、ルテニウム1質量部に対してロジウムが6?15質量部である接触水素化方法。』に関するものである点において一致し、
メチレンジアニリン原料として、補正発明は「少なくとも40質量%の多環オリゴマー不純物を有するメチレンジアニリン」を使用するのに対して、引用発明は「15?20重量%のオリゴマーを含有する粗メチレンジアニリン」を使用するものである点においてのみ相違する。

エ.判断
上記相違点について検討する。
まず、例えば、上記周知例Aの「アニリンの縮合によって得られる粗製の反応生成物は、一般に、約15?50重量%の3環及びそれより大きい分子量のオリゴマーを含み、残りはメチレンジアニリンである。…粗製のメチレンジアニリン…の水素化は、水素化触媒を使用して良く知られた方法によって実施することができる。典型的には、ルテニウム若しくはロジウム触媒またはこれらの二つの触媒の混合物が、水素化を実施するために使用される。」との記載(摘記A1)にあるように、
本願優先権主張日前の技術水準において『約15?50重量の3環以上のオリゴマーを含む粗製のメチレンジアニリンの水素化』を『ルテニウム及びロジウムの二つの触媒の混合物を水素化触媒として使用することによって実施することができる』ことは、当業者にとって「通常の知識」の範囲内の技術常識にすぎないものと認められるから、
補正発明の「少なくとも40質量%の多環オリゴマー不純物を有する」という汚染度については、本願優先権主張日前の技術水準において普通に想定される程度の汚染度にすぎないものと認められる。

そして、例えば、上記周知例Bの「メチレンジアニリンの水素化」との記載(摘記B1)及び「ルテニウム、ロジウム…の如き貴金属…の混合物…好適な担体材料はアルミナである。…水素化工程で触媒系の高活性度を維持するために、触媒の貴金属成分を水酸化リチウム調整する。」との記載(摘記B2)や、
引用例1の「担体としてのリチウムアルミネートは…汚染性のオリゴマーの存在下で芳香族アミンを水素化する能力を付与する。」との記載(摘記1b)にあるように、
メチレンジアニリンの水素化工程に用いる触媒系の技術分野において、水酸化リチウムで処理したアルミネート担体(アルミン酸リチウム担体)を用いるという慣用手段、及び/又は、ルテニウムとロジウムを組み合わせた触媒を用いるという慣用手段、を採用することによって、触媒系の高活性度が維持され、汚染性のオリゴマーの存在下であっても芳香族アミン(メチレンジアニリン)を水素化できるようになることは、
引用例1に記載されるように刊行物公知になっていたのみならず、本願優先権主張日前の技術水準において、当業者にとって「通常の知識」の範囲内の技術常識になっていたものと認められる。

してみると、引用発明の『リチウムアルミネート担体上に担持されたロジウムおよびルテニウムからなる触媒(ロジウムとルテニウムとの重量比が6?12:1)』を利用した場合に、
引用発明の「15?20重量%のオリゴマーを含有する粗メチレンジアニリン」よりも、さらに汚染度の高い「汚染性のオリゴマー」が存在した場合であっても、芳香族アミン(メチレンジアニリン)を水素化し得るであろうことは、引用例1(刊行物1)の記載に接した当業者であれば、容易に予測可能なことでしかなく、
原査定の『なお、出願人は刊行物1で実際に接触水素化されているのは、実施例8に記載されるように、3%の不純物を含む原料にすぎず、大量の不純物を含む場合については記載も示唆もされていないと主張するが、上記したように、刊行物1の【0017】には、3%よりもさらに多い15?20%の不純物についても反応が進行することが明記されているから、さらにすすんで40%の不純物を含有する場合についても試みることに格別の困難性は見出せない。』との判断は妥当なものである。

次に、補正発明の効果について検討するに、上記『第2 2.(2)』において指摘したように、補正後の本願明細書の「例1」及び「例4」の具体例は、補正発明の実施例に相当しないところ、補正後の本願明細書の発明の詳細な説明の記載によっては、引用例1に記載された「汚染性のオリゴマーの存在下で芳香族アミンを水素化する能力を付与する。」という効果を超える格別予想外の顕著な効果があると認めるに至らない。

したがって、補正発明は、引用例1に記載された発明(並びに引用例1及び周知例A?Bに記載された本願優先権主張日前における技術常識)に基づいて、当業者(補正発明の属する技術の分野における「通常の知識」を有する者)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

オ.審判請求人の主張について
平成24年11月15日付けの回答書の『[審尋事項(え)について]…文献1及び3?5は、いずれも0.2?0.6質量%のホルムアミド副生成物を有する原料を水素化することは、記載も示唆もしておらず、文献1及び3?5をいかに組み合わせた場合であっても、当業者は、補正案の請求項1に記載の発明を想到せず、そして補正案の請求項1に記載の発明は、文献1及び3?5と比較して、顕著な作用効果を有し、補正案の請求項1に記載の発明は、進歩性を有するものと思料します。』との主張について、
補正発明は「0.2?0.6質量%のホルムアミド副生成物を有する原料を水素化すること」という事項に対応する事項を発明特定事項とするものではないから、当該主張は採用できない。

3.まとめ
以上総括するに、補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないから、上記請求項1についての補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、第2回目の手続補正は、その余のことを検討するまでもなく、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、〔補正の却下の決定の結論〕のとおり決定する。

第3 本願発明について
1.本願発明
第2回目の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?14に係る発明は、平成21年4月7日付けの手続補正により補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?14に記載された事項により特定されるとおりのものと認める。

2.原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は「この出願については、平成20年10月2日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって、拒絶をすべきものです。」というものであって、
平成20年10月2日付けの拒絶理由通知書には「この出願の請求項1?14に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」との理由が示されるとともに、
その「記」には「引用例1には、多環オリゴマー不純物の含有量が15?20重量%である他は本願発明と軌を一にする発明が記載されている。そして、このように引用例1記載の発明は多環オリゴマーが含有された原料も接触水素化できるものであるから、その多環オリゴマーの含有比率が高いものであってもなお、接触水素化できることは当業者が容易に想到できることに過ぎない。」との指摘が示されるとともに、
その「引用例1」として、上記『第2 2.(3)ア.(ア)』に示したとおりの「特開2001-314767号公報」が引用されている。
また、原査定においては『なお、出願人は刊行物1で実際に接触水素化されているのは、実施例8に記載されるように、3%の不純物を含む原料にすぎず、大量の不純物を含む場合については記載も示唆もされていないと主張するが、上記したように、刊行物1の【0017】には、3%よりもさらに多い15?20%の不純物についても反応が進行することが明記されているから、さらにすすんで40%の不純物を含有する場合についても試みることに格別の困難性は見出せない。』との判断が示されている。

3.引用例1の記載事項、引用発明、及び対比・判断
引用例1(刊行物1)の記載事項は、上記『第2 2.(3)』の「ア.引用例及び周知例並びにその記載事項」の項に示したとおりであり、
引用例1には、上記『第2 2.(3)』の「イ.引用例1に記載された発明」の項に示したとおりの「引用発明」が記載されている。
しかして、本願請求項1に係る発明は、上記『第2 2.(3)』の「ウ.対比」及び「エ.判断」の項において検討した「補正発明」を包含するものであるから、本願請求項1に係る発明は、引用例1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.まとめ
以上総括するに、本願請求項1に係る発明は、引用例1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
したがって、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-02-27 
結審通知日 2013-03-05 
審決日 2013-03-18 
出願番号 特願2005-141121(P2005-141121)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C07C)
P 1 8・ 537- Z (C07C)
P 1 8・ 121- Z (C07C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山田 泰之菅原 洋平井上 千弥子  
特許庁審判長 中田 とし子
特許庁審判官 木村 敏康
村守 宏文
発明の名称 高汚染メチレンジアニリンの水素化方法  
代理人 小林 良博  
代理人 古賀 哲次  
代理人 石田 敬  
代理人 小野田 浩之  
代理人 青木 篤  
代理人 蛯谷 厚志  

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