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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C11B
管理番号 1278013
審判番号 不服2010-6220  
総通号数 166 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-10-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-03-23 
確定日 2013-08-13 
事件の表示 特願2003-545401「防火剤を含有している付香マイクロカプセルもしくはフレーバリングマイクロカプセル」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 5月30日国際公開、WO2003/43728、平成17年 4月14日国内公表、特表2005-509698〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2002年11月11日(パリ条約による優先権主張2001年11月22日、国際事務局)の出願であって、平成20年9月19日付けで拒絶理由が通知され、同年12月26日に意見書及び手続補正書が提出され、平成21年4月10日付けで拒絶理由(最後)が通知され、同年9月15日に意見書が提出されたところ、同年11月11日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成22年3月23日に拒絶査定不服審判請求がされ、平成24年8月7日付けで当審において拒絶理由及び審尋が通知され、同年11月7日に意見書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?10に係る発明は、平成20年12月26日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定されたとおりのものであり、そのうち、請求項1に記載された発明は次のとおりのものである(以下、特許請求の範囲の請求項1に記載された発明を「本願発明」という。)
「【請求項1】ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、デキストリン、天然デンプンもしくは化工デンプン、植物ガム、ペクチン、キサンタン、アルギン酸塩、カラゲナン及びセルロース誘導体からなる群から選択される担持材料中に分散されているか又は担持材料内部に吸着されている少なくとも1つの付香成分もしくはフレーバリング成分を含有している付香マイクロカプセルもしくはフレーバリングマイクロカプセルにおいて、
マイクロカプセルがさらに、マイクロカプセルの粉塵障害爆発クラスをSt-1に低下させることができる有効量の防火剤を含有しており、
防火剤が、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、リン酸一アンモニウムもしくは炭酸一アンモニウム、リン酸二アンモニウム、リン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウムもしくはリン酸三ナトリウム、次亜リン酸ナトリウム、メラミン シアヌレート及びその混合物からなる群から選択されており、
マイクロカプセルがマイクロカプセルの乾燥質量に対して、防火剤5?90質量%を含有しており、かつ
マイクロカプセルが、担持材料中の付香成分もしくはフレーバリング成分の水性エマルジョンを噴霧乾燥させ、かつ得られた噴霧乾燥した粉末を、粉末にした形の防火剤と乾式混合することによるか、又は
担持材料中の付香成分もしくはフレーバリング成分の水性エマルジョンを、その際に前記エマルジョンは防火剤も含んでいる、噴霧乾燥させることにより製造されている
ことを特徴とする、付香マイクロカプセルもしくはフレーバリングマイクロカプセル。」

第3 原査定の理由
平成21年11月11日付け拒絶査定は、
「この出願については、平成21年4月10日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって、拒絶をすべきものです。…
備考
…(要すれば、参考文献1参照)

引用文献等一覧
1.特開昭61-263633号公報

6.特開昭62-222001号公報
7.国際公開第01/42378号

参考文献
1.Process Safety Progress, 2000. Vol.19, No3, p146-153
…」
というものであって、平成21年4月10日付け拒絶理由通知書からみて、次の理由によるものである。
「この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

・請求項1-10:文献1-3,6-9
…」

第4 当審の判断
当審は、本願発明は平成21年11月11日付け拒絶査定における理由によって拒絶されるべきものと判断する。その理由は、以下のとおりである。

1.刊行物等に記載された事項
拒絶査定において引用された引用文献1、6、7、及び、参考文献1(以下、順に、刊行物1?4という。)には、次の事項が記載されている。

[刊行物1(特開昭61-263633号公報)]
1a.「疎水性物質を内包したカプセル剤のカプセル壁をポリビニルアルコールを主剤として形成し、該ポリビニルアルコールは、平均重合度700乃至1300、平均ケン化度75%乃至95%からなることを特徴とする水溶性ドライカプセル。」(第1頁左欄「特許請求の範囲」)

1b.「香料等の揮発性物質を芯物質とした場合は、いづれもカプセル保存中に壁膜から芯物質が徐々に放出し」(第2頁左上欄第2?4行)

1c.「この発明は…疎水性物質を内包したマイクロカプセル壁を平均重合度700乃至1300、平均ケン化度75%乃至95%のポリビニルアルコールを主剤として形成するものである。」(第2頁右上欄第3?7行)

1d.「実施例1
平均重合度750、平均ケン化度85%のポリビニルアルコール44.3部を25℃の水844.3部に加え溶解した液に結晶ブドウ糖6.6部と結晶セルロース4.8部を添加し攪拌した。次いでフレグランスPH3112(高砂香料製)100部を上記水溶液中にミキサーで1分間乳化し、平均粒径8.5ミクロンの水中油滴型エマルジョンを形成した。この乳化物を入口温度150℃、出口温度95℃、風量8m^(3)/min、アトマイザー回転数25000rpmの条件下のスプレードライヤーで噴霧乾燥し水溶性ドライカプセルを得た。」(第2頁左下欄第3?14行)

[刊行物2(特開昭62-222001号公報)]
2a.「I.実施例1
ブラスト装置より発生する平均粒径0.7μmの亜鉛-鉄合金粉をこの装置内に組込む実際の集塵装置に似せて製作した…装置の容器の中に以下に述べる試料1と2の各500gを…入れる。
次いで、環境温度を室温より5℃/minの昇温速度で加熱し、自然発火状態を観察した。
試料1…亜鉛-亜鉛合金粉100%のもの
試料2…亜鉛-亜鉛合金粉100%に第一リン酸アンモニューム100%(粒度はすべて5μ以下)粉を3?10%添加したもの

[考察]
…試料1の場合は約90度で自然発火するが、本発明に係る発火防止剤を添加した試料2の場合は、ある一定の温度まで上昇するが、以後はほぼ横ばいになり、発火は認められなかった。
なお、必須成分たる第一リン酸アンモニュームの含有量は1%以上であれば十分効果は見られたが、好ましくは3%以上であろう。」(第2頁右上欄第1行?左下欄第9行)

[刊行物3(国際公開第01/42378号)]
(刊行物3については、国際公開第01/42378号の対応する邦文の特許公報である特表2003-521569号公報の記載によって摘記事項を表記する。)
3a.「【請求項1】有機顔料と、顔料配合物の全重量に対して0.2?20重量%のポリリン酸アンモニウムまたは有機リン化合物とを含有する顔料配合物。

【請求項10】請求項1?9のいずれか1項に記載の顔料配合物の製造方法であって、粉末状顔料の形態、あるいは含水充填剤またはプレスケーキの形態、あるいは顔料懸濁液の形態の前記有機顔料を、粉末形態、あるいは水溶液または水性懸濁液の形態の前記APPまたは前記有機リン化合物とを、混合することを含む方法。
…」(【特許請求の範囲】)

3b.「したがって、顔料の性質、色の性質、レオロジー、または分散性を有意に損なわずに防炎性または低引火性の有機粉末顔料を提供することが本発明の目的である。
驚くべきことにこの目的は、有機顔料と、ポリリン酸アンモニウムまたは有機リン化合物とから実質的になる顔料配合物によって実現されることが明らかとなった。」(段落【0005】?【0006】)

3c.「本発明の顔料配合物は、粉末状顔料の形態、あるいは含水充填剤またはプレスケーキの形態、あるいは顔料懸濁液の形態の有機顔料を、粉末形態、あるいは水溶液または水性懸濁液の形態のAPPまたは有機リン化合物とを、上述の混合比で、例えば粉体混合機またはペースト混合機を使用して混合することによって製造することができる。」(段落【0016】)

[刊行物4(Process Safety Progress, 2000. Vol.19, No3, p146-153,"Dust Deflagration Extinction" Kris Chalrathi and John Going,)]
(なお、当審による訳文を付して記載事項を摘記する。)
3a."Two basic phenomenological models for deflagration propagation in dust clouds are discussed as the basis for interpreting explosion supression results. The first model is based on oxygen diffusion to fuel dust particles as the controlling step in explosion propagation through a dust cloud. The second model assumes explosion propagation is controlled through fuel particle volatilization followed by combustion in the gas phase. With this scientific framework as the basis,the inhibition aspects of explosion suppression are discussed to provide guidelines for industrial dust explosion mitigation. As part of the analysis,experimental results are presented for organic, inorganic and hybrid high Kmax dust explosions and dust explosion suppression. …Extinguishing agents used in the experiments were sodium bicarbonate,potassium bicarbonate, mono-ammonium phosphate and calcium carbonate."
「爆発抑制の結果を解釈するための基礎として、粉塵雲中の爆発の伝播に関する2つの基礎的な現象論的なモデルについて論じる。第1のモデルは、粉塵雲を通して爆発が伝播されるのを制御するステップとして、燃料粉塵粒子への酸素の拡散に基礎を置くものである。第2のモデルは、ガス相での燃焼に続いて起こる燃料粒子の揮発を通して爆発の伝播を制御することを想定するものである。工業的な粉塵爆発を緩和するためのガイドラインを提供するために、基礎としてのこの科学的な枠組みとともに、爆発抑制の抑制状況について論じる。分析の一部として、実験結果は、有機、無機及び(両者の)混合の高いK_(max)の粉塵爆発とその抑制を示す。…実験で使用された消火剤は、重炭酸ナトリウム、重炭酸カリウム、リン酸一アンモニウム、炭酸カルシウムであった。」
(第1頁左欄第1?20行)

3b."Dust cloud explosions are a well known hazard that are present in the chemical industries."
「粉塵雲爆発は、化学工業においておこる周知の危険である。」
(第1頁左欄第22?24行)

2.刊行物1に記載された発明
刊行物1には、「疎水性物質を内包したカプセル剤のカプセル壁をポリビニルアルコールを主剤として形成し、該ポリビニルアルコールは、平均重合度700乃至1300、平均ケン化度75%乃至95%からなることを特徴とする水溶性ドライカプセル。」(摘記1a)が記載され、当該ドライカプセルは「マイクロカプセル」(摘記1c)であり、疎水性物質としてフレグランスPH3112(高砂香料製)を使用すること、及び、ポリビニルアルコールとフレグランスPH3112(高砂香料製)の水中油滴型エマルジョンを入口温度150℃、出口温度95℃、風量8m^(3)/min、アトマイザー回転数25000rpmの条件下のスプレードライヤーで噴霧乾燥し水溶性ドライカプセルを得ること(摘記1d)が記載されているから、これらの事項を総合すると、刊行物1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。
「フレグランスPH3112(高砂香料製)を内包したカプセル剤のカプセル壁をポリビニルアルコールを主剤として形成し、該ポリビニルアルコールは、平均重合度700乃至1300、平均ケン化度75%乃至95%からなるものであって、該ポリビニルアルコールとフレグランスPH3112(高砂香料製)の水中油滴型エマルジョンを入口温度150℃、出口温度95℃、風量8m^(3)/min、アトマイザー回転数25000rpmの条件下のスプレードライヤーで噴霧乾燥することによって得られるマイクロカプセル。」

3.対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「フレグランスPH3112(高砂香料製)」、「内包した」は、それぞれ本願発明の「少なくとも1つの付香成分もしくはフレーバリング成分」、「(担持材料中に)分散されているか又は担持材料内部に吸着されている」との事項に相当する。
引用発明の「マイクロカプセル」は、付香成分もしくはフレーバリング成分に相当するフレグランスPH3112(高砂香料製)を内包するものであるから、本願発明の「付香マイクロカプセルもしくはフレーバリングマイクロカプセル」に相当する。
引用発明の「ポリビニルアルコールは、平均重合度700乃至1300、平均ケン化度75%乃至95%からなるもの」は、ポリビニルアルコールの平均重合度、平均ケン化度を特定するものであるが、これがポリビニルアルコールであることは明らかであるから、本願発明の「ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、デキストリン、天然デンプンもしくは化工デンプン、植物ガム、ペクチン、キサンタン、アルギン酸塩、カラゲナン及びセルロース誘導体からなる群から選択される担持材料」と「ポリビニルアルコール」の点で重複する。
引用発明の「該ポリビニルアルコールとフレグランスPH3112(高砂香料製)の水中油滴型エマルジョンを入口温度150℃、出口温度95℃、風量8m^(3)/min、アトマイザー回転数25000rpmの条件下のスプレードライヤーで噴霧乾燥する」は、担持材料であるポリビニルアルコールと付香成分もしくはフレーバリング成分であるフレグランスPH3112(高砂香料製)とのエマルジョンを噴霧乾燥することを意味するものと認められるから、本願発明の「マイクロカプセルが、担持材料中の付香成分もしくはフレーバリング成分の水性エマルジョンを噴霧乾燥させ、かつ得られた噴霧乾燥した粉末を、粉末にした形の防火剤と乾式混合することによるか、又は担持材料中の付香成分もしくはフレーバリング成分の水性エマルジョンを、その際に前記エマルジョンは防火剤も含んでいる、噴霧乾燥させることにより製造されている」に包含される2種類の製造方法、即ち、「マイクロカプセルが、担持材料中の付香成分もしくはフレーバリング成分の水性エマルジョンを噴霧乾燥させ、かつ得られた噴霧乾燥した粉末を、粉末にした形の防火剤と乾式混合すること(により製造されている)」、「(マイクロカプセルが、)担持材料中の付香成分もしくはフレーバリング成分の水性エマルジョンを、その際に前記エマルジョンは防火剤も含んでいる、噴霧乾燥させることにより製造されている」のいずれの製造方法についても、「マイクロカプセルが、担持材料中の付香成分もしくはフレーバリング成分の水性エマルジョンを、噴霧乾燥させ」ることに相当する。

以上を総合すると、両者は、
「ポリビニルアルコールからなる担持材料中に分散されているか又は担持材料内部に吸着されている少なくとも1つの付香成分もしくはフレーバリング成分を含有している付香マイクロカプセルもしくはフレーバリングマイクロカプセルにおいて、
マイクロカプセルが、担持材料中の付香成分もしくはフレーバリング成分の水性エマルジョンを、噴霧乾燥させることにより製造されている
付香マイクロカプセルもしくはフレーバリングマイクロカプセル。」
の点で一致し、次の点で相違する。

相違点:本願発明は、マイクロカプセルに、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、リン酸一アンモニウムもしくは炭酸一アンモニウム、リン酸二アンモニウム、リン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウムもしくはリン酸三ナトリウム、次亜リン酸ナトリウム、メラミン シアヌレート及びその混合物からなる群から選択される防火剤を、マイクロカプセルの粉塵障害爆発クラスをSt-1に低下させることができるようにマイクロカプセルの乾燥質量に対して5?90質量%含有させており、含有させる方法が粉末にした形の防火剤と乾式混合するか、又は、マイクロカプセル原料である水性エマルジョンに防火剤を含ませて噴霧乾燥させる方法であるのに対して、引用発明は、防火剤を含有させることを発明特定事項とするものでない点

4.相違点の検討
上記相違点について検討する。

まず、「ケイ酸ナトリウム…からなる群から選択される防火剤」をマイクロカプセルの粉塵障害爆発クラスをSt-1に低下させることができるようにマイクロカプセルの乾燥質量に対して5?90質量%含有させる点について検討する。

粉塵爆発の防止方法として、粉粒体に発火を防止する剤を含有させることは周知の技術であり(例えば、摘記2a、3a、3b参照。)、粉粒体の発火を防止する剤として、リン酸一アンモニウム(即ち、第一リン酸アンモニウム)等は周知のものと認められる(例えば、摘記2a参照。)。
そして、粉塵爆発が、粉塵の種類によって発生し易いものと、し難いものとがあるとしても、微小な粉粒体において発生のおそれのある現象であることが周知の技術的事項であることを考慮すると、微小な粉粒体であるマイクロカプセルの場合においても粉塵爆発のおそれがあり得ることは当業者にとって明らかなことであり、それを防止するためにマイクロカプセルにリン酸一アンモニウム等の発火を防止する剤(防火剤)を含有させて粉塵爆発を防止することは、当業者が容易に想到し得たことと認められる(粉塵爆発が粉塵における周知の現象であることについては、例えば、摘記4a、4b参照。なお、微小な粉粒体であるマイクロカプセルについて、粉塵爆発のおそれがあることも、例えば、特開平7-88355号公報の段落【0021】に「…微粒子状酸化アンチモンを存在させておくと、得られた微粉末状カプセル体の粉塵爆発を防止することができ、取扱上安全である。」と記載されるように周知のことと認められる。)。
また、発火を防止する剤(防火剤)をどの程度の量使用して、粉塵障害爆発をどの程度に低下させるかは、マイクロカプセルの安全性の程度、マイクロカプセルのはたらきの程度(付香の程度)等を考慮して、当業者が適宜設定し得た事項であって、爆発の危険性を表す周知の指標である粉塵障害爆発クラスStを使用して爆発の危険性を表すことも当業者が適宜なし得たことと認められる。
そうすると、マイクロカプセルの粉塵障害爆発クラスをSt-1に低下させるように防火剤を、マイクロカプセルの乾燥質量に対して5?90質量%含有させることは当業者が容易になし得たことと認められる。
なお、爆発の危険性について、請求人は、本願発明のマイクロカプセルの危険性は、粉体サイズに基づく粉塵爆発だけでなく、内包される「付香成分もしくはフレーバリング成分」(以下、「付香成分等」という。)が可燃性の揮発物質であることにもよるものであることを主張しているが、付香成分等が可燃性の揮発物質であることは周知の技術的事項であり(例えば、特開平5-161698号公報の段落【0002】に「…香料およびこれを構成する成分は引火性が高く、例えば、使用時に蒸散面に火を近づけたり、こぼしたときなどに引火する危険性もあった。」、特開平11-180826号公報の段落【0002】に「…上記香料等は、その引火点が21℃以上70℃未満のものが多く、引火点が低いので、貯蔵時は勿論、配合時においても取扱い上、細心の注意が必要とされる。特に引火点が製造過程での操作温度に近い場合、一層の注意が必要である。」と従来の技術について言及されているように、付香成分等が可燃性の揮発物質であることは周知の技術的事項と認められる。)、付香成分等をマイクロカプセルにした場合に当該成分が揮発することも周知の技術的事項(例えば、刊行物1の摘記1b参照。)と認められることを考慮すると、粉粒体が引火による爆発の危険性のある付香成分等を含有するマイクロカプセルにおいて、爆発を防止する必要性があることは、当業者にとって明らかなことと認められる。

次に、防火剤を含有させる方法が、粉末にした形の防火剤と乾式混合するか、又は、マイクロカプセル原料である水性エマルジョンに防火剤を含ませて噴霧乾燥させる方法である点について検討する。

粉粒体の発火を防止するために、発火を防止する剤を添加する方法として、粉粒体に対して粉末にした形の発火を防止する剤を乾式混合する方法は、例えば、刊行物3に記載されるように周知の技術と認められる(摘記3c参照。)から、粉粒体が付香成分等を含有するマイクロカプセルの場合においても発火を防止する剤を乾式混合することは、当業者が容易に想到し得たことと認められる。
また、粉粒体がマイクロカプセルの場合に、マイクロカプセルに含有させる成分をマイクロカプセル原料に添加することは周知の技術と認められるから、発火を防止する剤をマイクロカプセル原料である水性エマルジョンに含ませることも当業者が容易に想到し得たことと認められる(例えば、特開平7-88355号公報の段落【0021】?【0022】に「…微粒子状酸化アンチモンを存在させておくと、得られた微粉末状カプセル体の粉塵爆発を防止することができ…該スラリーをろ過して粗大粒子を除いてからスプレー乾燥機にかけると、微粉末状のマイクロカプセル体が得られる。」と記載されるように、防火剤等の発火を防止する成分をマイクロカプセル原料である水性エマルジョンに含ませることは周知の技術と認められる。)。
よって、粉末にした形の防火剤と乾式混合する方法か、又は、マイクロカプセル原料である水性エマルジョンに防火剤を含ませて噴霧乾燥させる方法によって、マイクロカプセルに防火剤を含有させることは、当業者が容易になし得たことと認められる。

以上のとおり、上記相違点に係る、「ケイ酸ナトリウム…からなる群から選択される防火剤」をマイクロカプセルの粉塵障害爆発クラスをSt-1に低下させることができるようにマイクロカプセルの乾燥質量に対して5?90質量%含有させる点、及び、防火剤を含有させる方法が、粉末にした形の防火剤と乾式混合する方法か、又は、マイクロカプセル原料である水性エマルジョンに防火剤を含ませて噴霧乾燥させる方法である点は、刊行物2?4に記載された技術的事項、及び、周知技術に基づいて当業者が容易になし得たことと認められる。

5.本願発明の効果について
本願明細書の発明の詳細な説明の「…付香マイクロカプセル及びフレーバリングマイクロカプセルに、それらの製造の間に、特に熱気中に懸濁される場合に、起こりうる爆発の激しさを低下させるのに有効な量で、直接添加されることができることを確立することができた。本発明の一対象は、故に、マイクロカプセルが、マイクロカプセルの粉塵障害爆発クラスをSt-1に低下させることができる有効量の防火剤も含有しているという事実により特徴付けられる…付香マイクロカプセルもしくはフレーバリングマイクロカプセルを提供することである。」(段落【0010】)、「さらに、本発明のマイクロカプセル及び粉末製品は、それらの製造の間に誘発された起こりうる任意のそのような反応の激しさに関して利点が存在するだけではなく、着火にあまり感受性ではない、即ち爆発に対して低下された傾向を示すことが証明された。この特性は、測定されることができ、かつ最小点火エネルギ
ー又はMIEパラメーターを通して表現される。… 本発明のマイクロカプセルの組成物中の防火剤の存在が、こうして10mJを上回る値に達したこれらの製品のMIEの特性を表す値の増大を生じたことが判明した。このことはさらに卓絶して重要である本発明の予期しない利点である、それというのも、本発明のマイクロカプセルは、それらの製造の容易にされたプロセスに加えて、ところで、それらの貯蔵又はそれらの輸送でさえ、及びさらなる取扱いについての要件に関して、多数の利点も示す。」(段落【0014】?【0016】)、「例4 防火剤を含有しているフレーバリングエマルジョンの噴霧乾燥 …故に、処方A中の有効量のリン酸二ナトリウムの存在は有利に、粉末の粉塵障害爆発クラスを低下させた。」(段落【0037】)等の記載からみて、本願発明は「付香マイクロカプセルもしくはフレーバリングマイクロカプセル」(以下、「付香マイクロカプセル等」という。)の製造、貯蔵、輸送時等における爆発の危険性を粉塵障害爆発クラスSt-1に低下させることを発明の効果とするものと解される。
しかしながら、前記「4.相違点の検討」に記載したように、粉粒体に発火を防止する剤(防火剤)を含有させることによって粉塵爆発が防止されることは、刊行物2、3に記載されるように周知の技術的事項であり、付香成分等は引火点が低く発火の危険性が高い傾向のあることも周知の技術的事項と認められることを考慮すると、付香マイクロカプセル等の爆発の危険性を適当な量の防火剤を使用して粉塵障害爆発クラスSt-1に低下させることは、刊行物1?4に記載された技術的事項、及び、周知の技術的事項を考慮することによって当業者が予測し得た効果と認められる。
また、当審において通知した平成24年8月7日付け拒絶理由において、付香マイクロカプセル等において爆発を防止する効果の顕著性の釈明について請求人に審尋した(「B.審尋について」の「1.(1)」)が、平成24年11月7日付け意見書における釈明を検討しても、付香成分等が引火点が低く発火の危険性が高い傾向のあることが周知の技術的事項であることを考慮すると、付香マイクロカプセル等において爆発を防止することによって当業者の予測し得ない効果が奏されるものとは認められない。

なお、本願明細書の発明の詳細な説明には「さらに、専門のフレーバリストによる2つの粉末の評価は、処方Aの粉末のフレーバーがリン酸二ナトリウムの存在により変質されなかったことが示された。」(段落【0038】)と、フレーバリング成分が変質しないことが、本願発明の効果として記載されているものとも解されるが、本願発明の詳細な説明において、フレーバリング成分が変質しないことが開示がされているのは、リン酸二ナトリウムについてのみである。そして、技術常識からみて、フレーバリング成分が防火剤の化合物との反応等によって変質するか否かは、防火剤を構成する化合物の種類によって、同じではないものと推認される。そうすると、フレーバリング成分が変質しないことは、防火剤がリン酸二ナトリウムの場合に限らず、本願発明全体にわたって奏される効果とは認められない。

以上のとおり、本願発明による効果は、刊行物1?4に記載された技術的事項、及び、周知技術から当業者が予測し得た範囲内のものと認められる。
6.まとめ
よって、本願発明は、刊行物1?4に記載された発明、及び、周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

第5 むすび
以上のとおりであって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の点について検討するまでもなく、本願は、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-03-18 
結審通知日 2013-03-19 
審決日 2013-04-02 
出願番号 特願2003-545401(P2003-545401)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 福永 千尋  
特許庁審判長 新居田 知生
特許庁審判官 橋本 栄和
小出 直也
発明の名称 防火剤を含有している付香マイクロカプセルもしくはフレーバリングマイクロカプセル  
代理人 久野 琢也  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 矢野 敏雄  

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