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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E02B |
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管理番号 | 1277640 |
審判番号 | 不服2012-6492 |
総通号数 | 165 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-09-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2012-04-10 |
確定日 | 2013-08-08 |
事件の表示 | 特願2007- 40980「津波による漂流物を捕捉する構造物」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 9月 4日出願公開、特開2008-202339〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,平成19年2月21日の出願であって,平成24年1月13日付けで拒絶査定がなされ,これに対して平成24年4月10日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。 第2 本件発明 本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,平成23年12月14日受付の手続補正書で補正された請求項1に記載の以下のとおりのものと認める。 「【請求項1】 津波の影響を受ける可能性のある陸上に設置する構造物であって、 支柱で支持した水平支持材と、 水平支持材から吊り下げ可能に設置したスクリーンとよりなり、 スクリーンは、漂流物の衝撃を緩衝する緩衝機能、漂流物を捕捉する捕捉機能、および水が透過する透過機能を具えるように構成し、 スクリーンの一部に穴あき材よりなる避難口を設けて構成した、 津波による漂流物を捕捉する構造物。」 第3 刊行物及びその記載事項 1 刊行物1 現査定の拒絶の理由に引用され,本願出願前に頒布された刊行物である特開2006-83659号公報(以下,「刊行物1」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。 (1a)「【特許請求の範囲】 【請求項1】(略) 【請求項2】 津波の影響を受ける可能性のある陸上に設置する構造物であって、 支柱と、支柱間に配置したスクリーンとよりなり、 スクリーンは、緩衝機能と捕捉機能、および水が透過することが可能な透過機能を具えるように構成した、 津波による漂流物を捕捉する構造物。」 (1b)「【0010】 <4>緩衝機能。 スクリーン1に緩衝機能および捕捉機能を付与するために、膜、ネットなどの弾力性のある材料で形成し、さらにアラミド繊維などの強い繊維で補強する。 これらの膜やネットは、漂流物が衝突した場合に衝撃のエネルギーを吸収でき(緩衝機能)、かつ、漂流物をできるかぎり損傷させることなく捕捉する(捕捉機能)ことができる。」 上記記載によれば,刊行物1には,次の発明(以下,「刊行物1記載の発明」という。)が記載されている。 「津波の影響を受ける可能性のある陸上に設置する構造物であって、 支柱と、支柱間に配置したスクリーンとよりなり、 スクリーンは、漂流物が衝突した場合に衝撃のエネルギーを吸収できる緩衝機能と漂流物をできるかぎり損傷させることなく捕捉する捕捉機能、および水が透過することが可能な透過機能を具えるように構成した、 津波による漂流物を捕捉する構造物。」 2 刊行物2 現査定の拒絶の理由に引用され,本願出願前に頒布された刊行物である特開2004-305737号公報(以下,「刊行物2」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。 (2a)「【0062】 図43の実施形態は、河川1041に到来することのある津波に対するもので、図の左下方向が下流であり、この河川1041には、津波の通る両脇に垂直で高い支柱1042の一対を立設し、さらにこれら一対の支柱1042を相前後して2段、3段…のように配備しておき、各支柱1042回りにガイドパイプ1043を介して左右に拡がるワイヤメッシュ製の船舶等の受止ネット1044を昇降自在に高位置に待機させておくものとする。受止ネット1044は、通常はシーブ1045…と牽きワイヤ1046により河岸上に引っ張り固定されており、津波の到来を検知すると、このワイヤ1046を緩めることで緊急に下降させるものとする。これにより、受止ネット1044が津波に乗って川下からくる船舶・木材などを受け止めるとともに到来する津波に対抗しかつ微細にエネルギー分散することで津波を弱体化する。・・・」 (2b)図43には,以下の記載がある。 図43から,支柱1042の上部には支柱どうしを結ぶ「直線」が描かれていること,そして,それらの直線のうち,左上・左下・右上の各直線については,そのほぼ中間点にシーブ1045(符号の1045は省略されていると解される)が描かれ,牽きワイヤ1046はシーブ1045を経由して受止ネット1044の上端で終わっていることが看取できる。 図43のこれら記載から,支柱1042の上部にある支柱どうしを結ぶ「直線」は,そのほぼ中間点に描かれたシーブ1045を支持するなどの部材(以下,「直線支持部材」という。)であり,支柱1042で支持されていること,また,当該直線支持部材が支柱の上部に水平に設けられていることは当業者に明らかである。そして,引っ張り固定している牽きワイヤ1046が受止ネット1044の上端で終わっているから,受止ネット1044は,牽きワイヤ1046及びシーブ1045を介して当該直線支持部材に吊り下げ可能であるということができる。 そうすると,刊行物2には次の発明(以下,「刊行物2記載の発明」という。)が記載されているといえる。 「支柱で支持した水平な直線支持部材と,水平な直線支持部材に吊り下げ可能な受止ネットからなる,津波に乗って川下からくる船舶・木材などを受け止める構造物。」 3 刊行物3 現査定の拒絶の理由に引用され,本願出願前に頒布された刊行物である特開2003-111860号公報(以下,「刊行物3」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。 (3a)「【0001】 【発明の属する技術分野】この発明は、建造物の区画間を、防火と防煙を兼ねる(この発明において、防火煙という)性質と可撓性とをもつ仕切体で仕切るとともに、この仕切体の所定部分を開閉し得るようにして、避難者の脱出を可能にした装置(この発明において、防火煙用仕切装置という)に関するものである。 【0002】 【従来の技術】こうした防火煙用仕切装置として、例えば、図22・図23の防火煙用仕切装置500の構成(以下、第1従来技術という)が周知である。図22において、建造物(建造物全体は図示せず)に設けた開口部Aは区画Bと区画Cとの間に設けたものであり、例えば、人の通行口である。なお、区画B・区画Cは、いずれか一方が建造物の外部である場合を含むものである。 【0003】,【0004】(略) 【0005】そして、開口部Aは、図23のように、火災発生時には、防火煙性と可撓性とを有する仕切体100、例えば、ガラス繊維、シリカ繊維などの織布などで閉塞することにより、火災側の区画、例えば、区画Bから他の非火災区画、例えば、区画Cに火炎と煙りとが入り込まないようにしている。逆に、区画Cが火災側で区画Bが非火災区画の場合も同様に閉塞していることは言うまでもない。 【0006】?【0010】(略) 【0011】仕切体100を閉塞したままでは、避難者が閉じ込められてしまうので、図24のように仕切体100の下方の中央部分を開閉可能にした構成(以下、第2従来技術という)が特開平10-15099号公報などにより開示されている。 【0012】図24において、開閉部分150は、仕切体100に切り込みを入れて四角形に切り取った開口部分151を避難者の通行穴にしてあり、この開口部分151と、その両側に設けた所定の幅a・bをもつ重なり部分152・153とを覆うようにした覆蓋体154を設けて構成してある。」 上記記載によれば,刊行物3には,次の発明(以下,「刊行物3記載の発明」という。)が記載されている。 「防火防炎用仕切装置において,仕切体100を閉塞したままでは、避難者が閉じ込められてしまうので、仕切体100の下方の中央部分を開閉可能にした構成であって,開閉部分150は、仕切体100に切り込みを入れて四角形に切り取った開口部分151を避難者の通行穴にしてあり、この開口部分151と、その両側に設けた所定の幅a・bをもつ重なり部分152・153とを覆うようにした覆蓋体154を設けた構成」 第4 対比・判断 (1)対比 本願発明と刊行物1記載の発明とを対比すると, 刊行物1記載の発明における「漂流物が衝突した場合に衝撃のエネルギーを吸収できる緩衝機能」及び「漂流物をできるかぎり損傷させることなく捕捉する捕捉機能」は,本願発明における「漂流物の衝撃を緩衝する緩衝機能」及び「漂流物を捕捉する捕捉機能」に相当するから,両者は, 「津波の影響を受ける可能性のある陸上に設置する構造物であって、 スクリーンは、漂流物の衝撃を緩衝する緩衝機能、漂流物を捕捉する捕捉機能、および水が透過する透過機能を具えるように構成した、 津波による漂流物を捕捉する構造物。」 で一致し,以下の点で相違する。 ア 相違点1 本願発明では,「支柱で支持した水平支持材と,水平支持材から吊り下げ可能に設置したスクリーンとよりな」るものであるのに対し,刊行物1記載の発明では,「支柱と,支柱間に配置したスクリーンとよりな」る点。 イ 相違点2 本願発明では「スクリーンの一部に穴あき材よりなる避難口を設けて」いるのに対し,刊行物1記載の発明ではそのような構成を有していない点。 (2)判断 上記相違点について検討する。 ア 相違点1について 上記刊行物2記載の発明における「水平な直線支持部材」は本願発明における「水平支持部材」に相当し,同様に「受止ネット」は「スクリーン」に,「津波に乗って川下からくる船舶・木材などを受け止める」は「津波による漂流物を捕捉する」に相当するから,刊行物2には,本願発明の表現にならえば, 「支柱で支持した水平支持材と、 水平支持材から吊り下げ可能に設置したスクリーンとよりなる、 津波による漂流物を捕捉する構造物。」 の発明が記載されている。 刊行物1記載の発明と刊行物2記載の発明とは,両者とも津波時の漂流物の捕捉が可能なスクリーンを備えた構造物に関するものとして技術分野が関連するから,相違点1に係る構成とすることは当業者が容易に想到し得たことである。 イ 相違点2について 刊行物1記載の発明及び刊行物3記載の発明は,前者が津波,後者は火災に対するものではあるものの,両者とも早急に避難すべき避難者が生じる状況下にある点で共通しており,さらに,前者はスクリーンによって,後者は仕切体によって,避難者の通行が妨げられるものであるから,両者はその技術分野が関連しているといえる。 そして,後者が問題としている仕切体が閉塞したままでは避難者が閉じ込められてしまう状況は,スクリーンを利用する刊行物1記載の発明においても生じること,さらに両者とも避難者が早急に避難できるよう避難経路を確保すべきことは明らかであるので,刊行物1記載の発明において,刊行物3記載の発明の開口部分及び覆蓋体のような避難口の付加が望ましいことは,当業者において認識されるところである。また,その具体化にあたって,覆蓋体はスクリーンの一部に設けられ,スクリーンの一部を構成するのであるから,スクリーンと同等の機能を有する部材とすることは普通に想定されることである。そうすると,刊行物1発明におけるスクリーンが水の透過機能等を有することにかんがみ,スクリーンの一部に設ける避難口の具体的構成として,スクリーンと同様の部材,すなわち「穴あき材」として,相違点2に係る構成とすることは当業者が容易に想到し得たことである。 また,このような構成を採用したことによる作用効果(透水性材料で構成しておけば,津波のエネルギーによって破壊されることがない(審判請求書第7ページ第4?6行))は,当業者が予測可能な範囲のものである。 請求人は,審判請求書において,(a)阻害要因が存すること,すなわち本願発明は海水は透過させてしまう思想をその基本としているのに対し,刊行物3は「防煙」であるから,気体を透過させないために開発されたものであり課題解決の前提が全く反対である旨,(b)上位概念による拒絶査定であること,すなわち「仕切り体と避難扉をほぼ同じ部材で構成すること」という上位概念を抽出しそれを一般化して本願発明を容易に発明できたとして拒絶査定したものである旨,を主張している。 しかしながら,(a)について,刊行物3は【0011】,【0012】に記載されるように,仕切体を閉塞したままでは避難者が閉じ込められてしまうので,仕切体に避難者の通行穴を設けたものであり,このような課題は,仕切体が海水あるいは気体を透過させるか否かに関わらず,仕切体を避難者が通過できない状況下において生じることは明らかであるから,刊行物3が気体を透過させない仕切体を対象としていることと仕切体の一部に避難口を設けることとは直接に関連するものではなく,この点が阻害要因となるものとはいえない。また,(b)について,上述のようにスクリーンの一部に設けられ,スクリーンの一部を構成する覆蓋体は,スクリーンと同等の機能を有する部材とすることが普通に想定されることであって,事実,刊行物3の覆蓋体や特開2001-17561号公報(拒絶査定時の例示文献)の避難扉が防煙の機能を有していることをもって「仕切り体と避難扉をほぼ同じ部材で構成すること」が周知であるとしたものと解され,普通に想定されることを指摘したに過ぎないから,格別,上位概念化したものとはいえない。仮に拒絶査定時の指摘は上位概念化したものであったとしても,相違点2に係る構成とすることは,上述したように当業者が容易に想到し得たことである。 よって,請求人の主張は採用できない。 ウ まとめ 本願発明の作用効果は,刊行物1ないし刊行物3に記載された発明から当業者が予測可能な範囲のものである。 したがって,本願発明は,刊行物1ないし刊行物3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 第5 むすび 以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 そうすると,このような特許を受けることができない発明を包含する本願は,本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく拒絶されるべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-05-31 |
結審通知日 | 2013-06-11 |
審決日 | 2013-06-24 |
出願番号 | 特願2007-40980(P2007-40980) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(E02B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 本郷 徹 |
特許庁審判長 |
高橋 三成 |
特許庁審判官 |
中川 真一 筑波 茂樹 |
発明の名称 | 津波による漂流物を捕捉する構造物 |
代理人 | 山口 朔生 |