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審判番号(事件番号) データベース 権利
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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 E04G
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E04G
管理番号 1278143
審判番号 不服2012-4273  
総通号数 166 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-10-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-03-06 
確定日 2013-08-15 
事件の表示 特願2006-118948「耐震補強構造及び耐震補強方法」拒絶査定不服審判事件〔平成19年11月 8日出願公開、特開2007-291665〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成18年4月24日の出願であって,平成23年12月15日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,平成24年3月6日に拒絶査定不服審判がなされるとともに,同時に手続補正がなされた。
その後,平成24年11月12日付けで,審判請求人に前置報告書の内容を示し意見を求めるための審尋を行ったところ,同年12月26日付けで回答書が提出されたものである。


第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成24年3月6日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容・目的
平成24年3月6日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)は,特許請求の範囲について,補正前(平成23年3月16日付けの手続補正書参照。)の請求項1を,以下のように補正することを含むものである。
「耐震壁の少なくとも片面に繊維シートが貼り付けられ、その繊維シートの表面全面に、前記繊維シートへの付着後に硬化する材料である補強材が付着させられると共に、前記耐震壁の両面側において、前記補強材の表面全体の領域に亘って分散し、部分的に定着装置が配置され、この両側の定着装置に、前記定着装置と前記補強材及び前記繊維シートと前記耐震壁を厚さ方向に貫通する拘束材が、軸方向引張力が与えられた状態で定着され、この定着装置から前記補強材と前記繊維シート及び前記耐震壁に厚さ方向の圧縮力が支圧力として与えられ、前記耐震壁の少なくとも前記繊維シートが貼り付けられた領域が全面に亘って面外方向に一様に拘束されていることを特徴とする耐震補強構造。」

上記補正事項は,請求項1に係る発明の特定事項の一部である,「繊維シートの表面」を「繊維シートの表面全面」と限定し,また,「拘束材が前記耐震壁中に挿入され、前記補強材の表面に定着装置を介して定着され、前記耐震壁が面外方向に拘束されている」を「前記耐震壁の両面側において、前記補強材の表面全体の領域に亘って分散し、部分的に定着装置が配置され、この両側の定着装置に、前記定着装置と前記補強材及び前記繊維シートと前記耐震壁を厚さ方向に貫通する拘束材が、軸方向引張力が与えられた状態で定着され、この定着装置から前記補強材と前記繊維シート及び前記耐震壁に厚さ方向の圧縮力が支圧力として与えられ、前記耐震壁の少なくとも前記繊維シートが貼り付けられた領域が全面に亘って面外方向に一様に拘束されている」と,「定着装置」と「拘束材」に対して限定事項を付加したものと認められるから,本件補正は,少なくとも,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とする補正事項を含むものである。

そこで,本件補正後の上記請求項1に係る発明(以下,「補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか,すなわち,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たしているか,について以下に検討する。

2.独立特許要件違反(特許法第29条第2項違反)
2-1.引用刊行物
(1)刊行物1
原査定の拒絶の理由に引用され,本願出願前に頒布された刊行物である,特開平11-62269号公報(以下,「刊行物1」という。)には,図面と共に,次の記載がある。(下線は,当審にて付与。)
(1a)「【請求項1】 コンクリート壁のパネル部分の表面に高強度繊維シートを接着剤により貼り付け、該高強度繊維シートの周縁部上に該周縁部を押えつける押さえ部材をあてがって接着するとともに該押さえ部材を前記高強度繊維シートを貫通する固定金具で前記パネル部分に固定して補強するコンクリート壁の補強工法において、
該周縁部の押さえ部材より内方部位の高強度繊維シート上に、一面が平坦な部材を接着して該シートのはらみを防止するための補強用リブを一体形成したことを特徴とするコンクリート壁の補強工法。
【請求項2】 請求項1において、前記パネル部分の両面に前記高強度繊維
シートを貼り付け、前記パネル部分を貫通する同一の前記固定金具により前記パネル部分の両面に配置した前記押さえ部材を締結することを特徴とするコンクリート壁の補強工法。
【請求項3】 省略。
【請求項4】 前記一面が平坦な部材が縦横に格子状に配設されていることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載のコンクリート壁の補強工法。
【請求項5】 省略。
【請求項6】 前記一面が平坦な部材と高強度繊維シートとを、これらを貫通する固定金具で前記パネル部分に固定したことを特徴とする請求項1?5のいずれかに記載のコンクリート壁の補強工法。」

(1b)「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、RC造やSRC造などの既存のコンクリート建造物の壁を補強して耐震性を高める補強工法に関し、とくに補強材として高強度繊維シートを用いる技術に関する。」

(1c)「【0007】また、この補強工法では、図10に示すように、上記壁1のパネル部分の両面に上記FRPシート4,4を貼り付ける場合には、上記パネル部分を貫通する同一のボルト5a等の固定金具によりそのパネル部分の両面に配置した押え部材(帯鋼6,6)を締結固定するようにすることもできる。」

(1d)「【0018】図1は本発明の第1実施形態の概略構成を示す立面図であり、図2は図1中のII-II 線部の矢視断面図である。この例のコンクリート建造物では、壁1と柱2および梁3とが一体的に連設された躯体構造になっている。壁1の表面に例えばエポキシ樹脂を塗布し、そこに例えば炭素繊維シートを貼り付けると同時に、エポキシ樹脂を炭素繊維シートに含浸させてFRPシート4を貼り付け成形する。FRPシート4は、柱2および梁3との境界の入隅部まで配設する。・・・
【0019】省略。
【0020】また、柱2および梁3の近くの壁1には、前述の固定金具としてアンカーボルト5を植設するための穴をあけておく。このボルト穴は柱2および梁3に沿って適宜間隔をおいて多数形成する。・・・
【0021】前記ボルト穴をあけた柱2に沿った部分において、前述の押え金具としての細長い帯鋼6をFRPシート4の上にあてがってエポキシ樹脂で接着する。この帯鋼6には前記ボルト穴と同じ間隔でボルト穴を形成しておく。壁1とFRPシート4と帯鋼6のボルト穴を合致させ、その穴にアンカーボルト5を挿入して接着剤やモルタルなどで一体的に固着させる。そしてボルト5の突出端にナット(図示省略)を装着して締め付け、帯鋼6でFRPシート4を強固に押え付ける。・・・
【0022】ところで、帯鋼6よりも内側部位のFRPシート4の表面には、一面が平坦な部材7として帯状の板材7aが接着剤により接着されて一体化され、シートの中央部分を補強する補強リブとして形成される。ここで、一面が平坦な部材7としては、上記L型,H型,CT型などのFRP型材を使用しても良いし、帯鋼あるいは鉄骨型鋼を使用するようにしてもよい。また、この図示例では当該一面が平坦な部材7には帯状の板材を用いて縦横に交差させて配設して、格子状に補強リブを形成するようにしている。
【0023】このようにしてFRPシートの表面に補強リブを形成することにより、コンクリート壁1のパネル部分に貼り付けた補強用のFRPシート4の接着剤に劣化が生じても、補強用の高強度繊維シートとコンクリート躯体との構造的一体性を可及的に保たせてはらみが生じるのを防止することができ、もって壁面から繊維シートに有効に応力を伝達させて、繊維シートの強度を有効に活用してコンクリート建造物の補強を図ることができる。・・・」

(1e)「【0024】また、図1及び図2に示した実施形態例では、コンクリート壁1の片面のみにFRPシート4を設けているが、図9?図11に示した前述の従来例のようにコンクリート壁1の両面にFRPシート4を設けるようにしても良く、当該図9?図11に示されるFRPシート4の周縁部の固定構造はそのまま本発明に適用し得る。
【0025】ここで、図10の固定構造と図11の固定構造について補足説明をしておくと、図10の固定構造では、前記ボルト穴をあけた柱2に沿った部分において、前述の押え金具としての細長い帯鋼6をFRPシート4の上にあてがってエポキシ樹脂で接着する。この帯鋼6には前記ボルト穴と同じ間隔でボルト穴を形成しておく。壁1とFRPシート4と帯鋼6のボルト穴を合致させ、その穴に貫通ボルト4a(当審注:5aの誤記と認める。以下,同。)を通す。同一のボルト4aの両端を壁1の両面に配置した2つの帯鋼6にそれぞれ通す。そしてボルト4aの両端にナット(図示省略)を装着して締め付け、帯鋼6でFRPシート4を強固に押え付ける。・・・」

(1f)「【0027】この発明の第2の実施形態の概略を図3,4に示している。図1,2の実施形態では一面が平坦な部材7としての帯状の板材7aにはFRPシート4の表面に接着剤で一体的に接合させているだけであったが、この第2の実施形態ではこれらの板材7aにも固定金具として壁1に植設したアンカーボルト5a(当審注:5の誤記と認める。)を貫通させて固定し、これによりFRPシート4の中央部分をも押さえ付けるようにすることで、FRPシート4とコンクリート壁1とのより一層の一体化を図っている。」

(1g)「【0031】
【発明の効果】以上のようにこの発明では、壁のパネル部分の表面に高強度維繊シートを接着剤により貼り付けるとともに、貼り付けた高強度繊維シートの周縁部の上に押え部材をあてがって接着して、この押さえ部分を固定金具で前記パネル部分や隣接する柱や梁に固定するだけでなく、押さえ部材より内側部位の中央部分のシート表面に一面が平坦な部材を接着剤で一体的に接着して補強用リブを形成したので、補強用の高強度繊維シートとコンクリート躯体との構造的一体性が可及的に向上し、高強度繊維とコンクリート壁とを接合する接着剤に劣化が生じても、繊維シートがコンクリート表面から剥離してはらみ難くなり、壁面から繊維シートに有効に応力を伝達させて、繊維シートの強度を有効に活用してコンクリート建造物を効果的に補強できる。
【0032】特に、補強用リブとなる一面が平坦な部材をも固定金具でコンクリート壁に固定して、繊維シートを壁面に押しつけるようにすれば、より一層の一体性を得ることができ、より効果的な補強が行える。」

(1h)上記記載事項(1d)を参照して図1,2をみると,コンクリート壁1の片面の柱2及び梁3に沿った部分のFRPシート4の上には押さえ金具としての細長い帯鋼6を配置して接着剤により接着していることがみてとれる。

記載事項(1g)によれば,刊行物1は,平坦な部材7により,繊維シートがコンクリート表面から剥離しはらみ難くするのであるから,請求項2及び記載事項(1e)のように両面にFRPシートを設けた際には,平坦な部材7も両面に設けることは当然である。そうすると,これら記載事項(1a)乃至(1g)及び図面の記載から,特に請求項2及び記載事項(1e)の第1実施形態に従来例のコンクリート壁の両面にFRPシートを設け,周縁部の固定構造をそのまま適用したものに着目して,刊行物1には,次の発明が記載されているものと認められる。
「コンクリート壁1の表面両面にエポキシ樹脂を塗布し、そこに炭素繊維シートを貼り付けると同時に,エポキシ樹脂を炭素繊維シートに含浸させてFRPシート4を貼り付け,コンクリート壁1の両面の柱2及び梁3に沿った部分のFRPシート4の上には押さえ金具としての細長い帯鋼6を配置して接着剤により接着するとともに,コンクリート壁1とコンクリート壁1両面のFRPシート4とその両面に配した2つの帯鋼6を厚さ方向に貫通ボルト5aを貫通させ,その両端をナットで締め付けることにより,帯鋼6でFRPシート4を強固に押え付け,帯鋼6よりも内側部位のFRPシート4の表面には一面が平坦な部材7として帯状の板材7aを縦横に交差させて配設して接着剤により接着した耐震補強構造。」(以下,「刊行物1記載の発明」という。)
また,「パネル部分の両面に高強度繊維シートを貼り付け、前記パネル部分を貫通する同一の固定金具により前記パネル部分の両面に配置した押さえ部材を締結」(【請求項2】)し,「一面が平坦な部材と高強度繊維シートとを、これらを貫通する固定金具でパネル部分に固定」(【請求項6】)しているので,図3,4に係る第2実施形態には,記載事項(1f)の「板材7a」を両面に配置すると共に,「板材7aにも固定金具として壁1に植設したアンカーボルト5a(当審注:5の誤記と認める。)を貫通させて固定し,これによりFRPシート4の中央部分をも押さえ付けるようにすることで,FRPシート4とコンクリート壁1とのより一層の一体化を図っているアンカーボルト5a」において,記載事項(1e)の「貫通ボルト4a(当審注:5aの誤記と認める。以下,同。)の両端を壁1の両面に配置した2つの帯鋼6にそれぞれ通し,ボルト4aの両端にナット(図示省略)を装着して締め付け,帯鋼6でFRPシート4を強固に押え付ける貫通ボルト4a」としたものも実質的に記載されているといえる。

(2)刊行物2
本願出願前に頒布された刊行物である,特開2005-207159号公報(以下,「刊行物2」という。)には,図面と共に,次の記載がある。
(2a)「【請求項1】
コンクリート構造物の表面に連続繊維シートを樹脂を用いて貼付し、
前記連続繊維シートを前記表面に貼り付ける前又は後に、前記連続繊維シートを樹脂含浸させ、
前記連続繊維シートを構成する各繊維の少なくとも二箇所を、固定手段によって前記コンクリート構造物に固定することを特徴とする連続繊維シートを用いたコンクリート構造物の補強方法。
【請求項2】乃至【請求項10】省略。」

(2b)「【0004】
また、図12に示すように、面部材50にボルト54を貫通させ、このボルト54の頭部55とナット56で面部材50に固定することにより、面部材50を補強することも行われていた。」

(2c)【0027】
(第1実施形態)
図1は、本発明に係る第1実施形態の連続繊維シートを用いたコンクリート構造物の補強方法を示す。
【0028】
ここでは、コンクリート構造物である面部材(壁部材)10の表面11に、含浸接着樹脂などで連続繊維シート12を貼付し、前記連続繊維シート12を表面11に貼付する前、又は後に、前記連続繊維シート12に樹脂含浸させてFRP化し、この連続繊維シート12を構成する各繊維16(図2参照)の少なくとも二箇所、本例では四箇所を、固定手段13によって面部材10に固定する。 【0029】
本例では、連続繊維シート12として、炭素繊維によって構成された一方向シートを用いたが、アラミド繊維、ガラス繊維など他の繊維を使用することもできる。連続繊維シート12は、そのせん断破壊耐力がコンクリートよりも高いものを使用する。
【0030】
また、本例では、固定手段13が、帯状のプレート14と、面部材10内に先端が埋設されたアンカー15とで構成され、プレート14を所定間隔をおいて設けたアンカー15で面部材10に固定するものを用いたが、これ以外の適宜な固定手段を使用できる。
【0031】
プレート14は、図2に示すように、連続繊維シート12の全幅と略同一の長さを有しているが、プレート14を所定間隔を置いて設けたアンカー15で面部材10に固定するものであれば、長手方向に複数に分割したものでも良い。即ち、プレート14とアンカー15の配置は、連続繊維シート12が面部材10に固定される様々な態様が含まれる。」

2-2.補正発明と刊行物1記載の発明との対比
補正発明と刊行物1記載の発明とを対比すると,
刊行物1記載の発明の「コンクリート壁1の表面両面」が補正発明の「耐震壁の少なくとも片面」に相当しており,以下同様に,
「炭素繊維シート」が「繊維シート」に,
「エポキシ樹脂」は硬化するので,「繊維シートへの付着後に硬化する材料である補強材」に,
「コンクリート壁1の両面の柱2及び梁3に沿った部分のFRPシート4の上」が「耐震壁の両面側において,補強材の表面」の「領域」に,
「押さえ金具としての細長い帯鋼6」は押さえ付けているので,「定着装置」に,
「FRPシート4」はエポキシ樹脂を炭素繊維シートに含浸させているので,「補強材及び繊維シート」に,
「貫通ボルト5aの両端をナットで締め付ける」が「定着され」に,
「帯鋼6でFRPシート4を強固に押え付け」が結果的にコンクリート壁も押え付けることになるので,「耐震壁の少なくとも前記繊維シートが貼り付けられた領域が面外方向に拘束されている」に,
それぞれ相当している。
次に,刊行物1記載の発明の「エポキシ樹脂を塗布し、そこに炭素繊維シートを貼り付けると同時に,エポキシ樹脂を炭素繊維シートに含浸させて」と補正発明の「繊維シートの表面全面に,前記繊維シートへの付着後に硬化する材料である補強材が付着させられる」とは,エポキシ樹脂は炭素繊維シートに含浸した後に硬化し,繊維シートの面に対して樹脂が含浸されるものであることが自明であるので,「繊維シートの面に,前記繊維シートへの付着後に硬化する材料である補強材が付着させられる」点で共通する。
また,刊行物1記載の発明の「貫通ボルト5a」は,「コンクリート壁1とコンクリート壁1両面のFRPシート4とその両面に配した2つの帯鋼6を厚さ方向に貫通している」ので,補正発明の「定着装置と補強材及び繊維シートと耐震壁を厚さ方向に貫通する」「拘束材」に相当する。
したがって,両者は,以下の点で一致している。
「耐震壁の少なくとも片面に繊維シートが貼り付けられ,その繊維シートの面に,前記繊維シートへの付着後に硬化する材料である補強材が付着させられるとともに,前記耐震壁の両面側において,前記補強材の表面の領域に定着装置が配置され,この両側の定着装置に,前記定着装置と前記補強材及び前記繊維シートと前記耐震壁を厚さ方向に貫通する拘束材が定着され,前記耐震壁の少なくとも前記繊維シートが貼り付けられた領域が面外方向に拘束されている耐震補強構造。」

そして,以下の点で相違している。
(相違点1)
補強材が付着させられるのが,補正発明は繊維シートの表面全面であるのに対して,刊行物1記載の発明ではそのように特定されていない点。

(相違点2)
補正発明は,耐震壁の両面側において,補強材の表面全体の領域に亘って分散し,部分的に定着装置が配置されているのに対して,刊行物1記載の発明は,コンクリート壁1の両面の柱2及び梁3に沿った部分のFRPシート4の上には押さえ金具としての細長い帯鋼6を配置し,板材7aを縦横に交差させて配設して接着剤により接着している点。

(相違点3)
補正発明は,耐震壁の両面側の両側の定着装置に,前記定着装置と補強材及び繊維シートと前記耐震壁を厚さ方向に貫通する拘束材が,軸方向引張力が与えられた状態で定着され,この定着装置から前記補強材と前記繊維シート及び前記耐震壁に厚さ方向の圧縮力が支圧力として与えられ,前記耐震壁の少なくとも前記繊維シートが貼り付けられた領域が全面に亘って面外方向に一様に拘束されているのに対して,
刊行物1記載の発明は,コンクリート壁1とFRPシート4と両面に配した2つの帯鋼6の厚さ方向に貫通ボルト5aを貫通させ,その両端をナットで締め付けることにより,帯鋼6でFRPシート4を強固に押え付け,帯鋼6よりも内側部位のFRPシート4の表面には一面が平坦な部材7として帯状の板材7aを縦横に交差させて配設して接着剤により接着している点。

2-3.判断
(相違点1について)
繊維シートに樹脂を含浸させる際,貼り付けた繊維シートの表面に樹脂を含浸(付着)させることは周知(特開2001-329511号公報の【0023】,特開平6-193280号公報の【0004】)の技術に過ぎず、刊行物1記載の発明において,含浸性を良くするなどの理由から,当該周知の技術を付加し,さらに接着性を向上させるために表面全面とすることは当業者が容易になし得ることである。

(相違点2について)
刊行物1記載の発明の板材7aについて,記載事項(1f)の第2の実施形態では板材7aをアンカーボルトを貫通させて固定し,FRPシートの中央部分をも押さえ付けることが記載されているから,刊行物1記載の発明において,板材7aを帯鋼6と同様に貫通ボルトで固定するようにすることは,容易に着想することであり,その際に,刊行物2記載(2c)の「長手方向に複数に分割したプレート14と,所定間隔を置いて設けたアンカー15とで構成された固定手段13」の様に分散し,部分的に配置することは当業者が適宜なし得ることである。

(相違点3について)
刊行物1記載の発明において,板材7aの固定を,帯鋼6の固定と同様とすることは設計的事項にすぎず,また,刊行物2の従来技術としても開示されている(上記記載事項(2b)参照。)ように,一般的に,面部材にボルトのような拘束材を貫通させてその端部をナットで固定することにより面部材を補強することは,周知技術にすぎない。
また,刊行物1記載の発明では「コンクリート壁1とコンクリート壁1両面のFRPシート4とその両面に配した2つの帯鋼6を厚さ方向に貫通ボルト5aを貫通させ,その両端をナットで締め付けることにより,帯鋼6でFRPシート4を強固に押え付け」ていることから,補正発明の「定着装置と前記補強材及び前記繊維シートと前記耐震壁を厚さ方向に貫通する拘束材が、軸方向引張力が与えられた状態で定着され、この定着装置から前記補強材と前記繊維シート及び前記耐震壁に厚さ方向の圧縮力が支圧力として与えられ」ることと同等の作用を奏するものと認められる。
よって,刊行物1記載の発明の帯鋼6及び板材7aの定着を,接着剤による接着を用いず,貫通ボルト5aとその両端へのナットの締め付けにより行い,貫通ボルト5aが軸方向引張力が与えられた状態で定着され,この帯鋼6及び板材7aからFRPシート4及び壁に厚さ方向の圧縮力が支圧力として与えられ,前記壁のFRPシートが貼り付けられた領域が全面に亘って面外方向に一様に拘束されているようにすることは,当業者が容易に想到し得ることである。

また,補正発明の作用効果も,刊行物1記載の発明,刊行物2記載の技術事項及び周知技術から当業者が予測し得る程度のことである。

したがって,補正発明は,刊行物1記載の発明,刊行物2記載の技術事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3.補正の却下の決定のむすび
以上より,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たしていないものであるから,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって,補正の却下の決定の結論のとおり決定する。


第3 本願発明
1.本願発明
平成24年3月6日付けの手続補正は却下されたので,本願の請求項1に係る発明は,平成23年3月16日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,以下のとおりのものと認める。
「耐震壁の少なくとも片面に繊維シートが貼り付けられ、その繊維シートの表面に、前記繊維シートへの付着後に硬化する材料である補強材が付着させられると共に、拘束材が前記耐震壁中に挿入され、前記補強材の表面に定着装置を介して定着され、前記耐震壁が面外方向に拘束されていることを特徴とする耐震補強構造。」(以下,請求項1に係る発明を,「本願発明」という。)

2.引用刊行物
(1)刊行物1
本願出願前に頒布された,上記刊行物1には,「第2 2.2-1.(1)」に記載したとおりの発明が記載されているものと認められる。

3.対比・判断
本願発明と刊行物1記載の発明とを対比すると,
刊行物1記載の発明の「コンクリート壁1の表面両面」が本願発明の「耐震壁の少なくとも片面」に相当しており,以下同様に,
「炭素繊維シート」が「繊維シート」に,
「エポキシ樹脂」は硬化するので,「繊維シートへの付着後に硬化する材料である補強材」に,
「押さえ金具としての細長い帯鋼6」は押さえ付けているので,「定着装置」に,
「貫通ボルト5aの両端をナットで締め付ける」が「定着され」に,
「帯鋼6でFRPシート4を強固に押え付け」が結果的にコンクリート壁を押え付けることになるので,「耐震壁が面外方向に拘束されている」に,
それぞれ相当している。
また,刊行物1記載の発明の「貫通ボルト5a」は,「コンクリート壁1とコンクリート壁1両面のFRPシート4とその両面に配した2つの帯鋼6を厚さ方向に貫通している」ので,本願発明の「拘束材が前記耐震壁中に挿入され」に相当する。
したがって,両者は,以下の点で一致している。
「耐震壁の少なくとも片面に繊維シートが貼り付けられ、その繊維シートの面に、前記繊維シートへの付着後に硬化する材料である補強材が付着させられると共に、拘束材が前記耐震壁中に挿入され、前記補強材の表面に定着装置を介して定着され、前記耐震壁が面外方向に拘束されていることを特徴とする耐震補強構造。」
そして,以下の点で相違している。
(相違点1)
補強材が付着させられるのが,本願発明は繊維シートの表面であるのに対して,刊行物1記載の発明ではそのように特定されていない点。

そうすると,本願発明は、前記「第2 2.2-3.」に記載したと同様の理由により,刊行物1記載の発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

したがって,本願発明は,刊行物1記載の発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


第4 むすび
以上のとおり,本願発明は特許を受けることができないから,本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-06-12 
結審通知日 2013-06-18 
審決日 2013-07-03 
出願番号 特願2006-118948(P2006-118948)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (E04G)
P 1 8・ 121- Z (E04G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 五十幡 直子  
特許庁審判長 高橋 三成
特許庁審判官 中川 真一
筑波 茂樹
発明の名称 耐震補強構造及び耐震補強方法  
代理人 塩田 康弘  

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