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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1277433
審判番号 不服2010-9543  
総通号数 165 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-05-06 
確定日 2013-07-30 
事件の表示 特願2000-541318「アスペルギルス・ニドゥランス(Aspergillusnidulans)デルタ-9CoAデサチュラーゼの発現による植物の脂肪酸組成の改変」拒絶査定不服審判事件〔平成11年10月 7日国際公開、WO99/50430、平成14年 9月10日国内公表、特表2002-529049〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.出願の経緯・本願発明
本願は、1999(平成11)年3月29日を国際出願日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1998年3月30日 米国)とする出願であって、その請求項3に係る発明は、平成21年4月13日付手続補正書により補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項3に記載された以下のとおりのものである。

「【請求項3】配列番号:6のタンパク質をコードする単離された核酸。」(以下、「本願発明」という。)

2.引用例
(1)引用例3
原査定の拒絶の理由で引用文献3として引用された本願優先日前の1995年に頒布された刊行物であるLipids(1995)Vol.30,No.10,p.899-906(以下、「引用例3」という。)には、以下の事項が記載されている。
(i)「要旨:我々は、動物細胞や微生物において膜の流動性の調節に関与している重要な酵素をコードしている、Δ^(9)-デサチュラーゼ遺伝子(Ole1)を、ヒストプラズマ・カプスラツム(Histoplasma capsulatum)の2株、1つは温度耐性のもの(G217B)で、もう1つは温度感受性のもの(Downs)、から単離し、特徴を調べた。これらの病原性真菌は、保温温度を25℃から37℃へと切り替えた時、または感受性のある宿主に感染した時、それらが菌糸から酵母様の形態へと形態学的な転換を経るという意味で、二形性である。該2つの遺伝子のコード配列は、いずれも93塩基のイントロンを1つ含んでおり、サッカロマイセス・セルビシエ(Saccharomyces cervisiae)のΔ^(9)-デサチュラーゼ遺伝子や、ラット、マウスおよびヒトの該遺伝子と、実質的に同一であり、類似であった。」(第899頁要旨欄第1行?第13行)
(ii)「動物や真菌の細胞では、不飽和脂肪酸は、親油性ミクロソームの酵素である脂肪酸デサチュラーゼによって作られる。Δ^(9)-デサチュラーゼ遺伝子の産物は、飽和脂肪酸を不飽和脂肪酸へと変換するための主要な酵素であり、パルミトレイル酸(16:1)またはオレイン酸(18:1)を作るために、パルミチン酸(16:0)またはステアリン酸(18:0)-CoAの炭素9と炭素10の間に、最初の二重結合を導入することを担っている。」(第900頁左欄第15行?第21行)
(iii)「分子クローニング。 該Δ^(9)-デサチュラーゼ遺伝子は、クローン化された遺伝子(S.セルビシエとラット)間で保存されている2つの領域に相当する、2つの合成の縮重オリゴデオキシヌクレオチドを用いたG217B株のゲノムDNAのポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅によって、クローン化した。該2つの配列5'-ACNGCNGGNTAYCAYMGNYTNTGG-3'および5'-TTYTTNARRTCRTANGCNARNCC-3'は、アミノ酸配列TAGYHRLWおよびGLAYDLKKに相当する。」(第900頁右欄第24行?第31行)
(iv)「熱耐性G217B株のΔ9脂肪酸デサチュラーゼ遺伝子のクローニング。ゲノムDNAは、クローン化されたΔ^(9)-デサチュラーゼ遺伝子の2つの保存領域に相当する、2つの合成縮重オリゴヌクレオチドを用いたPCRによって増幅された。PCR増幅によって得られた651塩基の断片は、まず配列決定され、続いて、全長のOle1とそのフランキング配列をG217株のゲノムλDASHライブラリから単離するためのプローブとして、使用された。ストリンジェントな条件下で、PCRプローブを用いたハイブリダイズによって、約10^(5)個の組換えファージが、スクリーニングされた。見つかった7つの陽性クローンのうち、1つがpUC18ベクター中にサブクローン化され、解析された。H.カプスラーツムのG217B株のOle1遺伝子の全長塩基配列が決定された(GenBankアクセッション番号X85962, ヘイデルブルグ)翻訳される断片の配列解析により、G218B株Ole1遺伝子が、1431塩基の最初のATGから始まる1つのオープンリーディングフレーム(ORF)を含み、該ORFは93塩基の1つのイントロンで中断されていることが明らかにされた。」(第901頁左欄下から第14行?右欄第4行)
(v)「Drown株はG217Bからクローニングされたものと同じ位置に、93塩基のイントロンを含んでいる。両ORFは約53,700 Daのタンパク質をコードしている。代表的なタンパク質配列データベース(PIRProtein、公開第36号)での検索では、S.セルビシエ(72%相同性、49%同一)、ラット(それぞれ55.3と31.5%)、マウス(それぞれ56と34%)、ヒト(それぞれ57と34%、ただし、ヒト遺伝子は一部のみクローン化されたもの)という有意な類似性を示した。比較は、GCG配列解析プログラムGapを用いて行われた。高度に保存されたアミノ酸の長い連続する範囲が、例えば28アミノ酸中25が同一であるH.カプスラーツムのアミノ酸270と298の間や、S.セルビシエのアミノ酸330と358の間のように存在しており、このことは我々がクローン化した配列がΔ^(9)-デサチュラーゼと一致することを示している。(図1)」(第901頁右欄第23行?第37行)
そして、第902頁の図1には、5つの由来の異なるΔ^(9)-デサチュラーゼのアミノ酸配列のアライメントが示されており、図1の脚注には「ヒストプラズマ・カプスラーツム(H.C.)、サッカロマイセス・セルビシエ(S.C.)、ラット、マウス(mus)およびヒト(hum)の、Δ^(9)-デサチュラーゼ遺伝子産物のアミノ酸配列の比較解析。四角は、高度に保存されたヒスチジン残基を示している。小文字はH.C.のタンパク質のアミノ酸残基とは同一でない残基を示している。」と記載されている。

(2)引用例2
原査定の拒絶の理由で引用文献2として引用された本願優先日前の1983年に頒布された刊行物であるIndian J Exp Biol.(1983)Vol.21, No.6,p.339-342(以下、「引用例2」という。)には、以下の事項が記載されている。
(vi)「N-Methyl-N'-nitro-N-nitrosoguanidine(MNNG)を変異原として使用して、Δ^(9)-デサチュラーゼ酵素活性が部分的に欠けている、3つの不飽和脂肪酸(Ufa)要求株がA. ニデュランス(nidulans)IMI72731から単離された。単離されたUfa変異株の比較解析は、変異が、1点にだけ影響していることを示していた。Ufa変異株の増殖は、CD最少培地または、脂肪酸を添加されたCD最少培地で研究された。16:1Δ^(9)cis、18:1Δ^(9)cis、18:2Δ^(9,12)cis, cisおよび18:3Δ^(9、12、15)cis, cis, cisの存在下における、単離されたUfa変異株の最大の増殖は、14:1Δ^(9)以外の、Δ^(9)cis二重結合を含む不飽和脂肪酸が増殖のために必要であったことを、示している。[1-^(14)C]パルミトイル-CoAを使用した、野生型と変異株のミクロソームにおけるデサチュラーゼ活性の分析によってさらに特徴付けられたUfa変異株は、Ufa変異株がΔ^(9)-デサチュラーゼ活性を部分的に失っていることを示している。パルミトレイン酸濃度変数に対する、1日あたりの増殖倍率もまた、調べられた。」(第339頁要旨欄)
そして、第342頁の表4には、[1-^(14)C]パルミトイル-CoAを使用して測定した、アスペルギルス・ニドゥランス野生型及びUfa変異株のミクロソーム中のΔ^(9)-デサチュラーゼ活性の比活性が記載され、野生型の比活性が3倍であることが示されている。

3.対比・判断
(1)本願発明について
本願発明の「配列番号:6のタンパク質」とは、本願明細書の段落【0039】の記載から「アスペルギルス・ニドゥランスからのパルミチル-CoA Δ-9デサチュラーゼ」であり、アスペルギルス・ニドゥランス(以下、「A.ニドゥランス」という。)は真菌の子嚢菌門に属するカビの一種であるから、本願発明は「真菌の子嚢菌門に属するA.ニドゥランス由来のパルミチル-CoA Δ-9デサチュラーゼをコードする単離された核酸」であると認められる。

(2)対比
引用例3記載事項(ii)には、Δ^(9)-デサチュラーゼが、パルミチン酸(16:0)またはステアリン酸(18:0)-CoAに二重結合を導入する酵素であることが記載されているから、引用例3に記載のΔ^(9)-デサチュラーゼは、パルミチン酸(16:0)-CoAに二重結合を導入するパルミチル-CoA Δ-9デサチュラーゼに相当する。
また、引用例3の図1には、真菌の子嚢菌門に属するヒストプラズマ・カプスラーツム(以下、「H.C.」という。)由来のΔ^(9)-デサチュラーゼの全アミノ酸配列が記載されており、引用例3記載事項(i)、(iii)、(iv)には、H.C.の該アミノ酸配列をコードする遺伝子に相当するゲノムDNAを単離したことが記載されているから、このゲノムDNAは、パルミチル-CoA Δ9デサチュラーゼ(以下、省略して「Pa-CoAデサチュラーゼ」という。)をコードする単離された核酸に相当する。
そこで、本願発明と引用例3に記載された事項を比較すると、両者は、「真菌の子嚢菌門に属する菌由来のPa-CoAデサチュラーゼをコードする単離された核酸」である点で一致するが、真菌の子嚢菌門に属する菌が、前者では、A.ニドゥランスであって、そのPa-CoAデサチュラーゼが配列番号:6のアミノ酸配列のタンパク質であるのに対して、後者では、H.Cであり、そのPa-CoAデサチュラーゼが配列番号:6のアミノ酸配列のタンパク質ではない点、で相違する。

(3)当審の判断
上記引用例3記載事項(ii)には、Δ^(9)デサチュラーゼのPa-CoAデサチュラーゼとしての酵素活性が具体的に記載されており、同記載事項(i)及び図1には、H.C.、サッカロマイセス・セルビシエ(以下、「酵母」という。)、ラット、マウス、ヒト由来のPa-CoAデサチュラーゼのアミノ酸配列が相同性を有することが、同記載事項(v)には、H.C.由来のPa-CoAデサチュラーゼのアミノ酸配列が、酵母由来のものと72%相同であったことが、それぞれ記載され、また、同記載事項(iv)には、酵母とラット間で保存されているアミノ酸配列に対する縮重プライマーを合成し、H.C.から、Pa-CoAデサチュラーゼ遺伝子を取得した工程が具体的に記載され、同記載事項(iii)には、該縮重プライマーのDNA配列が記載されている。
さらに、上記引用例3記載事項(i)、(ii)には、動物細胞や微生物において膜の流動性の調節に関与する重要な酵素であるΔ^(9)-デサチュラーゼは、飽和脂肪酸を不飽和脂肪酸へと変換するための主要な酵素であることが記載されており、このような本願優先日当時の技術水準の下、A.ニドゥランスのミクロソームにΔ^(9)-デサチュラーゼ活性が存在するという上記引用例2の記載に接した当業者であれば、引用例3に記載のH.C.や酵母と同様に、同じ子嚢菌門に属するA.ニドゥランスにも、重要な酵素であるPa-CoAデサチュラーゼが存在することを強く期待して、A.ニドゥランスからPa-CoAデサチュラーゼ遺伝子をクローニングすることは、容易に想到し得たことである。そしてその際、Pa-CoAデサチュラーゼのアミノ酸配列保存領域に基づく縮重プライマーを用いて、PCRによってプローブを作製したり、又は、H.C.や酵母の核酸断片をプローブとして使用するなどの、引用例3に記載された又は本願優先日前既に周知慣用の手法を用いて、ゲノムライブラリー又はcDNAライブラリをスクリーニングし、A.ニドゥランス由来のPa-CoAデサチュラーゼ遺伝子をクローニングすることは、当業者であれば容易になし得ることであり、そのようにして、配列番号:6のタンパク質をコードする核酸は得られるものである。
そして、本願発明において奏される効果は、A.ニドゥランス由来のPa-CoAデサチュラーゼ遺伝子をクローニングしたことに基づくものにすぎず、上記引用例3及び2の記載から予測できない程の格別なものとはいえない。
したがって、本願発明は、引用例3及び2の記載から当業者が容易になし得たものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

4.審判請求人の主張
審判請求書の平成22年11月9日付手続補正書において、審判請求人は、
「引用例3には、これらのデサチュラーゼのアミノ酸配列がアライメントで示されているが、図1に示されたホモロジーアライメントを厳密に調べると、各タンパク質中の5つの散在する位置(ボックス)において保存された特定の単一のまたは2つのアミノ酸を除いて、種間に亘るホモロジーは明らかに非常に低いことが示されている。したがって、当業者といえども、これらのホモロジー領域をどのように使用すればAspergillus nidulanceからその謎の遺伝子をクローニングできるプローブを開発できるか到底想像すらできない。」(主張1)、及び
「当該遺伝子産物が種子の発育中に機能し、産生した不飽和化脂肪酸が蓄積するかまたは破壊されるか、または不飽化脂肪酸が油糧種子中にトリアシルグリセリド(TAGs)として究極的に残存し得るか否か(アシルCoAプールからのTGA合成はCoAプール中で起こるフィードバック制御機序に起因して予期することは殆どできない)、全く知られていないし、予測もできなかった。」(主張2)と主張している。
まず、主張1については、H.C.由来と酵母由来のPa-CoAデサチュラーゼ間のアミノ酸配列は72%の相同性であり、49%の同一性であったことが、引用例3記載事項(v)に記載されており、しかも、H.C.のクローニングに使用された2つのアミノ酸配列保存領域(同記載事項(iii))以外にも、子嚢菌門同士である酵母とH.C.間には高度に保存されたアミノ酸が長く連続する領域が存在することも記載されている(同記載事項(v))。
実際に、本願配列番号:6のアミノ酸配列と引用例3記載のH.C.のPa-CoAデサチュラーゼのアミノ酸配列とは、全体としても85%の同一性があるばかりか、引用例3記載事項(iii)で縮重プライマーを作製した2つのアミノ酸配列保存領域TAGYHRLWおよびGLAYDLKKは、本願配列番号:6のアミノ酸残基番号78?85位および289?296位と各々100%一致している。さらに、同記載事項(v)にH.C.と酵母の間で28アミノ酸残基中25アミノ酸残基が同一であるとある、高度に保存されたアミノ酸が長く連続する領域は、本願配列番号:6とH.C.の間では100%一致している。
このような上記引用例3でH.C.由来のPa-CoAデサチュラーゼをクローニングするのに用いた高い保存領域を使用すれば、上記3.(3)にも記載したとおりの周知慣用技術を使用して、縮重プライマーやプローブを作製して相同な遺伝子を取得することは、当業者にとって何ら困難なくなし得たことであり、請求人の上記主張1は採用できない。
次に、主張2については、植物種子中で本願発明の核酸にコードされるPa-CoAデサチュラーゼを発現させた場合に、不飽和脂肪酸を富化することを本願発明の効果として主張するものであるが、該主張の非予測性は、宿主植物が元来持つ反応系に強く依存するものであって、専ら本願発明に係る核酸に依存するものではないことは、本願優先日当時の技術常識である。さらに、上記植物種子中での効果は、Δ^(9)デサチュラーゼを発現させた植物においての効果であり、そのような効果は、植物の中でどのような種、株を宿主に使用するか、どのようなプロモーターを使用するか、どのような条件で生育させるかといった、複数の条件の組み合わせに依存するものであるから、核酸あるいは核酸にコードされる酵素という本願発明自体の効果であるとはいえない。
さらに、引用例3に記載の酵母由来P-CoAデサチュラーゼについて、これをコードする核酸をナタネやトウモロコシに導入し、その種子中の不飽和脂肪酸を富化することは、本願優先日前既に公知(例えば、特開平6-14667号公報参照。)であるから、本願発明の核酸を植物種子で発現させた効果が格別顕著ともいえず、結局、請求人の上記主張2も採用できない。

5.むすび
以上のとおりであるから、本願請求項3に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであり、他の請求項に係る発明については検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-02-21 
結審通知日 2013-02-26 
審決日 2013-03-11 
出願番号 特願2000-541318(P2000-541318)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田中 公子太田 雄三  
特許庁審判長 鈴木 恵理子
特許庁審判官 鵜飼 健
六笠 紀子
発明の名称 アスペルギルス・ニドゥランス(Aspergillusnidulans)デルタ-9CoAデサチュラーゼの発現による植物の脂肪酸組成の改変  
代理人 特許業務法人小田島特許事務所  

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