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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1278170
審判番号 不服2012-21557  
総通号数 166 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-10-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-10-31 
確定日 2013-08-15 
事件の表示 特願2007-500538「半導体装置およびその製造方法と、積層型半導体集積回路」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 8月 3日国際公開、WO2006/080337〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2006年 1月25日(優先権主張 平成17年 1月31日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成24年 3月19日付けで拒絶理由が通知され、同年 7月27日付けで拒絶査定がなされたところ、これを不服として、同年10月31日に審判請求がなされるとともに、手続補正書が提出され、平成25年 1月21日付けで審尋が通知され、これに対して、同年 3月13日に回答書が提出されたものである。

第2 補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成24年10月31日に提出された手続補正書による手続補正を却下する。

[理 由]
1 平成24年10月31日に提出された手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)の内容
本件補正は、出願当初の(以下、「本件補正前の」という。)特許請求の範囲の請求項1を補正しようとする事項を含むものであり、そのうち請求項1に係る補正は以下のとおりである。

「【請求項1】
第1主面と、該第1主面と平行な第2主面と、前記第1主面上に形成された第1主面絶縁膜とを有する半導体基板と、
前記半導体基板および前記第1主面絶縁膜を貫通して形成されたビアホール内に埋め込まれた貫通電極と、
前記第2主面から突出している突起電極と、
前記第2主面上に合成樹脂により形成され、前記突起電極の周囲を囲んでいる第2主面樹脂層と、
前記第2主面と前記第2主面樹脂層との間に前記第2主面樹脂層とは異なる材料で形成され、前記第2主面樹脂層との間に界面を形成する第2主面絶縁膜と、
を有する半導体装置。」
(なお、上記下線は、補正箇所を示している。)

2 補正の適否について
(1)補正の目的
上記請求項1の補正の内容は、
ア 本願の出願当初明細書に記載されていた
「【0026】
図2Bに示されている例は、シリコン基板1の裏面において、シリコン基板1と樹脂層7との界面に、シリコン酸化膜などからなる絶縁膜8が介在している構成である。これによって、金属汚染に対するより高い耐性が得られ、また、半導体装置100の耐湿性、耐薬品性、および絶縁特性を向上させることができる。」(下線は当審により付加したものであり、以下同様)
との記載及び図2Bの記載を根拠に、本件補正前の請求項1に、「前記第2主面と前記第2主面樹脂層との間に前記第2主面樹脂層とは異なる材料で形成され、前記第2主面樹脂層との間に界面を形成する第2主面絶縁膜と、」との限定を付加しようとすること、及び、
イ 上記アによる「第2主面絶縁膜」を新たに付加するに伴い、第1主面上に形成された「絶縁膜」を「第2主面絶縁膜」とは異なることを明確にするために「第1主面絶縁膜」と限定するものである。
したがって、上記の補正の内容は、当該補正事項ア、イにより新規な事項を導入するものではなく、限定的な補正を目的とするものであることは明らかである。

したがって、上記補正は、特許法第17条の2第3項の規定に該当し、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的としたものに該当する。

(2)独立特許要件
次に、本件補正による補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際、独立して特許を受けることができるものであるのか否か(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものであるのか否か)について検討する。

ア 引用刊行物及びその摘記事項
(ア)原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用され、本願の優先権主張の日前である平成17年 1月13日に頒布された刊行物である特開2005-12024号公報(以下「刊行物1」という。)には、「半導体装置及びその製造方法、回路基板並びに電子機器」(発明の名称)に関して、図1?図3とともに次の技術事項が記載されている。

(刊1ア)「【0006】
【課題を解決するための手段】
・・(略)・・
(12)本発明に係る半導体装置は、集積回路が形成された第1の面と、それとは反対の第2の面とを有する半導体基板と、
前記第1の面からの第1の突出部と、前記第2の面からの第2の突出部とを有する貫通電極と、
前記半導体基板の前記第1の面に、前記第1の突出部を避けて形成された第1の樹脂層と、
前記半導体基板の前記第2の面に、前記第2の突出部の少なくとも一部を露出させて形成された第2の樹脂層と、
を含む。・・(略)・・
(14)この半導体装置において、
前記第1の樹脂層は、前記第1の突出部と同じ高さとなるように形成されていてもよい。」

(刊1イ)「【0007】
【発明の実施の形態】
・・(略)・・
【0009】
半導体基板10には、1層又はそれ以上の層のパッシベーション膜16,18が形成されている。パッシベーション膜16,18は、例えば、SiO2、SiN、ポリイミド樹脂などで形成することができる。図1(A)に示す例では、パッシベーション膜16上に、電極14と、集積回路12と電極14を接続する配線(図示せず)とが形成されている。・・(略)・・
【0010】
本実施の形態では、半導体基板10に、その第1の面20から凹部22(図1(C)参照)を形成する。・・(略)・・電極14に貫通穴24を形成してもよい。・・(略)・・電極14の下にパッシベーション膜16が形成されている場合、これにも貫通穴26(図1(C)参照)を形成する。・・(略)・・
【0011】
図1(C)に示すように、貫通穴24(及び貫通穴26)と連通するように、半導体基板10に凹部22を形成する。貫通穴24(及び貫通穴26)と凹部22を合わせて、凹部ということもできる。凹部22の形成にも、エッチング(ドライエッチング又はウェットエッチング)を適用することができる。・・(略)・・
【0012】
図1(D)に示すように、凹部22の内側に絶縁層28を形成してもよい。絶縁層28は、酸化膜であってもよい。・・(略)・・ただし、絶縁層28は、凹部22を埋め込まないように形成する。・・(略)・・
【0014】
次に、凹部22(例えば絶縁層28の内側)に導電部30(図2(B)参照)を設ける。導電部30は、Cu又はWなどで形成してもよい。図2(A)に示すように、導電部30の外層部32を形成した後に、その中心部34を形成してもよい。中心部34は、Cu,W,ドープドポリシリコン(例えば低温ポリシリコン)のいずれかで形成することができる。外層部32は、少なくともバリア層を含んでもよい。バリア層は、中心部34又は次に説明するシード層の材料が、半導体基板10(例えばSi)に拡散することを防止するものである。バリア層は、中心部34とは異なる材料(例えばTiW、TiN)で形成してもよい。中心部34を電解メッキで形成する場合、外層部32は、シード層を含んでもよい。・・(略)・・」

(刊1ウ)「【0019】
本実施の形態では、半導体基板10の薄型化工程(図3(A)参照)前に、第1の面20(例えばパッシベーション膜16,18及び絶縁層28上)に第1の樹脂層50を形成する。第1の樹脂層50は、後述のアンダーフィルに使用される樹脂90(図8参照)と同一材料(例えばエポキシ系樹脂)で構成されていてもよい。第1の樹脂層50は、スピンコータを使用して形成してもよいし、CVD(Chemical Vapor Deposition)、ポッティング、印刷方式又はインクジェット方式などを適用して形成してもよい。・・(略)・・第1の突出部41を含む領域に樹脂を設けた後、エッチング等によって第1の突出部41を露出させて、第1の樹脂層50を形成してもよい。・・(略)・・
【0023】
第1の樹脂層50を、第1の突出部41と同じ高さ(ほぼ同じ高さを含む)に形成してもよい。すなわち、第1の樹脂層50と第1の突出部41との間に段差をなくして、第1の面20側を平坦にしてもよい。・・(略)・・
【0024】
図3(A)に示すように、半導体基板10を、その第2の面(第1の面20とは反対側の面)38からの一部を除去して薄くする。例えば、機械的方法及び化学的方法の少なくとも1つの方法によって削ってもよい。・・(略)・・例えば、1回目の除去工程で凹部22に形成された絶縁層28が露出する手前まで研削・研磨し、2回目以降の除去工程で、絶縁層28が露出させてもよい。
【0025】
図3(A)に示すように、導電部30(詳しくはその凹部22内の部分)が絶縁層28に覆われた状態で突出するように、半導体基板10の第2の面38をエッチングしてもよい。・・(略)・・
【0028】
こうして、第1の面20から突出する第1の突出部41と、第2の面38から突出する第2の突出部42と、を有する貫通電極40を形成することができる。・・(略)・・貫通電極40は、第1及び第2の面20,38を貫通する。・・(略)・・
【0029】
図3(B)に示すように、半導体基板10の第2の面38に第2の樹脂層54を形成する。・・(略)・・第2の樹脂層54は、第1の樹脂層50と同一(又は類似)の物性(例えば線膨張係数など)を有してもよく、第1の樹脂層50と同一材料で構成されていてもよい。第2の樹脂層54は、熱硬化性樹脂であってもよいし、熱可塑性樹脂であってもよい。第2の樹脂層54は、単一層で形成してもよいし、複数層で形成してもよいし、応力緩和機能を有していてもよい。・・(略)・・第2の樹脂層54の形成方法は、第1の樹脂層50の形成方法で説明した内容を適用することができる。第2の樹脂層54は、最終的には、第2の突出部42を避けて形成する。その詳細も、第1の樹脂層50の形成方法で説明した通りである。
・・(略)・・
【0032】
・・(略)・・変形例として、第2の樹脂層54を、第2の突出部42と同じ高さ(ほぼ同じ高さを含む)に形成してもよいし、・・(略)・・
【0033】
エッチングによって第2の樹脂層54を形成するのであれば、第2の突出部42の先端面を覆うように第2の樹脂層54を一旦形成し、その後これをエッチングしてもよい。その場合、エッチングを行う前に第2の樹脂層54を研削又は研磨してもよい。第2の樹脂層54の研削又は研磨と連続して、あるいはこれとは別に、貫通電極40を研削又は研磨してもよい。貫通電極40が絶縁層28に覆われた状態(図3(A)参照)で第2の樹脂層54を形成し、絶縁層28を研削又は研磨して、貫通電極40を露出させてもよい。
・・(略)・・
【0036】
以上の工程により、例えば、貫通電極40、第1及び第2の樹脂層50,54を有する半導体装置(半導体ウエハ70(図4(A)参照))が得られる。」

(刊1エ)図1?図3には、刊行物1の実施の形態における半導体装置の製造工程を説明する図として、各工程段階での半導体装置の断面図が示されており、図1(A)からは、集積回路12が形成された面上全面にパッシベーション膜16が形成されていることが、また、図1(c)からは、パッシベーション膜16と半導体基板10と連続して貫通穴26及び凹部22が充填・形成されていることが、図2(B)からは、貫通穴26及び凹部22内に導電部30が設けられていること、さらに、図3(A)及び図3(B)からは、貫通電極が、薄くされた半導体基板10を貫通していることが、看取できる。
また、図1、図2及び半導体基板10を薄くした図3のいずれの図においても、半導体基板10の上下面は、ほぼ平行な面となっていることが看取できる。

上記(刊1ア)?(刊1エ)を整理すると、刊行物1には、
「集積回路12が形成された第1の面20と、それとは反対の第2の面38とを有する半導体基板10であって、前記半導体基板10は、集積回路12が形成された第1の面20に、例えば、SiO_(2)、SiN、ポリイミド樹脂などで形成され、電極14と、集積回路12と電極14を接続する配線とがその上に形成されているパッシベーション膜16を有する半導体基板10と、
前記第1の面20からの第1の突出部と、前記第2の面38からの第2の突出部とを有する貫通電極40であって、前記貫通電極40は、パッシベーション膜16と半導体基板10とを連続して形成された貫通穴26及び凹部22内に電解メッキ等で充填・形成された導電部30からなっている貫通電極40と、
前記半導体基板10の前記第1の面20に、パッシベーション層16を介して、かつ、前記第1の突出部を避けて形成されたエポキシ系樹脂等の第1の樹脂層50と、
前記半導体基板の前記第2の面38に、前記第2の突出部の少なくとも一部を露出させて形成され、第1の樹脂層50と同一又は類似の線膨張係数などの物性を有した第2の樹脂層54であって、複数層で形成されている第2の樹脂層54と、
を含む半導体装置」(以下「刊行物1発明」という。)が開示されている。


イ 当審の判断
(ア)対比
本願補正発明と刊行物1発明とを対比すると、
a 刊行物1発明の「第1の面」及び「第2の面」は、それぞれ本願補正発明の「第1主面」及び「第2主面」相当する。
b 刊行物1発明の「パッシベーション膜16」は、「SiO_(2)、SiN、ポリイミド樹脂などで形成され」ているものであり、絶縁材料からなっていることは明らかであるから、刊行物1発明の「第1の面20に、例えば、SiO_(2)、SiN、ポリイミド樹脂などで形成され、電極14と、集積回路12と電極14を接続する配線とがその上に形成されているパッシベーション膜16」は、本願補正発明の「第1主面上に形成された第1主面絶縁膜」に相当する。
なお、刊行物1発明の「パッシベーション膜16」は、その上に、「電極14と、集積回路12と電極14を接続する配線とが」「形成されて」いるものであるから、半導体基板10と、電極14及び配線とを絶縁することをもその目的の一つとしていることは明らかであり、また、集積回路を作り込む側のパッシベーション膜が絶縁としての機能を備えること自体も、例えば、特開2004-221350号公報(以下、「周知例1」という。)の「【0008】・・(略)・・集積回路16は、第2の面14よりも第1の面12に近い位置に形成されている。【0009】半導体基板10の第1の面12には、第1の絶縁層(例えばパッシベーション膜)18が形成されている。パッシベーション膜18は、例えば、SiO_(2)、SiN、ポリイミド樹脂などで形成することができる。第1の絶縁層18は、集積回路16を覆うように形成されている。」との記載のように周知の事項である。
c 半導体装置を形成する半導体基板において、素子等を形成する主面とその裏面とは、素子形成、平坦化処理等の観点から平行な状態としていることが通常であり、特段の理由がなければ、あえて非平行とはしないことは当業者にとって技術常識である。そして、刊行物1発明の「第1の面」及び「第2の面」においても、あえて非平行状態とすべき特段の理由はなく、また、上記刊行物1の摘記事項(エ)で摘示したように、図面からもほぼ平行状態であることが看取されているから、刊行物1発明の「第1の面」及び「第2の面」は、本願補正発明の「第1主面と平行な第2主面」との関係を有している。
d したがって、上記a、b及びcから、刊行物1発明の「集積回路12が形成された第1の面20と、それとは反対の第2の面38とを有する半導体基板10であって、前記半導体基板10は、集積回路12が形成された第1の面20に、例えば、SiO_(2)、SiN、ポリイミド樹脂などで形成され、電極14と、集積回路12と電極14を接続する配線とがその上に形成されているパッシベーション膜16を有する半導体基板10を有する半導体基板」は、本願補正発明の「第1主面と、該第1主面と平行な第2主面と、前記第1主面上に形成された第1主面絶縁膜とを有する半導体基板」に相当する。
e 刊行物1発明の「パッシベーション膜16と半導体基板10とを連続して形成された貫通穴26及び凹部22」は、「導電部30」が、電解メッキ等で充填・形成された後、半導体基板10が薄くされることによって、当該導電部が、半導体基板10の「第1の面」及び「第2の面」を貫通することとなるから、刊行物1発明の「貫通穴26及び凹部22」は、本願補正発明の「ビアホール」に相当する。
f 刊行物1発明の「第2の面38からの第2の突出部」は、導電部30からなる貫通電極40の一部であるから、本願補正発明の「第2主面から突出している突起電極」に相当する。
g 刊行物1発明の「第2の樹脂54」は、「第1の樹脂層50と同一又は類似の線膨張係数などの物性を有した第2の樹脂層54」であって、第1の樹脂層50は、「エポキシ系樹脂等」からなっており、第2の樹脂54は、実質的に合成樹脂を含むものであり、また、「第2の樹脂54」は、「第2の突出部の少なくとも一部を露出させて形成され」ているのであるから、少なくとも「第2の突出部」の周囲を囲んでいることは明らかである。
したがって、刊行物1発明の「前記半導体基板の前記第2の面38に、前記第2の突出部の少なくとも一部を露出させて形成され、第1の樹脂層50と同一又は類似の線膨張係数などの物性を有した第2の樹脂層54」は、本願補正発明の「第2主面上に合成樹脂により形成され、前記突起電極の周囲を囲んでいる第2主面樹脂層」に相当する。

そうすると、上記「a」?「g」の点を鑑みれば、両者は、
「第1主面と、該第1主面と平行な第2主面と、前記第1主面上に形成された第1主面絶縁膜とを有する半導体基板と、
前記半導体基板および前記第1主面絶縁膜を貫通して形成されたビアホール内に埋め込まれた貫通電極と、
前記第2主面から突出している突起電極と、
前記第2主面上に合成樹脂により形成され、前記突起電極の周囲を囲んでいる第2主面樹脂層と、
を有する半導体装置。」
の点で一致するものの、次の点で一見相違する。

*相違点:本願補正発明が、「前記第2主面と前記第2主面樹脂層との間に前記第2主面樹脂層とは異なる材料で形成され、前記第2主面樹脂層との間に界面を形成する第2主面絶縁膜」を有しているのに対して、刊行物1発明は、「第2の樹脂層54」が「複数層で形成されている」点。

(イ)判断
上記相違点について検討する。
(a)刊行物1発明の「第2の樹脂層54」は、「複数層で形成されている」ことから、複数の樹脂層が、全く同じもののみならず、異なる樹脂層からなることを意味していることは明らかである。
(b)一方、刊行物1発明の「第2の樹脂層54」は、「エポキシ系樹脂等」からなっている「第1の樹脂層50」と類似の物性を有する材料或いは同一の材料を用いることが刊行物1に説明されており、エポキシ系樹脂自体は、一般的に絶縁体である。
したがって、刊行物1発明の「第2の樹脂層54」についても、導電体である樹脂を採用する旨の特段の説明はないから、エポキシ系樹脂等の一般的な樹脂から複数の異なる樹脂が選択され、それらは、いずれも樹脂であると共に、絶縁体であることは明らかである。
(c)してみると、刊行物1発明において、第2の面54上に異なる複数の樹脂からなる第2の樹脂層54を形成することで、第2の面54と複数の樹脂の内の少なくとも一つの樹脂との間に、それとは異なる樹脂としての絶縁層を介在させていることになから、上記相違点に係る発明特定事項は、刊行物1発明においても有している事項であり、当該相違点は、実質的な相違点とはならず、本願補正発明と刊行物1発明とは同一の発明である。

(ウ)審判請求人の主張について
a 請求人は、回答書において、本願補正発明の「第2主面絶縁膜」について、「第2主面絶縁膜が少なくとも樹脂ではないことが明確であると思料します。したがって、「異なる材料」が樹脂の範囲内に限定される引用文献1に記載の発明から本願発明を想到することは、たとえ当業者であっても困難であると思料します。」との主張をしている。
しかしながら、本件補正発明において、「第2主面絶縁膜」が、「樹脂」を含まない材料のみに限定されているものではないことは明確であるから、上記主張は当を得たものではない。

b なお、仮に、「第2主面絶縁膜」が「樹脂」を含まない材料のみに限定されているものとした場合について、以下検討する。
(a)刊行物1には、刊行物1発明の目的、効果として以下の事項が記載されている。
「【0006】
【課題を解決するための手段】・・(略)・・
(12)本発明に係る半導体装置は、・・(略)・・本発明によれば、半導体基板の両方の面に樹脂層が形成されている。これによれば、いずれか一方の樹脂層が他方の樹脂層による応力を相殺するように硬化収縮(又は膨張)するので、半導体基板に加えられる応力が緩和され、その反りや割れを防止することができる。」
「【0040】
・・(略)・・複数の半導体チップ80はスタックされている。上下の貫通電極40同士あるいは貫通電極40と電極14は、ろう材36によって接合されていてもよい。ろう材36は、一方の半導体チップ80の第1の突出部41に設けられ、他方の半導体チップ80の第2の突出部42に載るようになっている。半導体チップ80には、その両方の面(第1及び第2の面20,38)に樹脂層(第1又は第2の樹脂層50,54)が形成されている。したがって、いずれか一方の樹脂層(例えば第2の樹脂層54)が他方の樹脂層(例えば第1の樹脂層50)による応力を相殺するように硬化収縮(又は膨張)するので、半導体チップ80に加えられる応力が緩和され、その反りや割れを防止することができる。また、ろう材36が第2の突出部42の周辺領域に流れ出しても(又は分離して転がっても)、第2の樹脂層54が形成されているため、半導体チップ80の第2の面38(半導体部分)には接触しないようになっている。したがって、ろう材36によるショート又は電気的不良が防止される。 」

(b)上記刊行物1の記載によれば、「半導体基板の両方の面に樹脂層を形成することにより、」「他方の樹脂層による応力を相殺するように硬化収縮(又は膨張)するので、半導体基板に加えられる応力が緩和され、その反りや割れを防止する」との目的、効果に加え、スタック(積層)をし、且つろう材等を用いる場合には、ろう材の周辺領域への流れ出しによる「ショート又は電気的不良が防止される」ことも、記載されている。

(c)刊行物1発明における第1の面においては、SiO_(2)、SiN、ポリイミド樹脂などのパッシベーション層16介して第1の樹脂層50が形成されており、第1の面側においては、SiO_(2)、SiN等の無機酸化物或いは窒化物によって「ろう材の周辺領域への流れ出しによるショート又は電気的不良が防止」し得るであろうことは明らかである。

(d)一方、刊行物1発明の第2の面の上に形成される「第2の樹脂層54」は、【0029】にも記載されているように、「第2の樹脂層54は、熱硬化性樹脂であってもよいし、熱可塑性樹脂であってもよい。」ものである。
この場合、上記のようにスタック時の接合における一般的な熱処理に際して、第2の面においては、第1の面のようにパッシベーション膜がない場合には、「第2の樹脂層54」が溶け出すか或いは極めて緩い状態になり、「第2の樹脂層54」のみでは、「ろう材の周辺領域への流れ出しによるショート又は電気的不良が防止」し得ないことも、当業者にとって当然考慮しうる範囲の事項である。

(e)そして、複数の半導体装置を積層し、各半導体装置の基板を貫通する貫通電極を介して他の基板と電気的な接続を行う技術分野において、素子形成面と反対の面に無機絶縁膜を形成することは、下記周知例1?4のように周知の事項である。

<周知例>
*周知例1:特開2004-221350号公報
「【0008】・・(略)・・集積回路16は、第2の面14よりも第1の面12に近い位置に形成されている。」
「【0018】・・(略)・・半導体基板10を薄型化するときは、半導体基板10の第2の面(第1の面12とは反対の面)14を削る。・・(略)・・
【0019】・・(略)・・半導体基板10の第2の面14に第2の絶縁層38を形成してもよい。・・(略)・・第2の絶縁層38は、酸化膜(例えばSiO_(2))であってもよいし、樹脂(例えばポリイミド)で形成してもよい。」
「【0030】・・(略)・・また、半導体チップ80に形成されている第2の絶縁層38によって、上下の半導体チップ80間のショートを防止することができる。・・(略)・・」

*周知例2:特開2004-288722号公報(原審の拒絶理由における引用文献2)
「【0032】
一方、半導体基板10の裏面10bには、第2の絶縁層である絶縁膜26が形成されている。絶縁膜26は、SiO_(2)(酸化ケイ素)やSiN(窒化ケイ素)などの無機物や、PI(ポリイミド)などの有機物からなる。絶縁膜26は、電極34のプラグ部36の下端面を除いて、半導体基板10の裏面10bの全面に形成されている。なお、半導体基板10の裏面10bにおける電極34の周辺部のみに、選択的に絶縁膜26を形成してもよい。
【0033】
・・(略)・・また、積層後にアンダーフィル等を充填する代わりに、積層前に半導体チップ2の裏面10bに熱硬化性樹脂等を塗布する場合でも、突出した電極先端部38を避けて熱硬化性樹脂等を塗布することができるので、半導体チップの配線接続を確実に行うことができる。」

*周知例3:特開2004-128063号公報(原審の拒絶理由における引用文献4)
「【0025】
各チップ10a、10b、10cの上層配線層35内には、それぞれパッド20が形成されている。また、各チップ10a、10b、10cのパッド20の反対側のシリコン基板11の裏面には保護絶縁膜(SiO_(2))17が形成されている。保護絶縁膜17は、接続プラグ16以外の領域に形成されている。」

*周知例4:特開2004-297019号公報
「【0025】・・(略)・・また、積層後にアンダーフィル等を充填する代わりに、積層前に半導体装置1の裏面10bに熱硬化性樹脂等を塗布する場合でも、突出したプラグ部36を避けて熱硬化性樹脂等を塗布することにより、半導体装置1の配線接続を確実に行うことができる。
【0026】
また、半導体基板10の裏面10bには、第2の絶縁膜26が形成されている。この第2の絶縁膜26は、酸化珪素や窒化珪素、ポリイミド樹脂等から形成されたもので、裏面10bに開口した貫通孔H4内を除いて裏面10bのほぼ全面に形成されたものである。・・(略)・・」

(f)してみると、刊行物1発明の第2の樹脂層を形成した第2の面側において、複数の半導体素子をスタックさせる際により確実に、「ろう材の周辺領域への流れ出しによるショート又は電気的不良が防止」できることを図ろうとして、周知の無機絶縁膜を介在させることは当業者にとって容易に想到し得た事項である。

(エ)独立特許要件の判断の結論
したがって、本願補正発明は、刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、或いは、刊行物1及び周知例1?4に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(3)補正の適否のまとめ
よって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について
1 本願発明
平成24年10月31日に提出された手続補正書による手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?24に係る発明は、本願出願当初の特許請求の範囲の請求項1?24に記載されたとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、請求項1に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】
第1主面と、該第1主面と平行な第2主面と、前記第1主面上に形成された絶縁膜とを有する半導体基板と、
前記半導体基板および前記絶縁膜を貫通して形成されたビアホール内に埋め込まれた貫通電極と、
前記第2主面から突出している突起電極と、
前記第2主面上に合成樹脂により形成され、前記突起電極の周囲を囲んでいる第2主面樹脂層と
を有する半導体装置。」

2 原審の拒絶の理由の概要
原審の拒絶の理由の概要は、
「2.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
3.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
<請求項1?19について>
・理由 2、3
・引用文献等 1
・備考
引用文献1の全文、全図を参照。
当該請求項に係る発明は、引用文献1に記載された発明であるか、仮にそうでないとしても、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たものである。」としたものである。
そして、上記の引用文献1は、上記「第2[理由]2(2)ア 引用刊行物及びその摘記事項」に記載された刊行物1である。

3 引用刊行物及びその摘記事項
原査定の拒絶の理由に引用された本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物1の摘記事項及び刊行物1発明は、上記「第2[理由]2(2)ア 引用刊行物及びその摘記事項」に記載されたとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、前記「第2[理由]2(2)イ 当審の判断」で検討した本願補正発明において、「第1主面絶縁膜」における「第1主面」、及び、「前記第2主面と前記第2主面樹脂層との間に前記第2主面樹脂層とは異なる材料で形成され、前記第2主面樹脂層との間に界面を形成する第2主面絶縁膜」との各事項が削除されたものである。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明と刊行物1発明との対比を行った前記「第2[理由]2(2)イ 当審の判断(ア)対比」に記載した点を踏まえると、本願発明と刊行物1発明とは、全ての構成において一致する。
よって、本願発明は、刊行物1に記載された発明である。

5 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、本願の請求項2?24に係る発明については検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-06-12 
結審通知日 2013-06-18 
審決日 2013-07-01 
出願番号 特願2007-500538(P2007-500538)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
P 1 8・ 113- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲辻▼ 弘輔  
特許庁審判長 藤原 敬士
特許庁審判官 近藤 幸浩
早川 朋一
発明の名称 半導体装置およびその製造方法と、積層型半導体集積回路  
代理人 緒方 雅昭  
代理人 宮崎 昭夫  
代理人 石橋 政幸  

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