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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B23K
管理番号 1277642
審判番号 不服2012-6497  
総通号数 165 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-04-10 
確定日 2013-08-08 
事件の表示 特願2006- 85326「厚鋼板の多電極サブマージアーク溶接方法」拒絶査定不服審判事件〔平成19年10月11日出願公開、特開2007-260684〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯・本件出願の発明
本件出願は、平成18年3月27日の特許出願であって、同23年4月18日付けで拒絶の理由が通知され、同23年6月27日に意見書及び手続補正書が提出され、その後、同23年12月28日付けで拒絶の査定がなされたものである。
その後、平成24年4月10日に拒絶査定を不服とする審判請求がなされるとともに、同日付けで特許請求の範囲及び明細書を補正対象書類とする手続補正書が提出され、その後、同24年12月25日付けで当審より拒絶の理由が通知され、同25年3月8日に意見書及び手続補正書が提出された。
本件出願の特許請求の範囲に係る発明は、平成25年3月8日付けの手続補正書によって補正された特許請求の範囲、明細書、及び出願当初の図面の記載からみて、上記特許請求の範囲の請求項1ないし2に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「3電極以上の多電極サブマージアーク溶接において、第1電極および第2電極としてワイヤ径が1.8mm以上3.2mm以下のワイヤを用い、そのうち少なくとも第1電極については、フラックスとしてSiO_(2)-CaO-CaF_(2)を主成分とする溶融型フラックスを用いたフラックスコアードワイヤを適用し、また第1電極への給電は直流定電圧電源を用いて、730A以上1400A以下の電流で、電流密度を130A/mm^(2)以上とし、一方第2電極への給電は交流電源を用いて、電流密度を95A/mm^(2)以上とし、しかも溶接ワイヤの中心で測定する第1電極と第2電極間の距離が18mm以下で、第1電極の傾斜角度が溶接進行方向に対して-15°?+15°で、かつ後行の電極の傾斜角度が直前の電極に対して0?30°とし、さらに溶接速度が150?280cm/minの条件下で溶接することを特徴とする板厚が10mm以上の厚鋼板の多電極サブマージアーク溶接方法。」

2 各引用刊行物記載の発明・事項
これに対して、当審での平成24年12月25日付けの拒絶の理由に引用された、本件出願前である昭和59年3月13日に頒布された特開昭59-45097号公報(以下「引用刊行物1」という。)、同じく本件出願前である昭和55年9月3日に頒布された特開昭55-114471号公報(以下「引用刊行物2」という。)には、それぞれ、以下の発明が記載されている。
(1) 引用刊行物1
ア 第1ページ右下欄第3行-第14行、なお、以下、丸付き数字の○は「丸」と表示した。
「この発明は、大径鋼管製管溶接用として有用な多電極サブマージアーク溶接法に関する。
大径ラインパイプの製管溶接は通常、丸1 外面からの仮付溶接、丸2 内面本溶接、丸3 外面本溶接、の3つの溶接からなる。ここで仮付溶接は2?6m/minの高速で溶接して問題はない。周知のとおり本溶接はサブマージアーク溶接法によるのが通例であるが、この場合、1インチを超える厚肉のラインパイプを対象とするような場合には、1電極溶接法では通常溶接速度が1m/min以下でないとハンビングビードが発生し、安定した溶接が不可能となる、つまり高速溶接が望めない。」
イ 第2ページ左下欄末行-第3ページ左上欄第1行
「そこで本発明は、高CaF_(2)フラツクスと複合ワイヤを併用して溶接欠陥のきわめて少ない溶接金属を得ることを可能にする多電極サブマージアーク溶接法の提供を目的とするものである。
すなわち本発明の要旨とするところは、重量%で、SiO_(2)5?25%、MnO0.5?15%、CaO5?25%、MgO5?20%、Al_(2)O_(3)2?20%、TiO_(2)2?10%、BaO1?5%、CaF_(2)20?60%に、必要に応じB_(2)O_(3)0.1?1.5%を含有し、残り不可避的不純物からなり、(CaO+MgO)/SiO_(2)=1.5?3.0を満たす溶融型フラツクスを用い、電極の1本または2本以上に複合芯線を使用するとともに、先行電極に直流電源を用いることを特徴とする大径鋼管製管溶接用多電極サブマージアーク溶接法、にある。
本発明者らは、高CaF_(2)溶融型フラツクスに複合ワイヤを併用する多電極サブマージアーク溶接におけるスラグ巻込みの溶接欠陥の発生を有効に防ぐ方法を見い出すべく、鋭意実験、検討を重ねた結果、上記多電極溶接において先行電極に直流電源を使用することにより、アークの安定化が図られ、上記溶接欠陥の発生がきわめて効果的に低減されるとの知見を得た。」
ウ 第3ページ左上欄第12行-右上欄第4行
「第1図はこのような先行電極直流化によるアーク安定化の効果を示す実験データである。これは、高CaF_(2)フラツクスを使用して3電極溶接(第1極目だけ複合ワイヤ使用)を行なつた場合の第2極目の再点弧電圧を測定した結果であり、丸・は全電極に交流を使用した場合、▲は第1極目にのみ直流を用いた場合、を各示している。同図は、先行電極に直流を用いることにより、後に続く交流使用の電極の再点弧電圧が有効に低減されることを示している。
なお、先行電極にだけ直流を用いるのであれば、隣接アークどおしの干渉が問題となるようなことがないのも云う迄もない。」
エ 第4ページ左上欄第8行-右上欄第4行
「次に、本発明の実施例について比較例と併せて詳細に述べる。
第1表に示す化学成分をもつラインパイプの本溶接を、第2表に示す3種の条件の多電極サブマージアーク溶接法により行なつた。第2表中、ワイヤW_(1)?W_(3)(なお、第2表中、「W_(3)」は存在しないので、「W_(2)」の誤記と認める。)は第3表に示すものである使用したフラツクスは高CaF_(2)溶融型フラツクスで、組成は第3表(なお、フラツクスの組成は第4表に示されているので、「第3表」は「第4表」誤記と認める。)のとおりである。
上記各溶接の際、交流使用の電極について再点弧電圧(平均)を測定した。また得られたビードについては、スラグ巻込みの溶接欠陥の発生状況を調査し、溶接欠陥発生部位の長さの合計×100ビード全長(%)によつて溶接欠陥発生率を求めた。結果をまとめて第4表(なお、溶接欠陥発生率は第5表に記載されているので、「第4表」は「第5表」の誤記と認める。)に示す。」
オ 第4ページの第2表
第2表には、本発明法Bに関し、第1電極として、DC電源、溶接電流1050A、アーク電圧33V、ワイヤにW1を使用し、第2電極として、AC電源、溶接電流850A、アーク電圧38V、ワイヤにW2を使用し、第3電極として、AC電源、溶接電流800A、アーク電圧42V、ワイヤにW2を使用し、溶接速度1900mm/minで溶接することについて示されている。
カ 第4ページの第3表及び第4表
第3表には、複合ワイヤW1、及びソリッドワイヤW2の金属組成について記載されており、また、第4表には、複合ワイヤW1のフラツクスの成分として、SiO_(2)を14.0wt%、MnOを3.0wt%、CaOを16.0wt%、CaF_(2)を44.0wt%、Al_(2)O_(3)を8.0wt%、MgOを7.5wt%、TiO_(2)を4.0wt%、BaOを3.0wt%、B_(2)O_(3)を0.5wt%とすることが示されている。
キ 第4ページの第5表
第5表には、本発明法Bに関し、溶接による欠陥発生率が7%であることが示されている。
ク ここで、摘記事項アの「1インチを超える厚肉のラインパイプを対象とするような場合」の記載から、溶接される鋼板の板厚は1インチ以上であることが理解できる。
また、第2表の本発明法Bでは、3つの電極を用い、第1極の電流が1050A、電圧が33V、第2電極の電流が850A、電圧が38V、第3電極の電流が800A、電圧が42V、溶接速度が1900mm/minであるから、溶接入熱を計算すると、約31.8kJ/cmとなる。
ケ 引用刊行物1記載の発明
以上アないしキの記載事項、及びクの認定事項から、引用刊行物1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「3電極の多電極サブマージアーク溶接において、第1電極として、フラツクスとしてSiO_(2)を14.0wt%、MnOを3.0wt%、CaOを16.0wt%、CaF_(2)を44.0wt%、Al_(2)O_(3)を8.0wt%、MgOを7.5wt%、TiO_(2)を4.0wt%、BaOを3.0wt%、B_(2)O_(3)を0.5wt%含有する複合ワイヤW1を適用し、また第1電極への給電は直流電源を用いて、1050Aの電流とし、一方第2電極への給電は交流電源を用い、さらに溶接速度が1900mm/minの条件下で溶接する板厚が1インチ以上の鋼板のサブマージアーク溶接法B。」(以下「引用発明1」という。)
(2) 引用刊行物2
コ 明細書第1ページ左下欄第11行-第15行
「本発明は片面潜弧溶接法に係り、特に、-30℃以下で用いられる厚さ16mm以下の低温用鋼等の片面1層溶接において、溶接継手の靱性を確保するための溶接入熱50KJ/cm以下の低入熱片面潜弧溶接の施工法に関するものである。」
サ 明細書第2ページ左上欄第14行-右上欄第3行
「本発明者らはかかる低温用鋼の溶接施工法の研究を重ねた結果、ここに新しい片面潜弧溶接の施工法を提案するものである。即ち、本発明は多電極片面潜弧溶接において、電極ワイヤとして2?3.5mmφの細径ワイヤを使用すると共に先行電極には直流電源を使用し、且つ被溶接物の開先形状を30?45度のY又はV開先とすることを特徴とする低入熱片面潜弧溶接法である。なお本発明においては低入熱とは溶接入熱量50KJ/cm以下を言うものである。」
シ 明細書第2ページ右上欄第5行-左下欄第18行
「まず、本発明においてワイヤは2?3.5mmφの細径を使用する。即ち細径ワイヤを使用することにより、ワイヤ先端のアーク発生位置が下り、且つ溶接電流密度を大きくすることによつて低電流でも深溶込みを得ることを期待したものであり、更に先行電極に直流電源を用いることによつて低電圧溶接を行い安定した裏波ビードを得るものである。
この場合ワイヤ径を2?3.5mmφに限定したのは、2mmφ未満では使用電流が低く溶込みが不足し板付ビードの影響を受け、該影響個所では良好な裏波ビードが得られず、また、3.5mmφ超では電流密度が小さくなるために良好な裏波ビードを得るためには高電流が必要となり、母材熱影響部の高温域における靱性の確保が困難となるからである。
また先行電極のみに直流電源を使用するのは以下の理由である。第1図に先行電極として交流を用いた場合(a)、及び直流を用いた場合(b)における夫々の先行ビード3の凝固形態を示す。この場合は片面潜弧溶接であるのでバツキング材1には裏フラツクスを用いており、裏フラツクスには保温性がありビード3を冷却せず従つて裏フラツクス側から柱状晶が成長することはない。先行電極に交流を用いた場合(a)はアーク電圧が高いのでワイヤ先端のアーク発生位置が高くなるため、熱源が高くなり柱状晶4は被溶物2、2’の両側から横向き方向に成長し中央にて会合するいわゆる突合せ凝固を示し、その結果会合部で縦われ5が発生し易い。一方先行電極に直流を用いた場合(b)はアーク電圧が低くなるのでワイヤ先端のアーク発生位置は低くなり、従つて熱源が低くなり柱状晶4は下方を向いて成長するいわゆる下向き凝固を示し、不純物を排出し易く縦われは発生しない。」
ス 明細書第3ページ左上欄第2行-第6行
「実施例
第2表に示す如く溶接材料を用い、板厚14mmのKL24Bを用いて第3表に示すNo.1?No.12について2電極片面1層潜弧溶接をフラツクスバツキング法で実施した。」
セ 明細書第3ページの第3表
第3表の実施例No.3を参照すると、先行電極の極性がDC、ワイヤ径3.2mmφ、溶接電流850A、後行電極の極性がAC、ワイヤ径3.2mmφ、溶接電流450Aを用い、溶接速度62cm/min、電極間隙100mm、入熱量33.7KJ/cmで潜弧溶接すると、溶接結果が良好であることが示されている。
ソ 引用刊行物2記載の発明
以上コないしセの記載事項から、引用刊行物2には、以下の発明が記載されていると認められる。
「2電極潜弧溶接において、先行電極及び後行電極としてワイヤ径が3.2mmφのワイヤを用い、また先行電極への給電は直流電源を用いて、850Aの電流とし、後行電極への給電は交流電源を用いて、450Aの電流とし、先行電極と後行電極の電極間隙が100mmとし、溶接速度が62cm/minの条件下で溶接する板厚14mmの低温用鋼の潜弧溶接方法。」(以下「引用発明2」という。)

3 対比
本願発明と引用発明1を対比すると、引用発明1の「フラツクスとしてSiO_(2)を14.0wt%、MnOを3.0wt%、CaOを16.0wt%、CaF_(2)を44.0wt%、Al_(2)O_(3)を8.0wt%、MgOを7.5wt%、TiO_(2)を4.0wt%、BaOを3.0wt%、B_(2)O_(3)を0.5wt%含有する複合ワイヤW1」は、本願発明の「フラックスとしてSiO_(2)-CaO-CaF_(2)を主成分とする溶融型フラックスを用いたフラックスコアードワイヤ」に相当する。
引用発明1の「板厚が1インチ以上の鋼板」は、本願発明の「板厚が10mm以上の厚鋼板」に相当する。
以上の点から、両者は以下の点で一致し、また、以下の点で相違している。
<一致点>
「3電極の多電極サブマージアーク溶接において、第1電極および第2電極としてワイヤを用い、そのうち少なくとも第1電極については、フラックスとしてSiO_(2)-CaO-CaF_(2)を主成分とする溶融型フラックスを用いたフラックスコアードワイヤを適用し、また第1電極への給電は直流電源を用いて、1050Aの電流とし、一方第2電極への給電は交流電源を用いて、溶接速度が190cm/minの条件下で溶接する板厚が10mm以上の厚鋼板の多電極サブマージアーク溶接方法。」
<相違点1>
第1電極および第2電極として用いられるワイヤに関して、本願発明では、「ワイヤ径が1.8mm以上3.2mm以下のワイヤ」と特定しているのに対して、引用発明1では、第1電極および第2電極に用いられるワイヤ径に関して不明な点。
<相違点2>
第1電極への給電に関して、本願発明では、「直流定電圧電源」としているのに対して、引用発明1では、直流電源ではあるものの、定電圧であるかどうかは不明な点。
<相違点3>
第1電極、第2電極へ給電する電流密度に関して、本願発明では、「第1電極への給電は電流密度を130A/mm^(2)以上」とし、また、「第2電極への給電は電流密度を95A/mm^(2)以上」としているのに対して、引用発明1では、第1電極、第2電極へ給電する電流密度について不明な点。
<相違点4>
各電極間の距離及び各電極の傾きに関して、本願発明では、「溶接ワイヤの中心で測定する第1電極と第2電極間の距離が18mm以下で、第1電極の傾斜角度が溶接進行方向に対して-15°?+15°で、かつ後行の電極の傾斜角度が直前の電極に対して0?30°」と特定しているのに対して、引用発明1では、各電極の傾斜角度や電極間の間隙について不明な点。

4 当審の判断
上記相違点について検討する。
ア <相違点1>について
引用発明2は、「2電極潜弧溶接において、先行電極及び後行電極としてワイヤ径が3.2mmφのワイヤを用い、また先行電極への給電は直流電源を用いて、850Aの電流とし、後行電極への給電は交流電源を用いて、450Aの電流とし、先行電極と後行電極の電極間隙が100mmとし、溶接速度が62cm/minの条件下で溶接する板厚14mmの低温用鋼の潜弧溶接方法。」である。ここで、引用発明2の「2電極」が多電極と言えることは明らかであり、引用発明2の「潜弧溶接」が本願発明の「サブマージアーク溶接」に相当することは明らかであり、引用発明2の「先行電極及び後行電極」が本願発明の「第1電極及び第2電極」に相当し、引用発明2の「板厚14mmの低温用鋼」が本願発明の「板厚が10mm以上の厚鋼板」に相当するから、引用発明2は、「多電極サブマージアーク溶接において、第1電極および第2電極としてワイヤ径が3.2mmのワイヤを用い、また第1電極への給電は直流電源を用いて、850Aの電流とし、一方第2電極への給電は交流電源を用いて、450Aの電流とし、さらに溶接速度が62cm/minの条件下で溶接する板厚が10mm以上の厚鋼板の多電極サブマージアーク溶接方法。」と言い換えることができる。そして、引用発明1も引用発明2も多電極を用いた厚鋼板のサブマージアーク溶接に関する方法であることから、引用発明1における第1電極および第2電極のワイヤを引用発明2記載の3.2mmのワイヤとすることは、阻害要因も見当たらないことからすれば、当業者にとって容易になし得た程度の事項と考えざるを得ない。
イ <相違点2>について
サブマージアーク溶接に用いる直流電源として定電圧のものを用いることは、例示するまでもなく従来周知の事項であることからすれば、引用発明1において、第1電極に用いられる直流電源を定電圧のものとすることは、当業者にとって格別困難なことではない。
ウ <相違点3>について
多電極サブマージアーク溶接において、ワイヤ径を細くすることにより電流密度を高くすれば低電流でも深溶込みを得られることは引用刊行物2の摘記事項シに記載されているところ、引用発明1において、第1電極に、電流1050Aのままで引用発明2の3.6mmφのワイヤを用いれば、電流密度が約130A/mm^(2)と計算され、第2電極に、電流850Aのままで引用発明2の3.6mmφのワイヤを用いれば、電流密度が約106A/mm^(2)と計算される上、サブマージアーク溶接において電極へ給電する電流密度を130A/mm^(2)以上とすることは、例えば、特公昭58-11313号公報(特許請求の範囲参照。)、特公平6-30817号公報(第4ページの第1表参照。ワイヤ径及び溶接電流から、電流密度が130A/mm^(2)以上と計算される。)、特開昭52-82652号公報(第2ページの第1表参照。ワイヤ径及び溶接電流から、電流密度が130A/mm^(2)以上と計算される。)に示されるように従来周知の事項であることからすれば、引用発明1においても、第1電極に給電する電流密度を130A/mm^(2)以上とし、第2電極に給電する電流密度を第1電極の電流密度よりも低くてもよい値である95A/mm^(2)以上とすることは、当業者にとって格別困難なことではない。
エ <相違点4>について
多電極サブマージアーク溶接において、第1電極と第2電極間の距離を18mm以下、また第1電極の傾斜角度が溶接進行方向に対して-15°?+15°で、かつ後続の電極の傾斜角度が直前の電極に対して0?30°とすることは、当審における拒絶理由において引用している特開昭58-135766号公報(第4ページの第1表及び図面の第3図を参照。)に示されているように従来周知の事項であることからすれば、引用発明1においても、先行電極の傾斜角度を溶接進行方向に対して-15°?+15°で、後続の後行電極の傾斜角度を先行電極の傾斜角度に対して0?30°とし、第1電極と第2電極間の距離を18mm以下とすることは、当業者が容易になし得たものである。
オ <作用ないし効果>について
多電極サブマージアーク溶接において、第1電極にフラックス入りワイヤを用いることが溶接欠陥の少ない溶接金属を得ることが引用刊行物1に記載され(摘記事項イ参照。)、第1電極に細径ワイヤを用いることが低電流で深溶込みの溶接部を得ることが引用刊行物2に記載され(摘記事項シ参照。)ている以上、本願発明によってもたらされる作用ないし効果については、引用発明1ないし引用発明2、及び従来周知の事項から予想し得る範囲のものでしかない。

5 むすび
したがって、本願発明は、引用刊行物1ないし2に記載された各発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、請求項2に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-06-05 
結審通知日 2013-06-11 
審決日 2013-06-26 
出願番号 特願2006-85326(P2006-85326)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B23K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中島 昭浩  
特許庁審判長 野村 亨
特許庁審判官 刈間 宏信
長屋 陽二郎
発明の名称 厚鋼板の多電極サブマージアーク溶接方法  
代理人 杉村 憲司  
代理人 吉田 憲悟  

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