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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61B
管理番号 1278337
審判番号 不服2011-10149  
総通号数 166 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-10-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-05-16 
確定日 2013-08-21 
事件の表示 特願2006-526351号「粥状硬化物質の選択可能な偏倚性再造形および/または切除」拒絶査定不服審判事件〔平成17年5月12日国際公開、WO2005/041748、平成19年3月8日国内公表、特表2007-504910号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成16年9月10日(パリ条約による優先権主張 平成15年9月12日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成23年1月6日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成23年5月16日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされたところ、平成24年9月10日付けの補正却下の決定により平成23年5月16日付けの手続補正は却下され、同日付けで拒絶理由が通知され、これに対し、平成25年2月7日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1に係る発明は、平成25年2月7日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのもの(以下、「本願発明」という。)である。
「患者の血管の粥状硬化物質の偏倚性再造形のためのカテーテル・システムであって、
軸上で離れている近位端と遠位端を持つ細長く曲げやすいカテーテル本体と、
前記カテーテル本体の前記遠位端近くの放射状に膨張可能な部分と、
血管軸の周りに分配されたエネルギー送出面の配列を形成するため、前記膨張可能な構造が血管内で膨張するときにそれぞれが放射状に向き付けられている複数のエネルギー送出面であって、前記エネルギー送出面は放射状に外に向いて配列された電極からなり、前記電極は、電気的に互いに絶縁されると共に、前記膨張可能な構造が血管内で膨張するときに周囲の粥状硬化物質と径方向で噛み合うように前記膨張可能な構造の周囲に配置されている、複数のエネルギー送出面と、
周辺粥状硬化物質検出を行うためにカテーテル本体の遠位領域に配置された血管内粥状硬化物質検出器と、そして
前記エネルギー送出面と電気的に結合した電源であって、50℃から60℃の範囲の温度に前記検出された粥状硬化物質を加熱するとともに前記血管の外層の温度を63℃未満に制限して、前記検出された粥状硬化物質を再造形または除去するように前記エネルギー送出面を励振する電源と
を備える
ことを特徴とするカテーテル・システム。」

3.当審の拒絶理由
一方、当審において平成24年9月10日付けで通知した拒絶の理由の概要は、
本願発明は、本願の優先権主張日前の平成11年1月7日に頒布された刊行物である国際公開第99/00060号(以下、「引用文献1」という。)に記載された発明、本願の優先権主張日前の平成7年12月5日に頒布された刊行物である特開平7-313603号公報(以下、「引用文献4」という。)に記載された発明及び本願の優先権主張日前の平成7年8月15日に頒布された刊行物である特開平7-213621号公報(以下、「引用文献5」という。)に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、
というものである。

4.刊行物の記載内容
(1)引用文献1(国際公開第99/00060号)には、図面と共に次の事項が記載されている。 (なお、『』内に当審による仮訳を記載する。) 引1ア:「The invention relates to a device and method for resolving or removing obstructions from a lumen within the body of a patient, such as removing atherosclerotic plaque build-up in an artery in order to improve blood flow. The device consists of an electrosurgical catheter which has a plurality of electrode sites, each capable of selectively resolving obstructions via radio frequency ("RF") ablation between the electrodes and the obstructions. The current generated at the selected electrode is modulated so that the obstructions are resolved without creating significant amounts of residue.」(第1頁第7-14行)
『本発明は、血流を改善するために動脈内の粥状硬化プラーク形成物を除去するような、患者の身体内の血管から閉塞物を溶解又は除去するための装置及び方法に関する。この装置は、複数の電極サイトを有する電気外科カテーテルで構成され、各電極サイトは、電極と閉塞物との間における無線周波数(“RF”)アブレーションにより閉塞物を選択的に溶解できる。選択された電極で生成された電流は、残渣を大量に生成せずに閉塞物を溶解するように変調される。』

引1イ:「Ablation occurs due to the RF current directed from the electrode to the patient's body tissue. The shape of the ablating electrode concentrates the RF energy, thus creating high temperatures within the body tissue. Appropriate modulation of the frequency determines whether cutting or cauterizing will occur. The relatively larger surface area of the patient plate, which is in contact with the patient's body, prevents the return current flow from concentrating at one point. This lower current density prevents the RF current from burning the patient as the current exits the body.」(第2頁第24-30行)
『アブレーションが、電極から患者の体組織に向かうRF電流により生じる。アブレーション電極の形によりRFエネルギーは集中し、その結果、体組織内が高温となる。周波数を適切に設定することにより切断を生じさせるか焼灼を生じさせるか決めることができる。患者の体に接している患者プレートの表面積を比較的大きくすることにより、帰還電流の流れが1点に集中することを防ぐことができる。このより低い電流密度により、RF電流が身体を出る際のRF電流による患者のやけどを防ぐことができる。』

引1ウ:「An embodiment of the invention may further include real time visualization techniques, such as may be provided by ultrasound or fiber-optics. 」(第6頁第19-21行)
『本願発明の実施例は、例えば超音波又はファイバー光学により供され得るリアルタイム可視化技術をさらに含むことができる。』

引1エ:「Selective activation of one or more electrodes allows RF energy to be directed only towards the occlusive material, so that no or minimal energy is directed towards an unoccluded lumen wall.」(第6頁第24-26行)
『1つまたは複数の電極を選択的に活性化することにより、RFエネルギーを閉塞物質のみへ向けさせ、閉塞されていない血管壁へは、全くエネルギーが向かないか最小限のエネルギーしか向かないようにすることができる。』
引1オ:「Visualization of the artery may determine which wall or walls of the artery contain the plaque build-up to be resolved and will determine which electrode should be activated. 」(第7頁第8-9行)
『動脈を可視化することにより、どの単一の又は複数の動脈壁が溶解すべき粥状硬化プラーク形成物を含むかを決定することができ、そしてどの電極を活性すべきか決定される。』

引1カ:「However, the purpose is the same in each embodiment--to insure that the electrodes maintain close contact with the occlusion material. 」(第7頁第19-21行)
『しかしながら、各実施例の目的は同じであって、電極が閉塞物質とのぴったりとした接触を確実に維持できるようにすることである。』

引1キ:「FIG. 1 is a perspective isometric view of the distal end of an embodiment of the present invention.
・・・
FIG. 2 is a schematic view of a monopolar embodiment of the present invention.
FIGS. 2A, 2B, and 2C are radial cross sectional views of the distal end of an embodiment of the present invention within a partially obstructed lumen.
・・・
FIG. 12 is a longitudinal sectional view of an embodiment of the invention, showing inflatable balloons.
FIGS. 12A, 12B, and 12C are radial cross sectional views of the embodiment of FIG. 12 and a related embodiment. 」(第8頁第2-29行)
『図1は、本願発明の実施例における遠位端の遠近等角図である。
・・・
図2は、本願発明の単極の実施例の概略図である。
図2A、2B及び2Cは、本願発明の実施例における部分的に閉塞されたルーメン内の遠位端の径方向断面図である。
・・・
図12は、膨張式のバルーンを示す、発明の実施例の長さ方向断面図である。
図12A、12B及び12Cは、図12の実施例及び関連する実施例の径方向断面図である。』

引1ク:「The catheter 10 includes an elongate hollow tubular body 12. The body 12 is preferably flexible, and constructed of an electrically insulating material.」(第10頁第29-30行)
『カテーテル10は、細長い中空の管状体12を含む。その管状体12は、好ましくは曲げやすく、電気絶縁材料で構成される。』

引1ケ:「The distal end 20 of the catheter 10 includes a plurality of electrodes 14. The electrodes 14 each constitute an electrosurgical electrode. The electrodes 14 may be constructed of any conductive material such as a metal or a metallic alloy commonly used to transmit RF current. 」(第11頁第6-9行)
『カテーテル10の遠位端20は複数の電極14を含む。電極14はそれぞれ電気外科電極を構成する。電極14はRF電流を送出するのに通常使用される金属又は合金のような任意の導電材材料で構成することができる。』

引1コ:「Each of the electrodes14 is separated from each other by the insulating material of the tubular body 12 (and optionally by another thermal insulator such as ceramics), and exists in part on the circumference of the exterior surface of the tubular body 12 at the termination of the distal end 20, and in part on the cylindrical body of the catheter 10. Each electrode 14, therefore, consists of front 15 and radial 17 elements that are of unitary construction. The RF energy selectively delivered to each of the electrodes 14 will ablate obstructing material proximate to each of electrodes 14.」(第11頁第30-第12頁第5行)
『電極14の各々は、互いに管状体12の絶縁材料により(さらに必要に応じてセラミックスのような別の断熱材により)分離されており、遠位端20の端部において管状体12の外表面の周囲に部分的に存在するとともに、カテーテル10の円筒体上に部分的に存在する。したがって、各電極14は、単一の構造を成す正面要素15及び径方向要素17から構成される。電極14の各々に選択的に送達されたRFエネルギーにより、各電極14に隣接する閉塞物質は除去される。』

引1サ:「As shown schematically in FIG. 2, in any of the above embodiments, the catheter 10 is attached to and activated by an RF power supply 98. 」(第13頁31-32行)
『第2図に概略的に示されるように、上記いずれの実施例においても、カテーテル10はRF発生器98に接続されるとともに、RF発生器98により活性化される。』

引1シ:「Referring to FIG. 3, the proximal end 50 of the catheter 10 preferably has a "Y" shaped portion that has a straight through passage 53 and a branch passage 54.」(第14頁第3-4行)
『図3を参照すると、カテーテル10の近位端は、真っ直ぐな通路53と分岐通路54から成る“Y”形状の部分を有する。』

引1ス:「The RF generator 98 includes an electrode switching device 96 such that the output of the generator may be selectively applied to one of the wire conductors 40, and therefore to one of the electrodes 14. This allows the selection of the combination of electrodes that participate in the RF ablation, as discussed above.」(第14頁第10-13行)
『RF発生器98は、該発生器の出力を線導体40の一つに選択的に適用して電極14の一つに適用することができる電極スイッチングデバイス96を含む。このことにより、RFアブレーションに関与する電極の組み合わせを選択することができることは、上述したとおりである。』

引1セ:「With reference to FIG. 12, one embodiment of the present invention uses one or more inflatable balloons 30 spaced about the tubular body 12 beneath the electrodes 14. The electrodes 14 are also located on an exterior surface of the inflatable balloons 30.The catheter 10 also includes means for selectively inflating the balloon 30 to radially position the electrodes 14. The inflatable balloon 30 is formed as an expanded portion of a flexible lumen 32 (such as latex) within or on the tubular body 12. The lumen 30 may be formed of latex or a similar compliant material.The balloon 30 is capable of an amount of inflation such that the electrodes 14 may be placed into contact with an obstruction site in a lumen by inflating the balloons 30.」(第15頁第22-30行)
『図12を参照すると、本発明の一実施例は、電極14の下に、1つ又は、管状体12の周りに間隔を空けて配置された複数の膨張可能なバルーン30を使用している。電極14は、膨張可能なバルーン30の外面に配置される。カテーテル10は、さらに、選択的にバルーン30を膨張させて、電極14を径方向に位置決めする手段を含む。膨張可能なバルーン30は、管状体12内、あるいは管状体12上の柔軟なルーメン32(ラテックスのような)からなる拡張した部分として形成される。ルーメン30はラテックスあるいは同様の柔軟な材料から作ることができる。バルーン30は、バルーン30を膨張させることにより電極14を血管の閉塞部位に接触させる位置に配置することができる量だけ膨張することが可能である。』

引1ソ:「A radial cross section is shown in FIG. 12A with the balloon 30 deflated, and is shown in FIG. 12B with the balloon inflated. 」(第16頁第11-12行)
『バルーン30が収縮した径方向断面図を図12Aに、バルーンが膨張した径方向断面図を図12Bに示す。』

引1タ:「The method of obstruction resolution with the catheter 10 may be improved by the use of some means for visualizing the interior of the lumen and the obstruction site. This can be accomplished by placing ultrasound transducers 85, as shown generally in FIG. 7 at the catheter distal end 20 under the electrodes 14.」(第23頁第12-15行)
『カテーテル10により閉塞物を溶解する方法は、血管の内部及び閉塞部位を可視化するためのなんらかの手段を使用することにより改善することができる。これは、図7に一般的に示されるように、電極14の下のカテーテルの遠位端20に超音波トランスデューサ85を配置することによって達成することができる。』

引1チ:図12には、管状体12の遠位端近くにバルーン30が設けられる態様が示されているといえる。
【図12】

引1ツ:バルーン30が収縮した径方向断面図である図12A及びバルーン30が膨張した径方向断面図である図12Bには、複数の電極14が、血管軸の周りに分配された電極の配列を形成し、バルーンが膨張するときに、それぞれが放射状に向き付けられ、放射状に外に向いて配列される態様が示されているといえる。
【図12A】、【図12B】

引1a:引1アの「本発明は、血流を改善するために動脈内の粥状硬化プラーク形成物を除去するような、患者の身体内の血管から閉塞物を溶解又は除去するための装置及び方法に関する。この装置は、複数の電極サイトを有する電気外科カテーテルで構成され、各電極サイトは、電極と閉塞物との間における無線周波数(“RF”)アブレーションにより閉塞物を選択的に溶解できる。」との記載からして、引用文献1には、「患者の動脈の粥状硬化プラーク形成物の選択的溶解又は除去のための電気外科カテーテル」が記載されているといえる。

引1b:引1ケの「カテーテル10の遠位端20・・・」との記載及びサの「カテーテル10の近位端・・・」との記載及び引1クの「カテーテル10は、細長い中空の管状体12を含む。その管状体12は、好ましくは曲げやすく・・・構成される。」との記載からして、引1aの「電気外科カテーテル」は、「軸上で離れている近位端と遠位端を持つ細長く曲げやすい管状体12を備える」といえる。

引1c:引1チのバルーン30は、放射状に膨張可能であることは明らかだから、引1aの「電気外科カテーテル」は、「管状体12の遠位端近くの放射状に膨張可能なバルーン30を備える」といえる。

引1d:図12、図12A、12Bに示された電極14が所定の表面積を有することが明らかであること、引1イの「アブレーションが、電極から患者の体組織に向かうRF電流により生じる。」との記載及び引1ケの「電極14はRF電流を送出するのに通常使用される金属又は合金のような任意の導電材材料で構成することができる。」との記載からして、引1aの「電気外科カテーテル」において、引1ツの「血管軸の周りに分配された電極の配列を形成し、バルーンが膨張するときに、それぞれが放射状に向き付けられ、放射状に外に向いて配列される」「複数の電極14」は、「血管軸の周りに分配されたRF電流送出面の配列を形成するため、バルーン30が血管内で膨張するときにそれぞれが放射状に向き付けられている複数のRF電流送出面であって、前記RF電流送出面は放射状に外に向いて配列された電極からなる、複数のRF電流送出面」といえる。

引1e:引1クの「管状体12は、・・・電気絶縁材料で構成される。」との記載、引1コの「電極14の各々は、互いに管状体12の絶縁材料により(さらに必要に応じてセラミックスのような別の断熱材により)分離されており」との記載及び引1セの「図12を参照すると、本発明の一実施例は、電極14の下に、1つ又は、管状体12の周りに間隔を空けて配置された複数の膨張可能なバルーン30を使用している。電極14は、膨張可能なバルーン30の外面に配置される。カテーテル10は、さらに、選択的にバルーン30を膨張させて、電極14を径方向に位置決めする手段を含む。膨張可能なバルーン30は、管状体12内、あるいは管状体12上の柔軟なルーメン32(ラテックスのような)からなる拡張した部分として形成される。ルーメン30はラテックスあるいは同様の柔軟な材料から作ることができる。」との記載からして、引1aの「電気外科カテーテル」において、引1ツの「複数の電極14」は、「電気絶縁材料からなる管状体12上に形成されたラテックスからなるバルーン30の外面に分離して配置される」といえる。

引1f:引1アに記載されている「動脈内の粥状硬化プラーク形成物」は引1ツの「複数の電極14」の周囲に位置することが明らかであること、引1カの「各実施例の目的は同じであって、電極が閉塞物質とのぴったりとした接触を確実に維持できるようにすることである。」との記載及び引1セの「バルーン30は、バルーン30を膨張させることにより電極14を血管の閉塞部位に接触させる位置に配置することができる量だけ膨張することが可能である。」との記載からして、引1aの「電気外科カテーテル」において、引1ツの「複数の電極14」は、「バルーン30が血管内で膨張するときに周囲の粥状硬化プラーク形成物に膨張する前記バルーン30により径方向に押しつけられるように前記バルーン30の周囲に配置されている」といえる。

引1g:引1アに記載されている「動脈内の粥状硬化プラーク形成物」は動脈の内面の周辺部に形成されることが明らかであること、引1ウの「本願発明の実施例は、例えば超音波・・・により供され得るリアルタイム可視化技術をさらに含むことができる。」との記載及び引1タの「カテーテル10により閉塞物を溶解する方法は、血管の内部及び閉塞部位を可視化するためのなんらかの手段を使用することにより改善することができる。これは、図7に一般的に示されるように、電極14の下のカテーテルの遠位端20に超音波トランスデューサ85を配置することによって達成することができる。」との記載からして、引1aの「電気外科カテーテル」は、「周辺粥状硬化プラーク形成物の可視化を行うために管状体12の遠位端20に配置された血管内粥状硬化プラーク形成物の可視化を行う超音波トランスデューサ85」を備えるといえる。

引1h:引1スの「RF発生器98は、該発生器の出力を線導体40の一つに選択的に適用して電極14の一つに適用することができる」との記載からして、引1aの「電気外科カテーテル」は、引1dの複数の電極14からなる「複数のRF電流送出面」と「電気的に結合したRF発生器98を備える」といえる。

引1i:引1アの「この装置は、複数の電極サイトを有する電気外科カテーテルで構成され、各電極サイトは、電極と閉塞物との間における無線周波数(“RF”)アブレーションにより閉塞物を選択的に溶解できる。」との記載、引1イの「アブレーションが、電極から患者の体組織に向かうRF電流により生じる。アブレーション電極の形によりRFエネルギーは集中し、その結果、体組織内が高温となる。」との記載、引1g(「電気外科カテーテル」は、「血管内粥状硬化プラーク形成物の可視化を行う超音波トランスデューサ85」を備えること)、引1オの「動脈を可視化することにより、どの単一の又は複数の動脈壁が溶解すべき粥状硬化プラーク形成物を含むかを決定することができ、そしてどの電極を活性すべきか決定される。」との記載及び引1スの「RF発生器98は、該発生器の出力を線導体40の一つに選択的に適用して電極14の一つに適用することができる電極スイッチングデバイス96を含む。このことにより、RFアブレーションに関与する電極の組み合わせを選択することができる」との記載からして、引1aの「電気外科カテーテル」において、引1hの「複数のRF電流送出面」と「電気的に結合したRF発生器98」は、「超音波トランスデューサ85により可視化された粥状硬化プラーク形成物を加熱して溶解するように複数のRF電流送出面を選択的に活性化する」といえる。

これら記載事項及び図示内容を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。
「患者の動脈の粥状硬化プラーク形成物の選択的溶解又は除去のための電気外科カテーテルであって、
軸上で離れている近位端と遠位端を持つ細長く曲げやすい管状体と、
前記管状体の前記遠位端近くの放射状に膨張可能なバルーンと、
血管軸の周りに分配されたRF電流送出面の配列を形成するため、前記バルーンが血管内で膨張するときにそれぞれが放射状に向き付けられている複数のRF電流送出面であって、前記RF電流送出面は放射状に外に向いて配列された電極からなり、前記電極は、電気絶縁材料からなる管状体上に形成されたラテックスからなる前記バルーンの外面に分離して配置されると共に、前記バルーンが血管内で膨張するときに周囲の粥状硬化プラーク形成物に前記膨張するバルーンにより径方向に押しつけられるように前記バルーンの周囲に配置されている、複数のRF電流送出面と、
周辺粥状硬化プラーク形成物の可視化を行うために管状体の遠位端に配置された血管内粥状硬化プラーク形成物の可視化を行う超音波トランスデューサと、そして、
前記複数のRF電流送出面と電気的に結合したRF発生器であって、前記超音波トランスデューサにより可視化された粥状硬化プラーク形成物を加熱して溶解するように前記複数のRF電流送出面を選択的に活性化する前記RF発生器と
を備える
電気外科カテーテル。」

(2)引用文献4(特開平7-313603号公報)には、図面と共に次の事項が記載されている。
引4ア:「【産業上の利用分野】本発明は、カテーテルに装備させて血管内等を容易に挿通させうる生体管拡張器に関する。」(【0001】)

引4イ:「生体管拡張器の形成は、形状記憶合金からなる板を筒状に成形し、その成形体に生体管温度等の低温側における、生体管の内径よりも細い細径と、生体管温度よりも高温の高温側における拡大径を形状記憶させることにより行うことができる。ちなみに人体の血管用の生体管拡張器としては、火傷防止等も考慮して42℃以下、就中40℃以下で低温側における細径を形成し、45℃以上、就中50℃以上、特に50?60℃で高温側における拡大径を形成するものが一般的である。」(【0012】)

引4ウ:「本発明において前記の如き光ファイバを介した生体管拡張器の加熱手段は、光ファイバの細さに基づいてカテーテルの細径化やコンパクト化を有利にはかりうる利点がある。また光ファイバによる加熱を介してアテローム等の狭窄物を溶解させることもできる。なお生体管拡張器の加熱手段としては、生理食塩水等からなる温水液なども用いることができる。温水液の供給は、カテーテル内に液体の通路を設けることにより達成でき、その場合、その通路を利用して冷却水を供給することにより加熱処理で拡大径となった生体管拡張器の細径化を迅速に行うことが可能になる。」(【0017】)
【図2】

引4a:引4イの「50?60℃で高温側における拡大径を形成する」とき、「患者の血管のアテローム等の狭窄物」は、「50?60℃の生体管拡張器」により押圧されることからして、「50?60℃の温度で加熱される」ことは明らかである。

これら記載事項及び図示内容を総合すると、引用文献4には、次の発明(以下、「引用発明4」という。)が記載されている。
「患者の血管のアテローム等の狭窄物を50?60℃の温度に加熱して溶解するカテーテル。」

(3)引用文献5(特開平7-213621号公報)には、図面と共に次の事項が記載されている。
引5ア:「【産業上の利用分野】本発明は、冠動脈血管にできた狭窄部を血管壁を損傷すること無く拡張して治療する経皮的冠動脈形成術装置に関し、特に、バルーンカテーテルを使ってその狭窄部を治療する経皮的冠動脈形成術装置とその装置に使用するバルーンカテーテルに関する。」(【0001】)

引5イ:「スイッチングコントロール回路15は、図4に示すような切換信号Pをスイッチング回路11に出力する。スイッチング回路11は、切換信号Pによって、熱電対50に接続するリード線5,6を増幅回路13の出力側または温度検出及びコントロール回路14の入力側に交互に接続する。すなわち、切換信号Pが高レベルのとき(Tb時間)、増幅回路13が選択され、12.56MHzの高周波信号が熱電対50に供給され、これにより熱電対50と対極板9の間に高周波信号(電波)が流れ、狭窄部が加熱される。切換信号Pが低レベルのとき(Ta時間)、温度検出及びコントロール回路14が選択される。Ta時間内に、温度検出及びコントロール回路14は、熱電対50からの熱起電力を検出することで温度を検出し、その検出値に応じてバルーン2の内部の温度を設定値(45℃?65℃)にするための制御信号を発生し、増幅回路13の増幅率を制御する。設定値は、冠動脈血管の狭窄部を溶かしかつ血管に損傷を与えない適切温度である。制御信号が電圧の場合、増幅回路13は電圧可変増幅回路が使用される。したがって、バルーン2の内部の温度すなわち狭窄部の加熱温度は、常に最適に保たれる。なお、12.56MHzは、高周波信号を取り扱うために国際的に規格化された周波数であるが、本実施例ではこれに限定されない。」(【0021】)

引5ウ:「以上のPTCA装置によって冠動脈血管の狭窄部の治療を行う場合、最初、図7に示すように、患者の背面に対極板9が接触面積を小さくするようにして張り付けられる。次に、バルーンカテーテル10が患者の太股の血管から挿入され、バルーン2が心臓の冠動脈血管40(図1)の狭窄部41に挿入される。次に、イオン液が送液路7からバルーン2に注入され、バルーン2が膨張すると同時に、高周波発生回路20から熱電対50に高周波信号が供給され、図1の血管40の狭窄部41が加熱され拡張される。高周波発生回路40は、高周波信号の発生と温度検出を繰り返し、45?65℃の設定値にコントロールされながら治療が行われる。」(【0024】)
【図1】

引5a:引5イの「バルーン2の内部の温度を設定値(45℃?65℃)にする・・・・バルーン2の内部の温度すなわち狭窄部の加熱温度は、常に最適に保たれる。」との記載から、「患者の冠動脈血管の狭窄物は45℃?65℃の温度で加熱される」といえる。

これら記載事項及び図示内容を総合すると、引用文献5には、次の発明(以下、「引用発明5」という。)が記載されている。
「患者の冠動脈血管の狭窄物を、冠動脈血管の狭窄物を溶かしかつ血管に損傷を与えない温度である45℃?65℃に加熱して溶解するカテーテル。」

(4)本願の優先権主張日前の平成9年6月10日に頒布された刊行物である特開平9-149904号公報(以下、「刊行物1」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。
刊1ア:「【発明の属する技術分野】本発明は、管腔内電気閉塞の分野に関する。詳しくは、本発明は、交流によって誘発される管腔内電気閉塞に関する。」(【0001】)

刊1イ:「通常は、血管壁のタンパク質は、発生器4によって供給される電力によって発生する熱により変成し、血管壁が収縮する。例えば、血管壁のコラーゲン繊維は60℃を超える温度で収縮することは公知である。これらの温度ではデバイスに直に隣接した領域の血液の炭化もまた起こり得る。」(段落【0028】)

(5)本願の優先権主張日前の2002年(平成14年)5月23日に頒布された刊行物である米国特許出願公開第2002/0062123号明細書(以下、「刊行物2」という。)(翻訳文として刊行物2に対応する日本語出願である特表2005-501609号公報を援用する。)には、図面と共に次の事項が記載されている。
刊2ア:「This invention relates generally to the field of medical devices, methods and systems for use upon a body during surgery. More particularly, the invention relates to electrosurgical devices, methods and systems for use upon tissues of a human body during surgery. 」([0002])
『本発明は、一般に、手術時において人体に対して使用される医療器具、方法、およびシステムの分野に関し、特に、手術時に人体組織に対して使用される電気手術器具、方法、およびシステムに関する。』(【0001】)

刊2イ:「Another control strategy that can be used for the electrosurgical device 5 is to operate the device 5 in the region T<100℃., but at high enough temperature to shrink tissue containing Type I collagen (e.g., walls of blood vessels, bronchi, bile ducts, etc.), which shrinks when exposed to about 85℃. for an exposure time of 0.01 seconds, or when exposed to about 65℃. for an exposure time of 15 minutes. An exemplary target temperature/time for tissue shrinkage is about 75℃. with an exposure time of about 1 second.」([0157])
『電気手術器具5に対して使用可能な他の制御方法は、T<100℃の領域では、0.01秒の曝露時間で約85℃にさらされるか、または15分の曝露時間で約65℃にさらされると収縮するI型コラーゲンを含む組織(例えば、血管壁、気管支、胆管など)を収縮させるのに充分に高い温度で器具5を操作することである。組織収縮のための典型的な目標温度/時間は、1秒の曝露時間で75℃ にさらすことである。』(【0104】)

4-2.対比
本願発明と引用発明1とを対比すると、引用発明1の「動脈」は本願発明の「血管」に相当し、以下同様に、「粥状硬化プラーク形成物」は「粥状硬化物質」に、「管状体」は「カテーテル本体」に、「放射状に膨張可能なバルーン」は「放射状に膨張可能な部分」及び「膨張可能な構造」に、「RF電流送出面」は「エネルギー送出面」に、「可視化」は「検出」に、「遠位端」は「遠位領域」に、「血管内粥状硬化プラーク形成物の可視化を行う超音波トランスデューサ」は「血管内粥状硬化物質検出器」に、「RF発生器」は「電源」に、「活性化」は「励振」に、「電気外科カテーテル」は「カテーテル・システム」に、それぞれ相当する。

本願明細書の「粥状硬化物質の再造形は、粥状硬化性プラークや他のプラークの切除、除去、収縮、溶融などを含むことができる。」(【0032】)との記載からして、本願発明の「粥状硬化物質の再造形」は粥状硬化性プラークの溶解又は除去を含むといえるから、引用発明1の「粥状硬化プラーク形成物の選択的溶解又は除去」、「粥状硬化プラーク形成物を加熱して溶解する」ことは、本願発明の「粥状硬化物質の再造形または除去」に含まれる。
また、本願明細書において、「偏倚性」という語について明確な定義はなされていないが、本願明細書及び図面の記載内容からして、「偏倚」は、普通の日本語の語義のとおり「かたよる」ことを意味する(広辞苑第六版)と解される。
そうすると、引用発明1の「選択的溶解」も、選択によりかたよるといえるから、引用発明1の「粥状硬化プラーク形成物の選択的溶解」は、本願発明の「粥状硬化物質の偏倚性再造形」に相当する。

「ラテックス」は「ゴムの木の分泌する乳液。生ゴムの原料。合成ゴムの原料の場合にもいう。」ことを意味(広辞苑第六版)し、技術常識からして、電気絶縁物と解される。
そうすると、引用発明1の「電気絶縁材料からなる管状体上に形成されたラテックスからなる前記バルーンの外面に分離して配置される」「前記電極」は、電気絶縁材料(電気絶縁材料からなる管状体上に形成されたラテックスからなるバルーン)の外面に分離して配置されているから、「互いに絶縁されている」といえる。

本願明細書には、「電極」が「膨張可能な構造が血管内で膨張するときに周囲の粥状硬化物質と径方向で噛み合う」旨の記載や該「噛み合う」構成について説明する記載は見当たらないが、引用発明1において、「前記電極は、電気絶縁材料からなる管状体上に形成されたラテックスからなる前記バルーンの外面に分離して配置されると共に、前記バルーンが血管内で膨張するときに周囲の粥状硬化プラーク形成物に前記膨張するバルーンにより径方向に押しつけられるように前記バルーンの周囲に配置されている」ことからすれば、引用発明1の「前記電極」は、膨張するバルーンにより周囲の粥状硬化プラーク形成物に径方向に押しつけられて周囲の粥状硬化物質に若干食い込むと解されるから、「バルーンが血管内で膨張するときに周囲の粥状硬化物質と径方向で噛み合う」といえる。

引用発明1の「前記複数のRF電流送出面と電気的に結合したRF発生器であって、前記超音波トランスデューサにより可視化された粥状硬化プラーク形成物を加熱して溶解するように前記複数のRF電流送出面を選択的に活性化する前記RF発生器」と本願発明の「前記エネルギー送出面と電気的に結合した電源であって、50℃から60℃の範囲の温度に前記検出された粥状硬化物質を加熱するとともに前記血管の外層の温度を63℃未満に制限して、前記検出された粥状硬化物質を再造形または除去するように前記エネルギー送出面を励振する電源」とは、「前記エネルギー送出面と電気的に結合した電源であって、前記検出された粥状硬化物質を加熱して、前記検出された粥状硬化物質を再造形または除去するように前記エネルギー送出面を励振する電源」である点で一致する。

以上によれば、本願発明と引用発明1とは次の点で一致する。
(一致点)
「患者の血管の粥状硬化物質の偏倚性再造形のためのカテーテル・システムであって、
軸上で離れている近位端と遠位端を持つ細長く曲げやすいカテーテル本体と、
前記カテーテル本体の前記遠位端近くの放射状に膨張可能な部分と、
血管軸の周りに分配されたエネルギー送出面の配列を形成するため、前記膨張可能な構造が血管内で膨張するときにそれぞれが放射状に向き付けられている複数のエネルギー送出面であって、前記エネルギー送出面は放射状に外に向いて配列された電極からなり、前記電極は、電気的に互いに絶縁されると共に、前記膨張可能な構造が血管内で膨張するときに周囲の粥状硬化物質と径方向で噛み合うように前記膨張可能な構造の周囲に配置されている、複数のエネルギー送出面と、
周辺粥状硬化物質検出を行うためにカテーテル本体の遠位領域に配置された血管内粥状硬化物質検出器と、そして
前記エネルギー送出面と電気的に結合した電源であって、前記検出された粥状硬化物質を加熱して、前記検出された粥状硬化物質を再造形または除去するように前記エネルギー送出面を励振する電源と
を備えるカテーテル・システム。」

そして、両者は次の点で相違する。
(相違点)
「前記検出された粥状硬化物質を加熱して、前記検出された粥状硬化物質を再造形または除去するように前記エネルギー送出面を励振する電源」につき、
本願発明では、「50℃から60℃の範囲の温度に前記検出された粥状硬化物質を加熱するとともに前記血管の外層の温度を63℃未満に制限して、前記検出された粥状硬化物質を再造形または除去するように前記エネルギー送出面を励振する」のに対して、
引用発明1では、「前記超音波トランスデューサにより可視化された粥状硬化プラーク形成物を加熱して溶解するように前記複数のRF電流送出面を選択的に活性化する」ものの、可視化された動脈の粥状硬化プラーク形成物を加熱する温度が不明であって、該加熱の際に動脈の外層の温度を63℃未満に制限しているか否か不明である点。

4-3.相違点の判断
上記相違点について検討する。
(1)引用発明4の「アテローム等の狭窄物」は「粥状硬化物質」といえるから、引用発明4は、
「患者の血管の粥状硬化物質を50?60℃の温度に加熱して溶解するカテーテル。」
といえる。
そうすると、引用発明1において、「前記超音波トランスデューサにより可視化された粥状硬化プラーク形成物(粥状硬化物質)を加熱して溶解するように前記複数のRF電流送出面を選択的に活性化する」に当たり、「粥状硬化プラーク形成物(粥状硬化物質)を加熱して溶解する」する温度として、引用発明4の「粥状硬化物質を加熱して溶解する」加熱温度(50?60℃)を採用することに格別の困難性は見出せない。
この場合、粥状硬化プラーク形成物(粥状硬化物質)が存在する血管の内部が50?60℃で加熱されることからすれば、血管の外層の温度が血管の内部の加熱温度以下、つまり「63℃未満に制限される」ことになるのは明らかである。
したがって、相違点に係る本願発明の発明特定事項は、引用発明1及び引用発明4に基いて当業者が容易に想到し得るものである。

(2)引用発明5の「冠動脈血管」は「血管」といえ、「狭窄物」は「粥状硬化物質」といえるから、引用発明5は、
「患者の血管の狭窄物を、血管の粥状硬化物質を溶かしかつ血管に損傷を与えない温度である45℃?65℃に加熱して溶解させるカテーテル。」
といえる。
そうすると、引用発明1において、「前記超音波トランスデューサにより可視化された粥状硬化プラーク形成物(粥状硬化物質)を加熱して溶解するように前記複数のRF電流送出面を選択的に活性化する」に当たり、「粥状硬化プラーク形成物(粥状硬化物質)を加熱して溶解する」温度として、引用発明5の「血管の粥状硬化物質を溶かしかつ血管に損傷を与えない温度である45℃?65℃」を採用することに格別の困難性は見出せない。
また、本願発明において血管の粥状硬化物質を加熱する温度範囲である「50℃から60℃」につき、本願明細書には、例えば「RFエネルギーを使用して脆いプラークのキャップと下にある脂質の多いプールを約50から約60℃までの範囲の温度に穏やかに熱することにより、脆いプラーク(および/または脆いプラークが問題となる血管)を処理することができる。」(【0026】)という程度の記載は存在するものの、粥状硬化物質を加熱する温度範囲である「50℃から60℃」の臨界的意義を裏付ける記載は見出せない。
そうすると、引用発明1において引用発明5の「血管の粥状硬化物質を溶かしかつ血管に損傷を与えない温度である45℃?65℃」を採用する際に、「血管の粥状硬化物質を溶かしかつ血管に損傷を与えない温度」として「45℃?65℃」の内「50℃?60℃」を選択することは、当業者が必要に応じて適宜なし得る設計事項である。
この場合、粥状硬化プラーク形成物(粥状硬化物質)が存在する血管の内部が50?60℃で加熱されることからすれば、血管の外層の温度が血管の内部の加熱温度以下、つまり「63℃未満に制限される」ことになるのは明らかである。
以上によれば、相違点に係る本願発明の発明特定事項は、引用発明1及び引用発明5に基いて当業者が容易に想到し得るものである。

(3)例えば、本願の優先権主張日前に頒布された刊行物1(特開平9-149904号公報)に、「通常は、血管壁のタンパク質は、発生器4によって供給される電力によって発生する熱により変成し、血管壁が収縮する。例えば、血管壁のコラーゲン繊維は60℃を超える温度で収縮することは公知である。これらの温度ではデバイスに直に隣接した領域の血液の炭化もまた起こり得る。」(刊1イ)と記載され、同じく刊行物2(米国特許出願公開第2002/0062123号明細書)に、「電気手術器具5に対して使用可能な他の制御方法は、T<100℃の領域では、0.01秒の曝露時間で約85℃にさらされるか、または15分の曝露時間で約65℃にさらされると収縮するI型コラーゲンを含む組織(例えば、血管壁、気管支、胆管など)を収縮させるのに充分に高い温度で器具5を操作することである。組織収縮のための典型的な目標温度/時間は、1秒の曝露時間で75℃ にさらすことである。」(刊1イ)と記載されていることからして、血管壁のコラーゲンは暴露時間にも依るが約60℃?65℃を超える温度で収縮することが本願の優先権主張日前に周知であったといえる。
また、本願発明において血管の粥状硬化物質を加熱する際の温度制限である「血管の外層の温度を63℃未満に制限」することにつき、本願明細書には、例えば「血管の加熱は、血管の外膜または外層の温度を約63℃未満に制限しコラーゲン収縮および血管潰れを抑制するために実行される。」(【0026】)という程度の記載は存在するものの、血管の粥状硬化物質を加熱する際の温度制限である「血管の外層の温度を63℃未満に制限」することの臨界的意義を裏付ける記載は見出せない。
そうすると、引用発明1において引用発明4,5の加熱温度を採用して、動脈内の粥状硬化プラーク形成物(粥状硬化物質)を加熱するに当たり、上記周知の技術事項を考慮し動脈の血管壁のコラーゲンが収縮しないように「動脈(血管)の外層の温度を63℃未満に制限して」、動脈(血管)にRF電流(エネルギー)を送出するようにすることは、当業者が必要に応じて適宜なし得る設計事項であるともいえる。
してみると、相違点に係る本願発明の発明特定事項は、引用発明1、引用発明4及び上記周知の技術事項に基いて、又は引用発明1、引用発明5及び上記周知の技術事項に基いて当業者が容易に想到し得るものであるともいえる。

(4)仮に、引用発明1の「電気絶縁材料からなる管状体上に形成されたラテックスからなる前記バルーンの外面に分離して配置される」「前記電極」が「互いに絶縁されている」といえないとしても、引用発明1は、「前記複数のRF電流送出面を選択的に活性化する」、つまり複数の電極に選択的にRF電流を通電するものであるから、「前記電極」を「互いに絶縁されている」ようにすることは、当業者が必要に応じて適宜なし得る設計事項である。
また、仮に、引用発明1の「前記電極」が「バルーンが血管内で膨張するときに周囲の粥状硬化物質と径方向で噛み合う」といえないとしても、引用発明1は、「電極が閉塞物質とのぴったりとした接触を確実に維持できるようにする」(引1カ)ことを目的とするものであるから、「前記電極」を「バルーンが血管内で膨張するときに周囲の粥状硬化物質と径方向で噛み合う」うにすることは、当業者が必要に応じて適宜なし得る設計事項である。
そうすると、仮に、引用発明1の「電気絶縁材料からなる管状体上に形成されたラテックスからなる前記バルーンの外面に分離して配置される」「前記電極」が「互いに絶縁されている」といえず、引用発明1の「前記電極」が「バルーンが血管内で膨張するときに周囲の粥状硬化物質と径方向で噛み合う」といえないとしても、以上検討した本願発明の容易想到性についての検討結果にかわりはない。

4-4.本願発明の効果
本願発明の効果は、引用発明1、引用発明4,引用発明5や上記周知の技術事項から当業者が予測し得た程度のものであって、格別のものとはいえない。

4-5.まとめ
したがって、本願発明は、引用発明1及び引用発明4に基いて、又は引用発明1及び引用発明5に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、
また、本願発明は、引用発明1、引用発明4及び周知の技術事項に基いて、又は引用発明1、引用発明5及び周知の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、
特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

5.むすび
したがって、本願は、当審で通知した上記拒絶の理由によって拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-03-07 
結審通知日 2013-03-19 
審決日 2013-04-01 
出願番号 特願2006-526351(P2006-526351)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 智弥  
特許庁審判長 横林 秀治郎
特許庁審判官 松下 聡
高田 元樹
発明の名称 粥状硬化物質の選択可能な偏倚性再造形および/または切除  
代理人 山川 政樹  
代理人 山川 茂樹  
代理人 西山 修  
代理人 黒川 弘朗  

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