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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C12N 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C12N |
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管理番号 | 1277602 |
審判番号 | 不服2010-11794 |
総通号数 | 165 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-09-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-06-02 |
確定日 | 2013-08-06 |
事件の表示 | 特願2006- 16175「ブタからの離乳後多全身系消耗症候群ウイルス」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 7月20日出願公開、特開2006-187289〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本願発明 本願は,1998年(平成10年)12月11日(パリ条約による優先権主張 1997年12月11日及び1997年12月16日,米国)を国際出願日とする出願である特願2000-524308号の一部を,平成18年1月25日に分割出願したものであって,平成22年1月29日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,平成22年6月2日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに,特許請求の範囲について,補正前の請求項2?52を削除し,補正前の請求項1に記載された「第3B図に記載のPCVIIアミノ酸配列(配列番号5)」をより明確なものとするために,具体的なアミノ酸配列で特定する手続補正がなされたものと認められる。 そして,本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,平成22年6月2日の手続補正書により補正された請求項1に記載された以下の事項により特定されるものと認められる。 「【請求項1】 PCVIIを検出するためのプローブとして使用するための,又はPCVIIの診断試薬又はPCVIIに対するワクチン抗原として使用可能なポリペプチドの生成のための,以下のアミノ酸配列に対して少なくとも85%の同一性を有するPCVIIに特異的なアミノ酸配列の25個以上の隣接アミノ酸をコードする単離されたポリヌクレオチド: MTYPRRRYRRRRHRPRSHLGQILRRRPWLVHPRHRYRWRRKNGIFNTRLSRTFGYTVKRT TVTTPSWAVDMMRFKIDDFVPPGGGTNKISIPFEYYRIRKVKVEFWPCSPITQGDRGVGS TAVILDDNFVTKATALTYDPYVNYSSRHTIPQPFSYHSRYFTPKPVLDSTIDYFQPNNKR NQLWLRLQTSGNVDHVGLGTAFENSKYDQDYNIRVTMYVQFREFNLKDPPLEP。」 この請求項1において特定されたアミノ酸配列は,配列表の配列番号5の配列に相当するので,以下,単に「アミノ酸配列5」という。 なお,平成22年6月2日の手続補正書により配列表が補正され,B9株の配列について,配列番号12の46番目の塩基がaからgに,また配列番号24の1086番目の塩基がaからtに補正されている。平成22年7月16日の請求の理由を変更する手続補正書によれば,「補正された配列表は出願当初の本願明細書又は図面に記載された配列であり、それらはまた原出願の明細書又は図面に記載された配列でもあります」とのことであるが,補正された配列は,出願当初の本願明細書又は図面にも,原出願の明細書又は図面にも記載されていない。 2.原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由の概要は,次の理由(1)及び(2)を含むものである。 (1)例えば,請求項1に記載されたアミノ酸配列(配列番号5)に対して少なくとも85%の同一性を有するPCVIIに特異的なアミノ酸配列については,発明の詳細な説明には,そのような同一性を有するアミノ酸配列の25個以上の隣接アミノ酸を所望の機能を失わせずにどのような手法を用いて取得するのか,所望の機能を失わないアミノ酸の位置や数について何ら示されておらず,「85%」という数値にどのような技術的又は臨界的意義があるのか明確に記載されておらず,また,それらのことが本出願時の技術常識から明らかであるとは認められない。よって,アミノ酸配列5に対して少なくとも85%の同一性を有するPCVIIに特異的なアミノ酸配列の25個以上の隣接アミノ酸の中には,所望の機能を有しないものが多数含まれることになり,その中から所望の機能を有するものを選択するためには,当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験を行う必要があると認められる。 したがって,本願発明について,発明の詳細な説明が当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められず,本願は,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 (2)請求項1には「・・・同一性を有するPCVIIに特異的なアミノ酸配列の25個以上の隣接アミノ酸をコードする単離されたポリヌクレオチド」と記載されているが、「同一性」の数値だけでは「PCVIIに特異的なアミノ酸配列」の具体的なアミノ酸配列は想定できないので、それの「25個以上の隣接アミノ酸」がどのようなアミノ酸配列からなるものなのか想定できない。 したがって,特許請求の範囲の請求項1の記載が不明確となり,本願は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 3.本願請求項1の「PCVIIに特異的なアミノ酸配列」の意味について 平成24年12月19日付ファクシミリにより,請求人に対し,「以下のアミノ酸配列に対して少なくとも85%の同一性を有するPCVIIに特異的なアミノ酸配列」の意味するところについて回答を求めたところ,平成25年1月17日付回答書において,「PCVIIに特異的なアミノ酸配列」とは,PCVI等の他のシルコウイルスには存在せずPCVIIをそれらから区別する配列を意味するとの回答がなされた。つまり,PCVIIに存在し,請求項1に記載されたアミノ酸配列に対して85%の同一性を有するアミノ酸配列であるが,PCVI等の他のシルコウイルスには存在しないアミノ酸配列を意味するものであると認められる。 したがって,以下においては,そのような解釈を前提として,上記2.の理由(1)及び(2)について検討する。 4.理由(1)についての判断 (1)本願発明のポリヌクレオチドがコードするアミノ酸配列について 本願発明を当業者が実施するためには, i)アミノ酸配列5に対して少なくとも85%の同一性を有するPCVIIに特異的なアミノ酸配列を取得し,次いで, ii)取得したアミノ酸配列の25個以上の隣接アミノ酸をコードする単離されたポリヌクレオチドの中から,PCVIIを検出するためのプローブとして使用できるか,又はPCVIIの診断試薬又はPCVIIに対するワクチン抗原として使用可能なポリペプチドの生成ができるものを選択する ことが必要となる。 ここで,上記i)の工程を実施するためには, a)アミノ酸配列5に対して少なくとも85%の同一性を有する変異配列(以下単に「85%同一配列」という。)であって,PCVIIに特異的なアミノ酸配列を作成する手法,及び b)天然に存在するPCVII株を取得し,そのアミノ酸配列5に対応するアミノ酸配列が,85%同一配列であり,PCVIIに特異的なアミノ酸配列性であることを確認する手法, の二種類の手法が考えられ,それぞれの配列について,上記ii)の様なスクリーニングを行うことにより,本願発明のポリヌクレオチドが得られることになる。以下,上記a)及びb)の双方の場合についてそれぞれ検討する。 a)変異配列を作成し,その中から本願発明に相当するものを選択する場合 アミノ酸配列5に対して少なくとも85%の同一性を有する配列を取得するには,まず,人為的に突然変異してアミノ酸配列5を変更する方法が考えられる。本願明細書の段落【0022】にも,「機能に悪影響を及ぼさない方法でコードされたアミノ酸配列を変更するために,ヌクレオチドの変化はしばしば望ましい。」と,また,段落【0076】にも,「所望のPCVIIタンパク質の突然変異またはアナローグを産生することが望ましいことがある。突然変異またはアナローグは,タンパク質をコードする配列の一部分の欠失により,配列の挿入により,および/または配列内の1または2以上のヌクレオチドの置換により,製造することができる。ヌクレオチド配列を修飾する技術,例えば,部位特異的突然変異誘発は,例えば,下記の文献に記載されている・・・・。」と人為的な突然変異に関して説明されている。 ここで,「PCVIIに特異的なアミノ酸配列」は,アミノ酸配列5に対する85%同一配列をさらに特定するものであり,上記3.で示したようにPCVIIのみが有し,他のウイルス等は有さない配列を意味するものと解される。 しかし,アミノ酸配列5は全長233アミノ酸からなる配列であり,85%同一配列は,その種々の位置において,34アミノ酸残基が変更されたものまで含むものである。そして,変更の後のアミノ酸の種類は20数種類あり得るのであるから,85%同一配列には,天文学的な種類のアミノ酸配列が含まれることになる。 そして,本願発明に至るためには,ある85%同一配列が,天然に存在するPCVIIが有するポリヌクレオチドがコードするアミノ酸配列か否かを確認する必要がある。しかし,PCVIIには未発見のものも含めて多くの種類の変異株が存在しうるものと認められるが,膨大な種類の85%同一配列のうち,天然株が有するものはほんの一部であり,ほとんどのものはPCVIIの天然株が有していない,つまり実際には存在しないアミノ酸配列であることは明らかである。したがって,そのような確認及び選択をすることは実質的に不可能である。 しかも,これらの各種アミノ酸配列が「PCVIIに対するワクチン抗原として使用可能」であるためには,単に抗体を誘導するだけでは不十分であり,一般的にはまれにしか存在しない中和エピトープを含むものであって中和抗体を誘導するものであることが必要であり,このような配列の確認及び選択はさらに困難である。 b)天然に存在するPCVII株を取得し,それから本願発明に相当するものを選択する場合 次に,85%同一配列を取得するのに,天然に存在するPCVIIを取得する方法がある。明細書の段落【0008】及び【0055】にも,「これらのDNA配列の部分は,臨床的試料中のウイルスの存在を診断し,そしてウイルスの他の天然に存在する変異型を単離するプローブとして有用である。」及び「本発明の有用な材料および方法は,各々が新規なPCVIIウイルスの全体のゲノムを含有する,ヌクレオチド配列の1ファミリーの発見により可能となる。このファミリーのポリヌクレオチドの入手可能性は,まず,小さい異種性により異なるゲノムのファミリーの他のメンバーの単離を可能とする。」と説明されてはいる。 ここで,本願明細書には,PMWSのブタから,3つのPCVIIを単離したことが記載され,段落【0060】には,PCVIIの種々の単離物の間でヌクレオチド配列の相同性の百分率は,99%より高い同一性であることが記載されている。このことからすれば,本願で明らかにされたPCVIIの配列情報を利用して,さらに多くのPMWSのブタからPCVIIを単離し,その配列を調べれば,もう少し同一性の低いPCVIIが得られる可能性はあるといえる。しかし,そもそもこのように低い同一性のORF6配列を有するPCVIIが,そもそも自然界に存在しているかどうかも不明であって,それがPMWSのブタから取得できるとはいえない。そうすると,85%程度の低い同一性のアミノ酸配列をORFに持つPCVIIを得るためだけにも,成功の見込みもないまま,多くの宿主となる可能性のある動物から,PCVIIの単離を試みるという,過度の試行錯誤が当業者に必要である。 また,例えそのような配列が得られたとしても,本願発明においては,得られた配列をもとに,ORF6のアミノ酸配列の25個以上の隣接アミノ酸が,PCVIIの診断試薬又はPCVIIに対するワクチン抗原として使用可能かどうかを調べるという試行錯誤を,さらに当業者に課すものであり,過度の試行錯誤が当業者に必要であるといわざるを得ない。 しかも,上記(2)で述べたように,「PCVIIに対するワクチン抗原として使用可能」なアミノ酸配列の確認及び選択はさらにに困難である。 (2)本願発明のうち,ポリヌクレオチドのPCVIIを検出するためのプローブとして使用するものについて 本願の請求項1の記載において,このようなプローブとして使用するポリヌクレオチドは,特定のアミノ酸配列をコードするものとして特定されており,特定の塩基配列の特定はされていない。 しかし,25個以上の隣接アミノ酸をコードする単離されたポリヌクレオチドには,コドンの縮重を考慮すれば,同じアミノ酸配列をコードするものであっても,非常に多くの種類のポリヌクレオチドを包含することになる。そのなかには,PCVIIが有するORF6の塩基配列に対して相同性が高くないものも多く含まれ,それらは特定の塩基配列を有するPCVIIを検出するためのプローブとして使用することができないものである。そうすると,本願発明を実施するためには,成功の期待もないまま,多くの種類のポリヌクレオチドがPCVIIを検出するためのプローブとして使用できるかどうかを確かめるという,過度の試行錯誤が当業者に必要である。 (3)小括 以上検討したように,本願発明を実施するには,いずれの場合にも過度の試行錯誤が当業者に必要であり,発明の詳細な説明が,当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められず,本願は特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 5.理由(2)についての判断 上記3.で述べたように,「PCVIIに特異的なアミノ酸配列」は,PCVIIのみが有し,他のウイルス等は有さない配列という意味と解されるが,PCVIIには種々の変異株が存在しうるところ,どのような配列が各種のPCVIIに存在する(他のウイルスから区別する)配列といえるのかについては不明確であり,具体的配列を想起することが困難である。 また,本願明細書に,PMWSのブタから,3つのPCVIIを単離したことが記載され,段落【0060】には,PCVIIの種々の単離物の間でヌクレオチド配列の相同性の百分率は,99%より高い同一性であることが記載されてはいるものの,アミノ酸配列5に対して85%程度の低い同一性しかないアミノ酸配列をORFに持つようなPCVIIについては何ら説明されていないし,85%程度の低い同一性のアミノ酸配列をORFに持つPCVIIが,そもそも自然界に存在しているかどうかも不明である。そうすると,少なくとも85%という「同一性」の数値だけで特定される天文学的な数の種類のアミノ酸配列のうち,いずれが「PCVIIに特異的なアミノ酸配列」であるか全く明らかでないから,その具体的なアミノ酸配列が想定できるものでなく,特許請求の範囲の記載が明確であるとはいえない。 以上のように,本願発明について,特許請求の範囲の記載が明確でないので,本願は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 6.むすび 以上のとおり,本願発明について,本願は特許法第36条第4項及び第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 したがって,本特許出願は拒絶すべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-03-12 |
結審通知日 | 2013-03-18 |
審決日 | 2013-03-26 |
出願番号 | 特願2006-16175(P2006-16175) |
審決分類 |
P
1
8・
536-
Z
(C12N)
P 1 8・ 537- Z (C12N) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 高堀 栄二 |
特許庁審判長 |
鵜飼 健 |
特許庁審判官 |
田中 晴絵 冨永 みどり |
発明の名称 | ブタからの離乳後多全身系消耗症候群ウイルス |
代理人 | 箱田 篤 |
代理人 | 浅井 賢治 |
代理人 | 小川 信夫 |
代理人 | 熊倉 禎男 |
代理人 | 箱田 篤 |
代理人 | 滝澤 敏雄 |
代理人 | 箱田 篤 |
代理人 | 山崎 一夫 |
代理人 | 熊倉 禎男 |
代理人 | 浅井 賢治 |
代理人 | 山崎 一夫 |
代理人 | 滝澤 敏雄 |
代理人 | 熊倉 禎男 |
代理人 | 小川 信夫 |
代理人 | 滝澤 敏雄 |
代理人 | 小川 信夫 |
代理人 | 浅井 賢治 |
代理人 | 山崎 一夫 |