• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02K
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 H02K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H02K
管理番号 1277563
審判番号 不服2012-11138  
総通号数 165 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-06-14 
確定日 2013-08-07 
事件の表示 特願2002-500519「回転電動機械およびその構成要素を製造する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成13年12月 6日国際公開,WO01/93406,平成15年11月25日国内公表,特表2003-535562〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は,平成13年5月29日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2000年5月29日,フランス国)を国際出願日とする出願であって,平成24年2月9日付で拒絶査定がなされ,これに対し,同年6月14日に拒絶査定不服審判請求がなされると共に,同日付手続補正書による手続補正(以下,「本件補正」という。)がなされたものである。

2.本件補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
(1)補正後の本願の発明
本件補正により,特許請求の範囲の請求項1は,
「 巻線(32,62)が少なくとも1つ形成された部材(14,16)を少なくとも1つ備える電気回転装置であって,
前記巻線は,導電要素(34)を少なくとも1つ備え,
前記導電要素(34)が巻き付けられることで前記巻線を形成し,また,前記導電要素には電気絶縁材料の少なくとも1つの層(36)がコートされ,
前記巻線の巻付けの前に,前記絶縁材料のコートを有する前記導電要素(34)が接続層(72)で被覆され,前記接続層(72)は,前記絶縁材料のコートを有する前記導電要素(34)の隣接し合う部分同士を互いに接合する第1の接続材料(73)から成り,
前記巻線(32,62)と前記巻線が形成された前記部材(14,16)との間には,電気絶縁性のリーフ(44,100)が介在し,
前記絶縁リーフ(44,100)は,電気絶縁性の構造要素(74)を備え,前記絶縁性構造要素(74)の少なくとも一方の面上には,第2の接続材料(76)が少なくとも部分的に塗布されることにより,前記絶縁リーフ(44,100)を,前記巻線(32,62)又は前記巻線が形成された前記部材(14,16)に結合し,
前記第2の接続材料(76)は,前記第1の接続材料(73)と同じであり,これらの接続材料(73,76)は,前記回転電動機械の最大作動温度以下の温度において硬化物の機械的特性の低下がない熱硬化性のポリマーを有し,
前記巻線(32,62)が少なくとも1つ設けられた前記部材(14,16)が,回転子(16)であることを特徴とする回転電動機械。」
と補正された。

上記補正は,審判請求書において請求人が主張するように,請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「部材」について「回転子」へと限定するものであって,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下,単に「改正前の特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下,「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)引用例
a)原査定の拒絶の理由に引用された特開平9-308158号公報(以下,「引用例」という。)には,図面と共に次の事項が記載されている。

・「【請求項1】エナメル線を巻回したコイルを内壁面にスロット絶縁を配した鉄心スロット内に挿着して,前記鉄心スロットの開口部に設けた楔にて鉄心スロット内に絶縁固定して構成した低圧回転機の固定子絶縁コイルにおいて,鉄心スロットの内壁面に配されたスロット絶縁が,加熱により溶融し硬化する融着材層と,フイルム又は織布からなる基材との複合材層からなる融着シートから構成されていることを特徴とする低圧回転機固定子絶縁コイル。」

・「【請求項4】請求項1?請求項3に記載のいずれかの低圧回転機固定子絶縁コイルにおいて,コイルを構成するエナメル線が自己融着電線であることを特徴とする低圧回転機固定子絶縁コイル。」

・「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は,回転電機の絶縁コイル,特に鉄心スロットにエナメル線からなるコイルを挿着してなる乱巻コイルからなる低圧回転機の固定子絶縁コイルの絶縁構成に関する。」

・「【0008】
【発明の実施の形態】以下この発明の実施の形態を図に基づいて説明する。
実施の形態1
図1及び図2は,この発明の第1の実施の形態からなる低圧回転機固定子絶縁コイルであり,図1の(a)は加熱硬化処理前の固定子絶縁コイルの断面図,(b)は(a)の鉄心スロット底部の固定子絶縁コイルの部分拡大断面図であり,図2の(a)は加熱硬化後の固定子絶縁コイルの断面図,(b)は(a)の鉄心スロット底部の固定子絶縁コイルの部分拡大断面図である。図1に示す鉄心スロット2内に設けたスロット絶縁8は,後記する基材81の両面に融着材層82を設けた複合材層からなる融着シートを,前記鉄心スロット2の内壁面に断面U字状に配して形成してある。このスロット絶縁8を配した鉄心スロット2内に,(b)に示すように,コイル5を前記スロット絶縁8の融着材層82に押圧接触するようにインサータ機あるいは手入れにより挿着し,鉄心スロット開口部6に楔7を設けた後,前記スロット絶縁8を構成する融着シートの融着材層82の融点以上の温度で鉄心1とともに加熱硬化させる。
【0009】加熱硬化後の固定子絶縁コイルは図2に示すように,加熱によりスロット絶縁8を構成する融着層82が溶融し液状化して,鉄心スロット2内のエナメル線4間に表面張力により浸透し保持され,その後加熱硬化することにより,前記したエナメル線4間,及びコイル5とスロット絶縁8の基材81間及び鉄心スロット2の内壁面間に融着材硬化層82aが充填した樹脂絶縁層が形成される。
【0010】上記した固定子絶縁コイルの加熱方法は,硬化炉中での温風加熱方式,誘導加熱炉を用いた方式,及びコイル5を電流加熱する加熱方式いずれの方式をも採用することができる。
【0011】さて,この発明の実施の形態からなるスロット絶縁の構成は,図3又は図4に示す構造の融着シートを用いることができる。図3の(a)は,前記した実施の形態で記載した固定子絶縁コイルに用いたものであり,基材81と,この両面に施した融着材層82からなる融着シートである。この融着シートの基材81は,ポリエステル,ポリイミド,ポリエチレンテレフタレート,ポリエチレンナフタレート,ポリエフェリニンサルフアイド等の有機材からなるフイルム,又はガラス繊維,ポリエステル繊維等の無機,有機繊維からなる織布,又はこれに樹脂塗布処理した織布を用いることができる。
【0012】また,融着材層82としては,ウレタン系,ポリビニルブチラール系,ポリアミド系等の熱可塑性樹脂,あるいはポリエステル系,シリコーン系,エポキシ系,変成エポキシ系等の樹脂を半硬化状にした熱硬化性樹脂からなる加熱により溶融して,その後の加熱により硬化して融着材硬化層82aを形成するものを用いる。」

・「【0019】実施の形態4
図7及び図8は,この発明の第4の実施の形態からなる低圧回転機固定子絶縁コイルであり,図7の(a)は加熱硬化処理前の固定子絶縁コイルの断面図,(b)は(a)の鉄心スロット底部の固定子絶縁コイルの部分拡大断面図であり,図8の(a)は加熱硬化後の固定子絶縁コイルの断面図,(b)は(a)の鉄心スロット底部の固定子絶縁コイルの部分拡大断面図である。この実施の形態の固定子絶縁コイルの絶縁構成は,前記実施の形態1のコイル5を構成するエナメル線4として,エナメル線の外周層に,加熱により溶融して巻回されて接触しているエナメル線間を一体に接着し固化することが可能な自己融着被覆層を設けた自己融着電線を適用したものである。
【0020】前記した自己融着電線10は,ポリエステル,エステルイミド,アミドイミドのエナメル層10aの上に,自己融着被覆層10bとして,ウレタン系,ポリビニルブチラール系,ポリアミド系の熱可塑性樹脂,又はポリエステル系,シリコーン系,エポキシ系,変成エポキシ系等の樹脂を半硬化状にして塗布して構成したものである。上記した自己融着電線10を用いた固定子絶縁コイルの構成は,まず,図7に示すように前記した実施の形態1と同様に,融着シートからなるスロット絶縁8を施した鉄心スロット2内に前記自己融着電線10を所定ターン巻回したコイル5cを挿着して形成する。次に,スロット絶縁8の融着シートの融着材層82,及び前記自己融着電線10の自己融着被覆層10bがともに溶融する温度以上の温度で前記コイル5cを鉄心1とともに加熱処理する。
【0021】この加熱硬化処理の際に,前記した自己融着電線10の自己融着被覆層10b,及びスロット絶縁8の融着材層82がともに溶融し液状化して,図8に示すように,自己融着電線10間が接着,固化された自己融着硬化被覆層10cと,自己融着電線10からなるコイル5cの内部,及び外周部と鉄心スロット2間とが融着材硬化層82aで充填された樹脂絶縁層を形成する。したがって,この実施の形態からなる固定子絶縁コイルは,前記した通常のエナメル線を用いた構成より鉄心スロット2内が樹脂にて密に充填された空隙部のない保護絶縁を有する絶縁構成とすることができる。」

・「【0023】図9に,前記したこの発明の実施の形態からなる低圧回転機固定子絶縁コイルの絶縁特性評価を示す。試験に供した回転機は,定格電圧200Vの一般産業用の三相誘導電動機であり,評価試験は,IEEE std. 117に準拠して行い,劣化試験条件は,加熱200℃-2日,振動5G-1時間,吸湿(相対湿度95%)-2日を1サイクルとして,各サイクル毎に200V耐圧試験を行った。そして,適宜サイクルでの残像破壊電圧を測定した。
図9には,従来のエナメル線を用いてワニス含浸処理を行った固定子絶縁コイクCの特性をも併記したが,この発明の実施の形態1からなる絶縁方式Aと,実施の形態4からなる絶縁方式Bは,前記した従来法と比して,同等以上の特性を有していることがわかる。そして,絶縁方式Bは,絶縁方式Aと比してより安定した絶縁性能を有している。」

・図7及び8には,鉄心1に自己融着電線10を少なくとも1つ備えるコイル5cが少なくとも1つ形成された固定子を少なくとも1つ備える低圧回転機の態様が図示され,また,固定子の鉄心1とコイル5cとの間にはスロット絶縁8が介在し,コイル5c及びコイル5cが形成された固定子の鉄心スロット2に接着している態様が図示され,さらに,エナメル層10aを備えるエナメル線の外周層に自己融着被覆層10bを設けた自己融着電線10を適用した低圧回転機固定子絶縁コイルの態様が図示されている。

これらの記載事項及び図示内容を総合すると,引用例には,特に,実施の形態4に係る次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認めることができる。
「コイル5cが少なくとも1つ形成された固定子を少なくとも1つ備える低圧回転機であって,
前記コイル5cは,自己融着電線10を少なくとも1つ備え,
前記自己融着電線10を巻回することで前記コイル5cを形成し,また,前記自己融着電線10はエナメル層10aを備えるエナメル線の外周層に自己融着被覆層10bを設けたものであって,
前記コイル5cの巻回の前に,前記エナメル層10aを備えるエナメル線の外周層に自己融着被覆層10bを設け,前記自己融着被覆層10bは,前記自己融着電線10のエナメル線間を一体に接着し固化するポリエステル系,シリコーン系,エポキシ系,変成エポキシ系等の熱硬化性樹脂で構成され,
前記コイル5cと前記コイル5cが形成された前記固定子との間には,スロット絶縁8が介在し,
前記スロット絶縁8は,基材81と,前記基材81の両面に融着材層82を設けて,スロット絶縁8を,前記コイル5c及び前記コイル5cが形成された前記固定子の鉄心スロット2に接着し,
前記融着材層82は,ポリエステル系,シリコーン系,エポキシ系,変成エポキシ系等の熱硬化性樹脂であり,これらの自己融着被覆層10bと融着材層82は,低圧回転機の加熱200℃-2日の劣化試験条件を含む絶縁特性評価試験で従来法と比して,同等以上の特性を有し,より安定した絶縁性能を有する熱硬化性樹脂を有し,
前記コイル5cが少なくとも1つ設けられた前記固定子が,固定子である低圧回転機。」

(3)対比
そこで,本願補正発明と引用発明とを対比する。

まず,後者の「コイル5c」は前者の「巻線(32,62)」に,その機能からして相当する。同様に,前者の「部材(14,16)」は本件補正後の【請求項1】及び【請求項5】からすると「回転子」あるいは「固定子」であるから,後者の「固定子」は前者の「部材(14,16)」に相当する。そして,後者の「低圧回転機」は前者の「電気回転装置」及び「回転電動機械」に,それぞれ相当する。

さて,後者の「自己融着電線10」はエナメル層10aを備えるエナメル線を含み,技術常識からすればエナメル線は銅線に絶縁用エナメルを塗装焼き付けしエナメル層10aを設けた電線といえるので,後者の「自己融着電線10」のエナメル層10aを備えるエナメル線が含む「銅線」は前者の「導電要素(34)」に相当する。
そうすると,まず,後者の「コイル5cは,自己融着電線10を少なくとも1つ備え」る態様は前者の「巻線は,導電要素(34)を少なくとも1つ備え」る態様に相当する。また,後者の「巻回する」態様は前者の「巻付けられる」態様に相当するから,結局,後者の「自己融着電線10を巻回することでコイル5cを形成」する態様は,前者の「導電要素(34)が巻き付けられることで巻線を形成」する態様に相当する。さらに,後者の「エナメル層10aを備えるエナメル線」の銅線に絶縁用エナメルを塗装焼き付けしエナメル層10aを設ける態様は前者の「導電要素には電気絶縁材料の少なくとも1つの層(36)がコートされ」る態様に相当するから,結局,後者の「自己融着電線10はエナメル層10aを備えるエナメル線の外周層に自己融着被覆層10bを設けたものであ」る態様は前者の「導電要素には電気絶縁材料の少なくとも1つの層(36)がコートされ」る態様に相当する。そして,後者の「巻回の前」は前者の「巻付けの前」に,後者の「エナメル層10aを備えるエナメル線」は前者の「絶縁材料のコートを有する導電要素(34)」に,後者の「自己融着被覆層10b」は前者の「接続層(72)」に,それぞれ相当し,後者の「エナメル層10aを備えるエナメル線の外周層に自己融着被覆層bを設け」る態様は前者の「絶縁材料のコートを有する導電要素が接続層で被覆され」る態様に相当する。以上のことから結局,後者の「コイル5cは,自己融着電線10を少なくとも1つ備え,前記自己融着電線10を巻回することで前記コイル5cを形成し,また,前記自己融着電線10はエナメル層10aを備えるエナメル線の外周層に自己融着被覆層10bを設けたものであって,前記コイル5cの巻回の前に,前記エナメル層10aを備えるエナメル線の外周層に自己融着被覆層bを設け,」る態様は前者の「巻線は,導電要素(34)を少なくとも1つ備え,前記導電要素(34)が巻き付けられることで前記巻線を形成し,また,前記導電要素には電気絶縁材料の少なくとも1つの層(36)がコートされ,前記巻線の巻付けの前に,前記絶縁材料のコートを有する前記導電要素(34)が接続層(72)で被覆され」る態様に相当する。
続いて,後者の「自己融着電線10のエナメル線間」は前者の「絶縁材料のコートを有する導電要素(34)の隣接し合う部分同士」に,後者の「一体に接着し固化する」態様は前者の「互いに接合する」態様に,後者の「ポリエステル系,シリコーン系,エポキシ系,変成エポキシ系等の熱硬化性樹脂」は前者の「第1の接続材料(73)」に,後者の「構成され」る態様は前者の「成」る態様に,それぞれ相当するから,結局,後者の「自己融着被覆層10bは,前記自己融着電線10のエナメル線間を一体に接着し固化するポリエステル系,シリコーン系,エポキシ系,変成エポキシ系等の熱硬化性樹脂で構成され」る態様は前者の「接続層(72)は,絶縁材料のコートを有する導電要素(34)の隣接し合う部分同士を互いに接合する第1の接続材料(73)から成」る態様に相当する。
そして,後者の「スロット絶縁8」は前者の「電気絶縁性のリーフ(44,100)」及び「絶縁リーフ(44,100)」に,後者の「基材81」は前者の「電気絶縁性の構造要素(74)」及び「絶縁性構造要素(74)」に,後者の「両面に」は前者の「少なくとも一方の面上に」に,後者の「融着材層82」は前者の「第2の接続材料(76)」に,後者の「固定子の鉄心スロット2」は前者の「部材(14,16)」に,後者の「接着」は前者の「結合」に,それぞれ相当し,後者の「設け」る態様と前者の「少なくとも部分的に塗布される」態様とは,「設けられる」との概念で共通するから,結局,後者の「コイル5cと前記コイル5cが形成された固定子との間には,スロット絶縁8が介在し,前記スロット絶縁8は,基材81と,前記基材81の両面に融着材層82を設けて,スロット絶縁8を,前記コイル5c及び前記コイル5cが形成された前記固定子の鉄心スロット2に接着し」た態様と前者の「巻線(32,62)と前記巻線が形成された部材(14,16)との間には,電気絶縁性のリーフ(44,100)が介在し,前記絶縁リーフ(44,100)は,電気絶縁性の構造要素(74)を備え,前記絶縁性構造要素(74)の少なくとも一方の面上には,第2の接続材料(76)が少なくとも部分的に塗布されることにより,前記絶縁リーフ(44,100)を,前記巻線(32,62)又は前記巻線が形成された前記部材(14,16)に結合し」た態様とは,「巻線と前記巻線が形成された前記部材との間には,電気絶縁性のリーフが介在し,前記絶縁リーフは,電気絶縁性の構造要素を備え,前記絶縁性構造要素の少なくとも一方の面上には,第2の接続材料が少なくとも部分的に設けられることにより,前記絶縁リーフを,前記巻線又は前記巻線が形成された前記部材に結合し」との概念で共通している。
また,後者の「ポリエステル系,シリコーン系,エポキシ系,変成エポキシ系等の熱硬化性樹脂であ」る態様と前者の「第1の接続材料(73)と同じであ」る態様とは「特定の材料であ」るとの概念で共通している。
さらに,後者の「これらの自己融着被覆層10bと融着材層82」は前者の「これらの接続材料」に相当し,後者の「低圧回転機の加熱200℃-2日の劣化試験条件を含む絶縁特性評価試験で従来法と比して,同等以上の特性を有し,より安定した絶縁性能を有する」態様と前者の「回転電動機械の最大作動温度以下の温度において硬化物の機械的特性の低下がない」態様とは「所定の性能の」態様との概念で共通し,後者の「熱硬化性樹脂」は前者の「熱硬化性のポリマー」に相当しているから,結局,後者の「融着材層82は,ポリエステル系,シリコーン系,エポキシ系,変成エポキシ系等の熱硬化性樹脂であり,これらの自己融着被覆層10bと融着材層82は,低圧回転機の加熱200℃-2日の劣化試験条件を含む絶縁特性評価試験で従来法と比して,同等以上の特性を有し,より安定した絶縁性能を有する熱硬化性樹脂を有し」と前者の「第2の接続材料(76)は,前記第1の接続材料(73)と同じであり,これらの接続材料(73,76)は,前記回転電動機械の最大作動温度以下の温度において硬化物の機械的特性の低下がない熱硬化性のポリマーを有し」とは,「第2の接続材料は,特定の材料であり,これらの接続材料は,所定の性能の熱硬化性のポリマーを有し」との概念で共通している。
最後に,後者の「固定子」と前者の「回転子」とは,「電機子」との概念で共通している。

したがって,両者は,

「巻線が少なくとも1つ形成された部材を少なくとも1つ備える電気回転装置であって,
前記巻線は,導電要素を少なくとも1つ備え,
前記導電要素が巻き付けられることで前記巻線を形成し,また,前記導電要素には電気絶縁材料の少なくとも1つの層がコートされ,
前記巻線の巻付けの前に,前記絶縁材料のコートを有する前記導電要素が接続層で被覆され,前記接続層は,前記絶縁材料のコートを有する前記導電要素の隣接し合う部分同士を互いに接合する第1の接続材料から成り,
前記巻線と前記巻線が形成された前記部材との間には,電気絶縁性のリーフが介在し,
前記絶縁リーフは,電気絶縁性の構造要素を備え,前記絶縁性構造要素の少なくとも一方の面上には,第2の接続材料が少なくとも部分的に設けられることにより,前記絶縁リーフを,前記巻線又は前記巻線が形成された前記部材に結合し,
前記第2の接続材料は,特定の材料であり,これらの接続材料は,所定の性能の熱硬化性のポリマーを有し,
前記巻線が少なくとも1つ設けられた前記部材が,電機子である回転電動機械。」

の点で一致し,以下の点で相違している。

[相違点1]
絶縁性構造要素の面上に,第2の接続材料が設けられることに関し,本願補正発明は,「塗布される」のに対し,引用発明は,「設けた」点。
[相違点2]
第2の接続材料の「特定の材料」に関し,本願補正発明は,「第1の接続材料と同じである」のに対し,引用発明は,「ポリエステル系,シリコーン系,エポキシ系,変成エポキシ系等の熱硬化性樹脂である」点。
[相違点3]
熱硬化性のポリマーの「所定の性能」に関し,本願補正発明は,「回転電動機械の最大作動温度以下の温度において硬化物の機械的特性の低下がない」のに対し,引用発明は「低圧回転機の加熱200℃-2日の劣化試験条件を含む絶縁特性評価試験で従来法と比して,同等以上の特性を有し,より安定した絶縁性能を有する」点。
[相違点4]
「電機子」に関し,本願補正発明は,「回転子」であるのに対し,引用発明は「固定子」である点。

(4)判断
上記相違点について以下検討する。

・相違点1について
絶縁性構造要素の面上に,第2の接続材料が設けられる際の,具体的手段は適宜採用し得るところ,一般的に合成樹脂を表面に設ける手段として塗布を行うことは慣用手段にすぎないし,本願補正明細書において塗布されることにより格別な効果を奏することの記載もない。
そうすると,上記慣用手段からして,引用発明を上記相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは,当業者が容易に想到し得る事項にすぎないものというべきである。

・相違点2について
まず,引用発明において,自己融着被覆層10bは,ポリエステル系,シリコーン系,エポキシ系,変成エポキシ系等の熱硬化性樹脂で構成され,融着材層82は,ポリエステル系,シリコーン系,エポキシ系,変成エポキシ系等の熱硬化性樹脂であり,両者共に同じ熱硬化性樹脂が例示されているから,引用発明は,第2の接続材料の「特定の材料」に関し,第1の接続材料と同じであることが示唆されている(以下,「引用発明の示唆1」という。)。
また,例えば,特開平5-68359号公報(【請求項1】「固定子鉄心に所定のピッチで形成されたスロット内にマグネットワイヤを複数タ-ン巻回して固定子コイルを形成するものにおいて,前記スロットの内壁面に沿ってあらかじめ挿入された自己融着性薄葉材からなるスロット絶縁層と,その内側に自己融着性マグネットワイヤを自動インサータ方式により複数ターン巻回してなる固定子コイルと,前記スロットの開口部を塞ぐよう挿入された自己融着性薄葉材からなるくさびとを備え,加熱融着処理されて全体が一体化してなることを特徴とする低電圧回転機の固定子巻線。」及び段落【0019】「図3はこの発明における自己融着性薄葉材の構成を示す断面図であり,自己融着性薄葉材31は,耐熱性フィルム基材32と,その一方の面に固着した自己融着性接着層33との2層構造のシートまたはテープとして構成される。耐熱性フィルム基材32としては,・・・などが用いられ,自己融着性接着層33としては自己融着性マグネットワイヤ15の自己融着層と同系の樹脂を用いることが好ましく,例えばポリブチルブチラ-ル系,ポリエステル系,ポリアミド系樹脂が用いられ,その厚みは5?50μmの範囲で固定子コイルの材料構成に対応して決められる。」等参照)にも開示されているように,第2の接続材料(「自己融着性接着層33」が相当)は,第1の接続材料(「自己融着性マグネットワイヤ15の自己融着層」が相当)と同じである(「同系の樹脂を用いる」が相当)ようにすることは,お互いに融着するものを同じ材料にすることは一般的に行われることであるように,回転電動機械の巻線の分野における慣用技術である。
さらに,本願補正明細書において上記特定の材料の採用により格別な効果を奏することの記載もない。
そうすると,上記引用発明の示唆1及び上記慣用技術からして,引用発明を上記相違点2に係る本願補正発明の構成とすることは,当業者が容易に想到し得る事項にすぎないものというべきである。

・相違点3について
まず,引用発明は,所定の性能とし「低圧回転機の加熱200℃-2日の劣化試験条件を含む絶縁特性評価試験で従来法と比して,同等以上の特性を有し,より安定した絶縁性能を有する」のであって,高温下での劣化試験条件を含む評価試験によって良好な性能を示すのであるから,引用発明も「回転電動機械の最大作動温度以下の温度において硬化物の機械的特性の低下がない」ことが示唆されている(以下,「引用発明の示唆2」という。)。
また,一般的に材料選択は設計的事項であって,「回転電動機械の最大作動温度以下の温度において硬化物の機械的特性の低下がない」ように材料を選択することは,製品製作における技術常識からして,当業者にとって格別なこととはいえない。
さらに,本願補正明細書において上記所定の性能により格別な効果を奏することの記載もない。
そうすると,上記引用発明の示唆2及び上記技術常識からして,引用発明を上記相違点3に係る本願補正発明の構成とすることは,当業者が容易に想到し得る事項にすぎないものというべきである。

・相違点4について
引用例の段落【0001】には「この発明は,回転電機の絶縁コイル,・・・の絶縁構成に関する。」と記載されており,回転電機の絶縁コイルとしては,固定子の絶縁コイルと回転子の絶縁コイルとがあることは回転電機の技術分野の自明の事項であるから,引用例には引用発明の固定子を回転子とすることが示唆されているといえる(以下,「引用例の示唆」という。)。
また,例えば,特開平1-225008号公報に,「回転電機の固定子に用いた融着線(23)の硬化の場合について述べたが,回転子コイルやソレノイドコイルなどの導電体に含浸した融着線(23)の硬化にも本発明は適用できる。」(3頁左下欄3-6行)と記載され,特開昭59-32344号公報に,「本実施例によれば,界磁コイル5をボンデイングワイヤを用いて形成し,更に,この界磁コイル5の側面と周面部にセミキュア接着シート28,29を貼り付けてから爪形磁極4A,4Bをボス24に圧入した後,乾燥炉にて前記セミキュア接着シート28,29を溶解させることにより,界磁コイル5の空隙部及び爪形磁極4A,4Bと界磁コイル5との空隙部を埋めて回転子を製作することにより,均一な樹脂厚みと均一な接着力とが得られ,遠心力及び冷熱ショックによる樹脂の飛散をなくす効果があり,回転子の高速回転時にも十分耐え(「絶え」は誤記と認める。)得る効果がある。」(3頁左上欄7-18行)と記載され,特開平11-178264号公報に「【従来の技術】電圧が440〔V〕以下の低圧配電系統に接続されて使用される誘導電動機や誘導発電機などの低圧電気機械では,その電機子(固定子や巻線型誘導電動機の回転子など)巻線には,周知のマグネットワイヤを用いることが一般である。このマグネットワイヤに自己融着性マグネットワイヤを用いるようにした低圧電気機械が,特開昭53-88901号公報や同じ出願人より出願された特開平5-68359号公報などにより公知となっている。」(段落【0002】)と記載されているように,電機子の融着型の巻線を固定子或いは回転子に適用することは周知技術である。
そうすると,上記引用例の示唆及び上記周知技術からして,引用発明を上記相違点4に係る本願補正発明の構成とすることは,当業者が容易に想到し得る事項にすぎないものというべきである。

そして,本願補正発明の全体構成により奏される作用効果も,引用発明,上記慣用手段,上記引用発明の示唆1,上記慣用技術,上記引用発明の示唆2,上記技術常識,上記引用例の示唆及び上記周知技術から当業者が予測し得る範囲内のものである。
したがって,本願補正発明は,引用発明,上記慣用手段,上記引用発明の示唆1,上記慣用技術,上記引用発明の示唆2,上記技術常識,上記引用例の示唆及び上記周知技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
以上のとおりであって,本件補正は,改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下を免れない。

3.本願の発明について
本件補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下,同項記載の発明を「本願発明」という。)は,平成23年12月7日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,以下のとおりのものである。
「 巻線(32,62)が少なくとも1つ形成された部材(14,16)を少なくとも1つ備える電気回転装置であって,
前記巻線は,導電要素(34)を少なくとも1つ備え,
前記導電要素(34)が巻き付けられることで前記巻線を形成し,また,前記導電要素には電気絶縁材料の少なくとも1つの層(36)がコートされ,
前記巻線の巻付けの前に,前記絶縁材料のコートを有する前記導電要素(34)が接続層(72)で被覆され,前記接続層(72)は,前記絶縁材料のコートを有する前記導電要素(34)の隣接し合う部分同士を互いに接合する第1の接続材料(73)から成り,
前記巻線(32,62)と前記巻線が形成された前記部材(14,16)との間には,電気絶縁性のリーフ(44,100)が介在し,
前記絶縁リーフ(44,100)は,電気絶縁性の構造要素(74)を備え,前記絶縁性構造要素(74)の少なくとも一方の面上には,第2の接続材料(76)が少なくとも部分的に塗布されることにより,前記絶縁リーフ(44,100)を,前記巻線(32,62)又は前記巻線が形成された前記部材(14,16)に結合し,
前記第2の接続材料(76)は,前記第1の接続材料(73)と同じであり,これらの接続材料(73,76)は,前記回転電動機械の最大作動温度以下の温度において硬化物の機械的特性の低下がない熱硬化性のポリマーを有していることを特徴とする回転電動機械。」

(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例,及び,その記載事項は,前記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は,前記「2.(1)」で検討した本願補正発明から「部材が,回転子である」限定を省いたものである。

そうすると,本願発明の構成要件を全て含み,さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が,前記「2.(3)及び(4)」に記載したとおり,引用発明,上記慣用手段,上記引用発明の示唆1,上記慣用技術,上記引用発明の示唆2,上記技術常識,上記引用例の示唆及び上記周知技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,上記相違点4に関し引用発明と実質同一である本願発明も,同様の理由により,引用発明,上記慣用手段,上記引用発明の示唆1,上記慣用技術,上記引用発明の示唆2及び上記技術常識に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおり,本願発明は,引用発明,上記慣用手段,上記引用発明の示唆1,上記慣用技術,上記引用発明の示唆2及び上記技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないため,本願は,同法第49条第2号の規定に該当し,拒絶をされるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-03-13 
結審通知日 2013-03-19 
審決日 2013-03-27 
出願番号 特願2002-500519(P2002-500519)
審決分類 P 1 8・ 572- Z (H02K)
P 1 8・ 121- Z (H02K)
P 1 8・ 575- Z (H02K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 天坂 康種  
特許庁審判長 田村 嘉章
特許庁審判官 槙原 進
仁木 浩
発明の名称 回転電動機械およびその構成要素を製造する方法  
代理人 森 浩之  
代理人 中馬 典嗣  
代理人 竹沢 荘一  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ