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審決分類 審判 判定 同一 属する(申立て成立) H04M
管理番号 1277746
判定請求番号 判定2013-600009  
総通号数 165 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2013-09-27 
種別 判定 
判定請求日 2013-04-17 
確定日 2013-07-19 
事件の表示 上記当事者間の特許第3605751号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号物件の取扱説明書及び写真に示す「電話機」は、特許第3605751号の請求項1に係る発明の技術的範囲に属する。 
理由 1.請求の趣旨
本件判定請求の趣旨は、イ号物件の取扱説明書及び写真に示す「電話機」(以下、単に、「イ号物件」という。)が、特許第3605751号の請求項1に係る発明(以下、「本件特許発明」という。)の技術的範囲に属するとの判定を求めるものである。

2.本件特許発明
本件特許発明は、明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものであり、その構成要件を符号を付して分説して記載すると次のとおりである(以下、「構成要件A」等という。)。

「A.キー入力時、キー毎にそれぞれ異なるキー確認音が鳴動するように設定する第1の手段と、
B.この第1の手段によりそれぞれ異なるキー確認音が鳴動するように設定された状態において、
C.特定情報入力時は、キー確認音を一定の確認音にする、あるいはキー確認音の鳴動を停止させる第2の手段とを具備し、
D.第2の手段は、通信中、相手側からの情報により特定情報入力時を判別すること
E.を特徴とする電話機。」

3.イ号物件
(1)イ号物件の取扱説明書(甲第3号証)及び一連の動作を収録したDVD映像(甲第6号証)から、イ号物件が、携帯電話機(SA002)であることが明らかである。
(2)甲第3号証の323頁には、「キー操作などの操作音を設定する(M23)」と記載され、さらに、同324頁には、「キー操作音(M231)」、「キーを押したときの操作音の音量を設定します。「Level5」?「Level1」「OFF」」と記載されている。
そして、被請求人の提出したSA002の動作確認(1)のDVD映像(乙第7号証)からは、「Level5」から「OFF」に選択操作をして、キー操作音が鳴動しないように設定できること、甲第6号証からは、キー操作音が消されていた状態で、「Level5」を選択操作して、キー操作音が鳴動するよう設定できることが明らかであるから、イ号物件は、キー操作音の音量を設定する手段を具備していると認められる。
(3)甲第4?7号証及び乙第1、7、8号証から、イ号物件において、鳴動するキー操作音はDTMF音であり、キー毎に異なる音であることが明らかである。
(4)甲第3号証の153頁には、「EZwebメニューを表示する」と題し、インターネットへの接続手順が記載されていること、さらに、甲第6、8号証及び乙第1、6?8号証から、イ号物件は、インターネットに接続して通信することができることが明らかである。
(5)甲第6号証及び乙第1、6?8号証から、イ号物件は、インターネットに接続して、Webページを表示し、Webページ中のパスワード入力欄を選択して、パスワードを入力する時は、キー操作音が一定音(入力するキーの操作音がすべて同じ音)となることが認められる。
そして、甲第7号証及び乙第1、6号証から、イ号物件がインターネットから受信するWebページは、HTMLデータで構成され、HTMLデータ中の<input type=“password”>という情報に基づいてパスワード入力欄が表示されるものと認められるので、イ号物件は、インターネットから受信するHTMLデータ中の<input type=“password”>情報に基づいて表示されるパスワード入力欄を選択して、パスワードを入力する時、キー操作音が一定音となるよう制御する手段を具備していると認められる。

以上のことから、甲第3?5、7、8号証の記載事項、甲第6号証のDVD映像の内容及び乙第1、6号証の記載事項、乙第2、7、8号証のDVD映像の内容を総合すると、イ号物件は、次のとおりの構成を具備するものと認められる(以下、「構成a」等という。)。

「a.キー入力時、キー毎に異なるキー操作音(DTMF音)の鳴動する音量を設定する手段と、
b.前記音量を設定する手段によりキー毎に異なるキー操作音(DTMF音)が鳴動するように設定された状態において、
c.インターネットに接続し、表示されたパスワード入力欄を選択して、パスワードを入力する時は、キー操作音が一定音となるよう制御する手段とを具備し、
d.前記パスワード入力欄は、インターネットから受信するHTMLデータ中の<input type=“password”>情報に基づいて表示される
e.携帯電話機。」

4.被請求人の主張
(1)構成要件A、Bの「それぞれ異なるキー確認音」について
被請求人は、「本件発明の構成要件A、Bにおいては、電話機のキー入力時に、キー毎にそれぞれ『異なるキー確認音』が鳴動するように設定されているが、ここでいう『異なるキー確認音』の技術的意義については、・・・必ずしも一義的に明確とは言えない・・・」とし、本件明細書【0003】?【0005】、【0007】、【0016】、【0022】の記載に基づき、「構成要件A及びBにいう『異なるキー確認音』の技術的意義は、キー毎の確認音を、異なる音階(音程)の音や、あらかじめ記憶しておいた音声などの異なる種類の音とすることを意味し、・・・人間の耳によって聞き分けることができない程度の微細な差異があるにすぎない場合は、構成要件A及びBにいう『異なるキー確認音』には当たらない。・・・」と主張するとともに、「イ号物件は、乙第1号証記載のとおり、キー入力時に、DTMF音(いわゆるプッシュ信号、トーン信号)からなるキー操作音が鳴動するものである。
上記キー操作音(DTMF音)は、0?9までの数字キー及び『*』と『#』の合計12のキーについて、3種の高い周波数群からなる音と、4種の低い周波数群からなる音とを、それぞれ2つずつ組合わせるものであって、12のキーに対し、それぞれ12の組合せが割り当てられるものではあるが、人間の耳には、せいぜい3種の音、ないし4種の音として聞き分けられる程度に過ぎないから、到底、『どの数字キーを押下したかも確認音・・・で確認でき』るようなものではないし、『数字を入力する毎に確認音・・・から秘密にしておきたい暗証番号やパスワードおよびPINコードなどが他人に知られてしまう恐れ』が生じるというようなものでもない・・・。
したがって、イ号物件でキーを押したときに鳴動するDTMF音は、本件発明の構成要件A及びBにいう『キー毎にそれぞれ異なるキー確認音』には該当しない。」と主張し、さらに、「なお、電話機の数字キーを押下したときにDTMF音を鳴動させることは、本件特許出願時においては周知慣用技術であり、多くの電話機において当たり前のように採用されていたものであり、本件出願当時、請求人自身も当該技術を使用した携帯電話機を製造販売していたものである(乙2?5。なお、乙2及び3に示すとおり、請求人の製造販売に係る携帯電話機である『J-PHONE DP134』(1998年2月製)においてもキー操作音にDTMF音が採用されている。)。にもかかわらず、本件明細書においては、『異なるキー確認音』の例として、音階とする例と、音声など他の種類の確認音とする例のみが挙げられ、キー確認音としてDTMF音を採用した例については何ら言及されていない。これは、DTMF音の一つ一つを人間の耳によって聞き分けることは困難であるから、請求人自身、DTMF音は『キー毎にそれぞれ異なるキー確認音』に当たらないと考えていたからにほかならない。このことからも、本件発明の『キー毎にそれぞれ異なるキー確認音』にDTMF音が含まれていないことは明らかというべきである。」と主張している。

(2)構成要件A、Bの「それぞれ異なるキー確認音が鳴動するように設定する第1の手段」について
被請求人は、「構成要件A、Bにおいては、電話機のキー入力時に、キー毎にそれぞれ異なるキー確認音が鳴動するように『設定』するものとされている。
ここでいう『設定』の技術的意義については、・・・必ずしも一義的に明確であるとは言えない・・・」とし、本件明細書【0003】?【0006】、【0008】、【0015】、【0016】の記載に基づき、「構成要件A及びBにいう『設定』とは、電話機の使用者(ユーザー)が電話機を操作することによって、複数の種類のキー確認音の候補(例えば、高い音、低い音、音階)の中から、特定の種類のキー確認音を選んで設定することを意味することは明らかである。・・・キーごとにそれぞれ異なるキー確認音が鳴動するように『設定』する、と言えるためには、『異なるキー確認音』と『それ以外の確認音』の選択肢が存在し、その中から使用者が前者を選ぶべく電話機を操作して『設定』する、といえる場合でなければならないのである・・・
これに対し、イ号物件のキー操作音は、DTMF音に固定された仕様であり(乙1、甲3の323?324頁)、使用者には、これと異なるキー確認音を選ぶ選択肢は与えられていないから、『・・・設定する第1の手段』が存在しない。したがって、イ号物件が、本件発明の構成要件A及びBにいう『それぞれ異なるキー確認音が鳴動するように設定』する第1の手段との構成を満たしていないことは明らかである。」と主張し、さらに、「イ号物件においては、たとえキー操作音を音量『OFF』に調節した場合であっても、パスワードのキー入力の都度、一定音を音量『OFF』に調節して鳴動するものである(乙6、7。乙7に示すとおり、音量OFFの状態でWebページにおけるパスワード入力欄を選択し、その後、音量を上げると、キー操作音として一定音が鳴動する。)。本件発明は、第1の手段により『設定』された状態において、キー操作音を一定音又は無音にするという第2の手段が動作するという構成であるところ、仮に、請求人主張のように、イ号物件におけるキー操作音の音量の調節をもって、構成要件A、Bの『設定』に当たると解したとすれば、イ号物件においては、第1の手段によってどのような設定をしようとも(音量をONにしようと、OFFにしようと)、第2の手段が動作するということになり、構成要件Bは、全く技術的意味のない要件になってしまう。・・・」と主張している。

(3)構成要件Dの「通信中、相手方からの情報により特定情報入力時を判別する」について
被請求人は、本件明細書の記載を参酌しても、構成要件Dの「通信中、相手方からの情報により特定情報入力時を判別する」(以下「本件判別構成」という。)の技術的意義は全く明らかではない旨主張するとともに、本件判別構成が、本件明細書【0019】に示された技術的意義を有するものであると仮定した上で、以下の主張をしている。

(3-1)「相手側からの情報により・・・判別する」との構成について
被請求人は、「イ号物件においては、・・・サーバーからHTMLデータ中に『input type=“password”』のタグがある情報を受け取った後、操作者がパスワード入力欄の選択操作をするか、パスワード入力欄の選択操作をせずにパスワード入力欄へのキー入力を行って初めて(以後、操作者によるパスワード入力欄の選択操作、パスワード入力欄の選択操作をせずにパスワード入力欄へのキー入力をする操作の両方を併せて『パスワード入力欄の選択操作』と総称する。)、キー操作音を一定音にする動作が行われる。・・・相手側からの情報が送られてきた場合であっても、操作者が上記操作を行わない限り、キー操作音が一定音となることはない(ID欄への入力時にはDTMF音が鳴動する。)し、・・・操作者が、パスワード入力欄の選択操作をせずにパスワード入力欄へのキー入力を行った場合、当該1回目のキー入力については、DTMF音のキー操作音が鳴動するのであって、一定音にする動作自体が行われないものである(乙8)。
したがって、イ号物件は、操作者のパスワード入力欄の選択操作により判別を行い、キー操作音を一定音とする動作をするものであるから、本件判別構成における『相手側からの情報により・・・判別する』との構成を充たさない」と主張し、さらに、「・・・本件判別構成の技術的意義は『通信中に基地局から暗証番号の入力を促すアナウンスや信号が送られてきた場合に、それらを端末が自動認識して、以後キー入力が暗証番号入力であると判断する』というものであると解されるところ、『相手側からの情報』である基地局からのアナウンスや信号が送られてきた場合に、『以後キー入力が暗証番号入力であると判断する』というのであるから、本件判別構成においては、相手側からの情報が送られてくれば、使用者の操作等の他の要素とはかかわりなく、以後は特定情報入力時であると判断することになる。・・・本件判別構成においては、いったん相手方からの情報が送られてきた後は、パスワード等を入力するパスワード入力欄以外への入力であっても『第2の手段』が動作することにならざるを得ない・・・のであって、そのような本件判別構成は、使用者による操作がなければ、キー操作音を一定音とする動作が行われないイ号物件の構成とは全く異なるものというべきである。」と主張している。

(3-2)「通信中、・・・判別する」との構成について
被請求人は、「・・・イ号物件は、通信中でなくとも、使用者がパスワード等を入力するパスワード入力欄を選択する操作を行えば、キー操作音を一定音とするものである(乙8)から、その点でも、イ号物件は、本件判別構成を充たさない。」と主張している。

(3-3)「特定情報入力時を判別する」との構成について
被請求人は、「・・・この『特定情報入力時を判別する』との構成の技術的意義については、本件記載によれば、『通信中に基地局から暗証番号の入力を促すアナウンスや信号が送られてきた場合』に、『以後キー入力が暗証番号入力であると判断する』とされ、さらに、本件明細書の段落【0019】に、本件記載に続けて、『その後、暗証番号の入力を終了すると、例えば#キーの押下から暗証番号の入力終了を相手方に知らせる』と記載されていることからすれば、上記『・・・アナウンスや信号が送られてきた場合』に、それ『以後』、暗証番号入力終了までの時間を、パスワード入力『時』(特定情報入力時)であると判別して動作する構成を指すものと理解される。
これに対し、イ号物件は、・・・キー入力の都度、記憶した情報に基づいてキー操作音を一定音にする動作が行われるものであって、『以後』パスワード入力『時』(特定情報入力時)であると判別するものでないから、『特定情報入力時』という『時』を判別して動作するものではなく、その点でも本件判別構成を充たすものではない。」と主張し、さらに、「・・・本件発明の構成要件Cにいう『特定情報入力時』も同様に解釈されるところ、イ号物件は、あくまでキー入力の都度、キー操作音を一定音にする動作が行われるものであって、『特定情報入力時』という幅のある時間において、キー確認音を一定音とするものではないから、構成要件Cをも充たさない。」と主張している。

5.対比・判断
イ号物件の構成が本件特許発明の各構成要件を充足するか否かについて、以下検討する。

(1)構成要件Aについて
イ号物件の「キー操作音(DTMF音)」は、2つの異なる音声周波数を組み合わせたものであり、キー毎に異なる組み合わせとすることから、「キー毎に異なるキー操作音(DTMF音)」は、本件特許発明の「キー毎にそれぞれ異なるキー確認音」に相当する。
イ号物件の「音量を設定する手段」は、音量をOFFに設定することによって、キー操作音を鳴動させないように設定することができ、音量をOFF以外のレベルに設定することにより、キー操作音が鳴動するように設定できることから、イ号物件の「音量を設定する手段」は、キー操作音が鳴動するように設定することができるものといえ、本件特許発明の「第1の手段」に相当する。

(被請求人の主張について)
本件特許発明は、暗証番号やパスワードおよびPINコードなどの特定情報を入力する場合に、暗証番号やパスワードおよびPINコードなどの特定情報が確認音の音程から他人に知られることを防止するという目的を有することから、上記4.(1)に記載したように、被請求人は、「DTMF音」は、「人間の耳には、せいぜい3種の音、ないし4種の音として聞き分けられる程度に過ぎない」旨主張し、「構成要件A及びBにいう『異なるキー確認音』の技術的意義は、キー毎の確認音を、異なる音階(音程)の音や、あらかじめ記憶しておいた音声などの異なる種類の音とすることを意味し、・・・人間の耳によって聞き分けることができない程度の微細な差異があるにすぎない場合は、構成要件A及びBにいう『異なるキー確認音』には当たらない。・・・」と主張している。
さらに、上記4.(1)に記載したように、被請求人は、「電話機の数字キーを押下したときにDTMF音を鳴動させることは、本件特許出願時においては周知慣用技術であり、多くの電話機において当たり前のように採用されていた」にも係わらず、「本件明細書においては、『異なるキー確認音』の例として、音階とする例と音声などの他の種類の確認音とする例のみが挙げられ、キー確認音としてDTMF音を採用した例については何ら言及されていない。これは、DTMF音の一つ一つを人間の耳によって聞き分けることは困難であるから、請求人自身、DTMF音は『キー毎にそれぞれ異なるキー確認音』に当たらないと考えていたからにほかならない。」旨主張している。
しかしながら、暗証番号やパスワードおよびPINコードなどの特定情報を入力する場合に、暗証番号やパスワードおよびPINコードなどの特定情報が確認音の音程から他人に知られることが、人間の耳によって聞き分けられることによることに限られなければならない理由はなく、本件特許発明において、キー確認音として、DTMF音を除外するものとは認められない。
また、上記4.(2)に記載したように、被請求人は、「イ号物件のキー操作音は、DTMF音に固定された仕様であり(乙1、甲3の323?324頁)、使用者には、これと異なるキー確認音を選ぶ選択肢は与えられていないから、『・・・設定する第1の手段』が存在しない。」とも主張している。
しかしながら、イ号物件においても、「音量を設定する手段」には、キー操作音のDTMF音を鳴動させる、鳴動させない(音量OFF)という選択肢があって、「OFF」以外の「Level5」?「Level1」のいずれかを選択することにより、キー操作音のDTMF音を鳴動させるように設定できるので、イ号物件は、本件特許発明の「キー確認音が鳴動するように設定する第1の手段」に相当する構成を有することは明らかである。
よって、被請求人の上記主張はいずれも採用することはできない。

したがって、イ号物件の構成aは、本件特許発明の構成要件Aを充足する。

(2)構成要件B及びCについて
本件特許発明の「特定情報」に関し、本件明細書、特に、【0022】の「他人に知られたくない特定情報として暗証番号を入力する場合を説明したが、他にパスワードや、PINコード・・・、あるいはその他所定情報等の特定情報を入力するときにも・・・」という記載から、当該「特定情報」は、暗証番号、パスワード等を意味することは明らかであるから、イ号物件の「表示されたパスワード入力欄を選択して、パスワードを入力する時」は、本件特許発明の「特定情報入力時」に相当する。
さらに、上記(1)構成要件Aについての検討も踏まえれば、イ号物件の「b.前記音量を設定する手段によりキー毎に異なるキー操作音(DTMF音)が鳴動するように設定された状態において、c.・・・、表示されたパスワード入力欄を選択して、パスワードを入力する時は、キー操作音が一定音となるよう制御する・・・」ことは、本件特許発明の「B.この第1の手段によりそれぞれ異なるキー確認音が鳴動するように設定された状態において、C.特定の情報入力時は、キー確認音を一定の確認音にする・・・」ことと実質的な差異はない。
よって、イ号物件の「制御する手段」は、本件特許発明の「第2の手段」に相当する。

(被請求人の主張について)
上記4.(2)に記載したように、被請求人は、「イ号物件においては、たとえキー操作音を音量『OFF』に調節した場合であっても、パスワードのキー入力の都度、一定音を音量『OFF』に調節して鳴動するものである(乙6、7。乙7に示すとおり、音量OFFの状態でWebページにおけるパスワード入力欄を選択し、その後、音量を上げると、キー操作音として一定音が鳴動する。)。本件発明は、第1の手段により『設定』された状態において、キー操作音を一定音又は無音にするという第2の手段が動作するという構成であるところ、仮に、請求人主張のように、イ号物件におけるキー操作音の音量の調節をもって、構成要件A、Bの『設定』に当たると解したとすれば、イ号物件においては、第1の手段によってどのような設定をしようとも(音量をONにしようと、OFFにしようと)、第2の手段が動作するということになり、構成要件Bは、全く技術的意味のない要件になってしまう。・・・」と主張している。
しかしながら、イ号物件の「キー操作音を音量『OFF』に調節した場合」の制御動作が如何なる態様となろうとも、イ号物件が「音量を設定する手段によりキー毎に異なるキー操作音(DTMF音)が鳴動するように設定された状態において」、「表示されたパスワード入力欄を選択して、パスワードを入力する時は、キー操作音が一定音となる」ように動作する以上、イ号物件の構成b及びcは、本件特許発明のB及びCの構成を有するものといえるので、被請求人の上記主張は採用することができない。

したがって、イ号物件の構成b及びcは、本件特許発明の構成要件B及びCを充足する。

(3)構成要件Dについて
イ号物件の「インターネットから受信するHTMLデータ中の<input type=“password”>情報」は、本件特許発明の「相手側からの情報」に含まれることは明らかであるから、イ号物件の構成cも含めると、イ号物件は、「相手側からの情報」に基づいて「パスワード入力欄」を表示し、当該「パスワード入力欄」にパスワードを入力する時に、キー操作音が一定音となるよう制御するものといえる。
すると、イ号物件の「制御する手段」に関連して、「パスワード入力欄」に入力が行われていることを検出するための構成を有することは明らかであり、そのために、「パスワード入力欄」を識別していることも明らかである。
よって、イ号物件の「パスワード入力欄は、インターネットから受信するHTMLデータ中の<input type=“password”>情報に基づいて表示される」、そして、「表示されたパスワード入力欄を選択して、パスワードを入力する時」という構成は、「インターネットから受信するHTMLデータ中の<input type=“password”>情報に基づいて」、「パスワード入力欄」が識別され、少なくとも、当該識別された結果に基づいて、「パスワードを入力する時」が判別されることになるので、イ号物件は、本件特許発明の「相手側からの情報により特定情報(パスワード)入力時を判別する」という構成を実質的に有するものと認められる。
さらに、イ号物件では、「インターネットに接続し」、「HTMLデータ中の<input type=“password”>情報」を「インターネットから受信する」ので、イ号物件の「制御する手段」は、本件特許発明の「通信中、相手側からの情報により特定情報(パスワード)入力時を判別する」という構成を有するものと認められる。

(被請求人の主張について)
上記4.(3-1)に記載したように、被請求人は、「イ号物件においては、・・・サーバーからHTMLデータ中に『input type=“password”』のタグがある情報を受け取った後、操作者がパスワード入力欄の選択操作をするか、パスワード入力欄の選択操作をせずにパスワード入力欄へのキー入力を行って初めて(以後、操作者によるパスワード入力欄の選択操作、パスワード入力欄の選択操作をせずにパスワード入力欄へのキー入力をする操作の両方を併せて『パスワード入力欄の選択操作』と総称する。)、キー操作音を一定音にする動作が行われる。・・・相手側からの情報が送られてきた場合であっても、操作者が上記操作を行わない限り、キー操作音が一定音となることはない・・・」、「イ号物件は、操作者のパスワード入力欄の選択操作により判別を行い、キー操作音を一定音とする動作をするものであるから、本件判別構成における『相手側からの情報により・・・判別する』との構成を充たさない」と主張している。
しかしながら、被請求人が主張するように、イ号物件が、サーバーからHTMLデータ中に「input type=“password”」のタグがある情報を受け取った後、キー操作音が一定音となるよう制御する際に、操作者のパスワード入力欄の選択操作が必要であるとしても、サーバーから受信したHTMLデータ中の「input type=“password”」のタグに基づいて、キー操作音が一定音となるよう制御するものであるから、イ号物件は、本件特許発明の構成を有するものといえる。
さらに、上記4.(3-2)に記載したように、被請求人は、「・・・イ号物件は、通信中でなくとも、使用者がパスワード等を入力するパスワード入力欄を選択する操作を行えば、キー操作音を一定音とするものである(乙8)から、その点でも、イ号物件は、本件判別構成を充たさない。」と主張している。
ここで、乙第8号証を参照すると、被請求人は、「通信中でない」状態として、携帯電話機の無線通信が遮断された状態(「圏外」)においても、イ号物件において、パスワード等を入力するパスワード入力欄を選択する操作を行えば、キー操作音を一定音とするよう制御されることを示している。
一方、甲第6号証を参照すると、イ号物件は、携帯電話機の無線通信が遮断されていない状態において、パスワード等を入力するパスワード入力欄を選択する操作を行えば、キー操作音を一定音とするよう制御されることから、イ号物件は、通信中、あるいは、通信中でない状態において、パスワード等を入力するパスワード入力欄を選択する操作を行えば、キー操作音を一定音とするよう制御されるものといえる。
すると、イ号物件は、少なくとも、通信中、パスワード等を入力するパスワード入力欄を選択する操作を行えば、キー操作音を一定音とするよう制御することから、本件特許発明の構成を有するものである。
なお、被請求人は、携帯電話機の無線通信が遮断された状態(「圏外」)を「通信中」でない状態としているが、パスワード等を入力することは、引き続き、相手側に接続して、通信を行うことを意図しているものであって、相手側との通信中の1ステップを実行するものであり、また、データ通信においては、電話による音声通信とは異なり、相手側との通信中であっても、データを送信する動作以外の時は、無線等の通信回線を必ずしも接続している必要はないことから、乙第8号証の携帯電話機の無線通信が遮断された状態(「圏外」)をもって、本件特許発明の「通信中」でない状態とすることはできない。
また、上記4.(3-3)に記載したように、被請求人は、本件特許発明において、「・・・『特定情報入力時を判別する』との構成の技術的意義については、・・・『アナウンスや信号が送られてきた場合』に、それ『以後』、暗証番号入力終了までの時間を、パスワード入力『時』(特定情報入力時)であると判別して動作する構成を指すものと理解される。」とし、「・・・イ号物件は、・・・キー入力の都度、記憶した情報に基づいてキー操作音を一定音にする動作が行われるものであって、『以後』パスワード入力『時』(特定情報入力時)であると判別するものでないから、『特定情報入力時』という『時』を判別して動作するものではなく、その点でも本件判別構成を充たすものではない。」と主張している。
しかしながら、本件特許発明は、「相手側からの情報により特定情報入力時を判別する」という構成を有するのみで、上記被請求人の本件特許発明の「特定情報入力時を判別する」に対する解釈を認めることはできず、イ号物件においても、サーバーからHTMLデータ中に「input type=“password”」のタグがある情報を受け取った後、少なくとも、当該タグによって、パスワードを入力していることを判別するのであるから、イ号物件は、本件特許発明の構成を有するものである。
よって、被請求人の上記主張はいずれも採用することはできない。

したがって、イ号物件の構成c及びdは、本件特許発明の構成要件C及びDを充足するので、イ号物件は、本件特許発明の構成要件Dを充足する。

(5)構成要件Eについて
イ号物件の「携帯電話機」が、本件特許発明の「電話機」に相当することは明らかである。
したがって、イ号物件の構成eは、本件特許発明の構成要件Eを充足する。

5.むすび
以上のとおり、イ号物件の各構成a?eは、本件特許発明の構成要件A?Eを充足するので、イ号物件は、本件特許発明の技術的範囲に属する。

よって,結論のとおり判定する。
 
判定日 2013-07-09 
出願番号 特願平11-357804
審決分類 P 1 2・ 1- YA (H04M)
最終処分 成立  
前審関与審査官 田中 秀樹  
特許庁審判長 田中 庸介
特許庁審判官 山本 章裕
矢島 伸一
登録日 2004-10-15 
登録番号 特許第3605751号(P3605751)
発明の名称 電話機  
代理人 早田 尚貴  
代理人 古城 春実  

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