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審決分類 審判 訂正 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 訂正する B22F
審判 訂正 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 訂正する B22F
管理番号 1278005
審判番号 訂正2013-390080  
総通号数 166 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-10-25 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2013-05-17 
確定日 2013-07-29 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第4078512号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第4078512号に係る明細書を平成25年7月10日付けの手続補正書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める。 
理由 1.手続の経緯

本件特許第4078512号(以下、「本件特許」という。)は、平成13年4月20日に出願された特願2001-123449号の請求項1,2に係る発明について、平成20年2月15日に特許権の設定登録がされたものである。
本件訂正審判は、平成25年5月17日に請求され、同年6月11日付けで訂正拒絶理由が通知され、これに対し、同年7月10日付けで審判請求書及び訂正明細書を補正する手続補正(以下、「本件補正」という。)がされたものである。

2.本件補正について

2-1.補正の内容

本件補正は、審判請求書の「請求の理由」に記載された訂正事項3,4を削除するとともに、該訂正事項の削除に整合するように訂正明細書を補正するものである。

2-2.補正の認否

本件補正は、審判請求書に記載された「請求の趣旨」の要旨を変更するものではなく、特許法第131条の2第1項の規定に適合するから、これを認める。
なお、本件補正により、訂正拒絶理由通知において、特許法第126条第7項の規定に適合しないと指摘した訂正事項3は削除されたから、訂正拒絶理由も解消している。

3.請求の要旨

上記のとおり、本件補正は認められるから、本件訂正審判は、本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件特許明細書」という。)を、平成25年7月10日付けの手続補正書に添付された訂正明細書のとおり請求項ごとに訂正することを求めるものであって、その訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次の訂正事項1,2に示す(下線部が訂正箇所)とおりのものである。

訂正事項1
本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載を、
「鉄粉の粒度分布が、JIS Z 8801号に定める篩により篩わけした質量%で、呼び寸法が1mmの篩を通過し、かつ呼び寸法が250 μm の篩を通過しない粒度のものが0%を超え45%以下、呼び寸法が250 μm の篩を通過し、かつ呼び寸法が180 μm の篩を通過しない粒度のものが30%以上65%以下、呼び寸法が180 μm の篩を通過し、かつ呼び寸法が150 μm の篩を通過しない粒度のものが4%以上20%以下、呼び寸法が150 μm の篩を通過する粒度のものが0%以上10%以下であるとともに、呼び寸法が150 μm の篩を通過しない粒度の鉄粉のマイクロビッカース硬度の上限値が110 以下であり、かつ前記鉄粉の不純物含有量が質量%で、C≦0.005 %、Si≦0.01%、Mn≦0.05%、P≦0.01%、S≦0.01%、O≦0.10%、N≦0.003 %であることを特徴とする高圧縮性鉄粉。」
から、
「鉄粉の粒度分布が、JIS Z 8801号に定める篩により篩わけした質量%で、呼び寸法が1mmの篩を通過し、かつ呼び寸法が250 μm の篩を通過しない粒度のものが25.0%以上45%以下、呼び寸法が250 μm の篩を通過し、かつ呼び寸法が180 μm の篩を通過しない粒度のものが30%以上65%以下、呼び寸法が180 μm の篩を通過し、かつ呼び寸法が150 μm の篩を通過しない粒度のものが4%以上20%以下、呼び寸法が150 μm の篩を通過する粒度のものが0%以上10%以下であるとともに、呼び寸法が150 μm の篩を通過しない粒度の鉄粉のマイクロビッカース硬度の上限値が110 以下であり、かつ前記鉄粉の不純物含有量が質量%で、C≦0.005 %、Si≦0.01%、Mn≦0.05%、P≦0.01%、S≦0.01%、O≦0.10%、N≦0.003 %であることを特徴とする高圧縮性鉄粉。」
に訂正する。

訂正事項2
本件特許明細書の段落0007,0012にそれぞれ記載された「粒度のものが0%を超え45%以下、」を「粒度のものが25.0%以上45%以下、」と訂正する。

4.訂正の適否

訂正事項1,2について、訂正要件の適合性を判断する。

訂正事項1について
この訂正は、請求項1に記載された高圧縮性鉄粉を構成する「JIS Z 8801号に定める篩により篩わけした質量%で、呼び寸法が1mmの篩を通過し、かつ呼び寸法が250 μm の篩を通過しない粒度のもの」の配合量について、訂正前の「0%を超え45%以下」との数値限定を「25.0%以上45%以下」へ減縮するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、本件特許明細書の段落0021(表1)には、請求項1に係る発明に対応する第1発明の実施例である「鉄粉区分A8」について、粒度分布が「-1000/+250μm」の範囲のものを「25.0%」含むことが記載されていたから、この訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、訂正後の請求項1に係る発明について、拒絶すべき理由を発見しないから、この発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。

訂正事項2について
この訂正は、訂正事項1の訂正に伴い、発明の詳細な説明の記載を請求項1の記載と整合させるものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、この訂正は、訂正事項1と同様に、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

5.むすび

以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第126条第1項ただし書き第1号及び第3号に掲げる事項を目的とし、かつ、同条第5項ないし第7項の規定に適合する。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
高圧縮性鉄粉
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄粉の粒度分布が、JIS Z 8801号に定める篩により篩わけした質量%で、呼び寸法が1mmの篩を通過し、かつ呼び寸法が250μmの篩を通過しない粒度のものが25.0%以上45%以下、呼び寸法が250μmの篩を通過し、かつ呼び寸法が180μmの篩を通過しない粒度のものが30%以上65%以下、呼び寸法が180μmの篩を通過し、かつ呼び寸法が150μmの篩を通過しない粒度のものが4%以上20%以下、呼び寸法が150μmの篩を通過する粒度のものが0%以上10%以下であるとともに、呼び寸法が150μmの篩を通過しない粒度の鉄粉のマイクロビッカース硬度の上限値が110以下であり、かつ前記鉄粉の不純物含有量が質量%で、C≦0.005%、Si≦0.01%、Mn≦0.05%、P≦0.01%、S≦0.01%、O≦0.10%、N≦0.003%であることを特徴とする高圧縮性鉄粉。
【請求項2】
鉄粉の粒度構成が、JIS Z 8801号に定める篩により篩わけした質量%で、呼び寸法が1mmの篩を通過し、かつ呼び寸法が180μmの篩を通過しない粒度のものが0%を超え2%以下、呼び寸法が180μmの篩を通過し、かつ呼び寸法が150μmの篩を通過しない粒度のものが30%以上70%以下、呼び寸法が150μmの篩を通過する粒度のものが20%以上60%以下であるとともに、呼び寸法が150μmの篩を通過しない粒度の鉄粉のマイクロビッカース硬度の上限値が110以下であり、かつ前記鉄粉の不純物含有量が質量%で、C≦0.005%、Si≦0.01%、Mn≦0.05%、P≦0.01%、S≦0.01%、O≦0.10%、N≦0.003%であることを特徴とする高圧縮性鉄粉。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、高圧縮性鉄粉に係り、特に、高磁性が要求される部品および/または高強度が要求される部品を粉末冶金法で製造するのに好適な高圧縮性鉄粉に関する。
【0002】
【従来の技術】
粉末冶金法は、複雑な形状の金属部品をニアネットで製造できるために、各種部品の製造に適用されている。
粉末冶金法は、溶融金属の噴霧条件や原料となる金属酸化物等の粉砕条件の調整または篩等の分級により所望の粒度分布に調整した金属粉末に、必要に応じて粉末冶金用潤滑剤や合金用粉末を混合して混合粉末とし、金型を用いて加圧成形し、得られた成形体に焼結処理さらには熱処理を行って部品としたり、もしくは金属粉末と樹脂などの結合剤とを混合した後、金型により加圧成形行って部品を製造する方法である。
【0003】
このような粉末冶金技術により、高性能の磁性部品を製造したり、高強度の製造をする場合には、高密度の部品が得られるよう鉄粉の特性として、一定の成形圧力で加圧成形したとき、より高密度となる高圧縮性が要求されている。
例えば、特公平8-921号公報には、軟質磁気特性を発現させるために、純鉄粉の粒度構成が、JIS Z 8801号に定める篩により篩わけした重量%で、-60/+83メッシュ(呼び寸法が250μmの篩を通過し、かつ呼び寸法が165μmの篩を通過しない粒度のもの)と-83/+100メッシュ(呼び寸法が165μmの篩を通過し、かつ呼び寸法が150μmの篩を通過しない粒度のもの)の合計が4%以上15%以下で、かつ-100メッシュ(呼び寸法が150μmの篩を通過する細粒の粒度のもの)が残部である粉末冶金用純鉄粉が開示されている。
【0004】
しかしながら、特公平8-921号公報に記載されている粉末冶金用純鉄粉の圧縮性は、粉末冶金用潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を0.75%配合し、490MPaの成形圧力で加圧成形した圧粉体密度が7.08?7.12g/cm^(3)(7.08?7.12Mg/cm^(3))であって、圧縮性が不十分で、磁芯等の磁性部品として用いる場合に、磁束密度や透磁率などの磁気特性が不足するという問題があった。
【0005】
また最近では、自動車用機械部品などの小型軽量化のために、高強度化が鉄系の粉末冶金部品へ強く要求されている。高強度を有する部品などを粉末冶金法により製造する場合、鉄粉混合物に通常の加圧成形と焼結処理を施したのち、さらに加圧成形と焼結処理を繰り返して行う2回成形2回焼結法や、1回成形1回焼結後に熱間で鍛造する焼結鍛造法などが提案されているが、これらの方法では、機械部品のコストが高くなってしまうという問題があった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記した従来技術の問題を有利に解決し、磁気特性に優れる部品や高強度部品を有利に得ることができる高圧縮性鉄粉を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、鉄粉の粒度を限定するとともに、粗い粒度域の鉄粉を軟質化することにより、高圧縮性鉄粉とすることができ、常温での1回成形で7.20Mg/m^(3)以上の高密度成形体を製造できるとの知見を得て本発明を完成させた。
第1の発明は、鉄粉の粒度分布が、JIS Z 8801号に定める篩により篩わけした質量%で、呼び寸法が1mmの篩を通過し、かつ呼び寸法が250μmの篩を通過しない粒度のものが25.0%以上45%以下、呼び寸法が250μmの篩を通過し、かつ呼び寸法が180μmの篩を通過しない粒度のものが30%以上65%以下、呼び寸法が180μmの篩を通過し、かつ呼び寸法が150μmの篩を通過しない粒度のものが4%以上20%以下、呼び寸法が150μmの篩を通過する粒度のものが0%以上10%以下であるとともに、呼び寸法が150μmの篩を通過しない粒度の鉄粉のマイクロビッカース硬度の上限値が110以下であり、かつ前記鉄粉の不純物含有量が質量%で、C≦0.005%、Si≦0.01%、Mn≦0.05%、P≦0.01%、S≦0.01%、O≦0.10%、N≦0.003%であることを特徴とする高圧縮性鉄粉である。
【0008】
また、第2の発明は、鉄粉の粒度構成が、JIS Z 8801号に定める篩により篩わけした質量%で、呼び寸法が1mmの篩を通過し、かつ呼び寸法が180μmの篩を通過しない粒度のものが0%を超え2%以下、呼び寸法が180μmの篩を通過し、かつ呼び寸法が150μmの篩を通過しない粒度のものが30%以上70%以下、呼び寸法が150μmの篩を通過する粒度のものが20%以上60%以下であるとともに、呼び寸法が150μmの篩を通過しない粒度の鉄粉のマイクロビッカース硬度の上限値が110以下であり、かつ前記鉄粉の不純物含有量が質量%で、C≦0.005%、Si≦0.01%、Mn≦0.05%、P≦0.01%、S≦0.01%、O≦0.10%、N≦0.003%であることを特徴とする高圧縮性鉄粉である。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下に説明する鉄粉の粒度構成は、JIS Z 8801号に定める篩により篩わけした場合の質量%であり、各粒度は、例えば、呼び寸法が1mmの篩を通過し、かつ呼び寸法が180μmの篩を通過しないものを-1mm/+180μmと記し、また、例えば、呼び寸法が150μmの篩を通過するものを-150μm、同寸法の篩を通過しないものを+150μmと記す。
【0011】
まず、第1発明の高圧縮性鉄粉について説明する。
第1発明の鉄粉における粒度の限定理由は次の通りである。
第1発明の鉄粉の最大粒度は1mm以下に限定している理由は、鉄粉中に粒度が1mmを超えるものが含まれていると、部品成形用金型を用いて部品を加圧成形した場合、金型の微細な凹部近くや金型の角部近くに、先に1mmを超える鉄粉が位置してしまい、細かい鉄粉が金型の微細な凹部や金型の角部に充填されなくなり、成形体表面に粗大な空孔が生じたり、密度むらが生じてしまうことになる。このような空孔を有する部品は、圧粉磁芯として用いる場合はもちろん焼結磁芯として用いる場合でも、高磁気特性が得られない。
【0012】
このため、第1発明の鉄粉の最大粒度は1mm以下に限定している。
また、第1発明では、-1mm/+250μmの粒度のものが25.0%以上45%以下、-250μm/+180μmの粒度のものが30%以上65%以下、-180μm/+150μmの粒度のものが4%以上20%以下のように、-1mm/+150μmの範囲の粗粒の鉄粉の割合を多くし、一方、-150μmの粒度のものを0%以上10%以下と細粒の鉄粉の割合を少なくしている。
【0013】
-150μmの粒度の、細粒の鉄粉の割合を10%以下と少なくする理由は、比表面積の大きな細粒の鉄粉を少なくすることにより、加圧成形時における鉄粉粒子同志の摩擦抵抗を下げ、鉄粉の流動性を向上させるためである。
また、-1mm/+250μmの粒度のものが45%を超えるか、-250μm/+180μmの粒度のものが65%を超えるか、あるいは-180μm/+150μmの粒度のものが20%を超えるか、いずれかの場合には、比較的粗大な粒子が含まれる粒度構成のため、部品を加圧成形する際に粒子間に粗大な空隙が形成され、圧縮成形後も成形体内部や表面に粗大な空孔として残存して部品の外観を損ねたり、圧粉磁芯または焼結磁芯としたときにも、高磁気特性が得られない。
【0014】
これとは逆に、-250μm/+180μmの粒度のものが30%未満であるか、-180μm/+150μmの粒度のものが4%未満であるか、あるいは-150μmの粒度のものが10%を超えるか、いずれかの場合には、粗粒の鉄粉の割合が減り、相対的に細粒の鉄粉の割合が増大するため、加圧成形時に、鉄粉粒子同志の摩擦抵抗が増大し、鉄粉粒子同志が動き難くなり、成形体(圧粉体)の密度が低下する。
【0015】
そのうえ第1発明の鉄粉では、+150μmの粗粒の鉄粉のマイクロビッカース硬度の上限値が110以下となるように軟質化してあるから、一段と高圧縮性の鉄粉とすることができる。
このように、第1発明においては、上記の粒度構成としたうえに、+150μmの粗粒の鉄粉のマイクロビッカース硬度の上限値が110に軟質化したから、高圧縮性の鉄粉とすることができ、高密度の部品が得られるのである。
【0016】
+150μmの粗粒の鉄粉のマイクロビッカース硬度の上限値が110以下となるように軟質化するには、例えば、溶鋼を水アトマイズして製造する水アトマイズ鉄粉の場合、水アトマイズ後、脱水乾燥し、さらに還元炉により粒子表面の酸化皮膜を除去して鉄粉を得る際における還元条件を高負荷処理とすることによって行うことができる。還元条件としては、還元炉により異なるが、還元雰囲気中で、850?1000℃の温度で、かつ30分?3時間の処理とする。
【0017】
また、-150μmの粒度の、細粒の鉄粉は、もともと、粗粒の鉄粉に比べて、比表面積が大きく、還元が進みやすく、高熱負荷をかけずとむ容易に軟化するので、粗粒の鉄粉ほどには硬くなっていない。このため、従来の水アトマイズ鉄粉においてもマイクロビッカース硬度が100以下であり、還元条件を上記の高負荷処理条件とした場合でもマイクロビッカース硬度は変わることはなく、マイクロビッカース硬度は100以下である。
【0018】
上記のような粒度構成とするには、水アトマイズ後の鉄粉またはミルスケール等の酸化鉄を上記の高負荷処理条件で還元し、還元された鉄粉を解砕して分級すればよい。あるいは、還元→解砕→分級を1度でなく、繰り返し行うこともできる。また上記の粒度構成とするには、還元前に分級し、還元→解砕処理することにより行ってもよいし、あるいは解砕処理後に分級を行ってもよい。いずれの分級にしても、第1発明の鉄粉は、所定の粒度構成とされたときに、+150μmの粗粒の鉄粉のマイクロビッカース硬度の上限値が110以下となるように、解砕条件が設定してある。
【0019】
ところで、従来の水アトマイズ鉄粉は、還元条件が上記の高負荷処理条件よりも軽負荷であったから、分級して所定の粒度構成とされたときに、+150μmの粗粒の鉄粉がマイクロビッカース硬度で110を超えるような値となってしまっていたのである。なお、+150μmの鉄粉の硬度および-150μmの鉄粉の硬度は、それぞれの粒度から採取した鉄粉(各粒度について10個以上)を、2液型の熱硬化性樹脂に混合し、樹脂が硬化した後、樹脂表面を研磨し、鉄粉断面を露出させて、該断面に負荷荷重0.245Nをかけて、マイクロビッカース硬度計で測定した値である。
【0020】
表1には、上記の第1発明の鉄粉を用い、表2に示す3通りの条件で常温下(約25℃)で加圧成形した場合の成形体の密度を示した。
成形体は、外径が11mm、高さが10mmの円柱であり、この成形体の密度はアルキメデス法で測定した。アルキメデス法とは、被測定物を水中に浸漬して体積を測定することにより、密度を測定する方法である。
【0021】
【表1】

【0022】
【表2】

【0023】
表1に示す成形体の密度の結果から、第1発明の鉄粉は、それ以外の鉄粉より高圧縮性を有することがわかる。
表1に示した+150μmの粒径の鉄粉のマイクロビッカース硬度の値は最大値であり、-150μmの粒径の鉄粉のマイクロビッカース硬度の値は平均値である。-150μmの粒径の鉄粉のうち、マイクロビッカース硬度の値が100を超えるものはなかった。
【0024】
なお、第1発明の鉄粉の不純物含有量を質量%で、C≦0.005%、Si≦0.01%、Mn≦0.05%、P≦0.01%、S≦0.01%、O≦0.10%、N≦0.003%とする理由は、上記のいずれか1つの元素の含有量がその範囲を外れた場合には、いずれの元素の場合でも圧縮性がやや劣る結果となるからである。
【0025】
上記の鉄粉は、Ni,Cu,Moなどの合金化粉を鉄粉当面に部分合金化させていてもよく、またバインダーを介して合金化粉を付着させてもよい。
以上説明した第1発明の高圧縮性鉄粉を用いることにより、高磁気特性の製品を有利に製造できる。この結果については、実施例1(磁性部品への適用評価)で説明する。
【0026】
次ぎに、第2発明の高圧縮性鉄粉について説明する。
第2発明の鉄粉は、第1発明の鉄粉と粒度構成が異なっているので、この点についてのみ説明する。
なお、第2発明の鉄粉においても、+150μmの粗粒の鉄粉のマイクロビッカース硬度の上限値が110以下となるように軟質化しているが、この理由や軟質化方法等については、第1発明と同じであるので説明を省略する。
【0027】
第2発明に用いる鉄粉の最大粒度は1mm以下に限定している理由は、鉄粉中に粒度が1mmを超えるものが含まれていると、部品成形用金型を用いて部品を加圧成形する際に、金型の微細な凹部近くや金型の角部近くに先に1mmを超える鉄粉が来てしまい、細かい鉄粉が金型の微細な凹部や金型の角部に充填されなくなり、成形体表面に粗大な空孔が生じたり、密度むらが生じてしまうことになる。このような空孔を有する部品は、圧粉磁芯として用いる場合はもちろん焼結磁芯として用いる場合でも、高磁気特性が得られない。
【0028】
また、成形体に焼結処理を施して、機械構造用部品等として用いる場合にも、空孔が疲労破壊の起点となりやすいため、機械的強度、特に疲労強度が低下してしまう。そのうえ、成形体に焼結処理を施し、機械構造用部品等として用いる場合、焼結処理を高温・長時間とした高熱負荷処理としないと、粗粉の中心にまで合金化用元素が十分拡散せず、焼結体にさらに強度を高めるための熱処理、例えば、ガス浸炭焼入れ、光輝焼入れ、高周波焼入れなどを施す際に焼入性が低くなり、比較的柔らかいフェライト組織あるいはパーライト組織になってしまうことがある。粗粉が増大し、このような組織が増加すると、疲労破壊が生じやすいので、焼結を高熱負荷処理とせざるを得なくなり、部品のコストが増大してしまうことも理由にあげられる。
【0029】
このため、第2発明に用いる鉄粉の最大粒度は1mm以下に限定している。
第2の発明の鉄粉では、鉄粉の粒度分布が、JIS Z 8801号に定める篩により篩わけした質量%で、呼び寸法が1mmの篩を通過し、かつ呼び寸法が180μmの篩を通過しない-1mm/+180μmの粒度のものが0%を超え2%以下、呼び寸法が180μmの篩を通過し、かつ呼び寸法が150μmの篩を通過しない-180μm/+150μmの粒度のものが30%以上70%以下、呼び寸法が150μmの篩を通過する-150μmの粒度のものが20%以上60%以下である粒度構成の粉末は、見掛け密度が高くなる。
【0030】
第2の発明の鉄粉は、-150μmの粒度の、細粒の鉄粉の比率が第1の発明の鉄粉より高いから、加圧成形時における粒子同志の摩擦抵抗が増大する傾向にはあるが、第2の発明の粒度構成では、大きい粒子の隙間に小さい粒子が入り、うまく空隙を埋める様な粒度構成が実現し、見掛密度が高くなるので、加圧成形時、金型中に嵩高な状態で充填される。このため、高密度の成形体が得られるのである。
【0031】
この様に、見掛密度の高い粒体を実現するためには第2の発明の粒度構成が重要である。この範囲から外れた場合、すなわち、-1mm/+180μmの粒度のものが0%または2%超えた場合、-180μm/+150μmの粒度のものが30%未満または60%を超えた場合、あるいは、-150μmの粒度のものが20%未満または60%を超えた場合のいずれかの粒度構成となると、見掛密度が低下するため、加圧成形後の圧粉体の密度も低下する。
【0032】
なお、第2発明において、呼び寸法が150μmの篩を通過するような細粒の鉄粉の硬さは、従来の水アトマイズ鉄粉における同じ粒度の鉄粉の硬さと同じで、マイクロビッカース硬度で100以下である。
表3には、上記の第2発明の鉄粉を用い、表2と同じ3通りの条件で、常温下(約25℃)で加圧成形した場合の成形体の密度を示した。
【0033】
成形体の寸法、成形体の密度の測定方法および鉄粉の硬さの測定方法は、上記の第1発明の場合と同じである。
【0034】
【表3】

【0035】
表3に示す成形体の密度の結果から、第2発明の鉄粉は、それ以外の鉄粉より高圧縮性を有することがわかる。
表3に示した、+150μmの鉄粉のマイクロビッカース硬度の値は最大値であり、-150μmの粒度の鉄粉のマイクロビッカース硬度の値は平均値である。-150μmの粒度の鉄粉のうち、マイクロビッカース硬度の値が100を超えるものはなかった。
【0036】
この第2発明の高圧縮性鉄粉を用いることにより、耐久面圧疲労強度が高い部品や高磁気特性の部品を有利に製造できる。この結果については実施例2(機械部品への適用評価)および実施例3(磁性部品への適用評価)で説明する。
【0037】
【実施例】
(実施例1-1):第1発明の鉄粉の磁性部品(成形体)への適用評価
表1に示した鉄粉を用いて、1177MPaの圧力により加圧成形し、圧粉磁性部品(成形体)として外径が35mm、内径が20mm、高さが6mmのリング状の圧粉磁芯を製造し、得られた圧粉磁芯の磁束密度を測定し、発明例とした。
【0038】
なお、本発明1の鉄粉には、加圧成形する前にリン酸により絶縁処理を施し、また、加圧成形する際に金型内にステアリン酸亜鉛の5質量%アルコール溶液を塗布して金型潤滑を行った。
磁束密度の測定は、リング状の圧粉磁芯にコイルを100ターン巻き付けて1次側コイルとし、同じ圧粉磁芯にコイルを40ターン巻き付けて2次側コイルとし、1次側コイルに電流i_(1)を除々に増加させつつ流すとともに、2次側コイルに発生する電流i_(2)を測定して、積分器で積分して、磁束密度を求めた。その際に、電流i_(1)の最大値は、印加磁場が1000A/mとなるようにした。圧粉磁芯の密度は磁束密度測定前にリング試験片の外径、内径、高さの寸法と質量を測定して求めた。
【0039】
比較例としては、表1に示す鉄粉を用い、発明例と同様にして圧粉磁芯を製造した。
表4に圧粉磁芯の密度および圧粉磁芯の磁束密度の測定結果を示す。
【0040】
【表4】

【0041】
表4に示す結果から、第1発明の鉄粉を用いた場合には、比較例の鉄粉を用いた場合より部品の密度が高く、部品の磁気特性が向上しているので、第1発明の鉄粉は高い磁気特性を要求される部品へ適用できることがわかる。
(実施例1-2):第1発明の鉄粉の磁性部品(焼結体)への適用評価
同じく、表1に示した鉄粉を用いて、1177MPaの圧力により加圧成形し、次いで、焼結処理を施して、焼結磁性部品として外径が35mm、内径が20mm、高さが6mmのリング状の焼結磁芯を製造し、得られた焼結磁芯の磁束密度を測定し、発明例とした。
【0042】
なお、表1に示した鉄粉には、加圧成形する前に、粉末成形用潤滑剤としてのステアリン酸亜鉛粉末を鉄粉100重量部に対して、0.2重量部混合した。また、加圧成形する際に金型内にステアリン酸亜鉛の5質量%アルコール溶液を塗布して金型潤滑を行った。焼結処理は、10体積%H_(2)-N_(2)の雰囲気下、1250℃で1時間の処理とした。焼結磁芯の密度の測定は、実施例1と同様にして行った。焼結磁芯の磁束密度の測定は、実施例1と同様にして行った。
【0043】
比較例としては、表1に示すような鉄粉を用い、その他は発明例と同様にして行った。
表5に焼結磁芯の密度および焼結磁芯の磁束密度の測定結果を示す。
【0044】
【表5】

【0045】
表5に示す結果から、第1発明の鉄粉を用いた場合には、比較例の鉄粉を用いた場合より磁性部品の密度が高く、部品の磁気特性が向上しているので、第1発明の鉄粉は高い磁気特性を要求される部品へ適用できることがわかる。
(実施例2):第2発明の鉄粉の機械部品への適用評価
表3に示した鉄粉(B1,B4,B9?12)を用いて、1177MPaの圧力により加圧成形し、次いで、焼結処理および熱処理を施して、外径が60mm、高さが10mmの円盤状の焼結体を製造し、熱処理後の焼結体の機械的強度として耐久面圧疲労強度を測定した。
【0046】
なお、鉄粉には、加圧成形する前に、黒鉛粉末以外の合金化用粉末と混合後、露点40℃の水素中、850℃で1時間加熱して、部分合金化鋼粉とした。部分合金化鋼粉は、粉末全量に対して、Niを4.0質量%、Cuを1.5質量%、Moを0.5質量%含有するか、またはMoを1.0質量%含有する。部分合金化の前後で粒度分布は同じであった。更に、部分合金化鋼粉と黒鉛粉末の混合粉を加圧成形した。また、加圧成形する際に金型内にステアリン酸亜鉛の5質量%アルコール溶液を塗布して金型潤滑を行った。焼結処理は、10体積%H_(2)-N_(2)の雰囲気下、1250℃で1時間の処理とした。また、得られた焼結体には、浸炭焼き入れ後焼き戻し、あるいは光輝焼き入れの熱処理を行った。浸炭熱処理は、カーボンポテンシャル0.9%で920℃、150分、その後カーボンポテンシャル0.7%、850℃で45分間浸炭させた後、60℃の油に焼き入れた。その後、180℃の油中60分間焼戻した。
【0047】
光輝熱処理は、Ar中925℃で60分保持した後、60℃の油に焼入した。
耐久面圧疲労試験は、複数の鏡面仕上げした直径60mm、厚さ5mmの円盤状試験片を用意し、それぞれの円盤状試験片において直径3/8インチの剛球6個を接触させ、一定の負荷Sをかけつつ、1000rpmで回転させ、試験片表面に点接触の繰り返し疲労を与え、表面に傷が生じるまでの回転回数Nを測定する、森式面圧疲労試験で行った。その際、それぞれの円盤状試験片で負荷Sを変えて、これにより得られるS-N曲線上のN=10^(7)における負荷Sより、耐久面圧疲労強度を求めた。熱処理後の焼結体の密度はアルキメデス法で測定した。
【0048】
熱処理後の焼結体の、密度および耐久面圧疲労強度を表6に示す。
【0049】
【表6】

【0050】
表6に示す結果から、第2発明の鉄粉を用いた場合には、比較例の鉄粉を用いた場合より密度が高く、強度が向上しているので、第2発明の鉄粉は、高強度を要求される部品へ適用できることがわかる。
(実施例3-1):第2発明の鉄粉の磁性部品(成形体)への適用評価
表3に示した鉄粉を用い、それ以外の条件は実施例1-1の場合と同じとして圧粉磁性部品を製造し、圧粉磁芯の密度および圧粉磁芯の磁束密度の測定した。
【0051】
測定結果を表7に示す。
【0052】
【表7】

【0053】
表7に示す結果から、第2発明の鉄粉を用いた場合には、比較例の鉄粉を用いた場合より磁性部品の密度が高く、部品の磁気特性が向上しているので、第2発明の鉄粉は、高い磁気特性を要求される部品へ適用できることがわかる。
(実施例3-2):第2発明の鉄粉の磁性部品(焼結体)への適用評価
表3に示した鉄粉を用い、それ以外の条件は実施例1-2の場合と同じとして焼結磁芯を製造し、焼結磁芯の密度および焼結磁芯の磁束密度の測定した。
【0054】
測定結果を表8に示す。
【0055】
【表8】

【0056】
表8に示す結果から、第2発明の鉄粉を用いた場合には、比較例の鉄粉を用いた場合より磁性部品の密度が高く、部品の磁気特性が向上しているので、第2発明の鉄粉は、高い磁気特性を要求される部品へ適用できることがわかる。
【0057】
【発明の効果】
本発明によれば、高圧縮性粉末を提供することができ、高磁気特性部品および/または高強度部品を有利に製造できるという産業上格段の効果を奏する。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審決日 2013-07-19 
出願番号 特願2001-123449(P2001-123449)
審決分類 P 1 41・ 851- Y (B22F)
P 1 41・ 853- Y (B22F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 本多 仁  
特許庁審判長 山田 靖
特許庁審判官 大橋 賢一
小柳 健悟
登録日 2008-02-15 
登録番号 特許第4078512号(P4078512)
発明の名称 高圧縮性鉄粉  
代理人 落合 憲一郎  
代理人 落合 憲一郎  

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