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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F02B
管理番号 1277437
審判番号 不服2011-11956  
総通号数 165 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-06-06 
確定日 2013-07-29 
事件の表示 特願2008-545670「内燃機関」拒絶査定不服審判事件〔平成19年10月18日国際公開、WO2007/117288、平成21年 5月21日国内公表、特表2009-520140〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯及び本願発明
本件出願は、2006年12月8日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2005年12月16日、アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成22年8月27日付けで拒絶の理由が通知され、これに対し、平成22年12月1日付けで特許請求の範囲を補正する手続補正書及び意見書が提出されたが、平成23年2月2日付けで拒絶をすべき旨の査定がなされ、これに対し、平成23年6月6日付けで拒絶査定不服審判が請求され、当該審判の請求と同時に同日付けで明細書及び特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出され、その後、当審において平成23年12月19日付けで書面による審尋がなされ、これに対し、平成24年4月19日付けで回答書が提出され、平成24年6月13日付けで上記平成23年6月6日付け手続補正書による補正が却下され、平成24年6月28日付けで拒絶の理由が通知され、平成24年12月28日付けで特許請求の範囲を補正する手続補正書及び意見書が提出されたものであって、その請求項1ないし11に係る発明は、平成24年12月28日付けで提出された手続補正書によって補正された特許請求の範囲並びに国際段階の明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された事項によって特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりである。
る。

「【請求項1】
内燃機関であって、
第1の燃焼室を画成すると共にトーラスの少なくとも一区間を画成する第1の壁部を有したエンジンハウジングと、
第1ピストンにして、前記第1の燃焼室を同じく画成する第1のピストンヘッド、および前記第1ピストンの半径方向に前記内燃機関の中心に向かって延びる第1のピストン枢動アームを有する第1のピストンと、
第1のクランクシャフトと、
前記第1のピストンの枢動アームの第1の接合軸線と前記第1のクランクシャフトとの間に結合された第1の連接棒と、
第2ピストンにして、前記第1の燃焼室を同じく画成する第2のピストンヘッド、および前記第2ピストンの半径方向に前記内燃機関の中心に向かって延びる第2のピストン枢動アームを有した第2のピストンと、
第2のクランクシャフトと、
前記第2のピストン枢動アームの第2の接合軸線と前記第2のクランクシャフトとの間に結合された第2の連接棒とを備え、
前記第1のクランクシャフト及び前記第2のクランクシャフトには、それぞれ前記第1の連接棒及び前記第2の連接棒を駆動するクランク突出部が設けられ、
前記第1のピストンおよび前記第2のピストンが、共通の枢動軸心の回りの湾曲通路に沿って案内され、前記第1のピストンおよび第2のピストンが反対方向に移動し、前記第1のピストン枢動アームおよび第2のピストン枢動アームが前記共通の枢動軸心の回りを回転し、かつ、前記第1のクランクシャフトおよび第2のクランクシャフトが同じ方向に回転することを特徴とする内燃機関。」

第2 引用文献
(1)平成24年6月28日付け拒絶理由通知書において引用された本願の優先日前に頒布された刊行物である特開昭57-10702号公報(以下、「引用文献」という。)には、例えば、以下の記載がある。(なお、下線は、理解の一助のために当審で付したものである。)

(a)「2.特許請求の範囲
1) エンジン装置であつて、環状シリンダー装置と、ロツカー・アーム装置と、ロツカー・アーム装置に設置され環状シリンダー装置内で往復動自在に作動する対向ピストン装置と、ピストン装置とロツカー・アーム装置の往復運動を回転運動へ変換する目的でロツカー・アーム装置に接続されたクランク装置を含むことを特徴とするエンジン装置。
2) 燃料と空気の混合気をシリンダー室装置内へ導入する入口装置を有するトロイダル・シリンダ一室装置と、排気生成物をシリンダー室装置から除去する排気装置とを環状シリンダー装置が含むことを特徴とする特許請求の範囲1)に記載のエンジン装置。
3) 環状シリンダー装置が4個のシリンダー・ライナー装置を含み、各シリンダー・ライナー装置が燃焼室を形成することを特徴とする特許請求の範囲2)に記載のエンジン装置。
4) ピストン装置が各燃焼室内にピストンの組を含むことを特徴とする特許請求の範囲3)に記載のエンジン装置。
5) 各ピストンの組が燃焼室内で対向関係を以つて協働する第1ピストンと第2ピストンを含むことを特徴とする特許請求の範囲4)に記載のエンジン装値。
6) 前記クランク装置が、歯車装置と、第1ロツカー・アームを前記歯車装置に相互に接続する第1クランクと、第2ロツカー・アームを前記歯車に相互に接続する第2クランクを含むことを特徴とする特許請求の範囲5)に記載のエンジン装置。
7) 歯車装置が回転運動を歯車装置から伝達する駆動軸装置を含むことを特徴とする特許請求の範囲6)に記載のエンジン装置。
8) 更に、環状シリンダ装置に対する入口装置と排気装置を含むことを特徴とする特許請求の範囲1)に記載のエンジン装置。
9) エンジン装置であつて、環状シリンダー装置と、枢軸的に交差する一対のロツカー・アームと、各ロツカー・アームの各端部に設置された一対のピストンと、環状シリンダー装置内で4個の圧縮室を形成するロツカー・アームの隣接端部上の隣接ピストンと共に環状シリンダー装置内で協働する当該ピストンと、圧縮室に対する吸入装置と排気装置と、ロツカー・アームの揺動運動を回転運動へ変換するためロツカー・アームに接続されたクランク装置を含むことを特徴とするエンジン装置。
10) 圧縮室の2個がコンプレツサーとして構成され、圧縮室の2個が内燃機関室として構成されて成る特許請求の範囲9)に記載のエンジン装置。
11) エンジン装置が2サイクル型内燃機関、4サイクル型内燃機関、外燃機関の1つとして構成されている特許請求の範囲9)に記載のエンジン装置。
12) 駆動軸をエンジンで回転させる方法であつて、
トロイダル・シリンダーを駆動軸の周りに設置し且つ8個の対向するピストンをシリンダー内に装入することによりシリンダー内で4個の圧縮室を形成することでエンジンを形成し、かくして当該ピストンが4個の圧縮室を定める段階と、
主歯車を駆動軸に固定し、一対のロツカー・アームを駆動軸とピストンに枢軸的に設置し各ロツカー・アームをクランクと側部歯車で主歯車に接続することにより主歯車をピストンと相互に接続する段階と、
ピストンを周期的に各圧縮室内で離動させロツカー・アームに揺動運動を与える一方ロツカー・アームの揺動運動をクランクで側部歯車の回転運動に変換することにより主歯車と駆動軸を回転させ、側部歯車の回転運動で主歯車と駆動軸を回転させる段階から成る、駆動軸をエンジンで回転させる方法。」(特許請求の範囲の請求項1ないし12)

(b)「 本発明はエンジン装置と方法に係るものであり、環状シリンダー装置の周りに隔置された4個の圧縮室と、ロツカー・アームの各端部上の一対のピストンと共にエンジン装置の中心に枢軸的に設置された一対のロツカー・アームを含むエンジン装置に係るものである。隣接するロツカー・アーム上の対向するピストンは各圧縮室内で協働する。各ロツカー・アーム上のクランク装置はロツカー・アームの揺動運動を回転運動に変換する。本発明のエンジン装置は2サイクル型内燃機関、4サイクル型内燃機関、外燃機関又はコンプレツサーと燃焼エンジンの組合せとして構成されるよう容易に適合させることが出来る。
本発明は、エンジン装置と方法に関するものであり、更に詳細には一対の対向するピストンがロツカー・アーム上に設置されて環状シリンダー内で協働するようにした環状シリンダーを含むエンジンとコンプレツサー装置の双方若しくは一方に関するものである。」(第2ページ右上欄第17行ないし左下欄第15行)

(c)「 第1図乃至第4図の各図を参照すると、本発明の新規なエンジン装置と方法の全体的な技術思想は、複数対のピストンが分断するロツカー・アームの各端部に設置され環状シリンダー内で協働するようにした複動型ピストン基づくものである。ロツカー・アーム12,14は軸29上に枢軸的に設置され,各々その端部12a,12b,14a,14b上にピストン21乃至28を支持している。特に、ピストン21,22はロツカー・アーム12の端部12aに設置された連結棒16の各端部上に設置してある。これに対応してピストン23,24はロツカー・アーム14の端部14aに固定された連結棒17上に設置してある。ピストン25,26はロツカー・アーム12の端部12bに接続された連結棒18に設置され、一方、ピストン27,28はロツカー・アーム14の端部14bに固定された連結棒19の端部に設置されている。環状シリンダー11には協働するピストンの対が各々その内部に圧縮/燃焼室31乃至34を形成するようシリンダー・ライナー36乃至39が含まれている。例えば、ピストン21,28は圧縮/燃焼室31を形成するようシリンダー・ライナー36内で協働する。第1図乃至第4図の各図から明瞭に理解されるように、残りのピストン22乃至27の各々のピストンについても同様の構成が考えられる。
環状シリンダー11の内側壁にあるスロツト81乃至84はロツカー・アーム12,14の個々の端部の揺動運動に適合する。ロツカー・アーム12,14の適切な揺動運動はこれに対応してピストン21乃至28を圧縮/燃焼室31乃至34の各々の容積を協働関係的に減少又は増加させる。例えば、端部12a、14bが相互に向つて運動するとピストン21,28は圧縮/燃焼室31の中心に向かつて移動され、かくしてその内部の圧縮性媒体を圧縮させる。これに対応して、環状シリンダー11の反対側にあるピストン24,25は圧縮/燃焼室33の容積の対応する圧縮を以つて相互に向かつて移動される。前述の作動が行なわれている間に、ピストン22,23は離動されており、かくして圧縮/燃焼室34の容積を増加させるピストン26,27の対応する運動と併せて、圧縮/燃焼室32の容積を増加させる。ロツカー・アーム12,14の逆方向の連動で前述の作動は逆になり、圧縮/燃焼室32,34の容積が減少する一方、圧縮/燃焼室31,33の容積が増加する。従つて,各方向におけるロツカー・アーム12,14の各運動は、内燃又は外燃による膨張型エンジン装置として圧縮/燃焼室31乃至34全てが構成されている場合、動力行程であることが容易に理解出来る。」(第3ページ左下欄第3行ないし第4ページ左上欄第13行)

(d)「 ロツカー・アーム12,14の揺動運動は,各々側部歯車46,47によつて主歯車59に相互に接続されたクランク48,49により回転運動に変換される。個々のロツカー・アーム12又は14の各々完全な揺動サイクルはかくして各々側部歯車46,47の完全な1回転に変換される。
ここで特に第2図を参照すると、本発明の新規なエンジン装置の第2好適実施態様は全体的に20で示してあり、2サイクル型内燃機関として構成されている。特に、圧縮/燃焼室31乃至34は各々内部に設置された点火栓41乃至44を有する内燃機関室として構成されている。2サイクル型作動によれば、各ピストン21乃至28の逆方向運動は、燃料と空気の混合気が圧縮/燃焼室31乃至34内で適当に点火され燃焼される動力/膨張行程であることがここで理解される。それに対応して、個々の対向するピストンと組合つたピストン21乃至28の各前進運動は、個々の圧縮/燃焼室31乃至34内の燃料と空気の混合気を圧縮する圧縮行程として作用する。」(第4ページ左上欄第14行ないし右上欄第13行)

(e)「 環状シリンダー11の室の壁及び当該環状シリンダー内の個々のシリンダー・ライナー36乃至39を貫通する状態で吸入ポート、排気ポートが設けてある。例えば、吸入ポート61,68は燃焼室31に対して設けられ、一方、吸入ポート62,63は燃焼室32に対する給気を行ない、吸入ポート64,65は燃焼室33用に設けられ、吸入ポート66,67は燃焼室34用に設けてある。各吸入ポート61乃至68は個々吸入空気室51乃至58を介して選択的に相互に接続され、各吸入空気室は個々吸入導管51a乃至58aにより(図示せざる)吸入ヘツダーに選択的に接続される。
従つて、作動にあたつて、各ピストン21乃至28は実質的にピストン21と同様に作動する、即ち、ピストン21の逆方向の運動で吸入ポート61が露呈して適当量の燃料と空気の混合気が(図示せざる)吸入ヘツダーから吸入導管51aを通つて吸入空気室51内へ流入し、次に吸入ポート61を通つて燃焼室31内へ流入する。ピストン21の前進運動で吸入ポート61は覆われ、吸入された燃料と空気の混合気の圧縮が開始される。
燃焼室31から出る排気ガスは排気ポート71,78を通つて排気室71’へ排出され、排気導管61aを通つて(図示せざる)排気ヘツダー内へ排気される。対応する排気ポート72,73は排気室73’へ排出し排気導管62aを通つて排出させる。排気ポート74,75は排気室75’及び排気導管63a内へ排出する。排気ポート76,77は排気室77’及び排気導管64a内へ排出する。従つて、動力行程中に、例えば燃焼室31内の燃料と空気の混合気は点火栓41で発生したスパークにより適当な時間に燃焼し、その結果、圧力が高まりピストン21,28を離動させ、かくして適当な動力をクランク48,49を通じて各々側部歯車46,47へ伝へ、最終的に主歯車59へ伝える。ピストン21,28の連続的な逆方向の運動で各々排気ポート71,78が露呈され、燃焼済みの燃料と空気の混合気を燃焼室31から排出させることが出来る。ピストン21,28の連続的な後退運動で各々吸入ポート61,68が露呈され、燃料と空気の混合気の新鮮なチヤージの流人に適合し、燃料と空気の混合気の初期吸入部分は各々排気ポート71,78を通じて排気生成物を放出させるのを助ける作用がある。直径方向反対側の燃焼室33と関連がある各種の機構に関して同様の作動が行なわれている。燃焼室31,33の周りで発生する動力行程の終りは同時に燃焼室32,34内で開始される動力行程の開始になるところから、ピストン26,27と組合つた個々のピストン即ちピストン22,23の後退運動でピストン21,28及びピストン24,25の前進運動が発生する。ピストン21,28の前進運動で吸入ポート61,68が覆われ、引続いて排気ポート71,78が覆われ,その結果室中の新鮮な燃料と空気の混合気が圧縮される。
ロツカー・アーム12,14の各揺動運動で行なわれる動力行程を実施するのに加えて、本発明の新規な2サイクル型エンジン装置は、1組のピストンの各動力行程の終りが対向するピストンの遭遇する圧縮作用で均衡化され、かくして当該動力行程を緩衝させ、個々の組のピストンの各々の逆方向運動を助けるという付加的な利点をもたらすものである。」(第4ページ右上欄第14行ないし第5ページ左上欄第18行)

(f)「 ここで更に詳細に第3図を参照すると、本発明の新規なエンジン装置の第3好適実施態様が全体的に30で示してあり、4サイクル型内燃機関として構成されている。特に、各燃焼室31乃至34には各々1組の吸入弁91乃至94及び1組の排気弁95乃至98が装備されている。吸入弁91乃至94及び排気弁95乃至98は(図示せざる)カム駆動型弁リフト装置により作動される(図示せざる)適当な慣用型の弁励起装置により作動される。この時点で、特定の弁装置が本発明の新規なエンジン装置を対象に図示されているが、任意の適当な弁装置を本発明の新規なエンジン装置と方法に導入出来ることを明瞭に理解すべきであることを特に理解すべきである。
作動にあたつて特に燃焼室31を参照すると、動力工程は燃料と空気の混合気を点火する点火栓41による燃焼室31内の燃料と空気の混合気の燃焼で開始され、その結果暴発が生じてピストン21,28は離動される。動力工程の終了時及びピストン21,28の前進運動の前に、排気弁98が開き、排気生成物は燃焼室31から排出可能となる。ピストン21,28の前進運動の終了時及び当該ピストンの離動する逆方向運動の前に,排気弁98が閉じられ,吸入弁91が開かれ,新鮮な燃料と空気の混合気が燃焼室31内へ流入出来る。ピストン21,28の逆方向運動の終了時に吸入弁91は閉じられるところからピストン21,28が相互に向かつて移動するのに伴い、燃焼室31内の燃料と空気の混合気は圧縮される。ピストン21,28の移動終端に到達した時点で作動速度に対し適当に慣用方式の如く調時化された点火栓41から出るスパークが当該混合気の燃焼を開始させ、動力行程を開始させる。こうして発生した動力はロツカー・アーム12,14に伝達され、各々クランク48,49によつて回転運動に変換され、側部歯車46,47によつて主歯車59に伝達される。
燃焼室32,34に対向する、各々対向した燃焼室の対即ち燃焼室31,33は同一の吸入,圧縮,膨張,排気サイクルを以つて両者共に作動するよう対にすることが出来るが、対向する燃焼室と弁装置は対向する燃焼室と直接位相がずれるよう構成することが出来る。例えば、燃焼室31が膨張/動力行程モードにある間に、燃焼室33は吸入行程モードになつている。同時に、燃焼室32は排気行程モードにあり、一方燃焼室34は圧縮行程の作動モードになつている。従つて、燃焼室は4個即ち燃焼室31乃至34が存在していることから、各燃焼室は順次燃焼するよう選択的に調時化され、かくして実質的に4サイクル型のエンジン装置30の全体的な作動が円滑になる。」(第5ページ左上欄第19行ないし右下欄第9行)

(g)「 従つて、本発明の新規なエンジン装置の各好適実施態様に関して本発明の新規な構造は必要に応じてデイーゼル、2サイクル型、4サイクル型、外燃型又はコンプレツサーの作動に供する多数の構造に対し容易に適合可能になることに直ちに注目すべきである。」(第6ページ右上欄第12ないし17行)

(h)「 ここで更に詳細に第1図を参照すると、本発明の新規なエンジン装置の別の好適実施態様が全体的に10で示してある。エンジン装置10は斜視図で示してあり、燃料噴射が燃料噴射器101乃至104を通じて適切な燃焼室内へと行なわれるデイーゼル・エンジンとして作動するよう特別の構成になつている。然し乍ら、全体的に弁装置は吸入ポート61乃至68、排気ポート71乃至78(第2図)を利用する2サイクル型エンジン装置又は吸入弁91乃至94、排気弁95乃至98(第3図)を利用する4サイクル型装置として提供出来る。特定の弁装置とは無関係に且つ2サイクル型エンジン又は4サイクル型エンジンが利用されるにしろ、この特別の実施態様のデイーゼル・エンジン装置10には燃料噴射器101乃至104が装備してあり、点火栓41乃至44(第2図、第3図)の如き点火栓又は適当なグロー・プラグで補助出来る。いずれの実施態様でも、主歯車59によつて軸29に伝達される動力は歯車ハウジング105を通じてトランスミツシヨン/差動歯車106に向けられ、動力は軸107,108へ向けられる。」(第6ページ右上欄第18行ないし左下欄第19行)

(i)「 第1図は、デイーゼル・エンジンとして構成され且つ内部の構造上の諸特徴を明らかにするため一部分を破断した状態で示す本発明の新規なエンジン装置の第1好適実施態様の簡略化した斜視図。
第2図は、2サイクル・エンジンとして構成された本発明の新規なエンジン装置の第2好適実施態様の横断面図で、この横断面図は本発明の第2好適実施態様の2サイクル機構を図解するため一部分を改変した全体的に第1図のA-A線において描いたものである。
第3図は、4サイクル・エンジンとして構成された本発明の新規なエンジン装置の第3好適実施態様の横断面図で、この横断面図は本発明の第3実施態様の4サイクル機構を図解するため一部分を改変した全体的に第1図のA-A線において描いたものである。」(第7ページ左上欄第4ないし19行)

(2)上記(1)及び図1ないし3の記載から、以下のことが分かる。

(ア)上記(1)(a)ないし(i)及び図1ないし3の記載から、引用文献には、環状シリンダー装置を有するエンジン装置10が記載されていることが分かる。

(イ)上記(1)(a)ないし(i)及び図1ないし3の記載から、引用文献に記載されたエンジン装置10は、燃焼室31を画成すると共に環状体の少なくとも一区間を画成するシリンダー・ライナー36を有した環状シリンダー11と、ピストン21にして、前記燃焼室31を同じく画成する第1のピストンヘッド、および前記ピストン21の半径方向に前記内燃機関の中心に向かって延びるロツカー・アーム12を有するピストン21とを備えていることが分かる。

(ウ)上記(1)(a)ないし(i)及び図1ないし3の記載から、引用文献に記載されたエンジン装置において、クランク装置を構成するクランク48,49は、それぞれ、ロツカー・アームに揺動自在に結合されている直線部(第1ないし3図において図番48,49の引き出し線が出ている部分。)と、軸の上端がエンジン・ハウジング100に回転自在に嵌合され、軸の下端が側部歯車46,47の中心に結合される屈曲軸部(特に第1図を参照。クランク48,49のうち引き出し線が出ていない部分。)とからなり、上記直線部と屈曲軸部とは、回転摺動自在に結合されていることが分かる。

(エ)上記(1)(a)ないし(i)及び図1ないし3の記載から、引用文献に記載されたエンジン装置は、クランク48の屈曲軸部と、前記ロツカー・アーム12の第1の接合部と前記クランク48の屈曲軸部との間に結合されたクランク48の直線部と、ピストン28にして、前記燃焼室31を同じく画成する第2のピストンヘッド、および前記ピストン28の半径方向に前記内燃機関の中心に向かって延びるロツカー・アーム14を有したピストン28と、クランク49の屈曲軸部と、前記ロツカー・アーム14の第2の接合部と前記クランク49の屈曲軸部との間に結合されたクランク49の直線部とを備えていることが分かる。

(オ)上記(1)(a)ないし(i)及び図1ないし3の記載から、引用文献に記載されたエンジン装置10において、クランク48の屈曲軸部はその中間部分においてクランク48の直線部と回転摺動自在に結合されてクランク48の直線部により駆動され、クランク49の屈曲軸部はその中間部分においてクランク49の直線部と回転摺動自在に結合され、クランク49の直線部により駆動されることが分かる。

(カ)上記(1)(a)ないし(i)及び図1ないし3の記載から、引用文献に記載されたエンジン装置において、ピストン21及び前記ピストン28は、軸29の回りの湾曲通路に沿って案内され、ピストン21及びピストン28が反対方向に移動し、ロツカー・アーム12及びロツカー・アーム14が軸29の回りを回転し、かつ、クランク48の屈曲軸部及びクランク49の屈曲軸部が同じ方向に回転することが分かる。

(3)上記(1)、(2)及び図面の記載から、引用文献には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「 エンジン装置10であって、
燃焼室31を画成すると共に環状体の少なくとも一区間を画成するシリンダー・ライナー36を有した環状シリンダー11と、
ピストン21にして、前記燃焼室31を同じく画成する第1のピストンヘッド、および前記ピストン21の半径方向に前記内燃機関の中心に向かって延びるロツカー・アーム12を有するピストン21と、
クランク48の屈曲軸部と、
前記ロツカー・アーム12の第1の接合部と前記クランク48の屈曲軸部との間に結合されたクランク48の直線部と、
ピストン28にして、前記燃焼室31を同じく画成する第2のピストンヘッド、および前記ピストン28の半径方向に前記内燃機関の中心に向かって延びるロツカー・アーム14を有したピストン28と、
クランク49の屈曲軸部と、
前記ロツカー・アーム14の第2の接合部と前記クランク49の屈曲軸部との間に結合されたクランク49の直線部とを備え、
前記クランク48の屈曲軸部及び前記クランク49の屈曲軸部には、それぞれ前記クランク48の直線部及び前記クランク49の直線部に駆動される中間部分が設けられ、
前記ピストン21及び前記ピストン28が、軸29の回りの湾曲通路に沿って案内され、前記ピストン21及び前記ピストン28が反対方向に移動し、前記ロツカー・アーム12及び前記ロツカー・アーム14が前記軸29の回りを回転し、かつ、前記クランク48の屈曲軸部およびクランク49の屈曲軸部が同じ方向に回転する、エンジン装置10。」


第3 対比・判断
1 対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「エンジン装置10」は、その機能及び構造からみて、本願発明における「内燃機関」に相当し、以下同様に、「燃焼室31」は「第1の燃焼室」に、「環状体」は「トーラス」に、「シリンダー・ライナー36」は「第1の壁部」に、「環状シリンダー11」は「エンジンハウジング」に、「ピストン21」は「第1ピストン」及び「第1のピストン」に、「ロツカー・アーム12」は「第1のピストン枢動アーム」に、「第1の接合部」は「第1の接合軸線」に、「クランク48の直線部」は「第1の連接棒」に、「ピストン28」は「第2のピストン」及び「第2ピストン」に、「ロツカー・アーム14」は「第2のピストン枢動アーム」に、「第2の接合部」は「第2の接合軸線」に、「クランク49の直線部」は「第2の連接棒」に、「軸29」は「共通の枢動軸線」に、それぞれ相当する。
また、「クランクシャフト(クランク軸)」という技術用語は、一般的に「ピストンの往復運動を回転運動に変える軸」を意味するものであり、引用発明における「クランク48の屈曲軸部」及び「クランク49の屈曲軸部」は、ともに「ピストンの往復運動を回転力に変える軸」であるから、「クランクシャフト(クランク軸)」であるといえる(参考文献として、特開昭49-120003号公報[特にクランク軸6,6を参照。]を参照。)。したがって、引用発明における「クランク48の屈曲軸部」及び「クランク49の屈曲軸部」は、それぞれ、本願発明における「第1のクランクシャフト」及び「第2のクランクシャフト」に相当するといえる。

してみると、両者は
「 内燃機関であって、
第1の燃焼室を画成すると共にトーラスの少なくとも一区間を画成する第1の壁部を有したエンジンハウジングと、
第1ピストンにして、前記第1の燃焼室を同じく画成する第1のピストンヘッド、および前記第1ピストンの半径方向に前記内燃機関の中心に向かって延びる第1のピストン枢動アームを有する第1ピストンと、
第1のクランクシャフトと、
前記第1のピストンの枢動アームの第1の接合軸線と前記第1のクランクシャフトとの間に結合された第1の連接棒と、
第2ピストンにして、前記第1の燃焼室を同じく画成する第2のピストンヘッド、および前記第2ピストンの半径方向に前記内燃機関の中心に向かって延びる第2のピストン枢動アームを有した第2ピストンと、
第2のクランクシャフトと、
前記第2のピストン枢動アームの第2の接合軸線と前記第2のクランクシャフトとの間に結合された第2の連接棒とを備え、
前記第1および前記第2のピストンが、共通の枢動軸線の回りの湾曲通路に沿って案内され、前記前記第1のピストンおよび第2のピストンが反対方向に移動し、前記第1のピストン枢動アームおよび第2のピストン枢動アームが前記共通の枢動軸線の回りを回転し、および前記第1のクランクシャフトおよび第2のクランクシャフトが同じ方向に回転する、内燃機関。」
という点で一致しており、次の<相違点>において相違する。

<相違点>
本願発明においては、「第1のクランクシャフト及び第2のクランクシャフトには、それぞれ第1の連接棒及び第2の連接棒を駆動するクランク突出部が設けられ」ているのに対し、引用発明においては、本願発明における「第1のクランクシャフト及び第2のクランクシャフト」に相当する「クランク48の屈曲軸部及びクランク49の屈曲軸部」には、それぞれ、本願発明における「第1の連接棒及び第2の連接棒」に相当する「クランク48の直線部及びクランク49の直線部」により駆動される「中間部分」が設けられている点(以下、「相違点」という)。

2 判断
上記相違点について検討する。
本願発明は「内燃機関」に関する発明であり、本願明細書の「ピストンの運動を効率的なやり方でクランクシャフトに伝達するために、第1のクランクシャフトは、好ましくは第1の回転軸を備え、第2のクランクシャフトは、第2の回転軸を備え、第1の回転軸および第1の接合軸は、互いに平行であり第1の平面内で配置され、第2の回転軸および第2の接合軸は、互いに平行であり第2の平面内で配置合され、前記ピストンの中間点、第1の平面、および第2の平面は、上述したように、共通平面に対して垂直を成している。」(段落【0015】)、「連接棒34および36は、それぞれ軸受け38および40を介して、それぞれ第1のクランクシャフト42および第2のクランクシャフト44に結合されている。第1のクランクシャフト42は、第1の回転軸心46の周りで回転し、第2のクランクシャフト44は、第2の回転軸心48の周りで回転する。」(段落【0025】)等の記載から、本願発明においては、第1のピストン8の運動が第1の連接棒34から軸受け38を介して第1のクランクシャフトに伝達され、第2のピストン10の運動が第2の連接棒36から軸受け40を介して第2のクランクシャフトに伝達されるものと解される。そうすると、本願発明において、クランクシャフト42,44は、連接棒34,36を駆動するものではなく、連接棒34,36により駆動されるものであるから、本願発明における、「第1の連接棒及び第2の連接棒を駆動する」という記載は、「第1の連接棒及び第2の連接棒により駆動される」の誤記と解される。(下線は当審で付した。)
次に、本願明細書において、「クランク突出部」を設けることの技術的意義は何ら記載されておらず、本願の明細書全体からみて、該「クランク突出部」は、連接棒34,36からクランクシャフト42,44に動力を伝達するために設けられる一つの態様にすぎないと考えられる。
そうすると、本願発明において連接棒34,36からクランクシャフト42,44に動力を伝達するために設けられる「クランク突出部」と引用発明においてクランク48,49の直線部からクランク48、49の屈曲軸部に動力を伝達するために設けられる「クランク48,49の屈曲軸部の中間部分」とは、技術的な意義において格別な違いはなく、両者の違いは、当業者が適宜なし得る設計事項にすぎないと考えられる。

したがって、本願発明における上記相違点に係る構成は、当業者が通常の創意工夫によりなし得たものと認められ、本願発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

また、本願発明を全体として検討しても、引用発明から予測される以上の格別な効果を奏するものとは認められない。


なお、請求人は、平成24年12月28日付け意見書において、「第1のクランクシャフト及び第2のクランクシャフトを備えている点において、本願発明は引用文献1に記載された発明と大きく相違しています。(中略)引用文献のクランク48,49の屈曲部は、側部歯車46、47を回転させ、それによって主歯車59を回転させるものであって、それ自体が回転する「軸」とはいえないと思料いたします。」(第2ページ第31ないし46行)と主張している。
しかしながら、引用発明における「クランク48の屈曲軸部」及び「クランク49の屈曲軸部」には、第1図を参照すると、上端及び下端に軸が設けられ、該軸を中心として回転するものとなっている。
なお、引用発明においては該軸が比較的短いものとなっているが、該軸が比較的長いものも周知(例えば、特開昭49-120003号公報の第1図(イ)及び(ロ)に記載されたクランク軸6,6を参照。)である。

また、請求人は、上記意見書において、「本発明によれば、2つのクランクシャフトが、伝達ホイールなどによってフライホイールへと結合させられ、同方向に回転します。フライホイールは2つのクランクシャフト間に直接間置することができるので、第1のクランクシャフトおよび第2のクランクシャフトが同じ方向に回転する場合、フライホイールへの結合は非常に容易です。」(第2ページ第34ないし38行)とも主張している。
しかしながら、引用文献には、2つのクランク48,49の屈曲軸部が、側部歯車46,47によって主歯車59へと結合し、同方向に回転し、主歯車59は2つのクランク48,49の屈曲軸部及び側部歯車46,47の間に直接配置することができ、2つのクランク48,49の屈曲軸部が同じ方向に回転する場合、主歯車59への結合は非常に容易である構成が記載されており、上記「伝達ホイール」が引用文献における「側部歯車46」、上記「フライホイール」が引用文献における「主歯車59」に対応しているとみなすことができるから、出願人の上記主張と同様の構成が引用文献にも記載されているといえる。

したがって、出願人の上記各主張は失当であるといわざるを得ない。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-03-01 
結審通知日 2013-03-05 
審決日 2013-03-18 
出願番号 特願2008-545670(P2008-545670)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石黒 雄一  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 金澤 俊郎
中川 隆司
発明の名称 内燃機関  
代理人 浅村 皓  
代理人 浅村 肇  
代理人 白江 克則  
代理人 山本 貴和  

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